第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

81 / 84
「誰だって見たいものしか見たくないし、見たくないものは目に入ってこない。視覚は思考で盲目になる」
-あるジェダイの手記より抜粋-


思惑

-第三帝国領 コア・ワールド コルスカ宙域 コルサント星系 首都惑星コルサント セントラル地区 飲食店フェラート-

コルサントのセントラル地区にあるフェラートには数多くの退役軍人や現役の将校達が飲みに訪れていた。

 

フェラートでは味のいいコレリアン・ワインやナブーのブロッサム・ワインを仕入れてくれる為評判が良い店だった。

 

しかも店主が元帝国地上軍の大佐という事もあって特に国防軍人に割引が効いたり、秘蔵の酒を提供してくれたりとサービスが良かった。

 

軍人を贔屓にする店は数多あれど、退役軍人が営む飲食店というのはコルサントでも珍しい。

 

特に元大佐ともなればコア・ワールドの中でも貴重な部類に入る。

 

その為上官が部下を連れたり、先輩の将校が後輩の尉官達を飲みに誘う際によくこの店を利用していた。

 

退役した将軍や提督達もこの店を訪れ、かつての後輩達にアドバイスしたり雑談を交わしていた。

 

リートディヒ・ベック退役上級将軍もそのうちの1人である。

 

彼は第二帝国時代の地上軍長官であり、クローン戦争に参加したベテランだ。

 

「今日はカーレリス提督はこれないと伝言を受けました。なんでもライカン大提督との予定が入ったようでして」

 

帝国宇宙軍少将ヴィストーレはベック元上級将軍に酒を注ぎ、事情を説明した。

 

代わりに彼の副官であるマンティス中佐が会に参加している。

 

「提督も忙しそうだな、彼は未だにハイドレーヒの奴と付き合いがあるのかね」

 

ハイドレーヒ親衛隊大将とカーレリス提督の仲が深いのは第三帝国内では有名な話であった。

 

元上官と部下の関係にして今ではアパートの隣人であり友人である。

 

「最近はウマが合わなくて以前ほどではありませんよ」

 

事情を知っているマンティス中佐がそう伝えた。

 

「まあどの道奴は蹴落とさねばならん。おお、来たか」

 

「遅くなりました!」

 

ベック元上級将軍の前にコートを着た2人の地上軍少佐が敬礼した。

 

1人はシュタッフェンベルク少佐、そしてもう1人は友人のメルツリヒト・クイルハイム少佐である。

 

クイルハイム少佐は地上軍参謀本部で動員関連の職についていた。

 

ベック元上級将軍は手招きして「いいから座れ」と2人の敬礼を解いた。

 

隣でオーブリート中将が「コートはそこに掛けておきなさい」と伝えた。

 

コートと制帽を掛け、2人はテーブルのソファーに座った。

 

「キープしていたナイアナの90年を頼む。今日は私の奢りだ、皆好きにしたまえ」

 

ベック元上級将軍は若い将校達にそう伝えた。

 

それを隣で聞いていたアレシア・ベック惑星政府警察長官は冗談混じりに伯父を心配した。

 

「もう退役したんですからそう大きい口を叩かない方がよろしいですよ」

 

「アレシアよ、我が家は若い将校達を食わせられないほど落ちぶれてはいないぞ」

 

そう言っていると店員がベック元上級将軍が用意したナイアナと呼ばれる惑星セレア産のワインが運ばれてきた。

 

まだグラスに何も入っていない将校達に酒が注がれる。

 

この会食にはルートディヒとアレシアのベック家2人、宇宙軍からヴィストーレ少将とマンティス中佐、空軍からヴェルゼー少佐とカンテール大佐、そして地上軍からはシュタッフェンベルク少佐、クイルハイム少佐、ロベルク・トラスコー大佐、そしてオーブリート中将の10人が集まっていた。

 

「では乾杯しよう」

 

ベック元上級将軍がグラスを掲げ、皆もそれに続いた。

 

「我が祖国に、万歳」

 

そういって彼らはワインを口にし、食事に移った。

 

メインはナーフのルラーデン、この店でも特に人気の高い品である。

 

彼らは食事を摂りながら本題である第三帝国の情勢について話し合った。

 

店主からの気遣いで彼らの部屋は隔離され、防音になっている。

 

「それであの総統とヘルダーらは本当にチスとも大セスウェナとも戦争するつもりか?」

 

ベック元上級将軍はワインを片手に現役の参謀達に尋ねた。

 

本来そういった情報は機密扱いなのだが元上級将軍にして地上軍長官相手に話さないというのはあり得なかった。

 

特に彼らがなぜ集まっているかの理由も合わせれば尚更である。

 

「既に北西部には参加予定の全部隊が配備されました。パールス中将らが作戦計画を練っていますし命令さえあればいつでもチス領に攻め入れますよ」

 

シュタッフェンベルク少佐はそう報告した。

 

隣でクイルハイム少佐が頷いていた。

 

トラスコー大佐も「南部でも後1ヶ月もすれば全部隊が集結しますよ」と付け加えた。

 

彼は南方総軍と参謀本部を繋ぐ連絡要員であり、双方の事情に詳しかった。

 

「大国相手に二正面作戦とは……勝てるのか、これは本当に」

 

ベック元上級将軍は疑問を呈した。

 

チス・アセンダンシーも大セスウェナ連邦も第三帝国程ではないが強力な軍隊と広い国土を持っている。

 

レジスタンスがシス・エターナルとの戦いで弱体化し、戦力が大きく減退したとはいえまだ生き残っている。

 

それに加えて東部ではケッセル王国がしぶとく抵抗を続けていた。

 

第三帝国はこのままだと四方八方敵だらけになってしまう。

 

「それは作戦次第でしょうね。少なくとも大セスウェナの方は手早く終わるでしょうな。エリアドゥを強襲すればターキンの遺児は確実に堕ちる」

 

ヴィストーレ少将はそう断言した。

 

ベックは2人とも怪訝な顔をしていたが少将の言う事にも一理あった。

 

大セスウェナ連邦の首都、惑星エリアドゥは第三帝国領から近い位置にある。

 

つまりタイミングを見計らって艦隊で首都に強襲を仕掛け、インターディクター艦を用いて退路を断って首都に打撃を加えれば陥落は可能である。

 

そこへ停戦協定を持ち込めれば連中は降伏せざるを得ないだろう。

 

太古の昔、まだジェダイとシスが戦争していた時代にも似たような事例はあった。

 

コルサントの略奪と呼ばれるシス帝国による強襲作戦は停戦協定中の銀河共和国とシス帝国の状況を一変させ、結果的にシス帝国が勝利した。

 

故事に倣えば決して不可能な話ではなかった。

 

「チスの方もまだこちらの動向には気づいておらず、主力は後方に配置されています。奇襲すれば2、3個の宙域は堕とせるでしょう」

 

「それに2つの戦争に勝利すれば我が帝国の基盤は盤石なものとなります。第一帝国の版図を回復……いやそれ以上に広げられる」

 

シュタッフェンベルク少佐は興奮気味に語った。

 

彼は若き参謀将校である、総統のやり方には否定的であったが彼が再軍備を行い、第三帝国を覇権国へと押し上げる姿は素直に歓迎していた。

 

彼らにとって総統とは皇帝ほど神聖なものではなく、帝国と軍の権威を広げてくれる都合の良い存在でしかないのだ。

 

だから総統に反対意見を持っても時には彼を平気で歓迎する。

 

「それで、失敗すればどうする」

 

「速やかに”()退()()”頂き、内側を新しくするしかないかと」

 

元上級将軍の問いにシュタッフェンベルク少佐は喉元を触り、そう断言した。

 

彼の言っていることは鯔のつまりこうだ。

 

今いる指導者には消えてもらう。

 

彼らにとって都合の良い存在でなくなれば、帝国の仮の玉座に偉そうに踏ん反り返っている理由はなくなる。

 

こうした選択にベック元上級将軍は心配はしたが反対しなかった。

 

「その為の準備は出来ているのだろうな」

 

「予備軍内で秘密裏の動員計画を準備中です」

 

オーブリート中将はそう進言した。

 

「確か以前シュタッフェンベルク少佐は親衛隊にもツテを持てそうだと言っていたが」

 

シュタッフェンベルク少佐は小さく頷いた。

 

