第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「総統の欲とはまるでカミーノの海のようだと思った。あの方が望むのは燃料の宝庫ケッセルであり、ロマイトの宝庫エリアドゥであり、母なる海で溢れたモン・カラであり、復讐すべき地ヤヴィンであり、前人未到の地シーラであったのだ」
-親衛隊中将 アウテル・コーネルハインの戦後の日記より抜粋-


エニード攻勢

-第三帝国領 アウター・リム・テリトリー ケッセル宙域 エニード星系 惑星エニード-

エニード星系を占領した親衛隊はケッセル王国軍の反撃を防ぐ為に艦隊をリトル・ケッセル方面へ展開していた。

 

前衛艦隊の指揮官にはエニードに展開した第913FF小艦隊の副司令官、アハトゥム・シュヴィーレン准将がその席についた。

 

彼の乗艦であるインペリアルⅡ級”リストレクション”は二隻のインペリアル級と数十隻の戦闘艦を率いてパボル・スレイヘロン上に展開した。

 

現在、前衛艦隊はリトル・ケッセルから襲来したケッセル王国軍と戦闘を行っていた。

 

「敵艦隊、左翼に再展開」

 

「”シオニアⅢ”の支隊を回して補強せよ」

 

「”シオニアⅢ”、僚艦と共に艦隊左翼へ展開せよ」

 

熾烈な艦隊戦の中、前衛艦隊旗艦の”リストレクション”では配下の戦闘艦へ指示を行いつつ、砲撃支援を続けていた。

 

敵艦隊は前衛艦隊と同じくインペリアル級は三隻、ヴィクトリー級やグラディエーター級といった艦艇の数が若干少ないといった感じだ。

 

シュヴィーレン准将率いる前衛艦隊はインペリアル級三隻、ヴィクトリー級九隻、グラディエーター級七隻、アークワイテンズ級十二隻、レイダー級十八隻で構成されている。

 

前衛の防御強化の為に防衛司令官のストライツ少将が多く振り分けた結果であり、その甲斐あってか数の上では前衛艦隊が勝っていた。

 

双方アークワイテンズ級とグラディエーター級の対空砲網にスターファイター隊を飛び込ませたくないのか航空戦は殆どなかった。

 

数の上で勝っていることもあってか艦隊戦は親衛隊が優勢であり、ケッセル王国軍は若干押され気味であった。

 

「主力艦はこのまま右翼の敵を砲撃、左に押し込めろ」

 

三隻のインペリアル級による激しい砲撃がケッセル艦隊を徹底的に叩きのめす。

 

爆発の光が現れる度にケッセル艦隊の艦艇が傷つき、将兵達が血を流した。

 

「敵右翼、アークワイテンズ級大破。戦列を離れていきます」

 

「これで戦闘不能のアークワイテンズ級が四隻目ですな」

 

作戦参謀のリーヴェン少佐はそう呟いた。

 

敵艦隊の右翼は激しい砲撃を受け、四隻のアークワイテンズ級と一隻のグラディエーター級が戦線を離脱した。

 

ヴィクトリー級のような戦闘艦も小破、中破する艦艇が目立ち、崩壊寸前であった。

 

そこで参謀長のヘント中佐がシュヴィーレン准将に尋ねた。

 

「そろそろレイダー級の機動打撃群を展開しますか?」

 

シュヴィーレン准将が得意とする戦法はまず主力艦隊の砲撃を集中させて敵艦隊を崩し、そこへTIEボマーとレイダー級の打撃群を投入して敵艦隊をズタズタに引き裂くことだった。

 

その為に後方で砲撃支援を行うレイダー級はいつでも敵艦隊へ回り込めるよう準備していた。

 

「いや、後もう一隻くらいグラディエーター級を沈めたい」

 

「了解」

 

敵艦隊は未だ分厚い防空網を堅持している。

 

このままTIEファイター部隊を展開されて航空戦になれば機動打撃群の損害は極めて大きなものとなる。

 

これを避ける為にシュヴィーレン准将は準備攻撃を続けた。

 

インペリアル級の砲撃は右翼に集中させているものの他の中央、左翼共に親衛隊が優勢だ。

 

この状況を見たシュヴィーレン准将は思わず笑みを深め、呟く。

 

「数的優位に敵は防勢型の指揮官……悪いが、初戦でお前達の攻勢は頓挫だ。そしてここの艦隊も壊滅してリトル・ケッセルに逃げ帰る」

 

「敵艦隊、艦列を再編成し後退を開始」

 

レイダー級の機動打撃群を投入する前にケッセル艦隊は後退を開始した。

 

インペリアル級が前に出て敵艦隊を牽制し、その間に艦列の再編成と後退が行われた。

 

左翼側に展開された艦艇が右翼側に回され、損傷艦は真っ先に後退した。

 

敵将も引き際を心得ているようだ。

 

だからと言って逃すつもりはないがとシュヴィーレン准将は考えていた。

 

「突撃陣形を構築して追撃を開始。偵察圏まで敵艦隊を追撃する」

 

「はい!各艦に次ぐ、突撃陣形に移行して追撃を開始。繰り返す…」

 

機動打撃群の出番はなくなってしまったがどの道前衛艦隊を突破出来なかった時点で親衛隊の勝ちは確定している。

 

後は何隻敵艦艇を持っていけるか、敵にどれだけの損害を与えられるかだ。

 

インペリアル級を一隻でも沈められれば上出来、そうでなくてもヴィクトリー級やアークワイテンズ級を数隻撃沈出来れば敵は当分攻勢には出れないだろう。

 

「ケッセルで死んだ仲間の敵討と思え、敵に仮を返してやれ!」

 

突撃陣形を整えた親衛隊艦隊は追撃を開始し、砲撃を続けた。

 

ケッセル艦隊の後退を追って親衛隊艦隊も速力を上げて追撃を続けた。

 

その結果親衛隊艦隊は徐々にエニード本星から離れていった。

 

親衛隊は少なくともこの戦闘では勝っていた、しかしそれが大局に影響するかは定かではない。

 

特に攻勢部隊が”1つだけではない”場合は。

 

 

 

 

-大セスウェナ連邦領 アウター・リム・テリトリー サンブラ宙域 デエッタ星系 惑星サンブラ-

大セスウェナ連邦とレジスタンス、この関係は新共和国の時から至極曖昧なものであった。

 

明確な敵でもなければ味方でもない、かと言って信用出来る相手ではなく常に緊張が両国間で走っていた。

 

大セスウェナ連邦は旧帝国の分派であり指導層はあのターキンの家の者だ。

 

第一デス・スターを用いてスカリフのローグ・ワン隊を、20億人の住むオルデランを破壊して殺害した。

 

例え現代のターキンに罪はなくともその心理的要素は計り知れない。

 

それは大セスウェナ側も同じだった。

 

新共和国はつい昨日まで敵だった存在だ。

 

幾多の戦闘で仲間を殺し、南アウター・リムを押し上げたウィルハフ・ターキンも殺害した。

 

しかも新共和国の指導層には初期反乱運動で殆どテロ紛いの事をやった人物も含まれてることを彼らは覚えている。

 

心理的な負の感情が大セスウェナ連邦と新共和国に常に壁を作った。

 

こうした状況を常に打ち壊してきたのは第三帝国だったと言えよう。

 

第三帝国が新共和国を打ち倒したことにより大セスウェナ連邦は新共和国の包囲部隊を降伏に追いやった。

 

そして今、第三帝国という共通の横暴な敵を前に両者は急接近しつつあった。「

 

互いに緊張を持ちつつも可能な限り手を取り合える箇所を探りながら。

 

会議は既に1時間半が経過していた。

 

ヘルヴィはまず大セスウェナ側から幾つかの説明を受けた。

 

どうしてレジスタンス政府を呼んだのか、何故今になって第三帝国と戦う意思を見せたのか、大セスウェナが望む事とは何か。

 

その上で大セスウェナ側は国内に抱えているかつての新共和国軍の捕虜をそちらに送ると明言した。

 

大セスウェナ連邦によって捕虜にされた新共和国軍将兵が第三帝国の捕虜よりも遥かに健康状態がいい事は周知の事実だ。

 

大セスウェナ連邦は銀河協定に加盟した訳ではなかったが、それでも協定内で定められている捕虜規定を守っていた。

 

「まだ国内には1年前のヴィデンダ宙域で得たそちら側の捕虜がいます。我々としては本会合の成果に関係なく、捕虜を返還するつもりです」

 

大セスウェナ連邦の軍人がそう宣言した。

 

階級章から言って准将だろうか、肩章に金色の菱星を1つ付けていた。

 

1年前のヴィデンダ宙域での艦隊戦はアデルハード艦隊をレジスタンス軍が追撃した結果、大セスウェナ領に侵入した影響で起こった戦闘だ。

 

レジスタンス軍は大セスウェナ連邦軍と第三帝国軍の攻撃を受けて決して少なくはない将兵が戦死した。

 

しかし追撃に出た第三帝国とは違い、連邦軍は静かに自領域へと退いていった。

 

今思うとこの時から大セスウェナ連邦は離脱の準備を始めていたのかもしれない。

 

「それはありがとうございます。こちらとしても同胞が帰ってくるのは嬉しい限りです」

 

ヘルヴィは礼を述べた。

 

少なくともこれでレジスタンスには1つ良い土産が出来た。

 

だが捕虜を返す為だけにレジスタンスに態々暗号を打ってきた訳ではないはずだ。

 

「しかし、捕虜を返していただいたとて我々があなた方の要望を全て呑めるという訳ではありません。ですのでぜひ具体的な案を提示してください。もし……もしあなた方が本当に第三帝国と戦うつもりがあるのなら、我々も”()()”過去のことを水に流す努力をしましょう」

 

ヘルヴィにとってそれは慎重な一言であった。

 

特にレジスタンス政府臨時議長のレイアを思えば尚の事だ。

 

彼女はウィルハフ・ターキンによって眼前で故郷を破壊された。

 

レイアは常に気丈に振る舞っているが内心の衝撃は今も残っているはずだ。

 

そんな彼女に向けて簡単に過去の事を水に流そうとは口が裂けても言えない。

 

恐らく眼前のターキンもその気持ちくらいは分かるだろう。

 

だが今は、第三帝国という最悪の存在を倒す為ならば致し方のない事になるのかも知れない。

 

「我々の最終目的はレジスタンス政府との安全保障同盟の構築です。我々の情報機関は1年以内に第三帝国との戦争に突入する可能性が高いと報告を受けています」

 

ハルト長官から早速具体例が提示された。

 

そしてやはりというべきか第三帝国は裏切り者を許さない方針らしい。

 

大セスウェナ連邦の統一条約離脱は即座に戦争状態に陥らなくとも近い将来、大戦争になるとレジスタンス政府も予想していた。

 

敵が北西部での攻勢を中断し戦力を南方に移動させているのもそういう理由があるのだろう。

 

「率直に言って我々大セスウェナ連邦が単独で第三帝国に打ち勝つのは厳しいでしょう。それ故に我々はもう3年間第三帝国と戦っているあなた方と共同で第三帝国を打ち倒したいと考えています」

 

意外にもハルト長官は内情を赤裸々に語った。

 

下手に情報を隠しても意味はないという判断だろうか。

 

次に口を開いたのは連邦盟主、ヘルムートであった。

 

「過去の事を思えば我々もあなた方も難しい選択だろう。私も大伯父をあなた方に殺されたし、大伯父もあなた方の同胞を何十億と手にかけた。だが、今は共に第三帝国という共通の敵を討つ為に手を取り合いたいのだ」

 

ヘルムートは更に「第三帝国が今、何をしているかはあなた方も噂で聞いたことがあるはずだ」と付け加えた。

 

そのことについてヘルヴィ達は同意する他なかった。

 

第三帝国の苛烈な差別政策はコア・ワールド、コロニーズ、インナー・リムからエイリアン種族と近人間種を追放するには飽き足らず、直接的な手を打ち始めた。

 

情報部からの報告ではホロコーストと呼ばれる非人間種族の絶滅計画が進められているらしい。

 

もしこれが本当なら既にこの戦争の犠牲者は先の銀河内戦で亡くなったオルデラン20億人を遥かに上回っている可能性が高い。

 

「尤も、同盟の構築も一朝一夕には行きませんのでまずは武器等の物資支援、次に負傷兵の受け入れや連邦軍との共同演習と段階を踏んで関係を強固なものにする予定です」

 

「武器支援と仰いましたが我々の通常兵器ではあなた方の使用する帝国製の兵器と互換性はそこまでありませんよね?」

 

ヘルヴィはふとハルト長官に尋ねた。

 

レジスタンス軍が使う兵器は為本的に反乱同盟軍時代のもので大セスウェナ連邦軍が使う旧帝国軍の兵器とはかなりの相違点があった。

 

