第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「私が人生で一番楽しかったのは家族と一緒にグリー・アンセルムのビーチに遊びに行った時のことだった。人生の絶頂期だったと言ってもいい。あとは落ちていくばかりだ」
-バスティ・シュタンデリス-


嵐の前の静けさ

-第三帝国領 コア・ワールド ボーメア宙域 シャンドリラ星系 惑星シャンドリラ ハンナ・シティ 海岸沿い-

シャンドリラは新共和国初の首都惑星であり、この星から新共和国初代議長のモン・モスマは誕生した。

 

かつては反乱と自由の象徴だった自然豊かなシャンドリラも今や敗者の象徴として第三帝国の直轄領となった。

 

各地に第三帝国と総統を讃えるモニュメントが設置され、首都ハンナ・シティの行政府区画は第三帝国総督府が居座っている。

 

あちこちに第三帝国の国旗が靡いており、ジークハルト達がいる浜辺とその周辺の娯楽施設も軍と治安関係者が接収した施設であった。

 

シャンドリラは元より自然豊かな惑星であり、惑星内に幾つもの自然保護区や動物保護区が設けられていた。

 

そんな惑星の立地を利用して第三帝国はシャンドリラ中に軍及び治安関係者用の娯楽施設を建設した。

 

戦果を上げた軍人や休暇を取った軍と治安関係者はシャンドリラの娯楽施設で穏やかな休暇を過ごすことが出来る。

 

あのハイドレーヒ大将も休暇を取って妻と子供達を連れてシャンドリラでバカンスを楽しんでいた。

 

そんな地に休暇を与えられたジークハルト・シュタンデリス”()()”は家族と共にバカンスに来ていた。

 

マインラートとホリーは浜辺の砂で砂山を作って遊んでおり、それを遠くからジークハルトとユーリアは見守っていた。

 

砂場にシートを敷き、パラソルがシャンドリラの眩い日差しを遮っている。

 

「なんだかんだ久しぶりの旅行になっちゃって、ちょっと申し訳ないな。この数年全く休みが取れなくて」

 

「いいのよ、それだけあなたは頑張ってるじゃない。はいこれ」

 

「ありがとう」

 

ユーリアからカップを受け取り、中に入っているチャヴ・ティーを飲んだ。

 

彼はいつもの制服とを脱ぎ、襟付きのシャツのみを羽織って胸元を開け袖を捲った格好でいる。

 

休暇だからか髪もいつもより若干乱れている。

 

ユーリアは白いワンピースに帽子を被って彼の隣に座っていた。

 

遠くで遊んでいるマインラートとホリーもそれぞれ普段着を着て靴を脱ぎ捨てて遊んでいた。

 

2人を見守りつつカップを持ちながら休暇に入る前のことを考えた。

 

ついに少将に昇進し、新しい階級章と襟章を付けられた。

 

気がつけば父がいた階級を超してしまったのだ。

 

全くその実感が湧かない、アカデミーを卒業した時から短い間に随分と遠いところまで来てしまったと彼は感じていた。

 

「ついに少将か……」

 

ふと考えていたことが口から漏れた。

 

ユーリアは「それだけあなたが周りに認められてるのよ」とジークハルトを元気付けた。

 

妻に言われるとなんだか満更でもない気がして笑みが浮かび出た。

 

「それに、こんないいところにバカンスで来られるんだから昇進も悪くないわ。あなたが家にいないのは寂しいけれどね」

 

「…ああ、当分はコルサント勤務だから大丈夫だよ。そんなに寂しくさせない」

 

「本当?」

 

ジークハルトはその一言に困ったような笑みを浮かべ2人で笑い合った。

 

それからふと考える。

 

戦いが終わり、死んでいった者達に勝利の手向けを送ることが出来れば今日みたいな日々が続くだろうか。

 

一体いつこの戦争が終わるのかは分からない。

 

だがもし、チスもセスウェナも倒してこの銀河から第三帝国の敵がいなくなった時、今日みたいな日は続いていくはずだ。

 

ゲアパルドと目指した日々が来る、私1人だけがその世界を生きることになる。

 

ジークハルトの手が震えた。

 

恐怖或いは罪の意識、どうしようもない後ろめたさが彼の心を包んだ。

 

ジークハルトはふと子ども達2人を見つめた。

 

あの2人を見ていると全く別の感情が生まれてくる。

 

まだ死ねない、マインラートとホリーが成長して立派に巣立つまでは。

 

「…なあ、もし戦争が終わって……戦いのない世界が訪れたらあの2人は将来どうするかな」

 

「どうしたの急に?」

 

突然子ども達の将来を聞いてきたジークハルトにユーリアは苦笑を浮かべながら聞き返した。

 

「いや、ちょっと気になってさ。全然家にいないしそういう意味では君よりよく知らないんだ」

 

「んー、そうね……多分だけどマインはあなたと同じ道に行こうとするわ」

 

「…軍人の子は軍人……か」

 

その瞬間、ジークハルトの眼が冷たい兵士の眼になった。

 

「でも意外と途中で変わるかも、子どもの夢なんていくらでもあるわ。だから私達の希望なんでしょ?」

 

「そうだね……ああ、そうだ」

 

ユーリアに絆されて彼の表情も再び柔らかくなった。

 

もし世帯を持たないでいたら自分は一体どうなっていたかとジークハルトは度々考えたことがある。

 

きっと今みたいに気を休めてくれる人もいなかっただろう。

 

「ホリーは…どうなるかな」

 

「あの子は多分マインから離れないわよ、なんとなくそれだけは分かる」

 

「家族愛が強いってこと?」

 

「んー、多分そういう愛情じゃないのが強い気がするわね…」

 

そう言われてふと2人に視線を向ける。

 

確かにホリーがマインラートを見る目は家族愛とは若干違うような気がした。

 

だが彼女はまだ幼い、気のせいな気もする。

 

すると2人の下に同い年くらいの女の子がやってきた。

 

「あの子は……どこかで見たことがあるような……」

 

女の子はマインラートに話しかけに行ったがホリーは明らかに不機嫌そうな顔をしていた。

 

むしろ不機嫌を通り越して睨みつけている節すらある。

 

「ああ……やっぱり気のせいじゃないかも……」

 

「シュタンデリスくんじゃないか、君も来ていたのか」

 

苦笑いを浮かべていると仕事仲間というべきか先輩というべきか、同じ親衛隊将校が声をかけてきた。

 

彼は今のジークハルトと同じで私服を着て家族と一緒にいる。

 

「アルブレート中将!あなたもここにいらしてたんですか」

 

「休暇でここに来た、明日で帰るつもりだ。君も昇進おめでとう、お祝いで来たのか?」

 

ルテマン・アルブレート親衛隊中将、現在はベアルーリン親衛隊アカデミーの校長を務めている。

 

元はチェンセラー・フォース時代から第1連隊の連隊長を務めており、帝国ロイヤル・アカデミーではジークハルトの2個上の先輩であった。

 

中将はジークハルトと同じくホズニアン・プライムの襲撃に参戦し、戦勝と共に准将へ昇進した。

 

暫くは第24FF装甲擲弾兵師団長、第8FF装甲擲弾兵団参謀長を務め中将の昇進と共にアカデミーの校長に就任した。

 

正に親衛隊のエリート将校、一番最初に誕生した連帯たる第1連隊の初代連隊長に相応しい人物であった。

 

私生活では惑星ラルティアー出身の女性を娶り、16歳の長男と8歳の長女を育てている。

 

長男は現在フェダル親衛隊航空アカデミーに入学している為、今回の休暇は娘のみを連れてきた。

 

「モーデルゲン上級大将が手配してくれました。久々の家族の時間が取れて頭が上がりませんよ」

 

「ハハ、気をつけろ?勿論気遣いもあるだろうがここには宣伝省の連中がいる。夫婦で熱くなるのもほどほどにな」

 

ジークハルトとユーリアは苦笑いし、頭を掻いた。

 

アルブレート中将は後ろを見ると顔を顰め急いで自分の娘を呼んだ。

 

「噂をすれば、だ。それじゃあな!シュタンデリス少将!」

 

アルブレート中将は家族と共にビーチを去った。

 

彼らのすぐ後にカメラを持った数人の宣伝省職員がやってきた。

 

宣伝省は第三帝国国内外に向けたプロパガンダを発信する部署であり、戦地で活躍する軍人達を取り上げることも多かった。

 

「ジークハルト・シュタンデリス少将でいらしゃいますね?私、宣伝省シャンドリラ支局のヴェム・ラーゲセンと申します」

 

「どうかしたかね?」

 

「休暇中のところ申し訳ございませんが、是非閣下と奥様を第三帝国国民の模範たる家族の姿としてお写真を頂戴したく参りました」

 

2人は顔を見合わせ、ジークハルトがすぐに「構わないよ」と了承した。

 

これも親衛隊で給料を貰っている以上仕方のないことだ。

 

「どんな感じで映ればいいかな?」

 

