第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「第一銀河帝国は銀河共和国の自然死によって生まれた。第二銀河帝国は第一銀河帝国の自死によって生まれた。そして第三銀河帝国は第二銀河帝国の突然死によって生まれたのである。」
-ケイル・レフテンフォーハー著書 帝国の誕生より抜粋-


イェーガードレッドノート/後編

-ワイルド・スペース マラカヴァーニャ独立国影響領域 ISD“アークセイバー”-

ワイルド・スペースは銀河の最遠部に位置する領域であり、その実態は未知領域よりも不明瞭な点が多い。

 

未知領域はまだ星図化された未踏査エリアだがワイルド・スペースは星図化すらされていないのである。

 

その為ワイルド・スペースまでの航行は危険が伴うとされていたが案外すんなりとジャンプ出来た。

 

このことをベアルーリンにいる親衛隊長官に暗号通信を送ると『我らにシス・アーリアの加護あり』と返答が来た。

 

「センサーによる周辺監視を怠るな、何者であろうと我々がここにいるという事実を知られてはならん」

 

アークセイバー”艦長のオイゲン大佐は最後に一言、「たとえ元味方であろうともだ」と付け加えた。

 

このワイルド・スペースには逃亡した帝国艦隊がまだ存在しているのではないかという噂があった。

 

一度情報部が簡易的に調査を行ったのだがその可能性は低いという結論に至った。

 

尤も万が一ということもあるので常に油断は出来ない。

 

「艦長、ベアルーリンより暗号通信です。“()()()()()()()()()()()()()()()()()()”……」

 

通信士官の報告を聞きオイゲン大佐は内容を理解し一旦心を落ち着かせて命令を出した。

 

「全艦に通達、直ちに航行準備を開始しジャンプ探知センサーを起動させろ。隊員達には出撃準備を!私は報告に行く」

 

「了解…!」

 

オイゲン大佐はその場を他の将校達に任せ司令官や参謀達が集まっているホロテーブルに向かった。

 

他の乗組員達が敬礼する度それに返しながらまず最高司令官であるシュメルケ上級大将へ敬礼した。

 

周りには彼の参謀以外にも“エリミネーション”のフューリナー上級大将や“シャーデン”のドレスタル准将がホログラムで会議に出席していた。

 

「閣下、ベアルーリンから到着したと報告がありました」

 

簡略化された報告だったが彼らにはそれで十分だった。

 

若い参謀達の間では騒めきが広がり、ドレスタル准将やボルフェルト中将は顔を顰めた。

 

彼らの中で平然と笑みを絶やさず、この気を待っていましたと言わんばかりの表情を維持していたのはシュメルケ上級大将とフューリナー上級大将の2人だけだった。

 

「では始めるとしようか」

 

シュメルケ上級大将の一言が戦いの音を告げた。

 

オイゲン大佐は敬礼だけ送り再びブリッジに戻った。

 

先に“シャーデン”のドレスタル准将とメルゲンヘルク中佐のホログラムが途切れた。

 

戦闘準備と移動準備を行うつもりなのだろう。

 

ボルフェルト中将もフューリナー上級大将より先に自身のホログラムを切った。

 

参謀達もそれぞれの仕事に就き残ったのはシュメルケ上級大将とフューリナー上級大将だけとなった。

 

『いよいよだな』

 

フューリナー上級大将は笑みを深めそう呟いた。

 

シュメルケ上級大将も小さく頷き「ようやく我々の時代が戻ってくる」と告げた。

 

カイゼルシュラハト作戦実行からまだ1年、だが帝国にとって屈辱の1年だった。

 

我々はカイゼルシュラハト作戦であれだけやり遂げた、帝国を存続させる為に新共和国の喉元まで迫った。

 

しかし帝国は負けたことになった、力が足りなかったからだ。

 

ヒルデンロード元帥の呼びかけに応じた者が少な過ぎた、誰もが元帥の言う通り“背後の略奪者”となり帝国の遺産を食い潰した。

 

奴らは裏切り者で帝国を打倒せんとする新共和国やその共謀者によって唆された頭の足りん連中だ。

 

結果、帝国のために戦った(Kaiserschlacht)我らだけが不義理な条約を結ばされ足枷をつけられた。

 

ヒルデンロード首相はそれでも帝国が残るならと立場を甘んじて受け入れたが……我々はそうではなかった。

 

親衛隊だけではない、国防軍の者達だって心の底では再軍備と新共和国打倒の戦争を狙っている。

 

彼らは我々と同じく帝国の栄光を取り戻そうとしている、彼らは我々を嫌っているが同志ではある。

 

で、あれば動けない彼らの代わりに我々総統の親衛隊がまず最初の戦争を始めるべきなのだ。

 

帝国の鎖を全て断ち切り、新共和国とその共謀者達をこの銀河から消し去り、背後の略奪者となった裏切り者の首を全て刎ねて再び帝国を蘇らせる。

 

この戦争はその始まりだ。

 

「再び帝国の時代が戻ってくる。帝国の帰還を進めるのは我々だ」

 

フューリナー上級大将は大きく頷きホログラムは消えた。

 

彼があの顔をする時、我々に敗北はない。

 

クローン戦争の時からそうだ。

 

シュメルケ上級大将は自らもホロテーブルから移動しブリッジに向かった。

 

選りすぐりの黒い軍服を着た乗組員達が次なる戦場に向けて準備している。

 

若い将兵達は今か今かと戦場を待ち望んでおり、10年以上共に戦ってきた古参の将兵達は冷静に己の職務をこなしている。

 

彼らはこの戦いが勝利で終わると確信しているのだ。

 

自分達にはそれだけの技量がありその技量を100%以上に引き出してくれる指揮官が自分達にはいると彼らは理解している。

 

「敵海賊船団、C2Dに接触。現在輸送船を襲撃中」

 

「ビーコンの探知急げ」

 

「了解」

 

オイゲン大佐の命令で乗組員達はこの広いワイルド・スペースの中から輸送船が発信する救難ビーコンを捜索に出た。

 

本来なら10分以上の時間が掛かるのだが今回の計画された事態ではすぐに見つけ出される。

 

「“シャーデン”から各艦に伝達、C2Dのビーコン発見とのことです」

 

「座標、転送されました」

 

通信士官の報告と共に“シャーデン”から送られてきた座標が航行士官とセンサー士官の下へ映し出される。

 

これで目標のスター・ドレッドノートの位置は割り出せた。

 

「では全艦ハイパースペースへ」

 

シュメルケ上級大将の命令と共に三隻のスター・デストロイヤーは再びハイパースペースへと入った。

 

戦争を始めるために、失われたスター・ドレッドノートを取り戻すために。

 

 

 

 

-ワイルド・スペース マラカヴァーニャ独立国影響領域内 輸送船襲撃地点-

船内に鳴り響く警報音と共に控えていた警備隊員達が一斉に通路を闊歩する足音が聞こえた。

 

DH-17ブラスター・ピストルが配られ、ヘルメットと最低限の装備と共に戦闘準備を開始する。

 

通路の隔壁は殆どが封鎖され非戦闘員は船内の広報へと追いやられた。

 

「敵は何機で来るんだ!」

 

『今の所着陸船が3機接近してきている、数で言えば3個分隊』

 

「エンジンと貨物エリアに守りを集中させる、その間に早く直してくれ」

 

『分かった!』

 

輸送船の警備隊長はコムリンクを切り自らもブラスター・ピストルを受け取った。

 

こんなことならコロネットで出航前に同僚の警備隊長と飲むんじゃなかったと彼は思った。

 

彼の同僚は元帝国軍の下士官で階級は上級曹長だったそうだ。

 

歩兵部隊を指揮し隊の将校達からも信頼を得ていたそうだが帝国の崩壊により軍を追い出され無職になった所を輸送会社の警備部門に拾われた。

 

元帝国軍の将兵は一般の警備員より遥かに仕事が出来るし教育コストだって一般の警備員の半分でいいし何より強い。

 

同僚の隊長も優れた室内戦闘能力と指揮力でまだ入って数ヶ月なのにも関わらずもう隊長をやっている。

 

今回の任務も同僚と一緒にやる予定だったのだが出航の前祝いに飲み屋で一杯やってから同僚が隊長を崩し、別の奴と組むことになった。

 

別の警備隊長はお世辞にも同僚の警備隊長ほど優秀ではなく、さっきもピストルを持つ手が震えていたのを目撃した。

 

こんな状況になるならあの日飲みに行くんじゃなかった、あいつも下戸なら下戸と早く言って欲しかったと彼は全てに八つ当たりしたくなるような気持ちを心の中に閉まった。

 

輸送船のハイパードライブと航路システム、エンジンが故障しこの救難信号すら届かない領域にジャンプアウトしてしまった。

 

そしたら現地の海賊に襲われこのザマだ。

 

しかもどういうわけか海賊は帝国軍のスーパー・スター・デストロイヤーを持っている。

 

あの軍艦は全て新共和国が接収したという噂だったのだが間違いだったのだろうか。

 

