第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「大セスウェナもチスも、国防軍が一撃加えれば屈服させられる」
-国防地上軍参謀総長 フリッツ・ヘルダー上級将軍-


対外一撃論

-第三帝国領 コロニーズ ファキア宙域 パランヒ星系 惑星パランヒ 総督府-

帝国の総督府はどの総督府においても外見、内部共に殆ど同じ造りをしている。

 

何故なら帝国惑星占領施設(Imperial Planetary Occupation Facility:I.P.O.F)と呼ばれる既製品の建物を地上に降ろして総督府とする為だ。

 

製造工場で大量生産されたこのI.P.O.Fは帝国が勢力下に置いた至る所で目撃されている。

 

例えば惑星ロザルに展開した帝国複合施設などが代表的な例であろう。

 

同一の製品を用いる為地上への展開も素早く、部署の移動や配置換えの際もほぼ同じ施設で働くことになる為効率的だった。

 

尤もある建築家は効率的にである反面面白味に欠けるとこのI.P.O.Fを遠回しに批判していたが。

 

第三帝国になってからもI.P.O.Fを用いた各惑星の占領政策は続いていた。

 

このパランヒの総督府もI.P.O.Fを用いている。

 

現在総督府の一角ではパランヒの旧共和国加盟記念として祝賀パーティーが開かれていた。

 

旧共和国加盟記念とは言ってもパーティーに参加する人間は第三帝国の既得権益者達ばかりだ。

 

パーティーでは上質な料理に加え、コレリアやナブーなどから取り寄せた質の良いアルコール飲料が提供されていた。

 

参加者達はドレスや礼服を着てグラスと料理を片手に談笑を楽しんでいた。

 

この銀河の片隅ではエニードが奪還され、収容所では数多くの罪のない人々が殺戮されているというのにこの有様だ。

 

彼ら彼女らはそういった事実を殆ど知らないし知っていても「当然の報い」として受け入れるだろう。

 

殺される人間は自分達ではないからだ。

 

パーティーの参加者には当然国防軍、親衛隊の軍人もいた。

 

皆戦場での出来事を自慢話として語り、称賛の声と美人を自身の側においた。

 

ブロッサム・ワインを片手に総督府の外務官僚や資本家達と話しているエルゲン・オルト准将もそのうちの1人だ。

 

彼はパランヒ総督府駐在武官を務めており、駐屯軍と総督府の間を取り持っていた。

 

尤も本人はこの待遇を実質的な左遷だと感じており、数年前に起きたある事件とも相まって心は晴れやかではなかった。

 

「今度、私の倅が国防軍に入隊するんですよ。見かけたら是非、ご指導とご助力の程をお願いしますね?」

 

オルト准将と話していたパランヒの資本家はそう擦り寄ってきた。

 

資本家の息子であっても世間的名誉の為に軍に入隊する者は少なくない。

 

特に今の時代のような軍事的勝利が持て囃され、国防軍や親衛隊が賞賛される時代であれば尚更だ。

 

「私などでよければ、我が国防軍はあなた方に恩がありますので。兵器開発の新工場設立の際はありがとうございました」

 

「いえいえ、全ては総統と我が祖国の為ですよ」

 

准将は笑みを浮かべてはいるものの、内心は冷めた目で見ていた。

 

国防軍将兵の全員があの代理総統に心からの忠誠を誓っている訳ではない。

 

勝っている以上は、一応の最高指導者だからと渋々受け入れてる者も多くいるのだ。

 

その1人がオルト准将だった。

 

オルト准将が心から忠誠を誓ったのは代理総統の前任者であるパウルス・ヒルデンロード首相だ。

 

ヒルデンロード首相とシュライヘル将軍が暗殺され、指導者の座にはあの総統が就いた。

 

何故あの代理総統というぽっと出の得体の知れない人間なのか、何故カイティス大将軍らはそれを簡単に認めてしまったのか。

 

このことは第三帝国が新共和国に勝った後もしこりとして残り続けていた。

 

そしてオルト准将が不安に思っていることはもう一つある。

 

「オルト准将!お久しぶりです」

 

遠くからオルト准将を呼ぶ声がした。

 

振り返ってみるとそこには見知った顔の男がワイングラスを片手に頭を下げていた。

 

「おおゾンゲル君じゃないか、君もここに来ていたのか」

 

レハルド・ゾンゲル、ホロネット・ニュースの記者でパランヒ総督府の特派員を任されていた。

 

オルト准将も何度かゾンゲルから取材を受けたことがあり、他の軍人や官僚とも私的な交友があった。

 

ゾンゲルはコルサント生まれであるが長い間パランヒに記者として住んでおり、パランヒのことをよく知っていた。

 

その為パランヒについて無知なオルト准将は駐在当初からゾンゲルをよく頼りにしていた。

 

「まあ半分は仕事ですよ、ですがひと段落したので皆さんにご挨拶にと」

 

記者としてより多くのネタ欲しさか、本人の性格かゾンゲルの友人は比較的多い方だった。

 

同じ国防軍でも両手では数え切れないほどの友人がいた。

 

「君の記事、何度か読んだよ。是非我々が投資した兵器工場もお願いしたいね」

 

「ハハ、上に掛け合ってみますよ」

 

資本家は冗談を言いつつゾンゲルと握手を交わした。

 

資本家達と官僚達は空気を読んでその場を離れた。

 

オルト准将は暫くゾンゲルと2人きりで会話を楽しんだ。

 

「准将のそれはブロッサム・ワインですか?」

 

ふとゾンゲルが准将の持つグラスを指差して尋ねた。

 

「ああ、ナブーがもう一度帰ってきたんでこれも飲めるようになった。親衛隊も偶には良い事をする」

 

皮肉を言い、2人は苦笑を浮かべた。

 

ナブーの奪還により第三帝国との交易は復活し、ナブー産のワインや食材がコア・ワールドに戻ってくるようになった。

 

オルト准将とゾンゲルが飲んでいるブロッサム・ワインもナブーで作られる希少種のワインだ。

 

「ですがハット・スペースで随分と手を煩わせているようですな」

 

「ああ、全くだ、あの雑兵どもめ。おかげでやることが増えた」

 

ワインを一飲みすると准将は近くにいたウェイターに新しいブロッサム・ワインを注がせた。

 

ゾンゲルは言葉の最後が気になったのか「やることとは?」と軽く尋ねた。

 

ワインを口に含む前にオルト准将は答える。

 

「……君にだから言うが、国防軍は未知領域に軍を展開することになった。だからパランヒからも派遣軍を選定する仕事を任された」

 

「准将も大変ですな、お疲れ様です」

 

ゾンゲルはオルト准将を労った。

 

准将はゾンゲルに「今の話は記事にしないでくれよ?」と頼んだ。

 

特派員は笑みを浮かべ「当然ですよ」と答える。

 

オルト准将はゾンゲルの言葉を信じた。

 

付き合いが長いから分かるが彼は約束は守るタイプだ。

 

「折角だ、乾杯をしよう」

 

「ああ、どうも。では音頭は私が」

 

互いにグラスを持って向き合う。

 

宣言通りゾンゲルが乾杯の言葉を述べた。

 

「我らの祖国の為に」

 

グラスを軽くぶつけ、ワインを飲み干す。

 

オルト准将は信頼の笑みを、ゾンゲルは虚像の笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

 

-レジスタンス領 アウター・リム・テリトリー カラマリ宙域 ミントゥーイン星系-

Uウィングに乗ってエニード星系から脱出したジェルマンとジョーレンはハイパースペース・レーンを用いてレジスタンス勢力下までジャンプした。

 

その間にジェルマンに刺さったナイフを抜いて止血し、バクタ液とバクタパッチで治療した。

 

バクタの素早い治療能力によって傷は塞がり、後数十日もすれば腕の固定も外せる程度には回復した。

 

「どうだ、少しは腕が上がるようになったか?」

 

ジョーレンは固形レーションを頬張りながら兵員室に座っているジェルマンに尋ねた。

 

ジェルマンは痛みで顔を強張らせながら「若干はね」と答えた。

 

傷口にはまだバクタ・パッチを貼って包帯を巻いており、包帯で腕は固定されていた。

 

あの場に転がっている死体から察するに2人が戦っていたのはストーム・コマンドーだ。

 

しかもジェルマンの話じゃ敵にナイフを刺された後も敵兵がもう1人残っていたらしい。

 

ナイフが刺さっても戦い続けるその闘志、そしてストーム・コマンドーを撃退出来るだけの戦闘技量。

 

隣にいるから分からなかったがジェルマンも着実に成長しているらしい。

 

彼の成長が嬉しい反面、ジョーレンは心の何処かで結局はこうなるのかとため息を吐いた。

 

「ミントゥーインに着いたら念の為検査を受けよう。まあ多分バクタ・タンクに浸かるほどじゃないとは思うがな」

 

「あれ数日食欲失せるからやなんだよね…」

 

「文句言うな」

 

互いに苦笑しジョーレンはジェルマン用に固形レーションを手渡した。

 

礼を述べて固形レーションを受け取り、工夫して包装を破いて中身を取り出す。

 

このタイプのレーションの歴史はクローン戦争中の共和国軍のZ300らのレーションにまで遡る。

 

かつては急激な軍拡によって艦艇の炊事兵の数が不足し3食このレーションを食べていた将兵もいたらしい。

 

