第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「我々は常に人民の軍であり王室を守る保安軍だ。人民に銃口を向け、王室を鎖で縛り上げるなどあってはならない。故に我々は正当な保安軍としてここに立ち上がる。ナブーの人民と王室とこの星を解放するのだ。ナブー王室解放軍は真の王室保安軍として反乱軍を撃破するべく戦い続けることをここに宣言する」
-ナブー王室保安軍一等陸佐 クールシュ・フランケのナブー王室解放軍設立演説より抜粋-


女王救出劇/前編

-アウター・リム・テリトリー ワズタ宙域 ヴァセック星系 惑星ヴァセック軌道上-

惑星ヴァセックの衛星のひとつにはかつてとある戦士の砦があった。

 

その戦士は悲劇の申し子だった。

 

ある部族の戦士だったその男は抗争で全てを失った。

 

一方的に介入したジェダイと銀河共和国により仲間を、自らの身体を失った。

 

生死をの深い深い暗闇を彷徨いその戦士は蘇った。

 

サイボーグの体を手に入れ、絶対的なジェダイと共和国に対する復讐を糧にして。

 

戦士は戦士であったがもはや戦士ではなく、それと同時にドロイドでもなかった。

 

戦士は将軍に生まれ変わり名前を“グリーヴァス”と名乗った。

 

ジェダイに復讐する為の最恐のサイボーグ将軍となったのだ。

 

だが将軍の運命は悲しいものであった。

 

彼は最終的にジェダイを滅ぼし復讐を達成する事はなくウータパウの隅で死んだ。

 

ジェダイに対する復讐は“()()()()()”準備を重ねてきた者によって成し遂げられた。

 

彼もその準備の捨て駒に過ぎなかったのだ。

 

しかしそうは思わない人々もいる。

 

グリーヴァス将軍は英雄だった、彼は将軍であり気高い戦士の心がサイボーグの心には宿っていた。

 

故に十年以上の月日が経った今彼の名はプロヴィデンス級“ジェネラル・グリーヴァス”としてラクサス自治連合を盟主とする新分離主義連合に受け継がれている。

 

彼らはラクサスで敗北しても滅ぶことはなかった。

 

クローン戦争で敗北しても滅ぶことがないように彼らは再び立ち上がるのだ。

 

最後の決戦へ向かう為に、分離主義は全ての星系の運命を賭けて再起する。

 

このヴァセックの星系で。

 

軌道上にはずらりと何百隻、何千隻の旧来の独立星系連合宇宙軍の軍艦が並んでいる。

 

ミュニファスント級、レキューザント級、DH全能支援船、ブルワーク級バトルクルーザーにルクレハルク級やプロヴィデンス級といった多くの連合艦船。

 

更にはコーマス・ギルド・コルベットやウェーブクレスト級フリゲートといった艦艇も存在し正に現代に蘇った分離主義宇宙軍といった様子だ。

 

この連合艦隊は確かに旧式の艦も多く存在している。

 

数合わせで持ってこられたハードセル級や分離主義系統のゴザンティ級など戦闘能力の低い艦もいる。

 

だがブルワーク級やレキューザント級は全て改装が施され以前は小型タイプの多かったプロヴィデンス級もほぼ全てが大型タイプへと拡張され更に近代化改修まで施されている。

 

特に切り札として温存されていたプロヴィデンス級“コンフェデレーション”と“セパラティスト”は時間に余裕があった為更に大規模改修が行われた。

 

船体も2,117.35メートルから3,000メートル以上にまで引き上げられ以前サブジュゲーター級が装備していたイオン・パルス砲の小型機が備え付けられている。

 

もはやクローン戦争の遺物などではなく列記とした新時代の艦船というべき姿だろう。

 

「ドロイド軍総軍並びに宇宙軍総艦隊、編成完了しました。いつでもご命令次第で戦闘行動が可能です、主席」

 

リストロング司令官は旗艦“コンフェデレーション”の中でアヴィ・シン主席らに報告した。

 

ここまで来るのに随分大変な道のりを歩んできたがようやく復活した。

 

独立星系連合軍の姿が。

 

「地上では新型のサブジュゲーター級の建造が始まっています。資源と設備が心もとないですがまあ来月までには全艦竣工できるでしょう」

 

リストロング司令官の隣でゴーグルをかけたニモーディアンはそう報告した。

 

一見ただのニモーディアンに見えるが彼こそが分離主義宇宙軍の中でトレンチ提督に勝るとも劣らない名将、マー・トゥーク提督である。

 

敵将の経歴の研究に長けた素晴らしい軍事戦略家の彼はかつての分離主義宇宙軍にキャプテンとして所属していた。

 

そこで惑星ライロスの封鎖に参加し迫り来る共和国艦隊を撃退するなどの戦果を挙げた。

 

しかしとあるジェダイ将軍のとんでもない無茶苦茶な戦法により彼は意表を突かれ敗北してしまった。

 

その後トゥーク提督は長らく死んだ者だと思われていた。

 

屈辱の敗北後、彼は共和国の刑務所に捕虜として収監されていたのだが隙を見て脱走、分離主義宇宙軍に帰属しようとした。

 

だが彼が艦隊に戻る頃には独立星系連合という国家は存在せずワット・タンバーや同じニモーディアンのヌート・ガンレイといった幹部は存在せずトレンチ提督やグリーヴァス将軍のような軍の司令官も存在しなかった。

 

あるのは予想外の敗北、ただそれだけだった。

 

一方それ故にトゥーク提督は敵味方問わず多くの者たちに自分が死んだという虚偽の事実を与え今の宇宙軍の足掛かりを作ることが出来た。

 

トゥーク提督は生き残った宇宙艦隊を出来る限り結集させこのヴァセックで宇宙軍の再建を行なった。

 

特に無人の艦艇は何隻かはまだ無傷で手の出されていない物が多く彼の再編は進んだ。

 

また帝国宇宙軍や帝国軍の補給部隊に対し旧分離主義の艦艇を用いた海賊による略奪行為を偽装する事で多くの資金や物資も手に入れられた。

 

アガマーから各地を転々としてきたカラーニ将軍がこのヴァセックに辿り着く頃にはもう既に小、中型タイプの一個艦隊ほどの宇宙軍が形成されていた。

 

そして遂に転機が訪れる。

 

エンドアの戦いで皇帝が死に帝国の統治は終わりを告げ、銀河系に隙間が出来た。

 

新たな国家が誕生出来る隙間が。

 

まず新共和国が誕生した。

 

次に帝国の軍閥達、彼らは一部が国となり新世代に残った。

 

そして遂に20年以上の月日をかけて彼らも立ち上がる時が来たのだ。

 

クローン戦争を生き残った分離主義者達が忘却の彼方から這い上がり遂に銀河系に“新分離主義連合”として蘇ったのだ。

 

当然トゥーク提督の艦隊もまだ不完全ながらも助太刀に回った。

 

彼らはリストロング司令官率いる地上部隊と共にラクサスを取り戻しまずラクサス自治連合を誕生させた。

 

その後各地で革命を起こした分離主義政府と共に声明を発表しこの銀河系に新分離主義連合という新しい連合国家を誕生させたのだ。

 

独立星系連合の遺志を継ぐ新たな分離主義国家として。

 

その後トゥーク提督は再び宇宙艦隊を秘密裏に再編する為にヴァセックに戻った。

 

銀河内戦が終結し新共和国が新たな中央政府となる以上非常時のことに備えておかなければならない。

 

特に銀河協定以降では主だって軍拡することが出来ない以上ヴァセックで秘密裏にやる他なかった。

 

だがその行いは後に重要な意味を齎す事になる。

 

第三銀河帝国の誕生と代理総統を名乗る男によって突如として齎された戦火は新共和国を滅亡に追いやり遂にその火種は新分離主義連合のすぐそばまでやってきた。

 

まず第一の標的となったのが盟主国であるラクサス自治連合だった。

 

第三帝国はラクサスに逃げ込んだ新共和国軍残党の討伐を名目にラクサスへと侵攻。

 

勢いに乗る第三帝国軍は一気に戦線を押し出し遂にはラクサス本土まで決戦の火蓋が降り注がれた。

 

これを聞いたトゥーク提督は急いでラクサスに向けプロヴィデンス級を中心とした艦隊による救出を開始した。

 

艦隊は急ぎヴァセックに戻っていたカラーニ将軍が現地の残存艦艇を纏め上げた状態で指揮し多くの将兵を脱出させた。

 

おかげでアヴィ・シン主席を中心とした多くの政府高官が無事にラクサスを脱出出来た。

 

そして遂に第三帝国に対する反撃の時が来たのだ。

 

「新型のドロイデカ、及びマグナ・ガードを含めた新設のドロイド兵団も編成が完了しました。第三帝国の国防軍、親衛隊に対して物量でも練度でも引けを取りません」

 

「志願兵による新兵部隊の教育も完了しました。まだ前線に配備する予定はありませんがいつでも実戦可能です」

 

リストロング司令官と共に別のドロイド軍司令官も報告する。

 

帝国軍が連合から接収した技術に加えて抵抗時代に培った新たな技術も加えた最新鋭バトル・ドロイドだ。

 

クローン戦争当時のバトル・ドロイドの比ではない。

 

それに今では古参、新兵問わず多くの生身の兵士達が地上軍を形成し命令を待っている。

 

彼らの多くは親類縁者を第三帝国に殺されたものが多い。

 

第三帝国は意味もなくエイリアン種族や近人間種族を捉えて殺害を繰り返している。

 

ある者は目の前で親を焼かれ、ある者は目の前で自分の兄弟をバイブロ=ナイフで切り裂かれ、またある者は自分の妻や子供を目の前で犯され銃殺された。

 

当然そのまま自らも殺された者だっているし逃げ延びた最中に四股や片目を失った者達だって大勢いる。

 

故に彼らの憎悪は凄まじく、並の兵士では到達出来ないほどの精神と士気を手に入れた。

 

今こそ第三帝国に対する反撃の時なのだ。

 

「我々は取り返さなければならないもの、もう取り返せないものが大勢ある。そして連中はそれを奪った張本人だ」

 

アヴィ・シン主席は重々しく口を開いた。

 

もう長くないと知っている身体を駆使し見事なまでの白髪の髭を蓄えたその口で決意を語る。

 

「だが我々の戦いは復讐ではない。かつてと同じ、自由を求め平等な世界を創るために我々は戦うのだ。たとえ誰と手を結ぼうとも、帝国を倒すために」

 

「では主席」

 

リストロング司令官の催促にアヴィ・シン主席は小さく頷く。

 

第三帝国と戦う為には彼の言葉が必要でありそれは分離主義者達の新たな闘争を意味していた。

 

「我々は第三銀河帝国に宣戦布告する。全ての銀河市民を守る為に我々は全力で戦うだろう。我々は圧力には屈しない、分離主義の悲願を達成するのだ」

 

その場の全将兵が敬礼しアヴィ・シン主席の方を見つめる。

 

彼らに主席はたった一言だけ「頼んだぞ」と言葉を掛けてブリッジを後にした。

 

こうして新分離主義連合による対第三帝国戦が本格的に始まる。

 

もはや一方的に攻撃を受けるだけではない、こちらがやられた事を返す番だ。

 

コンフェデレーション”では慌ただしく指示が飛び交い戦いの火蓋が切られた事を物語っていた。

 

「遂に始まりましたね」

 

リストロング司令官はトゥーク提督にそう告げる。

 

提督も小さく頷き作戦を伝えた。

 

「まず手始めにワズタ宙域全土を確保する。親衛隊も撤退し残る国防軍もこの宙域ではまだ少数だ、制圧はすぐに完了する」

 

「既にロソ・マイナーなどの制圧を実行する部隊を展開済みです。間も無く今の声明と共に攻撃を開始するでしょう」

 

「なら次は周辺宙域の制圧だ。艦隊を動員して隣国のクリズ宙域とコラディン宙域、アルディノ宙域、エルバラン宙域を抑える。恐らく帝国軍との戦闘も激化するだろうが」

 

この中でもクリズ宙域の制圧は絶対条件だった。

 

クリズ宙域を制圧すれば更に隣のアノート宙域までの道が切り開ける。

 

アノート宙域にはコレリアン・トレード・ルートなど多くのハイパースペース・ルートを有しており更なる長距離進軍には欠かせない地点だ。

 