「普段通り楽にしていて構いませんよ」

 

「そう言われてもね…」

 

「こういうのが映えるんじゃない?」

 

そういうとユーリアはジークハルトの顔を両手で掴んで自分の方向へ向け、唇を重ねた。

 

突然のことに流石のジークハルトも目を見開き、頬を赤らめた。

 

すぐ様シャッターが押され、その瞬間は永遠に記録として残された。

 

尤も、これが宣伝省の記事に載せられるかは別だが。

 

「これいける?」

 

「いやぁ…もうちょい優しめのも撮っといた方が」

 

「すいません、もう1枚いいですか?」

 

職員達の競技の末、念の為にもう1枚撮られることになった。

 

今度はユーリアが頬にキスする瞬間が撮影された。

 

驚きはしたがジークハルトにとっては数少ない穏やかな日であった。

 

 

 

 

 

-エクスパンション・リージョン 第三帝国=レジスタンス係争地帯 サーカパス宙域 サーカパス星系 惑星ミンバン-

ミンバンは兼ねてより惑星に湧き出る鉱物資源の影響で絶えず紛争状態にあった。

 

クローン戦争では共和国側として、帝国時代ではミンバン戦役で帝国軍と戦い、銀河内戦では新共和国軍の力を借りて惑星を取り戻した。

 

そして第二次銀河内戦開戦から3年目の現在、ミンバンの大地では第三帝国とレジスタンスの力を借りたミンバニーズ反乱軍が再び激闘を繰り広げていた。

 

当初地上に上陸した第224装甲師団は数十年前のミンバン戦役とは違い序盤はかなり優位に立ち回っていた。

 

しかしミンバニーズのゲリラ戦とミンバンに残った新共和国駐屯部隊の組織的な抵抗によって戦線は停滞。

 

レジスタンス宣言以前から軌道上の封鎖線をすり抜けた補給によって現地の反乱軍は飢えることなく抵抗を続けていた。

 

これに対し、第三帝国は新たに親衛隊の第404FF義勇擲弾兵師団を投入。

 

国防軍と親衛隊の共同戦線はレジスタンス=ミンバニーズ軍と一進一退の攻防を続けていた。

 

泥に塗れた戦場には両軍の死体が転がっており、そこはまさに地獄であった。

 

戦闘中は両軍のロケット弾や砲弾が飛び交い、土を巻き上げている。

 

帝国軍自慢の機甲戦力を用いても頑強な野戦防衛網は突破出来ずにいた。

 

「突撃!!突撃ぃ!!」

 

アーマーを着てE-11片手に部下達を先導する親衛隊大尉は誰よりも先頭を突っ走っていた。

 

彼、ハンス・ビュルーガー大尉の中隊メンバーは度重なる激戦で士気が低下しこうでもしないと誰もついてこないのではないかという不安があった。

 

何せ第404FF義勇擲弾兵師団の兵士は殆どが新しく第三帝国の軍門に降った惑星から徴募された者で一般の兵士よりも練度や忠誠心は低かった。

 

師団の殆どが地上軍トルーパーの装備であり、このミンバンの地でストームトルーパー・アーマーを装備している者は224装甲師団の面々程度であった。

 

この地の地上軍トルーパーは基本的にスワンプ・トルーパーと呼ばれていた。

 

ミンバンの派遣部隊においてストームトルーパーとスワンプ・トルーパーの比率は1:3であり、かつてのミンバン戦役同様歩兵の主力はスワンプ・トルーパーであった。

 

別名でマッドトルーパーと呼ばれるミンバンの地上軍トルーパーはまるで消耗品のように使い潰されている。

 

敵の塹壕まであと数十メートルというところで共に前進する兵員輸送機の近くに迫撃砲弾が着弾し周囲に爆発をもたらした。

 

幸い爆発に巻き込まれて死傷する兵士はいなかったが兵員輸送機のリパルサーリフトが破損し、そのまま近くの砲撃によって誕生した水溜りに滑り込んだ。

 

また1両兵員輸送機が破壊されてしまった。

 

この戦場には歩兵の他に無惨に破壊されたAT-STや兵員輸送機、オキュパイア・タンクや2-Mセイバー級ホバー・タンクの残骸が転がっている。

 

皆塹壕に接近する際に砲爆撃で破壊されたか塹壕内の兵士によって破壊された。

 

ウォーカーを多数保有する装甲師団が突撃をかけてもこの塹壕網を破れずにいる。

 

「前方にブラスター砲!総員散開!」

 

分隊を指揮する軍曹が仲間達に向かってそう叫んだ。

 

上手く掩蔽された場所から帝国軍から鹵獲したであろうEウェブ・ブラスター砲が顔を出した。

 

ブラスター砲手の射撃により軍曹の命令で散開したのにも関わらず数名が弾丸に喰われた。

 

放たれたブラスター弾が兵員輸送機や戦車の残骸に命中し周囲に火花を散らした。

 

次々と他の一般兵士達もA280やF-78ブラスター・ライフルを持って塹壕から応戦を開始した。

 

ブラスターの弾幕の中では進もうにも進むことが出来ず、兵士達は周囲の物陰に隠れ自身のE-11やE-10で応戦した。

 

「ブラスター砲手を倒せ!なんとしてもこの塹壕だけは制圧するんだ!」

 

部下に命令を出した後ビュルーガー大尉はふと真横を見た。

 

大尉と同じように部隊を率いていた親衛隊中尉が残念なことに砲弾に巻き込まれて目の前で消し飛んだ。

 

彼はアカデミーの同期であり、大隊内では中隊長へ昇進する話も出ていた。

 

これで中尉は二階級特進、中隊長どころか大隊長と同じ階級になった訳だ。

 

指揮官を失ったことにより中尉の部下達は一瞬だけ怯みその隙を突かれてブラスター砲の餌食になった。

 

大尉は急いで「早く遮蔽に隠れろ!」と叫ぶことしか出来なかった。

 

そんな中、大尉が率いる中隊の勇敢な兵士2名がこの膠着状況を打破しようとしていた。

 

「ペテル、なんとか接近してこいつをぶち込めないか!?」

 

ヴィゴン上等兵は戦友のペテル上等兵にN-20タイプのサーマル・デトネーターを手渡した。

 

2人と同じライオサ出身であり、古い付き合いであった。

 

もう1人同郷の兵士がいたのだが6日前の敵軍の反攻で戦死した。

 

「攻撃を引き付けて貰えばなんとかいける!無理だったらこいつを抱えて突っ込む!」

 

ペテル上等兵はサーマル・デトネーターを受け取り厳しい目つきで敵陣地を睨みつけた。

 

するとブラスターの弾幕を潜り抜け2人がいる窪みに軍曹がやってきた。

 

「ペテル、ヴィゴン前に出過ぎだ!頭をぶち抜かれちまうぞ!」

 

「パーレン軍曹!」

 

彼らはスワンプ・トルーパーである為当然番号が振り分けられている。

 

例えばバーレン軍曹はVAT-980/404、ペテル上等兵はVAT-3449/404など。

 

しかしいつからか互いを番号で呼ぶことはなくなりわかりやすいからか名前で呼び合っていた。

 

「他の連中が這ってくるからもう少し辛抱しろ、ここじゃ集中砲火で狙い撃ちにされるぞ」

 

「むしろこの状況なら良い囮になりますよ!いやむしろこっちで火力を引きつけましょう!」

 

「何!?」

 

「今からペテルがデトネーター持ってEウェブを吹っ飛ばしに行くとこだったんです!俺たちでブラスター弾を肩代わり出来るならそれでいい」

 

パーレン軍曹は呆れた顔を浮かべたすぐにバックパックから何かを取り出した。

 

ヴィゴン上等兵が持っていたのと同じタイプのサーマル・デトネーターだ。

 

「ペテル、貸してくれ」

 

ペテルからデトネーターを受け取ると軍曹は元々持っていた2つと重ねてそのまま縄でぐるぐる巻きに縛った。

 

「こいつを一気に投げれば塹壕周りの敵兵が一気に片付くはずだ。だが投げ終わったら絶対に伏せてろよ?何があっても動くなよ!」

 

サーマル・デトネーターの束をペテル上等兵に渡すと軍曹は匍匐前進で近くまで来ていた兵士を引き寄せた。

 

真っ平な大地を這って進むよりもこの水溜りにいた方が弾が当たらずに済む。

 

「ここにいる3人で援護射撃を行う、その間にペテルはまっすぐ突っ込め」

 

「了解!!」

 

3人のスワンプ・トルーパーはブラスター・ライフルを構えた。

 

彼らの持つE-10ブラスター・ライフルは以前ミンバンで使われていたものよりは性能が上がり弾詰まりの可能性は減っている。

 

しかしこの異常な環境ではどうしても故障を防ぐ事は出来ないでいた。

 

「援護射撃!」

 

3人は引き金を引きブラスター弾を放った。

 

何十発もの弾丸は塹壕内の敵兵士を牽制し攻撃を3人に集中させるには十分な攻撃だった。

 