あるジェダイ将軍は弟子との会話で「軍用レーションはもうんざりだ」と言うほどこのレーションは消費された。

 

帝国宇宙軍の将兵が口にする飲料系のレーションや粉を水に混ぜてパンを生成するレーションも存在するが、一番手軽で食った気がするからと言う理由で四角い固形タイプのレーションも好まれていた。

 

ジェルマンも受け取ったレーションを口にした。

 

もうこの手のレーションは食べ慣れており、味の感想も湧かない程だ。

 

美味いとか不味いとかではなく、空腹を満たしてエネルギーを補充する為にレーションを食った。

 

「…いつか、アンバラも解放する日が来るんだろうか」

 

レーションを食べながらジェルマンはふと独り言のように呟いた。

 

ジョーレンも同じようにレーションを食べながら答える。

 

「アンバラはハイパースペース・レーンに位置する惑星、必ずその日は来る。あいつの願いだってそん時果たされるだろうさ」

 

「というより、果たさなきゃ」

 

ジェルマンは思い詰めたようにそう言い放った。

 

仮に潜入先の部隊とはいえ仲間の死を想うことは決して弱いことではない。

 

ジョーレンだって今まで命を落としてきた自身の上官、部下、同期全ての顔と名前を覚えている。

 

戦争から離れていた6年間の間だって片時も忘れることはなかった。

 

しかしジェルマンの考え方は少し危険だ。

 

「思い詰めているな、それじゃあいつか潰れちまうぞ」

 

ジェルマンはハッとしてジョーレンの方に顔を向けた。

 

彼はいつにも増して真剣な表情だった。

 

「お前は少し、人の思いを背負い込んで考え過ぎている。人の為に戦うことは原動力として重要だが、背負い込みすぎては心が保たなくなる」

 

この戦争が始まって3年、様々な人間の死を見てきた。

 

その度にジェルマンは人の思いを背負ってここまで戦ってきた。

 

このままでは精神が保たなくなり、戦争が終わっても心だけ戦場から帰れなくなってしまう。

 

ジョーレンはジェルマンの側に座って肩を摩った。

 

「少しは別のことも考えろ、例えば戦争が終わったら何をしたいとかな」

 

「……戦争が終わったら……」

 

終わらない戦争とは存在しない。

 

未来に禍根を残してもどの戦争も一旦は区切りが付くものだ。

 

区切りが付いた後、どうやって生きるか、何をするのか。

 

ジョーレンは上官について次の戦いをする事を選んだ。

 

ではジェルマンもそうなるのか。

 

年長者としてジョーレンは未来を指し示した。

 

ジェルマンがふと考えようとするとコックピットの方から通信の着信音が聞こえた。

 

「まあ、後でゆっくり考えろ。今はあっちだ」

 

2人は立ち上がってコックピットの方へ向かった。

 

通信を行っていたのはキャッシークにいるクラッケン将軍からだった。

 

ホログラムを起動しキャッシークとの通信を繋ぐ。

 

「閣下、申し訳ありません。ケッセル軍への潜入は失敗しました」

 

2人は敬礼しジョーレンが現場の最高責任者として謝罪した。

 

これに対しクラッケン将軍はあまり気にしていないような表情だった。

 

『いや丁度引き上げさせようと思っていた所だ。それにケッセル方面に展開した親衛隊の戦力は粗方掴めた。それより報告ではジルディール大尉が負傷したと聞いたが……大丈夫か?』

 

「全治までもう暫く掛かりますが問題ありません」

 

ジェルマンの報告を聞くとクラッケン将軍は安心したような表情に戻った。

 

将軍は略帽を鍔を軽く掴んで深く被ると早速本題に入った。

 

『少佐、ジルディール大尉が回復したらすぐにモン・カラへ向かってくれ。暫くはメイディン将軍の命令を聞いてくれ』

 

クリックス・メイディン、かつての帝国軍特殊部隊司令官は現在レジスタンス特殊作戦軍司令官を務めていた。

 

レジスタンス特殊作戦軍は地宙軍問わずレジスタンス全軍の特殊部隊を統合指揮する組織である。

 

その為ジェルマンとジョーレンも名目上の所属は情報部から出向した特殊作戦軍メンバーという扱いであった。

 

一般的な特殊部隊、例えばケス・ダメロン上級曹長ら特殊部隊追跡班、通称パスファインダーズやカルアン・イーマット少佐のニューシュライクス隊が特殊作戦軍の所属であった。

 

こうした特殊部隊は戦場での強行偵察や司令官の暗殺、後方の破壊工作や情報部からの依頼で任務をこなしたりする。

 

しかしジェルマンとジョーレンの場合は国防大臣や情報部長から直接指令を受け取ることが多かった為今回のケースはむしろ異例であった。

 

『我々もだが隣人は又聞きが好きらしいのでな』

 

脈絡のないクラッケン将軍の発言にジェルマンは同じような脈絡のない言葉で返した。

 

「そうですね、では将軍もダントゥインの月で会いましょう」

 

『ああ、ジルディール大尉の早い回復を祈るよ』

 

軽く敬礼してクラッケン将軍のホログラムは消えた。

 

2人の様子を見てジョーレンは失礼にもジェルマンが情報部員だったことを再び思い出させた。

 

クラッケン将軍が言いたかった内容はこうだ。

 

本来ならメイディン将軍と会う前に細く情報を言っておきたかったが第三帝国の傍受の可能性がある為控えることにする。

 

ミントゥーインは完全なレジスタンスの領域にも関わらず傍受を機にするということは相当秘匿したい情報なのだろう。

 

それを認識したジェルマンは速やかに会話を打ち切り、クラッケン将軍の指示に従うことにした。

 

通信を切り、ジェルマンはコックピット席の背もたれにもたれ掛かった。

 

「また、激戦に放り込まれそうだね」

 

「それが俺達の仕事だよ」

 

2人を乗せたUウィングはミントゥーインに辿り着いた。

 

新たな戦いに向かっていく2人には今は休息が必要だった。

 

 

 

 

-大セスウェナ連邦領 アウター・リム・テリトリー セスウェナ宙域 エリアドゥ星系 首都惑星エリアドゥ 連邦軍統合本部ビル-

軍隊という国家という広い世界から見れば狭い階級社会において、急速な昇進が起こるというのには2つの理由がある。

 

1つは軍隊という社会自体が拡大ないし新設されて人を必要としている場合。

 

こうした状況は第三帝国の親衛隊やクローン戦争時代の共和国軍で飽きるほどよく見た光景だ。

 

ある惑星防衛軍で中尉だった人物がクローン戦争の3年の間に中佐になっているなどよくある話であった。

 

もう1つは軍隊が敗北を続け、国家自体が存亡の危機にまで立たされてしまう場合。

 

人も武器もない末期戦では部隊長の頭数が足りない為昇進が進み、本来は部隊に適した階級ではない者が大部隊を率いていたりする。

 

ジャクーの戦いで地表に墜落したインペリアル級”インフリクター”の艦長、サイエナ・リーが最も有名な例であろう。

 

銀河内戦末期は各軍閥とも酷い有様だった。

 

本来の帝国軍ではアカデミーを卒業した新任士官がインペリアル級の艦長に適した階級である大佐に昇進するまで早くても10年、最大で15年の年月を要する。

 

しかしリー艦長は僅か5年、最短の半分の年月で大佐まで上り詰めた。

 

尤もそれが彼女の幸福に繋がったかはまた別の話であるが。

 

少なくとも現在の大セスウェナ連邦軍で行われている昇進は前者の理由であった。

 

「閣下、おはようございます」

 

統合本部ビルの前で敬礼する1人の地上軍将校、ベネリス大尉もその恩恵に預かった1人である。

 

本来定期昇進で大尉になるのは来年のはずであったが組織拡大に合わせて1年早まり、しかも統合本部の局次長付副官という立場になった。

 

アカデミー時代は真面目が取り柄で同期の間では辛うじて上の下の成績を維持していた為、まさか統合本部で勤務出来るとは思っても見なかった。

 

何より嬉しかったのは上官が”アタリ”の人物であったということだ。

 

「おはよう、早いね今日も」

 

ベネリス大尉を副官に持つのはついこないだまでコルサントで特殊任務に従事していたヴィーデッド・アイゼンハールであった。

 

アイゼンハールは大セスウェナ連邦に帰国した次の日に昇進と異動を言い渡された。

 

准将から少将に昇進し、統合本部の対外防衛計画局の副局長に置かれた。

 

アイゼンハール少将としては今まで軍内で燻っていただけに、この人事に驚いた。

 

「早速ですがバスト局長がお呼びです。ついたら執務室へお越し下さいと」

 

うち(対外防衛計画局)は相変わらず忙しいな。すぐに向かおう」

 

苦笑しながらアイゼンハール少将はビルの中へ入っていった。

 

こういう穏やかな所がベネリス大尉的には”()()()”の上官だと思わせた。

 

気難しい他の将軍達に比べてアイゼンハール少将は穏やかで根回しが巧みで人間性に関しては素晴らしいの一言に尽きる。

 

大尉は内心でこういう人が軍のトップに立ってくれれば色々楽なんだけどなと思っていた。

 

少将はビル内の対外防衛計画局のオフィスに行き、自身のデスクに鞄を下ろすとすぐに局長の執務室ヘ向かった。

 