「シュタンデリス少将は我々に近い価値観をお持ちの数少ない親衛隊将校です。父は高名なシュタンデリス准将、本人も潔白な職業軍人として有名です」

 

「彼を引き入れればバエルンテーゼ上級大将も引き込める可能性が高いです」

 

ベック元上級将軍は故バスティ・シュタンデリスともバエルンテーゼ上級大将とも知見があった。

 

特にバエルンテーゼ上級大将は老齢ながらも鋭い作戦指揮能力を有しており、親衛隊でも数少ない穏健派である。

 

人望もあって彼が反旗を翻せばそれに続く部隊は多いだろうと確信が持てた。

 

しかし親衛隊に関わると言うだけでリスクは生まれる。

 

「引き続き節足を続けろ、ただし警戒は怠るな。シュタンデリス少将やバエルンテーゼが信用出来てもその周りにどれだけの聞き耳があるかは私とて分からん」

 

「勿論です」

 

第三帝国は一つであったがそのなあに蠢く何かを完全に探知した人はまだ誰もいなかった。

 

 

 

 

-大セスウェナ連邦領 アウター・リム・テリトリー セスウェナ宙域 エリアドゥ星系 首都惑星エリアドゥ 連邦国防省本庁舎-

ケッセルへ送った義勇軍の指揮官達が任期を終えてエリアドゥへ帰国した。

 

今ケッセル義勇軍には別の将校達が指揮を取っており、奪還したエニードを親衛隊から守り続けていた。

 

帰国した第一弾の指揮官達はケッセルで戦果を上げた将兵と共に国防省の本庁舎でケッセル義勇兵勲章の授与が行われた。

 

パルトン准将は珍しく礼服を着ていた。

 

彼はいつも連邦地上軍の制服の裾をズボンに入れて、その上にベルトをつけるという独特のスタイルで戦場を歩いていることが多い。

 

ある地上軍の中佐は「あれは准将しか似合わない」と言うほど彼のスタイルは彼にしか似合っていなかった。

 

そんなパルトン准将でも礼服はちゃんと着こなしていた。

 

「まさか昇進の上勲章まで頂けるとは」

 

アイブルームス中尉はどこか心ここに在らずといった面持ちでそう呟いた。

 

彼の肩章と胸の階級章は2、3日後には大尉のものになっていることが確約されていた。

 

それはパルトン准将も同じだ。

 

彼も2、3日後には星が一つ増えて少将となっている。

 

ケッセルの戦いで親衛隊を打ち破った彼らは勲章だけでなく昇進が約束された。

 

「まあ、正当な報酬ってやつだ。我々は実際良くやった。あのクソ野郎どもの土手っ腹を突き破って味方の窮地を救った」

 

アイブルームス中尉の肩を軽く叩き、彼を自信づけた。

 

パルトン准将は少しばかり地に飢えているだけで上官としては面倒見のいい部類だ。

 

自信づけられた中尉は表情を明るくし、勲章を待った。

 

「連邦盟主閣下が入室されます、総員敬礼!」

 

モッティ提督の号令によりパルトン准将らは直立不動の姿勢で入室するヘルムートに敬礼した。

 

准将は骨の髄まで軍人であり、他の誰よりも美しい敬礼姿であった。

 

ヘルムートも敬礼を返し先頭にいるパルトン准将の下に近づいた。

 

ヘルムートはいつも通りの黒色の制服に連邦盟主を示す肩章と階級章をつけていた。

 

彼の背後には勲章が置かれたトレイを持った少佐が続いておりまずはパルトン准将に1つ目の勲章を取り付けた。

 

勲章が付け終わるとヘルムートはパルトン准将と力強く握手を交わした。

 

「准将、よくやってくれた。君のような素晴らしい機甲将校が大セスウェナにいてとても心強い。そして、よく生きて帰ってきてくれた」

 

それは心からの言葉であり、連邦盟主としてヘルムートが投げかけられる最大限の労いであった。

 

准将は喜びを噛み締めながら言葉を返した。

 

「小官には勿体無いお言葉です。私は自身の責務を全うしただけのこと、お言葉は是非他の将兵へ」

 

「勿論だ、だが今日ばかりは君のことを持ち上げさせてくれ。君は私の宝だ」

 

2人は互いに敬礼し勲章の授与と会話を終えた。

 

ヘルムートはそのまま隣にいるアイブルームス中尉に勲章を授けた。

 

連邦盟主はパルトン准将にしたのと同じように中尉を労い、心からの称賛の言葉を送った。

 

それは宇宙軍の将校に対しても同じだった。

 

ヴァラコード級の艦長を務めていたモーデン中佐、セームズ少佐、メヘルダ少佐、ブレイル少佐1人ずつに勲章を自らの手で付けて称賛の言葉を述べた。

 

下士官兵に対してもヘルムートの態度は変わらなかった。

 

自身も相当のカリスマを有するパルトン准将だが、その准将から見てもヘルムートのカリスマは相当のものであった。

 

もう少し歳を重ねていれば大セスウェナ連邦は彼1人で運営されていただろうと思うほどに。

 

勲章の授与式が終わりヘルムートは最後全員に敬礼し、労いの言葉を述べた。

 

「皆、大セスウェナとその友好国の為によく戦ってくれた。諸君は私にとって変え難い家宝であり、連邦軍の規範だ。これからも軍務を全うしてくれることを切に願う」

 

「閣下と連邦への忠誠は絶対であります」

 

パルトン准将が一歩前に出て敬礼し、連邦軍の全将兵を代弁してそう宣言した。

 

その瞬間をセスウェナ・ホロネットの記者達はカメラに納め、准将の発言をメモに書き留めた。

 

パルトン准将とてこれがニュースに使われることは承知の上での発言だ。

 

彼は粗暴な振りも出来るし、時に礼節に詳しい博識な面も見せるし、このように国家と盟主に忠実な軍人の鏡という最高の姿も作り出せた。

 

彼は単純そうに見えて非常に複雑なこともやってのけられるのである。

 

その意図を汲んでヘルムートは大きく頷いた。

 

「以上で授与式を終わります。総員、連邦盟主に対し敬礼!」

 

モッティ提督の合図でその場にいた全ての軍人が敬礼した。

 

ヘルムートは敬礼を返し、部屋を出た。

 

その後にモッティ提督も続き、扉は閉まった。

 

連邦盟主の姿が見えなくなるまで彼らは敬礼を続けた。

 

ヘルムートはモッティ提督と共に帰宅する為本庁舎の通路を歩いていた。

 

「お疲れ様でした閣下」

 

モッティ提督は勲章授与を終えたヘルムートを労った。

 

「あの程度当然のことだ、彼らは命をかけて戦った。あれだけやっても安いくらいだ」

 

「だとしてもです、次の予定ですと執務の後、首相との会談が控えています」

 

ヘルムートとモッティ提督は制帽を被り、コートを着込んで帰宅の準備を始めた。

 

ヘルムートは「では急ごう」と歩くスピードを早めた。

 

すると眼前にFCSIAのヒムロン少佐が敬礼してヘルムート達を待っていた。

 

「少佐、何かあったか」

 

ヘルムートが少佐に尋ねると彼は勿体ぶらずに状況を報告した。

 

「スパイからの情報です。フェルーシアの国防地上軍第734歩兵師団と第368機動部隊が北西部に向けて移動を開始しました」

 

「それは本当か」

 

「はい、既にレジスタンスの司令部には報告済みです」

 

ヒムロン少佐は淡々と状況を報告した。

 

それを聞いてヘルムートはあることを尋ねた。

 

「それでレジスタンス側の返答はなんと言っている?」

 

「近時日中には作戦を実行すると、具体的な日にちは流石に述べていませんでしたが」

 

レジスタンス政府はまだ完全に大セスウェナ連邦を信用した訳ではなかった。

 

むしろこの一戦で連邦を信じるか信じないか決めるつもりなのだろう。

 

「となると戦果は同盟締結前には決まりそうですね……」

 

モッティ提督は困ったような顔でそう呟いた。

 

これでもし仮にレジスタンスと連合軍による攻勢作戦が失敗したら少なからずの責任は大セスウェナ連邦にある。

 

情報提供や武器支援、燃料などの物資提供を行ってきたのは大セスウェナだ。

 

最悪の場合二重スパイを疑われかねない。

 