「ですがクリズまで抑えれば後の戦闘はないようなものです。帝国軍は現状サラストの方に注力していますから」

 

サラストでの勝利は現地の軍政実行の為に多くの帝国軍を駐留させ更には親衛隊の部隊を引き上げさせた。

 

南側は大セスウェナを中心とする国防軍の管轄で比較的やりやすくなるだろう。

 

「そうとも言えんのがアノートを執拗に狙うアデルハードの残存艦隊だ。連中はワズタとクリズに屯している、このまま行けば衝突は免れないだろう」

 

とはいえトゥーク提督の中では既に分析が完了しておりアデルハード総督など相手ではない様子だった。

 

それにアデルハード艦隊はアノート宙域における敗北と紛争でかなり疲弊している。

 

現状無傷の連合艦隊ならば容易に撃破可能だろう。

 

「問題はクワズ宙域を堕としてアノートに接近した後だ」

 

「既に外務官達がレジスタンスの方に交渉人を送っています。彼らも少しでも戦力が欲しいでしょうし悪くはならないでしょう」

 

「ならば一つだけ、周辺の帝国軍とアデルハードの艦隊を殲滅する方法がある」

 

トゥーク提督はニヒルな笑みを浮かべ戦術を考える。

 

分離主義の敗北に隠れた天才達がこの新たな戦争でその力を見せようとしていた。

 

 

 

 

 

 

-コメル宙域 惑星ナブー-

ナブーの森林で保安軍の兵士達と衝突してからもう既にかなりの月日が過ぎていた。

 

ジェルマンとジョーレンは隠れて王室保安軍基地や駐屯地、首都シードを偵察し時には威力偵察として戦闘にも参加した。

 

王室保安軍の保安隊員は流石にストームトルーパーほどの練度ではないが思いの他抵抗力が高く長期戦となれば厄介な敵となるだろう。

 

それに帝国軍から武器提供を受けている為E-11やDTL-19など最新のブラスター類も使用しており潜入調査では近々帝国軍の駐屯部隊も展開されるとのことだ。

 

そうなれば現在の王室解放軍では到底太刀打ち出来ない存在となる。

 

ジェルマンと特にジョーレンが彼らの戦闘訓練を教導しているが根本の経験から帝国軍の兵士達の方が練度は上だろう。

 

ジェルマンとジョーレンの敵ではないがそれと同じことが他の兵士にも通用されるかと言われればそうではなかった。

 

それにサラスト陥落によりレジスタンスは今、苦境に立たされている。

 

あそこに駐留していたかなりの戦力が撃退され辛うじて脱出出来た者達も無傷ではないだろう。

 

そうなってしまった以上ここで勝利を掴み帝国に小さくとも一撃を入れるしかない。

 

となるとまずはやる事が一つある。

 

女王、ソーシャ・ソルーナの救出だ。

 

「潜入調査とスパイ達の情報ではソルーナ女王は今シード宮殿の特別監房室に収監されているそうです」

 

メンジス三佐は施設のホロテーブルでシード宮殿を映し出した。

 

ホログラムの宮殿が一回転し地下の様子を映し出す。

 

その一角に三佐が言った特別監房室の様子が記載されていた。

 

「監房室の守りは厳重で何重もの隔壁に加えて警備小隊が多数配置され更には帝国軍式のセキュリティ・ドロイドまでいます」

 

警備中の敵部隊のユニット数が表示され細かな人員まで顕になる。

 

監房のような閉所の戦いとなると数で固めながら包囲が可能な敵警備隊の方が圧倒的に優位だ。

 

更にはいつでも増援が展開出来るよう宮殿内の衛兵も展開出来るようになっている。

 

「ですが我々の情報網が既に監房のアクセスコードを入手していますので警備さえ突破出来れば女王らの救出が可能です」

 

「となると揺動が必要になるな。どうする、我々が騎兵突撃して保安軍を引き寄せるか?」

 

ホーリス隊長の提案にフランケ一佐は首を振った。

 

「まだグンガンの騎兵隊を使うべきではない、隊長が率いる騎兵隊は現状解放軍の中で一番の突撃能力を誇っている。それをここで投入するにはリスクが高すぎる……まあそれでも揺動は必要なのだが」

 

「なら我々の出番だな」

 

ジョーレンはチラッとジェルマンの方を見つめた。

 

大体意味が分かったジェルマンは小さくため息を吐いた。

 

「揺動は我々がやります。シード市内か宮殿内で戦闘を起こして警備隊を釘付けにします」

 

「ついでに上手くいけば連中の最高司令官も暗殺する。連中の指導者が消えれば少なからず混乱は訪れるだろう」

 

「えっそこまでは聞いてない」

 

フランケ一佐やガイルス二佐は顔を見合わせ判断を仰いだ。

 

代表してフランケ一佐が返答する。

 

「…陽動だけでいい…頼めるか?」

 

「はい」

 

「もちろん」

 

2人は力強く頷き頼みを受け入れた。

 

ジョーレンは大まかな計画を話し始める。

 

「連中を引き寄せる為には派手にやった方がいい。まず爆薬を仕掛けて連中に打撃を与える、そんで後は…いつも通りだ」

 

「いつも通り…ね……」

 

苦々しい表情を浮かべながらこれからやることの想像がジェルマンにははっきりとついた。

 

クワットの監房を襲撃した時から今に至るまでどうしてこうなったということばかりやってきている。

 

一昨年なんてそれはもうホズニアン・プライムの艦隊情報部のオフィスでただひたすら業務に励んでいただけなのに。

 

去年からずっと戦場でドンパチしかやっていない。

 

まあこのジョーレン・バスチルという男にとってはそれが日常だったのだろうが。

 

「こちらもメンジス三佐率いる最精鋭部隊を送り込む。作戦の成功率によってはスターファイターも何機か奪取する予定だ」

 

「それぞれ互いに第二目標があるという事ですね」

 

ジェルマンとジョーレンは敵司令官の暗殺、そしてメンジス三佐の救出精鋭部隊は格納庫のスターファイターの強奪、それぞれ二つ目の目的がある。

 

そんな中でもメンジス三佐は「はい、ですがまずは第一目標を優先して実行しましょう。我々にとってはまず何より女王の救出が重要です」と前置きした。

 

するとジョーレンがある事を彼らに問いかけた。

 

「それで敵の司令官について何だが何か少しでも知ってる事を話してくれないか?特徴とか注意すべきところとか」

 

「クリース宙将のことですか…」

 

メンジス三佐は嫌なものを思い出す口調で司令官の名前を出した。

 

自分達を裏切り破滅の一歩直前まで追い詰めた男のことなど嫌に決まっている。

 

施設全体が少し重い雰囲気に包まれた。

 

「あの男は良くも悪くもナブーやナブーの民ではなくナブーが歩んできた歴史と栄光を守護する者だ。彼にとって過去の栄光が第一でありそれ故に現在の平和主義的ナブーを許せなかったのだろう」

 

「彼は優秀な軍人ではありますがフランケ一佐の通り国家や王室、市民に忠実ではありませんでした。むしろ“()()()()()()()()()()”シーヴ・パルパティーンの遺産に忠実だった」

 

フランケ一佐もガイルス二佐も彼に辛辣な評価を下した。

 

だが何となくイメージはつく、恐らくクリース宙将という人物はシーヴ・パルパティーンのようなある種の偉業を成し遂げた人物を産んだような“強いナブー”の信奉者なのだろう。

 

実際ナブーは平和主義とは裏腹に様々な危険に見舞われてきた。

 

ミッド・リムとアウター・リムの境近くというのはナブーを否が応でも安全保障的に危機に追い込んだ。

 

海賊やギャングの被害も銀河共和国時代なら当然多発していただろう。

 

それに最終的には通商連合によるナブー封鎖、それによる解放の為のナブーの戦い。

 

平和主義とは真反対の出来事ばかり起こっていた。

 

しかしナブーはそのような不幸に負けることなく常に闘い勝利してきた。

 

ナブーという母星を、祖国を常に守って来たのだ。

 

更にはナブーから生まれたシーヴ・パルパティーンは銀河共和国の最高議長となり共和国を改革し大きく改善した。

 

その改革の果てに第一銀河帝国が誕生しこの銀河系に流血の反面平和と秩序、安全が齎された。

 

それもまたある側面から見ればナブーの誇るべき栄光である。

 

帝国を誕生させた偉業は負の遺産であると同時に栄光の歴史にも加算された。

 

故にナブーという星には戦勝の歴史と栄光が与えられた。

 

そのようなことに対し少なからずノスタルジーや憧れを抱きかつての栄光を蘇らせようと考える者達が出てくるのも必然である。

 

最終的にクーデターを起こしこのナブーという国を閉鎖的な軍事独裁に包むことになったとしてもだ。

 

「彼はパルパティーンや王室保安軍の元キャプテンでモフであったクァーシュ・パナカの信奉者でした。彼にとって帝国とはナブーの栄光であり今のナブーに栄光を蘇らせようとしているのです」

 

「なるほど…典型的なタイプか」

 

「それにクリース宙将は元帝国軍人です。宇宙軍で大佐を務めその後退役と同時に王室保安軍に入隊しました。その為艦隊の指揮も一級司令官で陸戦や歩兵戦の指揮も高いです」

 

メンジス三佐は彼の注意点を口にした。

 

元帝国軍人で宇宙軍の大佐、帝国軍にも有能無能の差があり一概に全てが危険とは言えないが気をつけておくに越したことはないだろう。

 

更にメンジス三佐は注意点を上げる。

 

「そして何よりも注意すべきは彼の部下の1人です。優秀な情報将校でクリース宙将並に頭が切れ我々を苦しめてきた」

 

他の解放軍の2人は何かを悟ったかのように下を向いた。

 

「誰なんですか?その情報将校とは」

 

ジェルマンは単刀直入に彼らに尋ねた。

 

メンジス三佐が代表して答える。

 

「グリアフ一等陸佐と言う情報将校です。彼の卓越した能力に我々は幾度となく追い詰められてきた。正にクリース宙将の懐刀と言った相手です」

 

その名前を聞いた途端ジェルマンは何かデジャブのようなものを感じた。

 

「グリアフ…どこかで聞いた名前ですね…」

 

「もしかすると情報将校のジルディール上級中尉は知っているかもしれません。とにかく危険な男です、気をつけて下さい」

 

メンジス三佐のあまりに強い念押しに2人は小さく頷いた。

 

ここまで言われるともはや意識的に気をつけない方が無理だ。

 

「ともかく武器弾薬を持ってこないと。ちなみに決行はいつにするんだ?」

 

ジョーレンは幹部達に尋ねた。

 

「ひとまず4日後の予定だ」とフランケ一佐は返答した。

 

日にちを確認したジョーレンとジェルマンは「それじゃあ」とUウィングの方へ戻った。

 

 

 

 

 

 

-首都シード シード宮殿 玉座の間-

シード宮殿の玉座の間、かつては歴代のナブーの女王がこの席に座りナブーの民の為に責務を全うしていた由緒ある席だ。

 

しかし今ではその主君を失い代わりに太々しい裏切り者が我が物顔で司令室として利用している。

 

女王とナブーを裏切りクーデターを実行しその果てに手に入れたこの玉座の間に座る男から一体何が見えているのだろうか。

 

そこに座る気分はどんな気分なのか、どんな思いが込み上げてくるのか皮肉混じりに尋ねてみたいことが山ほどある。

 

されどこの玉座の間に立ち入れる人間にそのようなことを考え実行に移す者は誰1人としていないだろう。

 

何せクーデターの熱心な賛同者達で警備を厳重に固めこの間に外から入れるのもほんの一握りの信用されたクーデター参加者の高官のみとなっている。

 

不埒なことを考える輩は皆宮殿の門前で射殺されるだけだ。

 

そして今この玉座の間にはその席の簒奪者、クリース宙将に最も信頼された男が報告に来ていた。

 

「…というように市街地近郊での襲撃が増加しています」

 

彼らは現在ナブーのあちこちで勃発する抵抗勢力による襲撃を吟味し合っていた。

 

報告に対しクリース宙将は命令を口にした。

 

「グリアフ、お前に麾下部隊として預けている軍団(legion)を鎮圧に向かわせろ。徹底して敵を叩くんだ」

 

