第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「我らは国家に忠義を尽くし、国家の為に決断し、国家の為に戦ったのです。それの一体何が罪というのでしょうか?」
-15ABYにおけるある軍事裁判での証言-


決断

-第三帝国領 ミッド・リム マルドロード宙域 センタレス星系-

ラクサス・セカンダスの陥落から2日過ぎた。

 

旧タイオン・ヘゲモニー守備軍の大多数が撤退に成功し、地上軍は惑星センタレスの守備に付き、宇宙艦隊は全て国境防衛司令官に任命されたキラヌー提督が任命された。

 

その為ラクサス防衛艦隊のルフェッツ中将は指揮権を剥奪され、ラクサス駐屯軍司令官のリクスヴェルト将軍、タイオン・ヘゲモニー守備軍司令官のイェルトラント提督と共にコルサント本国へ召喚された。

 

彼らにとってそれは死刑宣告も同義であった。

 

一方国境防衛艦隊に改変された旧タイオン・ヘゲモニー守備軍とマルドロード宙域軍は常に予断を許さない状況が続いていた。

 

ラクサス、そしてオッサスが陥落してから1日経って連合=レジスタンス合同軍は度々越境してマルドロード宙域へ攻撃を仕掛けるようになっていた。

 

それは威力偵察でもあり、本格的な攻撃が来ることもあった。

 

現在センタレス星系ではキラヌー提督率いる主力艦隊が連合=レジスタンス合同艦隊と激突していた。

 

合同艦隊の戦力は凡そ3個小艦隊程度であり、数の上ではキラヌー提督の艦隊が勝っていた。

 

提督は無理に敵艦隊を殲滅するようなことはせず、守りを固めながら攻撃の一手を裏から回していた。

 

「敵艦隊の足が止まりました、我が艦隊の迂回と突破を諦めたようです」

 

作戦参謀のブレリヒト大佐はタブレットで簡略化された戦況図を見ながら提督に報告した。

 

敵艦隊のコルベット艦やフリゲートが砲火を浴びて爆沈する姿はエレクトロバイノキュラーを使えばこの、”フロッテンアドミラル・ピエット”のブリッジからもよく見えた。

 

「敵のスターファイター隊は」

 

「艦載機部隊で抑え込めてます。我が艦隊への攻撃は愚か自軍艦隊の防空にも戻れないでしょう」

 

航空参謀のグライフェラー大佐はそう断言した。

 

彼はキラヌー提督がまだパイロットをやっていた時期の最後の部下であり、かなり目をかけていた。

 

参謀達の意見の報告を聞いてキラヌー提督は確実な意志を持って命令を下す。

 

「機動部隊に攻撃に入らせろ。後方からスターファイター隊で強襲して主力艦を何隻かやれ」

 

「ハッ!直ちに命令を伝えます!」

 

フロッテンアドミラル・ピエット”の通信士官が頷き、待機中の航空機動部隊旗艦”ヴァルト・スケリス”に提督の指示を伝えた。

 

フロッテンアドミラル・ピエット”も“ヴァルト・スケリス”も前内戦の優れた将校達の名だ。

 

特にキラヌー提督からしてみればピエットはかつての上官であり、良き先輩だった。

 

「こちらで敵艦隊の注意を引く、全艦微速前進!距離を詰めろ!」

 

提督の指示に従い艦隊がエンジンを吹かして前進する。

 

インペリアル級やヴィクトリー級は砲撃を強め、アークワイテンズ級とグラディエーター級の防空戦隊は艦列に紛れ込んだ敵スターファイターを1機も残らず撃滅した。

 

数的不利の合同艦隊は集中砲火を浴びて各艦偏向シールドが剥がれかかっていた。

 

だがこれらの攻撃は陽動でしかなかった。

 

本命は“ヴァルト・スケリス”率いる航空機動部隊であった。

 

ヴァルト・スケリス”を含む三隻のセキューター級と僚艦のクエーサー・ファイア級からTIEファイター部隊が発艦する。

 

総数108機、これでも機動部隊の中核を担うセキューター級三隻分の艦載数の1/4程度である。

 

出撃したTIEファイターの殆どが護衛機のTIEインターセプターやTIEブルート、そして対艦攻撃機のTIEボマーだったがうち24機だけ違っていた。

 

うち12機は銀河系でも最新鋭かつ最強の機体と名高いTIEディフェンダーであり、残り12機はTIEパニッシャー、国防空軍の中では最新鋭の爆撃機であった。

 

攻撃部隊は最大速度で敵艦隊に接近し、機動部隊の護衛を務めるインペリアル級一隻とヴィクトリー級数隻も後に続いた。

 

合同艦隊は敵スターファイター隊の接近を察知し、すぐに予備隊と小型艦艇を後方へ回した。

 

しかし予備隊の中型艦と旋回した小型艦艇はインペリアル級の集中砲撃に遭い、スターファイターを迎撃する前に撃沈した。

 

予備隊も対艦攻撃阻止の為、果敢に立ち向かったが阻止には至らなかった。

 

残りは主力艦や防空艦の艦隊防空を頼る他ない。

 

されど先陣を切って突っ込んだTIEパニッシャー隊は砲火をものともせず、ありったけの爆弾を各主力艦に叩き込んだ。

 

艦隊後列のレキューザント級二隻、MC80スター・クルーザー一隻が大破し、新共和国クルーザー二隻が轟沈した。

 

僚艦のネビュロンBエスコート・フリゲートも艦列に突っ込んだTIEディフェンダー中隊が二隻ほど持っていった。

 

後方の艦列に穴が開いたことにより通常のTIEボマー隊も安全に爆撃が可能になった。

 

3個中隊36機のTIEボマーが主力艦に狙いをつけて爆撃を開始する。

 

特に”ヴァルト・スケリス”の機動部隊はキラヌー提督直轄の精鋭部隊である

 

プロトン魚雷やプロトン爆弾を正確に艦艇の弱点に叩き込み、1個中隊で一隻の主力艦を大破に陥れた。

 

追加でMC80スター・クルーザー一隻、プロヴィデンス級一隻、レキューザント級一隻が大破した。

 

これで六隻、艦隊戦力の1/3にあたる主力艦が大破し、行動不能になった。

 

