第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「この今も続く無意味な犠牲を止める努力を怠れば、やがて最悪の結果として帰ってくるだろう。そうなれば私は亡くなった全ての戦友やその遺族、妻や両親、子供達に合わせる顔がない。我々は幾千万もの犠牲者とその遺族の意志が共にある。我々の帝国は、我々で守らなければならない」
-国防軍国内予備軍参謀長 マリアス・シュタッフェンベルク地上軍大佐の発言より抜粋-


総統暗殺未遂事件

-第三帝国首都 惑星コルサント 集合的商業地区 通称ココ・タウン-

コルサントの奪還以降とコルサントの奪還以前でコルサントの変化を最も感じる場所といえばこのココ・タウンと呼ばれる工業エリアだろう。

 

まだこの地にジェダイという光明面(ライトサイド)の騎士達がいた時代にはとあるベサリスクがデックス・ダイナーという店を経営していた。

 

旧連邦管区、現在の帝国議会管区にも近く、またズィロ・ザ・ハットの経営する宮殿にも離れておず、労働者も多くいた為特に開かれた店であるデックス・ダイナーには様々な広い人種が訪れていた。

 

時にはこの店に“()()()()”もデックス・ダイナーに訪れており当時の時代を色濃く反映していたと言えるだろう。

 

そんな時代もすぐに過ぎ去り帝国時代が訪れ、帝国時代とて早々と過去のものとなった。

 

銀河内戦の末期、コルサント全土が戦場となりココ・タウンも以外ではなかった。

 

特にこの地はアンクルバイター旅団(ブリゲード)と呼ばれる少年少女達の反乱分子が帝国軍に対して反乱活動を行っていた。

 

ココ・タウン中の裏口を知っていた彼ら彼女らは帝国軍の最前線に爆弾を仕掛け、時には情報を新共和国に流しやがてココ・タウンは奪還された。

 

だがココ・タウンの奪還はそう長くは続かなかった。

 

背後の一突き演説”によってベアルーリン宙域に結集した帝国軍がモフパウルス・ヒルデンロードによって率いられジャクー戦に注力している新共和国に対して攻撃を仕掛けた。

 

ヒルデンロードによって率いられた大軍団はまずコルサントを混乱状態から奪還し同地に上陸していた新共和国軍を撃破した。

 

またアンクルバイター・ブリゲードによって救出された当時の名目上の帝国最高指導者、故マス・アミダ大宰相を捕縛しアンクルバイター・ブリゲードのメンバーも無力化された。

 

当時軍を率いていたヒルデンロードや後のヴィアーズ大将軍達はアンクルバイター・ブリゲードを無力化するだけで殺害するような事はせず戦闘を続行させた。

 

解放されたココ・タウンも再び帝国軍の占領下となり帝国軍は迫り来る新共和国軍と戦闘を続けた。

 

新共和国はホズニアン・プライム方面とシャンドリラ方面から2個の即応軍を展開し帝国軍とぶつかった。

 

ホズニアン・プライムの即応軍はイクストラーとアーゴウの2方向に分かれコルサントを目指した。

 

だがシャンドリラ方面の即応軍はフォート・アナクセスで後のオイカン大提督により撃退され、ホズニアン・プライム方面の即応軍はイクストラーでヴィアーズ大将軍によって撃退された。

 

またアーゴウから向かっていたホズニアン・プライム即応軍も後に親衛隊を形成するシュメルケ元帥とフューリナー上級大将らによって撃破された。

 

新共和国第一派を退けた帝国軍はこのままホズニアン・プライムとシャンドリラまで一気に進軍しようとしたがこの試みは断念され“2()()()()”持ち越された。

 

新共和国は故モン・モスマ議長により直ちに動員された各惑星防衛軍と徴兵令により動員された兵による第二即応軍が編成された。

 

またジャクー一帯をを包囲していた予備隊も直ちにコア・ワールドに帰還しホズニアン・プライムでも同様の軍が編成された。

 

両者をタイベン将軍と復帰したメイディン将軍が率いる事となり戦力的にも限界を感じていた帝国軍は戦況的には優位な今の状況で新共和国に対して休戦協定を結んだ。

 

結果、第二帝国が誕生し飛地を含む本来の残存帝国よりも更に広大な領域を手にすることが出来た。

 

その際にコルサントは返還されマス・アミダ宰相によるコルサント臨時政府が建国され拘束されていたアンクルバイター・ブリゲードのメンバーも解放されコルサントへ返された。

 

これにより銀河内戦は火種を残しながら終結した。

 

だが帝国首都がベアルーリンへ移され、新共和国首都がシャンドリラからホズニアン・プライムに映った当時のコルサントには殆ど何も価値は残されていなかった。

 

特にコルサントは人工密集地の超大都市である。

 

この大都市に1兆人、人口が減少傾向にあり数千億にまで減少し始めていたのを鑑みてもとてもコルサント単体でコルサントの人口を支え切れるだけの能力はなかった。

 

価値を失ったコルサントは急激に治安が悪化し経済は停滞、都市部も閑散とし始めアンダーワールドでは食糧不足が相次いだ。

 

この深刻な事態にコルサント臨時政府は速やかに対策を行なった。

 

まず領域範囲であるコルサント星系やコルスカ宙域の郊外惑星の開拓による食料自給率の増加を推進したがこれも全て頓挫。

 

新共和国から食糧援助などを受けつつなんとか経済を立て直そうとしていた矢先今度は代理総統を指導者とした第三帝国が台頭し始めた。

 

第三帝国、特に総統は明確にコルサントの奪還を謳っており時には強い言葉で「銀河首都コルサントは我々の領土とならねばならない」と訴えた。

 

新共和国と第三帝国とコルサント臨時政府は何度か会談を行ったがあまり進展は見られず仕舞いには新共和国代表団のいない所で密かに“()()()()()()()()()”、つまりコルサントを第三帝国領にするか戦争するかと脅しを掛けられた。

 

更にはコルサントでは親帝国派によるデモが繰り返され新共和国シンパのアンクルバイター・ブリゲードのようなグループと衝突していた。

 

無論新共和国とて単なるバカではない。

 

コルサント臨時政府に食糧援助とは別に軍事援助を行いスターホーク級を含む何十隻下の軍艦を提供した。

 

また封印されていたインペリアル級のような旧帝国の兵器も解禁しコルサント臨時政府は急いでコルサント本国防衛艦隊を復活させた。

 

その過程で多くの旧帝国軍人や経歴がグレーな人物が採用されコルサント保安部隊から発展した地上軍であるコルサント本土防衛軍にもコルサント中の多くの失業者や傭兵が受け入れられた。

 

艦隊司令官を務めていたリヴァー・サリマ司令官もそのうちの1人であり彼は元コルサント本国防衛艦隊の指揮官の1人である。

 

何度か新共和国軍と演習を行ったのだがこんな急拵えの軍隊が新進気鋭の国防軍、親衛隊に敵うはずもない。

 

それどころか帝国情報部、宇宙軍情報部、親衛隊情報部の3組織の情報機関による引き抜き工作により防衛情報が第三帝国にリークされ仕舞いには通信網が遮断されコルサントは孤立した。

 

そして遂に開戦、コルサントの奪還が実行され国防軍と親衛隊がコルサントを急襲した時には多くの裏切り者と離反者が出現しコルサント本国防衛艦隊もコルサント本土防衛軍も内側から壊滅していった。

 

辛うじて残っていた部隊も士気は圧倒的に低くAT-ATの足音を聞いて逃げ出してしまう始末だ。

 

電撃的にコルサントは奪還され第三帝国首都となった。

 

その過程で第三帝国はエイリアン種族排除法により多くのエイリアン種族や近人間を排斥し或いは殺害していった。

 

僅か数年でコルサントは大きく変化した。

 

特にココ・タウンで限った話で言えばかつては人種豊かで様々な人がいたのにも関わらず第三帝国の制定したエイリアン種族排除法でもうコルサントにいるのは文字通りの純粋な人間のみだ。

 

グリードやイソーリアンどころかトワイレックやザブラクと言った種族すら今のコルサントには1人もいなかった。

 

デックス・ダイナーも5年も前に閉店しココ・タウンでは今や兵器の生産が主軸となり1日中悶々とした雰囲気の中、第三帝国の為の兵器が製造され続けている。

 

コルサントの奪還の際にコルサント本土防衛軍と共に戦っていたアンクルバイター・ブリゲードも今度ばかりは親衛隊により徹底的に殲滅され辛うじてコルサントを脱出出来たメンバー以外は全員殺害された。

 

ズィロの宮殿も取り壊されかつてのような少々乱れた自由を感じるココ・タウンは消えていた。

 

今もある人物の逮捕の為にFFISOの保安局員達が2台の兵員輸送機に乗って目的地へ向かっていた。

 

片方の兵員輸送機では保安局員の上級大尉が部下達に最後の指示を出していた。

 

「状況を確認する、我々はこのまま容疑者のいる自宅のアパートメントまでこのITTで向かい上空のガンシップと共に容疑者を確保する。また容疑者は武器を所有している可能性がある為、最低限の防備と武装を許可する」

 

保安局員達は皆コートの上に地上軍トルーパーのアーマーを身につけておりホルダーにはブラスター・ピストル、何人かはE-11ブラスター・ライフルを手にしていた。

 

この兵員輸送機の上をスカイ・レーンに紛れて同じく保安局員を乗せたLAAT/leパトロール・ガンシップ、通称ポリス・ガンシップが飛行していた。

 

こちらはあくまで逮捕の支援を名目としている為、戦場のTIEリーパーやドロップシップのような上空からの高火力支援は不可能だ。

 

兵員を展開しポリス・ガンシップは周囲を警戒する手筈である。

 

「ガンシップ隊は裏から、我々は2個分隊の戦力を持って表から制圧する。また我々は容疑者から情報を聞き出さねばならない為、容疑者の殺害は禁止とする。全武器の威力はスタン・モードまで、以上!」

 

部下達は「了解!」と頷き装備の最終チェックを行った。

 

暫くして兵員輸送機のパイロットから『間も無く目標地点』とアナウンスが響いた。

 

降りる保安局員達が全員ドアの前に集結し兵員輸送機が停止するのを待った。

 

数秒が数時間のように感じられる中、遂に兵員輸送機は停止しドアが開いた。

 

それを合図に一斉に保安局員が飛び出しアパートメントへ向けて走り出した。

 

隣にはまた別の兵員輸送機も停泊しておりそこからも同じように保安局員が飛び出していた。

 

2個分隊20人の保安局員達が周囲を確保し突入部隊が階段を駆け上がっていく。

 

またガンシップからも同じように保安局員が降り立ち、裏口を制圧し突入を開始していた。

 

ある1人の保安局員がドアに手をかけるが開かず、すぐに合図を出して自らの手に持つブラスター・ピストルでドアを破壊した。

 

ドアが音を立てて開く中安全を確保した保安局員達が一斉に室内へ入っていく。

 

「隈なく探せ」

 

「いたぞ!あそこだ!」

 

保安局員の1人がターゲットを発見し急いで駆け寄った。

 

この部屋の住人で容疑者と呼ばれている男は急いで裏口から逃げようとした。

 

だが既に裏口からも保安局員は侵入しており両方から保安局員に取り押さえられ、地面に組み伏せられた。

 

「離せ!離してくれ!私は何もしていない!!」

 

男は必死にそう弁明するが保安局員の1人が男の髪の毛を無理やり掴んで顔を起こした。

 

隣でホロプロジェクターを持つ保安局員に尋ねる。

 

「こいつで間違いないか?」

 

「はい、間違いありません。ヨーン・エリサー、身長も性別も恐らく年齢も一緒です。それに何よりこれが証明しています」

 

男の顔が映ったホロプロジェクターを取り押さえられたエリサーに近づけた。

 

「これで確証はついた。ヨーン・エリサー、貴様を総統暗殺未遂の容疑で逮捕する」

 

「なんだと!?そんなことを私がするものか!!」

 

「いいから、大人しく着いて来い!」

 

無理やり保安局員に口元を押さえつけられ立たせられたエリサーはズルズルと引き摺られながら裏口からポリス・ガンシップの方へ連れて行かれた。

 

その間にも紀子の保安局員達がエリサーが住んでいた部屋の中を捜索し物的証拠となりそうなものを集めていた。

 

「本人は逮捕したとはいえまだ見逃せん。室内もしっかり調べろ」

 

「了解」

 

次々と証拠が収められ運ばれていく。

 

外ではアパートメントのオーナーが喧騒に驚き他の住民を代表して出てきていた。

 

上級大尉と彼の部下である保安局少尉が対応に当たっている。

 

「一体これはなんなんですか…!?何故彼を…」

 

「これは帝国法及び我々FFISOに与えられた権限に基づく捜査です、どうぞご安心を。ヨーン・エリサーには帝国法違反の疑いが掛けられていた為我々が捜査に応じたまでです。またこの件は他言無用でお願いしたい、無論他の住民にも」

 

「それは分かっている……だが一体なんの法に触れたのですか…?」

 

オーナーは大尉に尋ねたが大尉は答えを上手くはぐらかした。

 

「それは機密事項ですので言えません。ですがご安心を、我々は他の市民を傷つけるような事は致しません。どうぞゆっくりお休み下さい、後は我々に全てお任せを」

 

また疑問を感じつつもこれ以上は無駄だと判断したオーナーは渋々その場を後にした。

 

上級大尉はふうと一息つき少尉からの報告を聞いた。

 

「死傷者はなし、発砲もなし、容疑者のヨーン・エリサーは無事逮捕出来ました」

 

「それは素晴らしい」

 

「容疑者はガンシップで運搬し物的証拠は兵員輸送機で運搬する、よろしいですか?」

 

「ああ、問題ない。これで総統暗殺は未然に防がれた。今度ばかりは我々のメンツも保たれる」

 

以前の総統府の事件では総統の暗殺は防がれたものの犯人が自爆し総統府内で負傷者を出すという事態になってしまった。

 

それに比べれば今回の事件は更に未然に防がれた。

 

「これでセントラル地区の演説会も無事に行われますね。一応会場のチェックも完了したようです」

 

「そうか、では我々も捜査を終えたら本部に撤退だ」

 

少尉も頷き彼らもエリサーが住んでいた室内に入っていった。

 

だが彼らは知らない。

 

本当の悲劇はこの後起こるのだ。

 

総統暗殺未遂事件は“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

 

 

 

 

 

-コルサント ギャラクティック・シティ-

ジークハルトは朝早くから親衛隊の制服に着替え、胸に珍しく数々の戦功で得た勲章の略綬がついており右胸には親衛隊の銀色の飾緒がつけられていた。

 