例えばスターファイターの供与として大セスウェナがTIEファイターを100機送ってくれたとしても前線での使用は難しい。

 

ブラスターや一部兵器では上手く行くだろうが戦場の趨勢を決める軍艦やファイターといった主力兵器の面では一筋縄では行かない面があった。

 

当然このことは大セスウェナ連邦とて承知のはず、ハルト長官は後方に控えている補佐官や軍代表者と小声で話し合っていた。

 

補佐官達は全員が公義の場に相応しい服装であったがヘルヴィはそのうちの1人に妙な違和感を覚えた。

 

立ち振る舞いや動きが何処となく”ジェルマンに似ていたのだ”。

 

ジェルマンは普通に立っている時も常に握り拳を作り有事に備えるような姿でいた。

 

それはジョーレンも同じなのだがジェルマンの方がどちらかというと隠す努力をしていた。

 

恐らくこれは教育の違いだろう。

 

ジェルマンはあくまで情報部員、ジョーレンは軍の特殊部隊員だ。

 

そして眼前の補佐官の立ち振る舞いがジェルマンに似ているということは恐らく彼女も大セスウェナ側の情報部員なのだろう。

 

「我々の特務機関が接収した解体予定だった新共和国製のクルーザー、フリゲート、スターファイターを提供します」

 

相談の末、ハルト長官はそう伝えた。

 

ヘルヴィは「出所は何処ですか?」と聞き返した。

 

「ホズニアン・プライム、シャンドリラで鹵獲した艦艇群ですよ。情報収集を終えた第三帝国が廃棄として我々の解体施設に寄越してきたものです」

 

「…信じていいのですね?」

 

「今手を結ぼうとしている相手に我々は嘘は言いません」

 

ハルト長官は断言した。

 

南アウター・リムからコア・ワールドの外交を渡り合ったこの食わせ者の言葉をどの程度信じていいのかは分からない。

 

だが主力艦が手に入るのはありがたい限りだ。

 

そこで軍代表のハルドア・フォラージュ准将がヘルヴィに耳打ちした。

 

フォラージュ准将はヘルヴィ達がクワットの新共和国大使館に駐在していた際、駐在武官として共に生活した仲だ。

 

トワイレックの妻がおり、息子は今レジスタンス地上軍の中尉としてアノート宙域で勤務している。

 

「どうでしょう、大セスウェナに次の攻勢の支援を確約させるというのは」

 

「そうすれば少なからず作戦の情報を向こうに渡すことになりますが」

 

「彼らがここまでした以上、情報が第三帝国に漏れる可能性は少ないでしょう。攻勢に必要な物資は膨大である為、それを出す意思と覚悟はあるのかという話にはなりますが」

 

フォラージュ准将が言っているのは現在レジスタンス軍が準備中のラクサス・セカンダス奪還作戦の話だ。

 

北東部のレジスタンス艦隊はエクセゴルで傷ついた戦力を癒しつつ、まだ無事な新分離主義連合軍と共に首都奪還作戦を考えていた。

 

幸いなことに北東の戦力は南方と北西に移されつつあり守りは手薄であった。

 

そこで大セスウェナ連邦の支援があれば戦力は一気に回復し、攻勢を早めることが出来る。

 

准将の言う通り相手のやる気を測る度合いにもなるので話す価値は十分にあった。

 

「では、1つこちらから要望を出してもよろしいでしょうか?」

 

ヘルヴィは思い切って尋ねた。

 

ハルト長官もヘルムートもどうぞと手を前に翳した。

 

「現在、我々レジスタンス軍は連合軍と共同で攻勢作戦を考えています。その為、我々としては攻勢作戦遂行の為の物資支援をまずあなた方にお願いしたい」

 

「具体的な物資の要求数は?」

 

ハルト長官が尋ねた。

 

すぐにサンネント補佐官が計算し概算のデータを載せたタブレットを大セスウェナ側に渡した。

 

「概算ですが、大体はこの要求と同じになるでしょう」

 

ハルト長官は周りの者と共に内容を見た。

 

難しい顔をしていたがさてどう出るか。

 

数十秒も経たないうちにハルト長官は結論を出した。

 

「…分かりました、支援の提供を約束致しましょう。ちなみに輸送地点は何処へ」

 

「そちら側の輸送船団が第三帝国に発見されるとまずいですし惑星ヴォーハイの旧分離主義宇宙拠点がよろしいかと」

 

「あなた方の返答を受け次第、直ちに輸送艦隊を送りましょう」

 

「ええ、どのような結果になるかはまだ分かりませんがこちらとしてもよろしくお願いします」

 

少なくとも2つ、ディカーに土産を持って帰れる。

 

内心ヘルヴィは安堵に包まれていた。

 

 

 

 

-第三帝国領 エニード星系 惑星エニード本星 軌道上艦隊-

軌道上には親衛隊のストライツ少将率いる半個小艦隊が警戒に当たっていた。

 

インペリアル級三隻、ヴィクトリー級六隻、グラディエーター級五隻、アークワイテンズ級九隻、レイダー級十二隻が防衛陣形を展開している。

 

シュヴィーレン准将に振り分けた前衛艦隊の方が若干数が多く、本星の艦隊はあくまで前衛安泰の予備として扱われた。

 

ストライツ少将がエニードの本星に降り立ったのは僅か7日のみでそれ以外は小艦隊旗艦”コンフューズド”で指揮を取っていた。

 

惑星内で占領政策の指揮を取るよりも軌道上で防衛作戦の指揮を取る方が賢明だと考えたのだ。

 

ケッセルでの大敗以降、ストライツ少将の不安と心配は日に日に膨れ上がっていた。

 

「地上部隊、全体は位置につきました」

 

「対艦砲、対空砲の配置は」

 

「閣下とイルベイン准将の命令通り展開し終えています」

 

報告に来た大尉はエニード防衛司令官のストライツ少将にそう報告した。

 

ストライツ少将はまだ晴れゆかずといった面持ちで「地上部隊はそのまま待機だ」と命令した。

 

そうこうしているとブリッジの通信士官が戦闘中の艦艇からの通信を少将に伝えた。

 

「”リストレクション”より入電、『我、後退する敵艦隊の追撃に入る』とのこと」

 

「シュヴィーレンくんはどこまで追うつもりだ?」

 

ストライツ少将は通信士官に聞き返した。

 

士官は直ちに詳細な情報を述べた。

 

第一偵察線(First scout line)まで追撃を行うようです」

 

防衛艦隊は直接的な防衛ラインだけでなく偵察艦や偵察機を展開する偵察線を設定していた。

 

第一偵察線は最前線の偵察線であり、その線の先にはもうケッセル王国の勢力圏であった。

 

少将は暫く考え命令を出した。

 

「シュヴィーレンくんには第二線まで追撃しろと伝えろ。これ以上前衛との距離を引き剥がされては敵わん」

 

「了解…!」

 

ストライツ少将はシュヴィーレン准将が追撃するよりも前の地点で追撃を終えるよう命令した。

 

それに対して小艦隊参謀長のブレクト大佐は少将に聞き返した。

 

「閣下、よろしいのですか?第一線まで追撃すれば敵の攻勢艦隊は少なくとも4割は削れると思いますが」

 

少将はブレクト大佐の進言を聞き入れまた少し考えた。

 

しかし少将の考えは変わらなかった。

 

「だとしてもだ、連中の攻勢艦隊が1つとは限らん。到着予定のインターディクター級も沈められてしまった以上これ以上艦隊の距離を空ける訳にはいかん」

 

ストライツ少将は最後に「それに、シュヴィーレンくんなら第二線まででも4割削れるだろう」と付け加えた。

 

シュヴィーレン准将は敵の指揮官を守勢型と評したがそれはストライツ少将にも当てはまることだ。

 

基本的に攻め手の指揮官であるシュヴィーレン准将が小艦隊の先鋒を務め、ストライツ少将が直接的に指揮を取るのは防御の時だった。

 

おかげで結果的に今日までのケッセル王国軍の攻勢を跳ね除け続けてきた。

 

尤もそれは今日までの話だったが。

 

「閣下!ハイパースペースに艦影多数接近!」

 

「なんだと!?」

 

報告を受けてストライツ少将はすぐに艦隊に警報と戦闘配置を開始するよう命令した。

 

少なくともエニード本星へ友軍艦艇がジャンプアウトするという報告は受けていない。

 

となればもう考えられる可能性は1つだ。

 

コンフューズド”では警報が鳴り響き、砲手やパイロットが慌ただしく艦内を移動した。

 

「敵艦隊、間も無くジャンプアウトします!」

 

士官の報告と共にブリッジのビューポートには順々にジャンプアウトして砲撃を開始する敵艦隊の姿が見えた。

 

敵艦隊は突撃陣形のままエニード防衛艦隊に迫ってくる。

 

すぐにセンサー士官が敵艦隊の数を報告した。

 

「敵艦インペリアル級10、ヴィクトリー級15、グラディエーター級12」

 

「敵艦隊は我が艦隊の3倍以上のインペリアル級がいます!」

 

ブレクト大佐はそう叫んだ。

 

現在エニードの軌道上に展開しているインペリアル級は三隻、前衛艦隊のインペリアル級を合わせても六隻であり十隻にはまだ届かない。

 

ましてや現状ではインペリアル級だけ比較しても3倍強の差がある。

 

「散開して個艦防御に専念、シュヴィーレンくんの”リストレクション”に打電して前衛艦隊を直ちに引き換えさせろ!」

 

「了解!」

 

少なくとも前衛艦隊と挟み撃ちにすればまだ戦いようはある。

 

尤もそれまでエニード本星の艦隊が持つかはまた別の話だが。

 

ストライツ少将が苦悶の表情を浮かべていると別の士官から報告が入った。

 

敵旗艦と思わしきインペリアル級の艦名が判明したらしい。

 

「敵艦の識別番号及び艦名が判明…!艦名は”エリーモシナリー”、オスヴァルド・テシック大提督の乗艦です…!」

 

その名前を聞いて”コンフューズド”の艦長や幕僚達がざわめいた。

 

減った人間も合わせればこの世で僅か15人しかいないと言われているあの大提督の1人。

 

しかもこの男はエンドアで死んだと思われていた。

 

「ケッセルに行った残存艦隊の報告は本当だったのか……」

 

ブレクト大佐は見るからに動揺していた。

 

そうなるのも仕方ないだろう、何せ相手はあのエンドアをどうにかして生き延びたサイボーグの大提督なのだから。

 

「テシック艦隊か…!連中をここで迎え撃て!死に損ないのサイボーグにこれ以上の武勲を立たせてはならん!」

 

「了解!」

 

ストライツ少将は汚い言葉遣いを用いつつ将兵を奮い立たせた。

 

それでも内心一番動揺し勝機に不安を覚えたのはストライツ少将だった。

 

シュヴィーレン准将の前衛艦隊とは違い、ストライツ少将の艦隊は全体的に余裕がなかった。

 

ゼルム、ケッセルと同じようにかつての帝国軍同士の艦艇が撃ち合い始めた。

 

艦隊の主力を務めるのは同じインペリアル級、僚艦には同じヴィクトリー級、グラディエーター級、アークワイテンズ級がいる。

 

ハンガーベイからは同じTIEシリーズのスターファイターが発艦し艦隊防空に加わった。

 

同じ黄緑色のターボレーザー砲を放って全く違う理由の為に撃ち合う。

 

6年前、エンドア以前の帝国軍将兵がこれを見たらきっと混乱に陥るだろう。

 

だがエンドア後の銀河系でこのような光景はよくあることであり、さして珍しいものではなかった。

 

今後もそうなっていくだろう。

 

エニード軌道上で艦隊戦が始まってから15分ほどで戦況の優劣は決まった。

 

劣勢なのは当然親衛隊側であり、ケッセル艦隊は初手で得た奇襲の優位と数的優位を活かして相手を翻弄していた。

 

それでも艦隊が崩壊しなかったのはストライツ少将の指揮能力が高かったというのもあるだろう。

 

親衛隊艦隊はエニードの重力圏ギリギリまで後退し、敵艦隊を惑星内のターボレーザー砲が届く距離まで引きつけた。

 

エニード内の都市部に設置された重ターボレーザー砲や郊外の砲兵陣地に展開したSPHA-Tが軌道上の敵艦隊に向けて砲撃を開始する。

 

親衛隊艦隊は間隔を空けて惑星内からの砲撃が当たらないように回避した。

 

「地上ターボレーザー砲群、敵艦隊に命中」

 

「敵艦隊、以前こちらに進撃中!」

 

艦隊に加え惑星内からの砲撃によって少しはマシになったがケッセル艦隊の突撃は止まらなかった。

 

コンフューズド”には既に何発ものターボレーザー砲弾が直撃し、艦内は振動に包まれた。

 

ブリッジでは絶えず損害報告が鳴り止まず、警報音もけたたましく鳴り続けた。

 

