第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「恩恵のない同盟など存在しない、何故ならすぐに崩壊するからだ」
-23BBY頃のドゥークー伯爵の発言より抜粋-


離反者たち

-大セスウェナ連邦領 首都惑星エリアドゥ 首都エリアドゥ・シティ 大セスウェナ連邦議会上院-

大セスウェナ連邦は名の通り幾つもの惑星政府からなる連邦国家であり、各惑星から上院下院の議員を選出し立法権を有する連邦議会を形成していた。

 

議員の選出は出馬惑星に住む住民の選挙によって当選の有無を判断され、当選した者は晴れて連邦議員に就任することが出来る。

 

このシステムは0BBYまで維持されていた帝国元老院と同じであり、連邦成立に際しての初の選挙は比較的スムーズに行われていた。

 

帝国元老院が有名無実な存在であることは間違いなかったがその制度だけは連邦成立の際に役立った訳だ。

 

両院に議長が存在し、両院の議長席の上段には必ず連邦盟主席が設けられている。

 

大セスウェナ連邦は「セスウェナ宙域及びエリアドゥ統治者たるターキン家の名の下に参集した惑星政府の連邦共同体」であり、連邦盟主たるターキン家の棟梁が議会の開催と法案の裁可を行う義務があった。

 

一度両院で可決されたものは勿論拒む事は出来ないが国家の体裁を整える為には必要な流れであった。

 

そして今現在、上院議会ではそんな連邦盟主たるヘルムートが国民投票で行われた国家の決定について述べていた。

 

大セスウェナ連邦議会の巨大なホールで、100を超える上院議員らの前で若き盟主は決議内容を口にした。

 

これは帝国との決別の宣言であり、連邦の行末を決める重要なものであった。

 

「我々は第三帝国の秩序形成がかつての第一帝国、後継たる第二帝国と同じものだと信じて統一条約に加わった。かつて大伯父ウィルハフが帝国の一躍を担ったように、我々も”()()()”とセスウェナの安寧の為になると信じていた」

 

銀河中の多くの者がこの生中継をリアルタイムで視聴している。

 

ある者はこの裏切りに対して怒りを込めて、流石盟主閣下であらせられると称賛の意を込めて。

 

「しかし、実態はどうか。第三帝国は第一帝国の再来どころか単なる簒奪者に成り下がり、我々に対する横暴な態度と我々の権利を無視した行動は皆も知っている通りだ。先の捕虜脱走事件に際しても、第三帝国の横暴な行いは我々大セスウェナの安全を著しく侵害した。そして第三帝国は先の事件に関してなんの謝罪も説明もない」

 

この発言を聞いたあのちょび髭のヘボ総統がどんな顔をしているか、ヘルムートには想像している余裕がなかった。

 

今重要なのはこの宣言を放ち、第三帝国の軛から抜け出すことだ。

 

あの帝国の”()()()”とはターキン・ドクトリンの再来などではなく、ただ破壊と収奪を繰り返すだけの愚かなものであった。

 

「我々の再三に渡る抗議は最も簡単にねじ伏せられ、今や奴らは我々が先祖の代から苦しめられてきたコア・ワールド優先主義的な傲慢かつ横暴な存在に成り下がった。であればこのような統一になんの意味があるか、我々の決断を銀河系全ての方々にお伝えしよう」

 

ヘルムートは第三帝国に抱いた全ての感情を込めてその一言を放った。

 

羨望、落胆、怒り、そして今日まで変わらなかったことへの失望。

 

彼の一言はこの内戦を次のステージへ引き上げた。

 

「我々はここに、第三帝国主導の統一条約脱退を宣言する。もし第三帝国が変革を迎えるのであれば、その時は同じ”()()()”として対等な立場で会えることを期待しよう」

 

上院から拍手が湧き上がる。

 

大セスウェナ連邦は第三帝国の軛を脱し、ようやく自由になった。

 

別室では様々な人間が上院での演説を聞いていた。

 

国防省の広間に備えられた国防省のモニターには数十人の将校と職員達が雑談混じりに見ている。

 

その中には宇宙軍次官に任命された者もいた。

 

「レイヒ閣下達は退避を開始したそうです、後3時間ほどしたらコルサントから出るとのこと」

 

「…そうか、念の為統合本部の将官達を呼び出さないと」

 

リノックス長官は連邦宇宙軍次官、ヴィムス・フォラストルから水の入ったコップを受け取り報告を聞いた。

 

水を一口飲み、一旦心を落ち着かせた。

 

「国境星系では警備隊の他に第二艦隊を派遣、警備に当たらせています」

 

「国境は問題ないだろうが……心配なのはやはり大使館の方だ。第三帝国の連中なら平気で撤収阻止とかやりかねん」

 

「その点は派遣した回収チームに任せる他ないでしょう」

 

フォラストル次官もまだ不安そうであった。

 

既に作戦計画は練った、後は実行部隊次第。

 

盛大な宣言の裏では多くの官僚達が新たな職務に備えていた。

 

 

 

-第三帝国領 コア・ワールド コルスカ宙域 コルスカ星系 惑星コルサント 親衛隊本部-

ナブーを占領したジークハルトと第9FF装甲擲弾兵軍団は軍政統治や治安維持業務を31義勇擲弾兵団と後続の部隊に任せ、一足先にコルサントへ帰還した。

 

親衛隊本部のお偉方に戦果を報告というのもあるが一番の理由は大セスウェナ連邦の統一条約脱退であった。

 

統一条約、正式名称は帝国統一条約であり新共和国崩壊後に第三帝国が締結した旧帝国の復権を目指す条約だ。

 

議長国は条約立案者たる第三帝国が務め、条約を承認した各国が同志国として帝国の復元に尽力する。

 

形だけ見れば望ましい帝国を復元する方法であったが内実は議長国の権限と新共和国打倒の戦果を口実に第三帝国が実質的に条約加盟国を傀儡化していた。

 

その状況に憤慨し大セスウェナ連邦は条約から抜け出た。

 

つまり第三帝国の傘下から足を洗ったわけだ。

 

そうなると情勢は一気に不安定化し銀河系は危ういものとなる。

 

現在親衛隊及び国防軍は可能な限りの戦力を大セスウェナ連邦国境付近に展開しており、一触即発の危機にあった。

 

そんな情勢下で親衛隊としては可能な限り練度が高くて信頼のおける部隊を手元に置きたくなるだろう。

 

幸いと言って良いべきか、ジークハルトと第6FF装甲擲弾兵軍団はその中に入っていた。

 

軍団員全員乗せたセキューター級”ライアビリティ”はコルサントにジャンプアウトし、地上の宇宙港を目指した。

 

『”ライアビリティ”、航路L-2Oに移動し38番ベイに入港せよ。本部までのスピーダーはこちらで用意した』

 

「管制室、了解。航路をL-2Oにセットし指定ベイに入港する」

 

ライアビリティ”が舵を切りコルサントに向かっている最中に、ある一隻のインペリアル級スター・デストロイヤーとすれ違った。

 