この対外防衛計画局、略称として対防局とかFDPO(Foreign Defense Planning Office)と呼ばれるこの組織の局長は、宇宙軍提督のレオルド・バストであった。

 

バスト提督は0BBYのヤヴィンの戦いで戦死したモラドミン・バスト将軍の親族であり、惑星デュラ=カーンの狩猟先住民族の生まれであった。

 

意外にもこういった先住民族などでも帝国アカデミーに入り、優秀であれば昇進出来るのがかつての第一帝国であった。

 

前述したサイエナ・リーも惑星ジェルーカンの第一派と呼ばれる貧しい階級の出であったがパイロットや将校として活躍出来た。

 

この気風は少なくとも大セスウェナ連邦軍にはまだ残っていた。

 

エイリアン種族や近人間種の受け入れはまだだが少なくとも第三帝国の親衛隊や国防軍よりは風通しが良かった。

 

局長の執務室へ入り、アイゼンハール少将とベネリス大尉は眼前の提督に向けて敬礼した。

 

「少将、明日の午後は予定空いているか?」

 

バスト提督はアイゼンハール少将に尋ね、少将はすぐにベネリス大尉に聞いた。

 

大尉はすぐに手帳タイプのタブレット端末を取り出し、明日の予定を見せた。

 

「午前も午後もここ(統合本部ビル)で事務作業ですよ」

 

「そうか、では明日指揮幕大に行ってはもらえないか?」

 

指揮幕大とは略称であり正式名称は連邦軍指揮幕僚大学と言い、かつてはエリアドゥ帝国軍指揮幕僚大学と呼ばれていた。

 

大セスウェナ連邦成立時に名称が変わったこの軍事大学(War College)だが任務と理念は殆ど同じであった。

 

連邦軍全将校のうち軍から指名された佐官クラスの人間がより専門的な軍事知識の教育を受け、未来の将官としての能力を身に付ける。

 

大学内には地宙航空軍及び海兵隊専用の4コースがあり、指名された佐官は通信教育か本校で教育を受けることが出来た。

 

卒業した佐官達は各軍の戦略大学かフェラーに存在する総合国防大学内の国防大学に通って更なる能力の向上が求められた。

 

こうした教育制度によって連邦軍の将校達は知識と技能を高め、優秀な指揮官や幕僚として国防に携わるのだ。

 

「問題ありませんが……何故指揮幕大に?まさか講師をやれと言うんじゃ…」

 

アイゼンハール少将の嫌そうな表情を見て、バスト提督は「いやいや、そうじゃないよ」と微笑気味に訂正した。

 

「国防軍を退役したロモディ元帥が大セスウェナに亡命してきたことは少将も覚えているだろう?」

 

バスト提督の問いにアイゼンハール少将は「ええ、かなりの大ニュースでしたから」と答えた。

 

ハースト・ロモディ名誉元帥はクローン戦争以前から軍人として活躍した優れた老将である。

 

ウェスタン・リーチ平定でも戦果を上げ故シーヴ・パルパティーンから直接称賛を受けるほど軍内での評判も高かった。

 

そんなロモディ元帥はヤヴィン、エンドアの悲劇も奇跡的に生き延び、故パウルス・ヒルデンロード元帥のカイゼルシュラハト作戦に参加して戦後は第二帝国にいた。

 

銀協定調印後にロモディ元帥はすぐに退役し、首相となったヒルデンロード元帥から名誉元帥の称号を与えられた。

 

国体が第三帝国となり、コルサントを奪還して新共和国を打ち倒した頃まではまだベアルーリンにいた。

 

しかしロモディ元帥は去年、家族と共にエリアドゥに移住し統一条約脱退と共にそのまま大セスウェナ連邦国民となってしまった。

 

この静かな亡命事件は特に大セスウェナ側に衝撃を与えた。

 

あのウィルハフ・ターキンの盟友にして百戦錬磨の老将が第三帝国ではなく大セスウェナを選んだのだ。

 

古来の英雄の選択に大セスウェナ中が歓迎して迎え入れた。

 

そこでロモディ元帥は連邦軍側からも名誉元帥の称号を与えられ、惑星アヴェラムの地上軍戦略大学で名誉教授として将校達の教育に携わっていた。

 

スキンヘッドの老将が行う講義は連邦軍の未来ある将校達からの評判もとてもいい。

 

ちなみに大セスウェナ連邦軍は大将軍の代わりに元帥の階級を置いている為、ロモディ元帥が持つ名誉元帥は国防軍の大将軍に相当する。

 

その為亡命時にロモディ元帥は実質的に昇進していた。

 

なお国防軍における元帥の階級と同列の元帥(Normal Marshal or Fleet Admiral)も存在するが、規定としてこの階級に達した者はすぐに大将軍や大提督と同列の上級元帥(High Marshal or High Fleet Admiral)に昇進する為、現在この階級を持っている将校はいなかった。

 

ハブリン航空元帥も肩章には元帥を示す5つ星と大将軍や大提督と同列を示す襟章、階級章をつけていた。

 

「ロモディ元帥は退役したとはいえ1年前まで第三帝国にいた身、向こうの軍の内情に少しは通じている為明日行われる指揮幕大での第三帝国への対策協議に必要だと呼ばれたらしい。無論我々の局もな」

 

「協議に参加しろとのことですね?それでしたら私より局長の方が適任だと思われますが」

 

「昨日、統合本部で臨時の会議が開かれるらしくて私もそこに参加するよう呼び付けられた。だから本当は私が行きたかったんだが…」

 

「会議の重要度的に行けなくなった、ということですね」

 

バスト提督は「その通り」と答えた。

 

提督はデスクからデータチップを取り出しアイゼンハール少将に渡した。

 

「協議の資料だ、忙しいとは思うが目だけは通しておいてくれ。協議には君と作戦副部長のペレール上級大佐が参加する」

 

「ジェーロウ少将は留守番ですな」

 

「ああ、その通りだ。朝から呼び止めてすまなかったな」

 

少将はデータチップをベネリス大尉に渡し、「問題ありませんよ」と言って敬礼し執務室を離れた。

 

そこからオフィスへ戻る為2人は暫くビル内の廊下を歩いた。

 

アイゼンハール少将はふと「元帥か…」と呟いた。

 

「ロモディ閣下とはお知り合いでしたか?」

 

少将の独り言をベネリス大尉は聞き逃さなかったようでそう尋ねてきた。

 

少将は苦笑しながら首を振った。

 

「いやいや、そんなことないよ。ただ私からすれば雲の上の人のようだと感じただけさ」

 

「少将ほどの人物でもそう思うんですね」とベネリス大尉は呟いたが認識としてはそうではない。

 

アイゼンハール少将の能力は少将以上であっても気持ちはまだ燻っていた頃の中佐時代で止まっていた。

 

その為ロモディ元帥のような名の知れた名将は別世界の人間だと感じていたのだ。

 

しかしアイゼンハール少将はまだ知らない。

 

これから数年以内に起こる戦いによって彼の名声はロモディ元帥に勝るとも劣らないものになることを。

 

 

 

 

-第三帝国領 コア・ワールド コルスカ宙域 コルサント星系 首都惑星コルサント 国防軍最高司令部-

各地では第三帝国の不穏な動きを考慮して新たな防衛計画を立ち上げつつあった。

 

ホズニアン・プライムが陥落し、新共和国が崩壊してから早3年、戦争は終わるどころか増えるばかりであった。

 

そしてこの長い長い戦争はまだ数年は確実に続く。

 

戦争を起こした張本人たる第三帝国が戦争を止める気がないからだ。

 

次なる侵略地を定め、彼らは再び幾百万の軍勢を送り込む。

 

その為の草案もようやく完成した。

 

ロンゼルベルク中佐は上官であるヨーデル上級将軍に提出へ向かった。

 

上級将軍の執務室前には統帥部の幕僚達が待機しており、若干の賑やかさがあった。

 

幕僚達はロンゼルベルク中佐を少し見て気にする様子もなく、すぐに同僚との会話に入った。

 

中佐も彼らに挨拶している暇はない為執務室へ急ぐ。

 

執務室への入室が許可され、中に入ると統帥部長のヨーデル上級将軍は煙草を片手に数人の将校達と談笑していた。

 

そのうちの1人は統帥部本土防衛課長のヴァルテ・ヴァルモンド少将、もう1人はヨーデル上級将軍の弟であるフェデルト・ヨードル上級大佐である。

 

3人とも煙草を片手に会話を楽しんでいた。

 

「ベンハート・ヴィンター・ロンゼルベルク中佐、閣下に作戦草案の提出に参りました」

 

中佐は挨拶と敬礼を行いその場の3人も敬礼を交わした。

 

ヴァルモンド少将とヨーデル上級大佐は立ち上がって執務室を出て行こうとするが、ヨーデル上級将軍が「残ってて構わん」と2人に告げた。

 

中佐は草案の入ったタブレットとデータチップを上級将軍に手渡した。

 

ロンゼルベルク中佐が作成した草案をヨーデル上級将軍は静かに読んだ。

 

彼が考えた作戦はこうだ。

 

2つの軍集団を北西部アウター・リムに向け、未知領域には精鋭部隊を集めた1個軍集団で首都惑星まで進軍する。

 