「偏向シールドの機能が35%低下…!船体の12%が損傷!」

 

「”ズーデンテルティⅤ”、”ノイ・ランパントⅣ”中破!”AAC-705”轟沈!」

 

「損傷艦艇は後方に下げろ、前衛艦隊は防御に集中しろ!中衛、後衛で砲撃支援を展開!」

 

戦闘が始まってから1時間が経過し、遂に撃沈する艦艇が現れ始めた。

 

前衛では敵のTIEボマーによる対艦攻撃が始まっており、艦隊防空が破綻し始めていた。

 

展開しているTIEインターセプター、TIEブルート隊も敵の艦載機部隊に数の上で負けている。

 

コンフューズド”も僚艦のインペリアル級も戦隊に爆発の光が増え始めていた。

 

「閣下!このままでは30分以内に艦隊の前衛が壊滅し敵艦隊が中衛まで流れ込んできます!」

 

ブレクト大佐はそう進言するも現状を一変する方法は今の所ない。

 

救援を要請した前衛艦隊が戻ってくるにもまだ時間が掛かる。

 

今はとにかく耐えるしかなかった。

 

そして不幸は訪れた。

 

「前衛のアークワイテンズ級とスターファイター隊を前に出して対空防御をっ!」

 

刹那、”コンフューズド”のブリッジから光が漏れ出した。

 

橙色の熱を帯びた爆発の光だ。

 

エリーモシナリー”の放ったターボレーザー砲数発がブリッジに直撃し、運悪く中にいた全員を蒸発させた。

 

突然の指揮官消失により親衛隊艦隊は指揮系統が崩壊し、艦列を崩しながら惑星の裏まで後退した。

 

制宙権を巡る艦隊戦はケッセル王国軍が勝利した。

 

一点集中型の軌道爆撃の末、すぐに地上軍がエニード内に展開され地上戦が始まった。

 

先行して地上に降り立った偵察隊による小さくも大きな”()()”が齎した戦果を基に作戦が開始される。

 

 

 

 

 

-第三帝国領 惑星エニード 親衛隊地上軍駐屯地付近-

時間は少しばかり前に遡る。

 

ケッセル艦隊はハイパースペース・ジャンプと同時に主力艦隊はエニード防衛艦隊を強襲し、その間に強行偵察隊が戦禍の裏をかいて惑星軌道上のギリギリまで近づいた。

 

偵察隊は母艦であるクエーサー・ファイア級クルーザー=キャリアーから発艦し惑星内部へ突入する。

 

偵察隊を乗せたスターシップは殆どがTIEリーパーであったが何機かは改造型のリパブリック・ガンシップやニュー級攻撃輸送シャトルを用いていた。

 

当然その中にはジェルマンとジョーレンが操るUウィングもいた。

 

偵察隊の突入を支援する為にケッセル王国宇宙軍所属のIGV-55監視船が電子妨害を行っていた。

 

ちなみにこのIGV-55、大セスウェナ連邦が貸し出した艦ではなくケッセル王国が独自に保有していたものであった。

 

電子妨害の支援もあってか少なくとも地上に降下する瞬間までは比較的安全に遂行出来た。

 

特にジェルマンとジョーレンのUウィングはクローキング装置を備えている為迎撃される可能性はなかった。

 

Uウィングを森林の中に着陸させ、グランゼット少尉率いる偵察分隊が降り立った。

 

ジェルマンは即座に偵察用のシーカー・ドロイドを飛ばし、上空からの偵察と位置情報の更新を行なった。

 

10人の隊員がある地点まではグランゼット少尉を先頭に2列隊形で駆け足で走った。

 

少尉は度々地点を確認しながら目的地点まで走った。

 

ある地点まで到達すると少尉は分隊に一時停止の合図を出した。

 

停止した分隊は互いの背中を守りながら360度の警戒態勢を取る。

 

ブラスターを構え、もしもの敵襲来を警戒した。

 

「隊形Cに移行、敵偵察圏内へ突入する」

 

ヘルメットの通信機越しにグランゼット少尉の命令が届き2列だった分隊は横に広がり、周囲を警戒しながら1歩づつ進んだ。

 

分隊に緊張が走る。

 

普段は陽気なサイネス達も今は完全に兵士の目だ。

 

ケッセル王国から支給される給料の為、共に食卓を囲んだ同じ分隊の戦友の為に全力を尽くす。

 

確実に、しかし素早く移動し敵の駐屯地まで迫る。

 

「ルースコット、上空からの状況はどうだ」

 

グランゼット少尉はコムリンク越しに最後尾にいるジェルマンに尋ねた。

 

ジェルマンはブラスターを構えつつタブレットに目をやった。

 

映像、センサー共に上空に敵の目(プローブ・ドロイド)はなかった。

 

「敵影なし、空から見られてる心配はありません」

 

ジェルマンは小声で、されどコムリンクを通せばしっかり聞こえる声量で報告した。

 

コムリンクで話したことは全体回線で分隊全員に繋がっている。

 

ジェルマンの報告を聞いたジョーレンが1つ疑問を投げかけた。

 

「本当に1機も上空を飛んでいないのか?」

 

「間違いない、1機も飛んでない」

 

「それは流石におかしくないか…?敵としてもここに何かしらの部隊が入る可能性は考慮しているはず…」

 

ジョーレンのその一言はグランゼット少尉の警戒心を大いに高めた。

 

グランゼット少尉は再び分隊の移動を停止させた。

 

「ルースコット、全ての偵察ドロイドを下せ。もう連中には勘繰られてる」

 

「了解…!」

 

すぐにタブレットを操作してシーカー・ドロイドを着陸モードに移行させた。

 

少尉は続けて命令を出す。

 

「総員戦闘準備…!いつ敵が来るか分からん、一旦後退して迂回路をっ!」

 

全てを言い終える前に森の中に銃声が響いた。

 

ジョーレンはその特徴的な銃声で全てを察した。

 

これはE-11Dブラスター・カービンの銃声でありこのブラスターを持ってる部隊は限られている。

 

敵発見(Contact)!右方向にSF(Special Force)1分隊!分隊員1名ダウン!」

 

ジョーレンは大声で分隊全員に状況を知らせた。

 

既にブラスター弾が何発も飛んできている状況だった為全員が伏せていた。

 

すぐに少尉が発砲許可を出し分隊は応戦を開始した。

 

「後退して木の裏に隠れろ!」

 

「援護する!」

 

ジェルマンとジョーレンは真っ先にブラスター弾を放って友軍の後退を援護した。

 

しかしそれでも分隊が木の影に隠れるまでにまた1人の分隊員が撃たれた。

 

「残りの全員で2人の後退援護!」

 

グランゼット少尉の命令で分隊員が一斉攻撃を仕掛ける。

 

殆どが牽制射撃で命中はしかなったが援護としては十分だった。

 

ジェルマンとジョーレンもブラスター弾を放ちながら一番近い木の影に隠れる。

 

幸いここの樹木はエンドアと同じく密度が高くてそう簡単にはブラスター弾を通さないようだ。

 

ジョーレンは木の影を伝ってグランゼット少尉の下まで走った。

 

「分隊員2名負傷、1名は頭部に直撃して即死、もう1名は胸部に直撃を喰らっている為恐らく即死です」

 

「あいつらっ…!敵はストーム・コマンドーらしいな!」

 

戦死した仲間の死を思いながらグランゼット少尉は聞き返した。

 

最悪なことに眼前の敵は少尉の言う通りストーム・コマンドーで間違いなかった。

 

黒いスカウト・トルーパー型のアーマーに並外れた練度、そして特殊部隊で多用されるE-11D、どれを見ても帝国の特殊部隊の装備だ。

 

「間違いありませんっ!しかもあれを」

 

ジョーレンは奥の方を指差した。

 

彼が指した方向にはストームトルーパーとスカウト・トルーパーの混成部隊が展開していた。

 

特殊部隊が増援を呼んだのであろう、それにしては早すぎるが。

 

「3個分隊はいるな……」

 

「多分ですが返り討ちにするのは無理です」

 

「間違いない、後退して作戦を立て直す。総員撤退準備!ここから離脱するぞ!」

 

少尉の命令を聞いた分隊員は明らかに無茶を言わんでくれと言った表情だった。

 

「撤退ったってどうするよ」

 

「高所でも取れりゃやりようあるんだがなぁ…!」

 

ベンネとアルメトはそうぼやいた。

 

鬼のストーム・コマンドーがそう簡単に逃がしてくれる訳がない。

 

そこでジョーレンがある1つの策を提案した。

 

「スモークを撒いて視界を奪った後に連中に一撃入れる。この一撃はルーシーに任せるから残りはスモークの準備を」

 

「私が合図したら全員で投擲しろ」

 

既にグランゼット少尉はジョーレンの作戦を採用していたようで全員にスモークの用意をさせた。

 

「これでトルーパーの雑魚どもは追ってこれないって訳だ!」

 

「本命さんは多分追いかけてくるけどなっ!とんだ野郎に惚れられたもんだ!」

 

愚痴を言いながらサイネスはスモーク・グレネードの準備を行った。

 

その間にジェルマンはジョーレンの言った”()()”の準備をした。

 

バックから予備のシーカー・ドロイドを取り出しありとあらゆる爆弾をくくりつけた。

 

「全員準備は出来たな!?」

 

「いつでも行けます!」

 

「ベンネとドイスとサイネスは援護射撃、その間に我々が投擲して最初の煙幕を張る。終わったら次はこっちで援護するから3人が投げろ」

 

「了解!」

 

奥の3人から威勢のいい返事が返ってくる。

 

ジェルマンもハンドサインで準備が完了したことをグランゼット少尉に伝えた。

 

「援護射撃!」

 

少尉の合図でベンネとドイス、そしてサイネスが一斉射撃を開始した。

 

ブラスター・ライフルがクールタイムに入るまでブラスター弾を撃ち続けた。

 

その間にジェルマンを除いた残りの4人がスモーク・グレネードを投擲した。

 

周囲に煙が掛かり、暗視装置を使わなければ視界が遮られ状況となった。

 

それでもストーム・コマンドーはまた1人、分隊の地上軍トルーパーを狙撃した。

 

「1名負傷!」

 

「っ助からん!!次の煙幕急げ!」

 

ストーム・コマンドーの狙いは正確で確実に心臓か頭を撃ち抜いてきた。

 

少尉の命令で今度はサイネス達がスモーク・グレネードを投擲した。

 

周囲に張り巡らされた煙が更に濃くなり、目視では1メートル先の状況も確認出来ないほどになっていた。

 

「ルースコット!」

 

「了解!」

 

煙幕の中に爆弾を取り付けたシーカー・ドロイドを突入させた。

 

ドロイドは煙を抜けた瞬間にストーム・コマンドーによって撃ち抜かれたがそれでよかった。

 

ブラスター弾が全身の爆弾に引火し大爆発を起こす。

 

煙幕内に突入寸前だったストームトルーパー数名が巻き込まれ、風向きもあってか爆風は全て親衛隊側に流れた。

 

「総員後退!!」

 

グランゼット少尉の号令で生き残った分隊員達が散開しながら走り出す。

 

当然ストーム・コマンドー達がただで逃す訳がなかった。

 

不正確な射撃でもブラスター弾を放って後退を牽制してくる。

 

しかも不運だったのはその1発がグランゼット少尉の左肩に命中したことだ。

 

少尉は鈍い声を上げて地面に倒れた。

 

「少尉!!」

 

最後尾を走っていたジョーレンが急いでグランゼット少尉の下に向かった。

 

少尉は痛みに苦悶の表情を浮かべながら「早く行け」とジョーレンに後退するよう命じた。

 

「装備を頼む!俺は少尉を!」

 

「了解!」

 

駆け寄ってきたジェルマンと共に少尉を運び始めた。

 

ジェルマンはバッグやブラスター・ライフルを背中に担ぎ、ジョーレンはグランゼット少尉を担いで走った。

 

「少尉が撃たれた!暫くの間はみんな俺の言うことを聞いてくれ!まずは最初に止まった中間地点まで走れ!」

 

コムリンクで全体に状況と命令を伝える。

 

分隊はケッセルの時とは違い、開戦早々暗雲が立ち込めていた。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国領 コア・ワールド コルスカ宙域 コルサント星系 惑星コルサント レベル5120 共同演習場-

遠く離れたケッセル宙域で激戦が繰り広げられている頃、第三帝国の首都コルサントでは別の激戦に向けた準備が進められていた。

 

チス・アセンダンシー、大セスウェナ連邦のウォーカー部隊と対抗する為、対ウォーカー戦の教練が行われていた。

 

国防軍はマクシミリアン・ヴィアーズ大将軍の子息、ゼヴロン・ヴィアーズ大佐の一行が教官を務め、親衛隊側はジークハルトが教官を務めた。

 

