第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「開戦から僅か17週間、半年でチス・アセンダンシーを屈服させるという作戦は、この時点で現実との大きなズレがあったと言わざるを得ない。やがてこのズレは初戦での大勝すらカバーし切れないほど肥大化していくことになる」
-コリン・ナードニス・プラージ著 「北西戦線」より抜粋-



戦争準備

-ケッセル王国領 アウター・リム・テリトリー ケッセル宙域 ケッセル星系 惑星ケッセル ケッセル城 国軍防衛参謀本部-

ケッセルでの戦いに勝利したとはいえ戦争は未だに終わった訳ではない。

 

第三帝国が和平交渉に応じるつもりなどないだろうし十一隻のインペリアル級と地上戦力の半分という損害は第三帝国を先頭不能にするにはまだ足りない。

 

それにケッセル王国はゼルム、エニードといった惑星を失ったままであり、戦争を終結させるにしても領土の奪還は最優先課題であった。

 

その為に今度はケッセル王国の側が艦隊を率いて地上軍と共に敵の惑星へ乗り込む必要があった。

 

銀河系における攻勢作戦とは様々な手法があるが大まかにはこうだ。

 

まず地上の上陸部隊を乗せた艦隊が惑星の敵防衛艦隊と接触し、これを撃滅ないし抑え込む。

 

その間に上陸部隊が惑星内に展開し、作戦目標に向けて進軍しこれを制圧。

 

スターファイター隊は地宙間で柔軟に対応し双方の支援に回り、作戦を完遂する。

 

無論攻勢作戦の意図が惑星を制圧することにあるのか、それとも惑星に展開する敵軍の殲滅にあるのかは作戦によって異なる。

 

ケッセル王国が行おうとしている攻勢作戦は惑星の制圧、つまり領土の奪還にあり作戦の意図は前者にあった。

 

その為仮に敵軍を撃滅出来なくとも惑星を取り返せばその時点で攻勢作戦は粗方成功であり、その上で敵軍を撃滅出来れば万々歳という訳だ。

 

防衛側は攻勢側のこうした作戦目標の達成を防ぐ為に様々な手法を用いて敵の攻勢を頓挫させなければならない。

 

こうした意思のせめぎ合いの結果、相手よりも上だった者が勝者となる。

 

そしてケッセル王国は再び勝者となる為、ケッセル城内のケッセル王国軍防衛参謀本部で攻勢作戦を練っていた。

 

「先の戦いで親衛隊艦隊は大打撃を被りました。インペリアル級十一隻の撃沈は当面の間攻勢作戦を不可能にさせ、防衛艦隊の戦力も大きく減退させました」

 

ケッセル王国軍防衛参謀本部次長のドメス・ヴァージェレ中将は会議に参加する諸将に報告した。

 

ケッセルでの敗北により艦隊戦力の大部分を失った親衛隊は惑星ゼルムの防衛艦隊を一部縮小させた。

 

その代わり最前線に位置するエニードの防衛艦隊の戦力に変更はなく、親衛隊はエニードでケッセル艦隊を迎え撃つつもりでいた。

 

「ですが親衛隊は未だにゼルム、エニードに1個小艦隊分のインペリアル級を配置し、地上軍も変わらず1個兵団を超える戦力を惑星内に配置しています」

 

「これがエニード攻勢における前提条件だ。我が方は”エリーモシナリー”を旗艦とした十隻のインペリアル級を主力に攻勢艦隊を編成した」

 

防衛参謀総長グラム・ドルニード将軍はヴァージェレ中将に続いて使用戦力を説明した。

 

ドルニード将軍が指揮棒で差す戦力図には地上軍、宇宙軍両方の戦力が書かれていた。

 

地上軍は16個旅団が投入されそのうち第2義勇兵戦闘団を含む4個旅団が機甲旅団であった。

 

宇宙軍は先ほども言ったようにインペリアル級十隻が主力であり、僚艦としてアークワイテンズ級二十六隻、ヴィクトリー級十五隻、グラディエーター級十二隻、更に揚陸艦隊としてセキューター級一隻、帝国貨物船二隻が投入される。

 

スターファイター隊は各艦に艦載された12個大隊、864機が投入される運びとなった。

 

攻勢戦力は親衛隊が用意したものに比べれば小ぶりであったがそれでも十分な戦力である。

 

計画案の中にはベラトール級”キング・ケッセル”を攻勢部隊に投入する案もあったが、あの巨艦が移動すれば敵はすぐに攻勢を察知する為隠密性の観点から見送られた。

 

「攻勢部隊司令官にはテシック大提督が任命された。これ以降の作戦説明はテシック大提督どうぞ」

 

参謀総長からテシック大提督へ説明する人間が変わる。

 

テシック大提督は機械の身体を駆使して壇上に立った。

 

そして威厳と畏怖のある顔で会議に参加している面々の顔を見る。

 

その中で一際目立つ人物がいた。

 

大セスウェナ連邦の義勇兵部隊の指揮官を務めるパルトン准将だ。

 

他の部隊指揮官達と違って一際目立つオーラを放ち、その風貌はケッセル王国軍の地宙空軍司令官に勝るとも劣らない面持ちだった。

 

「まず我が艦隊は先行した大セスウェナ連邦のステルス艦、”ヴァレンズ”、”バタンガ”からの最終報告を受け取ってエニードにジャンプし、敵艦隊へ急襲をかける」

 

大セスウェナ連邦が貸し与えた二隻のヴァラコード級ステルス・シップ、”ヴァレンズ”と”バタンガ”は現在もエニード星系を航行している。

 

二隻の正確な情報提供のお陰でケッセル王国はエニード艦隊の正確な戦力を読み解けた。

 

「艦隊の急襲と同時に一部の艦が敵の飛行基地と防空施設に軌道爆撃を掛ける。防空網を一部無力化した後にTIEボマー隊と上陸部隊を展開し、エニード内の制圧を開始する」

 

艦隊の急襲による軌道爆撃の成功例はごまんとある。

 

ホスの戦いではオッゼル提督の指揮が無能であった為に失敗したがピエット元帥辺りであれば少なくとも数発は敵基地に叩き込めただろう。

 

「上陸と同時にまず空挺部隊がラムザドとエトランタンの宇宙港、航空基地を占拠、続いて主力の野戦軍が首都のエニード・シティを占拠し惑星内を制圧する。以上が攻勢作戦の主な流れだ」

 

作戦説明を終えたテシック大提督は諸将に質問を投げかけたがこれといった返答はなかった。

 

そこでテシック大提督が作戦説明の締めに入った。

 

「第三帝国は我々が攻勢に出るなんて思ってもない。だから連中に叩き込んでやるんだ、我々の力を。逃げ帰った連中が1人残らず恐怖で立ち直れなくなるほどの力を連中に叩き込んでやれ」

 

各部隊の指揮官達からは異性のいい返事が聞こえてきた。

 

3軍の司令官も参謀次長も参謀総長もこの調子ならば大丈夫だと安心していた。

 

「以上で作戦説明を終了する、各自命令があるまで部署に戻って待機」

 

ドルニード将軍の指示を受け、指揮官達は退室を始めた。

 

将校達がバラバラに部屋を出る中、テシック大提督とドルニード将軍はある1人の指揮官を呼び止めた。

 

「パルトン准将!」

 

パルトン准将は副官と雑談し後少しで部屋を出るというタイミングだった。

 

大声で呼ばれた准将は周囲を見渡し手招きするドルニード将軍とテシック大提督を見つけた。

 

副官のヴァスル中尉と共にテシック大提督の下へ向かった。

 

「お呼びでしょうか大提督、参謀総長」

 

パルトン准将は綺麗な敬礼を2人に向けた。

 

准将の評判は有能だが凶暴、言葉遣いの汚い粗野な闘将といったものが多かった。

 

しかしテシック大提督は彼の節々の行動から何処となく気品を感じていた。

 

「今回の作戦、君の隊に突撃の先鋒を任せるつもりでいたが本国から帰国要請が来てるそうだな」

 

パルトン准将は大セスウェナ連邦地上軍でも特に優秀な機甲科将校だ。

 

その為第三帝国との緊張が高まる中、少しでも戦える将校と部隊を本国に呼び戻したかった。

 