これはマーケス少将が考えた作戦案と同じだ。

 

変更点は部隊配置と北西部アウター・リムでの作戦である。

 

オリンダから進撃した国防軍は一気に惑星カーラックまで進撃して一時的に部隊を停止する。

 

ロンゼルベルク中佐は敵の野戦軍撃滅の為、ボロスクではなくこのカーラックを決戦の地と選んだのだ。

 

カーラックまでならチス軍は水際防衛がまだ可能と考え、不完全な状態の敵軍に打撃を与えられる。

 

その間にアイソアから進軍した隊はアガマーまで強襲し、カーラックの開戦と同時にボロスクまで進軍する。

 

こうして相手の退路を断ち、敵の野戦軍を撃滅するつもりだった。

 

開戦の初段階でで野戦軍を撃破し、捕球戦が伸び切ったところに反撃を受ける可能性を減らす。

 

後の流れはマーケス少将の草案とさほど変わった点はない。

 

野戦軍を撃破した後は政治の中枢たる首都を攻撃し、政府機能を簒奪する。

 

こうしてチス領全体を制圧し、作戦を完遂するのがロンゼルベルク中佐が考えた草案であった。

 

「敵の主力は全て我々から見て後方に配置されています。ですのでカーラックまで敵を引き摺り出します」

 

「確かに、早期の野戦軍撃滅は作戦を進める上で必要不可欠だ。防衛課長、敵側の立場に立った時、君ならカーラックで決戦を選ぶか?」

 

ヨーデル上級将軍はヴァルモンド少将に尋ねた。

 

本土防衛課長である彼の率直な意見が聞きたかったのだ。

 

一般的な帝国軍人と同じオールバックの髪型である少将は「選ぶでしょう」と断言した。

 

「この段階なら水際防衛は可能です。この時点なら周辺部隊を投入して敵の進撃地点まで反攻することも可能でしょうし、何より政府の側が望むでしょう」

 

ヴァルモンド少将の意見を踏まえてヨーデル上級将軍はロンゼルベルク中佐の草案を受け入れた。

 

「よくやった中佐、この草案はカイティス大将軍に提出する。君の任務はこれで終わりだ。ご苦労だったな」

 

中佐は敬礼して統帥部長の執務室を後にした。

 

代わりにヨーデル上級将軍は統帥部幕僚のフェレンツ少佐を呼び出した。

 

少佐は先ほどのロンゼルベルク中佐と同じように敬礼し命令を待った。

 

「カイティス大将軍はまだ総統府の方にいるな?」

 

「はい、本日は午後13時まで総統府でヴェンデル少将と共に宣伝省の閣僚と啓蒙会議を開いています」

 

「カイティス大将軍が到着したら直ちに書類の提出に行くぞ。早急に作戦計画を本腰を入れて進めなければ」

 

ヨーデル上級将軍の手には後にロンゼルベルク・プランと呼ばれる作戦計画草案があった。

 

次の戦争までもう秒読み段階だ。

 

 

 

 

-第三帝国領 首都惑星コルサント 第9FF装甲擲弾兵師団”タンティスベルク” 第4兵舎-

ジークハルト率いる第9FF装甲擲弾兵師団”タンティスベルク”はチェンセラー・フォース時代から首都圏に部隊を展開していた。

 

かつては連隊だったこの部隊は4年の歳月を経て師団まで昇格した。

 

将兵の数は2万5,000人以上に膨れ上がり、その分師団が管轄する兵舎の数も増えた。

 

そのうちの第4兵舎には第69FF義勇擲弾兵大隊の下士官兵達がを寝泊まりをしていた。

 

兵卒の兵舎は基本的に4人1部屋であり、1室には2段ベッドが2つと机が2つあった。

 

2段ベッドと言っても帝国軍の兵舎は共和国グランド・アーミーのものを参考にしており、就寝時はベッドが内部に収納された。

 

一方分隊長や班長を務める下士官達に与えられる部屋は2人部屋であり、基本的には分隊長と副分隊長が共に生活している。

 

そんな兵舎の玄関前で2人の兵士がぼーっと空を眺めていた。

 

「なあペテルや」

 

そのうちの1人、ヴィゴン上等兵は支給品のタバコを吸いながら空を眺めている。

 

名前を呼ばれたペテル上等兵も同じようにタバコを嗜み、「なんだ」と聞き返す。

 

本来は第三帝国の公共施設でタバコを吸うのは御法度であったが、保安局員以外は誰も注意しないし誰だって吸うので殆ど形骸化していた。

 

「コルサントの空は青いなぁ、ミンバンの空とは大違いだ」

 

ミンバンの激戦地から帰ってきたばかりの彼らはコルサントの空でさえ未だ新鮮に見えた。

 

数ヶ月に渡る激戦は彼らの記憶と心に深刻なダメージを与え、二度と忘れない残酷な痛みを植え付けた。

 

今では故郷ライオサの空は上手く思い出せないのに、砲撃を喰らって上手く呼吸が出来ない時に見たミンバンの薄汚い空はよく覚えている。

 

「そりゃあ、あんなところ早々ないよ。俺は今でも肺カビになっていないか心配だ」

 

惑星ミンバンの大気にはカビの胞子が常に待っている。

 

その為ミンバニーズ以外の生命体は専用の呼吸器を付けるか後で肺を洗浄しなければ胞子が肺に入って肺真菌症などになる恐れがあった。

 

少なくと彼らはミンバンからの離脱時に全員が肺を洗浄したので大丈夫なはずだったがそれでも心配は残る。

 

「まあ大丈夫だろう、しっかり洗ったし。当分はここにいてぇなぁ」

 

「ああ全くだ、非番に街に出りゃあえらいモテたしなぁ」

 

2人ともそれでも数ヶ月間はミンバンという激戦区において最前線で戦って生き残ってきた上等兵だ。

 

それなりに勲章も貰っていたのでバーなどに行けば自慢話には事欠かなかった。

 

2人がコルサントの青い空を見ていると一隻のセキューター級の影が見えた。

 

それを見て彼らは忘れたかった現実を思い出した。

 

こうして話していてもいつかは必ずミンバンと同じような戦場へ送り込まれるだろう。

 

「…今度戦場に行ったら俺たち生き残れるかね」

 

ふとヴィゴン上等兵はペテル上等兵に尋ねた。

 

ペテル上等兵は「そんなの分かるもんか」とぶっきらぼうに返す。

 

自分達は生き残ってきたがそうはならなかった者達を大勢見てきた。

 

ほんの少し伏せるのが遅くてブラスター砲の餌食になった奴、先頭を走っていて地雷を踏んだ奴、流れ弾に当たった奴。

 

戦っている間は戦うスイッチが入ってるからそこに割かれる思考と感情は決して多くない。

 

だが一度戦いが終わると生き残った感触と勝敗の後に戦死した仲間の顔が出てくるのだ。

 

そして少なくとも1時間はそういったことについて考えてしまう。

 

どうして自分は生きていて彼は死んでいるのか、本当に自分は生きているのか、生きていると思っている今は死人が最期に見る悪足掻きの夢なのではと。

 

バーレン軍曹は「よくあることだから割り切れるようになる」と言っていたが自分達はまだその域には達していないらしい。

 

そんなことを2人が各々個別に考えていると遠くから丁度バーレン軍曹の声が聞こえた。

 

「ペテル、ヴィゴン!」

 

「軍曹殿!」

 

2人は急いでタバコの火を消して、ポケットに雑に詰め込んで敬礼した。

 

バーレン軍曹の後ろには2人の下士官の階級をつけた兵士が荷物を入れたバッグを持ってこちらに近づいていた。

 

「今は暇してたか」

 

バーレン軍曹が2人に尋ねた。

 

あまりにミンバンでの軍曹の姿を見すぎたせいで制帽に下士官用の制服を着た姿は逆に戸惑いを覚える。

 

「ハッ!休息を取っていたところです!」

 

「そうか、じゃあ挨拶だけだな。こちらの2人が前に言った新しい分隊の分隊長と副分隊長を務めるバルベッド軍曹とゼルテック伍長だ」

 

バーレン軍曹の紹介でバッグを下ろしたバルベッド軍曹とゼルテック伍長が敬礼した。

 

彼らは元々所属していた第30FF義勇擲弾兵大隊から移動してきたのだ。

 

ゼルテック伍長は下士官に昇級し伍長としてバルベッド軍曹のサポートを任された。

 

2人とも制服には様々な略綬の他にナブー従軍盾章と親衛隊名誉鑑章がついていた。

 

「新しく分隊長になるバルベッドだ、よろしく」

 

「副分隊長のゼルテックだ、よろしくな」

 

新しい直属の上官達に握手を交わし、ペテル上等兵とヴィゴン上等兵も挨拶した。

 

彼らが激戦を潜り抜けてきた古参兵であることはもう軍服を見れば明らかだ。

 

何よりバルベッド軍曹とゼルテック伍長の表情と目はペテル上等兵とヴィゴン上等兵の2人と全く同じであった。

 

戦争から身体だけが帰ってきた目をしている。

 

思えば新しい師団長もそうだ。

 

あのジークハルト・シュタンデリスという少将は前の師団長と比べて随分親近感が湧くような目で自分達に向かって話していた。

 

他の副師団長や参謀長達もだ。

 

「まあ仲良くやろうや、ミンバンの英雄達」

 