ジークハルトは実戦演習多めのカリキュラムを組み、前線部隊を担う若い将校達に技能を叩き込んだ。

 

今の時間も指導を担当する将校達をAとBの2チームに分けて市街地での模擬戦を叩き込んだ。

 

訓練用に殺傷能力を抑えられたAT-AT同士が市街地の中で敵チームのAT-ATと交戦していた。

 

市街地を両チームとも5箇所に分けて最奥のエリア1にある相手の偏向シールド発生装置を破壊したチームが勝利、もしくは敵チームのウォーカーを全て破壊した方が勝利という仕組みだ。

 

偏向シールド発生装置はエリア1内であればどこに設置してもよく、演習場の縦横の広さから考えても当てずっぽうで撃てば破壊出来るものではなかった。

 

そうでもしなければAT-ATの射程距離ではエリア4に到達した時点で砲撃が可能になり、横一列の一斉射でなんとかされてしまうからだ。

 

1チームの編成はAT-AT12台の1個中隊に僚機としてAT-ST24台の2個中隊、基本的な装甲大隊の中核を成す部隊だ。

 

AとBチームが熾烈な市街地演習を繰り広げているのをジークハルト達教官組は演習監督席で上空から戦闘の状況を確認していた。

 

「Aチーム、エリア4まで到達。尚も前進中」

 

「だいぶ突出してますね」

 

コンソールを操る下士官の報告を聞いて指導教官の1人であるクート・マイエル少佐は感想を述べた。

 

彼は第1FF装甲兵団”ライプシュタンダルテ・デア・フューラー”所属の装甲偵察大隊長である。

 

マイエル少佐の装甲偵察大隊はAT-ATマークⅢ1台、AT-ST1個中隊と幾つかのスカウト・トルーパー中隊によって編成されていた。

 

アンシオンの戦いの際、マイエル少佐は1台のAT-ATとAT-ST1個小隊で3台のAT-ATを撃破した音からその手腕を認められ、教官に任命された。

 

「少佐ならどう対処する?」

 

ジークハルトはマイエル少佐に尋ねた。

 

少佐は少し考え、戦法を述べた。

 

「そうですね……まだ側面が勢力下にあるので機動力のある隊で回り込んで退路を断ち、後ろから叩きます」

 

「つまり迂回戦術か」

 

「左様です」

 

ジークハルトが考えた対処法もマイエル少佐と殆ど同じだった。

 

ジークハルトとしてはもう少し相手に損害を与えたい為、更に突出させてから側面攻撃を行うつもりだった。

 

Bチームがどのような対応に出るか、そこが一番気になるところだ。

 

Aチームの突出した隊を援護しようと後方のAT-AT隊が前進する。

 

しかし判断が少しばかり遅かった。

 

援護隊は進撃中の領域が安全圏だと思っていたようでAT-ST隊を先行させず、索敵も疎かであった。

 

その為回り込んで待機していた敵のAT-ATに気づかず待ち伏せを受けてしまった。

 

「A-07大破、戦闘不能」

 

下士官の報告と共にタブレットやモニターに映し出された簡略図からAチームのAT-ATが1台消失した。

 

続けて僚機のAT-STも1台、また1台と簡略図から消失した。

 

「やられたな」、観戦側の教官の1人がそう呟いていた。

 

教官席からは全てが見渡せる為何が起きたかを完璧に把握していた。

 

潜んでいたBチームのAT-ATがAチームのAT-ATが1歩前に進んだ瞬間、重レーザー砲を放った。

 

AチームのAT-ATは首を落とされそのまま機能を失い、残された僚機のAT-STは当然のように瞬殺されたというわけだ。

 

「偵察が足りなかったな、もう少しAT-ST隊を先行させるなりしていれば」

 

市街地や森林地帯のような視界の通らない入り組んだ地形ではAT-ATのような兵器でさえ一撃で破壊される危険に晒される。

 

特にコルサントのような高層ビル群においては死角が多く、どの建物に対ウォーカー特技兵が潜んでいるか分からない。

 

故にAT-STや随伴歩兵、プローブ・ドロイドの情報を合わせて敵を把握するのが重要なのだが今回Aチームの援護隊はそれを見誤った。

 

今自分達がいる地点を安全だと思い込んだのとAチームの敵撃破数の方が高い為油断したのであろう。

 

この油断こそがAチームの致命傷となった。

 

回り込んだBチームは1隊に警戒を任せ、もう1隊が敵の背後を突いた。

 

後方と前方の2台のAT-ATから一斉射撃を受け、突出部にいたAチームのAT-AT隊は全滅した。

 

「見事にやられたな」

 

状況を見てジークハルトはそう述べた。

 

突出部が叩き潰された影響でAチームとBチームの状況は一変した。

 

警戒に出ていた1隊と攻撃隊が合流し今度はBチームがAチーム側のエリア4まで進出した。

 

「これ、Aチーム側はまずいんじゃないか」

 

ふとジークハルトはマイエル少佐に聞いた。

 

少佐も同様の感想を抱いていたようで「ええ」と頷いた。

 

監督席の簡略図にはAB両チーム全ての部隊配置が分かるようになっていた。

 

その為彼らには見えているのだ。

 

()()()1()()()()()()A()T()-()S()T()()姿()()”。

 

BチームのAT-AT隊はエリア3の境界線まで前進して進撃を停止した。

 

これ以上の前進はAチームの抵抗により不可能だったということもあるがBチームとしては目標は既に有効射程距離内に入っていた。

 

「相当腕のいいAT-ST乗りがいますね、部下に欲しいくらいだ」

 

マイエル少佐はふと冗談混じりに呟いた。

 

「あのAT-STのパイロットは確か、119装甲擲弾兵師団のアルター少尉だったな」

 

第119FF装甲擲弾兵師団は惑星コメナーに駐屯する親衛隊地上軍の師団の1つである。

 

侵入に成功したAT-STのパイロットは第119FF装甲擲弾兵師団の偵察大隊所属のAT-STパイロットであった。

 

車長のアルターは階級は少尉で2年前にアカデミーを卒業したばかりの若い将校だ。

 

ちなみにこのアルター少尉、後2ヶ月で定期昇進し中尉になるらしい。

 

アルター少尉のAT-STが発見した目標をBチームに転送する。

 

座標を受け取ったBチームのAT-ATは最大出力の重レーザー砲による砲撃を繰り出した。

 

結果は下士官の報告の通りだ。

 

「Aチーム、防衛目標の偏向シールド発生装置を喪失。以上で模擬戦演習を終了します」

 

各チームのウォーカーに勝敗判定が送られ、システムは停止した。

 

「偵察と機動戦についてはもう少しキツく叩き込まねばなりませんね」

 

マイエル少佐はため息混じりにそう呟いた。

 

これに関してはジークハルトも同感だ。

 

ある大昔の将軍が書いた理論には戦場の霧というものがある。

 

戦場では相手の状況を知ることがまず重要だ。

 

どこに敵がいるのか、敵は何を主目標として何処に攻勢を仕掛けてくるのか、これら全てを知っていれば対処は簡単だ。

 

だがその知ることがまず難しい。

 

何より偵察隊や諜報活動を精一杯やったとしても完璧に敵対者の動向を知ることは不可能に近い。

 

こうした情報の不完全性による指揮官の意思決定における不安要素をその将軍は戦場の霧と呼んだ。

 

宇宙艦隊が確立しプローブ・ドロイドやクローキングなど、技術革新によって幾分かはマシになったがそれでも霧を完全に晴らすことは未だ不可能だ。

 

それでも偵察による情報収集は指揮官達により根拠と確信を持った意思決定に役立つ。

 

むしろこうした情報なしで意思決定を行うのは愚かと言わざるを得ない。

 

愚かな意思決定で戦場に立つ幾万の将兵を悪戯に死なせることは避けなければならない。

 

自身が幾千幾万人の命に責任を持つ指揮官という自覚があるならば。

 

「各チーム、ウォーカーを回収場へ移動させその場で待機。我々が到着次第講評を行う、以上」

 

全体通信でA、Bチームに命令を出し自分達も移動を始めた。

 

ふとジークハルトは監督室から眼下の訓練場を見つめた。

 

ロイヤル・アカデミー時代は自分があの訓練場の中でウォーカーの戦闘訓練を行っていた。

 

たった10年で指導される側から指導する側に回っているとは。

 

10年前はまだ生きていた仲間達を思い出し、ジークハルトは悲しく苦笑を浮かべた。

 

たった10年で人は大きく変わるらしい。

 

今から10年後、自分は生きていられるだろうか。

 

ユーリアは、マインラートとホリーはどうなっているだろうか。

 

それこそ霧の中だ。

 

自分は今に集中すればいい、そう言い聞かせて彼は監督室を後にした。

 

 

 

-チス・アセンダンシー=亡命帝国領 シーラ星系 首都惑星シーラ 参謀本部ビル 参謀総長執務室-

参謀総長執務室には参謀本部内の総局のうち、2つの総局の長と参謀次長1人が押しかけていた。

 

1人は情報総局長ゴリコフ中将、もう1人は作戦総局長のヴァトゥーチン中将であった。

 

参謀次長は軍組織と兵力動員を担当する第二次長のソコロフスキー中将が来ていた。

 

「それで情報総局の報告をモフフェルやリヴィリフ陛下に伝えたが本格的には取り合って貰えなかったと」

 

「はい、ですがコルサント内に展開したスパイが入手した確実な情報です」

 

ゴリコフ中将は頷き、深刻な表情でシャポシニコフ元帥に伝えた。

 

元帥は報告書に目をやり、咳をしながら思考を巡らせた。

 

モフフェルやリヴィリフ陛下の理屈も内情も分かる。

 

中立条約によって第三帝国は北部から北西にかけて戦争の心配のない安全地帯となった。

 

その恩恵は南部から東部にかけて戦争状態の可能性がある第三帝国にとって計り知れないはずだ。

 

いくらケッセル王国にチス・アセンダンシーと亡命帝国が食糧などを支援していたとしてもこの恩恵を無為にはしないはずだ。

 

そして内情としては”()()()()()()”に備えて軍備を整えている中、対第三帝国用に兵力は割きたくない、割く余裕はない。

 

だからと言ってこの情報を見て何もしない訳にはいかない。

 

「君たち情報総局のことは私が一番信じている。対第三帝国に兵力を回すのは難しいかもしれんが……防衛計画という程で対策は練れるはずだ」

 

ゴリコフ中将はヴァトゥーチン中将らと顔を見合わせ喜びを含んだ笑みを浮かべた。

 

シャポシニコフ元帥は「計画の認可は私が取ってくる」と付け加えた。

 

シャポシニコフ元帥は人格的にも出来た人で仕事に熱心でヴィルヘルムらからの評価も高い。

 

計画だけなら多少渋い顔はするだろうが認可してくれるだろう。

 

「問題は誰が防衛計画を立案に携わらせるかということだが」

 

「では参謀本部からは私が行きましょう」

 

シャポシニコフ元帥の隣で話を聞いていたヴァシレフスキー元帥が名乗りを上げた。

 

少将のことを信頼しているシャポシニコフ元帥は聞き返すこともなく「頼んだよ」とヴァシレフスキー少将に全てを任せた。

 

「作戦総局から何人か人員を出しましょう。後はどこの軍管区と共同で行うかですが」

 

ヴァトゥーチン中将の問いにソコロフスキー中将が幾つかの地点を示す。

 

「前線に近い軍管区ですとペスファヴリ特別軍管区、オーンフラ軍管区、カデミム軍管区、ウィストリル軍管区がありますが」

 

シャポシニコフ元帥は立ち上がって執務室の大型パネルに添付した星図を見つめた。

 

「…ペスファヴリならともかく、他はどれも前線に近すぎる。相手を刺激するなと言われるだろう」

 

「ではマイギートー軍管区はどうでしょうか」

 

ヴァシレフスキー少将が提案しパネルの星図を拡大してマイギートー本星に近づけた。

 

星図には惑星だけでなくハイパースペース・レーンが記されており、惑星をタップすればその惑星の地理と軍事情報が映し出された。

 

「ここなら前線からまずまずの距離ですし、バスティオンからの移動も容易い」

 

「確か今の軍管区司令官はプライド将軍だったな?」

 

「はい、彼なら上手く全体の調整してくれるでしょう」

 

シャポシニコフ元帥は咳をしながら頷いた。

 

ヴァシレフスキー少将とプライド将軍は昔からの友人らしいが彼の評価に問題はないだろう。

 

軍司令官としての優秀さはキャルヒーコルの戦いで証明されている。

 

咳を気合いで止めたシャポシニコフ元帥は再び話し出した。

 

「国防相のチェモシェンク元帥には私から掛け合おう。ペスファヴリのパヴロフ将軍とマイギートーのプライド将軍には私から連絡しておく」

 

「お願いします」

 