「やはり知っていましたか、隠すつもりもなかったのですが」

 

パルトン准将は困ったように頭を掻いて苦笑いを浮かべた。

 

この様子だと准将はまだ本国へ帰りたくはなさそうだ。

 

「今からでも部隊は変更出来るがどうする?我が方としても出来れば貴国の要請は叶えたい」

 

「いえ、お構いなく。エニードまではお付き合い致しますよ。本国の連中にはエニードの勝利の方と共に帰国でいいでしょう」

 

パルトン准将はまだケッセルで戦うつもりだ。

 

大セスウェナ連邦が出してきた帰国要請もエニードの作戦にはまだ間に合う。

 

この調子じゃ大セスウェナの本国にも同じ事を言うだろうなと思い、テシック大提督は准将の意見を取り入れた。

 

「…分かった、では予定通り君に先鋒を任せる。頼んだぞ」

 

「ハッ!」

 

再び綺麗な敬礼を2人に送り、パルトン准将はヴァスル中尉と共に軍靴の音を立てて部屋から出た。

 

ジェミス・パルトンのケッセル最後の戦いが今始まろうとしていた。

 

 

 

 

-チス・アセンダンシー=亡命帝国領 首都惑星シーラ 国家統合保安局本部-

かつて帝国保安局の本部はコルサントの連邦地区にあった。

 

現在ここはFFISOの本拠地となり、各地に離散したISBの支部局はそれぞれ独立したオフィスを持ち始めた。

 

チス・アセンダンシーの保安組織と融合した国家統合保安局(NISB)も同様にシーラに新しい本部を設置した。

 

かつてはチスの保険会社が建設した建物であったが今はNISBに接収され本部として用いられている。

 

また本部の隣には子供用品店の店が残っていた為、隠語で”()()()()()()”と呼ばれていた。

 

NISBも玩具屋が子どもに接するように優しい人々も中には存在する。

 

NISBは保安局であると同時に内務省的役割も果たす巨大政府機関だ。

 

国境警備の国境軍と国内保安の国内軍を管轄する国境・国内保安総局、一般警察として民間人の警察業務を担当する民警らを管轄する民警総局、そして消防総局など。

 

このようにNISB内部には様々な国内対応機関が存在するのだがそれらを足しても余りあるほど強い権力と存在感を放つのが国家保安総局(GONS)、つまり秘密警察の役割を担う機関である。

 

彼らはNISBの花形であり玩具屋の隣人からは最も程遠い人々なのだが生憎、NISBの本部にいる職員は国家保安総局の者ばかりだ。

 

そしてNISBと言われる職員の殆どの場合が国家保安総局の職員である。

 

NISBの国家保安総局にはかつてのISBのように様々な下位組織が存在した。

 

例として捜査を担当する作戦部、情報の分析や暗号解読を行う特殊部、経済保安を担当する経済保安部、対外諜報の国外部など。

 

その中でも今回、NISB長官のゲンリフ・ラブリジョフの執務室に訪れたNISB将校は国軍の防諜を務める特務部の人間であった。

 

尤も将校達が報告に来た内容は殆ど外国に関する情報であったが。

 

「それで、特務部が掴んだ情報とはなんだね。誰か裏切り者でも出たのか」

 

ラブリジョフ長官はウォッカを煽って眼前のNISB少将、ヴィクトル・アバクーモフに尋ねた。

 

アバクーモフ少将は国軍の防諜を担当する特務部の部長を務めており、彼の報告で数多くの将校が逮捕されてきた。

 

その為ラブリジョフ長官はまた粛清の時間かと自身のサディスト的な感情を昂らせた。

 

「いえ長官、実はそうではありません。特務部の情報総局班がある情報を掴みました」

 

「なんだね、勿体ぶらず教えてくれ」

 

ラブリジョフ長官が急かすもアバクーモフ少将と副官の1人、ランコフスキー大尉は顔を見合わせ暫く口を紡いだ。

 

この情報はチス・アセンダンシーの安全保障環境を根底から覆す可能性がある。

 

それだけ危険な情報なのだ。

 

「情報総局が第三帝国が我が方への侵攻計画を立案中という報告を入手したようでして…」

 

特務部の主任務は繰り返すが国軍の防諜である。

 

防諜の対象は地上軍、宇宙軍ら正規軍だけでなくNISB内の国内軍、国境軍も防諜対象であった。

 

それ故参謀本部情報総局も特務部がスパイを送り込み、軍内の保安を確かめていた。

 

この情報を入手したアバクーモフ少将ら特務部はすぐにパーヴェル・フィーチン少将率いる国外部に確認を取った。

 

その結果国外部も同様の情報を入手しており情報総局の情報は確信に変わった。

 

「貴様も同じことを言うのか」

 

「と言いますと?」

 

アバクーモフ少将は聞き返した。

 

ラブリジョフ長官の表情はもうこの話に飽きているといった感じだ。

 

「国外部のフィーチンが何度も同じ内容の話をするんだ。まさか君までその話をし出すとは」

 

アバクーモフ少将は何故フィーチン少将があんなに念を押して頼んできたかをようやく理解した。

 

彼はもう何度もラブリジョフ長官にこの報告を行っていたのだ。

 

それでもNISBがそこまで動かなかったのはラブリジョフ長官がこの情報を信じてなかったからだ。

 

「第一、我々と第三帝国は中立条約と不可侵条約で結ばれている。第三帝国は危険な連中だが当面我が方を侵略するメリットはない。少なくともフェル閣下もリヴィリフ陛下もそうお考えだ」

 

「お言葉ですが長官、私が言うのもなんですが我が帝国軍の諜報能力はかなり高い部類です。当然国外部も同様に」

 

ランコフスキー大尉は隣で少将の発言を聞いてこの人が他人を擁護することなんてあるんだと思わず驚いた。

 

アバクーモフ少将は基本的に性格が良いか悪いかで言ったら悪い寄りの人だ。

 

それでも少将の擁護は長官には届かなかったようだが。

 

「ああ、分かった少将。報告はこれで終わりか?それとフィーチンの奴には言っておけ。もう少し”()()”の摘み取りをしろとな」

 

国外部が編成され銀河系に展開した理由は主に1つ。

 

1年前、シーラに襲撃をかけた武装集団の中に混じっていたような”()()”の先遣隊を見つけ、排除することだ。

 

実際国外部は決して少なくはない数の摘み取りを行ってきた。

 

その点についてはラブリジョフ長官も評価はしているがもっと速度を上げろと言うのが彼の願いであった。

 

このままでは銀河系の多くの情報が”()()()()()()”に渡ってしまう。

 

外国の諜報も必要だがそれより必要なのは”来るべき脅威”に何も情報を与えないことだ。

 

「長官、1つお考えください。このまま第三帝国を放置し続ければ”()()()()()()”と合わさって我々が苦しい立場に追いやられる」

 

「そうせん為にフェル閣下らが条約を締結なさったのだ。もういい、下がれ」

 

これ以上長く居座れば自分が危ないと感じたアバクーモフ少将は敬礼し長官の執務室を後にした。

 

執務室を出て暫くは無言が続いた。

 

この本部だって決して少なくはない数の盗聴器があり、互いが互いを見張っている状態だ。

 

アバクーモフ少将は特務部の自身の執務室に行くまで無言であり続けた。

 

執務室に入り、全ての盗聴機器をシャットアウトした瞬間、彼は精一杯の愚痴を放った。

 

「あのデブハゲメガネの陰険変態長官めッ…!クソッ!奴がいたら俺達も危ないぞ」

 

ランコフスキー大尉は性格に関しては人のこと言えんでしょうと思いつつ怒られたくないので黙って少将の愚痴を聞いた。

 

少なくとも長官の外見が多少ふくよかで薄毛で、少々性的に変態であることはNISB周知の事実であった。

 

尤もそれを言えばアバクーモフ少将も佐官時代に女性問題が原因であわや出世コースから外れそうになっていたが。

 

「なんとかせにゃあなぁ…」

 

とは言ってもアバクーモフ少将の管轄は常に味方への監視である。

 

彼が中将になろうと将軍になろうと、特務部が独立しようとそれは変わることのない事実であった。

 