制帽を手に取って被り、カバンを持つとジークハルトは鏡の前を後にした。

 

「それじゃあ、行ってくるよ」とリビングのキッチンでマインラートとホリーの朝食を作っているユーリアに声を掛けた。

 

本当なら息子と義娘がユーゲントに行くまで家にいたいが今日はそうは行かない。

 

ユーリアは一旦手を止めてジークハルトの所まで駆け寄ってきた。

 

「気をつけてね」

 

「ああ、今日は演説会に出席したら帰るつもりだよ。時間的に親衛隊本部に戻って働いても多分何も出来そうにないし」

 

ブーツを履きながらジークハルトは彼女に彼女にそう呟いた。

 

「そう、きっとマインやホリーも喜ぶと思うわ。もちろん私もだけれど」

 

そんな一言にジークハルトは微笑で返しユーリアも微笑んだ。

 

「行ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

ジークハルトは妻が見送る中玄関を出てアパートメントの階段を降りた。

 

外は若干寒いがコートを着るまでもない。

 

ジークハルトは事前に待ち合わせているアパートメントの近くまで自力で歩いた。

 

最近は殆ど本部で缶詰になる事が多かったので外を歩くのは常に新鮮な気持ちだ。

 

こんな朝早くでも既に多くの人々が外に出ており上空のスカイ・レーンには数多くのスピーダーが行き交いしていた。

 

目線を空から地上に移すと目の前にはある1台のランド・スピーダーが停泊していた。

 

スピーダーの近くには見知った若い将校が辺りを見渡しジークハルトの顔を見つけるなり近づいて敬礼し挨拶した。

 

「おはようございます准将!」

 

「おはよう大尉、早くついたのなら私の家に来ればよかったのに。コーヒーくらい私が出してやったぞ?」

 

ジークハルトは敬礼と挨拶を返し運転手兼副官のヴァリンヘルト大尉にそう返した。

 

元々の運転手の少尉は移動になり今はハット・スペースの国家弁務官区にいるはずだ。

 

それが(ノルト)なのか(ズーデン)なのかは分からないが。

 

「いえ、そんな!私がシュタンデリス准将にご迷惑をかけるわけにはいきませんので…」

 

「そうか?ハイネクロイツは普通に入ってコーヒーも朝食も嗜んでったぞ?」

 

「まあハイネクロイツ大佐はそういう方ですので……とにかくスピーダーへどうぞ。鞄はお預かりします」

 

ヴァリンヘルト大尉はスピーダーのドアを開けジークハルトの鞄を手に取りトランクにしまった。

 

ジークハルトはその間にスピーダーに乗り込みヴァリンヘルト大尉がドアを閉めると彼も運転座席に座った。

 

エンジンを掛けスピーダーを起動させる。

 

ヴァリンヘルト大尉はペダルを踏みハンドルを傾けてスピーダーを上昇させスカイ・レーンに入った。

 

「ゼルテック上等兵とバルべッド軍曹は既に会場にいます。セントラル地区まではこの混雑だとそこそこ掛かると思うのでゆっくりして下さい」

 

「ああ、しかし早朝だというのにいつも以上に混雑してるな」

 

ジークハルトはスピーダーの窓から辺りを見渡してそう呟いた。

 

ヴァリンヘルト大尉が運転するスピーダーの周りには殆ど昼間のスカイ・レーンと変わらないほどのスピーダーが行き交いしていた。

 

中にはこのスピーダーと同じく軍用のものも混じっており時折ポリス・ガンシップもスカイ・レーンのパトロールを行なっている。

 

「最近はどこの企業も忙しいですからね、特に軍関係だと新しい作戦の為に将兵が早くから本部に向かったり本部から夜勤明けで帰ってきたりしてるらしいですし」

 

「なるほど……で、さっきからやたら保安局のガンシップが飛んでいるんだがセントラル地区以外でも何かあるのか?」

 

隣を飛行するポリス・ガンシップに目を向けながらジークハルトはヴァリンヘルト大尉に尋ねた。

 

ポリス・ガンシップの中にはストームトルーパーではなく武装した保安局員の姿が見えた。

 

先程から行き交いする殆どのポリス・ガンシップの中にはストームトルーパーではなくISBとFFSBの保安局員が乗っている。

 

大抵彼らをよく目にする時は何かしらよからぬ事が起こっている証拠だ。

 

「一応セントラル地区の演説会もありますが昨日の夜に総統閣下の暗殺を企てた人物が逮捕されたんですよ。それで保安局は大忙しって事です」

 

ヴァリンヘルト大尉はスピーダーの機器を操作してジークハルトにニュースをホログラムで見せた。

 

見出しには『反乱分子の手先か?代理総統の暗殺計画犯を逮捕!』と書かれていた。

 

「なんでも今回の演説会で総統閣下を暗殺しようとしていたらしく事前の捜査でFFISOが逮捕に及んだと」

 

「なるほど…」

 

やはりフリシュタイン上級大佐の忠言には意味があったと言うことか。

 

恐らく彼らはこの暗殺の計画を企てたヨーン・エリサーに事前に目星を付けていたのだろう。

 

そして捜査を重ねていくにつれて白か黒かが判明し逮捕に及んだ、という訳だ。

 

その為万が一に備えて信用している軍関係の人間に言葉を濁しつつ伝えた。

 

「フリシュタイン上級大佐が言った事はこの事なんですかね」

 

勘のいいヴァリンヘルト大尉もすぐに気付きジークハルトに尋ねた。

 

「そうかもしれん…だが犯人が1人とは限らん。まだ警戒は怠るな」

 

「了解、何事もないのが一番いいんですがね…」

 

「ああ、全くもってその通りだ」

 

戦場から程遠い任務であるのにも関わらず2人の目線は何処か険しかった。

 

彼らにとって最悪な事に、彼らの警戒心は後数時間で報われる事になる。

 

セントラル地区の演説会場にて。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国シス・エターナル連合軍占領下 アーヴァラ7 プレハブ基地本部-

アーヴァラ7での一連の戦いはヴィアーズ大将軍率いる国防地上軍とセドリス率いるシス・エターナル派遣軍団の勝利に終わった。

 

両軍の損害は軽微、その反面敵軍は3つの防衛線を打ち破られかなりの損害を出した。

 

脱出した後の艦隊戦でも“アナイアレイター”らの必要な追撃によって逃した部隊は多々あるがそれでも大きな打撃を与えられた。

 

突如セドリスの命令により戦闘区域から離脱したシス・エターナル軍に代わって国防軍の将兵が戦場の跡地整理や残骸の回収、秘密基地の調査などを行なっていた。

 

ストームトルーパーの分隊が兵員輸送機に乗って敵地とプレハブ基地を行き来しパトロールを続けている。

 

ATホーラーやゴザンティ級が破壊された敵機の残骸や友軍の損傷機を回収し帝国貨物船やセキューター級などの母艦に連れ帰った。

 

また既に破壊されたX-0P ヴァイパーの残骸は全て確保され何台かが輸送艦に乗せられてコア・ワールドのクワットまで向かっていた。

 

クワットの技術ならこのヴァイパーがどういう技術で作られているのか何を備えていたかが十分解析出来る。

 

技術の出所が分かれば何かしら掴めるかもしれない。

 

一方戦闘区域から招集されたシス・エターナル全軍はジストン級にいた乗組員まで動員され一斉に何かを捜索し始めた。

 

コヴェル中将やタナー司令官らの地上軍の指揮官達は皆疑問に思ったが関わっている余裕もないので放置された。

 

時が経つにつれてプレハブ基地に残ったセドリスやシス・エターナル軍の将校達は悶々とした雰囲気が漂い始めた。

 

今も基地の一角で捜索部隊の指揮官達とホログラムで報告会を開いているが彼らにとって今のところ、いい報告は一つもないようだ。

 

何せ彼らが探している“T()h()e() ()C()h()i()l()d()”は既にアーヴァラ7にいない可能性が高く更には非常に厄介な状態になっている可能性も高いからだ。

 

「どうだ!?“奴は見つかったか!?」

 

セドリスが焦りを込めてシス・トルーパー・コマンダーやシス・エターナル軍の将校、シス信者に尋ねた。

 

だいぶ長い事捜索しているがシス・エターナルが探している“T()h()e() ()C()h()i()l()d()”は今の所見つかっていない。

 

このアーヴァラ7の人口はかなり少なく大きな都市も殆どない。

 

故に捜索は簡単に終わるはずだった。

 

だが実際には今日に至るまで“T()h()e() ()C()h()i()l()d()”は見つけられず手掛かりも少ない。

 

『いえ、やはりターゲットは発見出来ません。現地人から聞いた通りニクトの傭兵集団の隠れ家を発見しましたが内部には既にいませんでした。やはり現地人の報告通り既にターゲットはアーヴァラ7外にいると考えられます』

 

『我々の隊も同様です。しかし現地住民によると“マンダロリアンと思われる人物”がターゲットを連れ去ったとか』

 

「マンダロリアン…?」

 

セドリスは現場にいるホログラムのシス・トルーパー・コマンダーに聞き返した。

 

コマンダーはすぐに頷き聞いたことをセドリスに話した。

 

『マンダロリアンの装備を持った人物が暗殺ドロイドと共にニクトの傭兵集団の隠れ家に襲撃に向かったらしいです』

 

その報告は既にある可能性を確実なものとし、セドリスの顔を顰めさせた。

 

第三帝国の突然の台頭によりシス・エターナルの諜報は殆どが新共和国と第三帝国に割り当てられた。

 

その結果幾つか重宝や介入が疎かになる生き残った帝国軍の残存勢力が存在していた。

 

このどうしようもなかった結果が今シス・エターナルの面倒事となって帰ってきたのだ。

 

「そうか……捜索は全面終了!全隊は速やかに本拠地のプレハブ基地に撤収せよ。部隊の整理が整い次第アーヴァラ7より撤退する。既に次の命令が降った」

 

『了解』

 

ホログラムが一つずつ消失し報告会は終了した。

 

ホログラムが全て消えるのが確認されると隣に控えていたシス・エターナル軍の将校がセドリスに尋ねた。

 

「セドリス卿、次の命令とは?」

 

「エクセゴルより命令が降った。我々はジストン級と共にテドリン=シャの部隊と合流しある惑星に向かう。今度はあの“忌子”を確保する」

 

その言葉を聞いた途端ディープ・コアではなく長らくエクセゴルにいたこの将校はすぐにその“()()”について気が付いた。

 

あえて放置していたものを遂に回収する時が来たのだ。

 

「既にテドリンはレン騎士団と合流し指定された目的地に向かっているようだ。我々も急がねばならない」

 

「我々も準備を急がせます」

 

「そうでなくては困る」

 

将校は敬礼しセドリスも小さく頷いた。

 

すると今度は別の将校がセドリスに聞いた。

 

「しかしセドリス卿、“T()h()e() ()C()h()i()l()d()”の捜索はどうするのですか?」

 

このまま“忌子”の確保に向かうとなれば本来の命令は一旦停止せざるを得なくなる。

 

するとセドリスは1人のシス信者の方を見つめてアイコンタクトを取った。

 

シス信者は小さく頷き「問題ございません」と呟いた。

 

「既に手は打ってある。一体どこまで役に立ってくれるかは分からんが」

 

諜報を担当するシス信者を態々連れてきてよかった。

 

セドリスの命によりシス信者達は情報網を駆使しとある勢力との接触に成功した。

 

その勢力が仲介人を通じて先んじて確保させた可能性もあるが最終的に手元に届く、もしくはマークさえ出来ていれば問題ない。

 

逆らうようであればシス・エターナル軍の力を見せつけるまでだ。

 

所詮奴らの勢力など軍閥を名乗るのすら烏滸がましい程小さく見える。

 

だが少なくとも役には立つはずだ。

 

何せ勢力の長があの“()()()()()”の実行者なのだから。

 

「あの“()()()()()()()()()”がどこまでやるか見ものだな」

 

セドリスは性格の悪い笑みを浮かべ期待と小馬鹿にするような思いを密かに浮かべた。

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー 大セスウェナ連邦領 セスウェナ宙域 エリアドゥ星系 首都惑星エリアドゥ 連邦行政府官邸-

ヘルムートはモッティ提督と共に政府官邸の通路を歩いていた。

 

周りには多くの役人が資料を持って慌ただしく歩いていたり別の区画から別の区画へと移動している。

 

流石にコルサントほどではないがやはりこの行政府官邸にも軍服を着た文民ではない武官の者が多くいた。

 

モッティ提督もその内の1人であり大セスウェナは他の帝国から独立した勢力よりも比較的自由で文民統制が行き届いているとはいえ、やはりここ数年の緊張状態の影響もあってか多くの将校が行政府官邸にいた。

 

ヘルムートだって普段から軍服を着用している。

 

故ウィルハフに合わせる…というのもあるがそれ以上に「自ら戦う意思を示すセスウェナの指導者」という印象を打ち付けたかったのだろう。

 

特に大セスウェナ連邦盟主になった当時はまだ幼く敵対者も多かった為彼らに見せつける意味合いもあったのだろう。

 

だが今ではすっかりその時のイメージが染み付き、軍服を着る日々がまだ続いていた。

 

「国防軍から請け負った占領下の様子はどうだ?クリフォードは上手くやっているか?」

 

ヘルムートはモッティ提督に尋ねた。

 

「ひとまず略奪とか虐殺といった類は少ないそうです。流石はオイカン大提督なんでしょうかね、統制の取れた宇宙軍の精鋭です」

 

「レジスタンス軍はどのくらい持ち堪えている?」

 

「レジスタンスも粘っていますが恐らくそろそろ防衛線も限界が来るでしょう。少なくともゼフリーとカウンシルまで後退するのは確定…かと」

 

モッティ提督の言う後退のシナリオには幾つかある。

 

例えば一つは防衛線が破られハンバリン艦隊が一帯を完全に制圧しゼフリーとカウンシルで戦いになるか。

 

またもう一つの可能性としてはレジスタンス軍があえて現状の戦域から戦力を後退させより内部で敵を迎え撃つか。

 

どちらにせよハンバリン艦隊はまた前進する事となるしオイカン大提督はどちらにせよその先まで進撃するだろう。

 

アノート宙域が堕ちればレジスタンスは再び劣勢に立たされる。

 

「表面上、第三帝国の優勢は喜ばしいが……まあまだ結果は分からん。見守って…」

 

「閣下!探しました!」

 

通路の奥から2人の白服の将校がヘルムートとモッティ提督の下にやって来た。

 