その間に水溜まりから這い上がったペテル上等兵はサーマル・デトネーターを抱えて必死に走った。

 

上等兵に気づいた何人かの敵兵が攻撃を仕掛けてきたが奇跡的に弾は当たらなかった。

 

ギリギリまで接近しサーマル・デトネーターの束を投げつけた。

 

サーマル・デトネーターは掩蔽壕に入った瞬間に起爆し、爆発は掩蔽壕を跡形もなく吹っ飛ばした。

 

爆発は塹壕内にも広がりパーレン軍曹の言った通り、塹壕内の敵兵を一気に殲滅した。

 

「ブラスター砲をやったぞ!」

 

「総員!!着剣せよ!!」

 

ブラスター砲の破壊を確認したビュルーガー大尉は自身の中隊員に銃剣の装着を命じた。

 

塹壕内の戦闘となるといざという時に銃剣は役に立つ。

 

スワンプ・トルーパー達はブラスターのアタッチメントに銃剣を装着し、命令を待った。

 

大尉も己のE-11に銃剣を装着し時期を見計らって命令を出す。

 

「突撃!!」

 

大尉の合図と共に兵士達は大声を上げて塹壕内に突き進んだ。

 

ミンバンの泥の大地は彼らの足を絡め取ろうとするがここまできたらもう止まることはない。

 

次々とスワンプ・トルーパーは塹壕の中に入り生き残っている敵兵を蹂躙した。

 

爆発の影響で辺りには人体の焼け焦げた悪臭が漂っているのだがそんな臭いばかり嗅いできた彼らの鼻はとうの昔に壊れていた。

 

「うおおおおおお!!」

 

塹壕に突入したヴィゴン上等兵は銃剣で負傷した敵兵を突き刺し息の根を止めた。

 

塹壕内は暫し乱戦状況に陥っていたがレジスタンス軍は速やかに塹壕の放棄を決断し撤退が始まった。

 

ここを失っても次がある、そして逆襲する戦力もある。

 

「逃すな!1人でも多く殺せ!」

 

スワンプ・トルーパー達は逃げるレジスタンス兵にブラスター弾を撃ちつけた。

 

しかし倒せた敵兵はそれほど多くない。

 

部隊内の古参兵や下士官達が無理に追撃しようとするトルーパー達を抑えていた。

 

「迫撃砲の向きを変えろ!逆にこっちから撃ち返してやれ!」

 

制圧した塹壕には既にスワンプ・トルーパーが張り付いており警戒に当たっていた。

 

塹壕内の制圧が完了したことにより辺りにATホーラーやセンチネル級がウォーカーや兵員を降ろし始めた。

 

地上に降り立ったAT-STやAT-DTは前進を開始し、その後を兵員輸送機と歩兵隊がついていった。

 

「大尉!我々はどうしますか?」

 

ペテル上等兵とヴィゴン上等兵を引き連れてきたパーレン軍曹が大尉に尋ねた。

 

この手の突撃にしてはまだ兵の損害が少なく他の部隊と共に次の塹壕へ突撃することが可能であった。

 

ビュルーガー大尉は辺りを見渡した。

 

損害は少ないと言ってもここまで来るのに多くの死傷者を出した。

 

しかも突撃に必要な兵員輸送機や戦車隊はここに来るまでかなりの数が破壊されてしまった。

 

このまま歩兵だけで突撃をしても数分と経たずに全員が死体と化すだけであろう。

 

「突撃はしない、我々はこの塹壕に張り付いてここを死守する。他の分隊や下士官にも伝えてくれ」

 

「分かりました!」

 

「ペテルとヴィゴンは今のうちに休んでおけ。よくやってくれた」

 

「はい!光栄であります!」

 

中隊長たるビュルーガー大尉に褒められた2人は彼に敬礼し喜びを噛み締めた。

 

2人はこんな地獄の戦場でも比較的良い上官に恵まれている方だ。

 

将校の中には兵士をバトル・ドロイド並みの消耗品として扱う者もいる。

 

特にこのような膠着した戦場では状況打破の為に変貌していく者もいた。

 

ミンバンの確保は当初国防軍最高司令部が考えていたものよりも困難を極めていた。

 

司令部の参謀達はホズニアン・プライム、シャンドリラ陥落によって新共和国軍は崩壊しておりミンバン駐留軍も最も簡単に撃破出来ると考えていた。

 

だが現実は非情であった。

 

戦場はかつてのミンバン戦役と変わらず、一回の攻撃の度に多くの将兵が犠牲になっている。

 

しかもミンバニーズは完全なるエイリアン種族だ。

 

第三帝国の理念としては彼ら彼女らを野放しにしておけるはずもなかった。

 

前線へ急行する兵員輸送機の中でトルーパー達は与えられたガスフィルターを装着した。

 

輸送機の頭上を数十発の砲弾が飛び交っている。

 

この内の何発かは即効性を高めたダイオキシスの毒ガス弾であり、ガスマスクを装備していない兵士達は大いに苦しめられることとなった。

 

これも親衛隊が各地の収容所で生み出した“()()”だ。

 

既にこのダイオキシス弾は多くの犠牲を生み出している。

 

ミンバンの地で繰り広げられる地獄は、さらに苛烈さを増していた。

 

「分隊シールドを展開して二重防御態勢を取れ!歩兵部隊は塹壕の中で待機だ!」

 

「ビュルーガー大尉!ハンメルン少佐がお呼びです」

 

「何?……部隊の指揮は各小隊長に任せる。敵の反撃部隊が来たら迫撃砲とブラスター弾を叩き込んでやれ」

 

「了解!」

 

ビュルーガー大尉は彼を呼び出したバンケル少尉と共に塹壕を出て近くの指揮車両型兵員輸送機に向かった。

 

そこには幾人かの将校と警備のスワンプ・トルーパーが待機している。

 

皆、コートは泥で汚れて寄れているし、アーマーも傷だらけであった。

 

「ハンス・ビュルーガー大尉、出頭しました」

 

大尉はタブレットを片手に将校達に指示を出していた少佐に敬礼した。

 

ヴェイム・ハンメルン少佐、ビュルーガー大尉が所属する第69FF義勇擲弾兵大隊の大隊長である。

 

「大尉、無事だったか」

 

「はい、前線の塹壕陣地の突破と占領に成功しました。それでも部下はかなり持ってかれましたが……」

 

1回の突撃で少なくとも10名以上は死傷者が出る。

 

今回の突撃でもまだ数えていないが少なくとも大尉の絵の前で4人は死んだ。

 

「作戦は成功した……が、今回の突撃でズィーク上級大尉が死んだ。確か君の同期も」

 

「はい……惜しい人材でした」

 

「我が大隊は指揮能力、兵員共に損耗している。補充を受けなければならない」

 

そう言ってハンメルン大尉はタブレットをビュルーガー大尉に手渡した。

 

タブレットには”()()()()”と書かれていた。

 

「大隊は占領地を206歩兵大隊と交代しコルサントへ移動する。そこに書いてある通り、我々の所属は既存部隊を増設して作られた第9FF装甲擲弾兵師団となるそうだ」

 

「こんな状況で再編ですか?上は一体何を考えて…」

 

「分からん、だがなハンス、我々はこれでようやくこの泥の大地とおさらば出来る。それに今度の上官はあのジークハルト・シュタンデリス少将だ」

 

ビュルーガー大尉は少し考えた。

 

当然第69FF義勇兵大隊が抜ければ別の大隊が入ってくるだろう。

 

だがこのミンバンの戦地をよく知っているのは間違いなく我々だ。

 

我々の方が遥かに地の利を知っており、こんな有様でも損害を抑えて戦えられるはずだ。

 

しかしこのままミンバンに居続ければただ消耗するだけだろう。

 

この戦いに当分勝利はない。

 

それに比べて新しく師団長になる予定のジークハルト・シュタンデリスは評判も良く、向かう所勝利を手にする若きエリート。

 

部下と共に前線に立って陣頭指揮を取り、優しい性格から多くの将兵達が慕っている。

 

噂を聞くだけで今の師団長たるアインツヘルム准将とはえらい違いがある。

 

同じ戦場で部下達と共に死にに行くにしても新しい師団長の方が良さそうだ。

 

「あの方の下でなら我々も少しはいい目を見れる。その恩恵に最初に預かったのはまず君だ」

 

タブレットをスライドするとそこには人事に関する文書が記載されていた。

 

「ハンス、戦死したズィーク上級大尉に代わって我が大隊の副大隊長に任命する。当然上級大尉に昇進だ、おめでとう」

 

バンケル少尉から受け取った小箱を開け、中身をビュルーガー大尉に見せた。

 

中には上級大尉の襟章とコードシリンダーが入っていた。

 

「交代は3日間で行われる。ズィーク上級大尉の中隊は私がなんとかしておくから君はまず自分の中隊の面倒を見ろ」

 

「了解」

 

ハンメルン少佐に軽く敬礼し、ビュルーガー上級大尉はその場を後にした。

 