その為彼らとしても今はレジスタンス軍に勝ってもらいたかった。

 

「信じよう、レジスタンスと連合が勝利することを。今の我々には信じて待つ以外のことは出来ない」

 

ヘルムートはそう断言した。

 

レジスタンス軍の総攻撃まで後1週間を切っていた。

 

 

 

 

ーチス・アセンダンシー=亡命帝国領 アウター・リム・テリトリー ブラクサント宙域 サーティネイニアン星系 惑星バスティオン 軍管区司令部ー

ここ数年でサーティネイニアンは大きく変化した。

 

何せ名前すらサーティネイニアンからバスティオンに変わったのだ。

 

名前が変わるだけで実態が全く変化がない事象は幾つかあるが、バスティオンは別だった。

 

かつてムウン達が作り上げた防衛都市惑星はその意義を引き継ぎ、更に発展した。

 

ターボレーザー砲は増設され、各地に大型ミサイルのサイロが建設された。

 

首都ラヴェリンやサーティネイニアン・シティには大型の偏向シールド発生装置が設置され、艦隊が停泊出来る宇宙港も増設された。

 

惑星の周辺には宇宙ステーションが配備され、艦隊の拠点兼防衛機構として有事は機能するようにされた。

 

しかも惑星全体をスカリフと同タイプのシールド・ゲートで覆い、防備を完璧にしていた。

 

バスティオンことサーティネイニアンはより城塞(Bastion)に相応しい姿となった。

 

そしてこのバスティオンは周辺宙域軍の統合司令部としてバスティオン軍管区の司令部が置かれていた。

 

現在司令官を務めているのはタッグ忠誠元帥である。

 

「失礼します。同志元帥、NISB専門アカデミーのラグレット少将から書類を預けられました」

 

マスレフイェレスメリニヴィチ少佐は敬礼しタッグ元帥にタブレットを提出した。

 

彼は名前から分かる通りチス人であり、青い肌にチス・アセンダンシー軍の黒い制服を着ていた。

 

チス・アセンダンシー軍の制服は亡命帝国のものとは違う。

 

チスにはチスなりの軍服の伝統があり、むしろ亡命帝国の側がその伝統に順応したのだ。

 

基本的にチス・アセンダンシー軍は黒色の軍服に赤や水色、襟章でどの軍種か判別出来るようになっていた。

 

マスレフ少佐は地上軍出身の為袖章と制帽、そして肩章の枠は赤色だった。

 

襟章と肩章には少佐を表す階級章が付いており、腰のベルトには肩掛けベルトがつけられていた。

 

タッグ元帥はタブレットを受け取り、「ありがとう」と述べるとラグレット少将の書いた書類に目を通した。

 

執務室には軍管区参謀長のニーカンダル・チービソフ少将とアナトゥーヒン中佐、ゴズマノフ中佐、アルテスキー大佐などバスティオン軍管区の幕僚達が集まっていた。

 

「少佐、この事はNISBの連中には黙って起きなさい」

 

「はあ、しかしこちらはNISBのラグレット少将から送られたものですが……」

 

「いいから、私の命令だ。特にラブリジョフ長官には悟られるな」

 

タッグ元帥に念を押され、マスレフ少佐は「了解しました」と敬礼して執務室を後にした。

 

ある程度読み終わったらタッグ元帥はタブレットを執務室のデスクに置いた。

 

椅子の背もたれに寄りかかり、大きくため息を吐く。

 

「元帥、どうかされましたか」

 

チービソフ少将は心配して声を掛けた。

 

タッグ元帥は少し考えながら執務室にいた幕僚達には全てを話した。

 

「少将の直談判だ……彼らも第三帝国の侵攻計画をキャッチしたらしい。参謀本部の情報総局が言うことはどうも本当のようだ」

 

チービソフ少将はアルテスキー大佐やアナトゥーヒン中佐と顔を見合わせた。

 

するとゴズマノフ中佐が声を上げた。

 

「しかし元帥、シーラの第三帝国大使と駐在武官はこないだチス・アセンダンシー建国のパレードに参加していました。モフフェルやリヴィリフ陛下からも親しく話されていたと聞いていますが」

 

ゴズマノフ中佐は軍管区副司令官のミローノフ中将と共にバスティオン軍管区を代表してシーラのパレードに参加した。

 

その際第三帝国の大使と駐在武官のグレプス准将はとても穏やかかつ融和な顔でパレードに参加していた。

 

外交官は顔じゃ二枚舌は三枚とよくいったものだが裏で侵攻計画を立案しているとは思えなかった。

 

「もしかしたらシーラの連中には知らされていないのかもしれん。とにかく、2つの情報機関から同じ情報が入ってきた、奴らは本気だ」

 

「どうなさいますか、現在マイギートー特別軍管区のプライド将軍とペスファヴリ軍管区のパヴロフ将軍が防衛計画を立案していますが」

 

チービソフ少将はそう尋ねたがタッグ元帥も完璧な結論は出ていなかった。

 

タッグ元帥とて信じたくはなかったのだ。

 

この調子でいけばチス・アセンダンシーと亡命帝国は”()()()()()()”と第三帝国に挟み撃ちにされる。

 

「参謀本部主導の防衛計画はそのままやらせよう。私はそれとなくヴィルヘルムとリヴィリフ陛下に進言してみるよ」

 

結局戦争が始まっていない以上タッグ元帥に出来ることはこの程度であった。

 

それに加えてテパシ生まれの元帥はあることを命じた。

 

「参謀長、副司令官や隷下の部隊に命じて部隊をいつでもマイギートー方面へ展開出来るよう準備を命じろ。最悪マイギートーで止められればそれでいい」

 

「分かりました、直ちに手配します」

 

チービソフ少将は敬礼して幕僚達を引き連れて執務室を後にした。

 

誰もいなくなった執務室でタッグ元帥は席を立ち、窓から外の様子を見つめた。

 

「我々は少しばかり気苦労が多すぎるな……」

 

それは心からの本音であった。

 

尤もタッグ元帥はまだ知らない、これ以上気苦労が多くなって仕事が増えることを。

 

侵攻の開始まで後1年もなかった。

 

 

 

 

-レジスタンス領 アウター・リム・テリトリー カラマリ宙域 モン・カラマリ星系 惑星モン・カラ ダック・シティ 室内訓練場-

ダック・シティの軍施設には室内戦を仮装シミュレーションとした訓練場が幾つか存在する。

 

そのうちの1つをジェルマン、ジョーレンと配下の特殊部隊が訓練に使用していた。

 

足音を立てず、レジスタンス軍の特殊部隊員が少しずつ前進し歩哨役のトレーニング・バトル・ドロイドを始末していった。

 

部隊の先頭に立つのは作戦の現場指揮官であるジョーレン、その次にはジェルマン、そして分隊長のフェレック曹長が後に続いた。

 

彼らはここまで1発もブラスターを発砲せず、最短ルートで確実に歩哨を始末しながら総督府の執務室まで接近した。

 

ジョーレンは執務室の手前で部隊の進撃をストップさせ、攻撃命令を文体に出した。

 

隊員2名を先行して近くの死角まで接近させる。

 

準備が完了し隊員達は実行可能の合図を出した。

 

それを確認したジョーレンが行動に出た。

 

「おい!誰か手伝ってくれ!」

 

この時ジョーレンは初めて作戦中に声を出した。

 

ジョーレンの声に反応したバトル・ドロイド2体が「ドウシタ、バッテリー切レカ?」と言って近づいてきた。

 

死角を通り過ぎた瞬間、横合いから2名の特殊部隊員が背後を取ってドロイドの喉をエレクトロ=ナイフで掻き切った。

 

機能が停止したドロイドは声も上げずにその場に倒れた。

 

隊員はクリアとハンドサインを出し、ジョーレンを先頭に特殊部隊が一斉に執務室の前まで迫る。

 

分隊の2班が周囲を警戒し、1班が突入の準備を整えた。

 

ジェルマンがタブレットとドアの操作パネルを繋ぎ、ハッキングしてアクセスを開始した。

 

ドアの解除コードを解読し、正しいパスワードを打ち込む。

 

1分も経たぬうちにタブレットがドアの開錠を示した。

 

ジョーレンはブラスターをK-16ブライヤー・ピストルに切り替え、ジェルマンにドアの完全開放を合図した。

 