 

 

 

-第三帝国領 コア・ワールド コルスカ宙域 コルサント星系 惑星コルサント 国防地上軍参謀本部 参謀総長執務室-

マーケス少将はグラインデルク上級大佐を引き連れて参謀総長執務室まで足を運んだ。

 

参謀達が数ヶ月の間頭を捻って生み出した彼らにとっての最高最善の作戦計画草案を携えて。

 

調査室が北西作戦室と名を改め総統の認可を貰った時、与えられたのは新たな名前と認可だけではなかった。

 

代理総統は国防軍の侵攻計画に際し、ヘルダー上級将軍が建前として付けた一定の領域の奪取だけでは足りないと発言した。

 

つまり代理総統はチス・アセンダンシーの完全な屈服を望んだのだ。

 

代理総統は明確に首都シーラを堕とした上で各地の資源惑星を回収する局地作戦に出よと付け加えた。

 

その上で未知領域の旧チス・アセンダンシー領を第三帝国のものとし、東方と西方の生存圏を用いて第三帝国を未来永劫繁栄に導くと指針付けた。

 

元より資源地帯も確保する予定だったヘルダー上級将軍はこの指針を持ち帰り、パールス中将経由でマーケス少将らに伝えた。

 

そこから作戦室は完全に計画内容をより攻撃的なものへと変えた。

 

国防軍がこの3年間のうちに身につけた自信を全て載せた作戦計画が参謀総長の下へ届けられる。

 

「なるほど、キノス、ベスケーン、ダブリリオンを到達惑星としてその間にシーラを堕とすわけか」

 

「はい、我が軍がシーラに辿り着く頃には既に連中の軍は崩壊しているでしょう」

 

マーケス少将は自信たっぷりに答えた。

 

彼らが考えた作戦はこうだ。

 

まず惑星キノス、ベスケーン、ダブリリオンをそれぞれ最終到達地点と設定し3惑星に向けて進軍する。

 

その過程で必ず占拠せねばならないのは未知領域のシーラ、そして軍需と文化の中心である惑星コーミット、チスグラードである。

 

未知領域のハイパースペース・レーンは探査不足もあって貧弱である為ハイパースペース・レーン上の惑星の制圧が必須だ。

 

シーラを結ぶハイパースペース・レーンの惑星はペスファヴリからスポシアまで最短で6つの惑星を占拠する必要があった。

 

マーケス少将らはハイパースペース・レーン上の惑星を巡る戦いで必ず敵の主力と激突し、決戦が起こると予想していた。

 

会戦地点は惑星オーンフラかナポラールであり、チス・アセンダンシーを屈服させる為にも必ずここで敵主力軍を撃滅しなければならないと示した。

 

その間に未知領域侵攻軍はペスファヴリから繋がるハイパースペース・レーンを用いてチスグラードへ奇襲攻撃を仕掛ける。

 

正面決戦で疲弊したチス・アセンダンシー軍はチスグラードを防衛出来ず早期に陥落するか、包囲戦を突破出来ず制圧されると予想した。

 

無力化されたチスグラード、スポシアから国防軍は一気にシーラへ突き進んでこれを制圧する。

 

首都を失い、主力を撃破されたチス・アセンダンシーはもう組織的な行動が出来ず最終地点のキノスに到達する頃には掃討戦に移行すると予想した。

 

こうして未知領域は完全に制圧されるという訳だ。

 

また同じ頃、北西アウター・リムでも国防軍は攻勢を開始する。

 

未知領域とは違い複数のハイパースペース・レーンの存在を確認している為、こちらは地の利と兵站上の余裕があった。

 

それでも未知領域の作戦に連動してこちらも素早く終わらせる必要がある。

 

まず部隊は惑星ボラスクとフェジィエまで進軍し、惑星ガルキーを挟み撃ちにして制圧する。

 

北西アウター・リムに展開したチス・アセンダンシー軍は惑星カプザかマイギートー辺りに阻止線を張ると予想し、未知領域同様ここで決戦を行い、敵主力を撃破すべきと定めた。

 

シーラ、チスグラードの制圧が急務となった未知領域とは違い、北西アウター・リムはそのままハイパースペース・レーンの結節点惑星を制圧し、最終地点のベスケーンとダブリリオンまで到達する。

 

一部の参謀は最奥の惑星サーティネイニアンまでの進軍計画を打ち出してきたがサーティネイニアンに辿り着くまでに敵は戦闘能力を喪失していると考え、そこまでの進撃は取り止められた。

 

これらの作戦行動をマーケス少将らはコルサント標準日でいうところの119日から183日、つまり17週間から半年のうちに行うつもりであった。

 

こうした短期の日数にはこれだけ短い間に敵を撃破し作戦を完遂出来るという国防軍の自信もあったが、同時に南アウター・リムの大セスウェナ連邦が気掛かりというのもあった。

 

既に参謀本部、国防軍最高司令部は対チス・アセンダンシー戦の計画に加え、対大セスウェナ連邦戦の計画も立案中という話があった。

 

いざという時の為にも早期に北西部の戦力を南方へ持っていけるようにしたい。

 

国防軍なりに周囲の敵を考えた結果であった。

 

「未知領域のファースト・オーダーのことは」

 

「こちらのページに載っております」

 

タブレットをスライドし、マーケス少将は対ファースト・オーダー戦のページを見せた。

 

ケッセル進行以降、ファースト・オーダーは第三帝国に対し、露骨に批判を多なうようになってきた。

 

もしかしたらチス・アセンダンシーに宣戦布告と同時にファースト・オーダーがちすと手を組むかもしれない。

 

そう言った懸念が出始めていた。

 

「なるほど、殆ど領域を持たないファースト・オーダーは艦隊戦で優劣をつければすぐ降伏するか。確かにな」

 

「その辺は宇宙軍が親衛隊宇宙軍にやらせればいいでしょう。エグゼクター級でもぶつけてやれば一発ですよ」

 

マーケス少将ははっきりとファースト・オーダーの抵抗力を軽んじた。

 

いやこの作戦計画自体、相手を常に過小評価して自軍の能力を過大評価している。

 

しかもヘルダー上級将軍はこの作戦計画に満足していた。

 

これなら自信を持って掃討へ提出出来ると、普段はむすっとした顔の参謀総長も若干笑みを浮かべていた。

 

「よくやった少将、これなら安心して総統に提出出来る。君たちは素晴らしい仕事をした」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

参謀総長から褒められマーケス少将もまんざらでもない様子だった。

 

少なくとも作戦計画の立案は上手くいった、内心は達成感と安堵感で溢れていた。

 

「君にはまだ作戦室長を続けてもらうが暫くしたら次のポストを用意する。何、悪いようにはしない」

 

マーケス少将が元々いた第18軍参謀長の席は正式にハッセル准将が引き継ぐこととなった。

 

その為マーケス少将は新しい何かしらの職務を与えられることとなった。

 

「ありがとうございます、それでは我々はこれで」

 

「ああ、ご苦労であった」

 

3人は敬礼を送り、マーケス少将とグラインデルク上級大佐は執務室を後にした。

 

エンリッヒ・マーケス、後に将軍まで昇進するこの男は14ABYのある作戦で戦死する為バルバロッサに対しての後年の発言は少ない。

 

その為彼がこの作戦の果てに起きたことを見て何を思ったか、我々に知る由はなかった。

 

 

 

 

 

-第三帝国領 首都惑星コルサント 国防軍最高司令部-

マーケス少将達が参謀総長に草案を提出している頃、国防軍最高司令部ではロンゼルベルク中佐達が計画の前提と予測を洗い出していた。

 

中佐が与えられた部屋には国防軍が今まで調査してきたチス・アセンダンシーの情報資料と、クローン戦争中の北西部アウター・リム攻勢の作戦概要書が集められていた。

 

部屋内にはロンゼルベルク中佐だけでなく宇宙軍のエルゼン・マーケンライト中佐もいた。

 

マーケンライト中佐はインスタントのカフ、つまりコーヒーを淹れてロンゼルベルク中佐の分を彼の前に置いた。

 

「ありがとう」

 

ロンゼルベルク中佐は礼を述べて意識を眼前のホロテーブルの方へやった。

 