最後にシャポシニコフ元帥はゴリコフ中将に励ましと慰めの言葉を送った。

 

「中将、君達はよくやっている。そう心配するな、信じた通りやりなさい」

 

「参謀総長…!」

 

執務室に入ってきた時とは違いゴリコフ中将の表情は幾分か明るくなっていた。

 

シャポシニコフ元帥は小さく咳をしながらデスクまで戻った。

 

この頃にはヴァシレフスキー少将の方が表情を曇らせていた。

 

「ヴァトゥーチン中将」

 

「はい!」

 

ヴァトゥーチン中将は1歩前に出た。

 

比較的ふくよかで穏やか顔の中将は左脇に制帽と黒手袋を挟んでいた。

 

「作戦総局からの出向要員の人選は君に任せる。だがマイギートー側の統率責任者にはヴァシレフスキー少将を置いてくれ」

 

「お任せください」

 

「ソコロフスキー中将は遠隔で双方の会議に参加してくれ。リェべチェキ提督が当面バスティオンの仮本部にいる以上君にはシーラに残ってもらいたい」

 

ソコロフスキー中将は敬礼し命令を了承した。

 

話を終えた一行は「それでは」と3人が敬礼し執務室を出た。

 

シャポシニコフ元帥は去り際に「何かあったら遠慮なく声をかけてくれ」と中将達に伝えた。

 

一行が執務室から去るとシャポシニコフ元帥は背もたれに深く寄り掛かった。

 

「私だ、副官のシュテメンコ中佐を執務室へ。ああ、分かった。暫く待ってるからゆっくり来るように伝えてくれ」

 

コムリンクで副官部に連絡を取り、ヴァシレフスキー少将の方へ目をやった。

 

まだ少将は不安そうな表情を浮かべている。

 

「どうした少将。何か気になることでも?」

 

ヴァシレフスキー少将は少し戸惑ったが意を決して元帥に伝えた。

 

「…閣下、お身体の方は大丈夫ですか…?先程から咳が続いているようですが…」

 

少将の不安そうな表情は状況に対してではなくシャポシニコフ元帥に対してだった。

 

人間、普通に生きていても咳をすることくらいはある。

 

しかし先程からシャポシニコフ元帥の咳は長く続いているし体調も良くはなさそうだった。

 

何より咳の音が健康的なものではない。

 

「なぁに、心配いらないよ。まだ職務には影響出ていない」

 

「閣下は我が軍の頭脳であります、無茶はなさらないでください」

 

シャポシニコフ元帥は心配をかけないよう笑い飛ばそうとしたがヴァシレフスキー少将の真剣な表情に押され、困ったような笑みに変わった。

 

アカデミーで士官候補生だった時代からヴァシレフスキー少将は聡明で気遣いの出来る人物だった。

 

少将には作戦立案能力や深い専門知識だけでなく、参謀や参謀長に必要な人の間を取り持つ力があるとシャポシニコフ元帥は感じていた。

 

だから彼に目をつけて少将にまで抜擢したしこれからは元帥の後押しがなくても軍で伸びていくだろう。

 

そして今は自分をここまで心配してくれている、良い教え子を持ったとシャポシニコフ元帥は感じていた。

 

「……分かった、今日は早めに職務を切り上げるよ。君もマイギートーへの出立用意をしたまえ」

 

「はい!」

 

綺麗な敬礼を参謀総長に送ってヴァシレフスキー少将は執務室を退室した。

 

少将を見送るとシャポシニコフ元帥はふと自分の胸に手を当てた。

 

そろそろ引退の時か、そう自分に語りかけた。

 

されどその答えは否、まだやらねばならぬことがある。

 

教え子に無理はするなと言われたが暫くは無理をしなければならない。

 

チスと帝国の連合軍をより完璧な銀河の防衛軍とする為に。

 

命を削って元帥は職務に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

分隊は窮地を脱した。

 

煙幕と自爆作戦によってストーム・コマンドー部隊の追撃を逃れ、後方の洞穴まで後退した。

 

負傷したグランゼット少尉の傷口にバクタ液を塗り、鎮痛剤を打ってひとまずの処置は終えた。

 

ジョーレンが担いで運んでいる間は項垂れつつも意識があったグランゼット少尉だが、洞穴についた時にはもう意識を失っていた。

 

ジェルマンとドイスがブラスターを持って警戒し、その他の隊員は皆装備を整えて休憩に入った。

 

「バクタを塗って傷口は抑えたからこれで大丈夫だ。少尉は死なん」

 

負傷したグランゼット少尉が幸いだったのは左肩の負傷のみで致命傷ではなかったことだ。

 

骨は砕かれ、肉はブラスター弾に焼かれたがこの程度ならバクタ液の治療で命は繋ぎ止められる。

 

痛み止めを打ったので痛みによるショック死の可能性は低いし傷が原因で感染症になることも防いでいる。

 

尤も辺り所が悪ければ戦闘で死んだ3人の仲間のようになっていただろう。

 

「しかし驚いたな、タイドゥがここまで治療に詳しいなんて」

 

手早く治療を済ませるジョーレンを見てサイネスはずっと感心していた。

 

サイネスや他の隊員も止血くらいの治療なら出来る。

 

しかし鎮痛剤の用法やバクタ液の適切な投与までは分からない。

 

「まあ、傭兵だったら出来ることが多い方が仕事も増えるだろ?」

 

ジョーレンはそれらしい理由で言葉を返した。

 

本当は共和国軍時代から初期の反乱運動時代に身につけたものだがそれを言う訳にはいかない。

 

彼らは同じ分隊の仲間ではあるがレジスタンス軍ではないのだ。

 

「……っ残った奴らは……全員離脱出来たか……」

 

意識を取り戻したグランゼット少尉は近くにいたジョーレンに尋ねた。

 

すぐに休んでいた残りの分隊員達が駆け寄ってきた。

 

「私とサイネス、ドイス、ベンネ、アルメト、ルースコット全員生きてます。撃たれた3人は……連れて帰ることすら出来ませんでしたが」

 

少尉が前いた分隊から連れてきた3人はもう助からない上に遺体を回収する暇すらなかった。

 

サイネス達に比べてそこまで交友があった訳でないがそれでも同じ分隊の仲間だ。

 

遺体やドッグタグを回収出来なかったのは悔やまれる。

 

グランゼット少尉も顔を顰め、「そうか」と小さく呟いた。

 

「ルースコットとドイスが警戒を行っていますがまだ敵のシーカー・ドロイドやトルーパー隊の接近は確認出来ていません」

 

「……その他の状況は」

 

「通信妨害を受けているので外部の部隊と連絡が取れません。上空を見てみると我が方の艦隊が勝っているようですが」

 

距離にもよるが軌道上での艦隊戦は地上からでも薄ら見えることがあり、エレクトロバイノキュラーを使えばより鮮明に状況を確認することが出来る。

 

その為地上部隊からでも艦隊戦の動向は確認出来た。

 

「通信妨害ですが発信元は割れるでしょうが1回程度なら本隊へ情報を転送出来ます。分隊の状況としては輸送機に被害はなし、武器弾薬共に戦闘可能な状況であります」

 

少尉は周囲を見渡して生き残った分隊員達の表情を確認した。

 

皆心は折れ切っていないようでむしろ士気旺盛といった感じだ。

 

これなら手負の人間を除けば戦える、まだ任務を果たせると少尉は感じ取った。

 

「……分かった、では任務は続行だ。だが分隊の指揮権は変更する」

 

一瞬だけ分隊員達は顔を見合わせ不安な表情を浮かべた。

 

気にすることなくグランゼット少尉は命令を出した。

 

「分隊長代理としてタイドゥを任命する。戦闘不能になった私の代わりに分隊を率いて偵察任務を果たせ」

 

グランゼット少尉はまだ動く右手でジョーレンの肩を掴んだ。

 

ジョーレンは少尉の手をしっかり握り頷く。

 

「…お任せください、必ず任務を果たします」

 

そう言うとグランゼット少尉は再び安心したように目を閉じて眠りについた。

 

「…少尉殿…!」

 

「眠ってるだけだ、暫く休ませよう」

 

そう言うとジョーレンは立ち上がり全員に声をかけた。

 

「今少尉が言った通り俺が分隊長代理になった。そして俺は分隊長代理としてこの偵察任務を続行するつもりだ。誰か異論のある者はいるか?」

 

ジョーレンは今一度分隊員に尋ねた。

 

表情を見れば仲間達に戦う意志があるのは分かる、それを今一度言葉にして確認する必要があった。

 

この厳しい状況下で自分達が成すべき事を把握する為に。

 

「いる訳ないだろう」

 

一番最初に口を開いたのはサイネスだった。

 

「給料分はしっかりやらんとな」

 

「それにほら、俺達みたいなエイリアンと近人間なんて降伏しても速攻で殺されるし」

 

「…連中を殺せるならなんでもいいさ」

 

最後にジェルマンが頷いた。

 

これで分隊が戦い続けられる状態にはなった。

 

後はどう任務を達成するように作戦を立てるかだった。

 

「それでどうする?分隊長代理」

 

ジェルマンはケッセルの時と同じように部隊長となったジョーレンに命令を仰いだ。

 

ジョーレンは少し考えた上で逆にジェルマンに聞き返した。

 

「…緊急停止したこっちのシーカー・ドロイド、もう一回起動出来るか」

 

ジェルマンは小さく頷いた。

 

「信号を送れば一旦は独立して動いてくれる」

 

「そうか……なら作戦は決まった。みんな集まってくれ」

 

ジョーレンは分隊員を集めて話を始めた。

 

与えられた任務を果たす為に。

 

全員で生き残る為の作戦を伝えた。

 

 

 

 

 

 

親衛隊ストームトルーパーとスカウト・トルーパーがストーム・コマンドーの前を先行して前進する。

 

各駐屯地司令官達はエニード防衛部隊司令官であるストライツ少将から敵艦隊襲来の報せが来れば、直ちに周囲に警戒部隊を展開せよとの命令を受けていた。

 

その為ジェルマン達の偵察分隊が惑星内に侵入したことを感知した訳ではない。

 

しかし事前の対応によってジェルマン達の存在はバレてしまい、警戒部隊の襲撃を受けることとなった。

 

他の偵察隊も半数以上の部隊が同様の状況に陥っており、運悪く全滅した隊もあった。

 

艦隊戦では優勢下にあるケッセル王国軍であったが強行偵察に関しては状況は芳しくなかった。

 

尤も警戒部隊としてトルーパー3個分隊だけでなくストーム・コマンドーの特殊部隊まで投入したのはこの駐屯地のみであったが。

 

駐屯地司令官のケイレム大佐はストライツ准将と同じく慎重派な将校だ。

 

偵察隊を潰す為に特殊部隊を投入するというのは割に合わないのではないかという意見も出たが、前線の目を潰すのが何より大切だと考えたケイレム大佐は投入を強行した。

 

結果的にジェルマン達は追い詰められ分隊員を3名も失ったのだが。

 

警戒部隊は敵を殲滅する為に前進を続けていく。

 

その様子を分隊長代理となったジョーレンとベンネはマクロバイノキュラーで確認していた。

 

「ストーム・コマンドーも合わせて26人、ざっと3個分隊弱か」

 

しかもそのうちの6人はスカウト・トルーパーでシーカー・ドロイドを連れていた。

 

あれは厄介だ、センサーで生命反応を検知されてしまう。

 

「狙いを変えるのか?」

 

ベンネはジョーレンに尋ねた。

 

後方ではE-11sを構えたアルメトが狙撃態勢に入っている。

 

ジョーレンは敵に気づかれる前に不意打ちでストーム・コマンドーを1名でも多く始末することをアルメトに命じた。

 

真っ向から戦えば今の分隊じゃ勝ち目のないストーム・コマンドーの数を減らすのは生存確率を1%でも上げることに直結する。

 

「いや狙いはそのままだ、シーカーは俺がやる」

 

「任せたぜ分隊長代理…!」

 

そう言ってベンネはBK-34を構えた。

 

こんな機器的状況下でもベンネは和かに笑っている。

 

「勝利でも見えたか」

 

A300を構えながらジョーレンはふと仲間に尋ねた。

 

ベンネの種族であるイクトッチイは生まれつきテレパシーと予知能力を持っている。

 

勿論個体差はあるがベンネも時々「薄らと見える」と呟いていた。

 

実際こうした能力がフォースと親和性が高いのかイクトッチイのジェダイは珍しくなかった。

 

ジョーレンもイクトッチイのジェダイ将軍を何人か見たことがある。

 

尤も、全員戦争末期のジェダイ反乱で死んだが。

 

「まあそれもある、でも一番はな」

 

そういうとベンネは左手にサーマル・デトネーターを持った。

 

和かな笑みのまま続きを言った。

 

「この分隊なら負ける気がしないってことだ。この最高の仲間達とならな」

 