乗組員達が必死に消火活動を行なっているがプロヴィデンス級を除く五隻はもう手遅れに近い状態だった。

 

各艦の艦長は退艦命令を出し、乗組員は脱出ポッドや輸送船で退艦を始めた。

 

その間にレーザー砲を除く弾薬を全て消費した爆撃機隊は母艦に帰投し、護衛機隊が後退を援護していた。

 

TIEブルートの対艦攻撃でCR90コルベットやミュニファスント級フリゲートも何隻かやられた。

 

予想外の損害と突破は不可能と考えたのか合同艦隊は友軍を回収しつつ、撤退を開始した。

 

その様子はキラヌー提督ら主力艦隊からも確認出来た。

 

「敵艦隊、後退していきます」

 

「この行動からして敵は撤退するようですな」

 

幕僚のヴェルメルン中佐はそう呟いた。

 

そこで艦隊参謀長のヴォート少将がキラヌー提督に尋ねた。

 

「追撃なさりますか?」

 

提督は確固たる意志を持って参謀長の提案に頷いた。

 

「ゲンツベルク中将の艦隊に追撃を命じよ、残りは全て防衛線を維持。”ヴァルト・スケリス”も後退させ待機だ!」

 

「ハッ!」

 

合同艦隊が撤退する中、帝国艦隊の一部が追撃の為突撃陣を展開し全速力で艦隊を追いかけ始めた。

 

フロッテンアドミラル・ピエット”麾下の主力艦隊はその場に留まり、不測の事態に備えた。

 

あの3個小艦隊は囮で、もしかしたら主力の本艦隊が到来するかもしれない。

 

そういった不安は霧のかかった戦場ならよくあることだ。

 

それに追撃に全艦隊を差し向けてもそこまで効率的な効果が望めるとも限らない為、主力は動かさずにいた。

 

何より敵の主力艦を六隻も大破させ、うち五隻を撃沈させたのだ。

 

防衛戦としては十分な戦果であった。

 

「各担当区域の防衛艦隊も我々と同様に敵艦隊の攻勢を阻止しています。奴らがタイオン・ヘゲモニーから出てくることは当分ないでしょう」

 

グライフェラー大佐はそう予測を述べた。

 

現状タイオン・ヘゲモニーから襲来する合同艦隊はマルドロード宙域の国境沿いで阻止されては逃げ帰ることを繰り返していた。

 

キラヌー提督はゴーディアン・リーチでの鬱憤を晴らすように吐き捨てた。

 

「奴らが思い上がるようヤヴィンの攻略作戦を縮小させたのが不味かった。ラクサスの陥落もこの戦闘も全てあの参謀本部のせいだ」

 

大佐は苦笑しながらキラヌー提督を宥めた。

 

「仕方ありませんよ、実際タイオン・ヘゲモニーの領域で攻勢するのが連中にとっては最後の体力でしょうし。奴らの最後の足掻きですよ」

 

「ああ、シス・エターナルとの戦いで消耗し切った彼らにもうこれ以上戦う体力はあるまい。我々もそう遠くない日にラクサスへ戻るだろうな」

 

前線のキラヌー提督達ですらレジスタンス軍と連合軍の戦力を過小評価し、予測を見誤っていた。

 

この深刻な判断は前線から離れ軍の中枢に行けば行くほど深刻なものとなっていた。

 

深刻な判断の誤りはやがて第三帝国の結末を決めてしまうのだが、誰もがまだ深刻さを理解していなかった。

 

11ABY、それは第三帝国にとって判断と実行の年であった。

 

 

 

-大セスウェナ連邦領 アウター・リム・テリトリー セスウェナ宙域 エリアドゥ星系 首都惑星エリアドゥ 首相官邸-

ラクサス・セカンダス攻勢の成功はレジスタンスと連合の勝利であると同時に、大セスウェナ連邦の支援の成功でもあった。

 

レジスタンス及び連合政府の外交部門からは接触時とは違い、かなり前向きな返事が返ってきた。

 

同盟調印式は1ヶ月後に秘密裡に行われることになっている。

 

今日は攻勢の成功とそれに対する第三帝国の反応を議論する為に連邦盟主を交えた国家安全保障会議が開かれていた。

 

「第三帝国はタイオン・ヘゲモニー領域から総撤退し、センタレスを基準としてマルドロード宙域に防衛線を展開。この防衛線付近では現在も戦闘が続いています」

 

統合本部長に新たに就任したレイヒ提督は軍事アドバイザーとして会議参加者に報告した。

 

彼の階級章は提督から上級提督のものに変わっており、本部長就任に際して正式に昇進した。

 

会議の席は円状のテーブルに連邦盟主を軸に右側に首相、副首相、外務長官、財務長官、科学技術長官、左側に国防長官、軍事アドバイザーとして統合本部長、司法長官、内務長官、FCSIA長官という並びになっている。

 

テーブルの背後には安全保障会議の補佐官達や副官が参加者達の議論と意見のアシストの為、資料の入ったタブレットを持って待機していた。

 

「損失ですがレジスタンス軍及び連合軍は軽微、帝国軍は守備戦力の3割を消失しましたが撤退には成功し、全戦力が防衛線に転用されています」

 

レイヒ提督は報告を終え、会議に入った。

 

基本的にこの場を取り仕切るのは連邦盟主の名の下で行われた選挙で選出された議員らによる間接民主制で選ばれた首相が行う。

 

「ではデナヴィン長官、第三帝国側の国内情報の報告を頼む」

 

首相はFCSIA長官に報告を命じた。

 

ヴィルアム・デナヴィンは元ISB少将であり、現在のFCSIA創設に大きく関与した人でもある。

 

その姿はかつてとさほど変わらず、白いFCSIAの制服を着て淡々と報告を始めた。

 

「国防軍は最高司令部が緊急会議を開き、親衛隊も同様です。宣伝省は情報統制を開始、脱出してきた軍司令官と官僚何人かをコルサントへ秘密裏に召還されました。恐らくは……」

 

デナヴィン長官は喉に親指を当て撫でるようにスライドさせた。

 

つまり敗北の人身御供、粛清対象というわけだ。

 

内情を理解した首相は頷き、次に移った。

 