向こうもペテル上等兵とヴィゴン上等兵を只者ではないと認識したようで一言付け加えた。

 

彼らは似たもの同士だ、もう家に帰ることが出来ないところも含めて。

 

ジークハルトの師団で新しい兵士の絆が生まれた。

 

 

 

 

 

1時間ほど時は経ち、コルサントは丁度昼頃になった。

 

師団の将兵達は昼食を摂る為に食堂へ急いだ。

 

将兵と言っても下士官兵と将校では食堂が分かれており、戦場にでもいない限り共に食事を取るのは稀であった。

 

師団の部隊長や幕僚を務める将校達は皆士官食堂へと足を運び、昼食を摂る。

 

当然この士官食堂にはジークハルトもいた。

 

テーブルの奥の方ではジークハルトが参謀長のクラインバッハ大佐、副師団長のアデルハイン准将、そして作戦参謀のエルリート・ブロンゼル中佐と昼食を共にしていた。

 

メニューは軍用パンとイオピーシチュー、主食としてソーセージが数本乗った皿にサラダと付け合わせのブルー・キャベツのザワークラウトが乗せられている。

 

4人はナイフとフォークでソーセージを切り分け、ザワークラウトと共に食べていた。

 

食事中とはいえ彼らの会話は専ら仕事の話ばかりだ。

 

「さっきも話した通り、我々は当面前線に繰り出されることはない。あくまで予備戦力としてコルサントに残る」

 

ジークハルトは師団の諸将に再び説明した。

 

そう遠くない日に起こる未知領域侵攻は国防軍主導であり親衛隊も参加はするがジークハルトの師団は参加部隊に含まれていない。

 

基本的には北西部に駐屯する親衛隊が作戦に参加しコルサントらコア・ワールドからは第1FF装甲兵団ら一部が投入される。

 

つまりジークハルトの第9FF装甲擲弾兵師団はお留守番というわけだ。

 

「良いことではないですか、暫くは将兵の錬成に専念出来ます」

 

参謀長クラインバッハ大佐は赤髪が目立つジークハルトとアデルハイン准将らの1個下の後輩だ。

 

帝国ロイヤル・アカデミーを中尉の階級で卒業し、ヤヴィン戦まではタッパーニ宙域軍司令部の連絡要員を務めていた。

 

ヤヴィン戦後は定期昇進を急速に早められ大尉となり、カリダ地上軍大学で上級課程の教育を受けた。

 

ジークハルトの部隊に来たのは親衛隊に入ってからであった。

 

ジークハルトが旅団長になったタイミングでクラインバッハ大佐も同旅団の参謀長に就任した。

 

元々ジークハルト達の後輩ということもあり、受け入れは早かった。

 

「新しく入ってきた部隊も馴染ませないとな。やはりここは一度師団総合演習をやって全部隊の連携を高めるべきだ」

 

アデルハイン准将のいう総合演習とは旅団以上の部隊が行う作戦行動の演習だ。

 

まず軌道上の敵艦隊を撃破ないし抑え込んで地上部隊を展開する。

 

展開した地上部隊は陣地を構築し、諸兵科連合を用いて敵地上軍を破砕し作戦目標の達成に全力を費やす。

 

その間にスターファイター隊は宇宙と地上に分かれて艦隊防空と航空支援を行い、余力があれば宇宙艦隊と共に地上軍を援護する。

 

結果的に演習参加部隊が作戦目標を達成すればそれで成功、そうでなくても部隊の弱点を洗い出し改善点を見つけることが出来る。

 

この銀河における艦隊戦、上陸戦、航空支援、地上戦という一連の戦争の流れが実践出来る為最低1年に一度は総合演習を行う事が義務付けられていた。

 

尤もこれはあくまで平時の話であり、有事の際は総合演習を取り止めても良かった。

 

第9FF武装擲弾兵師団は改編前にナブーの奪還を行った為有事の理由で行わなくても良かった。

 

しかし最後に演習を行なったのは師団改編前の話であり、新たに所属部隊も増えた為各隊の練度と指揮の要領を図る為にも総合演習を行なっておきたかった。

 

実戦を切り抜けた後に休息を挟んで定期的に訓練を行うとその隊は常に高い練度を維持出来る。

 

「しかし演習場所は取れますかね?」

 

ブロンゼル中佐は3人に尋ねた。

 

中佐は銀河内戦期の頃からジークハルトの部下だった士官だ。

 

ウェイランド戦では連隊を離れベアルーリン親衛隊軍事大学で参謀としての能力を身につけ、旅団改編時に戻ってきた。

 

師団司令部作戦課を束ね、参謀長のクラインバッハ大佐をよく支えている。

 

そんな作戦参謀が心配したのは演習場の確保であった。

 

銀河は広しと言えど軍の演習指定場所は限られている。

 

しかも最大の問題はその演習指定場所を他の部隊が殆ど使っているという点だった。

 

「モーデルゲン上級大将に聞いたがどの演習場も北西総軍の部隊が使っている。今届出を出しても演習をやるのは再来月になるだろう」

 

「…だよなぁ」

 

アデルハイン准将もそのことには薄々勘付いていたようで諦めたような表情で食事に戻った。

 

再来月というだけでも十分マシな部類だ。

 

今や第三帝国は北西でも南部でも軍を鍛え、次の戦いに備えようとしている。

 

戦争の終わりは当分先になるだろう。

 

「まあ再来月までにやれることはある。参謀長、幕僚連中と指揮官を集めて週1で図上演習を行え。可能な限り経験を積ませたい」

 

「分かりました、日程を調整します」

 

クラインバッハ大佐はジークハルトの命令を了承すると水を一口飲み、再び食事に戻った。

 

一先ずこの話題は終わり、次の話題へと移った。

 

ブロンゼル中佐がジークハルトにあることを尋ねた。

 

「閣下、この際です。閣下が予測されている我々が戦場へ急行した場合の地域についてお教えください」

 

「私の予想か?」

 

「はい、図上演習を行うにしてもその方が戦場の指定が容易くなります」

 

惑星によって気候は様々である。

 

タトゥイーンのような砂漠地帯もあれば、ホスのような極寒、キャッシークのような森林地帯と大きく異なる。

 

無論基本的に戦場になるような惑星は殆どの場合が気候探査を終えており、地理的特徴と気候的特徴を掴んでから部隊を設定し戦場へ向かう。

 

冬季地帯にサンド・トルーパーを投入するなどもっての外であるし、その逆も然りだ。

 

その為演習をするにしてもより実戦に近い演習を行うには本当に戦う可能性のある場所にする必要があった。

 

ジークハルトは少し考え、可能性を述べた。

 

「我々は今回の作戦だと後詰めも後詰め、作戦の進行度合いにもよるだろうが作戦は後半になるだろう。だとすれば最奥に位置する首都惑星シーラか、ベスケード、ダブリリオンなはずだ」

 

この三惑星に帝国軍が接近する頃にはもう作戦は終盤に近い。

 

チス・アセンダンシーがどの程度抵抗するかは分からないが場合によっては初戦から投入する兵団や隷下の師団は3、4割、多くて5割以上は損耗しているだろう。

 

こうした疲れ切った部隊との交代でジークハルトの”タンティスベルク”が投入される可能性は高かった。

 

「ではご指定された惑星の地形を演習地点に設定しましょう」

 

「ああ、任せた。出来れば我々の出番なく、作戦が終わってくれればいいのだがな」

 

ジークハルトは願いも込めてそう呟いた。

 

尤も彼も帝国軍の作戦が失敗するとは思っていなかったし、相手は連戦で疲弊した敗残兵の残存勢力だろうと踏んでいた。

 

ジークハルトにはフォース感受能力はない。

 

あったとしても今の彼と同じく、未来を完全に見通すことは難しいのだが。

 

 

 

 

 

―チス・アセンダンシー=亡命帝国領 アウター・リム・テリトリー アルバリオ宙域 マイギートー星系 惑星マイギートー 軍管区司令部―

ヴァシレフスキー少将ら幕僚団を乗せたラムダ級シャトルは未知領域のハイパースペース・ルートを通ってマイギートーへ向かった。

 

操縦手はミリル・ニキーチン大尉と予備パイロットとしてワレリー・コロチェンコ大尉が務め、機長は幕僚団の1人でもあるセルゲイ・ルデーンコ大佐が務めていた。

 

ラムダ級はマイギートーの大気圏内に突入し、軍管区司令部のハンガーベイに向かった。

 

『シャトルST-445、入港許可コードを送信せよ』

 

「了解、コード送信」

 

ニキーチン大尉がコードを送信し、司令部からの返答を待った。

 

正確な進入角度とラムダ級の優れた装甲によって大気圏突破の熱もものともせず、惑星内に入った。

 

コード送信から2分後、司令部から回答が出た。

 

『シャトルST-445、コードを確認した。第3ハンガーベイに向かわれたし』

 

「了解」

 

ラムダ級のナビゲーション・システムにハンガーベイまでの行先が表示され、それに合わせてニキーチン大尉がラムダ級を操る。

 

ルデーンコ大佐は「ここは任せたぞ」と伝えて、席を立った。

 

ラムダ級の乗員室に向かって乗客達に着陸を伝える為だ。

 

「少将、間もなく司令部に到着します」

 