それに比べてこちらの戦力は警備員数十人と護身用のブラスター・ピストル、輸送会社がちょろまかした金で買ったDLT-19重ブラスター・ライフルだけだ。

 

室内戦においての火力は申し分ないがそれでも外から救援が来る可能性が全くないんじゃこちらはジリ貧の戦いをせざるを得ない。

 

「エアロックを封鎖してここを最初の防御地点にする、貨物エリアとエンジン区画には絶対に敵を入れるな!」

 

警備員達は遮蔽物に隠れながらブラスター・ピストルを構え、敵を迎え撃つ態勢を整えた。

 

それから僅か10秒もしない内に船内に揺れが響き渡った。

 

敵の着陸船がドッキングを強行した時の衝撃だ。

 

警備員達はブラスター・ピストルを構え直す。

 

額から汗が流れ落ち警報音と同じくらい大きな音に聞こえる心音が耳に残った。

 

僅かな緊張を打ち破るように隔壁は海賊の手によって爆破され、戦闘が始まった。

 

通路では赤いブラスター弾が飛び交い煙の奥から海賊達が姿を現した。

 

粗野で乱暴な海賊達は何人かが撃たれるも勢いに乗って警備員達を押し返した。

 

徐々に警備員達は劣勢に立たせられ、不穏な空気が流れ始めた。

 

1人、また1人と警備員は撃ち倒される。

 

「後退!第2点まで後退しろ!」

 

隊長は警備員達に命令しブラスターの火力を一点に集中しながら後退を開始した。

 

集中砲火で再び数人の海賊を撃ち倒したが状況に特に変化はなかった。

 

隊長が最後のブラスト・ドアを封鎖し他の警備員と共に急いで次の地点に移動した。

 

「クソッ!このままじゃあ終わりだ!」

 

走りながら隊長は苛立ちを言葉にして吐き捨てた。

 

奴ら敵船に乗り込むのが手慣れている、その上勢いを消さずひたすら前に突っ込んでくる。

 

きっと海賊の親玉が人望のある良い親分なのだろう。

 

そう言った親玉の下では部下達はよく働くし命がなくなっても良いとすら思えるようになる。

 

残念だが隊長にそんなカリスマはないし警備員達もそこまでやれるほど覚悟が決まっているわけではない。

 

ふと隊長は船内のビューポートから外の様子を見た。

 

一隻のスーパー・スター・デストロイヤーとそれを無造作に取り囲むように並んでいる海賊船。

 

だがその奥に三隻の海賊達の船とは違うものが見えた。

 

コレリアに長い事いた隊長はその三隻の船に見覚えがあった。

 

むしろ形状は海賊が何故か持っているスーパー・スター・デストロイヤーの方が近いかもしれない。

 

「あれは……まさか……」

 

隊長の予測通り海賊船団より奥に出現した船は帝国軍の軍艦であった。

 

インペリアル級二隻にセキューター級一隻、親衛隊が今日この日の為に送り込んだ最精鋭艦隊である。

 

そのうちの二隻からそれぞれお3機ずつTIEファイターが発艦した。

 

うち2機はTIEインターセプター、そして編隊の中央を飛行しているのはこの作戦の為に運搬された帝国最新鋭の爆撃機、TIEパニッシャーだった。

 

『インターディクター1、目標地点までの安全ルートをこちらでナビゲートする』

 

「了解、直ちに爆撃を開始する」

 

TIEパニッシャーはTIEインターセプターに守られながら海賊船団に向かって飛行した。

 

まだ突然の出来事により海賊船団は対応出来ておらず、船一隻一隻が右往左往していた。

 

これは親衛隊にとって都合の良い状態だ。

 

『目標地点まで後100メートル、EPB弾投下準備を開始せよ』

 

「EPB弾投下準備開始、安全装置を解除」

 

パイロットはコックピットの中で弾薬庫の安全装置を解除し投下準備を整えた。

 

本来TIEパニッシャーはプロトン魚雷やイオン魚雷など様々な武器を積むことが出来るのだが今回は作戦に合わせてある特殊な爆弾1発のみを搭載していた。

 

『インターディクター2、目標地点に到達。これより爆撃を開始する』

 

既にもう1機のTIEパニッシャーは目標地点に到達し爆撃を始めると通信で報告した。

 

それはこちらも同様だ。

 

「インターディクター1、同じく爆撃を開始する。エレクトロ=プロトン爆弾投下」

 

スイッチを押し弾薬庫の爆弾を敵船団目がけて投下した。

 

3機は旋回して距離を取り爆弾は投下から数秒経ってから遂に起爆した。

 

周囲に強大な電磁パルスが同心円状に発生し周囲の船舶を巻き込んだ。

 

当然その中にはかつて“アナアイレイター”と呼ばれた“リバティース・ミスルール”も含まれており、左右両方で発生した電磁パルスの影響を十分に受けていた。

 

暫くすると電磁パルスは消失したが辺りの船舶は全て機能停止に陥った。

 

リバティース・ミスルール”も船体の一部機能が停止し航行不能状態に陥った。

 

TIEパニッシャーによる爆撃は大成功に終わった。

 

「敵船団の沈黙を確認、爆撃は成功した」

 

状況を報告しながらTIEパニッシャーとTIEインターセプターの編隊は母艦への帰路についた。

 

今TIEパニッシャーが投下したエレクトロ=プロトン爆弾(EPB)はクローン戦争時に登場した兵器の一つである。

 

投下ポイント周辺に超強力な電磁パルスを周囲に発生させ生命体には全く被害を出さず、ドロイドや機械類のみにダメージを与えることが出来る。

 

今回使ったエレクトロ=プロトン爆弾は後に開発された対艦仕様のもので本来は廃棄される予定だった。

 

その為ノーマークだったこの兵器は今回の作戦において大きな効力を齎した。

 

海賊船団は完全に無力化されその上エグゼクター級には直接的な被害はない。

 

これで海賊達は他の船に助けに行けずただ鉄の塊に閉じ込められることになる。

 

『了解、インターディクター1は帰投せよ。作戦の第二段階に移行する』

 

敵の無力化は成功し後は目的のものを狩るだけである。

 

TIEパニッシャーの編隊が帰投する直前にTIEインターセプターに守られたゴザンティ級やデルタ級T-3cシャトルとすれ違った。

 

デルタ級もこの作戦の為に少数生産されていたものをわざわざかき集めて投入した。

 

このイェーガードレッドノート作戦には今ある親衛隊の最高の将兵と最高の兵器が詰め込まれている。

 

爆撃機には最新鋭のTIEパニッシャーを、そしてパイロットには戦闘に慣れた熟練のパイロット達を。

 

輸送シャトルにはデルタ級を、そして兵員には最高の練度と指揮能力を持つ将兵達を。

 

恐らく今後このような作戦は出来なくなるだろう。

 

第三帝国が戦うのは新共和国であり大規模な戦争になればなるほど彼らは別々の戦場を体験することとなる。

 

来るべき第二次銀河内戦では。

 

 

 

 

エグゼクター級に接近する親衛隊の第1制圧部隊それぞれ散開し担当の区画へ進路を取った。

 

ブリッジを制圧する小隊はブリッジ方面へ、ハンガーベイを制圧する小隊はハンガーベイ方面へ、エンジン区画を制圧するジークハルト達の小隊はハンガーベイ方面へ向かった。

 

だがその前にやることがある。

 

先行したゴザンティ級は殆ど沈黙したエグゼクター級にギリギリまで接近した。

 

「各員、準備はいいな」

 

ハイネクロイツ少佐はホルスターからブラスター・ピストルを引き抜き隊員達に声をかけた。

 

キルホフ上級大尉ら第42降下猟兵中隊の面々は武装を整えハイネクロイツ少佐の問いに最適の回答で答えた。

 

ゴザンティ級のブリッジから隊員達に通信が届く。

 

『41降下猟兵中隊、降下準備に入られたし。ハッチを解放する』

 

ゴザンティ級のメインハッチが開きハイネクロイツ少佐を先頭にジャンプ・トルーパー達が集まってきた。

 

ゴザンティ級にはまだ薄い偏向シールドが展開されており空気などが抜け出ることはないがトルーパー達が1歩でも足を踏み出せばすぐに宇宙空間に出れる。

 

『周囲にデブリなし、敵艦艇からの迎撃なし。直ちに降下せよ』

 

「行くぞ!」

 

ハイネクロイツ少佐は助走をつけ真っ先にゴザンティ級から飛び降り降下を開始した。

 

偏向シールドをすり抜けそれから暫く自由落下で距離を取った後ジェットパックに火をつけ宇宙空間を自由自在に飛行する。

 

他のジャンプ・トルーパー達もハイネクロイツ少佐に続きゴザンティ級から飛び降りた。

 

周囲に展開したジャンプ・トルーパー達は事前に訓練した通りに行動した。

 

「攻撃を開始しろ」

 

命令と共にイオン魚雷ランチャーを持ったジャンプ・トルーパー達がターボレーザー砲塔や各砲台に攻撃を仕掛けた。

 