5本指が1秒毎に折られ、5秒後にドアが開放された。

 

「ン?ナンダァ?」

 

「アレ敵ジャナイカ?」

 

「突入!」

 

ジョーレンはK-16を放って執務室の中に入った。

 

他の隊員もA300やA280-CFEを発砲し、執務室の中にいたドロイドを全て撃ち倒した。

 

ジェルマンを含む6人の特殊部隊員が執務室の椅子にもたれ掛かった2体のコマンド・ドロイドを確認した。

 

ジョーレンは代表してこのドロイドに更に2発のブラスター弾を撃ち込んだ。

 

完全に動かなくなったのを確認してジェルマンは司令部に連絡を取った。

 

「司令部より暗殺チーム、ターゲットを制圧した。演習の終了を要請する」

 

『こちら演習監督室、了解。演習モードを停止する』

 

通信士官の報告で訓練場の演習プロトコルが終了し全てのトレーニング・バトル・ドロイドが再起動した。

 

ブラスターを喰らったドロイドが立ち上がり頭を掻いて、自身の手持ち武器を持ちながらトボトボと執務室を後にし始めた。

 

「ハァ、演習終ワリダー」

 

「早ク休イタイナ」

 

ドロイドが全体執務室を出るとジョーレンも分隊に命令を出した。

 

「総員、戦闘態勢を解除し演習場前まで移動して待機せよ」

 

「ハッ!全隊、隊列を組んで駆け足!」

 

フェレック曹長が先頭に立って走り出した。

 

他の隊員達もその後に続き、ジェルマンとジョーレンも走り出した。

 

曹長はジョーレンとは同じ反乱グループの仲間ではなかったが演習や特殊部隊員の教育で時折顔を合わせることはあった。

 

フェレック曹長は特殊部隊員としてデノンでの破壊工作やイエロー・ムーン作戦における陽動工作、アキヴァへの強襲作戦やジャクーの戦いに参加した。

 

彼の常勤服の略綬章はどれも大激戦にいた形跡のあるものばかりだ。

 

曹長が率いる分隊員達も皆激戦を潜り抜けてきたスペシャリストである。

 

駆け足によって想定よりも早く目的地に辿り着き、全員が整列した。

 

ジェルマンも含めて息切れを起こしている隊員は1人もいなかった。

 

「少佐、全隊整列完了しました!」

 

フェレック曹長は敬礼し状況を報告した。

 

「ありがとう、ではみんな聞いてくれ。今回の事前訓練は大成功だ、これで実戦訓練は10回中、10回成功した」

 

ジョーレンは素直に隊員達の成果を褒め称えた。

 

彼らは皆表情を一切変えなかったが内心自信がついていた。

 

第三帝国の保安長官を暗殺するなど、どんな者であっても重圧である。

 

「無論訓練と実戦は違う。バケツ頭はブリキ野郎ども程間抜けじゃないし、必ずイレギュラーは起きる。それに如何に対処して作戦を遂行するかが我々の腕の見せ所だ」

 

訓練通りに進む実戦はないというのがジョーレンの結論であった。

 

その事に異論を唱える人間は誰もいないだろう。

 

ここにいる全員がそういった経験を持っていた。

 

「もし、挫けそうになったら自分の徽章を見ろ。そして頼れる仲間の姿を見ろ。自分が今までやってきた事を思い出せ、戦友とのクソッタレな訓練の日々を思い出せ。そして自分に言い聞かせろ、あれを乗り越えたのだから必ず任務はやり遂げられると」

 

ジョーレンに勇気づけられ隊員達の戦意はこれ以上にないほど高まっていた。

 

彼は最後に今回率いる部下達に向かって宣言した。

 

「俺達で総督と長官の首を取って、総督府に掲げようじゃないか!」

 

「おおおおおおお!!」

 

彼は短期間で特殊部隊1個分隊を10年来の頼れる戦友レベルまでたらし込んだ。

 

付け焼き刃ではない研ぎ澄まされた刃がハイドレーヒ大将の下に近づきつつあった。

 

 

 

-第三帝国領 ミッド・リム グライセ宙域 テン・テンペスツ星系 惑星ヴォーテックス 北西総軍司令部-

ついに侵攻作戦の計画が完成した。

 

マーケス少将とロンゼルベルク中佐の草案をパールス中将ら参謀将校がまとめ上げ、正式な作戦案とした。

 

完成によって侵攻作戦にはようやく名前が与えられた。

 

作戦名は”バルバロッサ”、ある銀河標準語の訛りによって生まれた単語で赤髭を意味する。

 

バルバロッサ作戦の説明会が主力軍たる北西総軍の司令部で行われていた。

 

司令部の巨大な会議場には総軍司令官であるヴィーツベン元帥に侵攻の主力を務める3個軍集団の司令官達に、各軍や艦隊司令官達が結集していた。

 

会場には参謀本部のパールス中将、参謀総長ヘルダー上級将軍に加えて国防軍総司令部のカイティス大将軍やヨードル上級将軍もいた。

 

巨大なモニターに作戦の概要が映し出されていた。

 

「部隊配置です、西方軍集団はチスの本領である未知領域を攻撃し、残り2つの中央軍集団、北方軍集団は北西アウター・リムに進軍してもらいます」

 

ヘルダー上級将軍は指揮棒を用いて、モニターの幾つかを指しながら説明した。

 

白髪が生え、皺も深くなるほど軍に仕え続けてきた将軍や提督達は黙って彼の説明を聞いた。

 

「西方軍集団は未知領域に侵攻し、首都惑星シーラとチスグラードの攻略を第一目標とします。北方軍集団はマイギートーとオード・トラシの確保を第一目標とします。中央軍集団は両軍集団の侵攻支隊として支援を行ってください」

 

マイギートーの周辺衛星にはコアクシウムが産出される衛星があり、オード・トラシには近年カイバー・クリスタルが発掘される資源衛星が周辺に発見された。

 

燃料とカイバー・クリスタル、どちらも第三帝国の未来には欠かせないものだ。

 

この2箇所の資源地帯を確保せよと言うのは代理総統肝煎りの命令だった。

 

「以上が作戦に関する大まかな説明は以上になります。軍政に関しては生存圏監督省のロステンボルク大臣にご説明頂きます。何かこの時点で作戦に関して質問がある方はこの場でどうぞ」

 

ヘルダー上級将軍の発言に対して真っ先に手を上げた者がいた。

 

中央軍集団司令官、フェドリッツ・ボルク元帥だ。

 

彼はコア・ワールドの貴族総出身でやはりクローン戦争に参加したベテランの元帥である。

 

今年60歳を迎え、代理総統から直接ライヒスクレジットを下賜された。

 

「参謀総長は西方軍集団の第一目標はシーラとチスグラードだと仰った。ではもし仮に損耗激しく、どちらか片方を選択せざるを得ない場合の優先順位についてお聞かせ願いたい」

 

ボルク元帥の問いに隣に座っていた第3装甲軍司令のハイマン・ホーツ上級将軍も賛同した。

 

この装甲将軍はホーツ親父と呼ばれるほど部下に慕われた名将である。

 

そんな2人の将官に迫られ、参謀総長は質問に答えた。

 

「優先順位は状況によって判断されますが基本はシーラでしょう、首都機能を抑えるのが肝心です。尤もそうなる前に敵野戦軍はナポラールで撃滅されているでしょう」

 

ヘルダー上級将軍の発言は随分と楽観的であった。

 

それを不安がってホーツ上級将軍とボルク元帥は食らいついた。

 

「では第一目標はシーラでよろしいのだな?」

 

「そう断言は出来ません。状況によっては首都機能が別の場所へ移っている可能性もある。故に臨機応変に…」

 

「断言して貰わなければ困ります。特に我々装甲軍にとっては素早い目的地の判断が重要ですので」

 

話を聞いていたカイティス大将軍が間に入って司令官と参謀総長の論戦を宥めた。

 

「まあ落ち着け。第一目標とするのは敵の首都機能の制圧だ、故に連中がシーラから動かせなくすればいい。その策は部隊司令官の君達が担う部分だ」

 

カイティス大将軍は軍の中でも相当のベテランであり、尚且つ総統を除けば国防軍で最も位の高い軍人である。

 