ルデーンコ大佐は敬礼し、他の幕僚達と話しているヴァシレフスキー少将にそう伝えた。

 

ヴァシレフスキー少将の隣に座っていたレトロヴィチ・ポクロフスキー少将は「後何分ほどで到着するのかね?」と尋ねてきた。

 

「10分も掛からないと思います。ハンガーベイには第3ベイに着陸します」

 

「分かった、そろそろ降りる準備をしましょうか」

 

ヴァシレフスキー少将はポクロフスキー少将と話して荷物を纏め始めた。

 

その間にラムダ級は大気圏内を飛行し、司令部に向かった。

 

目標のハンガーベイが近づくとナビゲーション・システムが誘導ビーコンを表示した。

 

それに合わせてラムダ級が角度を合わせてハンガーベイに入る。

 

両翼を畳んでラムダ級は静かに着陸した。

 

『到着しました、ハッチ開きます』

 

ニキーチン大尉の報告と共に、ラムダ級のハッチが開き幕僚団が外に出た。

 

ハンガーベイでは2個分隊ほどのストームトルーパーが出迎えで待機していた。

 

そして隊列の真ん中では軍管区司令官とその副官、作戦部長が待っていた。

 

「やあ同志!長旅ご苦労」

 

プライド将軍は敬礼して幕僚団を迎え入れた。

 

ヴァシレフスキー少将も久しぶりの友人との再会で表情が緩み、2人は固い握手を結んだ。

 

「体調はどうだ?」

 

「健康そのものだよ、君の方はどうだ?」

 

「1人でコアの連中も蹴散らせそうな勢いだよ」

 

互いに肩を叩き合い、笑いあった。

 

「同志少将、久しぶり」

 

「バグラミャン、こちらこそ久しぶり。変わりないか?」

 

スキンヘッドに整った口髭、温厚の二文字を瞳に宿したような地上軍准将、イヴァン・バグラミャンは同じように固い握手を交わした。

 

ヴァシレフスキー少将とバグラミャン准将は同じ帝国アカデミー上級課程の卒業生であり、プライド将軍同様交流は深かった。

 

「ああ、元気そのものだ、君も変わりないか?」

 

「勿論、君達と共に働けるのは嬉しいよ」

 

3人が話している間に幕僚団のイヴァシェチキン大佐がヴァシレフスキー少将に声を掛けた。

 

「少将、我々は先に失礼します」

 

「ああ、すいません。先に宿舎の方へ行ってください」

 

「では!」

 

イヴァシェチキン大佐は敬礼し、その他の幕僚と共に荷物を持って宿舎の方へ歩いて行った。

 

プライド将軍は気を利かせて「続きは私の部屋で話そうか」と提案した。

 

3人は軍管区司令官の執務室に向かい、とっておきのウォッカを用意して2人に振舞った。

 

執務室前のテーブルにはヴァシレフスキー少将とバグラミャン准将の制帽と手袋を置いていた。

 

ウォッカを口に含んで味とアルコールを楽しみながらヴァシレフスキー少将は口を開いた。

 

「…第三帝国の状況はどうだ」

 

彼が尋ねた事情はとても重たいものだ。

 

プライド将軍は少し間をおいて問いに答えた。

 

「部隊は日に日に増えているし、訓練も増加傾向にあると情報総局は言っている。特に国境軍の連中は随分と怯えている様子だ」

 

「じゃあ侵攻は」

 

「確実だろうな、連中何を考えてるか分からんが反乱軍との戦争をほっぽり出して我々と戦うつもりらしい」

 

プライド将軍はソファーから立ち上がって壁に掛かっている星図に2人の視線を寄せた。

 

将軍は近くにあった棒を手にし、各惑星を指し示した。

 

「連中は恐らくオリンダ、アイソアから侵攻を始めるつもりだ。勿論現状の戦力では防衛は不可能に近い」

 

「なんとかバスティオンの主力を国境沿いに配置出来ないのかね?」

 

バグラミャン准将はヴァシレフスキー少将に尋ねた。

 

現在の亡命帝国軍とチス・アセンダンシー軍は軍事戦略として”外銀河からの敵”に目を向けている為、国境の戦力はそれ程多くはなかった。

 

その為いざ開戦すれば防衛は不可能であり、最悪プレフスベルト宙域が丸ごと失陥する恐れもあった。

 

「シャポシニコフ元帥も他の将軍達も掛け合っているが中々上が納得してくれない」

 

「であれば水際防衛は諦めるしかないな」

 

プライド将軍はきっぱりとそう言い放った。

 

彼は冷徹なリアリストであり、時には人命すら割り切る冷酷さもあった。

 

この冷酷さは全ての将官達が持ち合わせているものだがプライド将軍のそれはより強固なものだ。

 

同時にプライド将軍のそれは将軍として重要な面でもあった。

 

「君がこっちに来ると聞いて我々も少しばかり先んじて色々考えてみた。”()()()()()()”用の戦力が出せない以上、カーラックとペスファヴリは守り切れない。無論タダでくれてやるつもりはないが」

 

「というと、遅滞戦闘か?」

 

ヴァシレフスキー少将の発言は大当たりだった。

 

プライド将軍は大きく頷き、説明を続けた。

 

「我々の方面ではアルデニアとカーラックで遅滞戦闘を行い、その間にボロスクとガルキーを絶対防衛線を構築して足を止める。その頃には後方の予備戦力が動員出来るだろうから反撃としてこれを送り込んで戦線を押し戻す」

 

彼らは第三帝国がこの数年間ずっと戦争を続けている間に軍備を整えていた。

 

全ては”()()()()()()”に立ち向かう為だが当然第三帝国相手にも転用できる。

 

「連中に一発殴られるのは覚悟の上だ。その上で連中が値を上げるほどこちらが拳を叩き込むしかない。それも飛び切り鋭いのをな」

 

コア・ワールドで戦争計画が練られている頃、こちらでも防衛計画の立案がスタートしつつあった。

 

 

 

 

 

-第三帝国領 アウター・リム・テリトリー オジョスター宙域 ウェイランド星系 惑星ウェイランド ミディ=クロリアン研究所-

ウェイランド研究所には新しい施設が建設されていた。

 

元々設置されていた研究所用のハンガーベイを拡張し、より大きな飛行場を建設し始めたのだ。

 

何故このような飛行場を建設し始めたのか、理由は幾つかある。

 

1つはウェイランド全体の防空能力を高める為、もう1つはこの研究所でいずれ誕生する人為的に生成されたフォース感受者専用のスターファイターの研究開発を行う為であった。

 

かつてジェダイが将軍として戦争に駆り出されていた頃、旧共和国軍はイータ2アクティス級インターセプターなどフォース感受者専用のスターファイターが投入された。

 

結局”ジェダイの反乱”によりこうしたスターファイターは一部のエースパイロットしか扱えず、結局TIEシリーズの正式採用によって姿を消した。

 

その後こうしたハイエンド機開発計画はアドバンストシリーズやTIEディフェンダーなど一部に限定された。

 

それが今になって復活し始めたのだ。

 

「飛行場開発の為に第386独立工兵旅団まで連れてくるなんて」

 

タバコを吸いながらウェイランド駐屯軍司令のメルデ・ヴェンデンバッハ中将はそう呟いた。

 

彼はヴォーレンハイト少将を含めたウェイランド全軍の指揮権を持っており、ウェイランドの防衛責任者は彼であった。

 

目元の彫りは深く、皺が目立つこの中将は一見すると疲れているという感想を全員が抱くことになるだろう。

 

「ここには新たに第763飛行大隊が配属される。基本的に指揮権は君にあるが部隊の実務はヴェルカー少佐に任せたまえ」

 

「ありがとうございます、責任者といっても私は所詮ただの研究者ですから」

 

ヴォーレンハイト少将は自分を卑下し、中将と同じくタバコを吸った。

 

飛行場開発の為に投入された工兵隊はウェイランドに展開して僅か10日でもう殆ど建設前とは姿が変わった。

 

AT-ACTが資材を運搬し、AT-CTが資材を配置して建設を続けている。

 

「しかし新型スターファイターの開発といっても中身のパイロットがまだ生産出来ていない以上、無駄足になるかもしれませんが」

 

ヴォーレンハイト少将は悲観しながらそう呟いた。

 

ヴェルデンバッハ中将は彼の方を見ながらふと尋ねた。

 

「私も中将がアクセス出来る範囲でしか資料は見ていないが、君は過去に成功させたことあると聞いた。それにあのブルクハルトという少年は成功例で意はないのかね?」

 

「彼はまだ少年です。兵士に足る年齢ではない」

 

「その通りだ、だが運命は決まっている。彼はやがて我々と同じ軍人になってここで開発されるスターファイターを必要とするだろう」

 

中将はタバコの灰を落とし再び口に咥えた。

 

ヴェルデンバッハ中将はシュメルケ元帥やフューリナー上級大将の3個下の年齢で士官学校では彼らの後輩だった。

 

ホズニアン・プライム、北東戦線に参加しその後は暫くケイト・ニモーディア強制収容所の所長を務めていた。

 

駐屯軍司令官に任命されたのはシュメルケ元帥、フューリナー上級大将の後押しが大きかった。

 

彼はウェイランドで行われている研究も肯定的でありヴォーレンハイト少将のこともよく気にかけていた。

 