誘導式のイオン魚雷は発射と共に目標に向かって行き命中と共に更なるイオンダメージを与えた。

 

既に“アナイアレイター”はエレクトロ=プロトン爆弾の能力で殆どの機能が低下しているがまだ完全に死んでいるわけではなかった。

 

特に武装類はこれから内部に突入する部隊に大きな脅威となり得る為即座に制圧する必要があった。

 

トルーパー達は次々とイオン魚雷を用いて砲塔を制圧した。

 

『少佐、ポイント10-1から生命反応。敵です』

 

警戒に当たっていたジャンプ・トルーパーは直ちに敵の接近を仲間に伝えた。

 

恐らく敵も少数だろうが宇宙空間に出て戦闘する海賊がいる可能性がある、既に予測している行動だ。

 

「了解、1班私に続け。速やかに殲滅する」

 

ハイネクロイツ少佐は数人のジャンプ・トルーパーを率いて迎撃に向かった。

 

彼の装備は殆どパイロットのものに幾つかの追加アーマーを着ただけだがそれで十分だった。

 

優秀な“()()”である彼はこの装備で十分戦える。

 

「機動力を活かせ、行くぞ」

 

敵を視認すると同時に速力を上げ左右上下に機動した。

 

敵の海賊達はハイネクロイツ少佐を視認するとほぼ同時に手持ちのブラスターで迎撃したが命中することはなかった。

 

「堕ちろ!」

 

ハイネクロイツ少佐は両手に持つブラスター・ピストルで2人の海賊を撃ち抜き、一気に接近してもう1人撃ち倒した。

 

一気に3人の仲間を失い動揺する海賊達は距離を取ろうと船外活動用のジェットパックを吹かせるがその間に他のジャンプ・トルーパー達に取り囲まれてしまった。

 

ジャンプ・トルーパー達が装備するRT-97C重ブラスター・ライフルの一斉射撃の弾幕により残りの海賊達も1人残らず皆殺しにされた。

 

『上陸地点の砲塔を全て制圧完了、これより第二フェーズに入ります』

 

他のジャンプ・トルーパーも自らの任務を果たしたようで遠くからでも散開し移動するトルーパーの姿が確認出来る。

 

ひとまず与えられた露払いの任務は終わったようだ。

 

「了解、我々も合流する」

 

中隊の各員にそう告げるとハイネクロイツ少佐はコムリンクの回線を別のものと繋げた。

 

「42中隊から上陸小隊へ、突入路の安全を確保した。いつでも行けるぞ」

 

『了解、既にそっちに近づいている。突入は後1分後に開始される』

 

「それはよかった」

 

ハイネクロイツ少佐は通信先のデルタ級シャトルが接近するのを目にしながらそう呟いた。

 

護衛のTIEインターセプター2機はある一定のポイントで離脱しデルタ級はそのまま真っ直ぐ“アナイアレイター”に接近した。

 

『工兵隊の仕掛けがもう間も無く発動する。巻き込まれるなよ』

 

「分かってる、偏向シールドを最前面へ展開。内部に一気に突入する」

 

「了解」

 

デルタ級の操縦手が偏向シールドを調整し機体の前面に偏向シールドを集中させた。

 

ハイネクロイツ少佐が宣告した通りに工兵隊が仕掛けた内部侵入用の爆破剤が一斉に起爆した。

 

エグゼクター級全体から見ればまだ小さな破損だがデルタ級が内部へ突入するには十分の大きさだった。

 

「突入口の開通を確認、突入フェーズに入ります」

 

操縦手は機体を調整しつつジークハルトに報告した。

 

「後は任せた」とデルタ級の操縦席を離れ隊員達の下へ向かった。

 

武装し、静かに整列する帝国の最精鋭トルーパー達が彼を待っていた。

 

「諸君、間も無く“アナイアレイター”に突入する。ここからは私と諸君の出番だ。共に、連中に目にもの見せてやろう」

 

ジークハルトは不敵に笑い隊員達に敬礼を送った。

 

本来の帝国式の敬礼でありジークハルトが今後この敬礼を行う回数は徐々に減っていくだろう。

 

新しい呪われた敬礼が親衛隊将校には相応しい。

 

仮に本人が望んでいなくとも。

 

デルタ級は真っ直ぐ“アナイアレイター”に向かって前進した。

 

速度と角度を微調整しつつある程度の速度を持って内部に突入する。

 

「角度補正マイナス2、レーザーのチャージを偏向シールドへ」

 

操縦手の額には薄ら冷や汗が垂れており彼らの緊張度合いが伺える。

 

失敗すれば自分たちが死ぬだけでなくこのデルタ級に乗り込む50人近い特殊部隊員が犠牲となるのだ。

 

彼らが握るハンドルには50人の特殊部隊員の命が掛かっていた。

 

「速度よし、角度修正よし、突入を開始する」

 

ハンドルを前に倒しデルタ級をさらに前へ進めた。

 

緊迫する状況の中エグゼクター級に徐々に接近し工兵隊が開けた突破口が迫ってきた。

 

「ウィングを収納…!」

 

三角形を描く2枚の両翼は綺麗に折り畳まれその状態ままデルタ級はエンジン部分に近づいた。

 

「“アナイアレイター”内部に突入する!」

 

デルタ級の羽根が“アナアイレイター”の船体と衝突し火花を上げながら折れたがそのほかは問題なく突破口に強行着陸した。

 

デルタ級を支える脚は床の装甲と擦り合わさって火花を散らし、辺りを抉った。

 

エンジンは急停止しデルタ級はゆっくりと減速し想定内の損害でエグゼクター級内部に侵入することが出来た。

 

デルタ級のハッチが開き黒い装甲服のトルーパー達が解き放たれた。

 

失われたものを全て取り戻すために。

 

 

 

 

他の地点でも乗船に成功していた。

 

特殊部隊と海賊たちの銃撃戦が繰り広げられ艦内は戦場と化した。

 

しかし特殊部隊と海賊では練度に天と地ほどの差がある。

 

彼らは銀河内戦を生き延び、今日この日まで訓練を積み重ねてきた修羅の存在だ。

 

彼ら全員がぶつけようのない怒りや憎しみを抱き、その怨嗟を海賊達は一身に受けることとなった。

 

「チッ!どうなってんだ!?なんで帝国軍の大軍がこんなところに!」

 

武装を整えた海賊達が通路を走りながら苛立ち気味に吐き捨てた。

 

今まで来た帝国軍など全て新共和国軍との戦いに負けた敗北者の雑兵ばかりだった。

 

簡単に倒せたし欲しいものはなんでも手に入れられた。

 

だからこのワイルド・スペースでもやってこられた。

 

しかしなんだ、この帝国軍は。

 

海賊達が“()()”をしている間に突如出現した帝国軍はいきなり爆撃機を送り込み海賊船団を全て無力化した。

 

いきなり落とされたあの爆弾、恐らくイオン系統の武器だろうが全く中身が分からない。

 

ただのイオン系の兵器ならとうの昔にこの“リバティース・ミスルール”は復旧しているはずだ。

 

技師達が懸命に復旧を急いでいるが全く機能が回復する状態ではない。

 

しかも帝国軍はシャトルを送り込み船内に兵隊を送り込んできた。

 

この艦を取り戻すつもりだ。

 

「ボスがいないって時に…!!クソッ!!」

 

海賊達の主人、エレオディ・マラカヴァーニャはこの時“リバティース・ミスルール”にいなかった。

 

丁度部下を率いて輸送船に襲撃をかけていた。

 

マラカヴァーニャがこの船に残っていたらもう少し状況は変わっていただろう。

 

リバティース・ミスルール”に残っていた海賊達はそれぞれ別々の指揮系統で迫る敵を迎え撃っていた。

 

「後少しで戦場だ!気ぃ抜くなよ!」

 

海賊達が駆け抜けた先にはブラスター弾が飛び交う戦場が広がっているはず“だった”。

 

そこには同じ船の仲間達の残骸が転がっていた。

 

まだブラスターに撃たれ斃れている者はマシな部類だった。

 

中には刃渡りの長い実物の刃物で斬殺され腕や胴が飛んでいる者もいた。

 

「なんだこりゃあ!」

 

「あいつだ!」

 

困惑を吐き捨てるのと同時に別の海賊がこの惨劇の張本人を見つけた。

 

見たところ相手はホロワンのIGシリーズと同じ見た目の暗殺ドロイドで暗くて良くは見えないが黒い装甲に斬殺した相手の返り血を浴びていた。

 

しかも返り血ではない不気味な赤い線があちこちに入っている。

 

海賊達はすぐに銃口を向け発砲した。

 

海賊達に躊躇いという言葉はない、敵は全て殺す。

 

しかも相手はドロイドだ、彼らの引き金はより軽くなった。

 

ドロイドは自身の腕でブラスター弾をガードしながら遮蔽物に身を隠しつつ応戦した。

 

正確な射撃が数人の海賊を撃ち倒し一気に接近した。

 