ホロテーブルには北西部アウター・リムと未知領域の星図が映し出されていた。

 

軍用の星図ということもあってか各惑星には国防軍が可能な限り把握したチス・アセンダンシー軍の戦力配置が記されている。

 

「随分根を詰めているようだな。適度に休まないと」

 

マーケンライト中佐はロンゼルベルク中佐の隣に座り、コーヒーを口に入れた。

 

ロンゼルベルク中佐は「分かっているさ」と言いつつも意識はまだホロテーブルの方にあった。

 

自身の作戦計画によって数百万の将兵が戦地へ送られ、少なくない人間が命を落とすことになるのだ。

 

休んでる暇はなかった。

 

「それで、パターンは出来たが作戦の方はどうだ?」

 

宇宙軍中佐は候補生時代からの友人にそう尋ねた。

 

ロンゼルベルク中佐はまずチス・アセンダンシー側が起こしてくる行動パターンを3つ予想した。

 

まず1つは作戦が開始し、国防軍が進撃したのとほぼ同時にチス・アセンダンシー軍が攻勢を仕掛け国防軍の進撃を水際で止めに入る可能性である。

 

どの国も国土防衛戦争の理想は水際防衛だ。

 

敵兵を国土に踏み入れさせるなどあってはないことであり、政府が国民に対し責任を負っている以上人々の生活を守るためには水際防衛で敵を破砕するのが理想であった。

 

尤も大抵の場合は水際防衛には限界があり、それでも国土と国民を守る為に様々な防衛戦略が練られる。

 

そしてチス・アセンダンシー軍もこうした水際防衛やロンゼルベルク中佐が考える同時攻勢は物理的に不可能であった。

 

何故ならチス・アセンダンシー軍の主力部隊は前線惑星より2、3宙域離れた場所におり、即座に攻勢を行って国防軍の作戦を粉砕するのは時間と動員能力的に限界があった。

 

その為一番可能性としてあり得そうなのは2つ目の後方戦力を展開してオーンフラ、ジャンファサル辺りの惑星に強力な防御線を構築して死守することである。

 

占領地の即時奪還が出来ない以上これ以上の侵入を防ぐ為にこうした惑星に防御陣地を構築し、突破を用意ならざるものにするのはよくあることだ。

 

それにこの策が尤も堅実であり、反撃の手立てを考える時間稼ぎにもなる優良な策であった。

 

だが国防軍にとって最も恐ろしいのはこのパターンではなかった。

 

ロンゼルベルク中佐が考えた3つ目のパターンが国防軍にとって最も恐ろしい結果を齎すのだ。

 

3つ目のパターンとはチス・アセンダンシー軍が後方まで後退し、追撃の為に国防軍が奥地へ突き進んで兵站線が伸び切った所で反撃を加えることだ。

 

これをやられると国防軍は苦しい上に相当の打撃を被る。

 

特に未知領域のハイパースペース・レーンは狭く、国防軍の知りうる限りそこまで多くのレーンがない。

 

尤もこの作戦をやるとチス・アセンダンシー側も相当数の惑星と領域を失うことになる為向こうの損害も大きい。

 

だとすればやはり2つ目の可能性が最も現実的だと結論づけた。

 

「なあ、お前どう思う。連中が奥まで退いて我々が追撃せざるを得なくなった場合、補給線は持つと思うか?」

 

ロンゼルベルク中佐はマーケンライト中佐に尋ねた。

 

後方からの補給物資の運搬は惑星に辿り着くまで宇宙軍の輸送船団によって担われる。

 

その為補給線の維持は如何に補給部隊を惑星へ送り届けるかにあった。

 

「正直、厳しいな。地上部隊にもだが艦隊を動かすのもだ」

 

「というと?」

 

「大型艦は無補給で1年戦えても900メートル以下の艦艇は無理だ。だから艦隊の大型艦が中間補給地点を担う訳だが」

 

「大部隊であるが故に大型艦だけでは足りないということか」

 

インペリアル級を始めとした大型の主力艦は常時2年分の消耗品を船体に詰め込んでいる。

 

その為補給なしでも最低2年は航行出来るのだが僚艦であるアークワイテンズ級やレイダー級はそうではない。

 

数ヵ月分しか持たないこれらの中、小型艦艇は必ずどこかで補給を受ける必要があった。

 

なので艦隊行動を行う時はインペリアル級らの大型艦から物資を分けて艦隊全体で物資を回すのだが今回の場合はそれでも足りないという予測であった。

 

「輸送艦隊を送りこもうにもこれだけ長い敵の領域じゃどこから補給線を狙った攻撃を仕掛けてくるか分からん」

 

ロンゼルベルク中佐は改めて防地への侵攻という難易度の高さを思い知った。

 

それでも可能な限り補給線を確立し地上で勝利を重ねてチス・アセンダンシーを屈服に追い込む他ないのだが。

 

「それに、敵の大後退は敵も苦しむことになるから可能性としては低いと言ったのはお前だろ?どうしてそんなこと今聞くんだ?」

 

「念の為だ、可能な限り敵の動きを予想して備えておきたいからな」

 

マーケンライト中佐は納得したように再びコーヒーを飲んだ。

 

ロンゼルベルク中佐もコーヒーを飲みつつ、作戦を考えた。

 

「…補給線の都合上、未知領域に送り込めるのは戦力の1/3が限度だろう。主力は北西部アウター・リムに送る」

 

「未知領域が連中の本土だが領域が広いのは北西部だ。当然その分守備戦力も多い上に情報部は北西部に主力が集まっていると言っていた」

 

「実際、亡命した帝国軍の戦力は殆ど北西部アウター・リムに移ってるだろうな。そして連中の主力は早くてもレイノンかフェジィエ、順調に進んだとしたらボロスクかニュー・バクストレ辺りで会戦になるはずだ」

 

2点の惑星をタップし、詳細な情報を表示させる。

 

その様子を見てマーケンライト中佐は1つ尋ねた。

 

「防地の方はどうなる」

 

この作戦は未知領域と北西部アウター・リム、大きく2つに分けて作戦行動が行われる。

 

未知領域側の作戦も気になる所だ。

 

「多分だがシェーサかノリス辺りで会戦が始まると思う。流石に連中とてこれ以上奥へ入れたくないはずだ」

 

ロンゼルベルク中佐はマーケス少将らの考えた計画よりも手前の段階で大規模会戦が起こると予想した。

 

中佐は未知領域への進軍速度はかなり遅いものになるだろうと予測し、故に会戦はマーケス少将らの予想よりも早く起こると判断した。

 

「ここで連中の主力を潰して一気にシーラまで進めば未知領域の作戦は完遂されるはずだ」

 

「やれると思うか?」

 

マーケンライト中佐は尋ねた。

 

質問を受けたロンゼルベルク中佐は自身たっぷりに答える。

 

「我々は国防軍、世界最強の軍隊だぞ?連中に負けるなどあってはならん」

 

彼らもやはり第三帝国の国防軍だ。

 

過剰な自信はバルバロッサに集まりつつあった。

 

 

 

 

-第三帝国領 コア・ワールド ボーメア宙域 シャンドリラ星系 惑星シャンドリラ 第FF19義勇擲弾兵団(ライヒスシャンドリラ)司令部-

親衛隊の各司令官や本部長官達は皆一様にシャンドリラ駐留部隊とシャンドリアで行われている”帝国化”の成果を視察した。

 

各隊の視察の後、一行は第19FF義勇擲弾兵団”ライヒスシャンドリラ”の司令部へ向かい会議室に足を踏み入れた。

 

バルバロッサに合わせて親衛隊が行わなければならない重要な会議だ。

 

会議室には長方形のテーブルが用意され真ん中にはヒェムナー長官と書記が2名ずつ、左側にはシュメルケ元帥を含む12人の上級大将が、右側にはFFISOとバルバロッサ作戦に参加予定の親衛隊将校達が座っていた。

 

尤も全員が視察に来たわけではない為、バエルンテーゼ上級大将とシュテッツ上級大将、そして大多数のバルバロッサ参加予定の将校達はホログラムでの参加となった。

 

彼らの背後には常に副官達が控えており、手元のタブレットには様々な資料が入っている。

 