「なるほど、ではモトリソン長官、リノックス長官、国境沿いの第三帝国の状況はどうなっているか」

 

まず最初に発言したのは内務長官のハーベート・モトリソンであった。

 

彼は元々ティネルⅣ出身の貴族階級であったが銀河内戦時の動乱を受けて大セスウェナ連邦に亡命し、暫くは官僚として働いていた。

 

右目は義眼であり、幼い頃の感染症で失明した為である。

 

「それに関しては全く変化ありません。警備隊の報告では国境付近に接近する第三帝国の部隊は確認されていないとのことです」

 

モトリソン長官は穏やかな声音でそう報告した。

 

それにリノックス長官も続く。

 

「国防軍、親衛隊とも部隊が減少した、或いは増加した報告は受けていません。しかし状況が状況ですので1日ごとに調査報告を提示します」

 

首相は頷き今度はハルト外務長官に尋ねた。

 

「外務長官、レジスタンスや連合からは何か応答はあったか?」

 

「両国共同で成功と共に我々への謝辞を頂きました。内容としては『本作戦の勝利は貴国の一助が勝利の一因となった』と、良好な反応でした」

 

それを聞いた首相とヘルムートは顔を見合わせ、安堵したような表情を浮かべた。

 

少なくともこれで大セスウェナ連邦が十分な支援を繰り出せることが彼らには提示出来た。

 

後は旧内戦時の感情的な蟠りを乗り越えられるかに掛かっている。

 

それに同調するようにハルト長官は「この調子では1ヶ月後の同盟調印式も安泰でしょう」と付け加えた。

 

「問題は、第三帝国であるな」

 

ヘルムートが1つ疑念を呟いた。

 

もし今回の攻勢に大セスウェナ連邦が1枚噛んでいたとなれば第三帝国は明日にでも国境近くの部隊をエリアドゥに差し向けるだろう。

 

そこで首相がFCSIA長官にあることを尋ねた。

 

「デナヴィン長官、第三帝国が我々の支援に気づいていると思うか?」

 

長官はすぐに首を横に振った。

 

「いえ、もし気づいているなら今頃国境地帯に国防軍か親衛隊の部隊が違法越境しにきてるでしょうし」

 

デナヴィン長官の発言は的を得ていた。

 

大セスウェナは彼らの顔面に泥を叩きつけるような行為をしたのだ、これに対して何も行動しない第三帝国ではない。

 

本当に何もしてこないということは本当に知らないのであろう。

 

「確かにな、引き続き情報収集を続けろ。今は気づいていないとしても明日以降はどうかわからんからな」

 

「はい」

 

首相の発言を受けてデナヴィン長官は控えていた補佐官を呼び出し、詳細な命令を伝えた。

 

補佐官はタブレットにメモを取り、長官の発言を残した。

 

他の副官や補佐官達も会議の内容をタブレットのメモに纏めている。

 

「これで情報に関しては問題はなくなった、残るは直接的な防衛であるな」

 

「ですな、長官、本部長、防衛計画の進捗はどうなっている?」

 

ヘルムートはやんわりと疑問を述べ、その意を汲み取って首相は2人に尋ねた。

 

連邦全土の防衛計画を担当するのは統合本部の対防局であり、レイヒ上級提督の方が詳しかった。

 

その為説明はレイヒ上級提督が行った。

 

「現在対防局から上がった防衛計画を基に首都防衛演習を行う予定です」

 

「今期徴兵は予定通り実施します」

 

2人とも頷いて了承した。

 

「皆、素晴らしい働きだ。後は機を待つのみ、だな」

 

ヘルムートは彼らの働きをそう評価した。

 

彼らの準備はもう大詰めに入りつつあった。

 

 

 

ーファースト・オーダー領 未知領域 惑星イラムー

惑星イラムの改造は実は帝国時代から始まっていた。

 

まず採掘作業を実行する為に惑星に採掘場を建設し、次に有事に備えた武装化を進めた。

 

途中エンドアで帝国は崩壊したが、後釜としてやってきたファースト・オーダーがイラム改造のプロジェクトを引き継いだ。

 

今のイラムはジェダイの聖地ではなく、ファースト・オーダー最大の城塞惑星となった。

 

惑星全体が強力なシールドで覆われており、地上には各地にターボレーザー砲、イオン砲が配備され、常時大規模な駐屯軍が居座っている。

 

惑星の改造は進んでおり、イラムは常に聞こえない悲鳴を上げ続けていた。

 

『建設チーム104、直ちにエネルギーパイプを区画ヤートに運搬せよ』

 

『第1ハイパー・ドライブ管理室、エネルギーテストを行う為パイプラインに惑星コアエネルギーを注入する。管理室はエネルギーを管理し、ハイパードライブを作動せよ』

 

建設広場では常に通信が飛び交い、資材を持った輸送船が次々と地上に降りては軌道上の資材集積船に向かっていく。

 

労働者の凡そ60%が作業用ドロイドであり、残り35%は強制労働に従事させられている囚人かファースト・オーダー軍についていけなかった落第者達、本来の労働者は5%程度しかいなかった。

 

そうでもしなければこの巨大な惑星を丸々改造するなど無理な話だ。

 

現場の監督官は本来のイラム開発労働者達やファースト・オーダー軍の工兵将校、技術将校であり、彼ら彼女らは全員それ以外の労働者を人としては見ていなかった。

 

厳しい労働の末に過労死したり、事故死する人間も少なくはなかった。

 

「しかし、とんでもない規模の開発工事ですな。ここだけ見ればまるでコルサントの工場地帯だ」

 

真下で行われている工事を眺めながらピーヴィー艦長はそう呟いた。

 

ピーヴィー艦長と新たにマンデイタ―Ⅲ級”フルミナトリックス”の艦長に任命されたモーデン・キャナディ艦長は上官のピアーソン提督に連れられ、開発遅滞の視察に訪れていた。

 

その光景はまるで今のファースト・オーダーの姿を現しているかのようであった。

 

軍人が上に立ち、そうではない者が下で踏みつけられている。

 

軍人たちは当然そんなことを気にせず、成果ばかりに目を通していた。

 