「さんかっ!」

 

脳天に鋭い踵蹴りを喰らった海賊はその時点で死んでいた。

 

踵から打ち出された短剣が彼の頭を引き裂いたのだ。

 

ドロイドは身体を回転させ腕部のレーザーと手持ちのパルスレーザーをばら撒きながら残りの敵を一掃した。

 

撃ち倒した海賊達の死体を一瞥しドロイドは暗殺ドロイドとしての悦びを誰も消すことの出来なかった自我で感知していた。

 

不信仰者(エイシスト)”どもめ。

 

自らのセンサーで次の敵が来ることを確認したこの暗殺ドロイドは、今度は自分から打って出ることにした。

 

拾ったブラスターを捨て初期装備の鉈に持ち換え、近接戦の態勢に入った。

 

ドロイドに与えられた命令はこの艦にいる敵の排除、ただ一つである。

 

帝国軍以外の敵を全て倒し、屍の山を築き上げることこそ主に捧げる信仰心となり得るのだ。

 

ドロイドは勢いよくさっきまでいた室内を飛び出し他の地点へ向かおうとしていた海賊達の前に躍り出た。

 

海賊達は驚いた様相で足を止めブラスター・ライフルを構えようとしたが反応が遅かった。

 

パルスレーザーに付いた銃剣と鉈が振られ、前にいた3人が斬り倒された。

 

崩れ落ちるように身体が倒れその合間を潜り抜けるように暗殺ドロイドが突っ込んできた。

 

また1人鉈で腕ごと身体を斬り落とされもう1人は腕から投射されたウィップに首を掴まれた。

 

首を絞められた海賊はそのまま周りの海賊を巻き込みながら壁に叩きつけられた。

 

気概のある海賊達はライフルの引き金を引きながら立ち上がり遮蔽物に移動しようとした。

 

「クソッ!!なんなだこいつ!!」

 

「ふぅっ!?」

 

ウィップを巻きつけた鉈が投擲され悪態をついた海賊の隣にいたクオレンの海賊は腹を突き破られた。

 

隣いた海賊はすぐにクオレンに駆け寄ったが頭を撃ち抜かれ即死した。

 

7、8人いた海賊の集団も気付けば壊滅状態になっていた。

 

「ひぃっ!!」

 

「逃げろ!!」

 

恐怖に負けた生き残りの海賊達は戦うのを止めて逃亡を図った。

 

しかしこの暗殺ドロイドの任務は敵を全て始末することだ。

 

すぐにドロイドは隠し武器の一つである毒矢を放ち逃げた2人に命中させた。

 

この即効性の高い毒はすぐに打ち込まれた2人の全身に周り2人を苦しめた。

 

もし逃げずに戦っていればブラスター弾を撃ち込まれより安らかな死を得られたかもしれない。

 

2人が生き絶えたところでドロイドは再びセンサーを起動し周囲の状況を探知した。

 

周囲に生命反応は確認出来なかったが生命体とは別のものを感知した。

 

ドロイドは感知した方向へ自身のカメラを向けた。

 

もしこの感知した物体が敵であるならすぐにドロイドは発砲していただろう。

 

楕円形のボディに節足動物のような足を取り付けた帝国軍のシーカー・ドロイドは暗殺ドロイドを気にすることなく底浮遊のまま移動していた。

 

あのドロイドは味方であり暗殺ドロイドには少なくとも敵と味方の区別がついていた。

 

暗殺ドロイドも次の殺戮を開始する為に移動を開始した。

 

帝国を止めることは出来ない。

 

帝国の裏に潜んでいる存在も同様に。

 

 

 

 

 

「いたぞ!ぶっ殺せ!」

 

黒いトルーパーの一団を発見した海賊は自らの指がブラスターの引き金に掛かる前に倒された。

 

デス・トルーパーの持つE-11Dブラスター・カービンは帝国軍の標準装備であるE-11と酷似していたが火力に大きな差があった。

 

大口径のE-11Dはデス・トルーパーの練度と相まってその大火力を確実に敵兵に与えていった。

 

『3分隊より1分隊へ、ポイント2-A4より敵分隊接近中。命令を』

 

ジークハルトの下にクローキングを活用し敵地へ浸透していたシャドウ・トルーパーの分隊から連絡があった。

 

「4分隊、迎撃せよ。第2、第3分隊は引き続き任務を続行」

 

『了解』

 

命令を受けた第4分隊のストーム・コマンドー達は全身を停止し迎え撃つ態勢に入った。

 

コマンドー達は特殊部隊仕様に改造されたE-11を手に持ち、ホルスターにはSE-14r軽連射式ブラスターやEC-17のようなピストルを装備していた。

 

分隊長の合図を受けてストーム・コマンドー達は海賊へ発砲した。

 

応戦することも出来ず一方的な銃撃の後、艦内の通路には瞳孔を開いた海賊達が鎖のように連なり倒れていた。

 

「前方の目標排除完了、前進します」

 

高練度かつ軽歩兵の彼らはこのような場においてこそ役に立つ。

 

帝国の黒き精鋭達は迫り来る海賊を返り討ちにし、失われたエグゼクター級の中を駆けた。

 

ジークハルトと彼を護衛するデス・トルーパーの分隊も着実にエンジンのコントロール・ルームまで接近していた。

 

大多数の海賊は彼らに接近する前に他の特殊部隊員が始末しているのだが稀にすり抜けジークハルト達を攻撃する海賊もいた。

 

「前方に敵、数3!」

 

「その後ろにまだいる」

 

デス・トルーパーの分隊長が敵を発見するのとほぼ同時にジークハルトも後方から接近する敵影を捉えた。

 

トルーパー達はそれぞれ周囲の物陰に身を寄せながら発砲し敵兵を牽制した。

 

ジークハルトも自身のT-50ヘビー・リピーターを構え発砲した。

 

このブラスター・ライフルは今回の作戦の為に特別に使用が許可されたものだ。

 

通常のキルモードに加えてエネルギーを収束することにより震盪ブラストを放つことが出来る優れ物だ。

 

ジークハルトはこのブラスターの特性を活かして海賊達が纏まって隠れている遮蔽物の奥に震盪ブラストを投擲した。

 

爆散するエネルギーが辺りにいた海賊達にダメージを与え一気に無力化した。

 

数人が一気に負傷したことで海賊に対して攻撃の隙が生まれた。

 

ジークハルトの反対側に隠れていたデス・トルーパー達が遮蔽を飛び出し前進した。

 

その間に反対側の隊員達が援護射撃を繰り出す。

 

デス・トルーパー達は隠れていた海賊達を殲滅し周囲の安全を確保した。

 

「このまま前進!」

 

ジークハルトの合図に続いて反対側のデス・トルーパー達も前進し完全な膠着状態になる前に状況を打破した。

 

そのまま奥からやってくる増援の海賊達をE-11Dの火力で蹴散らす。

 

しかし海賊達は開けられた穴を埋めるかのようにすぐに現れ行手を塞いだ。

 

「この数、ただの取りこぼしとは思えません」

 

デス・トルーパー分隊の隊長であるDT-1996はジークハルトに進言した。

 

ジークハルトとしても同じ意見であった。

 

彼はガントレットのホロプロジェクターを起動し“アナイアレイター”に展開したシーカー・ドロイドの偵察情報を調べた。

 

強行着陸と共に展開したシーカー・ドロイドは殆どが海賊に見つかることなく艦内の情報を各特殊部隊に伝えている。

 

ドロイド達が集めた情報を元にジークハルトは原因を探った。

 

「映像では特段怪しい点はないが……センサーを起動」

 

音声でシーカー・ドロイドに指示を出しセンサーで周囲を調べた。

 

その間にも海賊の攻撃は続いておりジークハルトはより取り回しの良いSE-14rをホルスターから引き抜いた。

 

連射式ブラスターの名は伊達ではなく、数人の敵兵を負傷させた上に牽制射撃として十分な効力を発揮した。

 

1人のデス・トルーパーが携帯していたC-15破砕性グレネードを投擲する。

 

ソニック・インプローダーによく似たこの爆弾は効力も酷似しており、周囲に音波と光を含んだウェーブを破片ごと飛ばした。

 

一気に何人もの海賊にダメージを与え、攻撃の隙を作った。

 

E-11DやDLT-19Dが火を吹き、絶え間ない集中砲火で周囲の敵を殲滅した。

 

なんとか目の前の戦闘に余裕が出てきた為ジークハルトはタブレットを見返した。

 

センサーには本来生命体がいないはずの所に生命体を示す黄色の点が映し出されていた。

 

「これは……隠し通路か…!」

 

今度は自身のいる地点から隠し通路の出口までの距離を調べた。

 

距離的にはかなり近い方で他の部隊を展開するよりは自分たちで接近した方が早かった。

 

「全員聞いてくれ、ここから60メートル付近に敵の隠し通路がある。我々でここを突破して隠し通路を塞ぐ。これ以上後方に敵を浸透させるな」

 

デス・トルーパー達は全員が頷き全身を開始した。

 