船体のカラーリングや識別番号を確認するとそのインペリアル級は親衛隊宇宙軍のものでも帝国宇宙軍のものでもなかった。

 

「あのインペリアル級、見た目はセスウェナの方インペリアル級に見えますが」

 

ブリッジに映るインペリアル級の姿を見ながらメルゲンヘルク大佐はふと呟いた。

 

すぐに識別番号を調べていた乗組員も「このコードは大セスウェナ連邦宇宙軍のもので間違いありません」と彼を肯定した。

 

「速力落とせ。通信士官、あの艦との交戦命令は受けているか?」

 

メルゲンヘルク大佐は艦の速力を落とし警戒態勢を取った。

 

大セスウェナ連邦が第三帝国と袂を分ったのは彼らとて知っている。

 

かといって戦争状態にはまだ陥っていないので慎重な判断が求められた。

 

「親衛隊本部及び防衛艦隊司令部からは何の命令も受けておりません」

 

「たまたま駐留していただけじゃないですかね?」

 

ヴァリンヘルト大尉はそう呟いたがジークハルトとメルゲンヘルク大佐はまだ警戒していた。

 

「だと……いいんだがな」

 

「しかし、命令を受けていない以上ここで独断行動を起こす訳にはいきません。本艦は准将を本部まで送り届けることを最優先とします」

 

メルゲンヘルク大佐の判断をジークハルトは尊重した。

 

この艦はメルゲンヘルク大佐のものだ、指揮下にあるとはいえここでは彼の命令が優先される。

 

「速力戻せ、宇宙港に直行する」

 

特に何もしないまま”ライアビリティ”は大セスウェナのインペリアル級とすれ違い、そのまま見過ごした。

 

少なくとも彼らの判断は正しかった。

 

だがここで発砲していればもしかしたら未来は全く別の方向へ行っていたかもしれない。

 

ライアビリティ”は指定されたハンガーベイに入港しジークハルトはそのまま親衛隊本部へ向かった。

 

本部の中で行き先はもう決まっている、まず第一にモーデルゲン上級大将の執務室、次にハイドレーヒ大将の執務室だ。

 

共に来たヴァリンヘルト大尉を執務室前の待機場に残し、ジークハルトは1人執務室へ入った。

 

「ジークハルト・シュタンデリス准将、出頭しました」

 

第三帝国式敬礼を送り、上級大将も簡易敬礼で返した。

 

モーデルゲン上級大将は開口一番に「ナブーでの勝利おめでとう”少将”」と彼に昇進を告げた。

 

「やはり……ですか……」

 

「もちろんだとも、あれだけ素早くナブーを取り返してくれたんだ、君は昇進するべきだし君の部隊も規模を拡大させるつもりだ」

 

モーデルゲン上級大将はジークハルトにタブレットに記されたある編成計画を彼に見せた。

 

「君の第9義勇装甲擲弾兵軍団は師団へ改編される。装甲擲弾兵連隊、海兵連隊、砲兵連隊、装甲連隊、義勇兵大隊がそれぞれ1個づつ追加される」

 

「義勇兵?またですか?」

 

既に第30FF義勇兵大隊という連隊時からの義勇兵大体が存続している。

 

それに加えて1個義勇兵大隊を追加するとは。

 

「404義勇兵師団から1個中隊を引き抜いてそれを基幹に大隊を編成する。新設された69義勇兵大隊だ」

 

「出来れば普通の大隊が欲しかったのですが」

 

「そう言うな。4個も通常の連隊が来るんだ、君はそれだけ期待されている」

 

そう言われるとジークハルトは口を紡ぐしかなかった。

 

実際開戦から3年で中佐から少将にまで昇進することは普通ではあり得ない。

 

これ以上を望むのはいくら何でも欲張りすぎだ。

 

「ナブーを取り戻したことにより我々は皇帝陛下の祖国という精神的支柱を手にした。これにはクリース大将だけでなくヒェムナー長官と総統閣下もお喜びだ」

 

「ですが女王とレジスタンス軍をかなり取り逃しました」

 

「気にするな、シス・エターナルとの戦いでレジスタンス軍は最早死に体だ。いつでも潰せる、それより問題はだ」

 

モーデルゲン上級大将はタブレットの画面を変え、本題に入った。

 

穏やかだった目つきがガラリと変わり、上級大将にふさわしいものとなった。

 

「我々は総統閣下の軍、総統閣下の兵士だ。であれば総統の敵は我々の敵である」

 

タブレットを操作しこの銀河の星図を出す。

 

しかしモーデルゲン上級大将が映し出した場所はヤヴィンでもモン・カラでもないハット・スペースの向こう側にあった。

 

「総統はケッセルへの軍事侵攻をハット・スペース両国家弁務官区に命じられた。帝国再建の為、彼の地を再び我々が確保することは重要だ」

 

ハット・スペース内に集められた侵攻戦力が表示される。

 

地上軍は艦隊内の上陸戦力23万名に4個兵団で構成された1個侵攻軍18万人、総勢41万人が送り込まれる。

 

宇宙軍は1個艦隊インペリアル級二十四隻を導入し、スターファイター隊も艦載機部隊とは別に1個航空軍が表示されていた。

 

「侵攻軍司令官にノルトハット弁務官区軍司令のバルフェルライチュ大将が置かれる。初動でケッセルとゼルムを堕とし、敵の出方次第にもよるが最終的にフォーモスを占領して宙域全体を掌握下に置く」

 

「ケッセル宙域の戦力が少ないとはいえ40万で足りますかね?」

 

ふとジークハルトは尋ねた。

 

ケッセル宙域軍の推定戦力は地上軍24万人、インペリアル級十二隻、スターファイター14個大隊。

 

元々ケッセルに展開されていた帝国軍の戦力よりも若干肥大化している。

 

確かに侵攻軍は倍の戦力を誇っているがそれでも宙域単位の戦闘だ。

 

可能であればもう2個兵団は欲しいところである。

 

だがこれはあくまでジークハルトの考えであって親衛隊の上層部はそうではなかった。

 

「連中の戦力はケッセル、ゼルムの正面に集中している。つまり初動で電撃的に両惑星を叩けば後は制圧戦で済むさ」

 

モーデルゲン上級大将は「何より電撃戦は我らの得意分野だしな」と自慢げに語った。

 

ホズニアン・プライム、シャンドリラ、そして今回のナブー。

 

第三帝国はこれまでの戦争で何度も電撃戦で強敵を打ち破ってきた。

 

今の親衛隊、国防軍は自分達の軍事力と戦術に揺るぎない自信を持っていた。

 

「第一40万人でも多いくらいだ、バルフェルライチュ大将とフューリナー上級大将はこの数字から絶対に譲らなかったが」

 

「それで、私と私の師団は何をすれば良いのですか?」

 

「君の師団は本作戦と”非常時”の予備隊の1つとして候補に上がっている。セキューター級一隻であれほど動けてよく働く部隊はそう多くはないからな」

 

親衛隊の幾つかの兵団と師団が候補として上がっていた。

 