第三帝国やファースト・オーダーなどと同じく大セスウェナでも白服は保安局の証だ。

 

しかし大セスウェナの白服は単なる保安局ではない。

 

連邦中央安全保障情報局(Federal Central Security Intelligence Agency)、通称FCSIAという旧帝国保安局と旧帝国情報部を併合した情報機関のメンバーが白服を着ていた。

 

FCSIAは大セスウェナ連邦の対内、対外諜報や工作を主任務に請け負っており特に諜報では旧ISBと旧帝国情報部の技術が活かされていた。

 

また対内活動と言っても今の第三帝国がFFISOやISBを使ってやっているような国民の監視ではなく未だ連邦領内に潜んでいる敵対した帝国残存勢力の発見と撃破にあった。

 

特にこれらの勢力はほぼ海賊化しており早急な対応が望まれた。

 

ヘルムートの大伯父ウィルハフらが秩序を維持する為に作った軍が秩序を乱す者に成り下がっているとは皮肉な話だが。

 

今ヘルムートらの前にいるアーテル大尉も元ISBの現FCISA将校であり彼がヘルムートに声を掛けたという事は極秘に行っていた“調()()”で何かがあったという事だ。

 

「アトラヴィス宙域の調査が粗方終了し現場指揮官のオスナン司令官から簡易報告書が届きました」

 

アーテル大尉は傍に抱えていたタブレットをヘルムートに手渡した。

 

モッティ提督が上から覗き込む中、ヘルムートは中身に目を通す。

 

「既にFCISAでは予定通り対外調査部と捜査部が本格活動します」

 

アーテル大尉はヘルムートらに報告しヘルムートも彼に一つ伝えた。

 

「……まずこの男の足取りを追うのは当然として一つ気掛かりな事がある。連邦盟主権限で調べて欲しい」

 

「何をでしょうか?」

 

ヘルムートはなるべくアーテル大尉を近づけて小声で彼に伝えた。

 

「リド星系周辺に帝国宇宙軍が封鎖線を展開している。あの星系にはボーラ・ヴィオがあり放棄されてはいるがクローニング施設がある。ここに何かしらの共通点があると私は考えている」

 

「ではリド星系周辺の調査も含めるよう伝えておきます」

 

「任せた」

 

アーテル大尉はヘルムートからタブレットを受け取ると彼らに敬礼しその場を去った。

 

ヘルムートとモッティ提督も元の目的地を目指して歩き始める。

 

道中モッティ提督はあることをヘルムートに尋ねた。

 

「しかし閣下、いくらなんでもあのクローニング施設を稼働させようなんて輩はいないと思いますよ?」

 

コナン・アントニオ・モッティ提督と違いこちらのモッティ提督は随分大らかな人柄なのだが感の良さや鋭さというものは備わっている。

 

ヘルムートと共に報告書を見て彼が命令したことを瞬時に理解した。

 

元々ボーラ・ヴィオにカミーノアンが放棄したクローニング施設がある事はエリアドゥに残された情報で知っていたのだがカミーノアンですら放棄しているという事もあって今まで手出ししていなかった。

 

だからこそヘルムートは少し危機を持っていた。

 

「施設を襲撃して“()()()()()()()”だけを奪っていくような輩だぞ?まともな考えを持って動いてるとは思えん。まともである我々は浮かび上がった可能性を一つずつ潰していく以外にない」

 

「まあそうなんですがね……宇宙軍の封鎖艦隊も撤退しましたしボーラ・ヴィオ周りの調査はやりやすいと思います」

 

「そうだといいんだが…ついた」

 

2人がはしているともう目的地である行政府官邸にあるFCSIA管轄の来客室の前についた。

 

衛兵の前に立つ1人の将校が2人に敬礼した。

 

この将校、モロー・ヒムロン少佐も同じく白服を着ており彼も下帝国情報部員のFCSIAの将校兼スパイである。

 

ヒムロン少佐はヘルムートやモッティ提督に比べれば地味で平凡な顔立ちでありパッと見“()()()()”という感想を抱かざるを得ない。

 

しかしこの男はあの皇帝パルパティーンから直接情報部に抜擢された人物でありその特徴のなさ故に理想的なスパイであり更にはどんな場所にも溶け込める能力も備えていた。

 

「お待ちしていました閣下、それに提督、どうぞこちらに」

 

衛兵がドアを開きヒムロン少佐に導かれて中に入った。

 

「今、連れてこさせます。私はこれにて職務がありますので後の事はジストル少佐に任せます」

 

ヒムロン少佐の隣に立っている同じくFCSIAのジストル少佐が敬礼した。

 

ヒムロン少佐はまだスパイである為あまり他人に顔を見られたくない。

 

特に今から連れて来る相手には。

 

ヒムロン少佐は裏口から早々に抜け出し室内にいるジストル少佐と交代した。

 

「どうぞお席に」

 

2人はソファーに座り暫く待った。

 

だが彼らが待っている人物が来るののさほど時間は掛からずすぐに裏口からトントンという合図が聞こえた。

 

「入れてくれ」

 

ジストル少佐の命により裏口が開き2人のFCSIA職員と職員に先導される1人の人間が入って来た。

 

その人物はレジスタンス軍の将校の軍服を着ており丁寧に「どうぞ」とヘルムート達の反対側のソファーへ座るよう促された。

 

モン・カラマリはソファーに座るとどうも落ち着きがない雰囲気で当たりを見回した。

 

その間にジストル少佐は2人の職員に命じこの部屋の防音システムとロックを掛けさせた。

 

「ようこそ、私は大セスウェナ連邦盟主兼グランドモフ、ヘルムート・ターキンです。こちらは連邦宇宙軍提督のリチオ・アントニオ・モッティ」

 

ヘルムートは自分達の名前をモン・カラマリに告げた。

 

そのレジスタンス軍将校も2人に自己紹介した。

 

「私はフォーチュン、レジスタンス宇宙軍准将だ。態々捕虜である私に一体何の用だ?」

 

フォーチュン准将は銀河内戦の時から反乱同盟、新共和国軍に仕えた人物であり彼はアノート宙域の遠征軍に配属されていた。

 

その後のハンバリン艦隊の襲撃によりフォーチュン准将は防戦したが敗北、捕虜としてエリアドゥの司法局中央拘留センターに収監されていた。

 

それが今日、突然この行政府官邸に来るよう要請されたのだ。

 

フォーチュン准将は今も困惑していた。

 

「まずは連邦盟主であるターキン家の当主が態々私をここへ呼んだ理由を教えてほしい。拘留センターの内部は私も知っている、君達が法を遵守して捕虜の取り扱いを行っていることもだ」

 

「我々には少なくともある程度の裁量が与えられていますからね。第三帝国……特に親衛隊辺りだったらそうは行かないでしょうが」

 

もしエリアドゥ司法局中央拘留センターが親衛隊の管轄だったら今頃エイリアン種族と近人間は皆この世にはおらず捕虜の扱いももっと劣悪だっただろう。

 

当然大セスウェナとしても単なる善意だけではない。

 

交渉のカードとしても活用させてもらう。

 

「君たちは第三帝国とは違うと?新共和国崩壊時に我々の同胞を捕縛し第三帝国に下ったのに」

 

フォーチュン准将は少し怒りを込めてそう問い詰めた。

 

捕虜に取られ生きながらえている者はいるとはいえそれでも拭いきれない怒りがある。

 

それに大セスウェナは今も第三帝国側だ。

 

准将が敵意を向けるのにも尤もな理由ばかりだし今もこうして自由を拘束されているのだから仕方ない。

 

「我々はあくまで降伏勧告を発令し当時の新共和国軍がそれに答えたまでです。それに今回貴方に話したい事はその“()()()()”に対してです」

 

「…一体どういうことだ…?」

 

ヘルムートはフォーチュン准将の問いに敢えて答えずジストル少佐に指で合図を出した。

 

少佐はすぐにそのサインに気づき近くの棚に置いてあったタブレットを取り出した。

 

タブレットをジストル少佐から受け取るとヘルムートはそれをそのままフォーチュン准将に手渡した。

 

「まずはこれを読んで頂きたい」

 

フォーチュン准将は戸惑いながらもヘルムートから渡されたタブレットを読み始めた。

 

かなり長い文章で暫し静かな時がこの室内に齎されたのだが徐々にフォーチュン准将の表情が変わっていくのが確認出来る。

 

ヘルムートとモッティ提督は顔を見合わせた。

 

「本当に…大丈夫なんですかね…」

 

モッティ提督は小声でヘルムートに尋ねた。

 

もしこれでヘルムート達の思うように行かなかったら大変なことになる。

 

だがヘルムートは「その時の対応はちゃんとある、落ち着いて」とモッティ提督を宥めた。

 

それから数秒も経たずにフォーチュン准将はタブレットの内容を読み終えたのか顔を見上げてヘルムートに尋ねた。

 

先程とは違い顔が青ざめ冷や汗が流れている。

 

「…これは……」

 

「読んで字の通りですよ。だから私はレジスタンス軍の捕虜の中で最も位の高い貴方をここに呼び寄せた」

 

2年前に捕縛した将校の中には准将、それ以上の少将の将校もいた。

 

だが既にレジスタンス軍との繋がりはないに等しくレジスタンス軍以降の捕虜として最も階級が高かったのがフォーチュン准将であった。

 

「我々とて放っておく訳にはいかない所まで来ている。それに次期に」

 

『閣下!!いますか!?緊急事態です!!』

 

通信機越しに外の将校の声が聞こえた。

 

先ほどのアーテル大尉だ。

 

ジストル少佐やモッティ提督は顔を見合わせどうするか考えたがヘルムートは即答した。

 

「衛兵、入れてくれ」

 

近くのコムリンクで外の衛兵に命じアーテル大尉を室内に入れた。

 

大尉が入るとほぼ同時に室内にロックがかけられた。

 

アーテル大尉は目の前のフォーチュン准将に困惑した様子だったがヘルムートに「構わん、話してくれ」と告げた。

 

大尉は困惑しながらもその場の全員に聞こえる声で上官から与えられた情報を口にした。

 

「1時間前…第三帝国首都コルサント、セントラル地区代理総統演説会場にて爆発が発生!!更に正体不明のテロリスト集団によって現地では銃撃戦が発生し“()()()()()()()()()()()()”!!」

 

それに対するヘルムートの感想は端的であり簡素なものだった。

 

驚く訳でもなく喜ぶ訳でもない。

 

「そうか」、その一言がヘルムートからは最初に発せられた。

 

 

 

 

 

 

-コルサント セントラル地区 代理総統演説会場-

時間は1時間ほど前に遡る。

 

既に会場に着いたジークハルトとヴァリンヘルト大尉は入口を抜けゼルテック上等兵とバルベッド軍曹と合流した。

 

彼らはしばらく時間がある為会場内を見て回りそれから席についた。

 

もう後数十分で代理総統が壇上に立ち演説会が始まろうとしている。

 

「ここ、普段はビアホールらしいですよ。名前はなんて言ったか忘れちゃいましたが」

 

ヴァリンヘルト大尉は隣に座るジークハルト達にふと思い出したように教えた。

 

「へえ、それは知らなかった。2人はどうだ?」

 

ジークハルトはゼルテック上等兵とバルベッド軍曹にも聞いてみた。

 

彼らならここに来た事があるかもしれない。

 

「いや、全く知りませんでした」

 

「我々も今日ここが初めてなので。飲みに行く時はいつも兵舎の近くに行ったりするので」

 

2人もこの店には来た事がないようで辺りを見回して感嘆していた。

 

「まあそうだな、私達も本部近くにどうしても時間がなくて行ってしまうし。大尉はどうだ、どこで知ったんだ?」

 

ジークハルトは情報源であるヴァリンヘルト大尉に逆に聞き返した。

 

「私もこないだ本部で偶々会ったアカデミーの同期に出席する事を話したらそう言われました。そいつ曰くしばらくコルサント勤務が続いたんで少し詳しくなったと」

 

「大尉のアカデミーの同期か……帝国アカデミーの方か?」

 

ヴァリンヘルト大尉は不幸なことに帝国アカデミーに在学中銀河内戦が終結しアカデミーを強制退学させられてしまった。

 

その為彼は途中で僅かな期間だが親衛隊の将校を育成する親衛隊アカデミーにも入学し今の地位を得ていた。

 

「両方です、偶々そいつとは両方のアカデミーで同期でして。そいつも近々大尉に昇進して連隊付参謀となるらしいですよ」

 

「親衛隊は本当に昇進が早いな。少し羨ましく感じる」

 

とはいえ親衛隊の昇進が早いのはそれだけ人材に余裕がないという表れでもある。

 

特にヴァリンヘルト大尉は今年でようやく22歳、本当なら大尉など夢のまた夢の階級であるはずだ。

 

それにも関わらずここまで早く昇進、無論ヴァリンヘルト大尉が優秀でそれなりに場数を踏んでいるのもあるがそれ以上に人がいない分早く昇進出来るのだろう。

 

ジークハルトだってその恩恵を受けている側の人間だ。

 

29歳で准将、そしてこのままいけば30代で少将に昇進する可能性がある。

 

普通であれば早過ぎるのだが今の第三帝国や親衛隊ではしょうがないのだろう。

 

これだけの大国となっていても第三帝国はかつての帝国より弱体化している。

 

「そういえば気になっていたんですがシュタンデリス准将は何故親衛隊に?」

 

ヴァリンヘルト大尉はジークハルトに尋ねた。

 

既にヴァリンヘルト大尉が親衛隊アカデミーを卒業し親衛隊の将校になる頃にはジークハルトは親衛隊の中で連隊長となっていた。

 

大尉が副官になった後もジークハルトはどうして親衛隊に入ったのか話す事はなかった。

 

無論話す機会がなかったのだがヴァリンヘルト大尉としては少し気になる所であった。

 

「私が?」

 

「ええ、だって准将はあのカイゼルシュラハト作戦にも参加して既に中佐だったじゃないですか。昇進理由だけで親衛隊に移る人とは思えないですし、何か理由があるんでしょう?私は単純に国防軍に入る機会を見失ったのですが」

 

ヴァリンヘルト大尉は何気に初めて副官として配属された時からかれこれ2、3年ほどの月日が経とうとしている。

 

その間に数々の戦いを切り抜けていったし為人も大体掴んできた。

 

だからこそ親衛隊という組織にかなり早くからいるジークハルトの存在が不思議に思えた。

 

ヴァリンヘルト大尉の言う通りジークハルトは目先の昇進や権力的な野心から行動するような人間ではない。

 

だから親衛隊に入ったのも何かしらの理由があるのではないかとヴァリンヘルト大尉は思っていたしその予測は当たっていた。

 