「惑星コアのエネルギーを使用した連結型のハイパードライブを搭載しました。惑星内のターボレーザー砲同様、無限に近いエネルギーをドライブに提供できます」

 

フラウス・モンヒター技術大佐は自慢げに3人に伝えた。

 

彼は金髪のオールバックで顔は整っていたが、悪人であることは話しているとすぐに感じれる。

 

言葉の節々に無遠慮さと悪意が滲み出ており、優秀だが碌な人間ではないというのが専らの評価であった。

 

「これ程の巨大建設、労働不足には陥りませんか?」

 

キャナディ艦長は技術大佐に尋ねた。

 

モンヒター大佐はかなり若い部類の将校であったが、キャナディ艦長も負けず劣らず若き艦長である。

 

「労働者は我がファースト・オーダー・アカデミーの脱落者と作業用ドロイドで賄っています。ですので労働者不足に関しては心配なさる必要はありません。まあ使えないクズでもリサイクルは可能ということです」

 

嫌な物言いに黙って話を聞いていたピーヴィー艦長は同僚のブレンドル・ハックス将軍に似ていると感じた。

 

大佐が使えないクズと評した人々は元はハックス将軍がリザレクション計画で強制的に拉致してきた人々だ。

 

まずは数が重要ということで体力や能力という面にはさほど気にせず連れてきた為、当然軍隊の訓練には付いていけない者も多かった。

 

その結果兵士の質も下がっているとキャナディ艦長は感じており、この事を不満に思う将校も多かった。

 

それでもリザレクション計画がなければファースト・オーダーは短期間のうちに軍事力だけは銀河系の十本指に入ることは出来なかったであろう。

 

ちなみにこの事はチス・アセンダンシーのような他国には伏せられている。

 

異常者のハックス将軍とは違い、スローネ大提督はまだ常識があった。

 

「惑星コアをエネルギーとして運用しているらしいが安全性は大丈夫なのか?」

 

「無論です、惑星コアの暴走は万に一つもありません。それに基地の各種機能を運用するのに必要なエネルギーは、コアのエネルギーに比べたらほんの僅かです」

 

それでもイラムからしてみれば自らの血液を外付けされた得体の知れない何かに流されているようなものだ。

 

それが医療機器ならまだしも、イラムのそれはイラム自身には悪影響しか及ぼさない代物であった。

 

『ハイパードライブの作動及びパイプラインへのエネルギー安定供給を確認。現時点を持ってエネルギーテストを終了する』

 

モンヒター大佐が説明を行っている最中、パイプに流されたエネルギーの流動が停止し、数キロ先にあるハイパードライブも停止した。

 

そこでふと疑問に思ったキャナディ艦長が大佐に尋ねた。

 

「このパイプライン、偏向シールドがあるとはいえ魚雷の1発でも喰らえば案外脆い気がしますが対処の方策はありますか?」

 

もしも、ということは常にあるとキャナディ艦長は認識していた。

 

今後戦う可能性のある敵の艦隊がもしイラムの防衛艦隊を突破し、惑星内に突入してスターファイターやウォーカーが一撃でもこのパイプに攻撃を入れたらどうなるだろうか。

 

少なくともハイパードライブは機能を停止するだろうし、下手すれば暴発して被害が周囲に及ぶ可能性もある。

 

無論取り付くまでに敵は計り知れない犠牲を代償として支払うだろう。

 

しかし取り付けないということはない、艦長は二度に渡るデス・スターの戦訓として己に刻み込んだ。

 

この時も大佐は余裕そうな笑みで彼らに伝えた。

 

「パイプライン施設としてここを含めた上層に装甲版を設置し、周囲に防衛用砲台を配備します。また発覚を防ぐため偽装工作も行います。これだけやれば少なくともぱっと見パイプラインがあると思わないでしょう」

 

「イラムもまだ改修中ということだ。改修が完了すればこの惑星は最強の城塞惑星となる。イラムと我がファースト・オーダー艦隊で殆どの敵は突破出来ず全滅するはずだ」

 

ピアーソン提督も自慢げに語った。

 

少なくともこのイラムはもう軍事城塞として十分な機能を持っている。

 

至る所にターボレーザー砲が設置され、各地にTIEファイターの飛行場と地上軍の駐屯地が設営されている。

 

惑星内には独自の造船所と宇宙港も設置されており、惑星内で艦艇を建造し傷ついた戦闘艦を修理することも可能だ。

 

仮に軌道上の艦隊戦に敗れたとしてもファースト・オーダー軍は惑星内に籠城して自活しながら戦うことが可能である。

 

正に無敵要塞、計画では”()()()()()()()”を搭載する話もあった。

 

問題はこの要塞の力が誰に向けられるかである。

 

少なくともピアーソン提督は矛先を明確に理解していた。

 

「第三帝国、帝国の後継者を気取るなら今に見ていろ。この要塞で粉砕してやる」

 

本当の帝国の後継者は未知領域の暗闇で、静かにその時を待っていた。

 

 

 

-第三帝国領 コア・ワールド コルスカ宙域 首都惑星コルサント 国防軍最高司令部-

ラクサス・セカンダス攻勢は国防軍にとって正に寝耳に水、背後からの一突きというに相応しいものであった。

 

何せ国防軍の見立てでは連合軍にもレジスタンス軍にも攻勢能力はないものとされていたからだ。

 

それがタイオン・ヘゲモニーを丸ごと制圧するだけの攻勢能力があった。

 

国防軍の戦略が180度一変する衝撃だったのだ。

 

その為直ちに緊急会議が開かれ、軍集団、総軍以上の司令官達が参集された。

 

会議室には正面に国防軍最高司令部総長カイティス大将軍、地上軍参謀総長ヘルダー上級将軍、宇宙軍総司令官オイカン大提督、宇宙軍参謀総長モルティーク提督、空軍総司令官ローリング大将軍、参謀総長イェシェンク将軍が座っている。

 

その左右に各総軍、軍集団、艦隊司令官達が控えている。

 

左右の手前にはそれぞれ1人ずつ、大将軍が座っていた。

 

左側にはヴィアーズ大将軍が、右側にはブラシン大将軍が座っていた。

 

彼らのテーブルには資料や制帽、水の入ったコップだけでなく、元帥以上の階級を有する将官のみに与えられる将官指揮杖が置かれていた。

 