「よろしいんですか?教官組や経験豊富な保安隊員達はともかく、新兵達には少し……荷が重いかと」

 

懐刀、グリアフ一佐は彼に聞き返した。

 

一佐が新たに贈呈された王室保安軍新設部隊である第31特務軍団、通称デア・フルス・ソルー軍団とも呼ばれ経験豊富な保安隊員、艦隊陸戦隊員、軍警隊員に加え新規で徴兵及び志願された若者達を組み込んだ軍団規模の部隊だ。

 

本来王室保安軍では軍団となると将官クラスの指揮官が担当するのだがグリアフ一佐だけは特別だった。

 

それにクーデターにより将校の人数も変動し今では一等陸佐といえど軍団規模の指揮官をやらざるを得なくなっている。

 

デア・フルス・ソルー軍団は規定の短期訓練を終えた優秀な選りすぐりの新兵達を投入し更に軍団内での強化も目的とした精鋭軍団を目指した組織だ。

 

親衛隊地上軍の兵団をベースに作られやがて特務の駐留部隊としてやってくる親衛隊に併合され師団化する予定であった。

 

「新兵達にも戦場の風と自ら“()()”に触れる事で訓練だけでは得られない成長が手に入る。無論死なない程度に戦わせての話だが」

 

「なるほど、了解しました。それでは襲撃地点の比較的多い箇所と重要拠点に軍団配下の部隊を配置しておきます」

 

宙将の考えにグリアフ一佐は賛同し手早く返答した。

 

「頼りにしている」とクリース宙将も彼の動きを評価する。

 

「それともう一件、これは情報将校としての意見打診なのですが」

 

グリアフ一佐は前置きを置いてクリース宙将の気を引いた。

 

宙将は「どうした、言ってみろ」と彼に発言を許可する。

 

グリアフ一佐が意見を打診するということは余程のことだとクリース宙将は認識していた。

 

彼は情報将校として無駄がなくまるで無意味な意見などは持ち合わせいなかった。

 

常に彼の意見は有意義なもので頼りになる。

 

「襲撃地点を表面化し分析したところ、ここ最近の襲撃はどれも組織的に何らかの作戦目標に沿って実行されている可能性が高いと判明しました。それも極めて危険な」

 

「確かに襲撃を受けすぐ敵はすぐ退却していったとの報告を何件か受けている。となると貴官は揺動だとでも言いたいのか?」

 

「その通りです」とグリアフ一佐はクリース宙将の推察を認めた。

 

「恐らくシード、シード宮殿内、或いは各駐屯地内の戦力を釘付けにして何らかの攻勢作戦を実行するつもりでしょう」

 

クリース宙将は黙り込み背もたれに深く寄りかかりそれから暫く程よく年老いた肌を触り息を深く吐いた。

 

その息を吐く瞬間にクリース宙将はとても険しい目つきに変わっていた。

 

「貴官が思うその極めて危険な攻勢作戦とは何だ?検討中ならば全て言ってくれても構わん」

 

グリアフ一佐は「恐らく」と付けながら迷うことなくたった一つの答えを私見として口にした。

 

「恐らくですが旧ナブー王国の高官らの“()()”、特に女王陛下の救出だと私は考えています。その指導と外部支援の下更なる大規模攻勢に乗り出すつもりでしょう」

 

「しかし陛下はシード宮殿の監房室で厳重に管理している。位置情報がスパイによって把握されていたとしてもそう易々と突破出来るとは思えん」

 

「ですが相手には情報将校のメンジス三佐がいます。単純な警備人数と防御機能では裏を繋れる可能性があります」

 

一佐は同じ情報将校として相手の危険性を提示した。

 

無論メンジス三佐に負けるつもりはないが相手にするには危険な人物だ。

 

彼は経歴や経験から言っても情報将校としたらまだ若手、中堅の部類に入るがその類稀な能力によりグリアフ一佐の中では抵抗勢力に参加しているどの症候よりも危険視していた。

 

更にこないだの小戦闘でメンジス三佐より危険ない相手が侵入している可能性が発覚した。

 

「危険なのはメンジス三佐だけではありません。むしろ三佐以上に危険な人物がこのナブーに侵入してきています」

 

「貴官がこないだ報告したレジスタンス軍と思われる外部の抵抗勢力の支援者か。確かにあの後艦隊に調査させ先のレジスタンス軍奇襲時に別方向からもクロノー放射が検知されたが」

 

「こないだの戦闘で実感しました。相手は戦闘に手慣れた特殊部隊員並みの練度を持っています。いくら数がいようと現状の保安隊員では肉壁にもならないでしょう」

 

クリース宙将にとってグリアフ一佐の忠告こそ最も危険性を示していると思っていた。

 

それ故に今の忠告は十分に信じるべきだと宙将の中で決定付けられていた。

 

「…ならどうすればいい?」

 

クリース宙将はグリアフ一佐に尋ねた。

 

一佐はすぐ彼自身の最適解を答える。

 

「ひとまず女王らを移してしまいましょう。その上で連中には予定通り作戦を実行してこのシード宮殿で大打撃を被ってもらいましょう」

 

「なるほど、なら私の艦に秘密裏に移送しよう。連中の保有する機体だけでは我が宇宙艦隊まで上がって来れん」

 

もし仮にそこでグリアフ一佐の言うレジスタンス軍の協力者が我が艦にやってくるのであればそれはそれで好都合だ。

 

艦載機を使って数で叩ける。

 

「地上の部隊はどうします?」

 

「イェアルとハウントに任せておこう。我々は宇宙の天高くからことの行く末を見張り続けるだけで十分だろう」

 

クリース宙将は冷静にそれでいて冷酷に、邪悪に物事を対処しようとジェルマン達に先手を繰り出した。

 

 

 

 

-コア・ワールド 第三帝国領 コルスカ宙域 コルサント星系 惑星コルサント軌道上 セキューター級“ライアビリティ”-

サラストでの戦いは他の上級大将達が予測した通り短期で終わった。

 

親衛隊の大部隊は惑星を完全に取り囲み巧みな戦術と新兵器によりサラストの防衛艦隊突破し迅速に地上に部隊を展開した。

 

その後ソロスーブ、主要都市を陥落させバエルンテーゼ上級大将率いる本隊が主力軍集団を包囲殲滅したことで戦闘は粗方決着が付いた。

 

軌道上では親衛隊の宇宙艦隊が敵艦隊を殲滅し包囲網を形成していたお陰でサラスト内の戦力は脱出することなく殆ど撃滅された。

 

サラストで勝利したバエルンテーゼ上級大将は現地の駐留部隊と国防軍部隊に戦地の治安維持及び軍政を後退し出撃した時よりも多くの部隊を率いてコルサントに帰還した。

 

ちなみにこの時バエルンテーゼ上級大将は親衛隊の多くに民間人への攻撃禁止と捕虜取り扱いの正常化を徹底して命令したとされている。

 

その命令がなんのを成すか一介の将兵では皆目見当がつかなかったが一部の親衛隊の上級将校では密かに意見が分かれていたらしい。

 

何はともあれバエルンテーゼ上級大将達は目標よりも大幅で絶大な戦果を手にしてコルサントに帰還した。

 

彼は親衛隊の英雄として讃えられ新たな十字勲章が授与された。

 

また戦闘に参加し功績を立てた多くの親衛隊軍人も同様に栄誉と昇進が送られた。

 

特にソロスーブを攻略したアデルハイン中佐は大佐へ昇進、インパルス・フォースでAT-ATを指揮し敵機を多く撃破したヴァリンヘルト上級中尉も大尉へと昇進した。

 

またこの昇進とは別にハイネクロイツ中佐は今までの戦歴を考慮され同様に大佐へ昇進し二個大隊に増設された第21FF航空旅団の旅団長に就任した。

 

このスターファイター隊はセキューター級“ライアビリティ”の艦載機部隊であり地上部隊展開と“ライアビティ”を支援することが想定されていた。

 

またこれに際して兼ねてから予測されていた昇進と新部隊が設立する。

 

コルサントに残ったジークハルトは旅団を拡張する為に新規将兵の投入と再編成と行なった。

 

第9FF装甲擲弾兵軍団、通称“タンティスベルク軍団(Tantissberg Legion)”が新たに誕生した。

 

初代軍団長は准将に昇進したジークハルト・シュタンデリス、副軍団長はフリーツ・アデルハイン大佐となった。

 

タンティスベルク軍団はかつての第六連隊、第三機甲旅団同様にスター・デストロイヤーによる長距離輸送と展開を基本としており本拠地はセキューター級“ライアビリティ”と設定された。

 

その為実質的には“ライアビリティ”の艦長であるオリス・メルゲンヘルク大佐らもジークハルトの配下となりジークハルトは一個軍団に加えてセキューター級一隻、一個航空旅団の指揮官となった。

 

また第9装甲擲弾兵軍団は師団への昇格も予定されており益々今後の働きに期待が寄せられていた。

 

そして今日はコルサントの軌道上に駐留する“ライアビリティ”の中で軍団設立と軍団長就任式が執り行われていた。

 

軍団の将校達が見守る中ジークハルトは上官のモーデルゲン上級大将から辞令を受け取っている。

 

「ジークハルト・シュタンデリス准将、貴官を第9装甲擲弾兵軍団初代軍団長に任命する。今後も我らの帝国の為、総統閣下の為に忠義と全力を尽くしてもらいたい」

 

「はい!」

 

ジークハルトは敬礼しモーデルゲン上級大将から辞令を受け取った。

 

2人は軽く形式的な握手を交わしそれに合わせて将校達による拍手の喝采が湧き上がった。

 

「これで父君と同じ階級についたな」

 

モーデルゲン上級大将は将校達には聞こえぬようジークハルトにそうわざとらしく告げた。

 

バスティ・シュタンデリスは帝国地上軍で准将を務めていたがある日突然退役し軍隊から姿を消した。

 

もしバエルンテーゼ上級大将のように今日に至るまで軍役についていれば8年も前に元帥に昇進していただろうとまで言われている。

 

そんな父の跡を追いジークハルトも父親と同じ位にまでこの若さで上り詰めたのだ。

 

「無論父君の姿をキミには超えてもらうぞ」

 

更モーデルゲン上級大将はジークハルトに耳打ちする。

 

ジークハルトに発破をかけるつもりだったのだろうがジークハルト個人としてはただ単純に煩わしさの方が勝っていた。

 

「分かっています」とただ一言返し表面上だけでもモーデルゲン上級大将を満足させる。

 

将校達の拍手の中新しいジークハルトの軍団の就任式は無事に執り行われた。

 

 

 

 

 

式典が終わり一行は“ライアビリティ”の休憩室にいた。

 

既にモーデルゲン上級大将らは先にラムダ級シャトルでコルサントの本部に帰還しジークハルト達も新将校達に挨拶などを行い同じようにコルサントに戻る予定だ。

 

今はまだ各部隊の指揮官や参謀達が集まっていない為ジークハルト、アデルハイン大佐、ハイネクロイツ大佐、ヴァリンヘルト大尉の3人は休憩室で暫し待つ事となった。

 

衣服の留め具を緩め思いっきりソファーにだらけて座っている。

 

「遂に我々も大佐……!そしてジークハルトは准将か!我々も随分と高いところまで来たな!」

 

アデルハイン大佐は胸の階級章と首元の十字勲章を眺めながら呟いた。

 

ハイネクロイツ大佐は特に何も言わなかったが小さく頷き満足感を示している。

 

「まさか開戦からこんな短期間で准将にまで昇進するなんて、おめでとうございます!シュタンデリス准将!」

 

「君こそ大尉への昇進おめでとう、ヴァリンヘルト大尉。私なんて軍団創設の為に将官に上げられたまでで今回ばかりはなんの軍功もない。それよりも敵機を何機も撃破した大尉の昇進の方が軍人として、副官として私も鼻が高い」

 

「ええ〜そうですか〜」

 

ジークハルトからの褒め言葉にヴァリンヘルト大尉は気分を良くしたのか言葉を伸ばしながらクネクネ動いた。

 

こう見るとまだ年相応、とても若い青年だ。

 

徴兵と規模拡大を急ぐ親衛隊には彼のような人物など星の数ほどいるだろうが。

 