ベンネは心の底から仲間達を信じていた。

 

兵士としての実力、そして戦う意志、分隊を思いやる気持ちを。

 

ジョーレンはほんの少しばかり良心を痛めながら小さく頷いた。

 

どうにかしてこの気の良い奴らから我々は離れなければならない。

 

残念なことだ。

 

ジョーレンはコムリンクで攻撃の合図を出す。

 

「”陽動班”攻撃、開始」

 

ブラスター弾が放たれ一番後方にいたストーム・コマンドーの頭を撃ち抜いた。

 

ストーム・コマンドーが地面に倒れた瞬間、2人の一斉攻撃が開始された。

 

まずサーマル・デトネーターを投擲し、2名のスカウト・トルーパーと1名のストームトルーパーを無力化した。

 

その間にベンネはBK-34で牽制射撃を仕掛け、ジョーレンが空中に浮遊するシーカー・ドロイドを撃墜した。

 

半数を撃破したところでドロイドが一斉に接近してくる。

 

IDシーカー・ドロイドはヴァイパー・プローブ・ドロイドと違ってブラスター砲のような武装はない。

 

しかしシーカー・ドロイドは電気ショック・プロッドを備えている為接近を許せば電気ショックで気絶させられる。

 

そうなれば一巻の終わりだ。

 

「ディスラプション使う!」

 

「了解!」

 

ベンネはBK-34を降ろしその上に覆い被さった。

 

ジョーレンはシーカー・ドロイドの方向へ向かってディスラプションの発射装置の引き金を引いた。

 

発射装置からイオン化エネルギーを放出してシーカー・ドロイドを無力化した。

 

全身に火花を散らして地面にシーカー・ドロイドが墜落する。

 

「ドロイド無力化!第二線まで後退する」

 

「了解!」

 

ジョーレンの合図でベンネは急いで後退し、その間にジョーレンは援護射撃をしつつ後ろ足でゆっくり後退した。

 

ベンネは定期的に一旦立ち止まって敵に牽制射撃を加えジョーレンを援護する。

 

こうした相互援護は分隊全体の生存率の向上に繋がった。

 

「サイネス、後30秒したら一斉射撃で敵を蹴散らせ。アルメト、援護頼む」

 

『了解!』

 

『了解した』

 

再び1人のストームトルーパーが斃れた。

 

最奥で援護射撃を続けているアルメトがストームトルーパーの頭を撃ち抜いたのだ。

 

その間にジョーレンとベンネはなんとか第二線まで後退することが出来た。

 

草の茂みに隠れ、ブラスター・ライフルを冷却する。

 

「サイネス!」

 

ジョーレンの叫び声と共にもっと奥の叢に隠れていたサイネスがスイッチを押した。

 

遠隔操作で自然に紛れた隠し武器が一斉に起動する。

 

「総員一斉射!」

 

各地に設置したブラスター・タレットと共にジョーレン達も敵分隊へ向けて銃撃を開始する。

 

突然の大火力によって分隊の最前衛にいたストームトルーパーやスカウト・トルーパーが被弾して戦死した。

 

今度は木の裏に隠れ損ねたトルーパーが一斉射撃の餌食になる。

 

他にも木の裏から頭を少し出しただけでアルメトに狙い撃たれるトルーパーもいた。

 

「これが5人を15人に見せる戦い方か!」

 

ベンネはブラスター弾を放ちながら快活な声音でジョーレンに尋ねた。

 

自分達を奇襲で追い詰めた敵がこうもやられている姿を見るとそう思わずにはいられないだろう。

 

「まだ手はあるさ!」

 

インパクト・グレネードを投擲しジョーレンはまだまだ戦うことを示した。

 

地面に叩き落ちたインパクト・グレネードは衝撃で爆発し、近くにいたストームトルーパー1名を負傷させた。

 

それをすかさずブラスター・タレットが銃撃する。

 

激しい銃撃戦だが心理的に優勢なのはジョーレン達だ。

 

少なくともストーム・コマンドーがブラスター・タレットを対処するまでは。

 

敵の攻撃を分析したストーム・コマンドー達は応射しつつ前進した。

 

最前衛まで来るとストーム・コマンドーの1人が背後から何かを取り出してジョーレン達の方へ投擲した。

 

投擲され空中に浮かぶ何かを見てジョーレンはすぐに何かを決断した。

 

「総員第三線まで直ちに後退!!急げ!!」

 

今まで聞いたことのないジョーレンの深刻そうな声音にベンネとサイネスは非常事態であることを感じ取った。

 

3人は全速力で走った。

 

アルメトが援護射撃を続けてくれたおかげで敵の背後を撃たれることはなかった。

 

しかしストーム・コマンドーが投擲した何かが起動し周囲のブラスター・タレットが全て無力化されしまった。

 

その何かからスパークが走り、周囲のブラスター・タレットに直撃して機能を奪っていく。

 

「なんだあれは!」

 

「ショック・グレネードを使われた!これじゃあ次も長くないかもな!」

 

そう言って3人は次の地点の茂みに飛び込んだ。

 

再びストームトルーパーを先頭に親衛隊が突っ込んでくる。

 

頃合いを見てサイネスが次のブラスター・タレットを起動させる。

 

起動したブラスター・タレットによって1名のストームトルーパーが撃たれるも対応は早かった。

 

全員がすぐに伏せてブラスター・タレットの被弾面積を減らす。

 

「シールズ・ワン、コードA2-11発動。敵を長くこっちに惹きつける作戦は変更だ。可能な限り次で叩くぞ!」

 

「了解!」

 

銃声が響き渡る中、ジョーレンは仲間に命令を伝えた。

 

ジョーレンはブラスター弾を放ちながら祈るように呟いた。

 

あの2人(ジェルマンとドイス)、上手くやってくれよ…!」

 

 

 

 

 

ジョーレンが考えた作戦とは古典的な陽動作戦であった。

 

まずジョーレン率いる4人が追撃中のストームトルーパー隊を襲撃し注意を向かせる。

 

その間にジェルマンと護衛の1人がシーカー・ドロイドを再起動し偵察を行うといった寸法だ。

 

一貫すると2名の偵察班は敵の脅威に晒されず安全に見える。

 

しかしドロイドの再起動を送る際に信号元をある程度特定され、一時的に居場所が判明する可能性がある。

 

何より集めた情報を軌道上の艦隊へ転送する際には確実に敵駐屯地の通信傍受班に察知され、居場所が察知されてしまう。

 

極少数の機動力と隠密性を活かして即座に移動し敵から身を隠し続ける必要があった。

 

護衛に志願したのはドイスであり、2人は分隊から離れて可能な限り敵駐屯地に接近していた。

 

シーカー・ドロイドを用いるにしても肉眼を用いた偵察は重要だ。

 

「ドロイドは再起動した!これで当分は低飛行の自立モードで動いてくれるから撃墜の可能性は少ないと思うけど……」

 

電波妨害のせいかシーカー・ドロイドの位置情報とカメラ情報が確認し辛くなっていた。

 

映像は定期的に画質が悪くなり信号と共に途切れてしまう。

 

せめて妨害電波の発生場所を特定して破壊出来れば幾分か楽にはなるのだが。

 

「とにかく移動して駐屯地に接近するぞ、相手が特殊部隊じゃ俺達もドロイドも辿り着けるか分からん」

 

「ああ!」

 

2人はとにかく走った。

 

周囲を警戒しながら倒木や草木を飛び越え、身を隠しながら進む。

 

するとジェルマンは突如進行をストップさせた。

 

ハンドサインで背後にいたドイスの足を止め、近くの木々に身を潜める。

 

「前方50メートル付近にスカウト・トルーパー2名、バイクを持ってる」

 

スカウト・トルーパーの側には丁度草叢から少しはみ出て74-Zスピーダー・バイクの姿が見えた。

 

1台は標準のスピーダー・バイクだったがもう1台はサイドカーのような付属パーツがついていた。

 

「あのアンテナにあの機器類……前に見たことがあるな」

 

かつての平和だった時代、僅かな戦間期にホズニアン・プライムでストライン中将に教わったことがある。

 

電子妨害兵装のプローブ・ドロイドを媒介として電子妨害を広範囲に展開する帝国軍が開発した妨害装置。

 

恐らくあのスピーダー・バイクについている装置が電子妨害の根本となる装置だろう。

 

「あれが電子妨害装置ってことか?」

 

「装置の中枢だね。あれを破壊すれば状況は幾分か改善されるけど……」

 

問題は警備についている兵がスカウト・トルーパーだけではないということだ。

 

ストーム・コマンドーがいたらとうに見つかっているはずだからコマンドー隊はいないとしてもストームトルーパーは数人いるはずだ。

 

「あの2人を殺って装置を破壊するか?」

 

「いや、多分周りにいる。あそことか」

 

近くにいたストームトルーパーを見つけてジェルマンは指差した。

 

破壊するにはもう少し穏便に事を進めなければ。

 

どうするかとジェルマンはシーカー・ドロイドの位置情報を提示したタブレットの画面を見た。

 

「っこれだ…!」

 

ジェルマンは小声で呟き1体のシーカー・ドロイドを自動操縦から手動操縦に切り替えた。

 

「なんだ?」

 

ドイスの足元にシーカー・ドロイドが1体近づいてきた。

 

「サーマル・デトネーター持ってるか?」

 

「ああ」

 

「それをドロイドに」

 

ポーチから取り出したサーマル・デトネーターをシーカー・ドロイドに手渡す。

 

するとドロイドはアームを用いて器用にサーマル・デトネーターを掴み、草叢の中を浮遊しながらトルーパー達に接近した。

 

「ブラスター構えて、敵の増援が来たら一斉に蹴散らす」

 

「…お前を信じるよ」

 

アンバラン・ブラスター・ピストルを2丁構えジェルマンの言う通り敵を待った。

 

シーカー・ドロイドはサーマル・デトネーターのスイッチを押し、スカウト・トルーパー達の地面に捨てた。

 

その間にシーカー・ドロイドは高速でその場を離れ、スカウト・トルーパーは音に気づいて地面を覗き込んだ。

 

もうその時には全てが遅かったが。

 

起爆したサーマル・デトネーターはスカウト・トルーパー2名とスピーダー・バイク2台を破壊し、目論見通りに電子妨害装置を破壊した。

 

「やったな」

 

「すぐ次の敵が来るさ」

 

タブレットからA280-CFEのライフルモードに持ち替えた。

 

ジェルマンの予測通りに爆発に気づいたストームトルーパー達が集まってきた。

 

数は4人、全員が爆発後に反応しており、1人はコムリンクで部隊に報告を行っていた。

 

「右2人頼む、僕は左2人を」

 

「任せろ」

 

ジェルマンは狙いを定め、呼吸を整える。

 

「撃て」

 

静かな森に合計4発の銃声が響いた。

 

4人のストームトルーパーは自然の中に崩れ落ち、その上をジェルマンとドイスが通った。

 

タブレットを見ながらジェルマンはガッツポーズを浮かべる。

 

「よし!妨害が少しはマシになった!」

 

シーカー・ドロイドの位置情報も映像も全てが明確に確認出来た。

 

先程確認した時とは違い、ジェルマンが操作したシーカー・ドロイドを除くと生き残ったドロイドは3体だけだった。

 

恐らく敵のプローブ・ドロイドによって発見され、破壊されたのだろう。

 

3体生き残っただけでもマシな方だ。

 

「ドロイドは!確認出来たか!」

 

ドイスは走りながら尋ねた。

 

「殆どやられたが……いや、待って」

 

ドイスを止めて2人は木の裏に隠れた。

 

ドイスはブラスターを構えながら「何があった!?」とジェルマンに尋ねた。

 

ジェルマンはドイスにタブレットの画面を見せた。

 

「……”駐屯地の偏向シールド発生装置だ”」

 

ジェルマンはドイスに尋ねた。

 

「ドイス、戦闘準備はいいか?」

 

ジェルマンはタブレットを持ちつつも片手でA280-CFEの引き金に指をかけていた。

 

ドイスは少し笑いがながらアンバラン・ブラスター・ピストルを構えた。

 

「当然だ!」

 

刹那、ジェルマンはシーカー・ドロイドが手にした映像データを全て本隊へ転送した。

 

ジェルマンは立ち上がり、コムリンクを手にした。

 

「こちらルースコット班、偵察は完了した。第二フェーズに移行……いや、今から戦闘に突入する」

 

探知が早いなとジェルマンは心の中で苦笑を浮かべ、すぐに木の裏に隠れた。

 

彼らの目線の先にはブラスター・ライフルを構えたトルーパーの1隊がいた。

 

本来なら移動したいところだがこれでは無理だ。

 

ブラスター・ライフルを構え、まずスカウト・トルーパーが連れているシーカー・ドロイドを狙撃で破壊する。

 

「数はスカウト2、ストーム2、コマンドー4!」

 