「やがて戦争は少将が造るフォース感受者の少数部隊によって戦況が決まるかもな」

 

「本気でそう思いですか?」

 

ヴォーレンハイト少将は冗談混じりに尋ねた。

 

ヴェルデンバッハ中将も苦笑を浮かべながら「半分だけな」と付け加えた。

 

戦争とは2以上つの組織の激突である。

 

かつては一騎当千の兵が戦況を決めたかもしれないが、戦争全体が銀河に広がった今日ではそうも行かない。

 

優位に進める事は出来ても確実に戦況を決めるのは難しいだろう。

 

無論、だからといってヴォーレンハイト少々の研究が無駄というわけではない。

 

「戦争は新しい技術が時に状況を変える。だから我々は常に新しい技術、戦術を欲しているのだ。この研究所も、この飛行場も我々が勝つ為には全て必要なのだよ」

 

ヴォーレンハイト少将は何も言えなかった。

 

彼は悪人ではないが善人でもない半端者だ。

 

自分の悪行に気づいておきながら今更止めることは出来なかった。

 

故に突然中将に反論することも出来ないでいた。

 

すると遠くの方からヴォーレンハイト少将を呼ぶ声が聞こえた。

 

研究員の1人、イェンカー中尉だ。

 

中尉はヴェルデンバッハ中将を見るなり彼に敬礼した。

 

中将は気を遣って一旦その場を離れイェンカー中尉はヴォーレンハイト少将に報告を行った。

 

「今年度のMカウント数値の再調査書が届きました。こちらになります」

 

そういって中尉はタブレットをヴォーレンハイト少将に見せた。

 

今年度、全国のコンプノア・ユーゲントと帝国アカデミーで行ったミディ=クロリアン数値の調査には一部誤りがあった。

 

使用した機材が正常に数値を計測出来ず、本来要件を満たしているはずの子どもが不合格になったりした。

 

その為時間を取ってもう一度調査を行い、ようやくその報告書が纏まったのだ。

 

「こちらに記載されているのが要件を満たした被検体候補です。1ヶ月後にこちらに搬送される手筈になっています」

 

「この再検査の可能性あり、と記載されているのはなんだ?」

 

ヴォーレンハイト少将は最後のページまで目を通し、気になったことをイェンカー中尉に尋ねた。

 

この中には2年前にコンプノア・ユーゲントになった子ども達が記載されていた。

 

「向こうのユーゲントの教官達が一応記載したやつです。ほら、この世代って調査に不正があったじゃないですか」

 

2年前、8ABYにコンプノア・ユーゲントへ入学した子ども達は検査の際一部の将校が我が子の調査記録を改竄するという事件が発生した。

 

尤も調査の監督を行っていたフリシュタイン准将によってすぐに摘発され、正確な調査報告書がウェイランドにも送付されたはずだった。

 

「それで何人かが妙に勘が鋭かったり運動神経が良すぎたりと、調査漏れの可能性がある生徒がいると教官達が言い出しまして」

 

「つまり気にしすぎってことか?」

 

「まあ簡単に言えばそうなりますね。再調査の手間も面倒ですし放置で良いかと」

 

イェンカー中尉は最後に「勘がいい、運動神経がいい子なんてごまんといますし」と付け加えた。

 

実際勘の良さや運動神経の良さだけでフォース感受者かどうかを判別するのは難しい。

 

恐らくは教官達の気にしすぎだろうということでヴォーレンハイト少々もスルーしようとした。

 

ある2人の情報が記載されていなければ。

 

「これは……確か前に見た……」

 

「どうかされましたか?」

 

1人は銀髪の髪色に優しそうな風貌、もう1人は青い髪色と瞳、物静かな雰囲気の少女。

 

かつてコンプノア・ユーゲントの視察に訪れた際に目撃した2人だ。

 

恐らくこの2人は”()()()()()使()()()”。

 

そしてヴォーレンハイト少将は2人の名前を見て驚いた。

 

マインラート・シュタンデリスとホリー・シュタンデリス。

 

あのジークハルト・シュタンデリス少将の子どもだ。

 

「ああ、シュタンデリス少将のお子さんですか。そりゃ優秀ですよ、親がアレですもん」

 

イェンカー中尉は2人の名前を見てそう判断した。

 

彼はもう無駄な項目と割り切っているようだったが少将は違う。

 

「中尉、この資料少し預からせてもらうぞ」

 

「いいですが、まさか再調査しろなんて言いませんよね?バエルンテーゼ上級大将辺りが苦言を呈してきますよ?」

 

「再調査するつもりはないが……少し考えさせてくれ。後で実験に戻る」

 

そういってヴォーレンハイト少将はタブレットを持ったままどこかへ歩き出した。

 

繰り返すが彼は善人ではない。

 

彼はあくまで壊れかけの悪魔である。

 

そんな悪魔の博士がこの資料を見て思うことは限られていた。

 

 

 

-チス・アセンダンシー=亡命帝国領 未知領域 首都惑星シーラ 首都クサプラー 国家統合保安本部-

NISBの上級将校達がクサプラーの本部へ結集した。

 

定期的に行われるNISBの国家保安報告会議であり、参加する将校達は皆方の肩章に将官を表す菱星をつけていた。

 

会議場は円形上のテーブルを挟んで将校達がそれぞれの席に座り、側には佐官級の将校を引き連れている。

 

執務室は真っ白で巨大なモニターが4箇所に取り付けられていた。

 

この会議の議長はNISB長官であるラブリジョフが務めており、彼は各諸将に前説明を行なっている。

 

ある者は真剣な表情であったが、別のある者は今すぐにでも帰りたそうな表情をしていた。

 

そうした諸将の顔を1人ずつ見ながらラブリジョフ長官は話した。

 

「諸君も知っての通り、我々の銀河は常に見えざる危機に脅かされている。この銀河には数多のスパイが潜み、安全な地域はすでにないかも知れない」

 

この事は誰もが理解していた。

 

()()()()()()”はいつ頃かは不明だがこの銀河に大量のスパイを放っていた。

 

ここ数十年間の間、銀河で起きたすべての情報は彼らの本隊へと送られていたのである。

 

NISBはこの状況に対処する為、積極的にスパイ狩りを行ってきた。

 

彼らは時に主権を侵害するような違法行為も厭わず、銀河系のスパイを狩り続けた。

 

現状第三帝国やその他の政府はNISBのスパイ狩りに気づいていないようだが。

 

「かつて私の古い友人が言った、ISBは医療の提供者であると。病を見つけ、出所を探る。それは最も正しい発言だ」

 

ラブリジョフ長官の話を聞いてリオ・パータガス名称NISB専門アカデミー長、ラグレット少将は懐かしさを覚えた。

 

長官の話はかつてラグレット少将の上官が話していた話だ。

 

「だがそれだけでは足りない。我々は病の発見者であると同時に処置を行わなければならない。国軍は国防に専念し、保安はすべて我々で対処しなければならない」

 

今日のラブリジョフ長官は珍しくNISBの白い制服を着て、軍靴を履いていた。

 

彼が将官達の周りを彷徨く度に足音が室内によく響く。

 

「今回はその成果を聞き、今後の方針に活かす会議である。ではまずフィーチン少将の国外部から聞こう。くれぐれも成果を我々に伝えてくれ」

 

フィーチン少将を牽制するようにラブリジョフ長官はわざとらしく言葉に出した。

 

少将もあまりいい顔はしなかったが大人しく成果を伝えた。

 

「我々国外部は調査部と独立兵団と連携して今年に入って13件のスパイを制圧し、現在11件のスパイの特定に成功しています」

 

「ほう、それは凄いな。して、制圧したスパイはどうした」

 

「うち3件は生け取りに成功、残り10件のうち6件は遺体の回収に成功し生物兵器科に回しました。残念ながら残り4件は遺体の回収は困難な為破棄しました」

 

ラブリジョフ長官は満足そうだった。

 

「素晴らしい成果だ。スパイの捕縛は前年の2倍になっている。国外部の絶え間ない諜報活動の成果で銀河の外へ告げ口をする姑息なネズミは死に絶えつつある」

 

「そこで1つよろしいでしょうか、諜報活動を広げる為に我々国外部に人員と予算を増加して頂きたい。必要な要員は今送信した資料に記載されています」

 

各員の席にはタブレットが置かれており、フィーチン少将が転送した要求書が表示された。

 

5個諜報班の増員と必要な予算金額、どれも無茶ではない範囲だった。

 

「人事部長、この要求に対し君はどう見る」

 

ラブリジョフ長官に呼ばれ、人事部長のイサロフメレチアリョシャ少将は質問に答えた。

 

彼はチス人であり普段仲間内からはコアネームではなく苗字に該当するイサロフの名で呼ばれていた。

 

「決して不可能ではない為要求を許可してもいいかと。諜報員に関しては今年度卒業するアカデミーの生徒の割合にもよりますが」

 

「とあるがクラマルチュク少将」

 

今度はウルフ・ユラーレン名称シーラNISBアカデミー長のクラマルチュク少将に尋ねた。

 

NISBの将校を育成するアカデミーは通常の軍事アカデミーと並んで領内に点在している。

 

その為ユラーレンの名を冠した名称はそのまま、アカデミーがある場所をつけて区別した。

 

例えばシーラに位置するアカデミーならシーラNISBアカデミーとなる。

 