既に前方の敵は負傷した数人の海賊しか生き残っておらず、DLT-19Dの一斉射で制圧した。

 

DT-1996は前進する自身の分隊に「前方15メートル地点に敵」と報告した。

 

分隊は左右の物陰に隠れつつ前進を続けた。

 

待ち伏せていた海賊達はデス・トルーパーを見るなり狙いも定めず撃ち始めた。

 

彼らからすればブラスターの弾幕を張って敵を近寄らせないようにしたのだがこの精鋭部隊には無意味な行為だった。

 

グレネードが投擲され正確な狙いのブラスター弾が海賊達の身体を貫いた。

 

ジークハルトもT-50の弾幕射撃を繰り出しこちらに集中させる。

 

その間にDT-1996らデス・トルーパーの集中射撃を繰り出し海賊達は1人残らず撃ち殺された。

 

「前進!」

 

ジークハルトの命令によってデス・トルーパー分隊の全身が再開した。

 

敵の防衛網は前進する前と先ほどの地点に集中していたようで後は1人、2人の海賊兵と遭遇するのみであった。

 

文体が目的地に辿り着いた時には丁度隠し通路から出てきた海賊達がどこへ向かおうかと相談をしている最中だった。

 

当然デス・トルーパー達が彼らを見逃す訳もなく即座に射殺された。

 

「どうした!銃声が聞こえっ」

 

丁度隠し通路から出る所だった海賊は銃口を額に突き付けられ恐怖を覚えることもなく即死した。

 

DLT-19Dを持ったデス・トルーパーが隠し通路の制圧の為に通路の中にブラスター弾を叩き込んだ。

 

中から悲鳴が聞こえたが当然誰もそんなことは気にせず死体を奥へと押し込み、隠し通路を工兵が塞いだ。

 

「封鎖完了」

 

「予定のポイントに向かう。各隊に次ぐ、5分隊は撹乱を、他の分隊は襲撃ポイントへ急行せよ。我々も直ちに向かう。第2、第3分隊、聞こえるか?」

 

ジークハルトはシャドウ・トルーパーによって構成されている2つの分隊に通信を繋げた。

 

「通風口シーカー・ドロイドを先行させて通風口を調べろ、改装されていれば君達でも通れるはずだ」

 

『了解しました中佐』

 

DT-1996の合図によって周囲を警戒していたデス・トルーパー分隊は再び動き出した。

 

敵戦力を粗方片付けたためか、それとも単に人手が足りないのかは不明だが数分前と比べて接敵する機会が大幅に減少した。

 

相手は所詮海賊、しかも上陸部隊として一部をコレリアの輸送船へ差し向けている。

 

周りの海賊船も機能を停止し“アナイアレイター”の救援に兵員を送れない。

 

帝国軍にとってかなり有意な状況下での作戦だ。

 

『シュタンデリス中佐、聞こえるか。状況を報告しろ』

 

コムリンク回線が開き、聞き馴染みのある中年の声が聞こえた。

 

フューリナー将軍、いや今はフューリナー上級大将だったか。

 

彼は突入部隊の指揮の為、将官にも関わらず“アナイアレイター”の中に乗り込んできた。

 

今はブリッジの制圧部隊と共にいるはずだ。

 

「エンジン制御室へ部隊を集結させています。間も無く突入を開始します」

 

『こちらも今からブリッジへ突入を開始する。優先して復旧リソースをエンジンに回すつもりだ。そちらも直ちに取り掛かってくれ。ワイルド・スペースはに長居はしたくない』

 

フューリナー上級大将は皮肉混じりにそう告げた。

 

彼の部隊も間も無く突入に入るということは他の部隊も作戦計画通りに動いているだろう。

 

であればこちらもそれに合わせるとしよう。

 

「ハイネクロイツ隊を中に入れてエンジン区画の完全制圧を目指します」

 

『了解した、彼の室内戦闘を拝むことが出来なくて私としては残念だよ』

 

ジークハルトもこの時フューリナー上級大将の冗談の裏に隠されていた思惑に気づく事は出来なかった。

 

ただ一言だけ「ご武運を」と上官に言葉を送り、回線をハイネクロイツ少佐に切り替えた。

 

「ハイネクロイツ、君の中隊を艦内に突入させろ。第二陣が来る前に制圧を済ませておきたい」

 

『了解した、隊を急行させる』

 

「前方にセキュリティ・ドロイド1分隊!」

 

敵影の報告がハイネクロイツ少佐の声に被さり、集中が前面の戦闘へと切り替わった。

 

相手は新共和国製のセキュリティ・ドロイドで手持ちの武装やカラーリングのみ個体差があった。

 

恐らく海賊達が新共和国の船を襲撃した際に手にした戦利品なのだろう。

 

だがセキュリティ・ドロイドは戦場で活躍する事なく周囲に鉄屑をばら撒いた。

 

デス・トルーパー達がブラスター・ライフルを構え引き金を引く前にドロイドの真横からブラスター弾が放たれたのだ。

 

「応戦態勢維持!」

 

DT-1996の素早い命令で隊員達はブラスター・ライフルを構えたまま距離をとりつつ前進した。

 

する遠くから「撃つな、我々だ!」と声が聞こえた。

 

「第4分隊か。全員発砲停止、味方だ」

 

角から出てきたストーム・コマンドーは同じ小隊のデス・トルーパー分隊と合流し黒いヘルメットのさらに奥深くで再会の安堵感を感じていた。

 

どんなに訓練を重ねようと黒いアーマーの下には少なからず人間性があった。

 

尤も最初から持ち合わせていない者も中にはいるだろうが。

 

ストーム・コマンドー分隊分隊長のSK-1972はジークハルトに敬礼し状況を報告した。

 

「中佐、敵戦力は半分が制御室の最終防衛ラインに、残りの半分がハンガーベイの奪取に向かいました」

 

「ハンガーベイさえ奪還すれば復旧した仲間が助けに来てくれると踏んだ訳か。甘い連中だな」

 

ジークハルトはコムリンクの回線を他の分隊長達に繋げた。

 

「各分隊、状況を報告」

 

『こちら第2分隊、第3分隊。通風口は隠し通路になっていました。現在、制御室の真上にいます』

 

『第5分隊、間も無く前方の敵部隊を粉砕出来ます』

 

各分隊とも全て順調そうだ。

 

「第2、第3は私の合図を待て。第5分隊は敵部隊を制圧した後制御室に急行せよ」

 

各分隊長は命令を受諾しジークハルトは10人のトルーパー達に命令を伝えた。

 

「我々はこれより制御室の制圧に向かう。我々は正面の防御網を突破、或いは戦力を引き付ける。その間に第2、第3が内部に突入し一気に抑える」

 

トルーパー達は命令を聞き自身のブラスター・ライフルをより一層力強く握り締めた。

 

ジークハルトは2人の分隊長に「負傷者はいるか」と尋ねた。

 

第1分隊の負傷者がいない事は当然ジークハルトも同じ場所で戦った者としてよく知っている。

 

SK-1972は「2名負傷しましたが治療済み、問題なく戦えます」と返答した。

 

「そうか……諸君、制御室を抑えれば奪還に大きく貢献出来る。“アナイアレイター”を帝国に連れ帰るのは我々だと言うことを胸に刻め」

 

T-50のグリップを握り、ジークハルトはトルーパー達の先頭に立った。

 

指揮官先頭、クローン戦争中のある将軍が是とした考えでジークハルトの父もクローン戦争中に同じように戦ったそうだ。

 

ここに来てまた父の跡を踏んでしまうとは、皮肉混じりに笑みを浮かべトルーパー達に告げた。

 

「連中に本当の恐怖と何が正義かを叩き込んでやれ」

 

 

 

 

 

-ワイルド・スペース マラカヴァーニャ独立国影響領域内 輸送船襲撃地点 インペリアル級“アークセイバー”-

アークセイバー”のブリッジには地上軍、宇宙軍の参謀達を集め突入した第一陣の部隊を管理していた。

 

通信機を装着した通信士が各隊と連絡を取り、状況を司令部に伝えた。

 

「ハンガーベイの制圧は完了、敵勢力が積極的に攻撃を仕掛けているそうですが今の所問題はないとのこと」

 

「ブリッジ制圧チーム、フューリナー上級大将から通信です…!」

 

長年の友の名前を聞いたシュメルケ上級大将は「繋いでくれ」と命令を出した。

 

ブリッジにフューリナー上級大将のホログラムが映し出され2人は形式的な敬礼を送った。

 

フューリナー上級大将は戦闘服の上にデス・トルーパーと同じアーマーを纏い、ヘルメットだけ通常の将校のものを被っていた。

 

『ブリッジは制圧した、倒した数の割に大したことのない抵抗だった』

 

フューリナー上級大将は手に持っていたRSKF-44ブラスター・ピストルをわざとらしくホルスターにしまった。

 

時々後ろを横切るトルーパーの姿が全てを物語っている。

 

帝国は勝利し海賊達は皆殺しにされた。

 