尤もジークハルトが話したいかと言われればそれは別問題となってくるが。

 

「それは……そうだな…」

 

ジークハルトは言葉を詰まらせた。

 

だがここで答えなければヴァリンヘルト大尉もゼルテック上等兵もバルベッド軍曹も気になるだろう。

 

特にゼルテック上等兵にはウェイランドであれだけの事を言って戦うよう仕向けたのだ、その張本人たる男がその道に入ってきた原点を知りたがっていてもおかしくない。

 

それでもこれを口に出す事はジークハルトは出来なかった。

 

過去が鎖となって心を締め上げジークハルトの言葉を詰まらせる。

 

一体どう言えばいいのか、どう答えればいいのか。

 

ジークハルトは分からなかった。

 

「シュタンデリス准将」

 

「うわぁっ!?ああ……えっと、誰…?」

 

そんな中、突然声を掛けられたジークハルトは驚き過ぎて変な声を出してしまった。

 

ジークハルトに声を掛けた人物はこの会場の警備を担当する親衛隊第1FF装甲兵団、通称ライプシュタンデルテ・FF・デア・ヒューラー兵団の将校だった。

 

親衛隊地上軍に所属する代理総統の護衛兼親衛隊の最精鋭兵団であり兵団の出撃先は常に代理総統によって決められていた。

 

「警備任務に就いているLFFDF兵団所属のヨーディス大尉と申します。シュタンデリス准将にお話があってやって参りました」

 

「私に?」

 

「はい、出来ればシュタンデリス准将お1人で」

 

ジークハルトは他の3人を見つめ少し考えてから立ち上がった。

 

「少し行ってくる」とジークハルトはヨーディス大尉に続いて一旦席を立ち、室内を出た。

 

しばらく歩いてジークハルトとヨーディス大尉は警備室近くまで来た。

 

「話、とはなんだ?」

 

ヨーディス大尉は小さく相槌を打つように頷き本題を話し始めた。

 

「実は代理総統がまだベアルーリンの会場にもいまして…」

 

「何?もうとっくにコルサントに着いているんじゃなかったのか?」

 

実は代理総統はこの前日に第三帝国旧首都にして第二首都である惑星ベアルーリンで演説会を開いていた。

 

本来の予定ではもうとっくの昔にコルサントに着いていてこの会場に入っているはずなのだがそうはなっていなかった。

 

ヨーディス大尉は「実はベアルーリンの宇宙港が事故などで非常に混雑しておりまして…」と理由を説明した。

 

「事故って……流石に遅れ過ぎだろ…」

 

「ベアルーリンの方の演説会を早めに切り上げてコルサントに戻れるようにしてはいたのですが…既に間に合わず…」

 

何を言ってもまだ代理総統はコルサントではなくベアルーリンにいるらしい。

 

恐らく今から代理総統がコルサントに戻ったとしてもとても本来の演説開始時間には間に合わないだろう。

 

どの道しばらく待つ事になるし最悪中止の可能性もある。

 

「…それで、一体どうなるんだ?」

 

ジークハルトはこの演説会では専門であるヨーディス大尉に尋ねた。

 

このままでは何もなくただ時間が過ぎていくだけだ。

 

「只今、代理総統が急いでベアルーリンからコルサントへ向かっています。恐らく後1時間程度でコルサントに着くでしょう。演説会が再開するのは恐らく1時間半ほど先になるかと…」

 

「それまで我々はどうすれば?」

 

「もうしばらく待機、または会場内での飲食の許可を考えています。准将ら軍関係者には先にお伝えしましたがこの後放送で全体に発表するつもりです」

 

大尉は簡潔に説明しジークハルトも「分かった」と納得した。

 

事故であるのなら仕方ないし対応が練られていた為これ以上言うことはない。

 

それにジークハルトは総統直轄の軍隊の所属だ、総統の成す事に不平不満を述べる事は許されない。

 

「後もう一つ、昨日の夜から今朝方にかけて総統暗殺犯が逮捕されたのですが、念の為佐官以上の将校の方には軽装ですが武装して頂く事になりました」

 

ヨーディス大尉はブラスター・ピストルの入ったホルスターを渡した。

 

ホルスターを受け取ったジークハルトは中身をすぐに確認する。

 

中には帝国軍の将校がよく使うRK-3ブラスターが入っていた。

 

ベルトにホルスターを付けながらジークハルトはあることをヨーディス大尉に尋ねた。

 

「私の副官や連れてきた部下達にはないのか?彼らは信頼出来る上に腕の立つ兵士だ」

 

「すみませんが一般の方々に不安を与えない為にも武装出来る人には限りがありまして…無論本当であれば全員に配布したい所なのですがそうもいかないのです」

 

「そうか…余計な事を聞いたな」

 

「いえ、一応会場内にも武装した兵士とストームトルーパーを展開し非常時にはその場の将兵全員に武装してもらうつもりです。尤も、そうならない事を願うばかりですが」

 

「ああ、その通りだな」

 

RK-3をチェックしながらジークハルトはヨーディス大尉の発言に賛同した。

 

弾薬数を確認し受け取った予備のパワー・セルをポケットにしまうと「それじゃあ」と室内を離れた。

 

来た道を戻りながらジークハルトは辺りを見渡した。

 

周囲には警備用の武装を装備したストームトルーパーや将校、下士官兵の部隊が均等に配置されていた。

 

少なくとも警備は万全、更に念の為という事なのだろう。

 

だが既に犯人は捕まっており何かをやる前に対処されているのだから少しは気を緩められる。

 

一応の確認も含めて少し遠回りして会場を確認したジークハルトが元の席に戻る頃には既に本来の演説開始時間まで残り3分を切っていた。

 

「准将、ようやく戻られましたか。てっきり間に合わないと思いましたよ」

 

ヴァリンヘルト大尉は席に座ったジークハルトにそう声をかけた。

 

彼らはまだ総統がこれから演説すると思っているのだろう。

 

「しかし、壇上にまだ誰も上がって来ませんね」

 

バルベッド軍曹は察しがいいのか辺りを見回してそう呟いた。

 

「ああその事なんだが…もう少ししたら放送が入って詳細が伝えられるはずだ」

 

ジークハルトから流石に全てを伝えるのはまずいと思ったのかバルベッド軍曹に放送のことだけを先に伝えた。

 

軍曹は「はあ…」と疑問を残しつつもそれ以上は何も言わなかった。

 

その隣でゼルテック上等兵はグラスに入った水を飲もうとしていた。

 

だがよく見るとグラスを手に取るゼルテック二等兵の手は震えていた。

 

「どうした上等兵、緊張してるのか?」

 

ジークハルトはすぐに異変に気づいてゼルテック上等兵に尋ねた。

 

ゼルテック上等兵は小さく頷いて話し始めた。

 

「いやその…ここにいるのは一般の参加者以上に高官も多くいますし……私のような一介の兵士がこんな場所にいていいのかと…」

 

ゼルテック上等兵は辺りを見回しながらそう呟いた。

 

彼は普段トルーパーのアーマーに身を包みこのような場所とは縁も縁もない生活を送っている。

 

しかもゼルテック上等兵はアウター・リム出身で余計にコア・ワールドのしかもコルサントの場所にまだ慣れていない。

 

だから緊張するのも無理はないだろう。

 

「何を言ってるんだ上等兵。君は誰よりも早く総統の下に集い義勇兵として戦った。この中で最も誇るべき武勲を持つ英雄だ」

 

ジークハルトは言葉巧みにゼルテック上等兵を励まそうとした。

 

真実を混ぜ込みある種都合の良いことを呟いた。

 

「しかし私は……私は准将にウェイランドで発破を掛けられなかったら今頃ここにはいません、准将のお力です」

 

「だが親衛隊に残り今まで戦うことを選んだのは君だ。決断したのは君だし私が強制したものではない」

 

確かにウェイランドの時、ゼルテック上等兵はひどく怯えて死の恐怖に囚われていた。

 

そこでジークハルトが言葉を投げかけたのは事実だが最後に決断したのはゼルテック上等兵だけだ。

 

()()()()()”、と言われてもあえて逃げる可能性だってあったし多分あの時はジークハルトもそれを許していた。

 

だがその上であの場の全員が戦うことを選んで皆突き進んでいった。

 

その延長線上に今のゼルテック上等兵がいる。

 

もう今のゼルテック上等兵は離れることが出来ない。

 

ジークハルトが与えた贖罪と自らの判断がゼルテック上等兵を縛り上げている。

 

彼の指揮官としての力というべきなのかジークハルトには有象無象の兵士であっても鍛え上げ、その上で団結させて戦うことが出来た。

 

それはどんなに時間がなくてもだ。

 

特に彼が団結させる力は凄まじく、この力は“()()”において大きな力を発揮する。

 

それ故に恐ろしく、人もその分死んでいくのだが。

 

「今の自分を誇れ、周りに惑わされずな」

 

ゼルテック上等兵の肩を軽く叩き彼を励ます。

 

その的確な言葉でゼルテック上等兵は納得とまではいかないまでも緊張はほぐれた。

 

するとその間に放送が流れるという合図の音声が鳴り響いた。

 

『皆様、大変長らくお待たせして申し訳ありません。ここで…』

 

「ほら、言ったとおり放送が流れ始めた」

 

放送を聞いて安堵したようにジークハルトは壇上の方を向くとジークハルトの視界を遮るように“彼”が立っていた。

 

またあの幻覚か、ジークハルトはため息混じりに重苦しい感情と共に目を逸らそうとした。

 

だが“彼”はこちらへ振り返ると共に何か眩い光のようなものを発していた。

 

あの我が家で見た幻影とは違い間違いなく光を帯びている。

 

しかもその光は遠くにあるはずなのに熱を感じる、まるで戦場のような熱を。

 

まさか幻影はこの空間の方なのか。

 

ジークハルトはすぐにそんな妙な考えを取り除いた。

 

周りを見てみると周りも光に包まれており同じように焼けるような熱を感じた。

 

ヴァリンヘルト大尉やゼルテック上等兵にバルベッド軍曹、他の席についている人達も顔が引き攣りテーブルの下に隠れようとしていた。

 

一体何が起こっているんだ、1人まるで違う世界にいるような感触を持っていたジークハルトは一瞬思考が停止しそうになった。

 

だがすぐに嫌でも理解することになる。

 

この奇妙な状況を。

 

あたり一面に響き渡る“爆発の音と共に”。

 

「何ッ!?」

 

人々の悲鳴と共に周囲に煙と破片が飛び散り壇上は木っ端微塵に吹き飛ばされた。

 

ジークハルトの頬にも破片が当たり切れて血が出た。

 

乱暴に流血を拭うとジークハルトは急いでホルスターからブラスター・ピストルを引き抜き周囲を見渡した。

 

人々は一斉に外に更なる悲鳴を挙げて外へ出始めていた。

 

衛兵のストームトルーパーや異常事態を感知した他の隊員達が集まり避難誘導を行なっている。

 

幸いにも第二、第三の爆発はまだ確認されていない。

 

「会場内の一般市民の避難誘導の支援とライプシュタンデルテから武装の確保を急げ!!命令だ!!」

 

ジークハルトは破片が散乱し足場の悪い会場を駆け出した。

 

後からヴァリンヘルト大尉やバルベッド軍曹、ゼルテック二等兵も走り始めた。

 

ジークハルトはまず負傷して動けなくなった人を運び始めた。

 

「私が抱えて行きますから…!安心してください!」

 

「…ありがとう……ございます……」

 

ジークハルトは爆発の近くで足を負傷した男性を抱えて走り出した。

 

他の3人もそれぞれ抱えられるだけの負傷者を抱えて扉から急いで室内を出た。

 

「シュタンデリス准将!!」

 

近くのストームトルーパー達が人を抱えたジークハルトに駆け寄ってきた。

 

「彼らの手当てを!!それと今すぐ3人分の武装をよこしてくれ!!」

 

「了解!!」

 

衛星兵のストームトルーパーと将校が寄ってきてジークハルト達が抱えてきた負傷者達の応急処置と運搬を始めた。

 

駆けつけたストームトルーパー達の分隊が一斉に会場内に入り残された負傷者達の介抱に向かった。

 

「これを、急いでいたのでこんなものしか渡せませんでしたが」

 

ポールドロンを付けたストームトルーパーの分隊長と思わしき人物は彼らにSE-14Cブラスター・ピストルやRK-3ブラスターを手渡した。

 

「状況は?」

 

「演説壇上及び舞台裏が恐らく全て吹き飛びました、中のスタッフは全滅の可能性大。非常口を死守し避難を行います、このまま警備司令部の指示に従ってっ…!」

 

再び別の方向で2回ほど、ドーンッ、ドーンッという爆発音が響き窓からは煙が見えた。

 

その中である1人のストームトルーパーが呟いた。

 

「あの方向は……警備司令部の方向じゃないか…」

 

素顔が見えているヴァリンヘルト大尉やゼルテック二等兵、他の将校達は一気に青ざめた。

 

冷静だったのはジークハルトとせいぜいブラスター・ピストルの確認をしていたバルベッド軍曹くらいだろう。

 

しかもこれだけには留まらずさらに悪い報告が通信機から届いた。

 

『…こちら……非常口警備隊…非常口が爆破されたッ…!現在非常口は完全に封鎖されているっ!!』

 

この建物の非常口は地下を通じて外に出るタイプのもので道が塞がれてはどちらにせよ使えない。

 

一気に絶望がこの建物全体に触れ渡った。

 

「頭を叩かれ、出口も塞がれた……そして壇上を確実に狙った爆破…これは相当計画の練られた組織的なテロ攻撃だ」

 

ジークハルトはそう断言した。

 

とてもじゃないが民間人1人が計画してやれる規模ではない。

 

「しかし計画犯は逮捕されましたよ?」

 

ヴァリンヘルト大尉はジークハルトに尋ねた。

 

「だが彼が全てだったとは限らん。協力組織または捕まった計画犯とは別の存在の可能性もある……ともあれ、司令系統が回復するまでの間私が指揮を取る」

 

ジークハルトは分隊長からコムリンクを受け取るとすぐに全体に指示を出した。

 

今の状況ではまともに多少なりとも武装していて避難せず部隊と合流出来ているのはジークハルトくらいしかいない。

 

ジークハルトより高官の人物もいたが彼らは避難の誘導や避難に回っておりとても指揮を出せる状況ではなかった。

 

素早く初期命令を出せるのはジークハルトくらいだ。

 

耳にコムリンク付きヘッドフォンを装着しまず名前を名乗る。

 