第1FF装甲兵団”ライプシュタンデルテ・デア・フューラー”、第2FF装甲兵団”ダス・ライヒ”、第5FF装甲師団”ヴィーキング”。

 

どれも親衛隊の中で精鋭と呼ばれる部隊であった。

 

「…大セスウェナですか」

 

ジークハルトの発言にモーデルゲン上級大将は小さく頷いた。

 

「連中はそう遠くない日に誰が帝国か、誰が裏切り者かを分からせる必要がある。そして西側に住まう”()()()()()()”にもな」

 

「え?」

 

「この銀河に人に酷似したエイリアンはいらないということだ」

 

緊張が走った。

 

元より差別意識の高い第三帝国だ、旧共和国時代の教育を受けた人間なら顔を顰めたくなるような差別発言が出てきても不思議はない。

 

だがジークハルトが驚いたのはその位置と種族についてだった。

 

彼は思わず直属上官に尋ねてしまった。

 

「親衛隊は……いや帝国軍は”()()()()()()()()()()()()”まで考えているんですか…?」

 

「…まだそこまでは行かんよ…が、いずれ避けては通れない道だ」

 

自信に満ち溢れ、ある種の狂気を孕んだ瞳だ。

 

ジークハルトは思わず口を嗣んでしまったがなんとか受け入れるように努力した。

 

いずれ避けては通れない道、ジークハルトが第三帝国の親衛隊将校であり総統に忠誠を誓っている以上仕方のないことだ。

 

戦えと言われたら戦うしかない。

 

「そう気負うな、まだ当分先の話だよ。とにかく、君には幾つかの会議や報告会に参加してもらう。最新の状況を知っていつでも戦える準備をしておけ」

 

「はい…」

 

「少将への昇進式は明後日行う。それとハイドレーヒ大将にはもう会ったのか?」

 

「いえ、私は閣下の直属ですし閣下の方が階級も上でありますので」

 

上級大将は「実直だな」と若干嬉しそうに感想を述べた。

 

権限や恐怖の度合いで言ったらモーデルゲン上級大将よりもハイドレーヒ大将の方が上だ。

 

出世欲が強かったり粛清を恐れる者はハイドレーヒ大将の方へ先に行ってしまうだろう。

 

「ではハイドレーヒ対象によろしく頼む。それとこれは私と本部からの細やかな戦勝祝いだが昇進式の後数日休暇を与えようと思う。家族にもそう会えていないだろう、ゆっくりするといい」

 

「ありがとうございます閣下」

 

「なに、私とて君の父上と奥方の父上には世話になった身だ。これくらいどうということはない」

 

恐らくこれは本音だ。

 

モーデルゲン上級大将達がまだ下級将校だった頃、一番身近な先輩かつ上官は父バスティ・シュタンデリスやフリズベン将軍でっただろう。

 

その恩返し、そして自分も彼らのようでありたいという気持ちは連隊長になった頃からよく分かる。

 

ジークハルトは敬礼し「失礼します」と執務室を出た。

 

待機場で待っていたヴァリンヘルト大尉はコップを机に置き、ジークハルトに敬礼した。

 

「さて大尉、ハイドレーヒ大将へ報告に行くぞ」

 

「はぁい……」

 

コップをゴミ箱に捨て、ヴァリンヘルト大尉は明らかに嫌そうな顔をしながらジークハルトについてきた。

 

大尉はふと「閣下はよく平気な顔してあの方に会えますね…」と呟いた。

 

「下手に怯える方がああいう手合いは危ない。それに……」

 

「それに…?」

 

もっと恐ろしいことをもう聞いてきた、そう言おうとしたがヴァリンヘルト大尉に伝えるにはまだ早かった。

 

 

 

 

-レジスタンス領 アウター・リム・テリトリー イリーニウム星系 惑星ディカー-

ナブーから最後に離脱したミレニアム・ファルコンとUウィング”シールズ・ワン”、そして2機のXウィングがディカー基地に着陸した。

 

ファルコン号にはハンとチューバッカの他にレイアが乗っていた為、ハッチが開くなりすぐに彼女の補佐官達が駆け寄ってきた。

 

それを横で見ながらジョーレンは「議長殿は相変わらず忙しそうだ」と彼女を不憫がった。

 

「バスチル少佐、ジルディール大尉、司令室へお越しください。ディゴール国防大臣とクラッケン将軍がお待ちです」

 

ディゴール大臣の副官の1人、フェレックス中尉が2人に敬礼し司令室への出頭を要請した。

 

2人は顔を見合わせ「我々も人のこと言えんな」と皮肉を述べた。

 

司令室にはいつもの面々とホロ通信でディゴール大臣と連絡を取り合うクラッケン将軍の姿があった。

 

「ジェルマン・ジルディール大尉、ジョーレン・バスチル少佐、出頭しました」

 

2人は上官達に敬礼した。

 

「よく来た、ご苦労だったな2人とも。ナブーではよくやってくれた」

 

「いえ、女王の脱出には至れませんでした」

 

「議長から話は聞いている、格納庫を奪還して時間稼ぎをしてくれただけで君達十分な働きをしてくれた」

 

2人の手を強く握り締め戦場から帰ってきた兵士を労った。

 

クラッケン将軍も奥の方で頷いて大臣に同調していた。

 

「ともかくだ、君達には休みを与えたいところだがまた頼みたいことがある。詳しい説明はクラッケン将軍から」

 

『今回君達に任せたい任務は偵察だ。これを見てほしい』

 

クラッケン将軍のアイコンタクトでフェレックス中尉がホロテーブルを操作する。

 

星図と共に任務遂行地域が映し出された。

 

ハット・スペースとケッセル宙域の狭間、第三帝国とケッセル王国の国境地帯。

 

『情報部の調べによれば現在ハット・スペースのウルマトラとブーンタに戦力が集結しつつある』

 

流石に画像までは出てこなかったが集まったと思われる第三帝国の兵員や地上軍兵器、艦艇、スターファイターが表示された。

 

『我々の予測では近いうちに第三帝国はケッセル宙域へ侵攻する。未だ情報が少ないが侵攻戦力は地上軍30万から40万、そして二十隻前後の主力艦』

 

「ケッセル側の動きはどうなっていますか?」

 

ジェルマンはクラッケン将軍に尋ねた。

 

将軍は『防衛線を構築していると思われるが偵察機を送り込めないから詳細は不明だ』と答えた。

 

エクセゴルの戦いでレジスタンス軍と同盟国軍は決して少なくはない犠牲を伴う勝利を得た。

 

その結果現状の戦線維持が精一杯であり、使える戦力も限られていた。

 

『そこで君達に白羽の矢が立ったわけだ。ステルス機能を持つUウィングでケッセル宙域に侵入してケッセル側の状況、そして戦闘が起こった場合規模と戦況を調べてもらいたい』

 

「具体的に何処を調べればいいですか?ケッセルかそれともフォーモスか」

 

『まずはゼルムに行くのだ。情報部の予想ではゼルムは数日のうちに堕ちる、帝国の進撃に合わせてケッセルに移動せよ』

 

「了解」

 