元帥のものはこれを元帥杖と呼び、大将軍や大提督のものはこれを大将軍杖、大提督杖と呼んだ。

 

「先の予想外の奇襲攻撃によって我々はタイオン・ヘゲモニー領域を全て失った。無論現地指揮官達の責任は追って取らせるものとするが、今話すべきは今後我が軍が取る方針についてである」

 

会議の進行役はカイティス大将軍が担っていた。

 

彼は年長者であり帝国国防軍の制服組トップというべき立場の人間である。

 

立派な口髭を備えた典型的なコア・ワールド軍人面の彼は、国防軍の顔として相応しいものであった。

 

何より代理総統に心酔し、事務に秀で御しやすかった為政権としてはとても便利な存在であった。

 

「諸将らも存じている通り、我が国防軍には2つの作戦計画がある。1つはバルバロッサ、チス・アセンダンシーに向けた侵攻作戦。そしてウンターガング(落日)、大セスウェナ連邦に向けた侵攻作戦である」

 

「バルバロッサ、ウンターガングは総統閣下が強くお望みの作戦です」

 

カイティス大将軍の発言にヘルダー上級将軍は態とらしく総統の名前を込めて付け加えた。

 

特にバルバロッサ作戦は参謀本部肝入りの作戦であり、これを実行する為に参謀本部は凡そ1年以上の歳月を掛けて作戦を練ってきた。

 

そして必要な部隊もすでに差し向けてある。

 

「我々は今回の戦闘でレジスタンス軍、連合軍が予想以上に戦力を有していることを明らかにした。その上で諸将の意見を聞きたい」

 

カイティス大将軍の発言に対して真っ先に名乗りを上げたのがヴィアーズ大将軍であった。

 

彼の背後にはコヴェル中将とアイガー少将、そしてバエルンライン大佐が控えていた。

 

大将軍が真っ先に名乗りを上げたことにより、3人は不安がっていた。

 

間違いなく議論は荒れると。

 

「総長、私は申し上げられた2つの作戦を直ちに中止してレジスタンス、連合軍との戦闘に注力すべきと進言する。我々の目下の敵は新共和国から派生したレジスタンスと新分離主義連合だったはずだ。このような事態だからこそ原点に立ち返るべきだ」

 

ヴィアーズ大将軍は以前からバルバロッサとウンターガング作戦については反対の立場であった。

 

何せ代理総統に直接反対の意を申し出るほどなので、折角アーヴァラ7での勝利した地上戦の名人も代理総統から煙たがれる存在となってしまった。

 

恐らく彼の上官がダース・ヴェイダーや行方不明になったスローン大提督だったなら聞き入れられたのだろうが、残念ながら彼の上官は得体の知れない総統である。

 

また大将軍の実直な進言は参謀本部ともウケが悪かった。

 

「大将軍、そうは言ってもレジスタンス軍の攻勢領域は僅かなものだ。それよりも強大な国土と軍を持つチス、大セスウェナの方が脅威であろう」

 

あくまでヘルダー上級将軍はバルバロッサ作戦を押し通すつもりでいた。

 

ヴィアーズ大将軍と違って彼らがこの作戦にかけた労力は計り知れない。

 

されどヴィアーズ大将軍も退く訳にはいかなかった。

 

「参謀総長は彼らを甘く見ている、レジスタンス軍の戦力を過小評価しては我々はまたエンドアの轍を踏むことになる」

 

「私は過小評価している訳ではない、レジスタンス軍には予想以上の力があったがあくまで1領域程度が限界だと言っただけだ。それにレジスタンス軍の攻勢部隊はマルドロードの防衛線で食い止め、時には大損害も与えているそうではないか」

 

予想通り議論は白熱した。

 

だがヘルダー上級将軍の状況認識は半分正解だったが半分間違っていた。

 

確かにレジスタンス軍と連合軍の艦隊はマルドロード宙域の防衛線で阻まれている。

 

実際防衛指揮官のキラヌー提督の指揮が優秀であるのも確かであった。

 

されどレジスタンス軍が派遣していた部隊はあくまで威力偵察であり、本腰を入れた攻勢部隊ではなかった。

 

参謀本部は敵戦力を図りかねていた。

 

というより国防軍全体がシス・エターナルとの戦いでレジスタンス軍が大損害を被ったと認識しており、全体的に軽視する傾向にあった。

 

死の小艦隊として対反乱軍鎮圧戦の最前線に立っていたヴィアーズ大将軍が恐らく一番レジスタンスを警戒していた。

 

尤も彼の場合、未知領域や南アウター・リムに別れたかつての帝国軍の同胞達と戦いたくないという気持ちも影響していた。

 

レジスタンスが驚異であるなら当面は生き別れた同胞達と銃を向け合うことはなくなるからだ。

 

「むしろレジスタンス軍はこれで当面は動けなくなったと考えるべきだろう。現状の戦力で奴らを封じ込めている間にバルバロッサを実行に移すべきだ。何よりこれは総統閣下も望まれていることだからな」

 

「っ…!」

 

ヴィアーズ大将軍は「都合のいい時だけ総統の名を持ち出すのか」と参謀総長を批難しようとしたが、流石に意地が悪すぎるのでやめた。

 

代理総統は今やかつての皇帝と近しい存在である。

 

総統が国防軍にとって都合の良いうちは彼は皇帝の代理人であり、絶対的な存在として認めていた。

 

「しかしヴィアーズ大将軍の発言にも一理ある。むしろ私はレジスタンス軍が弱り、タイオン・ヘゲモニーで息を切らしている今こそ連中の主力部隊を殲滅すべきだと思う」

 

ルンデシュード大将軍はヴィアーズ大将軍に味方した。

 

2人は同じ大将軍でありながら年は10歳以上離れており、ヴィアーズ大将軍にとってルンデシュード大将軍は大先輩であった。

 

「包囲と殲滅となりますと確実に数個宙域艦隊分の戦力を動かさねばなりませんが」

 

モルティーク提督はそう進言した。

 

周囲の艦隊司令官達も小さく頷いている。

 

そこでルンデシュード大将軍は尋ねた。

 