「こちら第9FF装甲擲弾兵軍団長、ジークハルト・シュタンデリス准将である。現在会場内の警備司令部の沈黙により、私が代理で指揮を取る事となった。また既に非常口が爆破により塞がれている為次の脱出プランをこちらで提示する」

 

ジークハルトはコムリンクから秘密裏に警備兵達に指示を伝達した。

 

「全警備兵及び武装職員は直ちに入口から会場までの避難経路を確保し死守せよ。避難誘導員は現在のルートを変更し直ちに入り口に向かい避難誘導を行え。手の空いた職員は直ちに武装し防御を固めろ。負傷者も同様に、また負傷度合いに応じて各自で運搬の判断を、これ以上の犠牲は出させるな」

 

コムリンクを切ると今度は周りの部隊に命令を出した。

 

「このままこの分隊は会場内の生存者の救助を行え。我々3人は各部隊と合流しつつ指揮所を確立する。任せたぞ」

 

「了解!」

 

ジークハルトは走り出し何も言わずに3人も後に続いた。

 

3人とも持っているのは軽装備のブラスター・ピストルだが今は気にしている余裕もない。

 

とにかく動かねばという使命感が存在していた。

 

「まずどこに向かいますか!?」

 

「脱出口とは反対側の部隊と合流する!それに指揮所近くにはよりまともな武装がっ!」

 

既に目の前では戦闘が始まっていた。

 

警備兵のストームトルーパー数人とそれに将校2人ほどがブラスター・ライフルを手に持って銃撃していた。

 

周りには何人かのストームトルーパーが倒れておりブラスター弾が飛び交っていた。

 

「加勢しましょう!」

 

「ああ…!」

 

バルベッド軍曹の提案と共にジークハルトは戦闘に合流し早速RK-3の引き金を引いた。

 

まず1発の弾丸が命中し反対側にいた灰色のボロ切れのような布を纏った謎の武装兵が斃れた。

 

相手は見た感じ服装に対してかなり整った装備を持っていた。

 

A280、にE-11、更にはE-22など。

 

少なくとも正規軍並のブラスター・ライフルを装備していた。

 

「シュタンデリス准将ですか!?」

 

現場の将校は先ほど顔を合わせたヨーディス大尉だった。

 

E-22ブラスター・ライフルを手に持ちジークハルトの方に顔を向けていた。

 

彼らが話している間にヴァリンヘルト大尉とバルベッド軍曹、ゼルテック上等兵が支援攻撃している。

 

「ああ、それであの敵はなんだ?」

 

「分かりません!私と部下の少尉がこの周辺のパトロールに向かった時突然襲撃されて…」

 

「そうか、ではあの敵を掃討し直ちに私が提示した脱出経路の防衛に向かってくれ」

 

「了解っ…!」

 

ヨーディス大尉は反対側のストームトルーパーに命じてインパクト・グレネードを投擲させた。

 

爆発により敵兵の何人かが負傷しそこに銃弾が叩き込まれた。

 

既にあちこちで銃撃戦が発生しこの会場は相当の演説会場から“()()”へと変貌した。

 

総統暗殺未遂事件、再び第三帝国に混乱が訪れた。

 

 

 

 

-未知領域 シス・エターナル領 惑星エクセゴル-

()()()()()()”ボーラ・ヴィオを破壊しエクセゴルに帰還したルーク達の乗るジストン級は惑星内のドックに戻っていた。

 

だがIG-99Eと一部の部隊は別の艦艇で次の任務に向かい今シディアスの前にいるのはルークとマラ・ジェイドのみだ。

 

勝利し狂気のクローン達を打ち倒してきた彼らは長であるシディアスから言葉を受け取っていた。

 

「よくやった我が友、そして我が腕の1人よ。これで再びシスの敵は排除された」

 

シディアスは笑みを深べ彼らの功績を讃えた。

 

近くにはダークサイドの達人が1人、更にはソヴリン・プロテクターが数人控えている。

 

「余は嬉しく思うぞスカイウォーカー、其方の暗黒面の力、余も感じた。其方の力はいずれ其方の父も遥かに凌駕するだろう」

 

「ほう」

 

シディアスはルークから感じたとされる“()()()()()”を褒め称えた。

 

それも心の底から喜びそれが表情に出ているようだった。

 

そこの見えないものではなくむしろあえてそこを見せているようだ。

 

「其方はもう1人の自分、そう過去の自らの過ちが生み出した者と戦った。自らが愚かにも光明面の力で生み出した過ちとな」

 

シディアスは見事にボーラ・ヴィオで起こった戦いを見抜いていた。

 

彼が直接見た訳ではないだろうがフォースを通じて感じるのだろう。

 

ルークは沈黙を貫いたがその姿が余計にシディアスの笑みを深めさせた。

 

「だが残念なことに其方はまだ、完全に暗黒面に堕ち切ってはいないな。まるで恐れて足踏みをしているように」

 

「では僕の力を、“()()()()()()()()”を証明しようか?」

 

ルークはライトセーバーを手に取り、マントを翻らせてシディアスの方へ歩き始めた。

 

マラ・ジェイドは緊迫の面持ちで止めに入ろうか迷っていたがシディアスは視線で「よせ」と伝えてきた。

 

だがソヴリン・プロテクターやゼクル・ニストらはそうではなかった。

 

ルークの前に立ちはだかり行先を止めようとした。

 

だがルークはフォースの力で無理矢理ソヴリン・プロテクター達を押し除けた。

 

ゼクルもシディアスから直接「控えよ」と言われルークに道を譲った。

 

ルークはゆっくりとシディアスに近づき、ライトセーバーを起動して振れば一撃で絶命させられる距離まで近づいた。

 

「シスは常に2人、それは師殺しの掟でもある。師の息の根を止めるのは巣立ちの第一歩…なのだろう?」

 

ルークは冷ややかにそう言い放った。

 

ルークではないような冷たさを持ちその瞳は黄色く輝いている。

 

まるで憎しみや怒り、絶望を一纏めにしたような色だ。

 

だがシディアスは余裕たっぷりに答えた。

 

「そうでもある、余も自らの師を殺めた。其方が次のシス卿としての全てを継承するのなら余は甘んじてそれを受け入れよう。シスとは余の全てであり余の力はシスの為に存在する」

 

シディアスは笑みを浮かべルークの瞳を覗き込んだ。

 

まるで人の奥底を覗き込むような瞳だ。

 

「だが其方はまだ知るべきこと、やるべきことがある。私を殺すのはその後だ」

 

「まだ私は殺せない」、パルパティーンは思慮深くどこか掴み所のない笑みを浮かべてそう告げた。

 

元々今は殺すつもりのなかったルークも元の場所に戻り張り詰めた空気もエクセゴルの不安定な大気へと消えた。

 

「其方らには次の任務がある。再び向かってもらうところがある」

 

シディアスは間髪入れずに次の命令を彼らに与えた。

 

ルークとマラ・ジェイドは静かにシディアスの声に耳を傾ける。

 

他の何者も、エクセゴルの落雷すらシディアスの言葉を遮ろうとはしなかった。

 

「エクセゴルと同じ、未知領域へ迎え。今度の任務は敵の抹殺ではない、新たな戦士達の“()()”だ」

 

「一体何を育てろと言うんだ?」

 

ルークは単刀直入に尋ねた。

 

「未知領域にチス・アセンダンシーというチスの大国があることは存じておるな?」

 

ルークとマラ・ジェイドは小さく頷いた。

 

以前は秘密主義に鎖国外交を行っていたチス・アセンダンシーも一気に方針を転換してきた。

 

第三帝国、ファースト・オーダーとの中立条約、領土割譲条約を結び未知領域の確固たる主権国家として君臨している。

 

また帝国の亡命者も多く抱えておりその者達の手によって急速な軍拡が進められている事から恐らく旧帝国勢力の中では相当上位に入るだろう。

 

以前から名前だけは知っていたが今では名実ともに未知領域の大国である。

 

「余が創りし帝国と元から密かな同盟にあった。そして今では余の帝国の一部と共に“来るべき驚異”に備えておる」

 

「来るべき驚異…?なんだそれは」

 

「時期が来ればいずれ話す。其方らの任務は一つ、チス・アセンダンシーに設立された“()()()()()()()()()()()()”じゃ」

 

ルークとマラ・ジェイドは一瞬驚いた。

 

古代からフォース感受者の戦士が直接闘争に出ることはあったが専門部隊としての例はあまりない。

 

ジェダイやシスでは勝手が違うし“()()()()()”の騎士達ともまた違ってくるだろう。

 

それこそ尋問官や皇帝の手といった秘密部隊に近いのかもしれない。

 

「チス・アセンダンシーで集められたフォース感受者達はまだ少人数なれど育成すれば強大な我らの力ともなり脅威にも対抗出来る。我々の栄華を甦らせる為にも重要な任務だ」

 

少しフォースに近い者であっても多少訓練すれば並の兵士を遥かに上回る。

 

もしくは軍艦すら地に伏せることすら可能だろう。

 

フォースに限界はない。

 

あるのはその個人の能力と思考だけだ。

 

「其方らにもう1人、“()()()”をつけよう。役に立つはずだ」

 

シディアスはそう告げると手招きしてある人物を呼び寄せた。

 

玉座の奥からシス・エターナル軍の軍服を着て更に黒色のマントを羽織っていた。

 

マラ・ジェイドは見覚えがあったのか少し驚いている。

 

「余の手の1人、マーレック・スティール。優秀なパイロットであり其方らと共に任務に着く」

 

スティールはルークの前に立つと敬礼し握手を求めた。

 

ルークは握手しスティールは何回か頷いていた。

 

「まさかここにいるなんて…」

 

マラ・ジェイドは驚きながらスティールの手を握った。

 

「彷徨っていた私をヴァント元帥がここまで連れてきた。私はまだ、皇帝の手としての務めを果たすつもりだ」

 

暗黒面の使徒の暗躍に終わりという言葉はまだ到底現れないようだ。

 

その様子を見つめながらシディアスは不敵に笑う。

 

帝国の結集の日は近い。

 

彼らであれば成し遂げてくれるはずだ。

 

そう現世にしがみつく最後の暗黒卿は未来に期待を寄せた。

 

 

 

 

 

-コルサント セントラル地区宇宙港-

コルサントの宇宙港というのは基本どこも混雑しており多くの人々が行き交う場所である。

 

毎日数えきれないほどのスター・シップが宇宙港に着港し或いは出港していく。

 

目的地は近場の惑星かもしれないし遠いアウター・リムやミッド・リムから来た可能性もある。

 

今日もセントラル地区宇宙港には多くの船が訪れ多くの人々がいた。

 

だが彼ら彼女らがいつもと違うのはあることに釘付けだったことだ。

 

宇宙港のターミナルの窓から皆釘付けになってある場所を見ている。

 

それは本来代理総統が演説を行うはずだった場所から上がる煙だ。

 

更に放送では『ただいま非常事態が発生しておりスカイレーンの一部が通行停止となっています』とドロイド音声で流されていた。

 

非常事態と間違いないなくこれこのことだろう。

 

人々は動揺しあるいは憶測を立てて自らの思考を張り巡らされた。

 

だが彼ら彼女らの思考と視界は全て目の前の爆発に引き込まれていた。

 

更に宇宙港に駐留する警備のストームトルーパー隊やFFSIO隷下のFFSB職員が訪れた事により余計注目はそちらに行った。

 

一方で市街地では緊急出動した国防軍、親衛隊、FFISO関連の保安部隊が一斉にセントラル地区に集結していた。

 

スカイレーンにはドロップシップ、パトロール・ガンシップ、TIEリーパー、TIEボーディング・クラフト、センチネル級、ラムダ級などありとあらゆる兵員輸送機が護衛機と共に集結し、地上ではウォーカーや兵員輸送機、戦車、スピーダーが集まりストームトルーパーが結集していた。

 

政府や軍の重要施設は重要に警備され特に総統府では厳戒態勢が敷かれた。

 

だがその間に“()()()()()()()”が行動を開始しているとは誰も知らなかった。

 

地下の秘密通路を通り大型のスピーダーでやってきたフードで顔を隠した者達はそれぞれ武器を手にしてスピーダーから降りてきた。

 

密かに裏口や作業員口から宇宙港内に潜入し暗躍し始めた。

 

工具や爆弾などを手に持ち周辺を警戒しながら一斉に政府高官専用ハンガーベイに侵入した。

 

政府高官専用ハンガーベイに爆発物を仕掛けタイマーをセットする。

 

彼らの目的は代理総統の“()()”でありその為にはたとえどれだけの犠牲を出そうと構わなかった。

 

そういう風に教育がなされているしその為にこの数年間育て上げられてきた。

 

手早く作業を行いなるべく警備兵や職員らに見つからぬよう全力を尽くす。

 

無論その途中で敵に見つかることもあっただろうがそれらの不安要素は文字通り“()()”して作業を進めていた。

 

より重武装の者達はハンガーベイ近くの応接室や待合室、コントロール室を徹底的に襲撃し中にいた人物を抹殺していた。

 

個室には突然重火器で襲われ死亡した職員や将兵の遺体があちこちに斃れており彼らはそれを見てもなんとも思わないし喜びも嫌悪の気持ちもなかった。

 

ただひたすら任務の為に、それだけが残っている。

 

感情はほぼ消失しほぼドロイドと変わらないレベルにまでになっていた。

 

だが彼らのターゲットである代理総統の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「こちらチーム・スッタ、ターゲットは見当たらない」

 

攻撃チームの隊長はコムリンクを起動し秘密回線で敵を皆殺したハンガーベイの第四コントロール室から告げた。

 

施設チームからも報告が入る。

 

『チーム・ザガラク、設置を完了した。総統がここにもいないのであれば全て無駄だ。ここを爆破して会場のチーム・キサイの撤退の援護をする』

 

「了解、任務を果たせなかったこと残念に思う」

 

隊長はそう言い残し通信を切った。

 

部下達にハンドサインを出し撤退を始める。

 

彼らは本当に優れた訓練を施されているようで跡を残さず綺麗にハンガーベイを離れ乗ってきたスピーダーに乗り込んだ。

 

彼らが元来た道を戻る頃には既に仕掛けた“()()”は火を吹いていた。

 

突如セントラル地区宇宙港の政府高官専用ハンガー・ベイが大爆発を起こし停泊中の船や職員を巻き添えにして燃え盛り宇宙港からも煙が出た。

 

その衝撃は民間の区画にも影響を及ぼし振動と大きな爆発音が人々の悲鳴と恐怖と混乱を煽った。

 

その過程である一つの言説を生み出した。

 