クラッケン将軍は『今詳しい作戦説明書を送る』とコンソールを操作し、ディカーに作戦内容を送った。

 

フェレックス中尉はデータカードに内容をインストールし2人に手渡した。

 

「機体の整備や装備で後2日空くからその間ゆっくり休め、与えられる休暇がそれくらいしかなくてすまないと思うが」

 

「いえ、お構いなく」

 

「むしろ休んでると身体が鈍ってしまうのでね」

 

ジェルマンを肘で軽く叩き2人は微笑んだ。

 

彼らの戦意にディゴール大臣も安心したのか笑みが移っていた。

 

『それとこれはごく私的な話になるが1つ知っておいてほしい。エクセゴル戦で情報部はシス・エターナルの施設に幾つかの特殊部隊を送り込んだ。最新鋭の技術や情報の取得の為にな』

 

「シュライクスのイーマット少佐ですね、私も彼は存じています」

 

カルアン・イーマット、同盟軍特殊偵察部隊の部隊長クラスの将校であり面識はあった。

 

『彼の部隊が入手した情報によるとノヴァン・ストラインを含むホズニアン・プライムとシャンドリラの子ども達はやはりエクセゴルにいた』

 

「えっ!?」

 

ジェルマンは驚いて大声を出した。

 

彼にとっては恩人たる上官の遺児が見つかったのだ。

 

すぐに「で今どこに!?」と聞き返した。

 

『子ども達は解放し、今モン・カラで治療を受けているが……その中にノヴァンの姿はなかった。持ち帰った記録によれば選別された一部の子どもはエクセゴルから第三帝国へ移送されたらしい』

 

「ではノヴァンくんは…」

 

『この銀河の何処かにいる、今情報部が調べているが詳しい情報は入ってきていない。だが入ってきたらすぐに攻撃チームを編成して彼らを救い出す。君達もその中に入れるつもりだ。だから頭の片隅に入れておいてくれ』

 

2人は敬礼し「全力であたります」と宣言した。

 

クラッケン将軍も『信じている』と告げた。

 

『ストライン中将は友人だ、私とて友人の子は救いたい。ましてや遺児であれば尚更、共に頑張ろう、ジルディール大尉、バスチル少佐』

 

ジェルマンは深く頷いた。

 

託されていたものがようやく果たせそうな気がしたからだろうか。

 

ジェルマンの鋭気は膨れ上がっていた。

 

 

 

 

-チス・アセンダンシー領 未知領域 首都惑星シーラ 参謀本部ビル-

亡命帝国軍参謀本部には旧帝国軍統合本部に倣って幾つかの別組織が存在している。

 

作戦を考案する作戦総局、情報収集及び特殊部隊を用いた破壊工作を任務とする情報総局、人事及び動員編成を行う組織動員総局。

 

他にも星図や惑星内の地図を作成する軍事測量総局、通信設備の整備を担当する通信総局、兵站管理の兵站総局に技術研究局。

 

それらを取り纏めるのが参謀総長のシャポシニコフ元帥であった。

 

「流石プライド閣下ですね、相変わらず厳しい」

 

「全くだ、ブジェルヌィ閣下にも注意されていた。軍規の取り締まりはいいことだとは思うのだが…」

 

「ですがプライド閣下のそういう所は本当に尊敬出来ます。私も見習う点ばかりだ」

 

ヴァシレフスキー少将の隣で資料を持っているのは地上軍上級大佐、イワン・チェルニャホフスキー。

 

若き上級大佐は第9装甲師団の参謀長兼副師団長であった。

 

ヴァシレフスキー少将は彼のことを高く評価していた。

 

優秀で実直、素直で覚えも早いし何より自身と自身の部隊がやるべきことを完全に理解して指揮を取れる人物だ。

 

「そうだな……私はこの辺で、大佐はこの後何処へ行くんだ?」

 

「欲しい資料は手にしたので私は昼食でも取って師団司令部に戻ります。少将もお気をつけて」

 

「ああ、君も元気でな」

 

チェルニャホフスキー上級大佐はヴァシレフスキー少将に敬礼しその場を去った。

 

ヴァシレフスキー少将はそのまま参謀総長の執務室へと入った。

 

参謀総長、ボリス・シャポシニコフ忠誠元帥(Allegiant Marshal)は何やら資料を漁っていたようで少将に気がつくのが少し遅れた。

 

「戻りました」

 

「ああ、ご苦労様。さっきゴリコフ君が来てね、お土産にあれを持ってきてくれた」

 

シャポシニコフ元帥はウォッカを指差しタブレットのデータを別の場所にコピーした。

 

ヴァシレフスキー少将はその土産物を手に取り、笑みを浮かべた。

 

「シャシャリール・ウォッカじゃないですか、これはいい」

 

「後で参謀達と飲みたまえ、私は自分の分はもう確保したからね」

 

「手が早いですね」

 

「元々私が貰ったものだぞ?」

 

2人は軽い笑みを浮かべヴァシレフスキー少将はウォッカの瓶を元の場所に戻した。

 

暫くしてシャポシニコフ元帥に尋ねた。

 

「…ゴリコフ中将が来たということはGOI(General Office of Intelligence)が何か掴んだということですか」

 

かつて帝国軍内には情報部が存在した。

 

帝国保安局と双璧を成す帝国の情報機関であり、その末裔の一つが亡命帝国軍参謀本部情報総局であった。

 

フィリップ・ゴリコフ中将が総局長を務めており、NISBと並んで帝国の諜報活動と防諜活動を担っている。

 

「第三帝国のケッセル侵攻、どうも本当らしい。それでこの件を報告すべきか相談を受けた」

 

GOIの諜報相手には当然第三帝国も含まれている。

 

不可侵を結んだ中立条約を以てしても彼の国を完全に信頼するにはまだ足りない部分が多い。

 

「で、閣下はなんとお答えに?」

 

「事実をそのまま伝えればいいと言った。ケッセルは我々の今後の為にも重要な地だ、第三帝国の属領になられては困る」

 

信用出来ない相手に依存度を高めることは出来ない。

 

それは燃料の輸入先であっても同様であり、兵器のまた然り。

 

大セスウェナ連邦のように第三帝国に対する不信感は中、大国の中で日に日に増大しているのだ。

 

「確かに、我々が”()()()()”の理論でも艦隊は莫大な燃料を使う。未知領域と我々のアウター・リム領域で賄うことは可能ですが貯蓄は欲しい」

 

「ああ、あの理論は最も強大なドクトリンではあるが同時に大量の資源を消費する」

 

「強力だがその分受け入れなければいけない消費と損害が大きい、困ったものですね」

 

「何せ作った奴がそういう性格だからね」

 

シャポシニコフ元帥は苦笑まじりに理論提唱者のことを詰った。

 

彼らが再構築中の軍事理論、むしろ教義(ドクトリン)と言った方が正しいだろう。

 

そのドクトリンの提唱者、ミハイル・トゥハチェフスキー忠誠元帥(Allegiant Marshal)はシャポシニコフ元帥の言う通り、困った人物であった。

 