ホログラムに映っていないだけでフューリナー上級大将の足元にも海賊の死体が転がっていた。

 

「では第二陣を送ろう。“エリミネーション”、“シャーデン”に伝達、第二陣の乗船部隊を展開させろ」

 

「了解」

 

シュメルケ上級大将はフューリナー上級大将に「ブリッジの復旧状況はどうだ」と尋ねた。

 

『急いでいるがやはり想定された通りの結果だ。エンジンさえ制圧すれば状況は良くなるだろうが』

 

現状“アナイアレイター”はエレクトロ=プロトン爆弾の余波を喰らった影響で動かせる状態ではない。

 

その為奪取した後は急いで復旧する必要があった。

 

「エンジン区画への影響は少ないはずだ。尤もシールドと武装は死に体で今スターホークが一隻でも現れたら“アナイアレイター”はあっけなく沈むだろうな」

 

当然新共和国軍はこのようなワイルド・スペースの地まで展開することもないし展開する力も徐々になくなりつつある。

 

新共和国は軍縮を始めた、我々(帝国)がまだ残り続けているのにも関わらずだ。

 

シュメルケ上級大将は一瞬だけもしもの想像を思い浮かべた。

 

もし我々がいなかったら、もしヒルデンロード元帥がカイゼルシュラハト作戦を発動しなかったら。

 

帝国は今ほど明確に存続せず、もっと弱いまま滅びを迎えていただろう。

 

その時新共和国はどうしていただろうか。

 

恐らく今同様、いや今よりもっと遠慮のない軍縮を行なっていただろう。

 

レイア・オーガナや裏切り者のシンジャー・ラス・ヴェラスのような現実主義の連中が辛うじて止めているが我々がいなければ恐らくあのブレーキは役に立たない。

 

奴らは我々(帝国)が存在することによる脅威を理由に軍縮派を宥めているからだ。

 

我々の帝国は以前よりだいぶ領土が小さくなったとはいえこの銀河系の5本の指に入る領域を少なくとも保持している。

 

そんな我々が存在しなかったら奴らは軍縮を止める明確な理由を失う。

 

デルヴァードスの軍閥も、ギデオンの軍閥も、アデルハードの軍閥も、ハースクもテラドクも、当然我々も皆単独では新共和国に勝てない。

 

奴らは己が帝国の全てだと思い込んでいるので協力することもないだろう。

 

新共和国にとって帝国の残党はなんの脅威でもなく当然軍縮を止める理由にはならない。

 

だがそれこそが新共和国の破滅となる。

 

過剰な軍縮がこの不安定な戦後の治安を悪化させ、奴らは旧共和国と同じ末路を辿るのだ。

 

その時再び人々は帝国の栄光を待ち望むだろう。

 

さすればやがて帝国の再興も夢ではないのかもしれない。

 

だが、それでは“()()()()()()”。

 

人々が帝国を求める頃にはあの戦争を生き延びた者達は皆消えてしまう。

 

であれば全てが無駄になってしまう。

 

私も総統も同じ思いだ。

 

だから今立ち上がる必要がある。

 

『なに、そうならないように作戦を組んだのだ。尤も、全ての区画を制圧するまで油断は出来ないが』

 

現状真っ先に制圧部隊を展開したハンガーベイ、先ほど制圧されたブリッジ以外にもまだ二箇所のみ制圧地点がある。

 

それらを全て制圧しなければ“アナイアレイター”を奪還したとは言えない。

 

脳が動いていてもそこから発せられる指令を各器官が受け取らなければなんの意味も成さないのと同じだ。

 

アナイアレイター”を一隻のスター・ドレッドノートとして運用するにはまだまだ時間が必要であった。

 

「敵船団が動いていない以上まだ時間はあります」

 

敵船団が動けばその時は艦隊の出番となる。

 

可能な限り“アナイアレイター”に取り付こうとする敵船を迎撃し時間を稼ぐ。

 

「やはりエンジンだな……エンジンさえ制圧すれば…」

 

「上級大将!シュタンデリス中佐より入電!エンジン区画の制圧に成功したとのこと…!」

 

噂をすれば、ほぼ同時期に情報が入ってきた2人の上級大将はニヤリと笑みを浮かべた。

 

やはり彼は使える、そして帝国の未来を、親衛隊の次の世代を担うにふさわしい存在だ。

 

「若きシュタンデリス中佐がやってくれたようだな。各艦に伝達、第二フェーズに移行する。獲物をベアルーリンに持ち帰るぞ」

 

「了解…!エンジン始動、“アークセイバー”を前へ!」

 

青白いエンジンがそれぞれの艦艇に点火し親衛隊のスター・デストロイヤーは前へと進んだ。

 

その姿は失われたはずの帝国の象徴にして新たな戦争を想起させるに十分な代物だ。

 

まだ“アナイアレイター”のブリッジからその姿が見えることはなかったがフューリナー上級大将は満足げに笑みを深めた。

 

そしてわざとらしく床に転がっていた海賊の死体の頭部を掴み話しかけた。

 

「これでお前達のような連中の顔を見なくて済む日が訪れるな」

 

その死体はエイリアン種族でありこの姿も後の彼らを想起させるに十分な代物だった。

 

死臭を漂わせた黒喪の親衛隊が銀河に解き放たれてしまう。

 

もう誰も止める事はできない。

 

 

 

 

 

エンジン区画制御室を守る海賊達は他の区画ともコムリンクで連絡を取っていた。

 

爆撃から突入まで海賊達は混乱に陥っていたが辛うじて制御室の守りは固めることが出来た。

 

だが他の区画からは悲鳴ばかりが届く。

 

通信員達の額から冷や汗が消える事はなかった。

 

『クソッ!助けてくれ!!すぐそこまでバケツ共や来てる!!』

 

『こちら動力部制御室!!完全に包囲された!!もうダメだ!!』

 

『皆殺しにされる!!』

 

「おい!落ち着いて話せ!どのくらいの数の敵が迫ってるんだ!」

 

周りにいるブラスター・ライフルを持った猛き男達、女達も表情が優れずにいた。

 

むしろ不安と恐怖で手を振るわせ内臓が押し潰されそうな感覚だった。

 

「時期にここも危ねぇんじゃ……」

 

海賊の1人が俯きながらそう呟いた。

 

しかしすぐに「弱音吐くな!」と叱責が制御室に響く。

 

「すぐにボスが助けに来る!それまで何とか踏ん張るんだよ!」

 

とは言ったものの、である。

 

今の所外部からの援軍の可能性はないに等しく、“リバティース・ミスルール”にいる乗組員で状況をどうにか出来るほど甘くもない。

 

出来ることはこの場を1分、1秒でも長く保たせることだけだ。

 

誰しもが悶々とした感情を抱えていると外の海賊達が大声を上げた。

 

「敵が来たぞぉ!!」

 

その言葉と共に銃声が聞こえ、突然制御室のドアが吹き飛ばされた。

 

辺りに煙が立ち込め、開いたドアの先から外の戦場の様相が見えた。

 

15人は下らない黒い兵士達が味方の海賊と銃撃戦を展開していた。

 

「生きてる奴は戦え!!」

 

混乱状況の海賊達を気にすることなく特殊部隊のトルーパーは徐々に距離を詰めていく。

 

だが海賊達の中にブラスター砲持ちがいるせいで一時的に前進は停滞していた。

 

「砲手を先に仕留めろ、こっちで支援する」

 

モードを換え、ジークハルトは敵後方に震盪ブラスト弾を放った。

 

プラズマが一気に周囲の海賊にダメージを与え、攻撃の量を減らした。

 

生まれた隙を逃すほどストーム・コマンドーの練度は低くない。

 

E-11s長距離ブラスターを持ったストーム・コマンドーが砲手の頭を撃ち抜いた。

 

再びブラスター砲に海賊が手をつける前にブラスター弾を叩き込み、海賊達を蹴散らした。

 

それでも防御網には中々の数がおり、そう簡単には突破出来そうになかった。

 

辺りをバリケードで固めブラスター・ライフルを持った海賊が敷き詰められている。

 

しかも制御室の海賊達もドアの奥から銃口を向けて応戦している。

 

20人の特殊部隊員を率いているとはいえ一筋縄ではいかない。

 

「後方に火力を集中!」

 

ストーム・コマンドーとデス・トルーパーの正確な射撃が海賊達の頭を吹き飛ばす。

 

1人ずつ数が減り徐々に放たれるブラスター弾の数も減っていた。

 

投擲されたサーマル・デトネーターが今度は前衛の海賊を吹き飛ばしバリケードを破壊した。

 

前衛と後衛が崩れたことによりトルーパー達はまた一歩前に進んだ。

 

一方海賊達は一度の攻撃で大勢の死傷者を出し、完全に押され気味であった。

 

むしろ有象無象の海賊達がこの状況でよく逃げ出さずに戦っているなと感心するほどだ。

 

「もう少し距離を詰めてこちらに釘付けにする。後ろに留まればやられると教えてやれ」

 

「了解…!」

 