そんな大将軍にこう言われてはボルク元帥もホーツ上級将軍も黙る他なかった。

 

「では我々もよろしいか」

 

ゲルド・カールドルフ・ルンデシュード大将軍、北方軍集団司令官である。

 

ロモディ退役元帥やボラム大将軍と同世代であり、本来は一度退役した身であった。

 

それでも代理総統の要望を受けて現役に復帰し、軍以上の司令官として活躍していた。

 

「サーティネイニアンのことだ、作戦計画書ではベスケードとダブリリオンまで進軍すれば良い書かれているがサーティネイニアンはどうする?もしここで敵が頑強に抵抗された場合、包囲では制圧出来んと思うが」

 

まだ彼らはバスティオンがムウン達が武装化させた時よりも更に城塞化していることを知らない。

 

それに参謀本部が提示した作戦計画では敵がバスティオンに立て篭もる前に野戦軍を撃滅する手筈だった。

 

「その際はコルサントの予備戦力を動員して攻略に当たらせますが恐らくその心配はないでしょう。ベスケード、ダブリリオンに到着する頃には連中の戦力は1個艦隊も1個師団も残っていないはずです」

 

ヘルダー上級将軍の返答に若干不安を覚えた大将軍であったがそれ以上質問を投げかけることはなかった。

 

彼らもバスティオンの手前でチス・アセンダンシーと亡命帝国軍の戦力を粉砕出来ると思っていたからだ。

 

この戦争が早々長引くことはないとタカを括っていた。

 

「他に質問がある方はいますか?」

 

ヘルダー上級将軍が司令官達に尋ねたがある者は首を振り、ある者は黙っていた。

 

既に聞きたいことは軍集団司令官達が聞いてくれた。

 

「では占領下の軍政統治についての話に移ります。ロステンボルク大臣お願いします」

 

参謀総長に呼ばれて生存圏監督省のアンフレースト・ロステンボルクが司令官達の前に立った。

 

彼は最初期から代理総統を支えた第三帝国の閣僚であり、ヒェムナー長官に勝るとも劣らないオカルト信者であった。

 

彼が率いる生存圏監督省が行う端的にいえば植民地の運営であった。

 

例えばハット・スペースに存在する国家弁務官区の管理、運営はこの生存圏監督省の管轄である。

 

彼らは国家弁務官区に総督と行政官僚を派遣し、植民地と化したハット・スペース領を運営していた。

 

その過程で数多くの罪のない人々がターボレーザーの雨に撃たれ、強制収容所で飢え、過酷な強制労働で死んでいった。

 

それと全く同じ事を北西部でもやろうとしているのだ。

 

「占領統治は当面駐屯軍が軍政を行ってください。しかし保安局の監査で安全が言い渡された場合は統治の管轄が我々生存圏監督省に移動します」

 

「また後方の治安維持活動は親衛隊情報保安本部によって選抜された“()()()()()()”が担当します」

 

生存圏監督省のブレストラー保安担当局員がそう付け加えた。

 

彼は親衛隊の名誉少佐であり、若手のエリート官僚だ。

 

「国防軍の皆様は眼前の敵との対決に全力を注いでください。銃後の治安維持は我々と保安本部が担います」

 

司令官達は怪訝な表情を浮かべた。

 

既に幾つかの戦闘地域でそうしたFFISOが設立した特別任務部隊が治安維持活動を行っているのは周知の事実だ。

 

勿論その活動内容が血に塗れたものであることも彼らは知っていた。

 

知っていて見逃していたのだ。

 

それは今回も同じだった。

 

彼らは何をするか知った上で見逃した。

 

バルバロッサ作戦、その名に違わぬ赤色が北西部銀河を埋め尽くすのはもう決定された出来事だ。

 

 

 

ーレジスタンス領 惑星モン・カラ ダック・シティ 軍司令部 情報室ー

戦闘服から通常の制服に着替えたジェルマンとジョーレンはモン・カラの情報室へ向かった。

 

彼らはこれから元帝国の忠誠将校に会いに行くのだ。

 

その忠誠将校の名前はシンジャー・ラス・ヴェラス、現在はレジスタンス政府の国防次官兼情報部次長を務めていた。

 

何故彼らがこの男に会いに行くかというとそれは暗殺対象であるハイドレーヒ大将の人物像を聞くためだ。

 

情報室に入るとそこには部下に指示を出しているヴェラスの姿があった。

 

「連中にはむしろ我が軍が弱体化して攻勢能力はないという情報をばら撒け。奴ら喜んで戦力を更に転用するはずだ」

 

「ヴェラス次官」

 

2人は敬礼し挨拶した。

 

次官は「追って指示を出す」と部下に伝え2人に軽く敬礼した。

 

彼はジェルマン達の方に歩いてくるまで頑なに右腕を振らずに歩いた。

 

ジョーレンは知っている、これはISBで教育された人間の特徴のようなものだ。

 

いついかなる状態でもブラスターを用いたり武器を振れるように右腕は常に固定されていた。

 

「ああ、どうも。私が新共和国の補佐官の中で唯一生き残った裏切り者だ」

 

「御冗談を、こちらがジェルマン・ジルディール大尉で私がジョーレン・バスチル少佐です」

 

話に聞いていた通りヴェラス次官は相当の皮肉屋のようだ。

 

元々彼は新共和国議長の補佐官を務めていた。

 

シャンドリラ攻撃で死亡したホスティス・イーの後任として任命され、故モン・モスマだけでなくその後の議長にも仕え続けた。

 

7ABY、新共和国軍がマジノ線に防衛部隊を展開出来たのもヴェラス次官の力添えがあったからこそだ。

 

彼がISBで身に着けた人心掌握術を用いて新共和国軍の防衛出動と予備役動員を実行させた。

 

レジスタンス軍が今日まで戦えているのは最低限の事を彼が実行したからだ。

 

そんなヴェラス次官は議長の代理としてキャッシークに向かい、情報部長のクラッケン将軍と意見交換を行っていた。

 

そのお陰でホズニアンにおける悲劇を免れ、レイアによって正式に国防次官と情報次長に任命された。

 

「ジルディール大尉の方は見たことがある。確か艦隊情報部長のストライン中将の副官だったな」

 

「はい」

 

「中将の事は残念だったな、俺みたいな帝国の裏切り者でも平等に接してくれる数少ない奴だったんだが……」

 

ヴェラス次官の性格はかなり悪い方だが完璧な悪人ではない。

 

自分を救ってくれた人間に対する忠誠心や人に対する憐憫の情を忘れたわけではなかった。

 

「それであのハイドレーヒとかいう金髪の小僧の話を聞きに来たんだったな?」

 

ヴェラス次官の問いに2人は頷いた。

 

すると次官は何故だか困ったような表情を浮かべていた。

 

「どうかされましたか?」

 

ジェルマンが尋ねるとヴェラス次官は包み隠さす答えた。

 

「……いや、正直な話をすると俺も奴をさほど知らなくてな。なんせハイドレーヒは元々ISBでも情報部の将校でもない、ただの宇宙軍の士官だ」

 

「えっ?」

 

2人は顔を見合わせた。

 

そんなことあり得ないといったような面持ちでだ。

 

「俺がまだ帝国の忠誠将校をしていた頃、奴は同じスター・デストロイヤーにいた。情報機関とは一切関係のないただの通信将校だった」

 

「防諜担当とかでもなく?」

 

「それは別の中尉がやってたな。とにかく奴はエリートの宇宙軍士官だったが情報組織の関係者じゃない。しかもある中佐の娘に手を出してそのまま除隊だ」

 

驚くべきことだが彼の言うことは全て真実だった。

 

ちなみにその時のスター・デストロイヤーの艦長が後のカーレリス提督であり、ヴェラス次官はむしろカーレリス提督の方がよく知っていた。

 

「では何故そんな奴が親衛隊の保安情報組織のトップに?」

 

「そこまでは分からん、親衛隊は謎の多い組織だ。シュメルケとかフューリナーとかバエルンテーゼはまあ有名人だがヒェムナーなんて元はコア王族の付き人一家だぞ?」

 

ヴェラス次官は元帝国の忠誠将校だが第三帝国の最新の情報までは知らない。

 

特にFFISOは謎の多い組織であり、親衛隊の将校を捕虜に取ったとはいえ尋問して得られる情報は何もなかった。

 