「宇宙軍としては厳しいのか?」

 

「不可能ではありません、しかし我が国の燃料産出を考えればそれだけの艦隊を北西部から動かせば、どうしても燃料の貯蓄も考えてバルバロッサ作戦の実行は再来年以降に延期ということになります」

 

オイカン大提督は険しい顔でそう発言した。

 

第三帝国は第一帝国ではない。

 

かつてスカリフやケッセルといった燃料資源産出惑星を有していたが、今では全てが失われた。

 

残された惑星でも今の帝国艦隊を維持するには十分であったが、大規模な作戦行動を行うとなるとどうしても制限が現れてしまう。

 

宙域の包囲と敵艦隊殲滅、そして地上軍の揚陸艦隊を考えれば動員艦隊はかなり大規模であり、その分バルバロッサ作戦の為に使用されるはずの燃料をどうしても食い潰してしまうという予測があった。

 

無論これにはヘルダー上級将軍もいい顔はしていない。

 

「何せ現状の燃料資源惑星では維持と小、中規模の艦隊行動が限界だ。本来なら去年のうちにケッセルが帰ってきたはずなのだが、彼らはしくじったのでな」

 

デルニッツ上級提督は嫌味ったらしくそう呟いた。

 

「ついでに言えば我々の航空艦隊主力も南方方面にいるのでな。戻せと言われればまた余計に燃料を食うぞ」

 

ローリング大将軍もデルニッツ上級提督に続いた。

 

マラステアから現状最前線のマルドロード宙域は反対方向に位置している。

 

勿論移動させることは可能だが結局無駄に燃料を消費することは間違いなかった。

 

「であれば艦隊はそのまま、予定通りバルバロッサ作戦を実行するべきでしょう大将軍。未知領域や北西アウター・リムが第三帝国の手に入れば、また大将軍の考えも容易に実行出来るでしょう。ですのでまずは計画通りに作戦を実行すべきです」

 

「それにキラヌー提督であれば現状持たせられるでしょう」

 

イェシェンク将軍はそう付け加えた。

 

キラヌー提督、そしてケルスリング将軍は航空作戦の達人であり、2人とも防衛戦も得意分野であった。

 

実際、レジスタンス軍が本腰を入れて第二次攻勢を開始したとしてもマルドロード宙域を突破出来るかは若干怪しい面がある。

 

連合=レジスタンス合同軍の攻勢は衝撃的だったが、今すぐ根本的戦略を変えるほどのものではなかった。

 

故にヴィアーズ大将軍らの意見は聞き入れられなかった。

 

休憩を挟んだ数時間の議論の末、カイティス大将軍は諸将の意見を纏めて会議を締め括った。

 

「それでは本会議の結論としては現状の国防戦略に変更はなし、バルバロッサ作戦は数ヶ月後、予定通り実行すべしでよろしいか?」

 

「意義なし!」

 

ブラシン大将軍が諸将を代表してそう発した。

 

本当なまだ思うところがあるヴィアーズ大将軍であったが、これ以上彼らを説得する事は出来なかった。

 

結局の所、国防軍は一切方針を変えなかった。

 

彼らは新たなる戦地を未知領域に設定した。

 

バルバロッサまで残された時間は少なかった。

 

 

 

 

-新分離主義連合領 アウター・リム・テリトリー タイオン・ヘゲモニー ラクサス星系 惑星ラクサス・セカンダス 首都ラクサロン-

ラクサス・セカンダス攻勢から10日の日が過ぎた。

 

第三帝国はタイオン・ヘゲモニー領域への利権を完全に失い、ベルドローン宙域まで完全撤退した。

 

つまり帝国は3年前の北東戦線で得た戦果を全て失ったのだ。

 

首都ラクサロンからは第三帝国旗が全て取り外され、撤退に失敗した将兵や総督府職員は捕虜に取られるか、行かれる人々の私刑の対象となった。

 

無論そうならない為に自決した者もいるし、民間のスターシップを強奪して奇跡的に脱出した者もいる。

 

街のあちこちに新分離主義連合の国章が入った国旗が掲げられ、人々は連合軍とレジスタンス軍の将兵を歓喜と双方の国旗で出迎えた。

 

連合軍の将兵達からしてみれば実に3年ぶりの帰還であった。

 

同様の光景は解放された全ての惑星で見受けられた。

 

人々は悪辣かつ、残酷な第三帝国の支配から解放されて3年ぶりの自由を全身で味わいたかったのだ。

 

ラクサスでは行政機能復旧の間、解放部隊による軍政が敷かれていたが人々は帝国の支配よりはマシだと甘んじて受け入れていた。

 

首都ラクサロンの大通りでも軍政の為、交通整理を行うバトル・ドロイドの姿が見受けられた。

 

市街地の瓦礫や破壊されたビルの復旧は既に始まりつつあり、ラクサスが一足早く戦後から抜け出すのは目に見えていた。

 

「解放した領域の軍政官には連合軍の将校を優先的に任命するらしい。まあ、穏当な判断だな」

 

ラクサロンの中央に位置する旧総督府、現分離主義元老院ビルの窓から外を眺め、ジョーレンは何の気なしにそう呟いた。

 

彼は普段着ている迷彩服から他の将校達と同じ制服を着ている。

 

左胸には身分証IDのデータチップと略受章、右胸には階級章とこれまで得た徽章が取り付けられている。

 

ジョーレンの場合は空挺徽章とレンジャー徽章、特殊部隊徽章が付けられており、一目で只者ではないことが読み取れる。

 

肩章は将官のみショルダーストラップ式のものであり、ジェルマンやジョーレンら佐官はショルダーループと呼ばれる肩章であった。

 

肩章の階級章は少佐を表すものが取り付けられており、左手には制帽であるケピ帽を持っていた。

 

「ああ、それに後1週間か10日経てば文民政府に権限を返還出来そうだし、占領統治は楽に終わりそうだね」

 

「問題は”()()”された市民と”()()()”のことだが……」

 

ジェルマンは小さく頷いた。

 

レジスタンスと連合はラクサスで勝利した。

 

第三帝国から領土を奪還した、つまり第三帝国がその土地で3年間何をしたかも分かるということだ。

 