「この勢いで行けばレジスタンスどもの主要拠点を残らず叩き潰した頃にはもう中将か大将かもな!」

 

「流石にそれは無理じゃないか?」

 

アデルハイン大佐の予言にジークハルトは苦笑混じりに首を傾げた。

 

ハイネクロイツ大佐も「まあ軍団長殿とはいえ無理じゃねぇかな」と賛同した。

 

「それにファースト・オーダーとの同盟が締結された今、戦うのは我々だけじゃない。直接レジスタンスと戦うって機会も減りそうだしな」

 

「ファースト・オーダー……か」

 

ハイネクロイツ大佐の予測に出てきたその単語に何かが引っかかったのかジークハルトは更にソファーにのめり込みながら何かを考えた。

 

「どうしたんだ?」とアデルハイン大佐は彼に声を掛けた。

 

帝国ロイヤル・アカデミー時代からの付き合いとなれば些細な変化にもすぐに気づける。

 

他のヴァリンヘルト大尉やハイネクロイツ大佐も言われてみればと彼の様子の変化に気づいた。

 

「アンシオンにいた頃、視察と際してファースト・オーダーのスター・デストロイヤーに行ったことがあっただろう?」

 

「ああ、“ソリシチュード”だな。確か艦長がキャナディとかいう我々と同世代ぐらいの若い大佐だった。それがどうかしたのか?」

 

ハイネクロイツ大佐の返答にジークハルトは「重要なのは彼じゃない」と前置きをした。

 

確かにキャナディ艦長は優秀でジークハルトと殆ど同世代の人間だがそれよりも注目すべきなのはそちらでも特殊部隊司令官のハスクという人物でもない。

 

彼らの隣にいた物腰穏やかそうな人物、スターファイター隊の隊長と名乗った中佐。

 

「…ナッシュ・ウィンドライダー中佐、私はどこかで彼に会ったことがある気がするんだが……」

 

「気のせいじゃないか?」

 

「それか以前本当にどこかで会ったのかも。ファースト・オーダーも元は同じ帝国軍ですし何処かで行き合っていてもおかしくありません」

 

ヴァリンヘルト大尉の言うことは比較的最も的確だろうという感触があった。

 

帝国軍というのはそれだけでも巨大な組織だ、同世代の将校ですら全員を網羅するのは不可能であるし宙域を一歩跨ぐだけでそこには全く別の宙域軍がある。

 

その為どこかで会ったとしても記憶の奥底に薄れて保管されている可能性が一番高い。

 

だがジークハルトにはそれを否定する意識があった。

 

「そうだとは思うんだが……彼にはついこないだ…本当にこないだ会った気がするんだよな…2年も3年も前とかじゃなくて本当にこないだ」

 

「つまり……新共和国に対して宣戦した以降に会ったということですか?」

 

「そうだ大尉、だが…」

 

「そんなことはあり得ない。ファースト・オーダーは遅くとも2年前には完成していた組織だ。そこの将校が数ヶ月も前の銀河系で会うはずがない」

 

ハイネクロイツ大佐はジークハルトの意見をそのまま代弁した。

 

絶対にあるはずがないのだ、それでも彼と数ヶ月前に出会った気がする。

 

「気のせいかドッペルゲンガーってやつじゃないか?」

 

アデルハイン大佐はそう本人ではないのではないかと疑問を投げかける。

 

「そうだな…まあドッペルゲンガーとやらだったらそれはそれで恐ろしいが」

 

「失礼します。シュタンデリス准将、アデルハイン大佐、ハイネクロイツ大佐、全将校が揃いました。そろそろ作戦室にお越しください」

 

出迎えの将校が来た為この話は打ち切りとなった。

 

ジークハルトは留め具を止め直し「分かった」とソファーから立ち上がった。

 

他の面々も制帽を取りジークハルトの後に続く。

 

今は小さな疑問よりもやることがたくさんあった。

 

 

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部 親衛隊保安局区画-

ハイドレーヒ大将は彼にとって史上最大となるであろう大きなため息をついた。

 

報告書を読むだけで気だるい気分になるし無能に対する苛立ちが湧いてくる。

 

本当に、どうしてこう同じ帝国軍だったはずなのにまるで使えない連中ばかりなのか。

 

彼らは全員劣ったエイリアン種族の混血ではないのかと全く関係のないことまで考えてしまう。

 

「キールヘル小艦隊はチス・アセンダンシー領の国境沿いと予測される惑星キャルヒーコルで全軍消息不明。恐らく迎撃に遭い全滅したものと思われます」

 

フリシュタイン大佐の報告は更にハイドレーヒ大将に大きなため息をつかせた。

 

殆ど送られてきた報告書の文面をそのまま読み取っただけなのにハイドレーヒ大将にとってはそれだけでも気が重くなる。

 

最悪という言葉を何回使おうとも言い表しきれないものだ。

 

あれだけの支援と工作をしてやったというのにまるで役に立たなかった。

 

キールヘル中将麾下の小艦隊によるチス・アセンダンシーへの威力偵察、ハイドレーヒ大将が手を回した対アセンダンシーへの策略の一つだ。

 

彼らの戦力は小艦隊というにはかなり肥大化したものだったがそれ故に相手に与えられる打撃は十分であると予測していた。

 

ハイドレーヒ大将にとってキールヘル中将を差し向けることは建前上の威力偵察などではなくもっと大きな損害を与えることを望んでいた。

 

連中が途中のどこで力尽きようとどうでもいい事だがその際に与えられる打撃が大きければ大きいほど良い。

 

チス・アセンダンシーに大きな隙と混乱が与えられる。

 

そうすれば第三帝国の視察団もきっと連中の脆弱さを認識するだろうし老いぼれた総統閣下も決断するだろう。

 

やはり純粋な人間ではない相手など所詮は劣等民族に過ぎないと。

 

劣等民族を撃滅する為、優れた人間種による帝国を創り上げる為、彼らに宣戦する。

 

チスがどうした、そこに隠れ逃げ出した在弱な帝国の残党がどうした。

 

奴らを徹底的に叩きのめし我々の力を見せつけ劣等民族が劣等たる姿を見せつけなければならない。

 

それが我々親衛隊の役目であり、第三帝国の使命であるはずだ。

 

その為にはどんな工作も厭わないとハイドレーヒ大将は考えていた。

 

考えていたのだが使った駒があまりにも脆過ぎた。

 

その図体の割に彼らは土人形のようにすぐに砕け未知領域の闇に消えた。

 

彼らが死んでいくのは別に構わないがこれではまるで意味がない。

 

連中に被害を与えるわけでもなく奥地までとにかく前進するわけでもなくアセンダンシーの門前で蹴散らされただけ。

 

賭けた工作の割に成果があまりにも少なすぎる。

 

「全記録を抹消しろ。あんな連中など残しておく必要すらない」

 

「はい、わかりました」

 

ハイドレーヒ大将は苛立ちを隠さず彼らの存在を歴史からも抹消することを命じた。

 

冷徹で仕事の早いフリシュタイン大佐ならすぐに彼らの存在を消してくれるだろう。

 

元々使い捨ての刃のようなものだったから抹消も切り捨てるのも楽だ。

 

「しかしインペリアル級七隻にヴィクトリー級やアークワイテンズ級の小艦隊、あの程度の戦果なら取り上げて親衛隊に組み込んだ方がと考えてしまいますね」

 

フリシュタイン大佐はデータパッドを操作しながらそう呟いた。

 

彼の意見も分からんでもない。

 

インペリアル級が七隻もあれば親衛隊宇宙軍にとって相当良い土産になる。

 

本来の精強なる親衛隊員が扱っていればかなりの戦果を挙げていただろう。

 

「過ぎたことだ、もう忘れろ。それよりも何か他に報告は入っていないか?」

 

話を変える為にハイドレーヒ大将はフリシュタイン大佐に尋ねた。

 

「ナブーの諜報機関より恐らくレジスタンスの支援部隊がナブー内に侵入した事と間も無く支援を受けた抵抗組織が何らかの攻撃作戦に出る可能性が高いとのことです」

 

「ナブーか…親衛隊が向かわせた駐留部隊は」

 

「後二、三週間で到着します。サラストの戦いにより南部アウター・リムの整理もありますのでかなり遅れるとは思いますが」

 

駐留軍を送れれば現地の脆弱な王室保安軍には頼らなくて済む。

 

直接ナブーで親衛隊の部隊を徴収できるようになればアウター・リムでもエリアドゥなどに並んで大きな橋頭堡となるだろう。

 

「他に報告は」

 

「はい、アノート宙域で続く国境紛争ですが再びアデルハード側が敗北し後退したとの事です」

 

「鉄の封鎖の実行者も堕ちたものだな。いくら相手が英雄カルリジアンとはいえここまで敗北続きとは」

 

大将はアデルハード総督の失態を鼻で笑った。

 

元アノート宙域帝国残存勢力と今の第三帝国に繋がりはない為大きな実害はない。

 

だが元は同じ帝国軍の勢力がこうも負け続けているのを見ると落胆し鼻で笑うのも無理はないだろう。

 

特にハイドレーヒ大将のような性格であればなおさらだ。

 

「それでまた支援を拒否したんだろう。もういい、連中にはアノートの境でこのまま死んでもらう」

 

ハイドレーヒ大将はいつものことだと今度はこちらか拒否しようとした。

 

しかしフリシュタイン大佐は意外な一言を述べる。

 

「いえそれがアデルハード総督の部下の1人が秘密裏に我々に亡命しようとしています。それもアデルハード総督の艦隊の“()()()()()()”」

 

それはハイドレーヒ大将、曳いては親衛隊にとっても良い案件だ。

 

今は一隻でも多くの軍艦と1人でも多くの兵士が必要な時期である。

 

チス・アセンダンシーの戦いの為にも。

 

 

 

 

-惑星ナブー 首都シード シード宮殿-

シード宮殿にはクーデターに積極的に参加した将兵や役人に加えて恩赦や勝ち目がない事を悟りクーデター軍に協力するようになった者達も大勢いた。

 

おかげでクーデター軍は未だに体制を維持出来ているのだが当然この有様では脆い面もあった。

 

一部行政システムは停滞し末端に至っては機能していない所すらある。

 

更には王室解放軍によるスパイが幾人も紛れ込んでおり宮殿内の情報を仲間に漏洩していた。

 

何とか見つけ次第捕縛し即刻処刑しているのだがそれでも漏えいの穴を塞ぐことが出来ないでいた。

 

その為宮殿内にはスパイ以上のクーデター軍による監察官が各所に配置されており不穏な動きをする者や職務を停滞させる者を監視していた。

 

当然物的証拠や確定的な状況証拠が見つかればすぐ逮捕に移るし直属の長であるグリアフ一佐の一声があれば配置転換や逮捕が可能とされていた。

 

互いに見張りを効かせながらクーデター体制を維持する。

 

今のシード宮殿には見えない蜘蛛の糸のようなものが端から端までそこら中に張り詰められていた。

 

「おい、そこの。そこから先はあまり向こうに行かない方がいい」

 

1人の王室保安軍の一等宙尉がかなり若そうな新任と見受けられる将校を止めた。

 

彼は一尉の方に振り返り一尉の方に近づいた。

 

階級章を見るにこの新任将校はどうやらナブー王室海軍(Naboo Royal Navy)の三等海尉のようだ。

 

「えっと……何かまずい所でしょうか?」

 

三尉は一尉に尋ねる。

 

「この先は元玉座の間、現在の最高司令部だ。我々のような将校では入る事は出来ん」

 

「そう…なんですね。ここが……」

 

「どうした、まさか知らんのか?」

 

一尉は物珍しそうに扉を見つめる三尉に尋ねた。

 

流石に玉座の間程度なら宮殿内の見学会などで訪れることも多いはずだ。

 

事実一尉だって将校になる前に子供の頃、シード宮殿の見学会でこの玉座の間の中へ入った。

 

あの頃はまだ今ほど規制も厳しくなかった。

 

「えっいやその……実は私つい数日前に将校になったものでして…」

 

「今まで宮殿に見学に来た事はなかったのか?」

 

「はい、実は親族の伝を辿ってきた移民らしく、物心ついた頃から地方の農村で暮らしていました。宮殿どころかシード市も初めてです」

 