「何が恩恵だよ、ただの繰り上がり昇進じゃないか」

 

道中で不幸な昇進を皮肉りながら。

 

 

 

 

ー大セスウェナ連邦領 アウター・リム・テリトリー セスウェナ宙域 エリアドゥ星系 惑星エリアドゥ 連邦盟主執務室ー

大セスウェナ連邦の統一条約脱退から1週間が過ぎた。

 

この1週間で様々な変化が訪れた。

 

連邦領内に駐留していた全第三帝国軍の撤退が決まり、アノート宙域へ進軍中の国防軍も戦線を縮小して主力艦隊はマラステアまで後退した。

 

アノートへの侵攻は大セスウェナ連邦という中継地点を失った為徐々に縮小していくだろう。

 

大セスウェナ連邦の脱退は未だ第三帝国の傘下に入らない惑星政府や、第三帝国に付き従っていた惑星政府にも変化を齎した。

 

大セスウェナ連邦に続いてヴィオニス宙域連合、ロールタ共和国、ウムグル連邦が脱退の手続きを開始した。

 

3カ国は大セスウェナ連邦との安全保障同盟に前向きであった。

 

コルサントでも変化はあった。

 

大セスウェナ連邦大使館は規模を縮小し特別全権公使を配置した上で大使館を公使館と名を改めた。

 

第三帝国は一連の行動に強い言葉での避難とありとあらゆる封鎖措置を取ったが直接の軍事侵攻までは行わなかった。

 

何の計画もなしに大セスウェナ連邦を攻めても勝利は手に入らないと確信していたからだ。

 

大セスウェナ連邦は元より大国、準大国として十分な力を持っている。

 

しかも連邦軍はこの戦争が始まるずっと前から軍備を整え、力をつけてきた。

 

生半可な戦力じゃ逆に返り討ちに合う。

 

直接戦争は一旦預けられ、長い緊張状態が始まった。

 

されどその間にも連邦盟主と政府の役人達には仕事が舞い込んでくる。

 

「閣下、お疲れ様です」

 

「うん、次の予定は?」

 

ヘルムートは椅子に座り、襟のホックを外して背もたれにもたれ掛かった。

 

今日の制服はどことなく肩が重い気がする、きっと疲れているのだろう。

 

着かれている時ほど何故か肩章が重く感じるのだ。

 

「帰還なされたレイヒ閣下との面会の予定が入っておられます」

 

モッティ提督は次の予定を説明し事前の資料を手渡した。

 

ヘルムートは資料にさっと目を通し、ふと窓の方を見た。

 

窓の外にはエリアドゥの穏やかな日の光が差し込んでくる。

 

「それと、統合本部とFCSIAから報告書が……”()()()()()1()()()()()”に始まると」

 

「……義勇兵部隊の状況は」

 

「ジェミス・パルトン准将指揮下の義勇軍戦闘団が向こうに展開し、いつでも戦闘準備が可能です」

 

ヘルムートは表情を曇らせ、目線を落とした。

 

第三帝国のケッセル侵攻、この情報を大セスウェナ連邦とて知らないもではなかった。

 

ケッセルにこの前情報を伝えたのも大セスウェナ連邦であったし、既に軍事支援も行っている。

 

ジェミス・パットン准将率いる義勇兵部隊がその最も大きな一例だ。

 

パルトン准将は第2機甲師団の指揮官であり、義勇兵の多くもこの第2機甲師団から抽出されていた。

 

ヘルムートはふと派兵の際、パルトン准将と会ったことを思い出した。

 

由緒正しい軍人の家出身だからか立ち振る舞いには気品があった。

 

されど発言は豪胆で特に部下達にかける言葉は悪く言えば下品とまでいえるものだった。

 

しかも心の奥底で闘争を待ち望んでいる。

 

統合本部曰く、義勇兵の指揮官を募った時真っ先に手を上げたのがパルトン准将であったそうだ。

 

「パルトン准将なら大丈夫ですよ、多分向こうでも元気です」

 

「だろうな……多分戦いが始まっても元気だろう、ああいう戦える手合いは必要だから生きて帰ってきてほしいが」

 

同じことをケッセルの実質的指導者クラリッサ・ヤルバ・パイクにも思っていた。

 

彼女は第三帝国と戦う仲間にして同じように若くして国を背負う友だ。

 

友人が減っていくのは当然悲しい。

 

『警護室です、レイヒ閣下が到着成されました。お通ししてもよろしいでしょうか?』

 

「構わん、連れてきてくれ」

 

官邸警護室からの報告を受け、ヘルムートは執務室のドアを開錠した。

 

連邦盟主の身辺警護は連邦司法省所属の警護総局が担っていた。

 

職員の多くが警察関係や軍関係の実戦部隊出身であり、首相や盟主の外遊時には必ず着いて回っている。

 

2名の職員に連れられ、コルサントから帰還したレイヒ前駐コルサント大使は執務室に入ってきた。

 

モッティ提督はすぐに敬礼し、ヘルムートも軽く敬礼した。

 

モッティ提督からすればレイヒ前大使は同じ宇宙軍の先輩だ、礼節を欠くことは当然許されない。

 

「お久しぶりです閣下」

 

「出迎えに行った時以来だな、君も元気そうで何より。家族の方はどうだ?」

 

「頂いたエリアドゥ・シティの家でようやく一息つけたって状態です。健康の方では全く問題ありません」

 

「良かった」

 

軽い雑談を挟み、和やかな空気間のまま本題に突入した。

 

「首相や長官にもう言われたとは思うが君には再び軍務に復帰してもらう。まずは第2宙域統合軍司令官を任せたい」

 

レイヒ前大使もこの話をされるだろうと薄々感づいていたようで異論は唱えなかった。

 

疑問や反対意見は既にリノックス長官と首相に述べた。

 

それでも彼らが必要としているということはそう遠くない未来に”何かがある”ということだろう。

 

「盟主閣下にも復帰を命じられた以上敢えて何も言いません」

 

レイヒ前大使は若干のしこりを残しつつも彼らの命を受け入れた。

 

「ありがとう、少なくとも1年は統合軍司令でいてもらうことになる」

 

「1年?と言いますと?」

 

「ホルト本部長は来年で退役する、そうなったら連邦法に基づき新しい統合本部長を選出する必要がある」

 

レイヒ前大使は何故自分が軍務復帰を望まれているかをほぼ理解した。

 

軍拡に合わせて人手が足りないなどではない、老練で経験を積んだまとめ役を求めているのだ。

 

大セスウェナ連邦法によると統合本部長就任の資格があるのは統合本部次長、地上軍参謀総長、宇宙軍作戦部総長、航空軍総司令官、海兵隊総司令官の統合本部構成メンバー。

 

そして5つの宙域統合軍司令官と機能別統合軍の司令官達。

 

まず統合軍司令官のポストに置くのは来年度以降、レイヒ前大使改め提督を統合本部長に指名する為の布石だ。

 

「もう暫く、大セスウェナの為に軍で働いてくれ。レイヒ提督」

 

ヘルムートの若く、熱意に満ちた瞳が歴戦の提督を見つめた。

 

「……建国と同時に私が軍を引退した時、貴方の叔父と話しました。『もし次に呼び出される時はきっと有事だ』と」

 

同じくらい真剣な瞳がヘルムートを見つめた。

 

「私は連邦盟主として、いついかなる時も国民国家に全力を尽くするつもりだ。国家の代表たる議会が承認した人事も適切として信じている」

 

「全力を尽くします、少しでも閣下の助力となるように」

 

レイヒ提督は何年振りかの軍隊式敬礼をヘルムートに送った。

 

その美しい所作は彼の心がまだ気高い宇宙軍将校のままであると指名していた。

 

役者は徐々に揃い始めている。

 

 

 

 

-第三帝国国家弁務官区領 ハット・スペース ノルトハット国家弁務官区 ケッセル王国国境地帯-

統合本部とFCSIAの情報獲得能力と分析能力は高かったと言える。

 

報告書が上がった丁度1週間後に第三帝国宣伝省はケッセルへの軍事侵攻を発表した。

 

国境沿いに集まった艦隊が一斉にケッセル領へと流れ込んだ。

 

戦端が開いたのは前衛の第906FF小艦隊とケッセル王国宇宙軍第207機動部隊の衝突であった。

 

パボル・スレイヘロンからジャンプアウトした小艦隊はゼルム星系の玄関口を警備していた機動部隊を発見。

 

インペリアル級六隻を主力とする小艦隊とヴィクトリー級三隻の機動部隊では単純戦力で機動部隊が不利だ。

 

案の定、45分ほどの砲撃戦の末にヴィクトリー級一隻、アークワイテンズ級三隻、レイダー級一隻を失った207機動部隊は撤退を開始した。

 

その勢いのまま第906FF小艦隊は惑星ゼルムへの攻勢を開始、ゼルム軌道上の防衛艦隊と交戦に入った。

 