()()()()()()()()()”と。

 

この言説は瞬く間に広がり一気に不安を増大させ広まらせた。

 

セントラル地区から昇る2つの煙すらこの言説を広めようとしているように見えるほどだった。

 

 

 

 

 

 

『地下通路から敵!!凄い数だ!!』

 

『敵は重火器を持ってる!!このままじゃ対処出来ません!!』

 

通信機からは次々と警備隊の悲痛な叫び声が聞こえた。

 

相手はかなりの数でしかもかなり整った武装を持っているらしい。

 

ジークハルトが今目の前で応戦している敵も一体どこから手に入れたのか、クローン戦争時代のZ-6回転式ブラスター砲を敵兵が装備していた。

 

まず重火器兵を始末するようにヴァリンヘルト大尉らに指示を出し耳元のコムリンクに手を当てた。

 

「煙幕を張りつつ後退して応戦、生存者の脱出ルートさえ確保出来ればそれで構わん。時間を稼げ」

 

『了解…!』

 

その間にヴァリンヘルト大尉が相手にインパクト・グレネードを投げつけ、重火器兵が沈黙したところをバルベッド軍曹とゼルテック上等兵が銃撃して残りの敵兵を掃討した。

 

反対側の通路でもヨーディス大尉とその部下のストームトルーパー達が敵兵を殲滅しさらに奥へ入っていった。

 

流石は|LFFDF《ライプシュタンダルテ・FF・デア・フューラー》のストームトルーパー、単なるストームトルーパーよりも練度が優れている。

 

ジークハルトも指示を出し背後のストームトルーパー達を先行させる。

 

ブラスターを所持しているからとはいえアーマーも身につけていない彼らが先行するのは極めて危険だった。

 

殆んど半壊し、バリケードで身を防いでいた味方のストームトルーパーや将校達に近寄り敵じゃないとハンドサインを出した。

 

ヨーディス大尉の部隊も合流し別のに方向から接近していたストームトルーパーの部隊も残りの敵兵を殲滅して合流した。

 

「友軍部隊を解放」

 

トルーパーの1人が安全を確認し報告する。

 

「シュタンデリス准将…!助かりました…!」

 

中から警備隊の将校が1人現れジークハルトに礼を述べた。

 

彼らは警備隊が保持していた武装類の管理を担っており各所に重武装を配備する間も無く爆発が起きて謎の襲撃者達に包囲されてしまった。

 

数十人の兵士と共に保持していたDLT-19やEウェブなどを用いて暫く武器保管室に立てこもっていた。

 

その間に包囲をジークハルトが利用し逆に四方から部隊を展開する事で敵兵を一気に掃討したのだ。

 

おかげで重武装を敵に渡さずそれでいて敵兵を多く倒せた。

 

立てこもった中で一番偉い将校の階級章は少尉でまだ大分若そうだった。

 

「よく耐えてくれた、おかげで周りの敵を粗方掃討出来た。避難経路の守備隊に合流しろ、各部隊は我々同様に他に生存者や逃げ遅れた一般人の救出に迎え」

 

「了解!」

 

「君達も我々とは別に、少しでも部隊数が多い方がいい」

 

連れてきたストームトルーパー達とも別々に行動させジークハルトはヴァリンヘルト大尉やゼルテック上等兵、バルベッド軍曹らを集めた。

 

すると籠城していた若い少尉だけは途中で立ち止まってストームトルーパーにある持たせた。

 

「准将、せめてこちらを」

 

ストームトルーパー達がE-11やE-22をパワーセルごとゼルテック上等兵やバルベッド軍曹らに手渡した。

 

「ありがとう」

 

「お気をつけて…!」

 

少尉は敬礼し彼も生き残った兵士達を連れてその場を離れた。

 

ジークハルト達は彼らを見送り自分のブラスターの調子を確認した。

 

ジークハルトはE-22を手に持ち装備を確認した。

 

彼がヨーディス大尉から借りていたストームトルーパー達も後退し残るのはジークハルトが連れてきた3人のみだ。

 

「行くぞ」

 

4人はそれぞれバラバラの方向を警戒しながら前に進んだ。

 

敵は既に掃討されてしまったのか或いは全く別の方向にいるのか殆んど遭遇することはなかった。

 

「一体どうしてこんなことに…」

 

ブラスター・ライフルを構えながらゼルテック上等兵はそう呟いた。

 

確かに誰しもここまでの惨劇を予想してはいなかったはずだ。

 

「曹洞を殺す為に我々諸共消し炭にするつもりだったのだろう。しかも連中の装備はかなり整ってる。本気で我々を皆殺すつもりだったはずだ」

 

「まあ我々のお陰で防がれた訳ですけどね」

 

「それに総統はここにはいない、こればかりは奇跡だがな」

 

総統は今頃総統府の地下壕で頑丈に警備されているはずだ。

 

ここでいくらテロ行為を繰り返そうと心理的衝撃はあっても本来の目的を達せない時点で無意味なのだ。

 

するとジークハルトにはある声が聞こえた。

 

小さな男の子の鳴き声だ。

 

ジークハルトは一旦彼らの歩みを停止させると物陰から外を除いた。

 

するとそこには小さなまだ10歳にも満たない男の子が顔中煤だらけになって服もボロボロになりながら泣き喚いていた。

 

ジークハルトにはその姿がある1人の大切なものと結びついた。

 

自分の息子、マインラートとだ。

 

その事を感じてしまった瞬間ジークハルトは誰よりも早く物陰から飛び出し男の子の近くに寄った。

 

「シュタンデリス准将!」

 

ヴァリンヘルト大尉は後に続こうとしたが反対方向から突如敵兵の銃撃を受けて応戦せざるを得なくなった。

 

ジークハルトは急いで男の子を抱き抱えて近くの物陰に隠れると男の子を涙を拭って撫でてやる。

 

「もう大丈夫、大丈夫だよ。必ずお母さんやお父さんの所に連れて帰るからね」

 

誰よりも優しく穏やかに微笑み男の子の悲しみや恐怖を和らげた。

 

その結果か男の子は泣き止みずっとジークハルトの方を見つめていた。

 

銃撃戦は激しさを増しヴァリンヘルト大尉達に合流するのは難しくなっていた。

 

「大尉!そっちはどうにか出来そうか!?」

 

「頑張ってやってみます!!准将はその子を頼みます!!」

 

すぐに状況を判断出来たのかヴァリンヘルト大尉は敵を狙撃しながらそう返した。

 

ジークハルトは再び男の子の方に目を合わせ優しく呟いた。

 

「大丈夫、必ずなんとかするから。もう少しの辛抱だよ」

 

男の子は拳を握り締めて涙を我慢し力強く頷いた。

 

強い子だ、とジークハルトは再び頭を撫でてやった。

 

するとジークハルト達の方にも敵がやってきた。

 

3人ほどのA280Cブラスター・ライフルを手に持った敵兵がよく分からない謎の言語でジークハルト達に詰め寄った。

 

Qorit!

 

ジークハルトは男の子を後ろにやると素早くE-22を構えて敵兵に向けて撃ち放った。

 

ダブル=バレルのE-22ブラスター・ライフルは敵兵を素早く撃ち倒しダメージを与えた。

 

2人の敵兵は即死し残りの1人も反撃出来ずに腹部と片足にブラスター弾を喰らって倒れた。

 

だが完全に殺しきれないのがここでは仇となった。

 

倒れた敵兵のローブから何かベストのようなものが見えた。

 

ジークハルトにはこれがなんだか想像が付く。

 

「しまった!!」

 

ジークハルトは急いでE-22でトドメを刺そうとした。

 

だが既に時遅し、敵兵は懐からスイッチを取り出して最期の力を使い言い放つ。

 

…Asha…Jen'ari…!!

 

最期にそれだけ言い残すと敵兵はスイッチを押して体に巻きつけた爆弾を起動した。

 

敵兵は自爆しその爆発のエネルギーがあたりに放出される。

 

「クソッ!」

 

ジークハルトは男の子を安全な方へ突き飛ばすと自らも伏せて少しでも爆発を軽減しようとした。

 

だが既に間に合わない状態まで来ていた。

 

眩い光がジークハルトに迫り来る。

 

遠くでヴァリンヘルト大尉が「准将!!」と銃撃戦の中叫んでいる声がだんだん遠くなっていく。

 

衝撃で吹き飛ばされそうになるジークハルトはふとあることを思った。

 

ようやく自分に“()()()()()()()()”。

 

彼の意識は過去絵と遡った。

 

自らを狂わせたこの光と同じような過去に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体いつからだろうか。

 

私の記憶が鮮明になり物心というものがつき始めたのは。

 

今ではすっかりその時の記憶すらも消え果てた。

 

母は幼くして死んでしまった。

 

母の顔はよく覚えている、とても美しい笑顔を向けてくれた。

 

母の声もよく覚えている、とても優しい暖かさを感じる声だった。

 

母の名前は当然覚えている、決して忘れることはないだろう。

 

だがそれだけ覚えていても母と何をして過ごしていたか、何をされて嬉しかったか、なんの手料理が好きだったかは全く覚えていない。

 

だから私の中では母の存在はとても朧げなまるで物語の中に存在するような何処か実感のない存在だった。

 

むしろ包帯姿のまま出た母の葬式の日の出来事の方がよく覚えている。

 

母の遺体すらなく涙すら出ない、まるで心臓を何度も鋭利な刃物で突き刺したような気分にその日は見舞われていた。

 

私にとってはもうただ一体いつの日か何処かも分からない場所で父バスティと共に微笑み優しく「ジーク」と語りかけてくれる母の存在しか覚えていなかった。

 

気がつけば母の温もりは何処かすっぽりと抜け出てしまった。

 

ジークハルト、という名は父がつけたそうだ。

 

何処かのある言語の一つである“Sieg(勝利)”という意味に強い、硬い、もしくは心、忠誠心と言った意味の“harti”を組み合わせて“Sieghart”という名前にしたとフリズベン将軍から聞いた。

 

当時はクローン戦争の激化も相まって絶対的な勝利を求めたからこそ名付けられたのだという。

 

その由来の意味を父から聞いていない通り私と父の関係は何処か冷え切ったものになっていた。

 

私は父のことはよく覚えている。

 

だが母が健在であった頃のあの同じように暖かい笑みを浮かべて優しく語りかけてきた父の姿は母の存在同様薄れ始めている。

 

私が父親を想像して思い浮かぶのはあのノートハーゼンの邸宅で小さな背中だけを見せ、ずっとホログラムか何かを見つめる姿だけだった。

 

あの見窄らしい悲しさと絶望の象徴とすら言える姿だけがジークハルトには思う浮かばれた。

 

本当はそんな人ではなかったのに、私は過去の暖かな家族の記憶を全く思い出せない。

 

世間ではバスティ・シュタンデリスは“()()()()()()()()()()()()()”として扱われている。

 

だがそれはあくまで半生の話であってもう片方の半生は暗く絶望に閉ざされた明るさとや英雄神話とは程遠い末路とすら言えるものだ。

 

私の母は病で死んだのではない、殺されたのだ。

 

今より23年前のバーチ・テラーの反乱は私や父に大きな傷を与え母の命を奪った。

 

ある旅客船に仕掛けられたバーチ・テラーの反乱分子のテロに巻き込まれ母は死んだ。

 

その時私も同じ船に乗っており怪我はしたが幸いにも命だけは助かった。

 

無論助かったのは私の命だけで母の命は奪われ、私も脳に多少のダメージが残ったらしく過去の記憶の一部が飛んでしまったと医師は話していた。

 

だから私は母や父と過ごした日々を、私が両親から受けた暖かい生活と愛情を殆ど思い出せない。

 

母の死は強烈で大きな傷を残したがそれでもだ。

 

頑張っても薄っすらした記憶しか出てこない私にはどうしても父のように生力を奪われ、深い絶望感に堕ちるような事はなかった。

 

今思えばそれが一番の悲劇なのだろう。

 

私は一度、まず欠けた人間となった。

 

それでも薄っすらとした愛情の日々が残っただけでも奇跡なのだろう。

 

完全に記憶を失い両親のことを全く覚えていなかったとしたら私はより欠けた人間となっていたはずだ。

 

人の痛みも分からず今のようにはなっていないかも知れない。

 

それこそドロイドのような冷たい人間になっていただろう。

 

唯一残った母の笑顔と優しい声が私を繋ぎ止めてくれていた。

 

だが父はそうではなかった。

 

母の死、そしてバーチ・テラー討伐以降父の活力は急速に失われ3年のうちに軍を辞めてしまった。

 

私が10歳の時から父は突然自宅の自室に籠り、そこから出てこなくなった。

 

私と話すことも少なくなり徐々に痩せこけ筋肉が落ち、目の下には隈が、瞳からは光が、声音からは活力が失われた。

 

父は戦中の英雄であり准将として様々な職についてきた。

 

だからそれまでの貯金と年金により私達は暮らせた。

 

だがその反面、父は自らを明確に責めるようになり過去に存在していた父はどんどん薄れていった。

 

私は怖かった。

 

このまま父が変わり果ててしまうこと、そして父すらも私の目の前から消えていってしまうことを。

 

父はずっと「私に価値などなかった、何も出来ず…何も守れず…」と口癖のように呟いていた。

 

幼い私は考えた。

 

どうすれば取り戻せる、どうすれば父をあの眩しい笑顔に出来ると。

 

そう常に考えノートハーゼンの市街地に貼られているある張り紙を見つけた。

 

そこにはオーラベッシュで『帝国ロイヤル・ジュニア・アカデミー募集』と書かれていた。

 

遠い昔、母が死ぬ前に父から聞いたことがある。

 

「私が通っていたコルサントのジュディシアル・アカデミーはすっかり変わってしまったなぁ。今じゃ帝国ロイヤル・アカデミーだなんて、随分と名門になったものだ」と。

 

ジュニアと書いてあるがこのアカデミーは父も通った場所なのだ。

 

私はまだ世間も未来も知らない頭である一つの答えに辿り着いた。

 

私がこのアカデミーに入り父と同じように軍人となって多くの人々を救い父がやってきた道は間違っていなかった、無駄じゃなかったと父と父の愛した母の息子である私が証明すれば父もきっと前を向いてくれるはずだ。

 

そうればきっと父も昔のような笑みでいてくれる。

 

私の幼く、そして甘い判断はすぐに決断した。

 

丁度進路を決めかねていた頃だ、当時の私の学力であれば十分ロイヤル・アカデミーとはいえなんとかなりそうだった。

 

なんともならないのなら死ぬ気で勉強すればいいとも思っていたが。

 