DT-1996のE-11DとジークハルトのT-50の集中攻撃で数人の海賊が撃ち倒された。

 

それに合わせてDLT-19Dを持ったデス・トルーパーが後方に弾丸をばら撒き更に海賊を蹴散らした。

 

同様に前衛にはストーム・コマンドー分隊による集中砲火が叩き込まれ、この瞬間だけあえて後衛への攻撃は停止された。

 

今しかチャンスがないと考えた後衛の海賊や制御室の海賊達が前に出始めた。

 

その間にストーム・コマンドー分隊とデス・トルーパー分隊が互いを援護しながら交互に前進し更に距離を詰めた。

 

これで敵の防衛網は完全にジークハルト達から目を離せず、この戦闘に釘付けとなった。

 

この気を逃すつもりはない。

 

ジークハルトは事前に持っていたC-25破砕性グレネードを手に取った。

 

「援護を頼む」

 

「了解!」

 

DT-1996が牽制射撃を放っている間にジークハルトはグレネードを投擲した。

 

目標は敵の防御網ではない、その“()”だ。

 

放たれたグレネードは防御網を大きく飛び越え制御室の中へ入った。

 

グレネードが2回衝撃でポンポンと跳ねて数秒後に轟音を立てて起爆した。

 

「なんだぁ!?」

 

ジークハルト達にも聞こえるほど大きな声で1人の海賊が叫んだがすぐにグレネードの轟音によって掻き消された。

 

周囲に青白いウェーブを撒き、制御室の海賊達を無力化した。

 

そしてこれが突入の“()()”となった。

 

突如天井が落下し制御室にスモーク弾が投擲された。

 

周囲が白い煙で充満し咳き込む声が今度はブラスター弾の銃声によって掻き消された。

 

クローキング状態のシャドウ・トルーパーが制御室に突入し中にいた海賊達を1人づつ始末していった。

 

元々天井の隠し通路に潜んで待機していたシャドウ・トルーパー達は制御室に擲弾されていたC-25破砕性グレネードの起爆音を合図に突入を開始した。

 

制御室の中にいた海賊は全て撃ち倒された。

 

「嘘だろ!?」

 

「しまっ!!」

 

トルーパーの引き金はいつにも増して軽く、銃声が辺りに大きく鳴り響いた。

 

全門のストーム・コマンドーとデス・トルーパー、後門のシャドウ・トルーパーからの集中砲火を受け海賊達は全員始末された。

 

断末魔の叫びすらなく銃声の後には静寂だけが残った。

 

地べたに転がる命の抜けた抜け殻は皆瞳孔を開き何かを懇願しているようだった。

 

彼ら彼女らが最期に思ったことは恐怖、この二文字に尽きるだろう。

 

「クリア」

 

「周囲を警戒、工兵はコンソールへ」

 

制御室の周りには黒いトルーパーが集まり周囲を警戒していた。

 

一部の工兵技能を持つトルーパー達は簡易的ではあるがエンジンの復旧作業に入った。

 

現状エンジン部のイオン被害はまだ修復しておらず動かすにはもう少し時間が要る。

 

ジークハルトはコムリンクの回線を“アークセイバー”に繋げた。

 

この報告で彼らの任務は終わる。

 

「こちらエンジン制圧チーム、制御室を占拠した。警戒体制を維持したまま復旧作業に入る」

 

味方の全軍に向けて送った通信である為“アークセイバー”のシュメルケ上級大将にもブリッジのフューリナー上級大将にも届いているだろう。

 

通信を切り制御室のビューポートから外の様子を見つめた。

 

ワイルド・スペース、見える宇宙の様子はベアルーリンと大差ないがここは星図の端、銀河の最遠部だ。

 

まだ戦闘中とはいえ自身の任務が無事成功したことにより急に気分が優れてきたような気がする。

 

代わりに身体には緊張や疲労がドッと押し寄せ何をするにも一息吐いてしまう。

 

我々は勝った、久方ぶりに勝ったのだ。

 

長らく忘れていた勝利の昂揚が蘇ってくる。

 

周りのデス・トルーパーやストーム・コマンドー、シャドウ・トルーパー達もその様子は見られないが内心は同じだろう。

 

帝国は久方ぶりの勝利を手にした。

 

本来は“彼ら”と共に得るべきものだったかもしれないが。

 

「ようやく終わった……いや、“()()()()”」

 

ジークハルトはこのスター・ドレッドノートが近い将来活躍する未来を想像し失われた者達に再び誓いを立てた。

 

それと遠く離れた場所で平和を謳歌しているだろう自身の妻子にも。

 

失った戦友と明るい未来のために。

 

彼は親衛隊で血塗られた道を進む。

 

かくして失われしスター・ドレッドノートは黒喪の私兵に狩り獲られたのである。

 

 

 

 

 

-コア・ワールド “()()()()()()”首都惑星ベアルーリン 帝国宇宙軍警戒区域-

帝国宇宙軍は帝国領域外への移動禁止と艦船の近代化の禁止という厳しい制限を掛けられたものの、少なくとも1個宙域艦隊以上の戦力は保有していた。

 

インペリアル級やアリージャンス級のような大型主力艦はかなり失ってしまったが領域内の防衛艦隊としての任務は達成出来る。

 

尤もそれは“()()()()()()”を含めての話だが。

 

親衛隊やかつて存在していた保安軍、或いは各総督、軍司令官に持たせていた“私兵軍”を引き抜くと帝国宇宙軍は一気に弱体化する。

 

元よりそうなるように銀河協定の際に制限を掛けられたからだ。

 

敗戦国の戦闘能力を削ぐ為には当然の行為であるが当の帝国宇宙軍の将兵達は納得出来るはずもなかった。

 

だからこそ彼らは第二帝国の時代に様々な手法を用いて戦力の温存を図った。

 

それらは全て書類裏にしか存在しない戦力として“裏の帝国軍”や“黒い帝国軍”などと呼ばれた。

 

だが今はもうそんなことをする必要は無くなった。

 

新しい総統は銀河協定の鎖を解き放つことを密約し、様々な手法で温存された戦力も徐々に正規軍たる国防軍か親衛隊に統合されつつある。

 

「デゴート提督、親衛隊総旗艦“アークセイバー”からです」

 

自身の乗艦、インペリアル級“ヴァロー”のブリッジにてヴァル・デゴート提督は通信士官から報告を受けた。

 

提督は腕を組み、眉間に皺を寄せながら「規定通り地上の親衛隊と艦隊に連絡を回せ」と命令を返した。

 

デゴート提督は暫く不機嫌な表情のままブリッジのビューポートに近づいた。

 

「チッ何が親衛隊だ。ヒルデンロード閣下の痛ましい悲劇をダシに生き残りおって……伍長殿の寵愛がそんなに欲しいか」

 

誰にも聞こえない声量でデゴート提督は親衛隊を罵倒した。

 

提督は親衛隊もなんなら新しく台頭した代理総統すら気に入らず軽んじていた。

 

その為総統を揶揄って呼ぶ“()()殿()”という言葉をよく使っている。

 

総統が伍長と呼ばれる理由は様々で尤も有力な説としては戦争中に伍長待遇の歩兵として従軍していたかららしい。

 

その為特に総統に好意を持っていない軍将校達は所詮は程度の低い者と考え、陰で伍長殿と呼んで揶揄っていた。

 

デゴート提督もその中の1人で新しい帝国の指導者はヒルデンロード元帥のように再び軍部から選出するべきだと考えていた。

 

あの一体どこから出てきた分からないちょび髭の総統より帝国の栄光を守り続けてきた帝国軍の者がよっぽど帝国を導くに相応しい。

 

軍部の中でもローリング大将軍やカイティス将軍は総統の虜のようだがデゴート提督や一部の軍高官は違った。

 

提督は何も総統の全てを否定した訳ではない。

 

総統が率先して行う銀河協定からの脱却にはデゴート提督も賛成し一国防軍人として軍備の拡大、強化、整備に邁進している。

 

しかしそれはあくまで代理総統を利用しているに過ぎないのだ。

 

恐らくそれはベック上級将軍もアルダム上級将軍も他の軍高官も同様の考えだろう。

 

総統は所詮帝国軍再建の為の都合の良い存在でありそれ以上の存在ではないと考えていた。

 

その為親衛隊をいつまでも帝国軍に統合しない総統に対し徐々に不信感を抱いていった。

 

それにデゴート提督の場合はヒルデンロード元帥への忠誠心もあるだろう。

 

提督は以前ある演習の際に乗艦の“ヴァロー”を別のスター・デストロイヤーと衝突させてしまい、その“()()”としてゴロス星系へ左遷された。

 

暫くゴロス機動部隊を率いていた提督であったがヒルデンロード元帥のカイゼルシュラハト作戦の招集を聞いた提督は自身の機動部隊を率いて作戦に参加した。

 

その時の戦功が認められデゴート提督は自身の機動部隊共々帝国軍に残ることを許された。

 

以来デゴート提督はヒルデンロード元帥を尊敬し恩人としてきた。

 