ここでも小艦隊はゼルム防衛艦隊に対して優位に立ち回った。

 

単純な戦力の差もあるが一番の要因は防衛艦隊が弱腰だったことだ。

 

インペリアル級六隻からの砲撃から逃れるかのように常に距離を取り続け、まるで時間を稼いでいるようだった。

 

尤も、防衛艦隊が剥がされたお陰で地上部隊の展開は予定より早く行われた。

 

まずインペリアル級の上陸部隊が先行して着陸地点を確保し、防御陣地の構築と司令部のプレハブ基地設置を行なった。

 

小艦隊が防衛艦隊と撃ち合っている間にジャンプアウトした第407揚陸艦隊のセキューター級と帝国貨物船がゼルム内に地上軍の主力を展開する。

 

Ⅲ号、Ⅳ号AT-ATを主力とした1個装甲師団を中心にゼルムの首都ゼルム・シティへの侵攻が始まった。

 

当然地上では守備軍が防御陣地を構築し、親衛隊の行手を阻んだ。

 

しかしこちらの守備軍も防衛艦隊同様に弱腰で最初の塹壕陣地が突破された時点でもう撤退が始まっていた。

 

その為殆ど抵抗を受けず、装甲師団はほぼAT-ATの時速と同じスピードで首都まで辿り着いた。

 

首都に辿り着いても同様の状態が続き、地上部隊はほぼ無傷でゼルム・シティを占拠した。

 

行政区画にはあっさりとノルトハット国家弁務官区の区旗が昇ったのだ。

 

防衛艦隊も守備軍の撤退が完了するまで交戦を続け、その後アニード方面へと後退した。

 

後続の第904、90FF小艦隊が到着する頃にはゼルム星系全域の完全制圧が完了していた。

 

この時点で侵攻計画の第一段階が達成された。

 

侵攻軍司令官はバルフェルライチュ大将はあっさりとゼルムが陥落したことを訝しみつつも前線司令部としてゼルムに入った。

 

現在、ゼルムの司令部ではバルフェルライチュ大将と親衛隊本部の上級大将達、そして2人の国家弁務官区総督と報告会を開いていた。

 

『ではもうゼルムは本当に陥落したのだな?』

 

「はい、各艦隊の補給とケッセル展開用の地上軍戦力を待ってから再度侵攻を開始します。ケッセル・ランは移動だけで時間が取られますので装備を万全にして置かなければ」

 

『ゼルムでの抵抗が少なかったということは本来いたはずの主力は既に後方に下げたと見た方がいい。むしろ、これからの方が厳しい戦いになるぞ』

 

「はい、あのヤルバ家が簡単に折れるとも思いませんので」

 

少なくともバルフェルライチュ大将とフューリナー上級大将の考えは一致していた。

 

侵攻計画を事前に知ったあのクラリッサ・ヤルバ・パイクは本来ゼルムに展開されているはずの主力部隊を後方へ下げた。

 

下手にゼルムで決戦を開いたとしても数的振りは覆せないと踏んだのであろう。

 

むしろ時間をかけてもゼルムで主力を潰せた方が今後どれだけ戦況が楽になるかと若干不安が募った。

 

『で、今後の作戦計画はどうする?』

 

モフビュレンケルがバルフェルライチュ大将に尋ねた。

 

彼としては早急にケッセルを占領し、ケッセル内のスパイス利益や燃料資源を第三帝国と自分の懐に入ることがまず一番であった。

 

「各部隊司令官、参謀達と協議しこのまま計画通り作戦を実行する予定です。ですがケッセル方面の侵攻兵力を増強する為に1個機動部隊の増強をお願いしたい」

 

『その程度なら補填分は本国から出そう、敵艦隊さえ突破出来ればケッセルなど余裕で制圧出来るのだろう?』

 

「それに関しては間違いありません、我が親衛隊装甲師団がケッセルの雑兵に押し負けるはずがありませんので」

 

ここだけは確固たる自信があって断言することが出来た。

 

新型のアサルト・ウォーカーと親衛隊の優秀なドライバーが組み合わされば地上の制圧戦で負けることはまずない。

 

「ケッセル侵攻はこのヴェルケンダール中将が艦隊指揮を、地上軍指揮をシュヴェーツ中将が行います。補給作業を考えると後2日で可能になるでしょう」

 

『そうか…他に報告は?』

 

「ありません、吉報をお待ちください」

 

『油断するなよ』

 

「ハッ!」

 

最後にフューリナー上級大将はバルフェルライチュ大将に釘を刺し、『報告会を終えよう』と会議を閉じた。

 

1人ずつホログラムが消え、残ったのはバルフェルライチュ大将と指揮官の2人の中将だけであった。

 

上官が全員いなくなったことを確認して大将はようやく大きく息を吐けた。

 

「大将は後2日と仰いましたが我が地上部隊は殆どの重装備を各艦に積め込んだ為、燃料補給さえ早めれば後1日でいけます」

 

シュヴェーツ中将はそう進言した。

 

今回のような電撃戦では速さが最も重視される。

 

1分1秒でも早く敵地への強襲を与えることが敵の混乱を招き、勝利への第一歩となるのだ。

 

しかしバルフェルライチュ大将は首を振った。

 

「ゼルムからあれほど鮮やかに撤退した連中だ、指揮系統に混乱が生じているとは思えん。むしろケッセルだけは確実に準備して万全の状態で戦うべきだ」

 

参加する兵士達の休息も考えればやはり2日の猶予は欲しい。

 

ヴェルケンダール中将もシュヴェーツ中将も気がついていないだろうが既に相手はケッセルの防衛策をかなり練っているだろう。

 

数的優位性と兵士と兵器の質の優位性があるとはいえ、どこまで押せるか。

 

徐々にバルフェルライチュ大将の方が弱腰になっていた。

 

それだけたった1人でケッセルを銀河内戦の混乱から救い、パイクすらも掌握したクラリッサが恐ろしいのだ。

 

「ヴェルケンダール中将」

 

「はい」

 

「君の方に新しく来る1個機動部隊は君の方に送る、確実に敵を殲滅しろ。2人とも部隊の指揮に戻れ」

 

ヴェルケンダール中将は敬礼し2人は部隊指揮の為にその場を後にした。

 

2人が司令室を去り、室内にはバルフェルライチュ大将1人になった。

 

ふと室内の窓から外の様子を見つめた。

 

空には何隻もの軍艦、地上の都市部には幾千もの帝国軍旗が靡いている。

 

既に作戦は動き出した、これほどまでに順調になってしまったらもう止まることは出来ない。

 

この光景をケッセルの先まで広げる、それがバルフェルライチュ大将の使命だった。

 

 

 

 

-第三帝国占領地 ケッセル宙域 ゼルム星系 惑星ゼルム ゼルム・シティ近郊-

帝国製のシーカー・ドロイドがゼルム・シティの上空を飛び回っている。

 

空からの日常的な監視を目的とするこのドロイド群は5、6体につき1人が飛行時の管理を任せられていた。

 

尤もシーカー・ドロイドは基本的自動操縦で浮遊する為管理者が何かをする必要はない。

 

集められた映像を分析し、不審人物が写っていないかを確認するのが管理者の主な仕事だ。

 

故にそこに弱点があった。

 

1体のシーカー・ドロイドが列を離れてどんどん高度を下げる。

 

他のシーカー・ドロイドはそのことに気も留めず浮遊し、次の監視地点へ向かった。

 

管理者達も映像の確認に夢中で外れたドロイドのことは特に気にしていなかった。

 

「やっぱりもうゼルムは陥落したっぽいね、敗残兵のゲリラ戦の後もないしケッセル軍は綺麗に撤退したと思うけど」

 

ドロイドを操作しながらジェルマンは偽装したUウィングの船内で事態の感想を呟いた。

 

ジェルマンが操るシーカー・ドロイドはレジスタンス軍が鹵獲したものを彼が改造した個体だ。

 

他のドロイドに誤認識を与える電波を用いて隊列に潜り込み、堂々と偵察活動が出来る。

 

3年前、情報部の佐官育成課程の課題で作ったものがここで活きるとは。

 

「逆を言えば綺麗すぎるな、さっきケッセル軍が陣地を展開した地域を見てきたが規模が小さい上に殆ど抵抗せずに後退した感じだった」

 

ジョーレンはケッセル王国軍の動きを訝しんでいた。

 

ゼルムはケッセル宙域の玄関口、もっと抵抗してもいいはずだ。

 

それに第三帝国の奇襲であれば今よりもっと敵軍を撃滅出来たはず。

 

「前撮った映像も俺が調べた報告書も全部本部に送ったんだよな?」

 

「うん、暗号通信でディカーとキャッシークへ送った。分析班ならもう情報分析を完了して司令部から何か命令が来てもいいはずだけど」

 

そう言ってるとコックピットのホロ通信機がブザーを鳴らし、遠方からのメッセージを知らせた。

 

2人は急いでコックピットの座席に座り、ホロプロジェクターを起動した。

 