だが一番の障害は当時の私にとっては驚くべきことに父の反対だった。

 

父はそれまで発したことのないような強い口調でジュニア・アカデミーの入学に反対した。

 

特に悲しみに暮れた父の姿ばかりずっと見てきた私にとっては今でも衝撃的で鮮明に覚えている。

 

「お前は絶対にダメだ、私の後など歩んではいけない」だとか「もっと他に道はある、考え直せ」だとか「どうして自らの命を危険に晒すんだ」とか私が怯えて何も言えなくなる程言われた。

 

その様子を見て父はそれ以上言わなかったが私の決意を砕くことも同時に出来なかった。

 

だが父の手助けが借りれない以上入学の様々な手続きをする事が事実上不可能となってしまった。

 

そこで私は父の親友であったフリズベン将軍とバエルンテーゼ上級大将に力を借りた。

 

2人は最初父に何か言われたのかそれとも自主的なのか私に全く協力使用しなかったが何度も頼み込んだ事によって折れてくれた。

 

2人の力を借りて様々な問題をパスした私は遂に帝国ロイヤル・ジュニア・アカデミー入学の切符を掴んだ。

 

父は応援もしてくれなかったし何も言わず最後まで反対だったが陰ながら見守ってはくれていたのだろう。

 

尤も私が家を出てコルサントに行く時、父は他の親族やフリズベン将軍らと違って見送りにも来てくれなかったが。

 

アカデミーの授業内容はどれもまだ10代前半の少年少女達に教えるには厳しく難しいものばかりだった。

 

私はヴァント家やホルト家、ワーミス家の何世代にも渡る世襲軍族でもなければ脅威的な速度で卒業し大提督にまで上り詰めたチスの名将ほど頭の切れる人物ではない。

 

ひたすら喰らいつくしかなかった。

 

幸いにも私は少なくとも内容を理解出来る知能と喰らいつく体力はあった。

 

だがそれ以上に辛かったのはやはり今でも思い出す父の姿であり、母と父が健在する夢と父に見放されドン底に落ちる夢をほぼ交互に見ていた。

 

暫くは本当の目的も忘れずっと憂鬱な気分に囚われていた。

 

心が折れそうだった。

 

やがて悪夢の方が見る回数が増え精神的にも参り始めていた。

 

やはり私ではダメなのか、父の言う通りになってしまうのか。

 

「そんな事ないさ、ジークは一度明るい未来に進めた。きっと願って進み続ければきっと叶うはずだ」

 

アカデミーの寮で彼は私にそう言った。

 

彼は常に明るく前向きな性格で未来は常に良い方向に進むと信じていた。

 

ゲアバルド・グートハイル、彼と私とそしてアデルハインはずっと同じ寮だった。

 

何度も話し合ったし時には衝突した事もある。

 

それ以上に互いに励まし合い切磋琢磨し時には悩みも聞いた。

 

「そうかな…進んだ先が真っ暗なだけだった気もするけど…」

 

あの頃の私は悲観的な思考となりゲアバルドの言う言葉にまだ共感出来ていなかった。

 

「そうそう、ゲアバルドの言う通りだよ。僕だって昔に比べれば前に進んだからここまで良くなったと思うし」

 

こう言う場合アデルハインはゲアバルド側で私を励まそうとしていた。

 

アデルハインは聞いた話だと戦災孤児らしくゲアバルドも決して恵まれた生活を送っていたわけではないらしい。

 

彼らに比べたら私はまだ恵まれた方だった。

 

それでも失われたものばかりだったが。

 

「僕が進んでも父さんが分かってくれなきゃ意味ないよ…」

 

「うーん…確かにそうだけど……そこまで思い詰める必要はないんじゃないか?どこにだって“希望”はあるもんだ」

 

ゲアバルドはそう微笑んだ。

 

彼はまるでこの世の光を全て詰め込んだかのようにどこか光り輝いて見えた。

 

悲観的だった私もゲアバルドの言葉を聞いてどこか気が楽になった。

 

もしかすると“()()”と呼べるだけの友が初めて出来たのはこのアカデミーで7年間苦楽を共にした同室のゲアバルドとアデルハインかもしれない。

 

彼らのおかげで私は前に進めたしそれ以来悪夢も見なくなった。

 

むしろ彼らと共に過ごす夢も増えたような気がする。

 

私はゲアバルドの言葉を信じていた。

 

きっと願って進み続ければきっと未来は良い方向に行くのだと。

 

希望というものは確かにあってやがていつかは叶うのだと。

 

卒業の後、やはり父には厳しい言葉をかけられたし将校になった数年後にヤヴィンの戦いで帝国は大転換機を迎えた。

 

それでも絶望や諦めという言葉はなかった。

 

ゲアバルドの言葉があってしかも私にはゲアバルドやアデルハインら仲間がいてフリズベン将軍やバエルンテーゼ上級大将という頼れる上官がいた。

 

やがて私も部下を持つようになり100人以上の兵士が私を上官と仰いだ。

 

やがて帝国はマコ=タやホス戦で勝利を重ねていった。

 

その時の私はやはりゲアバルドの言った通り希望はあって願えば未来は良い方向に進むのだと感じた。

 

帝国は負けないし帝国は反乱者を打ち倒す。

 

勝利という希望は近くにあるのだ。

 

その頃に私の息子は、マインラートは生まれた。

 

丁度ノートハーゼンに帰還していた為我が子が生まれる瞬間に立ち会う事が出来た。

 

それもゲアバルドやアデルハインと一緒にだ。

 

その時ゲアバルドから聞かされた話を今でも覚えている。

 

病院の窓際で彼はふと隠していたことのように呟いた。

 

「…前にも言ったけどうち貧乏でさ、いい暮らしをするには軍に入るしかなかった」

 

「ああ、聞いてたよ。今ではそれが出世を期待されてる将校だもんな」

 

互いに微笑を浮かべそれからゲアバルドは目線を上げて口を開いた。

 

「俺には選択肢が軍隊の道しかなかった。俺は今ならそれでも良かったと思うし別に間違いでもなかったと思う。いい仲間やいい光景に立ち会えたし」

 

ゲアバルドはふとユーリアと生まれたばかりのホリーがいる病室の方に振り向いた。

 

私はゲアバルドが振り向いた方向に何がいるかを知っていたし嬉しかったから微笑を浮かべてただ小さく頷いた。

 

「だがそうとは思えない奴もきっといるはずだ。銀河は広い、考えてる事はみんな違う。俺が良かったと思うことも別の誰かはそうではない」

 

「…そうだな、もっと自由に仕事を選べたら…と思っていた奴を私も何人か見かけてきた。帝国軍は誰しもが熱意と愛国的な何かで突き動かされている訳じゃない」

 

私だって部隊を率い色々な人間を見て色々な戦いを経験してきた。

 

まだまだ若輩者だったが現実を理解するには十分だった。

 

帝国に対する忠義は変わらないが現実も受け入れるしかなかった。

 

「俺は、俺のような選ぶ道が一つしかなかった者達をなるべく減らしたい。軍人が掲げるにしては少し幻想的過ぎるかもしれないが選ぶ道が限られていて望む未来に進めなかったなんて悲しい光景を出来ればなくしたいんだ」

 

ゲアバルドはどこか遠くを見つめ彼の思いを語った。

 

ジークハルトは黙って話を聞いていた。

 

ゲアバルドはやはりこの世の光を集めた私にとっての聖人のような人間だった。

 

私のないものを全て持っているし私になかった物をくれた。

 

思えば私にはこの時まで軍人らしい思想や考えというのはなかった気がする。

 

ただ父のやったことを証明したいという感情に突き動かされていた。

 

余計にゲアバルドが光り輝いて見える。

 

彼はまるで本当に輝かしい未来を見ているかのようだった。

 

「まあ高々一介の軍人が何を出来るんだと言われればそれまでだけどな」

 

「いいじゃないか、これもきっと帝国の繁栄に役に立つ。それに今はまだ尉官だがやがて私達なら佐官、将官へと上がっていけるはずだ。そうしたら出来ることも広がる」

 

「ジーク…」

 

「私はお前の考えに賛同するよ。前に言っただろ?願って進み続ければきっと叶うと。私はお前の考えを信じている、私達はきっと進み続けることが出来るさ」

 

ゲアバルドはどこか嬉しそうに頷いた。

 

彼は拳を差し出してきた。

 

私は彼の拳を自らの拳と合わせ誓いを立てた。

 

「ああ…!そうだな…!ジーク…!」

 

私も微笑を浮かべ頷いた。

 

「ああ、だがまずは目の前の敵を片付けないとな。反乱軍は我々の代で倒す」

 

「ああ…!」

 

誓いを立てた我々はこの時は反乱軍は倒せる、すぐに滅ぶと思っていた。

 

そしてその先には明るい未来が待っていると信じていた。

 

未来はきっと、私やゲアバルド、アデルハインたちが作っていく未来はきっと、マインラートが歩んでいく未来はきっと…。

 

「ああ……」

 

雨が降っていた。

 

降り止まない雨が。

 

ノートハーゼン宙域の国境線に属するこの第十三外縁衛星は時折雨が降る。

 

しかもこの雨は落雷と共にあり周りで作業する将兵は皆雨具を装備していた。

 

だが、目の前に転がっている“もの”達は雨雲なければ雨に打たれっぱなしだった。

 

私はただ、愕然として立っていた。

 

悲しみ、憎しみ、衝撃、嗚咽、喪失、全てが一つとなって心に大きな穴を開けた。

 

あの時の私の目の前にはかつて私の部下だったものの遺体が散らばっていた。

 

ブラスター弾に斃れ、爆発に巻き込まれて腕や足が吹き飛び、砲弾によって肉片しか残らなかった私の部下達の遺体が近くのテントに運ばれていた。

 

皆私の部下だ、数日前まで共に戦場を駆け苦楽を共にした大切な部下だ。

 

たとえストームトルーパーのヘルメットを被っていても、帝国軍の将校の軍服を着ていても、ウォーカーや車両の整備を行う地上軍クルーの装備であってもだ。

 

多過ぎる部下がこの衛星を守る為に死んでいった。

 

そして不在だった私の代わりに部下達を率いていたのは…。

 

「ああ…………ああッ……!!」

 

私はずっと雨に打たれながら震えながら声を出し地面を見ていた。

 

砲弾の破片が少し散らばっているだけでそこに遺体自体はなかった。

 

だが“()()()()”となるものが私の目の前に落ちている。

 

彼が、彼がノートハーゼンに帰還した時とある少女から貰った小さなペンダントの一部が落ちていた。

 

しかもそのすぐ近くに偶然なのか必然なのか彼がよく使っていたブラスター・ピストルも地面に突き刺さっていた。

 

彼はいくら探してもいなかった。

 

生き残った部下達の証言では彼がいた指揮所に砲弾が直撃し戦死したらしい。

 

私は信じていなかった。

 

きっと生きている、彼の言う通り“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

だから諦めなかった、草の根を分けても探そうとした。

 

未来は希望に満ち溢れているはずだからその未来には彼もいるはずだ。

 

たとえエンドアで帝国が再び敗北しようと、帝国が崩壊し内乱状態となろうと。

 

彼はいてやがて良い未来が訪れるはずだ。

 

そう信じていた。

 

だが今目の前に落ちているものがその甘い幻想を砕き壊した。

 

「“()()()()()()”……?」

 

私はその時落ちていたペンダントとブラスター・ピストルに向けて声をかけた。

 

このペンダントはゲアバルドが貰ったもので、このブラスター・ピストルはゲアバルドが愛用していたものだ。

 

2つとも煤汚れて砲弾の破片と共に地面に落ちて突き刺さっていた。

 

ただ落ちているだけなのに、ただ刺さっているだけなのに。

 

私は膝を付いて震える手でペンダントを掴んだ。

 

まだ生きているかも知れない、そんな幻想は存在しない。

 

それが分かった瞬間私の全身から力が抜け落ち自然と両目から涙がこぼれ落ちた。

 

声は出なかった。

 

声にならない嗚咽が掠れ出て喉が閉まった。

 

その反面涙は大滝のようにこぼれ落ち、止まることはなかった。

 

私は失ったのだ、大切な“()()”を。

 

私は失ったのだ、大切な“()()()”を。

 

私は失ったのだ、私の“()()()()()”を。

 

私は失ったのだ、私達の輝かしい“()()”を。

 

結局、父の言った通りになった。

 

何が出来た?

 

何を守れた?

 

何を得た?