21歳でクローン戦争に参戦、一言で言えば天才であるトゥハチェフスキーはドロイド軍を圧倒し向かう所敵なしであった。

 

彼が率いた部隊がたまたま赤線入りのショック・トルーパーだったこともあって彼はいつしか”()()()()()()()()”と呼ばれるようになった。

 

帝国軍の中でも順調に出世を果たし、サンクト宙域軍参謀長に就任する頃には元帥(Surface Marshal)まで昇進していた。

 

そんな中、エンドアの戦いが彼の運命を大きく変えた。

 

今までトゥハチェフスキーの後ろ盾となっていた皇帝シーヴ・パルパティーンが死亡し、帝国はバラバラに分裂した。

 

トゥハチェフスキーは軍内でも次第に孤立化し、最終的にはヴィルヘルムに対するクーデター計画が発覚し粛清された。

 

彼の昇進と帝国軍の中に居場所があったのはパルパティーンの存在が大きく、ウィルハフ・ターキンからは皇帝なしでは彼の才能は活かし切れないとすら言われた。

 

何せ彼が常々主張していた理論を実行する為に必要な戦力はそれほどまでに異常と言わざるを得ない数値だったからだ。

 

主力艦たるスター・デストロイヤーの建造数を十万隻にまで拡大し、新たに250個兵団を新設することを要求していた。

 

しかもこれは年間の数値であり、とても達成出来るものではなかった。

 

250個兵団だけでも1,200万人以上の人的資源を必要とし、兵団を維持する指揮官や幕僚組織を構成する参謀達の育成はとても数年で出来るものではない。

 

真っ当な将校であれば不可能と結論づけられるものをいつまでも主張し続けている為自然と孤立していった。

 

そんなトゥハチェフスキーをパルパティーンはどうして擁し続けたのか、多くの将校達にとって長年の疑問であった。

 

しかし今なら分かる、彼の主張を全て取り入れることは出来ずとも彼の理論は必要だったのだ。

 

「全領域縦深攻撃論、我々でこれを再構築して実用化しなければ”()()()()()()”は防げない」

 

シャポシニコフ元帥が機動したホロイメージには理論を使用した際の戦況予想図が映し出されていた。

 

彼の隣からヴァシレフスキー少将もホログラムを見つめる。

 

この理論を再構築し、役立つようにするのが彼らの当面の仕事だ。

 

「当面はこいつと付きっきりになるな」

 

 

 

-第三帝国領 コア・ワールド コルスカ宙域 コルスカ星系 惑星コルサント 大セスウェナ連邦大使館-

時間は少し前までに遡る。

 

大セスウェナ連邦の統一条約脱退と共にコルサントに位置する大セスウェナ連邦駐コルサント大使館では一部職員と資料の退避が始まっていた。

 

家族と共に荷物の整理を行い、資料や荷物を裏に停めてあるスピーダーに詰め込んだ。

 

大使館の周りには第三帝国の過激な一部国民達が取り囲んでおり、ぱっと見離脱は難しそうだった。

 

しかもその中にはFFISOのスパイも紛れ込んで大使館を監視している。

 

「…まだ見られてるな」

 

大セスウェナ連邦大使、元帝国宇宙軍提督のウェアム・レイヒは大使館の窓から外の様子を見て呟いた。

 

彼が大使に任命された理由は宇宙軍提督と言うこともあり、第三帝国側の軍部と良好な関係が築ける可能性が高いという見立て故だった。

 

実際旧来の繋がりでレイヒ大使が得をしたこともあった。

 

だが代理総統に忠誠を尽くすと決めた第三帝国の将兵達を手懐けるのは難しかった。

 

「あそこに1人、後はあの辺に2、あっちには露骨にスピーダーごと控えていますね」

 

駐在武官のウェジャック大佐は指を差しながらスパイのいる位置を示した。

 

最後に示された部分にはスピーダーの側にFFISOの白い制服が見えた。

 

「見てるぞってメッセージなんだろうな。連中の牽制だ、気にするな」

 

「レイヒ閣下、準備が整いました。一旦大ホールへお越しください」

 

1人の大セスウェナ連邦地上軍准将が2人に敬礼した。

 

肩掛けベルトに地上軍用の緑色の制服、そして胸元には准将の階級章にコードシリンダーが左右に2本ずつ挿さっている。

 

ベルトにはブラスター・ピストルのホルスターがかけられており、彼の被る制帽には大セスウェナ連邦の紋章がついていた。

 

軍服の物々しさに比べて准将は優しい顔立ちで帝国軍の感覚で言えば准将にしては少し年がいっているという感じだ。

 

「アイゼンハール准将…だったな…?」

 

「はい、第909星間兵団参謀長、ヴィーデッド・アイゼンハール准将であります。今回は大使館退避の指揮を任されました」

 

ヴィーデッド・アイゼンハール准将、元帝国地上軍中佐で今は大セスウェナ連邦地上軍准将の地位にいる。

 

彼の先祖は共和国の共和国の黄金時代(ハイ・リパブリック)にコア・ワールドからアウター・リムへ移住した移民の末裔だ。

 

上官と折り合いが合わず長らく軍内で冷飯を食ってきたがエンドアの戦いと大セスウェナ連邦成立によってその状況も変わりつつあった。

 

レイヒとアイゼンハール、2人とも今後の戦争で大セスウェナ連邦の命運に関わる人物であり、アイゼンハールに関しては連邦の政局に一風を吹かす事となる。

 

しかしこの時はまだレイヒは交代間際の大使、アイゼンハールは一階の准将に過ぎなかった。

 

3人はホールに移動し大使館に残る一行との別れの挨拶を交わした。

 

統一条約を抜けたからといって第三帝国との国交が完全に途切れる訳ではない。

 

窓口は縮小しレイヒ大使の後は特別全権公使のレイン・モーイスが務める事となった。

 

「モーイスくん、後は任せた……死ぬなよ」

 

レイヒ大使はモーイス公使の手を力強く握り、彼の無事を祈った。

 

公使は優しい笑みを浮かべ「大使もお元気で、またセスウェナで会いましょう」と別れを告げる。

 

「全員を大セスウェナに連れて帰れないのは申し訳ないがここで第三帝国との外交窓口を維持するのも連邦の為、故郷の為だ。諸君らの働きは故郷の為になっているという事を忘れないでくれ。そして故郷の人々も諸君らを忘れていないということも忘れないで欲しい」

 

レイヒ大使は残る大使館の全員に別れの言葉を送り1人1人に握手を交わした。

 

別れの挨拶を終えるとすぐにアイゼンハール准将に連れられ、地下のスピーダー駐機場に案内された。

 

よく見る軍用のスピーダーが数台停車していた。

 

「閣下のスピーダーはこちらになります。運転手はこちらのオリファー少佐が」

 

スピーダーの側に控えていた宇宙軍の少佐が大使に敬礼する。

 

運転手を敢えて宇宙軍出身者にしたのはレイヒ大使自身が宇宙軍の元提督だからであり、アイゼンハール准将なりの気遣いだった。

 