『大尉、少佐、潜入ご苦労。君達が送ってくれた映像と報告書は読ませて貰った』

 

ホログラムに映し出されたのはクラッケン将軍であった。

 

2人は敬礼し次の言葉を待った。

 

『私も少佐の考えと同じ意見だ、いくら戦力差があるとはいえケッセルの抵抗はその程度ではないはず』

 

「やはり将軍もケッセルが事前にこのことを知った上で戦略的にゼルムから退いて新たな手を打つつもりだとお考えですか?」

 

ジョーレンの問いにクラッケン将軍は静かに頷いた。

 

将軍は今度はジェルマンに尋ねた。

 

『大尉、君はゼルムの様子を見ているから我々より正しい判断が出来ると思うがどうだね、ゼルムの帝国軍はまだ戦闘を続けるつもりか?』

 

第三帝国の性質を考えれば可能性は低いが彼らがゼルムで戦果を満足し、そのまま進撃の歩みを止める可能性もある。

 

そうすればこの偵察活動も引き上げか偵察地の変更かを考えなければならない。

 

「いえ、むしろ数日のうちに侵略軍はケッセルかエニードに攻め込むでしょう。地上の揚陸艦隊は兵器と兵員を詰め込み始めてますし、上空だとうっすらですが艦隊も動き出してる」

 

『そうか、では命令も変更は無しだ。2人ともよく聞いてくれ、今からそちらに今後の偵察活動で重要なIDを送った』

 

Uウィング内のカセットに入っていた予備のデータチップ2枚にキャッシークから送られたIDが上書きされる。

 

『I班が掴んだんだがパイク・シンジケート経由でどうもケッセルが義勇兵を集めているらしい。給料は……まあ知らんでもいいだろう』

 

「我々に義勇兵になりすましてケッセル内の情報と戦況を探れと?」

 

『ああ、Uウィングも民間市場に流れたものを傭兵が買い取ったとすればそのまま使えるはずだ。勿論傭兵なので戦場へ送られることもあるだろうが上手く切り抜けてほしい』

 

「任せてください」

 

クラッケン将軍は『詳しい司令書は今送った』と詳細な命令を彼らに転送した。

 

チップを眺めながらふとジェルマンが「しかし、雇われ兵なんてどの程度役に立つんでしょうかね」と呟いた。

 

無論正規兵と同等に強く、金が支払われている以上戦い続ける傭兵もいるだろう。

 

だがそうではない者が正規軍と比べて絶対的多数派なはずだ。

 

「まあいないよりはマシだろうな、連中本気で第三帝国と戦うつもりだ」

 

『少佐の言う通り、ケッセルは当分抵抗を続けるはずだ。故に君達の偵察任務遂行と無事を祈る、それでは』

 

ホログラムは消え、ジェルマンとジョーレンは急いで移動の準備を始めた。

 

機体の偽装を取り外し、放っていたシーカー・ドロイドを上手く隠しながら手元に戻す。

 

淡々とした作業の後、淡々とした移動が始まる。

 

静かな偵察兵達は現れる時も去る時も彼ら(親衛隊)には気づかれなかった。

 

 

 

 

 

-第三帝国領 ミッド・リム 惑星ウェイランド 親衛隊ミディ=クロリアン研究所-

人にもよるがスターシップから地上への移動を行う際、多くの政府高官や将校達がラムダ級を用いている。

 

フリシュタイン上級大佐改め、准将もラムダ級を使用していた。

 

彼はコルサント・アンダーワールドでの浄化作戦とナブーでの戦功によって准将へと昇進した。

 

今後はFFISO第Ⅵ局C部の部長に就任する予定だ。

 

今、ウェイランド研究所のハンガーベイにはフリシュタイン准将とは以下の将校達を乗せたラムダ級が停泊している。

 

一行はハンガーベイから離れた戦闘訓練室にいた。

 

今回の視察はこの研究所で創られているモノの”()()”であった。

 

「今回の被験体は……なるほど、彼ですか」

 

「ええ、ブルクハルトは我が研究所の”()()()()”ですので」

 

ヴォーレンハイト少将は一切フリシュタイン准将の方に目線を合わせず、淡々と説明した。

 

今後、コルサントの本部から視察に来る人物は彼ではなくなる、ヴォーレンハイト少将はそのことに少し安堵感を覚えていた。

 

フリシュタイン准将は今やハイドレーヒ大将をそのままコピーしたかのような人物だ。

 

むしろ子も妻もいない分ハイドレーヒ大将より冷たい人間だと感じることがある。

 

フリシュタイン准将のどことない冷たさがどうしてもヴォーレンハイト少将は心理的に嫌だった。

 

戦闘訓練室の中には戦闘服と身体検査機を身につけたブルクハルトが1人、静かに佇んでいた。

 

何処かで見たような若干燻んだ金髪に、同じような黄金の瞳。

 

それもそのはず、彼はあのフューリナー上級大将の”()()”なのだから。

 

「バイタルに異常なし」

 

「B1を1番から10番まで起動、フェーズ1始動、実験を開始します」

 

研究所の職員が訓練用のB1格闘バトル・ドロイドを起動し、訓練室のハッチから投入した。

 

大凡1個分隊、通常の兵士1人では上手くやらないとすぐに制圧されてしまう数だ。

 

ヴォーレンハイト少将はコムリンクを手にし、室内にいるブルクハルトに声を掛ける。

 

「ブルクハルト、いつも通り落ち着いてやれ。怪我だけはしてくれるなよ…」

 

『分かってます』

 

訓練室の方からも返答が返ってきた。

 

心なしか以前会った時よりも心を許した声だとフリシュタイン准将は感じていた。

 

「フェーズ1開始します」

 

スイッチを押し、バトル・ドロイドが戦闘モードに入る。

 

同時に平だった室内もブロック状の遮蔽物が浮かび上がり、簡単な戦闘領域を生み出した。

 

頭部に黄色いペイントが施されている分隊長機が「ヤッチマエ!」と号令をかけてドロイド達がブラスターを放ちながらまだ10歳もいかない少年を襲う。

 

ブルクハルトは訓練用のSE-14r軽連射式ブラスターを片手にエレクトロバトンを持って突撃した。

 

ブラスターを連射して接近する前衛のバトル・ドロイドを撃ち倒し、すぐに隊列の合間を縫ってエレクトロバトンを敵に叩き付ける。

 

「ウワアアナンダ!」

 

「ヤメロ!ヤメテェ!」

 

「シビレル!」

 

次々とバトンによってドロイドが叩きのめされ、声を上げながら倒れていく。

 

気がつけばバトル・ドロイドは後方で指示を出していた分隊長機だけとなり、その分隊長機もすぐにSE-14rの銃声と共に倒れた。

 

「フェーズ1終了、フェーズ2に移行します」

 

「これだけの戦力をあの子ども1人で……」

 

フリシュタイン准将の後任に内定したベレーク中佐は眼前に広がる光景を見て思わず絶句した。

 

到底子どもは思えない動きでドロイドを蹴散らし、ブラスターを巧みに使っていた。

 

彼が驚くのも無理はないだろう。

 

尤も、親衛隊が要求している”性能”はこんなものではないのだが。

 

「ブルクハルトには訓練だけでなく身体強化剤の投与を行っています。フォースの能力だけでなく肉体そのものも通常の兵士とは段違いの強さを誇る」

 

ヴォーレンハイト少将はその後に「尤も、身体強化の効力は人によってまちまちですが」と付け加えた。

 

強化剤の投与はミディ=クロリアンの移植よりはまだマシだが被験体によって強い拒否反応を示す。

 

この点ブルクハルトの拒否反応は他の被験体よりも穏やかだった。

 

再びハッチが開き、今度はDTシリーズ・セントリー・ドロイドが2体入ってきた。

 

「ブルクハルト、準備はいいか?」

 

『はい…!』

 

ブルクハルトは息を整え、エレクトロバトンとSE-14rを構えた。

 

職員達はヴォーレンハイト少将に視線を送り、実施の有無を求めた。

 

少将はすぐに「始めてくれ」と実行を促した。

 

「フェーズ2開始します」

 

セントリー・ドロイドが戦闘モードに入った。

 

同時に室内には新たにブラスター・ライフルのパレットやエレクトロ=スタッフが何本か出現した。

 

セントリー・ドロイドは勢いよく突進し、最初の一撃として強烈なパンチを喰らわせた。

 

ブルクハルトは素早く回避し、ドロイドの合間を潜り抜けて背後からSE-14rを連射する。

 

しかし訓練用に調整されたブラスター弾はセントリー・ドロイドの装甲にはそこまでの効力はなかった。

 

そこでブルクハルトは戦術を変えた。

 

自身の集中力を高め、己に宿る全てのミディ=クロリアンに呼びかける。

 

己の”()”を込めて2体のセントリー・ドロイドにぶつけた。

 

ドロイドは2体とも思いっきり壁に叩きつけられ、一時的に動けなくなった。

 

「くっ!」

 