「なるほどな」

 

確かに数十年前ならばまだこのナブーも多くの銀河系からの移民を受け入れていた。

 

それに地方の農村部なら首都に足を踏み入れず宮殿に見学に来たこともないなんてあり得る話だ。

 

一尉は比較的都会の人間だった為あまりそのような事は考えたことなかった。

 

「でも海軍の特別募集で運良く合格して初めて宮殿に来ることが出来ました!」

 

「それはよかったな」

 

王室保安軍保安隊、王室海軍、スターファイター隊、王室宇宙艦隊は兵員増強の為にシードから地方の町村に至るまで各地で徴兵と将校への募集を掛けていた。

 

この三尉はたまたま将校の募集に合格したのだろう。

 

一尉はもうだいぶ前から王室保安軍に勤めていたが最近は彼のような新兵や新任将校が圧倒的に増えてきた事を感じていた。

 

「それで君の直属上官殿はどこにいる?」

 

「えっともうすぐ…」

 

「遅くなった!…ってそんなところで何をしているんだ?」

 

噂をすれば、三尉の上官と思わしき人物が右の通路から姿を現した。

 

王室海軍の一等海尉だ。

 

雰囲気や顔の皺からして恐らく一尉よりも長年王室保安軍に勤めていると思わせた。

 

「任務を終わらせてきた。帰るぞ三尉」

 

「はい、それでは」

 

三尉と一等海尉は一位に敬礼しその場を後にした。

 

一尉も敬礼を返し2人の背中を見送る。

 

2人は一尉から少し離れ他に誰もいないことを確認すると三尉の方が小さな声で耳打ちした。

 

「首尾は」

 

一等海尉はそれに対して「上々」と一言で答える。

 

「こっちもだよ。全部の箇所に爆弾を設置し自動防衛システムをハッキングして少し手を加えた。こっちの端末次第で戦闘可能だ」

 

「流石はジルディール上級中尉殿だ。三等海尉なんて割に合わんな」

 

相棒を褒め称えた一等海尉、のふりをしたジョーレンは軍帽を被り直した。

 

2人はガイルス二佐から貰った王室海軍の制服を着てこのシード宮殿に潜入していた。

 

あまりによく似合っている為そのまま海軍に溶け込みそうだった。

 

「途中でさっきの一等宙尉に絡まれて怪しまれかけたよ。ただおかげで敵司令部の位置を掴めた」

 

「となるとさっきの扉の向こうが玉座の間か」

 

敵司令部と最高司令官の居場所は玉座の間であろうとメンジス三佐から報告を受けている。

 

警備は厳重だろうがその奥には必ず敵司令官がいると。

 

「でも宇宙艦隊所属のあの一尉ですら入れないのなら海軍将校の我々は絶対に入れないと思う。爆発の混乱に乗じたとしてもだよ」

 

「だろうな、司令官の懐刀がメンジス三佐の言った通りの人物ならむしろ玉座の間全体が封鎖されて鉄壁の防御体制に移行するだろうて」

 

既に見えただけでも衛兵が2人、更に警備兵があの広間だけで一個分隊以上。

 

それだけでも十分な数だ。

 

「じゃあやっぱり通気口からの潜入を?」

 

「ああ、それしかない。幸いにも我々なら入れる」

 

2人はそのまま宮殿内のとある部屋に入った。

 

宮殿に潜入中のスパイ達が用意したこのスペースには彼らが持ってきた多くの武装やアーマー類が保管してあった。

 

部屋に入ると自動的にドアのロックが掛かり中には誰も入れないようになる。

 

軍帽を脱ぎ捨て急いでアーマーと戦闘服に着替え始めた。

 

ブラスター・ライフルを手に持ちヘルメットを被る。

 

彼らの準備は万全だ。

 

コムリンクを開いて本隊に通信を取った。

 

「救出チーム、用意は」

 

『こちらの準備万端です』

 

その返答だけで十分だ。

 

コムリンクを切りジョーレンは持ち物をスイッチに持ち替えた。

 

このスイッチが押される瞬間、この作戦は始まる。

 

同時にナブーの命運を決める戦いがスタートするのだ。

 

 

 

 

その日、シード宮殿は市街地からも見えるほど光と市街地からも聞こえるほどの轟音に見舞われた。

 

煙が吹き出しシード市民はその音と後継に動揺の声を上げた。

 

普段は市街地の方が危険だというのに。

 

シード内に展開する保安隊員達は本隊や宮殿本部に通信を取った。

 

兵士達も皆混乱し部隊長やシードで指揮を取る大隊長クラスの指揮官達も皆指示に困っていた。

 

一方の宮殿内は阿鼻叫喚といった有様である。

 

突如何かの装置が起爆し兵舎や宮殿の防御施設に大きなダメージを与えた。

 

隔壁システム、通信システム、対空システム、最終防衛システムなど様々な宮殿内の設備が破壊された。

 

外壁や柱が崩落し即死した保安隊員の遺体や重傷を負った隊員がそこら中に転がっていた。

 

生き残った隊員や二次災害や第二の爆発を警戒しながら負傷兵の救護と回収に動き出した。

 

さらに手の空いた者は武器を手に取って戦闘配置に着き生きている機器を駆使し宮殿内や都市部に救援を求めた。

 

幸い地下施設や監房室に駐屯していた兵員は殆どが無事でありすぐに救援に駆けつけた。

 

重火器や医療器具を手に持ち半数以上の保安隊員や在中していた水兵、宇宙艦隊の乗組員が上階に駆け上がる。

 

「急いでバクタをくれ!!手持ちの装備じゃ応急処置が限界だ!」

 

「こっちも頼む!」

 

「こっちもだ!早くしてくれ!」

 

瓦礫の中で多くの隊員と役人が負傷兵の救護に当たり駆けつけた保安隊員達も彼らを助けた。

 

バクタ液の入ったスプレーや注射器を手に取り保安学校で習った通りに適切な治療を施す。

 

かなり酷い傷を負っている者は皆簡易担架に運ばれて地下の医療施設に連れられた。

 

「鎮痛剤を、後コルト放射器をとってくれ。この傷ならコルトで十分だ」

 

「了解」

 

「負傷兵の介護は衛生隊に任せて我々は襲撃者捜索に向かうぞ!」

 

1人の宮殿警備隊長が隊員達に命じて部隊を動かす。

 

2人から3人のユニットが宮殿内に散開し警備と偵察に出る。

 

全員がCR-2ブラスター・ピストルかE-11ブラスター・ライフルを装備しており完全な戦闘体制だった。

 

「クリア、敵影及び危険物なし」

 

『第二階層保管室、こちらもクリア』

 

『こちらも敵影なし。生存者の避難活動を開始します』

 

コムリンクを介して情報が交換され各部隊の状況が明確化される。

 

どの部隊も未だ敵との遭遇はなし、非戦闘員の避難も行えるほど戦闘の兆しはなかった。

 

「もしかしたら爆弾を仕掛けたやつは自分の爆弾に巻き込まれてぶっ飛んじまったのかもな」

 

1人の保安隊員が軽口を叩けるほど辺りは静かだった。

 

「バカ言うな。とにかく奥に進んでさらに捜索するぞ。もしかするとまだ生存者が残っているかもしれない」

 

「了解」

 

CR-2ブラスター・ピストルを構え3人の保安隊員が前進する。

 

すでにドアはシステムの損傷により開かず隊員達はそれを無理矢理こじ開け奥に進んだ。

 

瓦礫が足元に散らばり破片の砂埃が空気中を漂っている。

 

芸術的なシード宮殿も紛争の時代のような有様だ。

 

「敵影は…なさそうで…グッ…!」

 

「おい!」

 

隊員の1人が突如飛んできた赤い光弾に撃たれ地面に倒れた。

 

生き残った2人の保安隊員は片方が撃たれた隊員を引きずり近くの物陰に隠した。

 

同じように2人が物陰に隠れる中保安隊員を襲った光弾は更に威力を増して放たれた。

 

赤い光の弾が生者を全て一掃しようと建物を削りながら弾丸をばら撒く。

 

「自動防衛システム…!?なんで起動してるんだ……それにどうして…」

 

「わかるもんか…!クソッ!」

 

CR-2の引き金を引き応戦するも敵方の勢いの方が強く保安隊員は身を隠す他なくなった。

 

このシード宮殿にはいざ敵軍が内側にまで攻め入ってもいいようにいくつかの自動防衛兵器を備えている。

 

ソルーナ女王時代はまだなかったのだがクリース宙将の統制下ではシード宮殿内もより武装された。

 

むしろクーデターでナブーを手に入れたクリース宙将からすれば宮殿内の警備を厳重にするのは当然の帰結である。

 

外部に対して強力な“最終防衛装置”があるシード宮殿だが内側には特にこれといった施設はない。

 

防衛も保安隊員を総動員して簡易的なバリケードを作り死守する他ない。

 

それでは“裏切り者”が出た時に対処のしようがない。

 

帝国軍から仕入れた武器類の一部を自動防衛システムに組み込みシード宮殿内の防衛と自らのような反乱分子が組織的に反抗した際の対抗装置とした。

 

きっとこの装置がもっと早くに考案されていたらクリース宙将達ももう少し苦戦していただろう。

 

今のように。

 

ブラスター・タレットが高火力を撃ち出しながら保安隊員達を足止めする。

 

「チッ!なんとかしないと……おい!来るな!」

 

味方の隊員の姿がチラリとドアの隙間から見えた為保安隊員は思わず大声を出して静止する。

 

しかし声を上げた時にはもう手遅れで接近してきた3人の保安隊員達は皆自動防衛システムの牙の前に斃れた。

 

目の前で撃たれる仲間を前に彼らはどうすることも出来ない。

 

下手すれば自分達が撃たれてしまう可能性があった。

 

すると各所からも救援を求める声が響く。

 

『今すぐ救援かシステムを復旧してくれ!暴走した自動防衛兵器が我々を攻撃している!』

 

先程二階の保管室の安全を確認した部隊からの通信だった。

 

安全を確認した時とは違いコムリンクの奥から銃声の音が聞こえ報告する隊長の声も焦りを帯びていた。

 

向こうでもこちらと同じように自動防衛システムの襲撃を受け捜索が停滞している様子だ。

 

『こっちも援軍を要請する!』

 

『我々は隊の半分がやられた!負傷兵だらけだ!』

 

「我々も隊員1名と後方から来た3名が負傷した。今すぐ援軍を頼む!…………チィ!一体どうなってるんだ!クソッ!」

 

コムリンクを切り隊員はそう悪態をついた。

 

だがこの攻撃の当事者にとってはその“()()()()()()()”という混乱を誘発することこそが成功だと思っていた。

 

事実、爆発により多くの保安隊員が死傷し警備と捜索の為に地下施設や監房室から兵員が引き抜かれた。

 

更には自動防衛システムの暴走により部隊に更なる負傷者と停滞が生じ突破の為により多くの兵員が必要になるだろう。

 

だが今市街地から兵員を向かわせることでは出来ない。

 

再び抵抗組織の襲撃に遭いシード内に出回っている全ての保安軍は鎮圧に回されシード宮殿に迎える者はごく僅かとなった。

 

結果的に兵員の展開源をより地下に依存する事となる。

 

揺動としては大成功だとジェルマントジョーレンはボロボロのシード宮殿を進みながらそう思った。

 

「おいあれはてきへ…!」

 

「まて…!」

 

2人に気づいた保安隊員をジョーレンが容赦なくブラスター・ピストルで撃ち殺す。

 

彼らを止める者はもう他にいない。

 

2人はそのまま予定していたルートを目指しひたすらに走った。

 

「目の前のあれ!大型の通気口を伝っていける!」

 

「よし!お前から先に登れ!」

 

ジェルマンはブラスター・ライフルを下ろし肩からぶら下げた状態にするとそのままの勢いで壁のへこみに足を掛け力を込めて登った。

 

そのまま両腕を突き上げ指を掛けられそうな壁の出っ張りを掴む。

 

ポケットからブラスター・ピストルを手に取り通気口の入口を無理矢理こじ開けた。

 

発砲音と共に火花が飛び散り大穴が開く。

 

「行ける!」

 

ジェルマンはそのまま通気口の中に入り暗闇を進んでいった。

 