「あり得る話としては通信将校と情報将校を読み間違えて入ったかだな。まあそんな間抜けとは思えんしその程度の奴をトップに据えるほど情報組織は甘くないはずなんだが」

 

ヴェラス次官はある程度話したら「脱線したな」と話を戻した。

 

「とにかくだ、奴は性格が悪くサディストと言ってもいいな。それで大分自信過剰で恐らく最精鋭の護衛とかは連れていないはずだ。情報組織のトップだが殺りやすいとは思う」

 

「なるほどな、他には?」

 

「奴はもしかしたら間抜けかもしれんが、奴の周りにいる保安局の将校には気をつけろ。特にフリシュタインとかは危険だ。奴らがいたらインプローダーでも放り込んで跡形も残らず吹っ飛ばしてやれ」

 

「了解した、暗殺候補に入れておこう」

 

ヴェラス次官の話を小型タブレットのメモに纏めそれをジョーレンはポケットにしまった。

 

「十分参考になりましたよ、ありがとうございます」

 

ジョーレンは礼を述べて握手を求めた。

 

ヴェラス次官は差し出された2人の手を握り激励した。

 

「そう思ってくれたなら光栄だよ、君たちの成功を祈っている」

 

「どうせなら一緒に来ますか?」

 

ジョーレンの冗談めいた提案にヴェラス次官は苦笑した。

 

「お前達ほどの戦闘訓練は受けていない、俺じゃあただの足手まといだ。だがもし誰か捕縛したら俺に伝えてくれ、ISB式でそいつを歓迎してやろう」

 

ジェルマンとジョーレンも苦笑を浮かべた。

 

彼の皮肉たっぷりのジョークはギリギリ笑える範囲だった。

 

これでもヴェラス次官は昔より丸くなった方だ。

 

「それでは次官、我々はこれで失礼します」

 

2人は敬礼し情報室を後にしようとした。

 

「ああ、生きて帰って来いよ。お前達とは気が合いそうだ」

 

ヴェラス次官の願いに2人は微笑み、情報室を後にした。

 

短期間だがもう準備は整った。

 

後は彼らが手に取るブラスターを金髪の野獣に突きつけるだけである。

 

 

 

-チス・アセンダンシー領 アウター・リム・テリトリー アルバリオ宙域 マイギートー星系 惑星マイギートー 特別軍管区司令部 戦術演習室-

軍事演習には幾つか方法がある。

 

直接部隊を動かして模擬戦闘を行う方法や、ホログラムを用いてより簡単に指揮官や幕僚達の経験のみ積ませる方法。

 

今回戦術演習室で行われていた演習は後者であった。

 

演習は2回にわたって行われており、最初の1回目は防勢指揮官をプライド将軍が務め、攻勢指揮官をペスファヴリ特別軍管区のパヴロフ将軍が務めていた。

 

何故こうした演習が行われているか、それはマイギートーとぺスファヴリ軍管区で立案された防衛作戦の違いだった。

 

マイギートー軍管区で前線惑星は実質的に放棄し、遅滞戦闘を行い防衛線を固めるというものだ。

 

一方パヴロフ将軍は現状の国境線での防衛を主張した。

 

最前線に防御線を敷いて後方の戦力と合わせて侵攻軍を殲滅するというものだ。

 

これは軍管区上の立地が影響している。

 

何せパヴロフ将軍のペスファヴリ特別軍管区はチス・アセンダンシーの最前線に位置する部隊だ。

 

惑星ペスファヴリを守り、住民を守るという義務がある。

 

無論プライド将軍とてそのことは百も承知だ。

 

それでも少ない戦力で防衛するのは不可能であり、包囲するという結論に至った。

 

この防衛計画の対立を解決する為に参謀本部は国防相を交えて対抗演習を行うことになった。

 

その為今回の演習はシャポシニコフ元帥やチェモシェンク元帥が演習監督官していた。

 

1回目の演習はプライド将軍の勝利に終わった。

 

パヴロフ将軍はアルデニアとキャルヒーコルで防衛戦を展開した。

 

双方惑星と軌道上で防衛戦を繰り広げ、地上では機械化戦力を用いた反撃を加えようとしていた。

 

しかしプライド将軍は冷静に機械化戦力の側面に攻撃を叩き込んで反撃を頓挫させ、後退中の敵に機甲部隊を突入させて防衛線に穴を開けた。

 

地上で防衛線を分断している間にプライド将軍は艦隊を迂回させてぺスファヴリ、キャルヒーコルを包囲した。

 

アルデニアでは防衛戦力がそのまま押し潰され、その間にカラーから回り込んだ部隊によって前線惑星は全て包囲された。

 

そのまま前線の防衛戦力は壊滅し、プライド将軍に勝利判定が降った。

 

現在はプライド将軍が防勢指揮官を務めており、ボロスク、ガルキー、ノリス、オーンフラ、シェサーで防衛戦闘を続けていた。

 

既にこの地点に向かうまでにパヴロフ将軍の攻勢部隊は戦力の大部分を損耗していた。

 

全ての戦線でプライド将軍が率いる防衛部隊が戦線を維持していた。

 

「このままいけばパヴロフ将軍の部隊は後2、3日で攻勢能力を消失する」

 

バグラミャン准将はプライド将軍にそう進言した。

 

将軍は考えた。

 

パヴロフ将軍はここで攻勢を終了させるような腰抜けの将軍ではない。

 

むしろ全ての攻勢戦力を用いて戦線に穴を開ける可能性が高い。

 

であればそうなる前に対処しなくてはならない。

 

「参謀長」

 

「はい!」

 

ホロテーブルの周りにいる幕僚達の中で軍管区参謀長のマクシーム・プルカーエフ中将を呼び出した。

 

「セルウィスの予備戦力を投入して連中の後方を強襲する。ガルキーとボロスクはまだ持ちそうか?」

 

「はい、このまま行けます」

 

プライド将軍は満足したような表情で命令を下した。

 

「セルウィス、カムコの予備戦力を投入して連中の後方を強襲する。チス方面から敵を押し返すぞ!」

 

「はい!」

 

ホロテーブル上のユニットに命令を打ち込んだ。

 

温存されていた艦隊と地上軍が後方強襲の為に出撃を開始した。

 

ハイパースペース・ジャンプした艦隊が軌道上に展開しているパヴロフ将軍の艦隊に背後から強襲を仕掛けた。

 

ホロテーブル上だが艦隊は強襲によって混乱し大打撃を受けた。

 

特に損害が大きかったのがオーンフラ、シェサー、シャルブの軌道上艦隊だ。

 

シャルブの艦隊は壊滅し地上部隊が惑星内に展開した。

 

後方の占領部隊はセルウィスから投入された予備戦力によって制圧され、シャルブは奪還された。

 

退路を絶たれ、パヴロフ将軍の軍は厳しい戦いに追い込まれた。

 

更にプライド将軍はオーンフラ、シェサーの防衛部隊にも反撃に出るよう命じた。

 

投入された予備戦力と既存の防衛戦力の挟み撃ちを受けてパヴロフ将軍の軍は悉く打ち倒された。

 

2個惑星での敗北を確認したパヴロフ将軍は全ての残存勢力をノリスに投入して戦線からの撤退を決定した。

 

脱出援護の為にぺスファヴリの艦隊が一部シャルブに向かい、押さえ込んだ。

 

これにより二方向から脱出を妨害されることは無くなったが、それでも撤退は困難を極めた。

 

プライド将軍は可能な限りの艦隊戦力を投入して追撃を敢行。

 

脱出部隊は決して少なくはない損害を受けながらも辛うじてぺスファヴリまで撤退した。

 

尤も最悪の状況は回避したものの、未知領域方面での攻勢は永続的に不可能となった。

 

「バグラミャン、損害は」

 

「パヴロフ軍は7個野戦軍を消失、3個艦隊が壊滅。ノリスの残存戦力も半分は持って行けた」

 

戦果としては十分であった。

 

これで北西部に集中出来る、プライド将軍はそう考えた。

 

「では北西部でも敵を押し返すぞ。野戦軍をボロスクとガルキーで包囲殲滅する」

 

北西部アウター・リムでも温存されていた予備戦力が解放された。

 

まず艦隊が迂回して敵の攻勢艦隊の背後に回り込んだ。

 