だからこそ尊敬すべき恩人の突然の死を受け入れられず総統に反発しているのかも知れない。

 

「ハイパースペースに艦影多数発見、味方艦かと思われます」

 

今度は“ヴァロー”のセンサー士官が提督に報告した。

 

「親衛隊だな……各艦に伝達、事前通知通りに行動しろ。奴らが“戦利品”を持っているのならこちらも人員を送る必要がある」

 

尤も作戦が成功したとは到底思えんが。

 

同じ帝国軍とはいえ帝国軍に戻ることを拒み、総統の私兵のままでいる捻くれ者達が何か出来るとは思えん。

 

精々ボロボロの姿を憐んでやろう。

 

「提督、後方より親衛隊艦隊が接近中。宇宙ステーションもです」

 

「そうか、ジャンプアウトの方はどうなっている」

 

「後1分後にジャンプアウトするかと」

 

「であればすぐか。輸送機の発艦準備、スター・ドレッドノートがジャンプアウトすれば人手が必要になるはずだ」

 

何人かの通信士がハンガーベイに連絡し艦内のセンチネル級やTIEボーディング・クラフトの発艦要請を行った。

 

デゴート提督はビューポートからジャンプアウト地点の宇宙空間を見つめた。

 

一体どんな姿で帰ってくるのやら、腕を組み直立不動の姿勢で待った。

 

「艦隊、ジャンプアウトします」

 

センサー士官の報告と共に宇宙空間には一度に多数の軍艦がジャンプアウトした。

 

インペリアル級、セキューター級、そして本来の目的たる超弩級戦艦(スター・ドレッドノート)

 

「これは……まさかな……」

 

デゴート提督は引き攣った笑みを浮かべ少し後ろに後退った。

 

まさか連中が本当に連れ戻してくるなんて。

 

提督はその超巨大な艦艇を目にし、激しく動揺した。

 

その背後で冷静に艦名を読み上げる通信士官の声が聞こえる。

 

「全艦の照合を完了、ISD“アークセイバー”、ISD“エリミネーション”、SSD“シャーデン”、ESD“アナイアレイター”…」

 

「連中は本当に連れ帰ったのか……あのスター・ドレッドノートを」

 

デゴート提督が動揺している間に彼の副官が「提督、“アークセイバー”よりホロ通信です」と報告した。

 

提督の前にホログラムが映し出され1人の親衛隊将校が彼に敬礼した。

 

親衛隊の最高司令官、シュメルケ上級大将だ。

 

「上級大将殿……ご無事で何より」

 

デゴート提督は敬礼し少々遜った言い方で一応の無事を祝った。

 

シュメルケ上級大将は帝国軍に在籍していた頃から彼の方が1つ階級が上だった。

 

『ああ、生きて再びベアルーリンを目にすることが出来て嬉しいよ提督。早速だが一つ頼みがある』

 

「なっなんでしょうか…?」

 

引き攣った笑みのままシュメルケ上級大将に尋ねた。

 

彼は相変わらずの余裕そうな笑みを崩さずデゴート提督に要求を伝えた。

 

『我々が“()()()”このスター・ドレッドノート、完全に運用する為には人が足りない。そちらの人員を幾つか貸して欲しい』

 

「あっああ…勿論送る……今輸送船を発進させるよう命令を出した」

 

『そうか、仕事が早くて助かる。それでは』

 

この時提督は「まっ待ってくれ!」とシュメルケ上級大将を引き留めた。

 

どうしても聞きたいことが一つあったからだ。

 

「上級大将……あのスター・ドレッドノートは……一体どこから……どのように…?」

 

『“アナイアレイター”か、良い艦だろう?正に帝国の栄光を象徴する艦だ。我々親衛隊が下賎な海賊から取り戻した。我々の“()()”だ』

 

「勝利…?」

 

『ああ、勝利だ。帝国に久しく訪れなかったものだ。ワイルド・スペースの、誰も見ることの出来ない勝利だったがこれは確かな勝利だ』

 

デゴート提督は衝撃でもう言葉が出なくなっていた。

 

提督はこの時、既に親衛隊が国防軍とは全く違う存在になりつつあることを知覚した。

 

シュメルケ上級大将は立て続けに話す。

 

『国防軍の君も安心して欲しい。すぐに国防軍だって目に見える勝利を得ることが出来るさ。そう遠くない未来でな』

 

「そう……ですか……」

 

『期待しておけ、それではな。総統万歳(Heil Fuehrer)

 

ホログラムは途切れデゴート提督の心に謎の敗北感を残したまま普段の“ヴァロー”のブリッジに戻った。

 

少し差異があるとすればビューポートに映るエグゼクター級の姿だけだろうか。

 

宇宙空間から見れば本当に小さな差異だが、第三帝国とっては大きな変化であった。

 

帝国の再建の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、ベアルーリンの親衛隊本部でシュメルケ上級大将の演説が執り行われていた。

 

表向きは親衛隊発足に際して、だが本当はイェーガードレッドノート作戦に関しての演説であった。

 

会場にいる親衛隊将兵は全員イェーガードレッドノート作戦の参加者であった。

 

当然その中にはジークハルトもハイネクロイツ少佐もいた。

 

「諸君は皆、前内戦に参戦した古兵であると同時に“()()”を獲得せんと努力する狩人である」

 

シュメルケ上級大将は殆ど原稿を見ずに演説内容を話した。

 

1人1人将兵の顔を見て余裕げな笑みを絶やさずにいる。

 

「そして我らは二度と惨劇を繰り返すまいと総統閣下に忠誠を誓った。我々は帝国の尖兵であると同時に総統閣下の軍隊であるのだ」

 

帝国に忠義を尽くす国防軍とは違い親衛隊は総統個人の私兵であり総統へ忠誠を誓っていた。

 

かつては戦力保持の為の建前に過ぎなかったが今は違う。

 

親衛隊はもうチェンセラー・フォースでなかった。

 

新しいもう一つの“()()()()”なのだ。

 

「帝国の安全と繁栄の一翼を担うのは我々親衛隊である。帝国の敵を全て討ち果たせ、そして総統閣下の敵を全て粉砕せよ」

 

この時既に大多数の将兵が帝国の敵が何たるか、相当の敵が何たるかを知覚していた。

 

2年前の借りを返す時が来た。

 

「例え我々に直接的な栄典がなくとも、我々が揺らぎ変化することはない。諸君らも同じ心構えであると私は感じている」

 

イェーガードレッドノート作戦で得た“アナイアレイター”は最終的に国防軍に移管された。

 

ローリング大将軍の横槍があったからとか、国防軍増強の結果だとか様々な話が飛び交っている。

 

しかしシュメルケ上級大将の言う通り親衛隊はそのようなことに一々何かを思う必要はない。

 

我らは総統の軍、我らは総統の代理人、我らは総統の剣にして執行者である。

 

かつて共和国軍の兵士達が“優秀な兵士は命令に従う”と言ったように親衛隊は総統の命にのみ従うのだ。

 

「我々は総統閣下の手足にして総統閣下の理想を実現する者である。故に我々はこれさえあれば良い」

 

シュメルケ上級大将は一呼吸置き、高らかに宣言した。

 

「“忠誠こそ我が名誉”、総統閣下への忠誠心こそが我々最大の勲章である」

 

将兵の鋭い目付きがシュメルケ上級大将に集まる。

 

皆鋭く尖った短剣のような素晴らしい存在だ。

 

その短剣は相当の命により今度は“()()()()()”を取り返し、やがてホズニアン・プライムとシャンドリラの心臓にその短剣を突き刺すであろう。

 

イェーガードレッドノートはその肩慣らしに過ぎない。

 

「以上のことを諸君には忘れないでもらいたい。そして以上のことを諸君はこれから諸君を羨望し入隊する新たな若き将兵達に伝えて貰いたい。受け継がれた親衛隊の意志は一千年、万年と帝国の繁栄を約束するであろう」

 

シュメルケ上級大将は最後に「総統万歳(Heil Fuehrer)」と宣言し演説を終えた。

 

シュメルケ上級大将の宣言に続き全員が右手を挙げ、第三帝国式の新しい敬礼を行いながら同じく総統万歳と叫んだ。

 

何千人の将兵の声が響き渡った。

 

当然その中にはジークハルトもいた。

 

彼もその悪魔のような言葉を口にし右腕を挙げてしまった。

 

もうこれで彼は戻れない、一度挙げてしまった右手は死ぬまで下ろすことは出来ないのだ。

 

かくして親衛隊は生まれた。

 

忠誠を模した短剣を使う狩人となることで主へ忠誠を示した。

 

第三帝国の台頭と第二次銀河内戦の始まりはこうして告げられたのである。

 

 

 

つづく




どうも!お久しぶりと明けましておめでとうございます!Eitoku Inobeです!

ようやくリアルの色々が片付いたのでナチ帝国をバンバン出せそうです!


何とか今年中には少なくとも独ソ…ゲフンなところまで行けたらなと思っています

そいではまた〜

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