辺りを警護していたジョーレンもすぐその後を追い同じように通気口の中へと入っていった。

 

流石に明かりの一切ない通気口の中は暗すぎる為彼らはヘルメットに付けた小型のライトを点灯した。

 

これでかなり先までよく見える。

 

匍匐前進の様相で2人はゆっくり確実に目的地に進んでいく。

 

まさかレジスタンスの情報部員と特殊部隊員が宮殿の通気口を匍匐前進して進んでいるとは誰も思わないだろう。

 

「後、どのくらい進めばいいんだ」

 

「一箇所だけ触って分かる程度に素材が違う面がある。そこが出口だ、爆発物を投げて一気に降りるぞ」

 

「分かった」

 

2人はそれ以降会話も殆どする事なく静かに前に進んだ。

 

声を出せば怪しまれたりバレたりする可能性が高まる。

 

耳を澄ませばあちこちで銃声を人の声が聞こえてきた。

 

どれも助けを呼んだり撃たれて倒れる断末魔の声ばかりだ。

 

彼らに同情が湧かないわけではない。

 

特にまだ若く経験の比較的薄いジェルマンは余計にだった。

 

しかしこれは任務であり必要な事だと割り切らざるを得ない。

 

こうでもしないと罪のない人々が下で苦しんでいる兵士たちと同じ目に遭う。

 

いや、もう既に遭っているのだ。

 

第三帝国の間の手によって。

 

このナブーだってそうではないか。

 

そうやって割り切り冷徹に作戦成功に全力をかける他なかった。

 

通気口に入ってから暫くしてジェルマンはようやく出口を見つけた。

 

ジョーレンの言う通り確かに一箇所だけ触り心地が違うものがあった。

 

ライトを照らしよく見るとそれはこの通気口に侵入する際にジェルマンがブラスター・ピストルで撃って壊した部分によく似ていた。

 

「見つけた…!」

 

その一言に「よし、やれ」とジョーレンが命ずる。

 

ゆっくり静かに出口を開き爆弾を投擲出来る隙間を開ける。

 

十分なサイズだと確認出来たジェルマンはピンを引き抜きインパクトグレネードを下に投げ入れた。

 

爆発音が聞こえ辺りに破片が飛び散った様子が少しだけ見える。

 

2人は「十分だ」と頷きジョーレンを先頭にそのまま通気口から抜け出た。

 

A300ブラスター・ライフルを構え周囲の安全と敵影を警戒する。

 

更にジェルマンも降り立ち2人は背中を合わせながら辺りを警戒した。

 

「クリア」

 

ジョーレンのその一言と共に2人は一気に扉まで近づく。

 

この先を越えればすぐに玉座の間に辿り着ける。

 

敵将を最も簡単に暗殺出来るのだ。

 

「俺はブラスター・ピストルに持ち替える。周囲の敵兵掃討はお前がやってくれ」

 

「了解」

 

ジョーレンはA180ブラスターのピストルモードに持ち替え両手で構える。

 

ジェルマンもそれに感化されてA280-CFEブラスター・ライフルを握り締めた。

 

「行くぞ」

 

彼の合図と共にドアが開きジョーレンはその隙間からA180の銃口を突き出し真っ直ぐ玉座のある場所に狙いを定めた。

 

更にドアが開きジョーレンはそのコンマ0.何秒の隙間に銃弾を叩き込んだ。

 

三発のブラスター弾が一瞬のうちに放たれ玉座に座る者を撃ち殺して“いただろう”。

 

弾丸はジョーレンの驚きの顔を表すように目標に命中する事なく近くの壁に全てぶつかり消滅した。

 

何せ玉座どころか玉座の間には誰もおらず暗殺対象のターゲットがその場にいないからだ。

 

玉座の間はもぬけの殻であり将校どころか警備兵すらいなかった。

 

「誰もいない…?そんな馬鹿な!?」

 

2人は急いで玉座の間に駆け出し辺りを見回した。

 

だがどこを見ても人はいない。

 

背後に大きなシーヴ・パルパティーンの肖像画が飾られ無駄に整った綺麗な玉座の間に相応しい光景が広がっているだけだった。

 

「嘘だろ…?そんな馬鹿な…」

 

「もしかして……嵌められたのか…?」

 

ジェルマンの予測を否定出来るほど今の状況は芳しくない。

 

明らかにかなり前からこの玉座の間には誰もいない様子だ。

 

ついさっき逃げ出したのならこの場所はもう少し荒れた様相のはずだ。

 

されど一回綺麗に掃除でもされたかのように玉座の間は美しいままだった。

 

そんな彼らに更に不幸な通信が届く。

 

それは女王救出の為に監房室を攻撃しているメンジス三佐らの特殊部隊からの通信だった。

 

ジョーレンがコムリンクを開き「どうした!?」と慌てて声を掛ける。

 

『少佐!こちらは監房室に到着し全区画を開放したのですが“女王陛下のお姿が見当たりません”!!それどころか囚人1人いないもぬけの殻です!』

 

ジェルマンの予測はこの時点で完全に立証されていた。

 

彼らは嵌められたのだ。

 

その事実を込めてジョーレンは弱々しく口を開く。

 

「やられた……どうやら俺たちはノコノコと蜘蛛の巣の中に迷い込んだらしい」

 

彼のその言葉が言い終わった瞬間玉座の間は侵入者を存在を告げる警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国領 アウター・リム・テリトリー オジョスター宙域 ウェイランド星系 惑星ウェイランド ウェイランド・ミディ=クロリアン研究所-

ウェイランド研究所は名目上100%の稼働率を有していた。

 

各地の収容所及び帝国アカデミーから送られてきた“()()()()”と“()()()”は順調に育成され実験が行われている。

 

彼らが第三帝国から要求された事は大きく分けて二つあり最終的に二つの目標は密接にある一つの目的を成功させる為に行われていた。

 

一つはミディ=クロリアンの人為的な培養、生産だ。

 

ミディ=クロリアンという共生生物を人為的に培養することに成功すればそれは大きな発展に繋がる。

 

その過程で“フォース”というものの核心に迫れるかもしれない。

 

そしてもう一つは他者のミディ=クロリアンを人為的に他者へ移植することであった。

 

フォースとは体内に共生するミディ=クロリアン値が高ければ高いほど反応を示しその超人的な力を与えてくれる。

 

ならばだ、他人のミディ=クロリアンを他人へ移植することが出来れば元の値が低い人間であっても強制的にフォース感受者と変貌させる可能性を秘めていた。

 

たとえば細胞ひとつに2,500程度のミディ=クロリアンを持つ人間であっても同じミディ=クロリアン値を持つ5人の人間からそれぞれ500ずつ移植し死滅する事なくなじめばそれだけで5,000のミディ=クロリアンを持つ人間となる。

 

無論細胞ひとつでは意味がない為同じような行為をもっと拡大して大規模に実行するのだがこれだけでフォースとの交信は十分可能でフォース感受者へと変貌するのだ。

 

そしてミディ=クロリアンが人為的に培養出来るようになれば移植と組み合わせて人為的にフォース感受者を大量に生み出すことが出来る。

 

つまりフォースを兼ね備えた兵士を人為的に生産する事が可能になるのだ。

 

そうなれば第三帝国は今までよりも強大な兵士を手にしその能力で全ての敵対勢力を圧倒する事が容易となる。

 

トレードチップ計画(Project-Tradechip)の持つこの恐るべきフォース感受者戦士の製造計画の研究がこの地で行われているのだ。

 

「被験体2-11の成長度はあまり芳しくありません。移植したミディ=クロリアンの半数が既に彼の体内に適応出来ず死滅しています」

 

「だろうな、土台上手くいく訳ないんだ。ミディ=クロリアンの強制移植なんて」

 

コンソールをタップして報告書を書きながらヴォーレンハイト少将は部下の研究員の報告に答える。

 

少将は研究員に目も合わせず返答も冷たい声音だった。

 

「でも現に上手くいってる非検体だっているじゃないですか。“()()()()()()()()()”とか」

 

研究員はヴォーレンハイト少将の返答に軽口を浮かべるように例題を挙げた。

 

彼の名前を出した瞬間ヴォーレンハイト少将の白髪混じりの眉毛がピクッと動く。

 

ただそのことに研究員は気づいていないようだが。

 

「ブルクハルトは……彼は元より感受性が高い上に他者のミディ=クロリアンであっても適用率がかなり高い特別な存在だ。他とは比べ物にならない」

 

ブルクハルト・オットー・フューリナー、あのフューリナー上級大将の子はかなり特殊な体質と目されていた。

 

そもそも“()()()()”自体が特殊である為それも要因に含まれているかもしれない。

 

今の所彼だけが唯一の成功例と言っても過言ではない。

 

むしろ実験規模に比べてその結果が振るわないと言った状況だ。

 

殆どの場合が失敗、もしくは長期的な維持が不可能となり大抵の場合が移植したミディ=クロリアンが上手く共生出来ない。

 

その度その度に被験体は原因不明の苦痛に襲われ苦しむ事となる。

 

ヴォーレンハイト少将はそのような子供達にも真摯に向き合いひたすらに謝罪の言葉を述べているのだが他の研究員や将校たちからすればどうでもいい話だ。

 

「あの子が苦しみ出したらまた呼んでくれ。バイタルチェックと精神状況を直接診る」

 

「はい、わかりました。後バクタ医療剤の追加発注とバクタ・タンクの増設ですが上にどう報告します?対レジスタンス戦も激化すると思うのでバクタもタンクも増設は難しいと思いますが」

 

このウェイランド研究所には実験によって傷を負った被験体や実験材料を素早く治療する為に多くのバクタ施設があった。

 

元々設計では現在の規模より小さかったのだがヴォーレンハイト少将の強い進言によって更に増設された。

 

「材料とはいえ全員平等に貴重なフォース感受者だ。そうそう簡単には死なせられん、この研究はやがて実戦にも持ち出される重要な代物だ。強く推せばシュメルケ元帥殿辺りがわかってくれる」

 

「わかりました、ではそのように。これにて失礼します」

 

「ああ」

 

研究員は資料を纏めその場を後にした。

 

人気がなくなったのを確認するとヴォーレンハイト少将は小さくため息を吐き再び報告書の作成に注力した。

 

全て詭弁、されど必要なことだ。

 

ヴォーレンハイト少将は収容所から連れてこられたエイリアン種族達をここでなるべく殺してほしいという親衛隊上層部の思惑を重々承知している。

 

彼らにとって最も忌むべきなのはレジスタンス以上にエイリアン種族と近人間種族だ。

 

病的なほどの憎悪は猟奇的な収容所、絶滅行動へと親衛隊を走らせた。

 

されどヴォーレンハイト少将の力では今の親衛隊を止めることが出来ない。

 

それはきっと少将よりも上の位の者ですらそうだろう。

 

おそらくはフューリナー上級大将やシュメルケ元帥もだ。

 

だからこれは本当に小さな反抗かもしれない。

 

エイリアン種族や近人間種族であろうと平等に扱い命をなるべく救う。

 

この収容所で唯一ヴォーレンハイト少将だけが彼らを1人の“()()”として扱っているとされるほどである。

 

こんな非人道的な実験をしているのにそのような偽善じみた行動をと多くの常識者達は思うはずだ。

 

だがそれは半分正解で半分不正解であった。

 

このような偽善じみた行為で目の前の消えかけた命を救い人として接していないとヴォーレンハイト少将の心はもう持たないところまで来ていた。

 

彼ら彼女らをひたすら実験の材料や被験体として考え今のような実験をひたすら繰り返していてはヴォーレンハイト少将の心が罪の意識に押し潰され壊れてしまう。

 

鉄の仮面を被ろうとすれば狂気に取り憑かれる前に心が破壊されてカスパー・ヴォーレンハイトという1人の人間が人間としての心を失ってしまうのだ。

 

既に日々の生活でも何かの拍子に手が震え実験の後は吐き気を催し隠れて吐いていた。

 

食事が基本喉を通らないので宇宙軍御用達のレーションで済ませている為吐き出されたものは少ないし何かが残ったような感触を感じ後味は悪い。

 

何せいくら吐き出そうとしても自分の行った行為とそれからくる罪悪感は吐き出せないからだ。

 

そうして罪を溜め込みここまでなんとか来た。

 