再び集中し自身のフォースを用いて周囲のブラスター・ライフルを宙に浮ばせた。

 

立ち上がり、迫り来るドロイドを数十丁のブラスター・ライフルの掃射で食い止める。

 

弾丸の集中砲火を喰らったセントリー・ドロイドは限界値を迎えたと判断され、2体とも機能が停止した。

 

直後、バタバタと宙に浮いていたブラスター・ライフルが地面に落下した。

 

膝をつき、ブルクハルトは息を荒げながら汗を拭った。

 

「フェーズ2終了」

 

「被験体の心拍数、体温、脈拍、全て上昇中」

 

「ミディ=クロリアンはどうだ、暴走したり死滅してるか」

 

「いえ、問題ありません」

 

職員の反応にヴォーレンハイト少将は安堵した。

 

「戦闘訓練は終了だ、担当職員はすぐにブルクハルトの下へ」

 

「了解」

 

これ以上の戦闘は今のブルクハルトには無理だ。

 

ふとヴォーレンハイト少将は視察に来た連中の顔を見た。

 

フリシュタイン准将はともかくべレーク中佐達は驚きの表情と共にいいものを見たと満足している様子だった。

 

「如何でしたか、ブルクハルトは最高傑作ですが一部もフェーズ1までなら突破しています」

 

「素晴らしいですね、これならハイドレーヒ大将やヒェムナー長官も満足なさるはずだ。ですが彼は随分と消耗が激しいようですね」

 

まだ幼いせいか無理な強化のせいかブルクハルトは普通の被験体よりも戦闘の度に消耗が激しかった。

 

それでも大分抑えられるようになった方だ、以前のブルクハルトはフォースを極度に用いるとその度に倒れていた。

 

「ブルクハルトはまだ子どもです、消耗は今後成長と共に抑えられるでしょう。それと後は我々の研究次第かと」

 

「報告書に付け足しておきます。この内容なら研究費の増額と被験体と実験材料の優先配布も許可されるでしょう」

 

「現在のままでも十分成果は出せていると自負していますが」

 

研究費はいい、だが被験体と彼のいう実験材料が更に増えることはヴォーレンハイト少将にとって好ましくない事態であった。

 

また罪のない子ども達をこの悪魔(ヴォーレンハイト)に預けるつもりなのだろう。

 

悪魔による悪魔の為の悪魔の兵士を創り出すために。

 

「より豊かな予算と豊かな資源があれば、研究はよりスムーズに進むでしょう。それとここの防衛と警備に1個大隊を増強することが決定しました」

 

「1個大隊?これ以上部隊を増やしても警備の増強には繋がらないと所長として進言しますが」

 

「少将、貴方なら知っているでしょう、”()()()()()()()()()()()()()()”」

 

ヴォーレンハイト少将は視線を落とした。

 

かつてこのウェイランドのタンティス山には親衛隊の研究所と同じような研究を行なっていたロイス・ヘムロックの研究所があった。

 

しかしその研究所は再起不能なほど粉砕され、そのまま長らく放棄された。

 

粉砕の理由を調査した報告書によると内部で捕獲していた”巨大生物”が施設に打撃を与えた可能性が高いと記載されていた。

 

その巨大生物とやらがまだ生きているのかは分からない。

 

だが親衛隊はこのウェイランドで研究所を再建する際に過去の失敗は二度と繰り返さないと警備を厳重にし、態々駐留艦隊も作った。

 

親衛隊、特にヒェムナー長官はウィルハフ・ターキンとはある意味間反対と言えよう。

 

オカルト主義者かつシスとダークサイド・フォースの信奉者出会った長官はミディ=クロリアンとフォースの研究投資に資金を惜しまなかった。

 

「備えておくに越したことはありませんよ、貴方の研究がこんなところで潰えてしまうのは勿体無いでしょう?」

 

ヴォーレンハイト少将は答えなかった。

 

こんな研究潰されるのならいっそのこと今すぐにでも潰してしまって構わない。

 

せめてこの施設の子ども達さえ無事なら。

 

「所長、次の区画の準備が整いました」

 

別の職員が入室し、ヴォーレンハイト少将に敬礼した。

 

「では次の施設に案内します」

 

悪魔達は悪魔のような施設を見て回った。

 

その中に1人、己の狂気に気がついてしまった壊れかけの悪魔を連れながら。

 

 

 

 

-第三帝国占領地 アウター・リム・テリトリー ケッセル宙域 ゼルム星系 艦隊集結地点-

移動準備を整えた親衛隊ケッセル侵攻艦隊はゼルムの衛星軌道上を艦隊集結地点とし、ジャンプに備えていた。

 

艦隊はインペリアル級十五隻、アークワイテンズ級三十九隻、ヴィクトリー級二十四隻の攻撃艦隊、セキューター級一隻、帝国貨物船二隻、アークワイテンズ級六隻の揚陸艦隊によって構成されている。

 

地上戦力は揚陸艦隊の1個兵団とインペリアル級内の14万5,500人、そしてスターファイター17個大隊がケッセルへ送り込まれる。

 

これだけの戦力があれば確実にケッセルは堕ちる、少なくとも指揮官達はそう確信していた。

 

「中将、全艦艇準備整いました」

 

艦隊参謀長のドルベルク准将が敬礼し、ヴェルケンダール中将に報告した。

 

旗艦”トラキュレント”のブリッジから見える景色は正に壮観といったものであるとヴェルケンダール中将は常に感じていた。

 

ビューポート一面にインペリアル級やアークワイテンズ級といった軍艦が艦列を成して指示を待っている。

 

しかも指揮官たる自分の指示を待っているのだ。

 

この巨大な力と人の集まりを我が身一つで操ることが出来る。

 

指揮官にしか味わう事の出来ない光景だ。

 

「では全艦隊にジャンプの座標を伝達、全艦で一斉にハイパースペース・ジャンプだ」

 

「了解」

 

ドルベルク准将は伝達に戻り、中将は再びブリッジのビューポートに目をやった。

 

彼の背後で不安げな表情を浮かべている航行士官のブレッツ大佐に声をかけながら。

 

「心配せずとも艦隊は敵地に辿り着くさ、時間より安全を重視した君の判断は間違っていない」

 

「ですが我々の策定したジャンプ航路でも艦隊にはまだ危険が…」

 

これから侵攻艦隊が向かうのは銀河系でも名の知れたあのケッセル・ランだ。

 

一言で表すならあそこは荒海、艦隊が通れないことはないが危険が多い。

 

その為ブレッツ大佐は艦隊のジャンプアウト地点を作戦参謀達が提示してきた地点よりもかなり後方へと下げた。

 

作戦参謀達が提示した地点は特に空間が荒れた危険地帯だったからだ。

 

その分ケッセルへ近づきやすくはあるのだがジャンプと同時に艦艇を失う可能性があるとしてブレッツ大佐はより安全なジャンプアウト地点を進言した。

 

これに対し作戦参謀達は「艦隊行動は拙速こそ肝心」と反論したが結局受け入れられたのはブレッツ大佐の案だった。

 

艦艇を戦場以外で失うなどあってはならないというのがヴェルケンダール中将の理念だったからだ。

 

「いや十分安全だよ、これ以上の安全を求めるなど無理な話だ」

 

「全艦無事に戦地へ辿り着けるといいのですが…」

 

「そこからは我々指揮官達の腕の見せ所だ」

 

「各艦艇、ハイパースペース座標計算を完了しました!」

 

通信士官の報告を受けてヴェルケンダール中将が全艦に通信を繋げる。

 

「”トラキュレント”より各艦へ、ケッセルは我が艦隊を動かす血液ともいうべきコアクシウムの生産地だ。総統閣下の理想実現の為、我々には更なる血液が必要だ。だからこそ我々は全力を持ってこのケッセルを我がものとする!」

 

ヴェルケンダール中将は最後に一言付け加えた。

 

「総統閣下へ忠義と勝利を!全艦ハイパースペースへ!!」

 

座標計算した述べ八十七隻の軍艦が一斉にハイパースペースへ突入する。

 

艦隊が元いた衛星の裏側には艦艇がいた形跡など一切残っていなかった。

 

しかし今の行動を見ている者はいた。

 

静かに船体上部のみをクローキング解除し、離脱の為宇宙空間を航行する。

 

その姿は第三帝国のUシップにも見えたが戦隊の形状が一部違っていた。

 

「艦隊、ジャンプしました」

 

「追跡装置で追えるか?」

 

「現在調査中です」

 

ブリッジの中で艦長のセームズ少佐と乗組員達が消えた艦隊の行方を追っている。

 

ジェルマンとジョーレンがゼルムに入って偵察活動を行っていたように、宇宙空間でステルス・シップを用いて偵察を行なっていた艦もいた。

 

このステルス・シップはヴァラコード級ステルス・シップと呼ばれる”キャリオン・スパイク”直系のステルス・シップであった。

 