ドイスの報告と共に赤いブラスター弾が何発も飛んできた。

 

2人も反撃のブラスター弾を叩き込む。

 

「すぐに迎えが来るはずだ!」

 

「お前だけでも生かして返して見せる!!」

 

「2人で生き残るんだよ!」

 

張り切るドイスを抑えつつ、敵兵を撃った。

 

救援が来るまで後僅か。

 

生き残る為の最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

「今すぐ迎えに行くから待ってろ!2人とも生きてろよ!」

 

コムリンクでジェルマンに返答しながらA300のブラスター弾を敵のストーム・コマンドーに命中させる。

 

すぐに身を顰め、敵の反撃絡みを守った。

 

「とはいえ……Uウィングが来るのは後もう少し……」

 

「グレネード来るぞ!!」

 

ベンネが叫んだ。

 

投げられたグレネードは明らかにショック・グレネードで今度はジョーレンがすぐに叫んだ。

 

「総員退避!」

 

スモーク・グレネードのみ投擲してジョーレンも急いで走る。

 

視界不良で離脱を支援し可能な限り味方の損害を減らす。

 

再びショック・グレネードは周囲にスパークを撒き散らし、ブラスター・タレットを機能停止に追い込む。

 

「タレットは!あれで最後だったよな!」

 

サイネスの問いにジョーレンは「ああそうだよ!」と叫んだ。

 

「あれ結構高いんだぞ…!」

 

Uウィングに積んであった全てのブラスター・タレットを展開して陣地帯を作った。

 

無論レジスタンス軍の勢力下に戻れば補充は容易いが今は難しい。

 

何かと便利なブラスター・タレットを失ったことにジョーレンはなんともいえない物悲しさを覚えた。

 

それでもブラスター・タレットの火力投射と4人の射撃によって敵兵は半分まで減った。

 

問題は減ったのはストームトルーパーとスカウト・トルーパーばかりで、肝心のストーム・コマンドーは2人しか倒せていなかった。

 

「アルメト、もっと奥まで後退しろ。残りはあの辺りを絶対防衛線とする」

 

「了解!」

 

ジョーレンが各分隊員に命令出した瞬間、突如地響きと轟音が遠くの方から伝わった。

 

ジョーレンは「指定地点まで走れ」と命令し、全員が遮蔽物の影に入った。

 

その間にも揺れと落雷のような轟音はジョーレン達に伝わり続けた。

 

「これは……艦隊の軌道爆撃か」

 

最初の振動は偏向シールド貫通弾を叩き込んだのだろう。

 

通常の軌道爆撃で偏向シールドを無力化するにはシールド発生装置の負荷限界まで砲を叩き込む他ない。

 

しかしTIEボマーなどが使用する偏向シールド貫通弾であればそういった労力を省いてシールド内に直接攻撃を行うことが出来る。

 

問題はシールド貫通弾は貴重品である為司令部の破壊や偏向シールド発生装置の破壊という精密射撃に用いられた。

 

恐らく初撃で偏向シールドを破壊し、今現在は本格的な軌道爆撃の最中なのだろう。

 

となれば駐屯地は今頃もう目も当てられない状態なはずだ。

 

その証拠に本隊から報告を受けたのか班長や分隊長と思わしきトルーパー達が明らかに動揺していた。

 

となれば相手に致命的な一撃を与えられるのは今しかない。

 

ジョーレンがそう思った瞬間どこからか声が聞こえた。

 

「艦隊の砲撃が成功した!!」

 

声と共にエンジンと飛行音が上空から聞こえてくる。

 

上空に目をやると大木の合間からこちらに接近するUウィングの姿が見えた。

 

「迎えが来た!」

 

「サイネス、ベンネは先に行け!俺が援護する!」

 

サイネスとベンネを先には知らせ、ジョーレンはA300の牽制射撃で撤退を援護した。

 

Uウィングが森林部にいる敵を計測し機体前面のレーザー砲2門で敵兵を攻撃した。

 

レーザー砲の爆発が周囲のストームトルーパーを巻き込む。

 

レーザー砲を数発放った後、Uウィングは機体の側面を向けてハッチが開いた。

 

「急いで乗れ!」

 

「少尉!!」

 

Uウィングの中にはグランゼット少尉とアルメトがいた。

 

少尉は固定された左腕で何故かイオンブラスターから挿げ替えられたEウェブ重連射式ブラスター砲を固定し引き金を引いた。

 

周囲に大火力が撒き散らされ、トルーパー達が蹴散らされる。

 

兵士達が混乱している所にアルメトの精密射撃が確実に1人ずつトドメを刺していった。

 

「タイドゥ!急げ!」

 

「みんな!引き上げろ!」

 

先に乗ったサイネスとベンネがジョーレンの脇を抱えて持ち上げた。

 

Uウィングに乗り込んだジョーレンはコックピットに走り有人操縦に切り替えて機体を浮遊させた。

 

そのままジェルマン達の信号に向かってUウィングを飛ばした。

 

「まさか少尉がと思いましたよ」

 

快活な笑みを浮かべながらジョーレンはそう呟いた。

 

「片腕が使えるならまだ戦えるさ、よくやったタイドゥ」

 

後ろを振り向きながらジョーレンは小さく頷いた。

 

後は2人を救出すれば任務は成功。

 

ジョーレンはクローキングを展開してUウィングの速力を上げた。

 

 

 

 

 

インパクト・グレネードを投擲し、反対方向にブラスター弾を叩き込む。

 

1発はストーム・コマンドーの肩部に命中したがポールドロンが弾丸を防いだ。

 

炸裂したインパクト・グレネードの煙の中からもう1人のストーム・コマンドーがブラスター弾を叩き込んだ。

 

今度はジェルマンが木の裏に隠れて牽制射撃を放った。

 

その間にドイスが1人のストームトルーパーを撃ち殺した。

 

これでようやく敵兵を1人減らせた。

 

1丁のアンバラン・ブラスター・ピストルを冷却している間にもう1丁で敵を牽制する。

 

「予備機のドロイドがいればっ!」

 

最初に戦場から離脱する時に使ったシーカー・ドロイドがあればもう少し手数を増やして戦えたはずだ。

 

尤もストーム・コマンドー相手にどこまで通じるかは分からないが。

 

ストーム・コマンドー達は数の優位を活かしてゆっくりとジェルマン達に確実に近づいていた。

 

周囲を取り囲みながらブラスター弾を放って接近妨害を阻止する。

 

このままではジョーレン達が助けに来る前に左右からストーム・コマンドーにブラスター弾を叩き込まれて戦死だ。

 

インパクト・グレネードの残りもそこまで多くない。

 

さてどうするか、ジェルマンは牽制射撃を放ってから頭を働かせた。

 

すると隣からドイスが「ルーシー!」とジェルマンの偽名を呼んだ。

 

「どうしたドイス」

 

ドイスに近づき彼に耳を貸す。

 

何か打つ手があるようだった。

 

「俺を信じてくれるか」

 

ドイスと突然ジェルマンに尋ねた。

 

今更何をと思ったがこのアンバランの瞳は本気そのものだ。

 

ジェルマンは「当たり前だ」と答えた。

 

「特殊部隊は無理だが、頑張ればスカウトとストーム連中はどうにか出来る。俺が連中を”操る”って気を引くからその間に回り込んで連中を倒せ」

 

操るとはどういうことだとジェルマンは思考を巡らせた。

 

確かアンバランにはスカイウォーカー将軍らジェダイのように他人の精神を操ることが出来るのではないかと言われていた。

 

大多数の人間はアンバランへの偏見だと思っていたしジェルマンも気に留めていなかった。

 

だがドイスの発言からしてそれは間違いだったらしい。

 

「俺を信じてくれるんだろ?」

 

ドイスは再びジェルマンに聞き返した。

 

ジェルマンは少し考えた末に答えを出した。

 

「任せたぞ…!」

 

「ああ!」

 

ジェルマンは即座に右方面へ回り込んだ。

 

足音を消しながら身を小さくして草叢の中を駆ける。

 

その間にドイスは小さく息を吐き、目を瞑って心を落ち着かせた。

 

故郷のアンバラン相手には一度も効かなかったが外から来た人間相手に効くことはもう”証明されている”。

 

目を開いた瞬間、ドイスは大声で叫んだ。

 

「おい!!トルーパーども!!俺が誰だか忘れたのか!!」

 

それは一見すると意味の分からない言葉だった。

 

しかし突如ストーム・コマンドーを除く4人の手が止まった。

 

草陰からこの状況を見ていたジェルマンは何が起こっていると自分の正気を疑った。

 

それでも同僚の為に彼は走った。

 

同じようにドイスも仲間の為に身を乗り出して叫ぶ。

 

「お前達は”()()()()()()()()()()()()()()()()”?」

 

スライ・ムーア、後に処刑されたマス・アミダと同じく皇帝シーヴ・パルパティーンを最高議長時代から支えた陰の功労者。

 

帝国の官僚組織の中枢に立つ人物であり絶大な権力を誇っていた。

 

エンドア以降彼女がどうなったのか正確な情報はない。

 

しかしどういう訳かドイスはスライ・ムーアの名を騙り、トルーパー達は簡単に騙されていた。

 

「お前達が銃を向ける相手が誰なのか、よく思い出せ」

 

そう告げた瞬間、スカウト・トルーパーやストームトルーパーはブラスター・ライフルを構え、味方であるはずのストーム・コマンドーの方へ銃口を向けた。

 

トルーパー達はストーム・コマンドーの下へ暫く歩いた後、手にしたブラスター・ライフルをの引き金を引いた。

 

長年の間と技量なのかこの異常事態を察知したらしくストーム・コマンドー達は全員背後の木に隠れ、分隊長が仲間に指示を出した。

 

1人のコマンドーが左方向から回り込み、残りは迫る3人のトルーパーを射殺した。

 

ドイスは回り込んだストーム・コマンドーにブラスター弾を放ったか精神操作の疲労か1発も当たらなかった。

 

しかもその間に3人のストーム・コマンドーが狙いを定めていることにも気づかなかった。

 

3人は狙いを定め、引き金に指をかける。

 

刹那、銃声は森中に響いた。

 

人が1人崩れ落ちる音と共にストーム・コマンドー達は振り向く。

 

草叢から突如飛び出したジェルマンの方を。

 

「側面を晒したな!!」

 

ジェルマンは奇襲に成功した。

 

2発のA280-CFEが左側のストーム・コマンドーの体を貫いた。

 

更にもう1発のブラスター弾が分隊長の持つE-11Dを破壊した。

 

ブラスターが使えなくなったストーム・コマンドーの分隊長は銃剣用のナイフを取り出し、素早くジェルマンにタックルを仕掛けた。

 

突然のことにより対応が遅れたジェルマンはタックルをもろに喰らい、A280-CFEを離してしまった。

 

だが瞬時に足につけた銃剣用ナイフを取り出し、アーマーとアーマーの間の脇腹に突き刺した。

 

分隊長のタックルは最初の一撃では止まらず、3回目の刺突でようやく止まった。

 

しかしジェルマンの上に敵の分隊長が倒れ込んだ状態である為、ジェルマンはマウントを取られていた。

 

痛みを堪え分隊長がジェルマンの喉元に向けてナイフを突き刺そうとしてくる。

 

寸前でナイフを持つ腕を止め、逆にこちらのナイフで指を切り落とした。

 

すると今度はヘルメットのまま頭突きを喰らわせてきた。

 

あまりの衝撃と痛みに一瞬意識を失いそうになったがジェルマンは堪えた。

 

むしろここで意識が朦朧としている状態を演じることで相手に油断を呼べると踏んだジェルマンはあえてぐったりとした。

 

分隊長はジェルマンの狙い通り、トドメを刺そうと一瞬だけ立ち上がってナイフを思いっきり振り上げた。

 

この立ち上がった瞬間がジェルマンにとって大きなチャンスだった。

 

体重の重みが消えた瞬間にジェルマンはするりとその場を抜け、分隊長の喉を掻き切った。

 

急いでその場を離れA280-CFEのライフルパーツを緊急解除してブラスター・ピストルの状態にした。

 

ピストルを持ってストーム・コマンドーの方へ構える。

 

相手も最後の力を振り絞ってジェルマンへナイフを投げた。

 

ナイフはジェルマンの左肩に突き刺さったが彼は気にせず引き金を引いてトドメを刺した。

 

「バスチル少佐仕込みの……格闘戦術だ……」

 

イセノの戦いの前、散々仕込まれたジョーレンの近接格闘訓練が役に立った。

 

あの時はジョーレンがかなり本気で訓練用ナイフを振り回して腹に突き刺してくるので痛かったけど、ようやく痛みは報われたらしい。

 

「ドイス!!」

 

ジェルマンは叫び、ドイスがいた方向を見つめた。

 