会議室のドアの前にはFFISO所属のデス・トルーパーが警備しており、緊張感が漂っていた。

 

全員が揃って給仕が会議室に直にいる人間にカシウス・ティーが配られ、全ての用意が整うと会議はスタートした。

 

「今回、諸君に集まって貰った理由は1つだ。第三帝国はこれよりチス・アセンダンシーと大セスウェナ連邦に対し懲罰戦争を行う。今回この場にいる幾人かには直接戦地へ行ってもらう。そこでハイドレーヒ大将から総統閣下の理想実現の為の提案を議論したい。この先はハイドレーヒ大将、どうぞ」

 

ヒェムナー長官から紹介されハイドレーヒ大将が立ち上がる。

 

全員分の席のホロプロジェクターから今回の議題の書類が映し出された。

 

「はい、我々FFISOは今まで各地の国防軍、親衛隊地宙空軍と連携してパルチザンや反乱分子掃討の為に特別任務部隊を展開してきました。戦果報告は資料に添付されている通り、特別任務部隊の戦果は大であります」

 

資料にはパルチザン活動の低下と今まで”処理”してきた人数が種族ごとに正確に記載されていた。

 

最も多いのはエイリアン種族の処理数であり、次点で近人間種、人口配分的に最も多いはずの人間種の処理数は一番少なかった。

 

「こうした特別任務部隊は今回の未知領域作戦にも導入するべきと私は考えています。しかし未知領域、そして北西部アウター・リムは今までとは比べ物にならないくらい人手が必要です。その為、特別任務部隊の人員をFFISOだけでなく通常の親衛隊からも抽出出来ないかを相談に参りました」

 

ハイドレーヒ大将の発言は端的に言えば親衛隊から人員が欲しいということだ。

 

真っ先に意見を述べたのはホログラムで参加しているバエルンテーゼ上級大将であった。

 

『大将、君らの人手が少ないのも分かるが我々とて人員には限界がある。占領行政以外の特別任務に避ける人手ははっきり言ってない』

 

親衛隊は国防軍と共に銀河中の四方八方に展開している。

 

東ではハット・スペースからケッセル王国へ、西ではバルバロッサに、そして南では大セスウェナ連邦との戦いに人が割かれる。

 

この状況下で特別任務部隊に人員を割り当てろというのは難しい話であった。

 

「上級大将の懸念はご尤もです、しかし特別任務によって芽を潰さねば反乱という雑草は生え続ける。その結果余計に人員が必要になります」

 

「ハイドレーヒ長官の意見には賛同する。どうでしょう、北部の親衛隊から部隊を編成するというのは」

 

肯定的な発言をしたのはアルフェンマイヤー上級大将であった。

 

現在、北部では大規模な戦闘は起こっていない。

 

時々レジスタンス軍の艦隊と小競り合いが発生するも、所詮はその程度だ。

 

ラクサス攻略戦や最盛期のバトル・オブ・ヤヴィンの頃と比べればまだ落ち着いた方である。

 

上級大将や右側の席に座る司令官達は副官から状況を聞いた。

 

そこでモーデルゲン上級大将が口を開く。

 

「ああ、北部はダメだ。対大セスウェナ用に国防軍の対ヤヴィン用戦力が撤退するから親衛隊まで抜けたら最悪逆襲を喰らう」

 

ハイドレーヒ大将はこの時表情を一切変えなかったが内心は怒りに満ち溢れていた。

 

彼の内心を分かっていたのはシュメルケ元帥か隣で資料を見つめるフリシュタイン准将だろう。

 

彼は准将に昇進したのと同時にFFISOチャーニス宙域支部長に就任した。

 

チャーニス宙域は惑星アンシオンを含む未知領域に最も近しい場所だ。

 

その為支部長となったフリシュタイン准将はこの会議に参加する義務と権利を持っていた。

 

「宇宙軍も地上軍と同じだ。艦隊から人員をこれ以上割く訳にはいかん」

 

シュテッツ上級大将は全員に宇宙軍の兵員配置状況の資料を送った。

 

本来宇宙軍は主力艦を動かす為に多くの人員を必要とする。

 

インペリアル級も本来は乗組員3万7,085名必要な所をなんとか数千名程度に抑えて運用している状況だ。

 

つまりこれ以上人員をどこかへ割り振れば艦隊が運用出来なくなる。

 

「…占領部隊からその場で志願兵を募って臨時で編成、これではダメか?」

 

モーデルゲン上級大将はハイドレーヒ大将に提案した。

 

ハイドレーヒ大将はそれで人員が確保出来るならと妥協し「案として受け入れましょう」と快諾した。

 

この提案にバエルンテーゼ上級大将が1つ疑問を投げかけた。

 

『占領部隊ということは国防軍も動員するのか?』

 

獲得した地域の占領は国防軍か親衛隊のどちらかによって行われるか合同で占領地の治安維持が為される。

 

その為、単に占領部隊では国防軍にまで影響範囲が広がることになる。

 

「連中が我々のいうことをそう易々と従ってくれるとは思えませんが」

 

アルフェンマイヤー上級大将は組織対立を理由に難色を示した。

 

ハイドレーヒ大将も「占領地からの編成であれば親衛隊だけで十分でしょう」と述べた。

 

親衛隊の老将は治安維持であれば国防軍と共同の方が楽ではないかと考えたがそれ以上は口にしなかった。

 

彼らのいう特別任務部隊が本当は何をしているのかは親衛隊将校であれば薄々分かってくるものだ。

 

それでも自身が親衛隊将校という立場の為ここで特別任務部隊を糾弾する必要はないとバエルンテーゼ上級大将は判断した。

 

人の思考や発言とは時に立場によって左右されるものだ。

 

「もう1つ、人員を徴収する手段としては本土の警察と予備軍から引き抜いてくる手がある」

 

フューリナー上級大将の提案にミューレンリーベ上級大将が疑問を投げかけた。

 

「ダルゲー長官が納得しますかね?」

 

クルツ・ダルゲー警察大将は帝国秩序警察、つまり一般警察を統括する長官である。

 

本土の警察を動員するにはダルゲー警察大将の許可が必要であった。

 

「その点は総統閣下とヒェムナー長官が説得していただければなんとか」

 

ふとハイドレーヒ大将はヒェムナー長官の方を見た。

 

丸メガネをかけた穏やかそうな親衛隊長官は困ったような笑みと共に「分かった」と引き受けてくれた。

 

会議の始まりとは違い人員の確保は比較的スムーズに行った。

 

これより編成される特別任務部隊、通称アインザツグルッペは後に銀河系へ多大な影響と名前を残すことになる。

 

 

 

 

ーケッセル王国領 アウター・リム・テリトリー ケッセル宙域 ケッセル星系 惑星ケッセル ケッセンドラ駐屯地-

勝利の宴は終わり、次の戦場が近づいてきた。

 

ジェルマンとジョーレンの第1義勇空中強襲大隊はエニード奪還作戦に投入される。

 

そしてジェルマンとジョーレンの分隊は前回の戦果を受けて先行偵察部隊に任命された。

 

今、Uウィングの前で分隊員がグランゼット少尉が作戦説明と訓示を行っていた。

 

「艦隊と共にハイパースペース・ジャンプを行うと同時に我々は惑星内に突入し、敵駐留地点まで徒歩で移動する。連中の戦力を確認したら暗号通信で司令部に数を送り、我々は本隊に合流する」

 

素早い潜入と情報伝達による偵察活動、言葉にすれば簡単だが実態は困難を極める作戦だ。

 

当分友軍から援護を受け入れられない孤立無援の環境下で可能な限り敵との接触を避け、敵の戦力を調べる必要があるのだ。

 

正規軍であっても難しい作戦である。

 

「非常に困難を極める作戦ではあるが、我々なら必ずやれる。生きて帰って、また酒を飲もう。金を手にして勝利を実感しよう」

 

隊員全員が了解と口を揃えて叫んだ。

 

グランゼット少尉は最後に「各自、装備の点検をしてしっかり休め」と言って分隊を解散させた。

 

説明が終わると各々別で行動した。

 

ベンネとアルメトは自身のブラスターと装備の点検を行い、サイネスは他の3人と共に射撃訓練へ向かった。

 