結果から言えばそれは凄惨と呼ぶに相応しいものであった。

 

第三帝国はタムウィズ・ベイ市の近郊に強制収容所を建設し、そこでお得意の民族浄化を行なっていた。

 

ラクサスに住む全てのエイリアン種族、近人間種族が対象となり、それを匿おうとした善良な人々も犠牲になった。

 

建設した収容所では足りないということで一部の人々はラクサス外に強制移動させられ、その所在は未だ不明である。

 

何せここに政府を構えていた総督府の職員達は退去時に全ての書類のデータを消してしまった。

 

それは収容所も同じであり手かがりや証拠の記録は抹消されてしまった。

 

それでも収容所の生き残りからある程度事情聴取は行える為、回復を待って実行に移そうと合同軍司令部は決定した。

 

「クソッ折角のチャンスだってのにそもそもハイドレーヒがいないだなんてっ!」

 

「とんでもねぇ幸運の持ち主には違いないな。だが運ってのは長続きしない、特にこんなことする奴らはな」

 

タムウィズ・ベイに収容所を作り、多くの人々を国外に連れ去った組織の総本山は今も健在である。

 

無論ハイドレーヒ1人を討ったところで状況が劇的に変化する訳ではない。

 

FFISOとは組織である、生物とは違い組織は頭を失えば混乱はするがすぐに再生する。

 

別の誰かをその座に据えて再び組織を指揮指導出来るようにする。

 

それでもその一時の混乱と失われた指導者の損失は計り知れないものだ。

 

「ああ、必ず僕達で奴を討ち取ろう」

 

「だな」

 

2人は互いに誓い合った。

 

戦争が始まって3年、彼らの戦意は一切衰えていなかった。

 

「バスチル少佐、ジルディール大尉!」

 

通路の奥から2人を呼ぶ声が響いた。

 

将官用の肩章に将軍を示す4つ星の階級章、そして左胸には今までの戦績を示す略受章が取り付けられている。

 

声の主は今回の暗殺作戦の指揮を担当したメイディン将軍であった。

 

将軍の隣には副官職に就任したリンジー中佐が控えていた。

 

「丁度いい所にいた、2人に話したいことがあった」

 

「場所を移しましょうか?」

 

ジェルマンの気遣いに将軍は「ここでいい」と返し、雑談も挟まずに本題に入った。

 

「ハイドレーヒの暗殺だが、現状我々はまだ諦めた訳ではない。情報部が奴の足取りを追跡中だ、タイミングが訪れれば2人には奴を討ってもらう」

 

「無論です」

 

「それまではモン・カラで将兵の教育を任せたい。特にバスチル少佐の優れた能力と経験は必ず役に立つはずだ」

 

ジョーレンは無言でその命令を受け入れた。

 

彼は何度か特殊部隊の教育に携わった経験がある、きっと今回も上手くやるだろう。

 

問題はジェルマンであった。

 

「ジルディール大尉には情報部の士官候補生達の教育を任せる」

 

「自分がですか?」

 

「ああ、戦争を挟んでいるとはいえ君も士官になってからもう5年、十分な教育は出来るはずだ。それに、君の優れたハッキングの技術は是非若い候補生達に教えたいとクラッケン将軍から推薦があった」

 

ジェルマンは不安を覚えながらも「了解です…」と新しい任務を了承した。

 

2人を労って将軍はあることを提案する。

 

「以上がこれからの命令だ。モン・カラに帰還するまでまだ時間はある、その間にラクサロンを巡ってくるといい」

 

そう言ってメイディン将軍はその場を後にした。

 

ジェルまんは冗談混じりにジョーレンを突き、「だってさ」と告げた。

 

「折角だ、故郷を案内してくれよ」

 

「いい思い出はないけどな」

 

2人は提案通り暫くラクサロンを巡った。

 

かつてとは見違えたその姿にジョーレンの思い出が蘇ることはなかった。

 

 

 

 

ーチス・アセンダンシー領 未知領域 シーラ星系 首都惑星シーラ 首都クサプラ― 参謀本部ビルー

ラクサス・セカンダス攻勢から1カ月が過ぎた。

 

この1カ月の内にチス・アセンダンシー=亡命帝国は新しい人事編成を完了し、様々な部署に新顔が現れた。

 

特に変わった点は参謀総長の変化であろう。

 

シャポシニコフ元帥は参謀総長を引退し、代わりとしてプライド上級将軍が就任した。

 

彼はマイギートー特別軍管区からシーラに移動し、参謀総長の執務室に入った。

 

副官や参謀本部の将校達に出迎えられ、彼はその席に着いた。

 

それから1カ月、仕事はだいぶ慣れた。

 

シャポシニコフ元帥が完成させた仕事を引き継ぎ、軍の強化に望んだ。

 

「入っていいぞ」

 

ドアのブザー音を聞いたプライド上級将軍は入室を許可し、彼の執務室にある1人の少将が入った。

 

報告書が入ったタブレットを持ってきたヴァシレフスキー少将だ。

 

シャポシニコフ元帥は退任したが彼は引き続き参謀本部に残ってその頭脳を軍の為に活かしている。

 

プライド上級将軍とヴァシレフスキー少将は互いに友人であり、仕事人としても頼れる存在であった。

 

「前線の軍管区から報告書が来た。第三帝国についてだ」

 

少将はタブレットを手渡し、プライド上級将軍は報告書に目を通した。

 

内容は第三帝国の前線戦力の動向についてであった。

 

第三帝国はタイオン・ヘゲモニーで受けた攻勢に対する反撃は行わず、現在の国境線を維持している。

 

同時に南アウター・リム、我が国に接する北西部アウター・リム方面に配置した戦力には一切の変化がない。

 

以上のことが詳細な情報と共に記載されていた。

 

「つまり、1カ月間前線部隊に変化はなし、か。第三帝国には困ったものだな」

 

「一応追加の国境守備戦力は配置が完了したが...」

 

「あれじゃあ防げない、お前も分かっているだろう?」

 

ヴァシレフスキー少将は小さく頷いた。

 

第三帝国軍は少なくとも戦術や戦闘に関しては銀河系でも一流の軍隊である。

 

現状前線に配備されている戦力では国境沿いの惑星を守り切ることは出来ない。

 