傲慢だということは当人も自覚しその度に自らを殺そうと何度も思った。

 

これだけの実験をしておいて、幼い子供達に痛みと恐怖を与えておいて1人だけ心が壊れてしまいそうになるだなんて傲慢で最低で下劣なものだ。

 

知っていることを大きな声で誰かに伝えないのは保身からだと知っているし非人道な実験をおこなっていることに変わりはない。

 

結局は傲慢で偽善の悪魔であると自覚していた。

 

しかし過去にあるトラウマと未だ心に残る良心が彼にしっかりとその分の罰を与え罪から逃れないよう縛り上げた。

 

ヴォーレンハイト少将の心と行いは壊れはしなかったがどんどん歪んでいった。

 

故にこのウェイランド・ミディ=クロリアン研究所は第三帝国の中でも最も非道な実験を行いながら所長が自ら被験体や実験材料の精神ケアを行うという歪んだ体制を作り出していた。

 

そこに善とか悪とかがあるのか、もう分からない。

 

ヴォーレンハイト少将のそのような価値観は殆ど死に絶えているようなものだし他の研究員も皆倫理観が欠如した者が大半だ。

 

親衛隊の警備員らも皆「祖国の為だから仕方ない」と割り切るよう促すだろう。

 

一言だけ言えるとすればヴォーレンハイト少将はこの歪んだ場所から当分は逃れられないということだ。

 

彼はもう暫く正気を保ちながら狂気に触れ続けなければならない。

 

それがヴォーレンハイト少将にとっての罪であり罰となるからだ。

 

「…正気じゃないな、私も、銀河も」

 

独り言を呟きながらコンソールをタップしていると彼の左隣から小さな男の子の声が聞こえた。

 

「少将、そろそろ散策の時間です」

 

ヴォーレンハイト少将が振り返るとそこには金髪で同じような色をした綺麗な瞳を持つ美形の男の子が白衣の裾を引っ張っていた。

 

一体いつからそこにいたのか、ヴォーレンハイト少将は気づかなかった。

 

ブルクハルト、この子は本当に底が見えず故に特別な存在である。

 

「もうそんな時間か……すまない、ブルクハルト。今から準備するからもう少し待っていてくれ」

 

「わかりました」

 

ブルクハルトは小さく微笑んで戻っていった。

 

少将もひとまずデータを保存し椅子から立ち上がる。

 

ブルクハルトも随分とヴォーレンハイト少将を慕っているようになった。

 

シュメルケ元帥に連れてこられた頃の彼はまだこの世の全てが敵のような有様で今のように暖かい声音で話してくれることはなかった。

 

まだ硬い面はあるが今のようにヴォーレンハイト少将を呼びに来てくれることはなかった。

 

嬉しい反面、こんな罪人にあまり慕ってほしくないという気持ちもある。

 

「はあ……私は一体いつまで過ちを繰り返せばいいんだろうな」

 

ヴォーレンハイト少将はそう言って白衣を脱ぎ捨てコートを取った。

 

ブルクハルトとの散策の時間だ。

 

 

 

 

 

玉座の間に繋がる中央のドアが開き一斉にDTL-19やE-11を装備した最精鋭装備の保安隊員が玉座の間に突撃する。

 

ブラスター弾が飛び交いあっという間に広間を制圧してしまった。

 

「あそこに敵がいるぞ!撃て!」

 

指揮官のハウント三佐は隊員達を指揮しながら敵の位置を見つけ指示する。

 

一斉に人影へブラスター弾が放たれ外れた弾丸が玉座の間のガラスを撃ち破り破壊した。

 

「チィ!一斉に来やがった!」

 

ジョーレンはA300ブラスター・ライフルで応戦し2人ほどの保安隊員に直撃を喰らわせたが全然数が減らない。

 

ロックしている間に簡易的なブラスター・タレットを設置し少しでも火力を増強しているのだがそれでも2人だけでは全然人が足りなかった。

 

ジェルマンも左の階段から迫る保安隊員をA280-CFEで狙撃し1人を撃ち倒す。

 

倒された保安隊員はすぐ仲間に連れられ救護を受けていた。

 

「このままじゃまずい!」

 

2人が銃撃する度に保安隊員達はその倍の威力で反撃の嵐を繰り出してきた。

 

タレットも合わせて彼らは既に5人ほどの敵兵を撃ち倒しているがそれでもまるで数は減らない。

 

むしろ更なる増援が控えているようで倒せば倒すほど次の部隊が送り込まれてきた。

 

更にはライオット・シールドや小型の携帯用シールドを使い攻撃を防ぐ手立ても行っている。

 

「早く脱出しないと!」

 

ジェルマンはそう言うがこの状況での脱出はかなり困難だ。

 

何せ出口が殆どない上に少しでも攻撃の手を休めれば敵軍の一斉射撃を喰らう。

 

「分かってる!」

 

ジェルマンはA280-CFEを冷却しながら息を整える。

 

彼の視界にその時あるものが入った。

 

冷却が終わり再び応戦を始めた瞬間ジェルマンは何かを思い付き隣でインパクト・グレネードとサーマル・デトネーターを投げつけるジョーレンに伝えた。

 

「ジョーレン!!脱出しよう!!窓から!!」

 

「何!?窓から!?」

 

ジョーレンは急いでジェルマンが指差す方を見た。

 

的を外れたブラスター弾が次々と窓に着弾しガラスを完全に破壊している。

 

ジョーレンは経験則からすぐにジェルマンの伝えたい意図を導き出した。

 

「パラシュートかケーブル・ガンを持ってるか!?それだけで十分だ!」

 

「両方持ってる!」

 

「ならお前から行け!ケーブル・ガンの方で!」

 

「分かった!」

 

ジェルマンは低い姿勢のまま一気に窓の近くに接近しA280-CFEにアセンション・ガンを取り付ける。

 

その間にジョーレンはジェルマンの脱出を支援しようとA180をブラスター・ライフル・モードに転換し二丁銃の態勢で敵を攻撃した。

 

敵兵はあまりの集中火力によりジョーレンから目を離すことが出来なくなった。

 

「あそこに脱出しようとしている奴がいるぞ!撃て!」

 

ハウント三佐がジェルマンを撃つよう命じたが撃たれたのは三佐の方であった。

 

ジェルマンを攻撃する者は徹底的に撃ち倒された。

 

ジョーレンが支援する中ジェルマンはケーブルを壁に撃ち込み壊れた窓から脱出した。

 

ケーブルを伸ばしながら下へ、下へとゆっくり降りていく。

 

『よし!降りれた!』

 

コムリンクからジェルマンの声が聞こえジョーレンも離脱を開始した。

 

スモーク・グレネードを投擲し敵の視界を遮る。

 

精密射撃が不可能になった相手の保安隊員達は階段を登り玉座の間に更に接近しようとしてきた。

 

しかし彼らはまず第一の罠に引っかかる事になる。

 

ある1人の保安隊員が階段を数段登った瞬間突然周囲を巻き込んで爆発を起こした。

 

それは反対側の階段でも同じことが起こっていた。

 

2回の爆発により多くの保安隊員が死傷し一旦進軍は停滞した。

 

その隙にジョーレンはジェルマンと同じようにケーブルを撃ち込みゆっくりと降りながら玉座の間を離脱した。

 

「結局何の成果のなしだったな」

 

ケーブルを切り離しジョーレンはアセンション・ガンをポケットにしまう。

 

代わりにブラスター・タレットの自爆スイッチを押す。

 

これで相手が得るものはもう何もないはずだ。

 

「これからどうすれば……」

 

屋根の上でジェルマンは弱々しく尋ねた。

 

「女王の救出を続行するしかない。恐らく女王は我々が“()()()()()()()()()”にいるはずだ」

 

「まさか軌道上の艦隊のどこかに…?」

 

ジェルマンは上を見上げた。

 

確かにジョーレンの推測は一番女王の居場所に近いと思う。

 

地上の海軍基地や保安隊基地、スターファイター隊基地では奇襲攻撃が可能だ。

 

だが軌道上の艦隊ならどうだろうか。

 

少なくとも現状の王室解放軍の戦力では到底救出は無理だ。

 

何せ艦隊に乗り込む術どころか宇宙に行ける機体すら少ない。

 

仮に乗り込んだとしても主力艦艇は何十隻もいる為どこにいるのか分からない。

 

更には艦隊同士の連携や兵員支援も容易に行えるので乗り込む側の部隊はかなり不利となる。

 

それに宇宙艦隊はクリース宙将の直轄である為信頼出来る精鋭達がごまんといるだろう。

 

最も安全で最も信頼のおける移送地だ。

 

「クリースという人物ならきっと自分の乗艦、艦隊の旗艦にするだろう。その上で他の艦を交えて相手を惑わし鉄壁の防御を構築しているはずだ」

 

「じゃあ船かスターファイターが必要になる。どこから手に入れる?」

 

「そんなの決まっている」

 

ジョーレンは指を差してその場所を言う。

 

「王室の宮殿格納庫、ここなら少なくとも宇宙へ行ける代物があるはずだ」

 

ジェルマンも小さく頷き2人は屋根の上を走り出した。

 

その間にジョーレンはコムリンクを開きメンジス三佐達に連絡を取った。

 

「今どうなっている!?」

 

『敵部隊に包囲されかけています!ひとまず監房室からは脱出しましたが…!』

 

「ならなるべく急いで宮殿格納庫まで来てくれ。我々はそこで船か戦闘機を奪って敵艦隊に乗り込む!」

 

『女王はそこにいるのですか!?』

 

「確証はないが可能性は一番高い!とにかく離脱の為にも船が必要だ!何とか頼むぞ!」

 

『了解……!』

 

通信を切りジョーレンは「あの草陰に飛び降りるぞ!パラシュートを使え!」と指示を出す。

 

2人は勢いよく屋上から飛び降りパラシュートを開いた。

 

ゆっくりと地上に落下しパラシュートの切り離しと共に草陰の中に入った。

 

急いでブラスター・ライフルを手にし戦闘に備える。

 

「おい、今何か落ちた音がしなかったか?」

 

近くを通りがかった保安隊員が相方の保安隊員に軽く尋ねた。

 

しかし「気のせいだろう」と軽く流されてしまった。

 

2人の保安隊員はそのまま近くに停泊しているフラッシュ・スピーダーに乗り込んだ。

 

「急いで格納庫に行くぞ。イェアル保安隊長から警備を命じられた」

 

「了解」

 

会話を聞いたジョーレンは「あれに潜むぞ……!」と草陰から飛び出し2人とも発進する前のフラッシュ・スピーダーの荷台に飛び乗った。

 

少し大きな衝撃を与えてしまったがちょうどエンジンが掛かっていたことによりかき消された。

 

スピーダーはそのまま会話通り保安隊員2人とジェルマンとジョーレンを乗せて宮殿格納庫まで到着した。

 

フラッシュ・スピーダーを停泊させ2人の保安隊員は警備の任についた。

 

「…思ったより少ないな…」

 

格納庫の様子を眺めながらジョーレンはそう呟いた。

 

本来全機が停泊しているはずのN-1スターファイターシリーズの格納スペースも半分が空になっていた。

 

思いの外シャトルや輸送機も少ない。

 

「でもあれなら使えそうだ」

 

ジェルマンは真ん中で多くの整備兵達に囲まれながらパーツの交換や弾薬の補給を受けている1機のシャトルを指差した。

 

「あれはボマー……いやTIEのボーディング・クラフトか。何でこんなところに」

 

TIEボーディング・クラフト、TIE/brボーディング・シャトルとも呼ばれるこの機体はTIEボマーに限りなく似た形状の兵員輸送機だ。

 

基本的には他のTIEファイターと同じくこの機体も帝国軍や元帝国軍が使用している。

 

「重火器やE-11と同じで支援として受け取ったんだろう。そう遠くない日に問題なくTIEシリーズの機体も使えるようにって」

 

「なるほどな……だが我々としては好都合だ。他の旧型の機体よりもあれなら良くも悪くも最新鋭で性能が高い。あれを奪うぞ」

 

2人はゆっくり、ゆっくりと回り込みながらTIEボーディング・クラフトに近づいた。

 

周囲には多くの保安隊員が警備の為周回していたが物陰に隠れながらやり過ごす。

 