「少尉殿、Uウィングに燃料を入れておきたいのですが何処で調達すればいいでしょうか?」

 

ジェルマンはその場を離れようとするグランゼット少尉に尋ねた。

 

「今だと格納庫を出た第4スタンドでスターシップ用の燃料を配給してるはずだ。台車はあそこで借りてくるといい」

 

「ありがとうございます」

 

ジェルマンが少尉に敬礼しその場を離れると少尉はジョーレンを呼んだ。

 

「タイドゥ!ちょっと来てくれ」

 

手招きしてジョーレンを近くに寄らせる。

 

何の話かと思いジョーレンは不思議に思いながら敬礼し少尉の前に来た。

 

「少し話したいことがある、来てくれ」

 

「はぁ…」

 

ジョーレンはグランゼット少尉に連れられ、格納庫の外に出た。

 

人気のないところに呼び寄せられグランゼット少尉は話を始めた。

 

この時のジョーレンは疑念と警戒心でいっぱいだった。

 

もしかするとスパイ活動がバレたのではないか、しかしそんな素振りは見せていなかった。

 

グランゼット少尉が最初の一言を発するまでジョーレンは焦り続けていた。

 

「次の作戦、味方部隊からの援護も受けられない危険な任務だ。最悪分隊が全滅するかもしれない」

 

少尉は珍しく不安そうに話した。

 

今まで分隊員には見せたことのない不安そうな表情だ。

 

「ええ、ですが命令である以上やるしかありません」

 

「ああ、だからだ。どんな状況に陥っても命令だけは完遂しなきゃいけない。例え私が撃たれて指揮官不在になってもだ」

 

「というと?」

 

ジョーレンは直球の疑問系を投げかけた。

 

グランゼット少尉は心苦しそうに彼に話した。

 

「君に副分隊長兼私が戦死した時の代わりの分隊長をやってもらいたい。私が指揮不能になっても何としてでも任務を完遂してくれ」

 

「私がですか?あの3人もいるのに」

 

「3人は前の小隊からの部下だが経験と練度、指揮官の資質から言って君が一番最適だ。前の時も君のおかげで分隊は活躍出来た」

 

やはりこの少尉、人の本質を見抜く優秀な人間だとジェルマンは感じた。

 

恐らくただの新米少尉だったらここまで部下のことをよく見て見抜くことは出来なかっただろう。

 

それとも単に自分の能力を隠すのが下手だっただけかと自虐もしたが。

 

「エニードは私の故郷なんだ。だから誰にも言わなかったが何としても取り返したいし、何としても任務を完遂して勝利したい……頼むっ!」

 

少尉はジョーレンの肩をしっかり掴み、頼み込んだ。

 

初めて知るグランゼット少尉の身の上話に内心驚きながらも優しく微笑んだ。

 

自分にはこんな風に守るべき故郷はなかったなと思いつつ。

 

「任せてください、ですが一番はあんたが生き残ることです。最後まで導いて下さいよ、分隊長」

 

「ああ……ああっ!もちろんだ!時間を取って悪かったな」

 

グランゼット少尉は頼みを全て言い終えその場を後にした。

 

ジョーレンは少尉に聞こえない声音で「そんなこと言われたら情が湧くじゃないか」と悲しく呟いた。

 

同じ頃ジェルマンはドイスを連れて運搬用スピーダーに乗り込んでいた。

 

燃料の詰まったタンクを運ぶには1人よりも2人の方が効率がいい。

 

ジェルマンが分隊員に誰か手伝ってくれないかと聞いたところ以外にもドイスが名乗りを挙げた。

 

やはり彼は無口だが仲間想いだ。

 

そうでなければサイネスがあそこまで心配する訳がない。

 

「えっと、この後は右に曲がってと」

 

ハンドルを切りながら燃料スタンドまで向かう。

 

ドイスは最初の数分は無口なままだったが暫くしてふと口を開いた。

 

「…よく、父がこうして街まで連れ出してくれた」

 

「アンバラにいた時の話か?聞かせてくれ」

 

ジェルマンはスピーダーを運転しながらドイスの話に耳を傾けた。

 

滅多に自分のことを話さないドイスがこうして身の上話をしてくれるのは貴重だ。

 

他の仲間に言うつもりはなかったが何故か嬉しかった。

 

信用出来る分隊の仲間と思ってくれたからだろうか。

 

「ガキの頃の話だ、スピーダー好きな父が週末にはよく愛車をかっ飛ばして家族全員で首都に行っていた。こうしてると昔の記憶が蘇る」

 

「家族は何人家族だ?兄とか妹とか、僕はどうも昔の記憶が曖昧で家族のことをよく覚えてなくてな」

 

「父と母に2個下の弟と4個下の妹がいた。俺は長男だった、不甲斐ない長男だっただろうがな」

 

ドイスは自虐気味に笑った。

 

彼が故郷アンバラと家族に何をしたのか、何があったのかは分からない。

 

だがどこかこの2つを負い目に感じているようだった。

 

「今は無理でも故郷に帰ろうと思ったりするのか?」

 

ジェルマンはふと尋ねた。

 

ドイスは暫く考えた後、悲しい顔で首を振った。

 

「いや、ないな。”()()()()()()()()()()()()()()()()”」

 

「罪人…?」

 

「気にするな、ほらもうすぐ着くぞ」

 

「ああ…」

 

ジェルマンはスピーダーを停めて外に出た。

 

彼の心の中にはずっと在任という言葉が引っかかっていた。

 

 

 

 

-第三帝国領 ミッド・リム ダスティグ宙域 マラステア星系 惑星マラステア-

後にバトル・オブ・ヤヴィン、第二次ヤヴィンの戦いなどと呼ばれる第三帝国のヤヴィン掃討作戦は3年の月日の末に終結した。

 

大セスウェナ連邦との戦いの為に北部から北東部にかけての戦力は大多数が南方方面に移動し、残ったのは封鎖のために必要な部隊だけであった。

 

第三帝国は一連の戦いを「ゴーディアン・リーチの反乱勢力を無力化した為作戦は成功」と定義付けた。

 

宣伝省はヤヴィンから移動する艦隊を堂々たる勝利の凱旋と宣伝し、持て囃した。

 

しかし実態は当然そうではなかった。

 

弱体化したとはいえヤヴィン星系周辺を維持出来る程度の戦力はレジスタンス側に残っていたし、本来の目的はゴーディアン・リーチからレジスタンス軍を駆逐することだった。

 

つまり、本来であればレジスタンス艦隊を蹴散らし、ヤヴィン4に第三帝国旗を掲げることが作戦の完遂だったのだ。

 

だが実際はレジスタンス軍は頑固に抵抗し続け、南に現れた新たな仮想敵に戦力を割り振る必要が出てきた。

 

3年掛けて行われた史上最大の空戦は事実上の失敗に終わったのだ。

 

この結果を受け入れられないと作戦を統括したケナー・ローリング大将軍は撤退を拒否した。

 

大セスウェナの蛮人どもは今ある南方戦力で防げる、作戦の完遂こそが過去への決着となり第三帝国の栄光となると様々な理由をつけた。

 

されど対大セスウェナ連邦戦は決まったことであり、第三帝国の実質的なナンバー2であるローリング大将軍の権力を持ってしても覆せなかった。

 

最終的にはブラシン大将軍と代理総統に説得される形で撤退が決まった。

 

今マラステアを始めとするサラスト、ナブーなどの惑星には第三帝国の戦力が結集しつつあった。

 

『各艦隊は全て所定の惑星に辿り着いたと報告を受けている。その為暫くの間、諸君らには軍の駐屯を任せるが異論はないな?』

 

『サラストは問題ありません。親衛隊の一部部隊は配置換えで北西に向かうようですが』

 

『我がナブーは艦隊の駐留地点が足りません。出来れば宇宙ステーションを後3基ほど融通していただかないと』

 

コメル宙域のモフに就任したクリース大将はローリング大将軍に要望を伝えた。

 

ローリング大将軍は親衛隊は嫌いであったが以前から顔見知りであったクリース大将は嫌いではなかった。

 

それに第三帝国は時折高官に親衛隊の名誉階級を与えることがあった。

 