無論この艦本来の所属は大セスウェナ連邦宇宙軍のステルス艦隊であり、セームズ少佐が指揮するこの艦は”ヴァレンズ”という艦名を与えられている。

 

「出ました、ジャンプアウト先はケッセル・ラン、ケッセル本星の手前のようですね」

 

ヴァラコード級はターキン・イニシアチヴの技術の粋を結集させた特殊艦艇である。

 

より正確かつ精度の高いハイパースペース追跡装置を有し、重力井戸自体をすり抜ける技術を持っていた。

 

「嬢さんに暗号電文、”()()()()()()()()()()”」

 

「了解…!」

 

暗号の送信と共にセームズ少佐はすぐに命令を出す。

 

「クローキングをフル稼働、予定通りオバ・ダイアまで戻るぞ」

 

「了解!クローキング・システム起動、ハイパースペース座標計算開始」

 

セームズ少佐はモニターから外の様子を見つめる。

 

孤独な宇宙を見つめながらふと呟いた。

 

「さぁて、あのお嬢様がどうやって敵を迎え討つか」

 

 

 

 

 

「”ヴァレンズ”より暗号電文、”()()()()()()()()()()”、だそうです」

 

キング・ケッセル”のブリッジで通信士官が大提督らに報告する。

 

この巨大なベラトール級ドレッドノートの周りを十二隻のインペリアル級とその他の軍艦が取り囲んでいた。

 

今ここにケッセル王国宇宙軍の主力艦隊が集まっているのだ。

 

1個小艦隊のみエニードとリトル・ケッセルに展開し、残りは全てケッセルの軌道上へ集めた。

 

「各艦に伝達、指定座標に移動し待機」

 

「了解」

 

テシック大提督は静かに艦隊に命令を出し、息を吐いた。

 

ついにやってきた、ついにやってきてしまったのだと目線を下にやり、また一つストレスを抱えた。

 

「おや、そんなにため息ばかりつかれてはお身体に毒でしてよ?」

 

彼の背後にいたクラリッサが顔を覗き込んでそう言い始めた。

 

「毒も何もこれ(サイボーグ)じゃあ毒も薬もないようなものだ」

 

「それでも生きてる、生きてるからこそ貴方はかつての同胞と争うことを気に病んでいるのでしょう?」

 

なんでもお見通しのようだ。

 

テシック大提督はいつぶりか分からない苦笑を浮かべた。

 

「第三帝国との対決は避けて通れないのは分かっている、既に多くの者達が同胞を手に掛けたことも。それでも、こんな身体になってもやるせないものだ、同じ帝国軍同士で戦うのは」

 

テシック大提督は今日まで帝国軍の分派勢力と武力を交えたことはなかった。

 

故に覚悟を決めたつもりでいても心の何処かに拭い切れない罪悪感があった。

 

親衛隊とはいえその殆どは同じ帝国軍の先輩か後輩達なのだ。

 

そんなある種の同胞をこれから手にかけなければならない。

 

「心中お察し致しますわ、それでもケッセルの為に戦って下さる貴方の意志を私は嬉しく思います」

 

「手を差し伸べられたからここにいるだけだ、それに」

 

テシック大提督は振り返ってマルスの頭をぽんぽんと撫でた。

 

「ついにやってきたな、父君の敵討ちの日だ。ここからお前の人生はようやく前に進める」

 

「はい…!」

 

「そう力むな。なに、始まりが今日ってだけで終わりの日が今日って訳じゃない。お前にとっての清算が済むまで死ぬんじゃないぞ」

 

マルスは大きく頷き、テシック大提督に敬礼した。

 

マルスにとってヒルデンロード亡き後、本当の父のように慕っていたのはテシック大提督だった。

 

目の前で父を殺されてどうしようもなくなっていた時に生まれた心の空虚な部分が埋まっていく気がしたからだ。

 

「……では私も皆様に一言よろしくて?」

 

「通信を全艦艇とケッセルへ繋げろ」

 

クラリッサの言葉の意味の”()()”を理解したテシック大提督は”キング・ケッセル”から通信をケッセル周囲の全将兵に繋げた。

 

「…オホン、ご機嫌ようケッセルに生き、ケッセルの為戦って下さる全ての皆様。どうか、私クラリッサ・ヤルバ・パイクの声を聞いてくださいまし」

 

彼女の広域通信にケッセル中の誰もが耳を傾けた。

 

人々は知っているのだ、ケッセルの本当の指導者は誰かということを。

 

「もう間も無く第三帝国の侵略者はこのケッセルにやってくるようです。私達の故郷を踏み躙り、先祖の代から築き上げてきた富や生活をあの方々は奪い去るつもりなのでしょう」

 

彼女の顔は見えなかった、しかしそれでも人々は想像出来た。

 

そして何を伝えたいのかも。

 

「故に私達は戦わねばなりません。その為に今ここにいる大勢の将兵の皆様には後数時間のうちに命を賭けて頂きます」

 

ケッセル王国軍は人間の兵士だけでなくエイリアン種族や近人間種も多く動員した。

 

今やケッセル王国軍は陸上戦力50万人以上を超える巨大な軍隊となった。

 

全てはケッセルを守る為、侵略者を押し返す為にだ。

 

「無論ここにいる方々の多くはケッセルやこのケッセル宙域で生まれ育ったことのない方の方が多いのでしょう。お金の為、名誉の為、その為に戦って頂いてももちろん構いませんわ。ですが、私は一つだけ皆様に約束致しましょう」

 

刹那、彼女は笑みを深め高らかに宣言した。

 

「私は必ず皆様が将来、誰かに向かってあの戦争に私はいた、あの戦争にいて良かった、あの戦争は黄金のような栄光の時だった、あの戦争に後悔はなかったと胸を張って仰れるような”()()()()()()()()()”を皆様へ送ることを!」

 

クラリッサは続け様に言葉を放つ。

 

人々を戦地へ駆り立てる言葉をだ。

 

「敵は私達の2倍、そして先鋒は敵の精鋭、それがどうしたというんですの!私達の下に集った皆様は髭の生えた画家崩れの兵隊を甚振り、その先数十年に渡って誇り続けられる勝利を得るに相応しい皆様です、敵兵に銃剣を突き付け、ウォーカーの首すら刎ねるような一騎当千の勇敢な皆様なのです!」

 

放送を聞いていたある1人の傭兵はこう感じたそうだ。

 

全身が震え、まるで未知の世界に飛び立つような感じがしたと。

 

機械越しから聞こえる彼女の声音、喋り方、刺激的な香りが己を奮い立たせた。

 

何故か自然と戦えるような気がしてきたのだ。

 

「皆様はここに至るまで様々な時を過ごされたのでしょう。誰かに愛された方、誰かを愛した方、誰かに愛されなかった方、誰かに愛して欲しかった方、その全てに私は栄光を差し上げましょう。誰かに愛された方はその愛された方から讃えられような栄光を、誰かを愛した方は愛した方に誇れるような栄光を、誰からも愛されなかった方は手にした瞬間誰かに愛され続けられるような栄光を、誰かに愛して欲しかった方は手にした瞬間愛を手にするような栄光を!」

 

黄金のような栄光の時、彼女の言ったことの本筋が見えた気がした。

 

人は誰だって誰かに認めて欲しい、讃えて欲しい、たった一言でも報われる言葉が欲しいのだ。

 

それは誰か特定の1人かもしれないし誰だっていいのかもしれない。

 

クラリッサはそれを愛と呼んだ、だから愛を失った(マルス)に愛を注いだ。

 

多くの人にとって彼女のこの言葉は麻薬的な効用を生み出した。

 

動員された兵士達は故郷の家族を思い出し己を奮い立たせ、多くが身寄りのない傭兵達は栄光に縋った。

 

むしろクラリッサの言葉は傭兵達の方が効いたであろう。

 

荒んだ人生に僅かでも「ありがとう」の一言さえあれば人は小さな生きていけるだけの光を掴めるのだ。

 

「私の約束は永遠に有効ですわ、皆様はきっと誰かに胸を張って言えるようになるでしょう。私はケッセルにいた、ケッセルで第三帝国と戦ったと。お聞きになった方はきっとこう仰るでしょうね、あなたは勇敢で誰よりも誇り高き方と」

 

有象無象の兵隊はもういない、ここにはケッセル王国軍という一つの軍隊がいる。

 

親衛隊のような私兵とは訳が違う本物の軍隊だ。

 

「では皆様、私と共に戦いましょう。今日ここにいたのは間違いではなかったと言えるようなそんな栄光の為に!私と、刺激的な戦争を始めましょう」

 

10ABY、第三帝国の命運はこのケッセルで変わっていく。

 

少しずつレールがズレて底なしの暗黒へと切り替わっていくのだ。

 

その最も代表というべき戦い、ケッセルの戦いはもう間も無く始まろうとしていた。

 

 

つづく




マルス「それでどうしてさっきから機嫌が悪いんですか?」
クラリッサ「あなたは誰のもの?」
マルス「僕自身ですが」
テシック(これ私に怒り向くやつか?)


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