 

答えは簡単だ。

 

何も出来なかった、何も守れなかった、何も得なかった。

 

父と同じ道をそっくりそのまま通った。

 

父の言うことは正しかった。

 

私は痛感した、私が進んだこの道は“()()()()()()”。

 

ふと卒業式の後、最後に父と会った時のことを思い出した。

 

父からは厳しい言葉ばかりで見向きもされなかったが最後に一言だけ面と向かって、瞳を合わせてこう言われた。

 

「お前まで…私のようにならないでくれ」と。

 

ああ、すまない父さん、“()()()()()()()()”。

 

私は地獄を、父と同じ地獄を歩んだ。

 

私が犯した過ちの代償は大きすぎた。

 

私が率いていた大隊の半数が死に、副大隊長と多くの将校を失った。

 

中には全滅した構成小隊もあった。

 

100人を軽く超える多すぎる部下が死んだ。

 

単に私の責任だ。

 

私が辞令など貰わずに行けば、或いはもっと早くに救援に向かっていれば。

 

最初からより多くの部隊を配置しておくよう進言しておけば。

 

いや、違う。

 

最初から私が“()()()()()()()()()()()”、彼ら彼女らは死ぬことはなかったはずだ。

 

ゲアバルドだって、私の下にいなければきっと今も生きていたはずだ。

 

私の過ちの対価を支払ってこの世から消えた、遺体すら残らなかった。

 

私のせいだ、私が殺したも同然だ。

 

私の部下達は優秀で死んでもなお任務を果たした。

 

この衛星を新共和国軍の魔の手から防いだのだ。

 

任務は成功した、部下達は勝利と共に死んだ。

 

では何故死んだ、勝利したのにも関わらず。

 

新共和国軍のせいか?いや、違うだろう。

 

部下達が死ぬ原因は決まっている。

 

指揮官()のせいだ。

 

彼ら彼女らを殺したのは私だ。

 

みんな地獄を見た、生き残った者達も。

 

私が最初に地獄へ突き落とした者達だ。

 

それ以来だろうか、再び悪夢を見るようになったのは。

 

今度は父の夢ではなかった、死んだ部下達の夢だ。

 

荒野に私が立っていて周りには夥しいほどの死体が転がっている。

 

その顔は痛みを込めた苦痛だったり絶望を含んだ虚無だったり色々だ。

 

血や土がついていたり或いはついておらず綺麗なままだったり。

 

しかしここに転がる死体の顔は誰1人明るい顔で死んではいない。

 

皆顔が見える、みんな私の部下達の顔だ。

 

私は逃げるように走った。

 

だがそこに死体の山で作られた壁が生まれた。

 

「ああっ……!ああああッ…!!」

 

顔を背けようとしても背けることは出来ない。

 

これは全て私の罪だ。

 

その天辺にはやはり私の親友もいた。

 

親友だけはまだ生きているようで私に向かって空な瞳で血を垂らしながら口を開いた。

 

「……ジー…ク……」

 

「ゲアバルド…?ゲアバルド…!!」

 

私の返答にゲアバルドは答えることはなかった。

 

「どう…して……」

 

どうして?どうしてこうなったのか。

 

それは決まっている。

 

私のせいだ。

 

ヒルデンロード元帥が新共和国に対し講和した後も私は軍に残った。

 

むしろ残らされたのだろう。

 

中佐となり私は連隊長という新たな肩書きを得た。

 

気がつけば再び人の上に立っていた。

 

こんな私が、過ちばかりで部下を地獄に突き落としていく私が。

 

こんな私が帝国軍にいていいのか。

 

ゲアバルドが、あの壮大な考えと夢を持った男がいた、勇敢な多くの将兵がいた、私とは違って少ない犠牲で最大の成功を掴めたこの軍に。

 

私は有能ではない、むしろ無能者だ。

 

人を騙し続けている。

 

だが軍を辞めることも私には許されなかった。

 

退役しよう、家族と共に生きよう、私の連隊はアデルハインに任せよう、何度もそう思った。

 

そう思う度に脳裏にチラつくのだ。

 

死んだ部下達の顔が、あの光景が、“()()()()()()()()()”。

 

希望はなかった、明るい未来もなかった、願ったことが叶うこともなかった。

 

だが進み続けることをやめていいのか。

 

あそこで死んだ者達の無念や抱え込んでいた思いから目を背けて1人逃げていいのか。

 

彼ら彼女らはどうなる、誰があの哀れな者達の思いを覚えている。

 

誰がそれを晴らすのだ。

 

殺した張本人が1人のうのうと生きていていいのか。

 

いいやダメだ。

 

罪を償う為には、報いる為には未来へ進み続けるしかない。

 

贖罪を果たす為にはそうするしかない。

 

死人に囚われた、だがそれでよかった。

 

そうでもしなければ私は報いる事が出来ないのだから。

 

そんな私に声が掛かった。

 

まだ“()()()()”だったシュメルケ元帥が新しい親衛隊の制服と共にやってきたのだ。

 

彼は私に「親衛隊に入らないか?」と告げてきた。

 

私はシュメルケ元帥がチェンセラー・フォース、後の“()()()”に誘う理由を尋ねた。

 

すると元帥はさも簡単だと言わんばかりに答えた。

 

「だって君は優秀で経験もあってそれ以上に“()()()()()()()()()()()()()”」

 

「えっ?」

 

「君自身は自分の事だから分からないだろうが君は確かに“()()()()()()()()”。何かに囚われているがそれ故に絶対の折れない、君は最強だ。新共和国を下すことも可能だろう」

 

シュメルケ元帥は私を見抜いていた。

 

私に取り憑いた、私のうちから湧き出る何かを。

 

「まあ考えるだけでもいい、だがこのまま国防軍に残っても良いことはないぞ。協定に縛られた国防軍に自由はない、何かを晴らしたいなら…この新たな軍に入る事をお勧めする。それでは」

 

そう言い残してシュメルケ元帥はその場を離れた。

 

何かを晴らしたいのなら、つくづく自分でも気づかないものすら見抜かれていたようだ。

 

その直後にバエルンテーゼ上級大将からも同じように勧誘があったが既にこの時私の道は決まっていた。

 

私は親衛隊に入った。

 

帝国軍の軍服を脱ぎ捨て、この黒い親衛隊の制服に身を変えた。

 

私に帝国軍の軍服は高価過ぎる、この制服で丁度良い。

 

やがてヒルデンロード元帥が死に代理総統が現れると我々は本当に“親衛隊”となった。

 

私に正規の軍隊など似合うはずもない、私がいるべきは死が最も近いこの場所(親衛隊)だ。

 

私が親衛隊にいる理由はここにあった。

 

本当は私1人で移籍するはずだった。

 

しかし驚くべきことに私が率いていた連隊とアデルハインまでもが私に続いて親衛隊に移籍した。

 

私は最初止めたがどうやら彼らは、特に大隊の頃から共に戦っていた部下達は“()()()()()()()”。

 

私は罪の意識を他者に伝染させてしまっていたようだ。

 

親衛隊に移籍と同時に私の連隊は名前が変わった。

 

新規の将兵も連隊に編入されて“第6親衛連隊”という名称になった。

 

新たに航空大隊のユニットが付き、そこでスカリフで助けたパイロットでノートハーゼンで何度も共に戦ったハイネクロイツと合流した。

 

今でも覚えている、私が連隊の部下達に初めて演説を行った時のことだ。

 

有象無象の将兵が同じ黒い軍服を身につけている。

 

「私がこの第6親衛連隊、連隊長のジークハルト・シュタンデリス中佐だ。諸君らの中には既に私と共に戦った者も多くいるだろう。そして我々はこれから必ず“()()()()()()()()()()()”」

 

最初に私はそう宣言した。

 

死んでいった者達の、ゲアバルドらの無念を晴らす為にはまず新共和国を打倒することだ。

 

まずはそれが死んでいった者達への手向となるだろう。

 

「我々は前内戦で多くの同胞を失った、そして我々は生き残った。我々はただ生き残ったのではない、我々には死んでいった者達へ報いる使命と共に生き残ったのだ」

 

そうだ、報いなければ彼ら彼女らの死は無駄死にとなる。

 

絶対にそうはさせてはならない。

 

それだけは避けねばならないのだ。

 

「今はまだだがそう遠くない未来我々は必ず報いの為の行いをする、その時が我々の初陣となるはずだ。我々が勝利すればまず一つ同胞達に報いる事が出来る」

 

全ての将兵が私の方向を向いていた。

 

皆が同じ思いで、ここに立っている。

 

やがてそうではない者も大勢この連隊の中に入ってくるだろう。

 

恐らく私は彼らも地獄に突き落とすのだ。

 

そうして私の部隊は結束してく。

 

最悪の方法だが私にはもうこれしか残されていなかった。

 

ゲアバルドのように器用には出来ない。

 

「そこから我々は始まるのだ、我々の……我々の“未来”が!我々の未来が始まる」

 

本来いう筈のない言葉が出てきた。

 

ゲアバルドは何度も口にしていた単語でジークハルトにはこの単語がある人物を想起させた。

 

我が愛おしい息子マインラート。

 

あの子は私の未来だ、私がゲアバルドと共に失った未来なのだ。

 

あの子なら私や父とは違ってまだこの地獄に足を踏み入れることはないはずだ。

 

あの子なら大丈夫、もしそうでなければ私以外の道に導いてやればいい。

 

私の後は歩ませない。

 

「散っていた過去の同胞と我々を迎えようとする未来の為に諸君らの努力を期待する」

 

私は話を終えた。

 

部下達は皆敬礼し、私も敬礼を返した。

 

アデルハイン、ハイネクロイツ、そして新たにここに2人の将校が加わる。

 

1人は私の副官でもう1人は艦長。

 

ここから始まった。

 

私の償いと未来の為の戦いが。

 

この戦いに終わりはない。

 

私が死を迎えるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……将!!……デリス准将!!……シュタンデリス准将!!」

 

ジークハルトの目が徐々に開き砂煙が漂う会場と体を揺さぶるヴァリンヘルト大尉の姿がまず瞳に映った。

 

「たい…い…じょう…きょう…」

 

「私も無事、上等兵も軍曹も貴方が守った男の子も無事です!!負傷者はシュタンデリス准将のみ、そして遂に“救援が来ました”!!」

 

ジークハルトが全てを言い終えるまでもなくヴァリンヘルト大尉は全てを報告した。

 

一体どれだけの時間が経ったのかまだジークハルトには分からないがヴァリンヘルト大尉は救援が来たと言っていた。

 

その証明のように周りには先ほどまで存在しなかった警備隊とは別のストームトルーパーやFFISOの保安局員などが隣の通路を走っていた。

 

そしてある1人の男がジークハルトを覗き込んできた。

 

「意識が戻ったようですね」

 

フリシュタイン上級大佐だ。

 

すぐにゼルテック上等兵とバルベッド軍曹も近寄ってきて「准将!」とジークハルトに声をかけてきた。

 

「傷は大したことありませんが立てますか?」

 

「ああ……身体は痛むが気を失っていただけだ」

 

ジークハルトはヴァリンヘルト大尉らに支えられながら立ち上がった。

 

辺りを見渡せば既に先ほどまで戦っていた敵兵の姿は見えず完全武装のストームトルーパーや保安局員の姿の方が目立っていた。

 

「シュタンデリス准将、貴方のおかげです。貴方の指揮のおかげで司令塔を失った警備隊は混乱せずにこの未曾有のテロに対応出来た」

 

「…私よりも私の命令を素直に聞いてくれた警備隊の面々に言ってやって欲しいですね…それで、一体いつから?」

 

ジークハルトはフリシュタイン上級大佐に尋ねた。

 

ジークハルトが覚えている限りでは彼はこの場にいなかったはずだ。

 

「貴方が気絶してからわずか数分後ですよ。先行突入隊として我々親衛隊とFFISOの武装警察が突入し内部のテロリストどもを制圧した。その間に貴方ともう1人の生存者を守っていたヴァリンヘルト大尉らを私の部下の一部隊が発見したのです」

 

「おかげでなんとか助かりました……あのままE-22を2丁同時に撃ち続けるのは多分無理でした」

 

「ええ、准将もご無事で何よりです」

 

ヴァリンヘルト大尉に続いてゼルテック上等兵もそう声をかけてくれた。

 

後ろでバルベッド軍曹も頷いている。

 

「ではもう建物内は?」

 

「制圧しましたよ、親衛隊による正面突入と国防軍のドロップシップによる空中突入よって残りのテロリストは全て掃討しました。総統を狙う不届者の命はもうありません」

 

「そうか…」

 

ジークハルトはホッと一息胸を撫で下ろした。

 

爆風に巻き込まれて気絶してしまった為あまり実感が湧かないがなら良かった。

 

あの男の子も生き残っていたようで本当に何よりだ。

 

「民間人への犠牲は最初の爆発で負傷した時のみでテロリストに殺害された者は1人もいません。警備隊の防戦と貴方の指揮の結果です」

 

「それは良かった、何よりだ」

 

それでもあの爆発の時点で会場にいた一般聴衆客の多くが負傷し或いは死亡した。

 

あの爆発を防げなかったというのは本当に悔しい。

 

余計な犠牲を生み出してしまった。

 

「総統閣下は今総統府の地下壕で我々が厳重に警護していますのでご安心を。まあシュタンデリス准将はご存知でしょうが」

 

事前にジークハルトだけは総統が遅れてくることを知っていた。

 

本来なら放送が流れてその時に全員が知る筈だったのだが爆発によって掻き消されてしまった。

 

だが恐らくそれ以外の危険もあった筈なのでひとまず総統の命が無事なのは安堵といったところだ。

 

「少し、付いてきてください」

 

ジークハルト達はフリシュタイン上級大佐に手招きされ建物の中を抜けて外へ出た。

 

辺りを周り込みある場所に辿り着いた。

 

「ここは…」

 

ジークハルトには一瞬で察知がついた。

 

ここだけ爆発の影響で屋根も外壁も全てが吹き飛びぐしゃぐしゃにひしゃげている。

 

辺りをFFISOの保安局員が取り囲んでおり緊張が立ち込めていた。

 

「あなた方が見ていた壇上の裏側です。重点的に秘密裏に爆弾が仕掛けられていたようでこの有様です」

 

惨劇という言葉をこの建物が物語っている。

 

中は爆発の影響で黒く煤だらけになっておりもう何も残されていなかった。

 

「ここに、総統がいなかったら良かったがもしいたら…いやもう既に手遅れか」

 

「はい、中にいた全ての職員が即死したらしく…まだ遺体も残っていないと」

 

ヴァリンヘルト大尉は険しい表情を浮かべていた。

 

ジークハルトも目を潜めてステージ裏を凝視した。

 

「この事件は我々の捜査能力と警備能力に大きな汚点を残すと同時に我々に対する大きな挑戦という風にハイドレーヒ長官は受け取っています、無論我々も」

 

フリシュタイン上級大佐は普段と変わらぬ瞳で、普段と変わらぬ表情で、普段と変わらぬ声音でそう呟いた。

 

だがジークハルトにはよく理解出来る。

 

彼らが次にやることを。

 

「我々はこの事件を受けて本格的に対コルサント内の保安作戦に移るつもりです。我がFFISOの総力を用いて」

 

確かにテロリストを殲滅するのは彼らの役目だ。

 

だがそれ以上に地獄が生まれるのはまず間違いない。

 

夥しいほどの血が流れる。

 

ジークハルトには言わずとも理解出来た。

 

彼らは本気だ、第三帝国の為にアンダーワールドを地獄に変えるつもりだろう。

 

「これが我々としての今回の死者に対する手向であると考えています。我々は今回の犠牲者に報いなければならない。貴方もそう思うでしょう?シュタンデリス准将」

 

フリシュタイン上級大佐はジークハルトの方を向き彼にそう投げかけた。

 

ジークハルトは決してその問いに答えることはなかったが既に己の中での答えは出ている。

 

この総統暗殺未遂事件は再び銀河系に暗い影を残した。

 

暗黒の時代はまだまだ続く。

 

それでも明るい未来を信じて人々は足掻き続けるのだ。

 

それがたとえ親衛隊の将軍だとしても、レジスタンスの情報部員だとしても。

 

皆が足掻いた先に望んだ未来があると信じて。

 

 

 

 

つづく




イノベちゃんだよォ!!(ドアをぶっ壊す音)

はい皆さん明けましておめでとうございます、今年1発目のナチ帝国!書き始めってやつですね!

今年中に終わるかは分かりませぬが気長にお付き合いください

まあきっとナチ帝国はナチ帝国のままなので(?)

そいではまた〜




クラリッサ「スパイスですわ!スパイス始めですわ!」
マルス「そんなことしなくていいですから」
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