途中で1人の保安隊員に見つかり始末したということもあったが。

 

ドロイドや輸送用のホバー・クラフトに隠れながら2人は船体の影に隠れた。

 

「ハッチが開いている、今なら潜入出来る」

 

「ああ……救出チーム、そっちはどうだ?」

 

コムリンクを開き周囲を警戒しながら小声で尋ねる。

 

『何とか……なんとか追手を巻いて今格納庫のすぐそばまで向かっています…!』

 

「分かった、こっちで今帝国式のボーディング・クラフトを乗っ取る。そいつでひと暴れするからそっちも船を見つけて離脱しろ。女王は我々で必ず救出する」

 

『わかりました…!』

 

コムリンクを切りゆっくり、静かにTIEボーディング・クラフトのハッチに近づく。

 

周りの物音や呼吸、風の流れに同化するように動く2人に気づく敵兵は誰もいなかった。

 

2人は一気にハッチを渡りコックピットまで向かった。

 

ジョーレンが席につき機体のシステムを起動する。

 

急いでハッチを閉じ出撃できるよう各種機能を確認する。

 

「動かせるか!?」

 

「あったりまえだ。TIEなんてどれだけ乗り回したか…」

 

モニターのパネルが光り機体の状況をコックピットに座るパイロットへ教えた。

 

ケーブルや安全装置の装着を知らせこのままでは発進出来ないと小さな警報を鳴らした。

 

「こっちからロックを解除出来るのか」

 

解除スイッチを押すとTIEボーディング・クラフトを固定していた安全装置が外れ機体が少し浮遊した。

 

だがそれは当然機体の異常を外の保安隊員達に気づかせる原因にもなる。

 

「おい!シャトルが起動しているぞ!どうなっている!?」

 

「中に誰かいる!誰だ!」

 

「早く機体を戻せ!聞こえてんのか!」

 

整備兵や集まってきた保安隊員達にヤジを飛ばされブラスター・ライフルを向けられる。

 

だが敵に戻せと言われて戻す兵士は卒業前の候補生だろうと存在しない。

 

ジョーレンは言われた事と反対に機体の出力を上げて一気にTIEボーディング・クラフトを浮上させた。

 

周囲の整備兵達が動揺の声をあげながら周りに飛び散り保安隊員達は「うっ撃つぞ!」と牽制し続けている。

 

機体を飛ばそうと操縦桿を前に倒すが機体にまだ繋がっているケーブルなどが邪魔をして引き離せない。

 

「出力を上げてブチ切ろう!」

 

「ああ…!」

 

エネルギーをエンジンと速力に優先的に回し再びペダルを強く踏み締める。

 

一気にパワーを発揮したTIEボーディング・クラフトは繋がれたケーブルを二、三本打ち切り少しの自由を手に入れた。

 

そのまま回転しつつ再びペダルを踏み残された三、四本のケーブルを同じように引き千切った。

 

断ち切られたケーブルからは火花が溢れ地面に落下する。

 

ボーディング・クラフトの方にも千切られた残りがついたままで機体が少し移動する度にヒラヒラとケーブルも動いていた。

 

「よぉしやった!このまま連中を蹴散らす!」

 

浮遊するTIEボーディング・クラフトに保安隊員達は次々と手持ちの武装で攻撃する。

 

赤色と黄緑色のレーザー弾がTIEボーディング・クラフトを狙って放たれ何発かが機体の一部分に着弾した。

 

装甲が火花を撒き散らし黒い煤を残す。

 

致命的な損傷ではないがこのような攻撃が連続すると当たりどころによっては大破する可能性もある。

 

それに後からくる味方の為にもここで警備の保安隊を撃滅しておくに越したことはない。

 

ジョーレンは敵の密集地帯を狙って武装にエネルギーを溜め操縦桿の引き金を引く。

 

TIE特有の黄緑色のレーザー弾が放たれ保安隊員達が隠れていた装備の箱の束ごと吹き飛ばした。

 

爆発の火花が飛び散り保安隊員達が巻き込まれ倒れた。

 

当たれば即死、当たらなくとも戦闘不能にまで追い込める圧倒的な火力だ。

 

保安隊員達はまだ手持ちのブラスター・ピストルかブラスター・ライフルで応戦しているがその効果は殆ど現れていなかった。

 

何人かは急いでブラスター砲を組み上げようとしたがその様子にすぐに気づいたジョーレンが優先的にレーザー砲を叩き出し撃破する。

 

停泊中のN-1スターファイターに乗り込もうとする者も出撃する前にN-1スターファイターごと撃破された。

 

出撃する前の無人のN-1スターファイターもジョーレンが正確な射撃を繰り出し次々と破壊していく。

 

「シャトルは残して!何機か残さないと!」

 

「分かってる!敵の制圧状況はどうだ?」

 

ジェルマンはコックピットから格納庫の様子を見つめる。

 

派手に機体やらなんやらを吹き飛ばしたせいで辺りは散乱としているがその分攻撃の手はもう殆どなかった。

 

「とりあえず大丈夫だと思う!殆どぶっ倒してる!」

 

「救出チーム!そっちはどうだ!?」

 

『今格納庫でシャトルを奪っています!』

 

ジェルマンは通信を聞いて急いでメンジス三佐達を探し始めた。

 

すると一番奥に停泊するナブー王室保安軍のナブー・ロイヤル・リフターに固まる集団を見つけた。

 

装備の良さと動きの良さなども含めて間違いなくメンジス三佐と本来の女王救出チームだろう。

 

「見つけた、あれだ」

 

ジョーレンに報告し彼は再びメンジス三佐達にコムリンクで通信を取る。

 

「先に離脱しろ、我々が最後まで相手の面倒を見る」

 

『すみません少佐……』

 

「いや、我々全員の読みが甘かっただけだ。女王は命に引き換えてでも必ず救出する」

 

『了解…!』

 

通信を切り浮遊し格納庫から発進するロイヤル・リフターとTIEボーディング・クラフトがすれ違った。

 

彼らが完全に安全圏まで離脱したのを見送るとジェルマンとジョーレンを乗せたTIEボーディング・クラフトも後に続くように格納庫から出た。

 

全速力で上へ上へと機体を操り空を駆ける。

 

目指すはナブー王室宇宙艦隊。

 

天空から塞がれたナブーを監視する裏切り者の集団の本拠地。

 

2人はいつものようにこれに乗り込み囚われの女王達を救出するのだ。

 

ナブーの自由と本当の姿の為に。

 

「さっき命に換えてもって言ったけど」

 

「ああ、別に死ぬつもりはない。だが死ぬ気でやるだけだ。お前もそうだろう?俺達は多分、生まれた時から命懸けだ」

 

ジェルマンは小さく微笑み一息ついた。

 

2人の仕事に変わりはない。

 

常に命懸けだし失敗すれば明日はない。

 

それでも誰かがやらなければならない仕事なのだ。

 

ナブーの大空を駆け彼らは挑む。

 

待ち構える敵の猛攻と幾多の罠、それを越えて女王を助け出す。

 

2人の、ナブー王室解放軍の反撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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雷鳴轟く蒼白のこの世界は相も変わらず死人の世界のような様相であり続けていた。

 

地獄、ともまた違う静かで生を感じないこのではある一箇所だけ死の行為を成すために活発化していた。

 

古代の賢者が創りし秘密の地下造船所は今や近代的な技術が加わり人知を超えた存在となる。

 

日夜月日を問わずこの秘密の施設は延々と兵の器を際限ないほど生み出し僅かなうちに軍隊を形成するに役立った。

 

正に“()()()”稼働する殺戮兵器生産工場といったところか。

 

人の手に余るものをこの秘密の造船所は生み出しては吐き出し続けていた。

 

そしてこれらの負物は全てある者達によって管理され始めてここで“軍隊”として形成される。

 

人がいなければ兵の器など無用の長物で、さらにそれを総べる者がいなければ同様に無用の長物となる。

 

されど器が満たされ総べる者がいれば無敵だ。

 

来るものを全て光で焼き尽くし、叛逆するもの全てを遠方から跡形もなく消し去る。

 

それは厄災であり新たな火種だ。

 

そしてその厄災はいよいよ銀河系へと戻ろうとしていた。

 

「ようやく“()()()”が竣工致します。こうすればようやく我々も先遣艦隊の実行が行えますね。“()()()()()()”」

 

軍事執行者(Executor)、帝国宇宙軍元帥、繧キ繧ケ繝サ繧ィ繧ソ繝シ繝翫Ν元帥、渾名“()()()()()”、コルサントヴァント家の当主。

 

彼には様々な呼び名がある。

 

そしてどれも本名である“フリューゲル・ヴァント”に加えて名が呼ばれていた。

 

「長いようで短い日々でしたが」

 

以前から彼の副官を務めているオーデル・ブリッツェ中佐はは感慨深そうに呟いた。

 

「我々も“()()()()”が来た、ということだ」

 

「ですね……ディープ・コアからこの地まで。我々も随分と陽の目を見ないできましたから」

 

フリューゲルの返答に中佐は懐かしみとどこか悲しみを込めて口を開く。

 

彼らは元々この艦を持ってずっとディープ・コアにいた。

 

ここと同じく深い深い闇の底。

 

違う点を挙げるとすればここが銀河の果てであるならディープ・コアは銀河の超中心といったところだろうか。

 

だが人目を浴びないという点では対して変化なかった。

 

「それで、先遣艦隊の編成は変わりなく…ですか」

 

ブリッツェ中佐はフリューゲルに尋ねる。

 

フリューゲルは表情を変えることなく「そうだ」と冷たく返した。

 

以前は表情豊かだったこの顔も今ではすっかり冷徹な人間になってしまった。

 

その青い瞳も束ねられた銀色の髪も全てが彼をより冷徹に見せている。

 

「本来なら主君(Sovereign)級も連れて行きたいのだが……生憎まだ一隻も稼働出来る状態ではないのでな」

 

「それはともかく護衛艦の数が多すぎでは…?数を減らして“()()()()()()()()()()()()()”を増やすことも出来ますが」

 

中佐はそう提案したがフリューゲルは首を振り却下した。

 

「あの艦はまだ未知数で試験運用の段階でしかない。それに“()()()”アレを失う訳にはいかんのでな」

 

ブリッジのビューポートに近づき蒼白の死人のような世界を見下ろす。

 

私達は随分遠くへ来てしまった。

 

コルサントからハンバリン、アナクセスから戦場へ。

 

まだ14だった私が今ではもう、44か。

 

長い、永く居過ぎた。

 

私の人生の全ては戦場にあり、また戦場へ帰ろうとしている。

 

だがそれこそが使命であり我が家に唯一与えられた仕事だ。

 

私はこれから死人のような狂信兵を連れて破滅の厄災を固めた大鎌を震い尖兵として銀河にそれを知らしめる。

 

もう4年は待ったはずだ。

 

ディープ・コアで、“()()()”、次の戦争を待ち続けようやく来てしまった。

 

しかも今度はとびきり狂気に満ちた戦いとなるだろう。

 

この死人世界から銀河へ向け帰還の声を鳴らす。

 

「我々は“()()()”であり、“()()”であり、“()()”であり、“()()”であり、“()()()”だ。軍旗と威武を広げ悠々と凱旋しようではないか。“()()()()()()”を乗せて」

 

フリューゲルは冷たく狂ったように静かに笑った。

 

それは今の自分の姿か、将又この軍隊に対してかそれは自分自身にも分からない。

 

しかしやることはもう変わらない。

 

蒼白の世界に浮かぶく楔を模した矢は既に弓にかけられいつでも放てるようにとめいいっぱい引かれている。

 

本当の脅威はすぐそこまで迫っている。

 

後は号令が為され、思し召しを待ち侘びる狂信兵達が門を蹴破り溢れるまで時間の問題だ。

 

反応に渋る者達よりも先に彼らは銀河へと征くだろう。

 

かつての領地を奪還するかのように、遺産を全て統一していくように。

 

厄災の帰還までもう時間はない。

 

()()()()()”はすぐそこまで迫っていた。

 

 

つづく




私 だ

どうもイノベスキーです

いかがでしょうかワクワクイノベスキーランドは(なんだそれは)

ちなみにイノベツキー・ソユーズとイノベツカヤ・エイトークなんてものもあります

そいではまたいつの日か〜
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