その為個人としては気に入っていても親衛隊の階級を持っているということは多々ある。

 

『ノルマンディーの宇宙ステーションを何基かそっちへ送ろう。3、4日もすれば到着するだろう』

 

軌道上に艦隊をそのまま置いておくことも可能だが、安定した休息と修理を提供する為には宇宙ステーションの存在が必要不可欠であった。

 

ナブー王立宇宙艦隊を養うだけの設備は今までの分で足りていたが国防軍の主力艦隊が来るとなるとそうもいかない。

 

再び第三帝国の傀儡となったナブーは悪の前哨基地となった。

 

「マラステアは問題なく艦隊を収容出来ます。後2、3個艦隊が来ても問題ないかと」

 

ダスティグ宙域副総督兼宙域軍司令官のジルムント・ハインツベルガー上級将軍はそう答えた。

 

ダスティグ宙域のモフはローリング大将軍であり、現在もその地位にある。

 

しかし空軍総司令官も兼任し首都コルサントでの仕事も増えたローリング代将軍がダスティグ宙域の統治も行うのは難しい。

 

その為ダスティグ宙域の統治は軍閥時代の部下であり、元より群生の才能があったハインツベルガー中将を将軍に昇進させ、副総督に就任させた。

 

今では上級将軍にまで出世し副総督と宙域軍司令官を兼任していた。

 

『よろしい、では追加の部隊はマラステアに優先して送るよう命令しよう』

 

マラステアは4、5ABY頃の軍閥時代にかなりの要塞化が進んだ。

 

元はと言えばガリアス・ラックス元帥やレイ・スローネ大提督が討伐に来るのを恐れてのことだったが、今では艦隊の受け入れ先兼大セスウェナの抑えとして機能している。

 

最初の銀河内戦の余波はこうしたところで未だに残り続けているのだ。

 

『各宙域とも、派遣する部隊は決まったのか』

 

ローリング大将軍は3人の宙域統治者に尋ねた。

 

大セスウェナ連邦との戦いは参謀本部、最高司令部共に首都エリアドゥを強襲して速やかに制圧し、幸福に追い込む電撃戦が採択されつつあった。

 

その為には足の早く、打撃力のある艦隊が必要だ。

 

当然ヤヴィン方面から帰還した部隊も動員されるが一番の主力は最も大セスウェナに近いサラスト、マラステア、ナブーの部隊であった。

 

ナブーの戦力はまだそれほど多くないがサラスト、マラステアには親衛隊と国防軍合わせて四十八隻のインペリアル級が常駐している。

 

『ナブーからは第608義勇擲弾兵師団と1個機動部隊を送ります』

 

『我々は地上部隊3個兵団、そして第209FF小艦隊と第304FF揚陸艦隊を派遣部隊に決定しました』

 

クリース大将に続いてサラスト宙域のモフも答えた。

 

サラスト宙域には十八隻のインペリアル級が駐留し親衛隊地上軍も3個軍を有する親衛隊の南方における一大拠点である。

 

「我がマラステアは2個小艦隊と1個地上軍を派遣する予定ですが、よろしいでしょうか」

 

ハインツベルガー上級将軍はローリング大将軍に改めて聞き直した。

 

このダスティグ宙域のモフはローリング大将軍であり、最終決定権はローリング大将軍にあった。

 

大将軍はホログラム越しに『構わん』と上級将軍の要請を受け入れた。

 

『他の部隊も合わせればマラステアの戦力は2個小艦隊で十分だろう。残りの戦力は全て防衛に回せ』

 

「はい!」

 

ハインツベルガー上級将軍は敬礼しローリング大将軍の命令を承諾した。

 

『今回の侵攻軍司令官はヴェルム・リンスト元帥が務める予定だ。詳細は追って知らせが来ると思うが2週間後にリンスト元帥が南方総軍管轄区のモフ達と会合を開くと言っていた。その時は是非奇譚のない意見をぶつけてくれ』

 

『もちろんですとも大将軍閣下』

 

『ではこれにて会議を終了とする。各自解散して構わんがハインツベルガー上級将軍だけはもう暫く残ってくれ』

 

ローリング大将軍はハインツベルガー上級将軍の目を見て合図を送った。

 

各員は了承しホログラムを切って会議から退室した。

 

3つあったホログラムはローリング大将軍のものだけになり、1対1の会話が始まった。

 

『上級将軍、各部隊司令官に念を押して伝えろ。必ずダスティグ宙域の者が1発でも大セスウェナに攻撃を加えろとな』

 

「勿論各員そのつもりです、第三帝国と総統の敵を討ち倒すために我々はおります」

 

ローリング大将軍には焦りがあった。

 

ヤヴィンで3年の月日と数多のパイロット達を戦地に送り込んでも作戦目標を達成出来なかったこと。

 

この失敗によって第三帝国での地位が失墜するかもしれないことを。

 

ローリング大将軍にとってこの大セスウェナ戦は自身の失敗を挽回するチャンスであった。

 

『必ず頼むぞ。そしてだ、そしてもし……もし大セスウェナ連邦軍がマラステアに来るようなことがあれば…』

 

「閣下、ご自身が作り上げたマラステアの防衛能力を信頼なさって下さい。連中の軍など我がマラステアで阻んで見せましょう」

 

上級将軍はローリング大将軍を落ち着かせる為に強い口調で言い放った。

 

その自信過剰な姿にローリング大将軍も自信を取り戻し『そうであったな』と呟いた。

 

『第三帝国の命運は君達ダスティグ宙域軍に掛かっている。頼んだぞ、ハインツベルガーくん』

 

「ハッ!」

 

敬礼しローリング大将軍のホログラムは消えた。

 

直属上官がいなくなったことにより、ハインツベルガー上級将軍は背もたれに深くもたれ掛かり大きなため息をついた。

 

執務室の外からふとマラステアの景色を見た。

 

空には国防宇宙軍の艦隊、地上には総督府を警備するストームトルーパー達。

 

「負けるはずはない……当たり前だ」

 

ハインツベルガー上級将軍は最悪の時を考え、ふとデスクにしまってある自身のブラスター・ピストルを取り出した。

 

これが役に立つ日が来ないことを祈る、そう心の中で呟いた。

 

人間が全員、約束された勝利を信じられる訳ではないのだ。

 

 

 

 

-大セスウェナ連邦領 アウター・リム・テリトリー サンブラ宙域 デエッタ星系 惑星サンブラ-

サンブラ宙域には惑星ディカー、つまりレジスタンス軍の秘密基地がある。

 

今までレジスタンス軍は様々な方法でディカーから発進する艦隊の姿を偽装し、秘密基地の場所を隠し続けてきた。

 

結果、開戦から3年経った今でもディカーに基地があることを第三帝国は知らない。

 

むしろ彼らはキャッシークやモン・カラ、ヤヴィン4やボサウイ、ベスピンといった主力がいる惑星に気を取られてこう言った秘密基地の存在を微塵も考えていなかった。

 

ナブー攻略部隊も基本的にはボサウイから出ているものだと考えていたし、何よりレジスタンス軍は反乱同盟軍とは違い正規戦を続けている為こういった秘密基地はもう使っていないだろうと考えていた。

 

そういった実態も相まってディカーはレジスタンス軍の秘密基地兼最高司令部として今日まで機能し続けていた。

 

されどディカーのあるサンブラ宙域は大セスウェナ連邦の領域であった。

 

宙域首都サンブラには大セスウェナ連邦軍が駐留し、日々領域の警戒に当たっていた。

 

その為1年前までサンブラ宙域は実質的な第三帝国の領域であり、レジスタンスは常に秘密基地が発見される危険性を帯びていた。

 

大セスウェナ連邦が統一条約から抜けた今でもそれは変わらない。

 

今回、ヘルヴィ達外交使節団を乗せるMC80をわざわざボサウイから持ってきたのもそういう理由があった。

 

「間も無くジャンプアウトします」

 

MC80スター・クルーザー”ディプロイメント”の航行士官が艦長らにそう報告した。

 

艦長のアルム・バネック中佐は通信士官に「ジャンプと同時にサンブラ本星へコードを送信しろ」と命令を出した。

 