スピーダーに乗り込んだオリファー少佐とレイヒ大使に准将が声を掛けた。

 

「閣下、職員とご家族は閣下同様アンダーワールドのレベル1331の交通路を通って迎えの艦に合流します。必ず送りつ退けますので安心してください」

 

「迎えの艦は何が来ている?」

 

「インペリアル級”ウィズドロウル”です」

 

レイヒ大使は安心したように背もたれに寄り掛かりそれ以上は何も言わなかった。

 

今度はオリファー少佐に指示を伝えた。

 

「1331の連中はFCSIAの連中がなんとかしたと言っているから堂々と通過しろ、ダメなら予備隊が控えてるから強行突破して閣下だけでも連れて行け」

 

「はい…!」

 

「では行くんだ、私も後で合流する」

 

少佐の肩を軽く叩き敬礼してアイゼンハール准将はスピーダーから離れた。

 

直後レイヒ大使を乗せたスピーダーが更に浮上し駐機場から離れた。

 

アイゼンハール准将と彼が率いる幾人の将校達がスピーダーが見えなくなるまで敬礼して大使を送り届けた。

 

「では我々も撤退しようか」

 

「はい、我々の離脱は楽じゃなさそうですけどね」

 

運転手のベネラル少佐は皮肉りつつもすぐに移動の準備を始めた。

 

優しい顔付きのアイゼンハール准将も今や戦場にいる軍人の目に早変わりしていた。

 

知将アイクの前哨戦は始まったばかりだ。

 

 

 

 

-コルサント アンダーワールド レベル1338-

『トリスタンよりゴルヴナルへ、”()()”はそちらへ向かった。封鎖頼む』

 

「ゴルヴナル了解した。エルガー中尉とミヒェール中尉の隊は先行して通路を塞げ、我々の隊で尾行する」

 

FFISO所属のベルハウン大尉は部下に指示を出し自身のスピーダーも動かした。

 

FFISOが所有するスピーダーは基本的に4人乗りで、隠しブラスターや高性能レーダーなど通常のスピーダーにはない機能が施されている。

 

ベルハウン大尉のスピーダーもすぐに目標を発見した。

 

他の座席に座っている保安局員達は自身のブラスター・ピストルに手を伸ばし戦闘体勢を整えた。

 

「スピーダーの数は3、各機1台ずつ付けています」

 

「じゃあ上の輸送車連中は”()()”だったってことか」

 

「恐らくは」

 

相手のスピーダーも尾行に気づいているようで路地裏に入り込み、追手を撒こうとし始めた。

 

しかしそう簡単にFFISOの追跡は振り切れない。

 

相手を油断させつつしっかりと背後につく。

 

『大尉、全隊配置完了しました』

 

「了解した、こちらで検問所まで誘導する。各隊、”()()”を誘導して検問所まで誘き寄せろ。抵抗したら発砲して構わん」

 

各隊に指示を出しつつ目標への追い込みが始まった。

 

各隊長と車長には何を追撃するか事前に知らされている。

 

連邦大使館から出たスピーダーを抑え、可能であれば機密文書を持ち出して高官らを拘束せよ。

 

これが上層部より与えられた命令であった。

 

ベルハウン大尉ともなると高官らを拘束して何をするかは粗方予想がつくようになってくる。

 

大セスウェナ連邦を糾弾する為に用いる”()()”を尋問の下に作るはずだ。

 

だがこれは大尉の仕事ではないし拘束さえすればそれだけで手柄になる為深くは追求しようとしなかった。

 

「間も無く検問所に到達します」

 

「よし、全員いざという時の為に下車の準備を」

 

運転手以外の全員がブラスター・ピストルを手に取り緊張感が車内に漂った。

 

「路地抜けます」

 

運転手の報告と共に2台のスピーダーが狭い路地を抜けて大通りへ出た。

 

大通りには既にエルガー中尉の隊が簡易的な検問所を引いていた。

 

スピーダーでバリケードを作り、保安局員が周囲に展開し封鎖線を形成する。

 

これで相手の行手は阻んだ訳だ。

 

1人の保安局員が手を前に出して追跡中のスピーダーを止めようとした。

 

これで目標は停車して大人しくする、大尉を含めた全員がそう考えていた。

 

だが答えはノーであった。

 

眼前のスピーダーは目に見えるくらい速度を上げ、前に出た保安局員を跳ね飛ばした。

 

そのままバリケード代わりのスピーダーも全て跳ね飛ばし、その勢いのまま次の区画まで突入した。

 

「何!?」

 

「バカな!!あり得ない!!まともじゃない!!」

 

こうなって困るのはベルハウン大尉達であった。

 

スピーダーは急いで急ブレーキを掛け、スピーダーを停車させた。

 

窓を開け、ベルハウン大尉は高リンクで命令を出すことも忘れ、叫んだ。

 

「1班だけ負傷者回収の為に残して残りは全部あれを追うぞ!!急げ!!もう出せ!!」

 

「はっはい!!」

 

すぐにベルハウン大尉のスピーダーも追撃に向かった。

 

目標は全速力で逃げたようでベルハウン大尉も「全速力だ!」と叫んだ。

 

「各隊状況を報告しろ!”()()”は逃げたか!?」

 

『こちらミヒェール隊…!”()()”は検問所を突破…!現在追撃中!』

 

「そのまま追え!発砲も許可する!ゴルヴナルより司令部へ、”()()”が封鎖線を突破し逃走中!現在我が隊が追撃、直ちに応援と指示を求む!」

 

現場レベルの指揮は出せても全体命令としての指示はもっと上の司令部の一声が必要だった。

 

『増援のスカウト隊とスピーダー隊を展開した。ゴルヴナルは”金髪”を追撃し確保せよ、生死は問わん」

 

「ゴルヴナル了解した、命令を遂行する」

 

一時的な混乱は生じたがこれなら問題なく追撃出来る。

 

ベルハウン大尉はブラスター・ピストルを握り締めながら屈辱を果たすことを誓った。

 

一方のアイゼンハール准将が乗り込むスピーダーの車内は相手からの距離を稼ぐことを第一としていた。

 

「准将!大丈夫ですか!?」

 

「どこも打ってないから大丈夫だ、轢かれた方はどうか知れんがね…!」

 

ブラスター・ピストルの状態を確認しながらアイゼンハール准将は冗談を呟いた。

 

その様子を見てベネラル少佐は安心しミラーで後方を確認した。

 

まだ追手は来ておらず余裕があった。

 

「次来たらもうこちらから撃ちますか?」

 

後部座席に座るジャメルス・ギャヴェン上級大尉はE-11の安全装置を解除しながら准将に相談した。

 

准将は「どうせすぐ向こうが撃ってくるから先に撃たせよう」と先制攻撃案を否定した。

 

ギャヴェン上級大尉はE-11を構え、すぐに戦える状態に移った。

 

空挺部隊出身である彼は純粋な戦闘能力で言えばアイゼンハール准将よりも上だ。

 

「っ来ました!」

 

ベネラル少佐がミラーを見ながら叫ぶ。

 