クラマルチュク少将はシーラNISBアカデミーの校長であり、全国のウルフ・ユラーレンNISBアカデミーのトップであった。

 

「十分に可能かと。国外部の諜報班を新たに5つ増設するくらいなら問題ありません」

 

「よろしい、ではフィーチン少将の要求を受け入れよう」

 

このように会議は順調に進み、数時間後に会議の終了が言い渡された。

 

最初にラブリジョフ長官に釘を刺されてしまった為、第三帝国の話は出来なかった。

 

ラグレット少将は暫く席から動かずにぼーっとしていた。

 

そこへアバクーモフ少将が肩を叩いて話しかけてきた。

 

「学校長、少しいいか?」

 

「ああ…」

 

ラグレット少将は立ち上がってタブレットを手に取り、アバクーモフ少将と共に歩きながら会話を続けた。

 

2人の背後には彼らの副官や隷下の将校達がついていた。

 

「それで何故私を呼んだ?話し相手なら他にもいるだろう」

 

「あの会議では出来なかった話だ、君は第三帝国についてどう思う?」

 

アバクーモフ少将は直球で尋ねた。

 

ラグレット少将は少し考えながら返答を行った。

 

「危険な連中だとは思っている、よからぬ噂は私の耳にも届いている」

 

第三帝国の戦争準備は一部NISB将校の間で広まりつつあった。

 

ラグレット少将は保守的な人間だが無能ではない。

 

特に危険に関する嗅覚は高い方だ。

 

「では私やフィーチンと組んで長官へ進言を。特に君は長官の信任を得ているはずだ」

 

アバクーモフ少将と違ってラグレット少将は長らくコルサントのISB本部で勤務していた優秀な監査官であった。

 

その間にラグレット少将はラブリジョフ長官の部下だった事もある。

 

その為煩わしい事ばかり言ってくるアバクーモフ少将とフィーチン少将と違ってラグレット少将の発言は比較的に受けられやすい。

 

問題はラグレット少将が乗ってくれるかだった。

 

「私が?」

 

「ああ、君は長官とも親しい。それにNISBの少将が3人も進言すれば流石に聞き入れてくれるだろう」

 

アバクーモフ少将はラグレット少将を説得しようとそう話したがむしろ逆効果であった。

 

この綺麗に頭頂部の髪がすっきりなくなった少将はアバクーモフ少将と違ってNISB長官のことをよく知っている。

 

ラブリジョフ長官は政府の方針には絶対に従う。

 

ヴィルヘルムやリヴィリフが第三帝国への対応を改めない限り彼の対応も変化しないだろう。

 

「長官は少将が3人来ようと中将が3人来ようと意見は曲げないよ」

 

「やってみなければ分からん、これは国の為だ。我々に協力してくれ」

 

ラグレット少将はアバクーモフ少将の提案を無視して歩き出した。

 

痺れを切らしたアバクーモフ少将は脅しを使い始めた。

 

「私の防諜範囲は君のアカデミーにも広がっている。気にかけている教え子や教官を明日にはここの地下に放り込む事だって出来るんだぞ」

 

ラグレット少将は足を止めた。

 

そこにアバクーモフ少将が近づいてきて脅しを込めて再び頼み込んだ。

 

「なあラグレット少将、そんなことは私だってしたくない。我々NISBは同志だ、だから協力してくれ」

 

ラグレット少将の手を握りながらアバクーモフ少将はそう呟いた。

 

これでラグレット少将が同意しなくてもアバクーモフ少将は彼の部下を蹴落とすつもりはなかった。

 

無論少将に対する怒りは溜まるが。

 

「…協力はしよう、だがやり口を変えよう。私がある人宛に状況報告書を書く。だから難しいとは思うが手にした国外情報を出来る限り私に見せてくれ」

 

その提案をアバクーモフ少将は訝しみながらも受け入れた。

 

念の為アバクーモフ少将はあることを付け加えた。

 

「…今度君のアカデミーに部下のブレシェンコ中佐と講義に向かう。その時に資料を持っていくから私の目の前で書け」

 

「分かった、君の前で書くようにしよう」

 

そういって2人は約束を交わした。

 

第三帝国の行動に目を背けつつあった彼らも変わりつつある。

 

銀河は常に変化していた。

 

 

 

-レジスタンス領 アウター・リム・テリトリー カラマリ宙域 モン・カラマリ星系 惑星モン・カラ 軍司令部-

ミントゥーインで適切な治療を受けたジェルマンは僅か3日で復帰し、ジョーレンと共にモン・カラへ向かった。

 

軍医達は口を揃えてもう少し休んでも良いと言ったが体力が落ちることを危惧したジェルマンは早期復帰を選んだ。

 

それに3日でも十分リフレッシュ出来たとジェルマンは豪語していた。

 

久方ぶりに戦前まで読んでいたコミック雑誌を一読し、ホロネットのドラマも見た。

 

ジェルマンにとっては丁度いい休暇であった。

 

ミントゥーインからモン・カラは比較的近く、それほど時間はかからずに到着した。

 

2年前に行った時とは違い、Uウィングは万全であり途中で故障することも敵の襲撃を受けることもなかった。

 

管制官の誘導に従い、再建されたダック・シティに位置する軍司令部に向かうと早速メイディン将軍の下へ向かうよう指示された。

 

これも2年前と大きく違うところで、モン・カラには通常の防衛部隊以外にも数多くのレジスタンス軍部隊が集結していた。

 

しかも驚くべき事に、一部の宇宙ステーションや地上の宇宙港には新分離主義連合の艦艇が停泊していた。

 

エクセゴルで共闘した連合軍の艦隊がモン・カラに集まっていたのだ。

 

地上の軍司令部には連合軍の将校達が各所の通路で見受けられた。

 

この光景を見てジェルマンとジョーレンは薄っすら何が起こるか勘付いていた。

 

「失礼します、ジョーレン・バスチル少佐、ジェルマン・ジルディール大尉、出頭しました」

 

2人は敬礼し、特殊作戦軍の作戦室にいた幕僚達とメイディン将軍に挨拶した。

 

幕僚達とメイディン将軍も敬礼を返し「よくきた」と2人を労った。

 

「長旅だっただろう。それにジルディール大尉は怪我の具合はどうだ?」

 

「全快であります、いつでも帝国と戦えますよ」

 

ジェルマンは強がってそう豪語し、隣でジョーレンは若干不安そうな表情を浮かべていた。

 

メイディン将軍は軽く頷いて時間もそれほどない為早速説明を始めた。

 

「君たちに来てもらったのは他でもない。我々がこれから実行する攻勢作戦に2人も参加してもらう」

 

メイディン将軍は幕僚の1人に合図してタブレットを2人に渡した。

 

中には作戦計画名と内容が記載された書類が入っていた。

 

作戦名は”エクスペル”、作戦内容は旧新分離主義連領からの第三帝国の追放、首都惑星ラクサスの奪還であった。

 

「我々は帝国軍の注意が北東部から外れている間に同盟国、新分離主義連合の旧領を奪還する。我々はまだ死に絶えた訳ではないと奴らに見せてやるのだ」

 

帝国軍が北東部に配置していた戦力は徐々に他の方面へ移り始めている。

 

北西も南部も東部も、どこも戦争だらけだ。

 

第三帝国は己に逆らう全ての国に自らの力を見せつける気でいた。

 

だがそれはレジスタンスにとっては好都合だった。

 

敵の注意が他に向けばそれだけチャンスが回ってくる。

 

実際、現状の防衛戦力相手ではレジスタンス軍と連合軍の攻勢は成功する可能性が高かった。

 

「それで、我々の任務はなんでしょうか」

 

ジョーレンはメイディン将軍に尋ねた。

 

元帝国軍特殊部隊司令官は勿体ぶらずに彼らへ与える任務の内容を話した。

 

「我々がラクサスへ攻勢をかける際、君達には総督府へ強襲をかけラクサスの総督ともう1人の高官を暗殺して欲しい」

 

「そのもう1人の高官とは誰ですか?」

 

ジェルマンは尋ねた。

 

メイディン将軍はホロテーブルの端末を操作しターゲットの顔を浮き上がらせた。

 

冷徹な眼に、金髪の髪、そして特徴的な鷲鼻。

 

ジェルマンやジョーレンのような特殊部隊、情報部の人間なら絶対に知っている顔だ。

 

彼は親衛隊員であり、襟章と胸の階級章には大将を示すものがつけられていた。

 

メイディン将軍は男の名前を読み上げた。

 

「トリスハルト・ハイドレーヒ、親衛隊大将で親衛隊情報保安本部の長官」

 

ジェルマンは思わず息を呑んだ。

 

相手は第三帝国の超大物である。

 

今や彼が第三帝国全ての情報と保安を握る警察権力のトップに近しい男だ。

 

暗殺任務の責任は重大であった。

 

「彼はラクサスへの襲撃時、ここへ訪れる。艦隊で軌道上を封鎖し、地上軍で惑星全土を抑えるかその間に彼らを暗殺せよ

 

銀河の情勢はまた変わりつつあった。

 

 

 

つづく




お久しぶりです、Eitoku Inobeでございます!

ナチ帝国最新話でございます

何コルサントの春見たから久しぶりじゃない?

そう思った方は全員ソビンゴの近送りです(国軍保安司令部仕草)
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