彼は元々”ディプロイメント”の副長であったのだが前任の艦長がエクセゴルの戦いで全治数ヶ月の傷を負った為、正式な艦長となった。

 

「間も無くですセルヴェント特使、シャトルは1番ハンガーに停泊しているのでそちらをお使いください」

 

バネック中佐は隣の席に座っているヘルヴィ・セルヴェントにそう伝えた。

 

彼女は今回大セスウェナ連邦との秘密の会合の為レジスタンス政府全権委任特使に任命された。

 

事の知らせは急であった。

 

突如大セスウェナ連邦外務省からモン・カラへ向けて暗号通信が届いた。

 

内容は”第三帝国について惑星サンブラにて待つ”という内容であった。

 

外務省は即座にこれを連邦側が会合を行う意思表示であると確信し使節団を編成した。

 

そして父ニルメス・セルヴェント外務大臣の代わりに使節団のトップとなったヘルヴィはいつもに増して緊張とやる気が身体中に満ちていた。

 

「ありがとうございます艦長。その……”()()()”の時は30分経って私達のシャトルが戻って来なかったら先に離脱してください」

 

ヘルヴィは席を立つ瞬間艦長にそう伝えた。

 

バネック中佐は驚いた表情で「いや、とんでもない」と断りを入れた。

 

「我々の任務はあなた方を安全に送り届けることです。仮に本艦が沈んでもあなた方だけはディカーへ送り届ける」

 

「艦長……お気持ちには感謝しますがこれは私達使節団の意思です。無事に帰還出来る確率はシャトルとクルーザーで言ったらクルーザーの方が高い。つまりこの会合が失敗したという情報を伝えられる可能性が高いのもこのクルーザーなのです」

 

「それは…」

 

「ですから艦長、レジスタンスの為にどうか頼みます」

 

そう言ってヘルヴィはブリッジを後にした。

 

バネック中佐は複雑そうな表情で彼女を見送った。

 

「大セスウェナとて、会合が失敗したから突然特使を乗せた船を撃ち落とすなんて真似はしないはずです」

 

副官のナーネン少尉はそう付け加えた。

 

バネック中佐は「そうだといいんだがな…」と呟くも内心はまだ心配の方が勝っていた。

 

ヘルヴィ達を乗せたテイランダー・シャトルはサンブラ軌道上の宇宙ステーションに向かった。

 

シャトルの中は外務省職員で溢れ、ヘルヴィの補佐官であるサンネントが段取りの最終確認を行なっていた。

 

「会合の内容としては今後の戦争継続の為の支援として物資供与、安全保障同盟の2点が焦点となりますがその前に今回会合を開こうと思った理由について尋ねるのも良いでしょう」

 

「我々とも砲火を交えた彼らが今になって擦り寄ってきた理由は確かに知る必要があるわね。それで向こうの全権代表は?」

 

ヘルヴィはサンネント補佐官に尋ねた。

 

「連邦外務省長官、コルデント・ハルトだそうです。連邦設立当時から連邦外務省に携わっているベテランです」

 

「帝国時代も名前を聞いたことのある政治家だわ。長官クラスが出てくるのは聞いてたけど…いざとなると身構えるものね」

 

ヘルヴィは水を飲みながら小さく溜息をついた。

 

ふとサンネント補佐官は「やはり重圧ですか?」と尋ねてきた。

 

ヘルヴィは隠すこともなく「ええ」と答える。

 

「本来は父が来るべきだったのでしょうけど……多忙な上に最悪の時に父をここで失う訳にはいかないわ。連合との同盟も他の国々との関係も父がいなければ維持していけない」

 

「我々も全力でサポートします」

 

「ええ、任せるわ」

 

大セスウェナ連邦との会合がどんな結果になるのかはまだ分からない。

 

しかし彼らに協力の意思があるのなら、なるべく応えたい。

 

今もなお”前線で戦っている兵士(ジェルマンとジョーレン)”の為にも。

 

シャトルは誘導に従ってハンガーベイに着陸し、使節団一行は大セスウェナ連邦司法省の警護総局によって会合場所まで導かれた。

 

「お待ちしてました、私が連邦外務長官を務めるコルデント・ハルと申します。急な会合でしたがお越しいただきましてありがとうございます」

 

「全権特使を任命されました、ヘルヴィ・セルヴェントです。こちらこそありがとうございます」

 

お互いに握手を交わし、すぐに警護総局の少佐から「お席はこちらです、特使の方はこちらに」と席を指定された。

 

警護総局の少佐によって指定された席にヘルヴィは静かに座った。

 

父から教えられた方法で椅子やテーブルに盗聴器や仕掛け爆弾がないか確認する。

 

すぐに給仕によって茶と菓子のセットが各院に配られ、隣に座るサンネント補佐官から資料が手渡された。

 

ヘルヴィの眼前にはハルト長官が座っており背後にはヘルヴィ同様様々な対応職員を控えさせていた。

 

「あちらの席、1席だけ空いていますが」

 

ふとサンネント補佐官が疑問を投げかけた。

 

ヘルヴィ達がいるテーブルは長方形のもので右側にはレジスタンス側の使節団、左側には大セスウェナ連邦の外交官達が座っていた。

 

丁度ハルト長官の右隣の席だけ何故か空席であった。

 

「まだ到着していない補佐官用の席なのかもしれない」

 

そうヘルヴィは考えたそれにしてはおかしな点があった。

 

椅子の作りが明らかにハルト長官のものより豪華なデザインなのだ。

 

本来こういった状況下ではトップの椅子を派手にするか、或いは全てを均等にするかの二択なのに何故かそうではない。

 

長官の補佐官が座るにしては明らかにおかしい状態であった。

 

だがその疑問もすぐに方がつく。

 

現場の警備主任たる警護総局大佐がその場で椅子に座るべき主人の名を叫んだ。

 

「連邦盟主が到着されました!各員ご規律願います!」

 

「連邦盟主…!?」

 

「…全員起立して」

 

ヘルヴィはすぐに席に座った使節団の全員を立たせ、自身も立ち上がった。

 

この時点で誰が来るかは明白であった。

 

警護総局の黒い制服を着た警護員達が整列しブラスター・ライフルを持った者は綺麗の構えを行い、そうでない者は敬礼した。

 

ドアが開き2人の警護のトルーパーを引き連れた銀髪の青年が室内に入ってくる。

 

まず青年はハルト長官に声をかけ、次にヘルヴィ達の下へやってきた。

 

ヘルヴィ自身も青年へ会いに行く。

 

相手は連邦の国家元首だ、粗相があってはレジスタンス政府の面目を潰すことになる。

 

「レジスタンス政府レイア・オーガナ議長より全権委任特使を仰せつかりました、ヘルヴィ・セルヴェントと申します。本日はこのような場を設けて下さり、ありがとうございます」

 

ヘルヴィは深々と頭を下げた。

 

青年は穏やかで凛々しい笑みを絶やさず挨拶を返した。

 

「大セスウェナ連邦盟主、ヘルムート・ターキンである。こちらこそ我々の申し出を断らず受けて下さり光栄に思う。共に”第三帝国を倒す算段”を考えようではないか」

 

ヘルヴィは一切表情を崩さなかったが内心ではとんでもない所に来てしまったと感じていた。

 

歳の差ではヘルヴィの勝ちだが経験と役職が違い過ぎる。

 

人生で今まで感じた事のない緊張と重圧が一気にのし掛かってきた。

 

それでもこの会合をなんとかレジスタンスにとってプラスになるものにしなくてはならない。

 

自由の為に、故郷へ帰る為に、何より前線で戦ってる人々の為に。

 

ジェルマンという不器用な1人の若者の為に。

 

外交官ヘルヴィ・セルヴェントの人生一世一代の戦いが始まった。

 

 

つづく




Eitoku Inobeです!

ここ最近は珍しく隔週ペースでものが書けているEitoku Inobeですがそう遠くない日に落ちぶれるでしょう(小並感)

というわけでナチ帝国77話を作ってみました!

若い頃のEitoku Inobeは完全隔週のペースでものを書けていたんですが今は歳でねェ〜

もうすっかりジジイの気分ですわ!

味の感想ですが、文章なのでよく分かりません!

紙は紙の味ってことですな、Eitoku Inobeでした!
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