地上軍も装甲戦力が反転攻勢に出て敵の攻撃を押し返す。

 

艦隊は攻撃開始から3日後に旗艦が沈むと惑星内へと後退し、プライド将軍による包囲殲滅戦が始まった。

 

プライド将軍は偵察によって位置を割り出し、砲兵火力、航空攻撃、軌道爆撃の3点を多用し大火力で確実に敵を叩いた。

 

こうして弱体化したところに更に地上軍による攻勢が開始され、包囲殲滅戦は順調に進んだ。

 

無論退路の確保の為にパヴロフ将軍は艦隊戦力を投入して方位を解こうとした。

 

しかし分厚い防衛網の前では突破は難しく、チス側で大損害を受けたことにより増援を展開出来ず突破は失敗し続けた。

 

プライド将軍による反撃から12日後、いよいよ包囲下の部隊は降伏した。

 

二正面での損害によってパヴロフ将軍は完全に攻勢能力を失った。

 

それでもなおプライド将軍は攻撃の手を緩めようとはしなかった。

 

すぐに部隊を再編し、ぺスファヴリ、キャルヒーコル、アルデニア、ツェヴカまでの攻勢を開始しようとした。

 

尤も攻勢作戦は計画で終わり、2回戦目の演習もプライド将軍の勝利で終了した。

 

戦術演習室は演習モードから通常モードへ移行し、監督官のシャポシニコフ元帥とチェモシェンク元帥、敵側のパヴロフ将軍とぺスファヴリ特別軍管区の幕僚達がホログラムで現れた。

 

『まず2人の卓越した作戦指揮と健闘を賞賛したい。双方素晴らしい戦いだった』

 

シャポシニコフ元帥は2人を賞賛した。

 

プライド将軍は自信に満ち溢れていたがパヴロフ将軍は悔しそうな表情を浮かべていた。

 

彼にとってはこの2回の演習全て完敗という形で終わったのだ、屈辱を感じずにはいられなかった。

 

『今回の演習結果は今後の防衛計画を制定する上で参考の一助とさせてもらう。では異常だ、全員解散』

 

チェモシェンク元帥の命令によって全員分のホログラムが消失し、幕僚達から安堵の声が漏れた。

 

観察していたヴァシレフスキー少将がやってきて「やったな!」とプライド将軍の手を握り締めた。

 

「これなら辛うじてチスと帝国の全領域を守れる」

 

プライド将軍の発言にヴァシレフスキー少将は大きく頷いた。

 

少なくともこの日、この2人は5年後のある日と同じように勝利を確信していた。

 

 

 

 

-第三帝国領 コア・ワールド コルスカ宙域 コルサント星系 惑星コルサント 親衛隊情報保安本部-

この日、FFISOは国防軍の情報部など全情報機関による情報交換会が行われていた。

 

議長は代理総統によって指名されたハイドレーヒ大将が務め、フリシュタイン准将やカーレリス提督、そして実働部隊指揮官としてフューリナー上級大将が招かれていた。

 

会議場はかつてISB本部で監査官達の報告会が行われていた場所に設定された。

 

「心配なのはレジスタンス軍だ。彼らはエクセゴルで大損害を受けたとはいえ、未だ健在。放置しておくのは危険だ」

 

カーレリス提督は情報部が数多くのスパイから得た情報を元に心配を皆に伝えた。

 

彼の報告にはFFISOの一部将校も賛同していた。

 

「それに関しては同意見です。我々Ⅵ局でもレジスタンス軍の不穏な動きをキャッチしている」

 

FFISO第Ⅵ局長、ハンツェ・ジョストル少将はカーレリス提督の意見に同調した。

 

彼らは本来同じような組織ということもあって対立し競合することが多かったが今回は別だった。

 

レジスタンス軍の一部戦力がモン・カラ、ゴーディアン・リーチ方面に集まりつつあるという報告を受け取っていた。

 

「しかしレジスタンス軍は我が方の部隊が撤収したというのに包囲網を突破する気配がありません。これはとどのつまり、連中の攻勢能力はもう残っていないということではないか?」

 

FFISOでも意見が割れることはある。

 

第Ⅳ局長、ヘンリヒ・ミレル中将はジョストル少将と真逆なことを言った。

 

無論カーレリス提督もジョストル少将もいい顔はしなかったが。

 

「だが彼らの言葉に耳を傾けるのは必要だ。守備隊の兵力を一部戻すくらいは提案して良いとは思うがね」

 

フューリナー上級大将はカーレリス提督やジョストル少々の方を味方した。

 

彼はあくまで部隊指揮官である。

 

情報部が齎す恩恵とその重要性はこの中の誰よりも分かっているつもりであった。

 

「では上層部への進言として付け加えましょう。カーレリス提督、ジョストル少将、大セスウェナとチスの状況はどうですか?」

 

ハイドレーヒ大将が聞きたかったのは後者の話だ。

 

もう今の第三帝国にはレジスタンスなど眼中になかった、彼らはもう死んだ存在だと思い込んでいた。

 

「少なくともチスが主力を国境方面に回したという情報は入ってこない。異常なしだ」

 

「大セスウェナの方も変化ありません。まあ、情報源が減る一方なのはなんとかしたいですが……」

 

「FCSIAか……厄介な奴らだ」

 

大セスウェナ連邦中央安全保障情報局、この情報保安組織が今国内の第三帝国のスパイ狩りを秘密裏に行なっていた。

 

今月だけでも13人が逮捕され、貴重な情報源がまた1つ、また1つと消えていった。

 

この困難な状況は国防軍情報部もFFISOも似たようなものだ。

 

このままでは大セスウェナ連邦に構築したスパイ網は掃討されてしまう。

 

ハイドレーヒ大将は対策を考えた。

 

「フューリナー上級大将、隷下の特務部隊を用いてスパイ狩りの妨害工作は出来ますか?」

 

ハイドレーヒ大将は尋ねた。

 

彼は実力行使に打って出るつもりだった。

 

せめて首都エリアドゥを占領するまではスパイ網を失う訳にはいかなかった。

 

「可能だが、そこまで効果は期待出来ないぞ?」

 

「やらないよりはマシでしょう。今、大セスウェナのスパイ網を失う訳にはいかない」

 

フューリナー上級大将は覚悟を決め、「分かった、やるだけのことはしよう」と答えた。

 

ただ少なくともチス、大セスウェナ共に状況に変化がないというのは喜ばしいことだ。

 

特にチス・アセンダンシーの前線戦力が強化されればバルバロッサ作戦の前提が崩れてしまう。

 

「1つ、よろしいですか?」

 

FFISO第Ⅲ局長オッド・オルフェンドルフ准将が名乗りを上げた。

 

彼が統括する第Ⅲ局は国内に対する諜報活動が専門であり、第Ⅳ局E部長のシェーンベルク少佐と協力してあることを掴んだ。

 

国内問題における重要な情報だ。

 

「我々第Ⅲ局、Ⅳ局E部が掴んだ情報によりますとなんでも近年、”()()()()()()()()()()()()()()()()()()”とか」

 

オルフェンドルフ准将は隠語を用いて暗に情報を伝えた。

 

それを聞いてFFISO、国防軍情報部問わず全員が互いの顔を見合わせた。

 

カーレリス提督は一切表情を変えず、オルフェンドルフ准将の発言を黙って聞いた。

 

「第Ⅲ局としては取り締まりを強化することを進言します」

 

「カーレリス提督、この話は本当ですか?」

 

ハイドレーヒ大将は情報部長に尋ねた。

 

カーレリス提督は少し間を置いて話した。

 

「ベネンヴェディ大佐の報告によればそのような事例は軍内部には見受けられない。むしろ有り得るとするなら民間の方だ」

 

隣にいるベネンヴェディ第Ⅲ課長はそうだと頷いていた。

 

カーレリス提督はあくまで国防軍の代表として国防軍を擁護し続けた。

 

その事に疑いを持ったハイドレーヒ大将はもう一度聞き返した。

 

「提督、本当にそうだと断言出来ますか?」

 

「我々国防軍は親衛隊同様忠誠を誓った身、その忠誠を裏切ることは決して有りません」

 

中央管理部長、ハンパール・オスタル少将はそう断言した。

 

それにカーレリス提督も続いた。

 

「我々は常に清廉潔白ですよ」

 