2人はブラスターを構え、攻撃準備に移った。

 

後方より2台のスピーダーが追いかけてきた。

 

FFISOのスピーダーは隠しブラスターを起動し、3人の一斉射撃に合わせてブラスター砲を放った。

 

少佐は見事なドライブテクニックでブラスター弾を回避し可能な限り命中してもいい場所に弾丸を当てさせた。

 

「牽制射撃行きます!」

 

ギャヴェン上級大尉はE-11の一斉射で一旦相手を牽制した。

 

しかしすぐに後方のスピーダーがブラスター弾を撃ち、猛追は止まなかった。

 

「足を止める、リパルサー・リフトを潰す」

 

「了解!」

 

再びスピーダーから身を乗り出してブラスター弾を放つ。

 

アイゼンハール准将もブラスター・ピストルで牽制し、ギャヴェン上級大尉を援護した。

 

ピストルの弾丸は窓ガラスに命中するも僅かにダメージを与えただけだったが、E-11の弾丸はスピーダーのリパルサーリフトを破壊した。

 

車体が度々小爆発を起こし、徐々に速度を落としていく。

 

しかも速度を落としたスピーダーが後方の車両と衝突し足止めに役立った。

 

「スピーダー2台振り切りました!」

 

「これで当分コルサントにはこれませんね!」

 

「ああ、今度来る時は全面戦争だろうさ!」

 

皮肉を言い合いながら2人は次の戦闘に備えた。

 

アイゼンハール准将はマイクロバイノキュラーを取り出し周囲を確認した。

 

するとある一点に次の追手が見えた。

 

白いアーマーにC-PHパトロール・スピーダー・バイク、首都秩序警察所属のパトロール・ストームトルーパー部隊だった。

 

「敵が来てる、パトロール・トルーパーとバイク3台にスピーダー1台」

 

「バイクはこのスピーダーじゃ振り切れませんね……」

 

CPHパトロール・スピーダー・バイクは最高速度400kphを誇り、このスピーダーの最高速度を上回っている。

 

しかも小回りが効き、すぐに回り込まれて挟み撃ちにされてしまうだろう。

 

准将は再び判断に迫られた。

 

「まずは地下に下がることを優先する、ポータルまで全速力で頼む」

 

「了解…!」

 

「窓閉めろ、相手の方が射撃は早い」

 

「了解」

 

スピーダーのドアを閉め、全速力でアンダーワールド・ポータルへ向かった。

 

上空から交通路に乗り込んだパトロール隊はすぐにAx-25ブラスター砲でスピーダーを撃った。

 

ベネラル少佐は器用なドリフトで辛うじてブラスター弾を避け切った。

 

バイク隊分隊長の命令で2台が先行してスピーダーの左右に展開し並走する。

 

「取り囲まれました!」

 

「連中ブラスターを撃ってきてます!!」

 

パトロール・ストームトルーパーはEC-17を手に取り、運転しながら片手でスピーダーを銃撃する。

 

幸いにも彼らが乗るスピーダーは軍用車であり、数発のブラスター弾なら耐えられた。

 

しかしこのままでは装甲もガラスも破壊されて撃破されてしまう。

 

「路地に回り込んで相手をすり潰そう、出来るか?」

 

「お任せください!」

 

スピーダーを右旋回させ再び路地に入り込む。

 

住民の殆どいない街中をスピーダーが走り抜ける。

 

ベネラル少佐はスピーダーを思いっきり右に寄せてCPHに車体を擦り付けた。

 

衝撃でスピーダー・バイクは建物に衝突し、暫く両方からの圧迫を受けた末にトルーパーごと車列から外れた。

 

その様子を見ていた左側のパトロール・ストームトルーパーは急いで車列から離れようとスピーダー・バイクの速度を落とす。

 

が、それこそが最大の不幸であった。

 

ベネラル少佐がハンドルを切り、後部車体を思いっきりスピーダー・バイクに叩きつける。

 

衝撃でスピーダー・バイクとパトロール・ストームトルーパーは回転しながら幾つかの建物に激突し、地面に転げ落ちた。

 

「2台やりました!」

 

「今度は接近した瞬間ブラスターを叩き込んでやります!」

 

「ちょっと待て!」

 

ドアを開けてギャヴェン上級大尉はE-11を構える。

 

その間にパトロール隊の分隊長はEC-17を集中的に窓ガラスに当てて内部へ直接攻撃を通せるように準備した。

 

無理に包囲すれば部下2人の二の舞は避けられない。

 

しかしここで分隊長は1つ勘違いをした。

 

ギャヴェン上級大尉がドアを開けたのをチャンスだと思い込みスピーダー・バイクを近づけた。

 

だがこの選択は大きな間違いだった。

 

EC-17を構え車内に攻撃を加えようとした瞬間、ドアから銃口が飛び出した。

 

分隊長はすぐに退避しようとスピーダー・バイクの速度を落とそうとしたがもう遅かった。

 

1発のブラスター弾が分隊長の胸を貫き、そのままスピーダー・バイクから滑り落ちた。

 

乗り手を失ったスピーダー・バイクもそのままバランスを崩して後方から接近する友軍のスピーダーと激突した。

 

爆発こそしなかったものの、車体に大きなダメージを負ってこれ以上の追撃は不可能となった。

 

「よし!このままポータルに向かいます!」

 

路地を抜けてポータルに突入する。

 

この区画のアンダーワールド・ポータルにはスピーダーも輸送機も少なく、スムーズに移動出来た。

 

「各車、状況報告」

 

『2号車問題ありません』

 

『3号車、こちらも無事です』

 

「了解した、全員”ウィズドロウル”で会おう」

 

状況を確認しアイゼンハール准将は通信を切った。

 

一波乱が過ぎ去り、背もたれに寄り掛かった。

 

「当分追手は来ないと思われます。暫くお休みください」

 

「ああ……」

 

ブラスター・ピストルは握りつつ、アイゼンハール准将は窓ガラスから外の様子を見つめた。

 

コルサント・アンダーワールド、かつては父祖達もここに住んでいたと聞く。

 

しかし今では人っこ1人いない無人地帯、建物の一部は黒く焼け焦げて弾痕だらけ。

 

ここで第三帝国が何をやったかは作戦説明の際に聞かされてはいた。

 

だが、実際に目にすると更に思うところがある。

 

「我々はそう遠くない日に必ずここに戻ってくる、だから見ることしか出来ない我々を今は許してくれ」

 

アイゼンハール准将は無人のアンダーワールドに敬礼し全ての死者に誓った。

 

5年後、彼の発言はやがて現実のものとなる。

 

アンダーワールドの姿はアンダーワールドだけに留まらずに。

 

 

 

 

-コルサント・アンダーワールド レベル1319 廃棄宇宙港 インペリアル級”ウィズドロウル”-

インペリアル級”ウィズドロウル”のハンガーベイ付近で艦長のドヴァイト大佐は外の様子を不安そうに確認していた。

 

彼が着込む連邦宇宙軍の制服には幾つかの記章が付けられている。

 