その瞬間2発の銃声が聞こえ、目線の先にはぐったりと倒れたドイスと最後のストーム・コマンドーの姿があった。

 

回り込んできたストーム・コマンドーとの銃撃戦をしていたドイスであったが、先ほどの疲労が抜け切れておらず隙をつかれてブラスター弾を喰らってしまった。

 

ジェルマンは顔を顰めるも冷静な思考と行動でブラスター・ピストルを構えた。

 

そのストーム・コマンドーがブラスター弾を放つより先にジェルマンは引き金を引き、最後の敵兵を始末した。

 

ピストルをライフルパーツに接続するとジェルマンは急いでドイスの下へ駆け寄った。

 

もう助からないと冷静な自分が囁きつつも、見捨てられないと彼は走った。

 

 

 

 

 

ジョーレン達の一行が戦場に辿り着いたのは全てが終わってからだった。

 

全員がUウィングから飛び降り、負傷したドイスとジェルマンの下へ駆け寄った。

 

特に一番早かったのはサイネスでドイスの傷を見た瞬間、普段明るく陽気なサイネスからは考えられないほどの涙が溢れ出した。

 

「ドイス!!おいしっかりしろ!!」

 

「消毒する!!バクタ液とパッチ持ってきて!!」

 

消毒液を傷口にかけ、ジョーレンが持ってきたバクタ液とパッチをドイスに投与しようとした。

 

アンバランの弱点は他の生物と同じく心臓だ。

 

ドイスは明らかに心臓を貫かれていたが奇跡的に辛うじて意識はあった。

 

誰しもが心のどこかでもう助からないと気づいていながらも命を繋ぎ止めようと努力した。

 

「もう……十分だ……助からんから……それよりルーシー……俺の話を……聞いてくれ……」

 

「ああ!!聞いてやるからもう少し頑張れ!!」

 

ドイスが差し出してきた手を握り締め、ジェルマンは叫んだ。

 

ドイスはもう助からないと覚悟し、最期に殆ど話さなかった自分のことについて話した。

 

「俺は……昔は親帝国派のアンバラ人として……昔の帝国のために働いてきた……」

 

ドイスが故郷アンバラの為に直接戦えない理由、それはここにあった。

 

彼は元々若い頃はクローン戦争で生まれ変わった新しい中央政府を熱狂的に支持する所謂親帝国派の青年だったのだ。

 

まだ当時のアンバラはクローン戦争の名残で分離主義派が根強く、戦後数年は不安定な状態にあった。

 

そんな中、ドイスは故郷の復興と発展、全銀河の平和の為には帝国の力が必要だと考え帝国に加わった。

 

彼らのような青年は帝国にとって格好のプロパガンダの材料であった。

 

ドイスはアンバラ帝国総督府の官僚として働き始めた。

 

他者より精神操作に長けていると知ったのはこの頃だ。

 

悪戯に市民へ暴力を振るう帝国地上軍の大尉とストームトルーパー数人の精神を操り、暴力をやめさせた。

 

結果この事実がバレたせいで帝国保安局に目をつけられ、ISBアンバラ支部の”親愛なる者(協力者)”として、内部の監視と規律の意地も任された。

 

その頃はまだ良かった、父も母も良い顔はしなかったが得た給料で親孝行が出来た。

 

真面目に働き、見たくない面はあれど銀河の一員として役に立っていると実感していた。

 

自分がやっていることは正しいとまだ信じ切れていた。

 

エンドアの戦いによって帝国が崩壊するまでは。

 

「エンドアで皇帝が死んで……革命が起きた……アンバラの帝国軍はすぐに逃走し……置き去りにされた……帝国の手先になんて……居場所はなかった」

 

アンバラに展開した帝国の崩壊は思ったよりも早かった。

 

というよりも逃げ出すのが早かった。

 

エンドアの敗北と共に銀河には新共和国が誕生し、残った帝国はバラバラに分かれて内戦を始めた。

 

こうした反乱の春によってアンバラの旧分離主義派も立ち上がった。

 

どこからかスターファイターやタンクを持ち出し、反乱軍として大規模な抵抗を始めた。

 

そこからは嵐のような日々が続いた。

 

全ての公文書を破棄し、駐屯軍とモフら総督府の行政官達は撤退。

 

ガリアス・ラックスとかいう奴の下に転がり込んだそうだが自分達にとってはどうでも良いことだった。

 

何せ逃げた連中の行方よりも自分の身の安全を心配しなければならなかったからだ。

 

親帝国派の特に有名で権力を持ったアンバラン達は裁判で極刑が下された。

 

そうではない者達も逮捕されるか迫害されるかだった。

 

唯一何事もなく生き残ったのは地位が低い奴か自身を被害者としてプロデュースするのが上手い奴らだ。

 

帝国には強制的に働かされていた、本当は外部の反乱軍に協力していた、仕方がなかった。

 

(ドイス)は結局何者にもなれなかった。

 

公文書の破棄で自分がISBの協力者だということは知られなかったし、自分の内情を知っている保安局員は全員アンバラから逃げ出した。

 

家族も精一杯庇うからと自分を受け入れようとしてくれた。

 

親帝国発言はよくしていたが真面目な公務員だったと評価してくれる人もいた。

 

だが他の同僚達が捕まったり迫害されている中で自分だけ平然とした顔で生きることは出来なかった。

 

だから結局何者にもなれずアンバラから逃げ出した。

 

サイネスという一番の親友と知り合ったのもこの時だ。

 

食い扶持がなかった時にサイネスは一緒に傭兵をやらないかと持ちかけてきた。

 

戦闘技術はアンバラ民軍として徴兵された時とISBの協力者時代に習得していたのでサイネスの提案に乗った。

 

そこから暫くは戦場で自由に生きた。

 

自分の理想とは全く違う世界と生活だったが不思議と悪い気はしなかった。

 

「サイネスと傭兵をやっていたら……奴らが……第三帝国がやってきて……俺の故郷を無茶苦茶にしていると聞いた……俺は……全てにがっかりした……」

 

第三帝国が対等し始めた頃はもう一度理想を叶えられるチャンスかと思った。

 

だがすぐにアンバランを含んだ数百人のエイリアン種族と近人間族を戦場で殺戮したと聞いた時、夢は夢のまま終わった。

 

その後に第三帝国はアンバラへ攻め込んだ。

 

親衛隊の連中は何度も爆撃を行なって家々を滅茶苦茶にし、収容所を作って絶滅政策を行なっていると聞かされた。

 

レジスタンスとやらの発表だったが傭兵として見た戦場で第三帝国の兵隊が無為に民間人を殺してるのを見て確信に変わった。

 

信じていた帝国は本当はこんな姿だった。

 

過去の自分と帝国を恥と罵り、絶望した。

 

なんであんなものを信じてしまったんだと。

 

言ってしまえば第三帝国を作ったのは俺達のような存在だ。

 

罪がもう一つ、増えてしまった。

 

それから俺は殆ど死場所を求めるように戦い続けた。

 

この銀河に希望などなかった、であればせめて抗って死にたい。

 

「帝国派の……俺は……もう戻れない……だから……お前達に託したいんだ……」

 

ドイスの目から涙がこぼれ落ちた。

 

ジェルマンはしっかりと手を握り「なんで俺たちなんだ!」と聞き返した。

 

「お前達……ほんとはレジスタンス兵だろ……?振る舞いがそう過ぎたよ……自分を隠し過ぎている……」

 

武器が新共和国製というのは不思議なことではない。

 

新共和国の崩壊によって新共和国軍の装備を使う傭兵はここ数年で一気に増えた。

 

だがこの2人は違う。

 

戦闘時の所作や行動の全てがかつて一度だけ検挙したことのある反乱軍のスパイと同じだった。

 

証拠はなかったが確証はあった。

 

だからこの2人だけは命に変えても絶対に生かそうと心に決めていた。

 

彼らならきっと故郷を解放してくれるんじゃないかと願いを込めて。

 

「頼む……アンバラを救ってくて……故郷を……家族を……罪人の俺の代わりにっ……!!」

 

暫くの沈黙の後、ジェルマンは彼に答えた。

 

「ああ…!約束しよう!僕達レジスタンスが、必ずアンバラを第三帝国の手から解放しよう!」

 

その言葉を聞いてドイスは初めて満面の笑みを浮かべた。

 

彼の手を掴む力は静かに抜け、随分と安らかな表情になった。

 

サイネスがドイスの胸に耳を当てる。

 

「……死んだよ……この生真面目な奴め……」

 

親友の死にサイネスは静かに毒づいた。

 

ジェルマンは彼の手を彼の胸に当てた。

 

「なあ……さっきドイスが言ってたけど……お前達がレジスタンスだって」

 

「本当なのか?」

 

ベンネとアルメトが尋ねてきた。

 

ジェルマンは誤魔化そうとしたがジョーレンは真剣な表情で「ああ」と肯定した。

 

「我々はレジスタンス軍のスパイだ。第三帝国の展開戦力を調べる為に傭兵として潜入した。ある意味ではお前達を騙していたことになる、すまない」

 

分隊の仲間達の表情は当然曇った。

 

暫くの沈黙の後、ベンネが口を開いた。

 

「でっでもレジスタンスならケッセルと同じで第三帝国の敵だだろ!?敵の敵は味方ってことじゃねぇのか?」

 

「そっそうだ!それにほら!お前らは本気で第三帝国と戦ってたし第三帝国の情報を流してただけなんだろ!?」

 

アルメトが同調した。

 

気の知れた分隊員が死に、仲間がレジスタンス軍の者だったと知って気が動揺していた。

 

「ドイスもああ言っていたし……まだ一緒に」

 

「いや、如何なる国家であろうとスパイを軍に入れてはおけない」

 

サイネスの言葉を遮って曇った表情のグランゼット少尉が覚悟を決めてそう言い放った。

 

「もしかしたら軍の情報を流しているかも知れない。そういう人間はどうしてもダメなんだ」

 

少尉の言う事は最もだ。

 

軍隊という場所は情報が重要な何よりも重要視される。

 

仮に敵の敵が味方であったとしてもスパイを入れておく理由にはならない。

 

だが若い少尉には冷酷な判断はまだ下せなかった。

 

そしてジョーレンはそれを見越していた。

 

グランゼット少尉は分隊員を押し退けジェルマンとジョーレンからドッグタグを千切った。

 

「我が分隊は最初の戦闘で3名が戦死、そして後の戦闘でサイトス一等兵、タイドゥ上等兵、ルースコット一等兵は”戦死しガンシップは大破した”」

 

グランゼット少尉は膝をつき、ドイスのドッグタグを引き千切った。

 

「…お前の故郷には眠らせてやれないが……必ず墓参りにはいってやる。ここは私の故郷だ、眠れ英雄」

 

グランゼット少尉は立ち上がり、ジェルマンとジョーレンに言葉をかけた。

 

「もう会う事はないだろうから1つ言わせてくれ。故郷の為に戦ってくれてありがとう、名前のない英雄達」

 

2人は敬礼し、ジョーレンはジェルマンを抱えながらUウィングに向かった。

 

他の3人は表情を曇らせながら2人を見送った。

 

今日だけで6人の仲を失った、感情の整理がつかないのも無理はない。

 

それでも彼らはこのケッセル王国軍の義勇兵として戦うのだろう。

 

勝利するか死するまで。

 

それはジェルマンとジョーレンも同じだ。

 

変わらないのになんでジョーレンは誤魔化すこともせず、打ち明けたのだろうか。

 

「なあジョーレン、なんで誤魔化さずに言ったんだ。励ます為とか言い訳は出来たのに」

 

ジェルマンの問いにふとジョーレンは考えた。

 

「……潮時は今だと、感じただけだ」

 

ジョーレンは本音を隠したような気がした。

 

それか自分に怒っているのかも知れないとジェルマンは思った。

 

最初に正体をバラしたのはジェルマンだ、感情に流されたジェルマンに苛立ちを覚えるのもおかしくない。

 

2人を乗せたUウィングはすぐにエニードを離れた。

 

彼らがエニードから離れた瞬間、ケッセル王国軍の地上軍がエニードに展開した。

 

パルトン准将を先頭に機甲部隊が前線をこじ開け、親衛隊を蹴散らした。

 

エニード・シティが陥落したのは僅か12時間後の出来事であった。

 

これ以降ケッセル宙域の戦いはこう着状態に入る。

 

ジェルマンがこの地に訪れるのはこの銀河に平和が訪れてからだった。

 

 

 

つづく




お久しぶりのナチ帝国です!!

書く事は特にないので、全裸中年マンダロリアンを描きます!

「カイミールの裸が許されるならわしらも許されるだろう」と屁理屈を捏ね、ジェダイ聖堂の前に居座る全裸中年マンダロリアンはジュディシアル暴徒鎮圧隊によって全員逮捕された
この世にはフォースの光闇関係なく取り締まる法が存在するのだ
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