ハイドレーヒ大将は暫く口を開かなかったが、彼の獣じみた眼光はまだまだ戦う気でいた。

 

状況を見兼ねたフューリナー上級大将が彼らの間に割って入った。

 

「皆、落ち着きたまえ。歌い手が誰かは調べれば分かる話だろう?」

 

上級大将は目線でハイドレーヒ大将に合図しここは退くように伝えた。

 

ハイドレーヒ大将は渋々口論を止めた。

 

「…ではオルフェンドルフ准将、引き続き捜査を進めてください」

 

「分かりました」

 

ハイドレーヒ大将はかつての上官であり友人を睨みつけた。

 

彼は絶対に何かを隠している、ハイドレーヒ大将の疑いは益々深まるばかりだった。

 

 

 

 

 

会議が終わり、参加者達は皆バラバラに行動した。

 

ある者は外に出てこっそりタバコを吸いに行き、ある者はまだ会議室に残って雑談を行なっていた。

 

その中でハイドレーヒ大将はフリシュタイン准将やシェーンベルク少佐と秘密の話し合いをしていた。

 

「それで黒いミラーブライトの中心人物はまだ掴めんのか」

 

「はい……何分国防軍の秘密組織ですから、捜査は難航しています……」

 

シェーンベルク少佐ははっきりとそう伝えた。

 

FFISOは早くから国防軍内部に潜む反総統派の軍人の摘発と失脚に手を出していた。

 

一部の旧来型の国防軍将校は地方に左遷され、閑職に回された。

 

総統が第三帝国を完全に掌握するには邪魔な存在だからだ。

 

それでも開戦から3年以上が経過した今ですら完全な根絶には至っていない。

 

その事にハイドレーヒ大将は若干苛立ちを覚えていた。

 

「少しでも怪しい兆候を出した将校は直ちにリストアップして総統に提出しろ。最悪バルバロッサ作戦に参加させれば当面は反乱を企てる暇はないはずだ」

 

シェーンベルク少佐はバツの悪そうな表情で頷き、大将の命令を聞き入れた。

 

すぐにハイドレーヒ大将はフリシュタイン准将に尋ねた。

 

「国防軍人、親衛隊将校がチス側の将校と連絡を取っている素振りはないか?」

 

チス・アセンダンシーにはかつて同じ帝国軍だった将兵がごまんといる。

 

そうした将兵と国防軍、親衛隊の将兵が連絡を取って密かに繋がることをハイドレーヒ大将は恐れていた。

 

彼の”理想”を叶える為にもバルバロッサ作戦は全て計画通りにやってもらわなければ困る。

 

何せ総統とハイドレーヒ大将の本命は作戦後に行われる占領計画にあるのだから。

 

「今の所そうした兆候は確認出来ません。向こうの保安機関は探りを入れ始めたらしいですが」

 

「上が大規模に行動するまでは放置しろ。とにかく、開戦すれば後はどうにかなる」

 

「ハイドレーヒ大将!」

 

反対側から彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

振り返るとそこには不仲になったかつての友人がいた。

 

「カーレリス提督、どうかしましたか」

 

「1つ、話がある」

 

提督は副官のマンティス中佐を引き連れていた。

 

オスタル少将やⅠ課のピルケンロック大佐は既に会議室を出ており、情報部の将校は殆ど出払っていた。

 

「何か私に用ですか?」

 

「明日、今日の会議報告書を元に総統が今後の事について私と君で話し合いたいと先ほど総統府から連絡を受けた」

 

ハイドレーヒ大将は怪訝な表情を浮かべた。

 

何せ明日は予定がもう先に入っている。

 

「明日ですか?明日はラクサス総督府のモフグロットンとの会談予定が先に入っていますが」

 

「総督は是非明日が良いと言っている。それにだ」

 

カーレリス提督は彼に耳打ちした。

 

「ラクサスで何やら不穏な動きがある。あまり近づかない方がいい」

 

カーレリス提督ははっきりとそう呟いた。

 

「ともかくだ、これは総統閣下の要望だ。優先順位を違えるなよ」

 

提督はそう念を押して去っていった。

 

ハイドレーヒ大将は若干の含みを感じつつ仕方ないかと渋々受け入れた。

 

「提督はあんなこと言ってましたがどうするおつもりですか?」

 

フリシュタイン准将は彼に尋ねた。

 

「仕方ない、べレーク中佐を代理で行かせよう。一介のモフと総統じゃ重要度が違う」

 

帝国設立当時からいる総督も代理総統の前では小役人に過ぎない。

 

 

 

 

 

 

-レジスタンス領 アウター・リム・テリトリー カラマリ宙域 モン・カラマリ星系 惑星モン・カラ 連合艦隊旗艦”コンフェデレーション”-

主力艦や揚陸艦に地上戦力が運搬され、軌道上に攻勢参加艦隊が集結していた。

 

新分離主義連合とレジスタンス軍の合同艦隊総旗艦はプロヴィデンスⅡ級”コンフェデレーション”が務め、指揮官はマー・トゥーク提督が総司令官に任命された。

 

ブリッジでは通信士官達が慌ただしく報告を行い、部隊間の調整を行なっていた。

 

「”パッセル・アージェンテ”、”サーカクⅣ”配置につきました」

 

「”サリーン”、”エルーセリアン”とのデータリンク接続。艦隊指揮に加えます」

 

「提督、先遣偵察隊からの報告です」

 

情報をトゥーク提督の座るアームレストのモニターに移動させた。

 

より詳細な敵の配置と状態が偵察隊によって報告された。

 

艦隊は平時の状態を保っており、ラクサス駐屯軍は依然として動きはなかった。

 

つまりこの戦力で攻勢を仕掛け勝利することは可能な状況下であった。

 

「よし、全艦に打電。ハイパースペースの座標計算を開始せよ」

 

それは端的に表された作戦結構の合図であった。

 

航行士官達がコンピューターを用いてハイパースペースの座標計算を開始した。

 

その間にトゥーク提督はコムリンクを用いて全艦に最終演説を行った。

 

「全部隊に通達、我々はこれより第三帝国に対する攻勢作戦を開始する。連合の同志にとっては3年ぶりに首都への帰路となる」

 

副官のパーロ中佐や幕僚達は皆感慨深そうにしていた。

 

3年前のあの日、決して少なくはない者がラクサスを諦め彼の地から脱した。

 

ようやく帰れるのだ。

 

連合にとっては第三帝国に与える初めての狼煙となる。

 

「奴らが我々から奪った最初のものを取り返そう。ラクサスに再び連合の旗を掲げ、奴らに我々は健在であることを示そう。皆、勝利を我らの手に掴もう」

 

ニモーディアンの提督はそこまで演説慣れしている訳ではなかった。

 

それでも多くの連合軍の将兵に響いた。

 

勿論、良き友人として共に戦うつもりのレジスタンス軍の将兵達にもだ。

 

「皆、出し惜しみはするな。ありったけの火力を叩きつけ、帝国軍を蹴散らしてしまおう」

 

武器弾薬は沢山ある。

 

彼ら(大セスウェナ)は約束を違えなかった。

 

兵力さえあれば攻勢作戦が2回出来るほどの物資を送ってくれた。

 

これで失敗すればもう言い訳は出来ないというほどにだ。

 

「ハイパースペースの座標計算完了しました」

 

「各艦艇、ジャンプ準備整いました」

 

パーロ中佐の報告から一刻の間を置いて全軍に命令を伝えた。

 

「全艦、ハイパースペースへ」

 

モン・カラ軌道上の合同艦隊が一斉にハイパースペースへと飛び去った。

 

目的地はラクサス、そしてかつて新分離主義連合の国土だった領域。

 

第三帝国がレジスタンスと連合を軽んじている今こそチャンスであった。

 

失ったものを取り戻すのだ。

 

ラクサス・セカンダス攻勢は誰も知り得ないところで人知れず始まった。

 

 

つづく




「ジュディシアル・フォースの方かい?わしはね、ベスカーの玉おじさんじゃよ」

そういって自身の股間を曝け出そうとしてくる全裸中年マンダロリアン。

しかしジュディシアル・フォース本部という立地が不味かったのかこの全裸中年マンダロリアンはすぐに捕まった。

一部ではこれで銀河共和国の治安維持は十分なレベルだったと言われるのだから世も末である。

#全裸中年マンダロリアン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。