「艦長、間も無く出港の時間です。ブリッジにお上がりください」

 

「分かってる中尉…!だがまだ准将が」

 

副官のヘイク中尉は出港の為に艦長をブリッジに戻そうとしたがドヴァイト大佐はアイゼンハール准将が戻るまで艦を出さないつもりだった。

 

既に大使館の退避メンバーと機密文書を運んだスピーダー隊は”ウィズドロウル”に帰還した。

 

放たれた囮の面々も無事に大使館内まで戻り、FFISOはこれ以上手出しすることは出来ない。

 

離脱を指揮していたスピーダー隊もアイゼンハール准将が乗り込むスピーダーを除く2台が帰還し、後は准将を待つのみとなった。

 

「おい!あれ!」

 

ハンガーベイの中で1人の整備士が叫ぶ。

 

あれは確かアネル三等兵曹、TIEファイター舞台の整備班員だったはずだ。

 

三等兵曹の叫び声と共に1台のスピーダーがハンガーベイに乗り込んできた。

 

スピーダーの車体は幾つかの弾痕があったがすぐに3箇所のドアが開き、3人が出てきた。

 

「アイゼンハール准将!」

 

「艦長!急いで艦を出してくれ!コルサントから撤退する!」

 

准将の無事を確認したドヴァイト大佐は准将の命令を承諾し、コムリンクでブリッジに出港準備を命じた。

 

ドヴァイト大佐とアイゼンハール准将がブリッジに上がったのは殆ど同タイミングであった。

 

既に”ウィズドロウル”は発進可能状態にあり、後は艦長の命令を待つのみであった。

 

「艦長、参謀長、お待ちしておりました」

 

副長のベレム中佐と戦術長、砲雷長、艦載機部隊の指揮官が2人に敬礼した。

 

アイゼンハール准将とドヴァイト大佐も敬礼を返し「直ちに出港だ」と乗組員に指示を出した。

 

宇宙港とのドッキングを解除し、船体の安全装置を取り除く。

 

この宇宙港はクローン戦争中に建設され戦後になって中止された予備ドッグが元になっている。

 

その存在を確認した大セスウェナ連邦はコルサントでの人道的特別作戦でこの放棄された宇宙港を使用していた。

 

指令システムは死んでいる為命令は艦から送る必要があるがそれ以外は殆ど問題がなかった。

 

「安全装置解除、周囲に人員なし」

 

「メインエンジン正常に稼働中」

 

「出力、問題なく各部署にエネルギー伝達中」

 

「偏向シールド及び全兵装問題なし」

 

ブリッジの乗組員からの報告を受け、ドヴァイト大佐が命令を出す。

 

「”ウィズドロウル”出港せよ」

 

「”ウィズドロウル”出港!」

 

インペリアル級”ウィズドロウル”のメインエンジンが大きく膨れ上がり、インペリアル級が思いっきり上昇する。

 

そのまま”ウィズドロウル”はアンダーワールドから宇宙空間へ出る為のトンネルへ進入した。

 

「トンネルの全隔壁開放、前方に障害なし」

 

「一気にコルサントを抜けるぞ」

 

秘匿されたこの宇宙港は艦隊がコルサントのゴミ廃棄場から出撃するように設計されていた。

 

ここなら偽装が簡単で分離主義者達の目を欺けると考えられた為だ。

 

お陰で今はこの星の主人たる第三帝国の目を欺いている。

 

トンネルを一隻のインペリアル級が通り抜け、ゴミ山を突き破ってコルサントの大気圏に出た。

 

大きな飛行機雲を描きながら宇宙空間へと飛翔する。

 

「このまま予定通りクワットまで一旦ジャンプします。その後は予定通り第909機械化兵団と共にコア・ワールドから離脱を」

 

「ああ、ジャンプアウトまでの航路に第三帝国の艦影は確認出来るか?」

 

「いえ、この時間帯には確認出来ません。いても民間船だけです」

 

2人は顔を見合わせ、安心した顔でいるとその表情を覆す報告が入ってきた。

 

「艦長!ハイパースペースより艦影接近!!第三帝国親衛隊のセキューター級スター・デストロイヤーです!!」

 

センサー士官は今までにないほど焦った声音でドヴァイト大佐に報告した。

 

大佐も「何ぃ!?」と声を荒げ、センサーを見た。

 

確かに親衛隊所属の艦艇がハイパースペースからジャンプアウトしようとしている。

 

「このままでは確実にすれ違います、迂回しますか?」

 

「いや、もう手遅れだ。むしろコルサントの警備艦隊に見つかるくらいならまだ状況を知らないであろうセキューター急とすれ違ったほうがマシだ」

 

大佐は「進路そのまま、このまま突き抜ける」と乗組員に指示を出した。

 

アイゼンハール准将も彼の判断を否定せず尊重した。

 

ウィズドロウル”は航路を維持し、ハイパースペース・ジャンプの準備を始めた。

 

「敵艦はセキューター級です、最悪撃ち合えば勝てる」

 

「だが時間が掛かればすぐにコルサントの本艦隊も来る。素通り出来ればいいが……」

 

不安が渦巻く中、”ウィズドロウル”はコルサントの大気圏を抜け宇宙空間へと出た。

 

暫く宇宙空間を航行しているとセンサー士官が報告した通りハイパースペースからセキューター級スター・デストロイヤーがジャンプアウトした。

 

「前方、親衛隊セキューター級。後3分後に交戦可能距離に入ります」

 

「艦名分かるか?」

 

「はい、親衛隊所属セキューター級”ライアビリティ”です」

 

アイゼンハール准将は頭を捻り、どこかで聞いたことのある艦名を思い出した。

 

「ナブー攻略部隊の艦か、であればまだコルサント本部から命令は受けていないはずだ」

 

「ではこのまま堂々と通り抜けましょう。連中とて偶発的な戦争は勘弁して欲しいでしょうからね」

 

ウィズドロウル”は一切退く事なく、堂々と第三帝国の領域を航行した。

 

この行動もメルゲンヘルク大佐達の判断に影響したのだろうか、”ライアビリティ”が攻撃を加えることはなく両艦とも静かに通り過ぎた。

 

ライアビリティ”の方は特に何もなかったが”ウィズドロウル”の艦内ではすれ違った後まで緊張が張り巡らされていた。

 

「やはり撃ってきませんね」

 

「油断は出来ないが…そうっぽいな」

 

「座標計算完了、ジャンプ出来ます」

 

「直ちにハイパースペースジャンプ、コルサントから離脱する!」

 

ウィズドロウル”はハイパースペースに入り、第三帝国の手から逃れた。

 

アイゼンハール准将はこの小さな前哨戦を切り抜けた。

 

コルサントに別れとまた戻ってくることを告げて。

 

第二次銀河内戦の運命はこの日に一つ決まった。

 

 

 

つづく




どうも〜明けましておめでとうございますEitoku Inobeですよ〜

ナチ帝国も先の話から新章に突入しております!

これからもっと激戦が始まるので皆様今年度もどうぞよろしおくお願いします

それではまた〜!
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