それに”()()()()()()”を考えればこれ以上国境沿いに部隊を配備することは難しかった。

 

「まあ泣き言ばかり言ってられない、一旦戦端が開いたら例の防衛計画を進めるしかない」

 

「……そうだな、前線部隊には悪いが」

 

例の防衛計画というのはマイギートー特別軍管区で立案し、演習で用いた防衛計画の事だ。

 

あの計画では前線部隊は遅滞戦闘を繰り返し、主力部隊が後方の惑星を要塞化するまでの時間を稼ぐことが求められた。

 

簡単に言ってしまえば前線部隊は実質的な捨て石であり、ハナから国境沿いでの防衛は諦めていた。

 

無論無駄死にはさせないつもりでいた。

 

「戦闘の状況によっては前線部隊だって脱出する時間は確保出来るはずだ。連中の攻勢部隊さえ挫けばチャンスは巡って来る」

 

「ああ、そうだな。一番の問題は第三帝国の襲来と同時に”()()()()()()”が現れることだが……」

 

少将は不安を述べた。

 

現状”()()()()()()”が銀河系に到来するのは情報総局やNISBの予測だと後15年ほど後ということだが確証はない。

 

明日来るかもしれないし、明後日相手が現れるかもしれないのだ。

 

もしのその状況で第三帝国と戦争状態に陥ったらどうなるだろうか、間違いなく双方に勝つにしても許容出来ない大損害は必ず叩きつけられる。

 

端的に言えばチスも帝国も破滅が決定してしまうのだ。

 

「それに関しては我々ではどうしようもない。少なくとも情報機関は襲来は15年後だと予測してる、それを信じよう」

 

「それしかないか……厳しいものだな」

 

「ああ、だが泣き言は言ってられない。我々は将校だからな、将校に涙を流す機能はない」

 

プライド上級将軍の発言に互いに苦笑を浮かべ、それぞれ職務に入ろうとした。

 

すると再び執務室前のブザー音が鳴り響いた。

 

「入れ」

 

上級将軍が入室を許可するとある1人の将校が敬礼して執務室に入った。

 

宇宙軍中佐、プレストコフ中佐だ。

 

彼は参謀本部の将校ではなくコーシン上級提督の副官であった。

 

「どうした中佐、何があった」

 

プライド上級将軍は怪訝な表情で中佐に尋ねた。

 

プレストコフ中佐は宇宙軍の黒い軍服に中佐の階級を示す階級章と肩章、そして袖章をつけていた。

 

階級章の上には略綬がつけられており、左胸には卒業した軍学校の卒業記章が2つある。

 

左腕には白い制帽を抱えていた。

 

「緊急の要件でして……大セスウェナ連邦が我々の側に会談を開きたいと申し出されまして……」

 

「大セスウェナが?」

 

プライド上級将軍はヴァシレフスキー少将を顔を見合わせ、中佐に尋ねた。

 

大セスウェナ連邦とチス・アセンダンシーの関係はそこまで悪くなく、良好に近いと言っても過言ではなかった。

 

互いにそこまでの協力がある訳ではないが大使館を配置し、外交的には時折連絡を取り合っていた。

 

その大セスウェナ連邦が会談を開きたいと申し出たのはイレギュラーそのものであった。

 

中佐は小さく頷き彼らの側によって小声で話した。

 

「はい、タッグ元帥と外務大臣、そして三軍から1名ずつと参謀総長である閣下に会談へ参加せよと要請が出ました」

 

「どういう内容を話し合うつもりだ?」

 

「それはまだ不明瞭でして……とにかく予定としては2週間後で会談場所までは”ノイ・デヴァステイター”で移動します」

 

終始プライド上級将軍の怪訝な表情は晴れることはなかった。

 

だが命令である以上了承せざるを得ずプレストコフ中佐に伝えた。

 

「分かった、参謀本部からは私とヴァシレフスキー少将が行こう。上級提督殿にはよろしく伝えてくれ」

 

「はい!」

 

敬礼してプレストコフ中佐は執務室を後にした。

 

中佐を見送ると2人は顔を見合わせ、ため息を吐いた。

 

「なんだか、きな臭くなってきたな」

 

「ああ、どうやら本格的にまずいことになりそうだ……」

 

2人はまだ知らない、戦争の始まりはそう遠くないことを。

 

最初の脅威はすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

ー首都惑星コルサント ギャラクティック・シティ ジークハルトのアパートー

タイオン・ヘゲモニー陥落から1カ月、第三帝国の公式ホロネット・ニュースもこの事実を報道し始めた。

 

とはいっても内容は「タイオン・ヘゲモニーは陥落したが敵軍の損害は大であり。侵攻軍はほぼ壊滅状態」などそんなものばかりで、完璧な事実は言い難い。

 

現状国防軍のキラヌ―提督が敵軍の侵攻を防いでいるが、予想外の損失であった。

 

こうした事実を知っているのはジークハルトら軍部と政府機関だけだろう。

 

もどかしい気持ちを抱えながら彼はテーブルに置かれたコーヒーを飲みながら、ホロネットの電子記事を眺めていた。

 

彼は既に朝の着替え支度を終え、親衛隊の制服を着ていた。

 

既に妻ユーリアが用意してくれた朝食を食べ終え、残っていたコーヒーをゆっくり飲んでいた。

 

「陥落すれども敵軍壊滅、か」

 

思う所がありながらもジークハルトは記事に対する感想は述べなかった。

 

リビングにはまだユーリアもマインラートもホリーもいる。

 

みんな家族だが軍人ではない、軍部の秘密事項を漏らす訳にはいかなかった。

 

「お父さん!それじゃあ行ってくるね!」

 

バッグを背負ったマインラートとホリーが駆け寄ってきた。

 

2人ともコンプノア・ユーゲントの制服が随分と見慣れた姿になっていた。

 

ホリーが家に来てから2年、この制服と同じように彼女は我が家に随分と慣れたとジークハルトは感じていた。

 

殆ど家を空けているジークハルトがそう思うのだからユーリアはもっと普段から感じているだろう。

 

「ああ、気をつけてな。今日もお父さんはなるべく早く帰って来るよ」

 

「ほんと!?じゃあ今日も遊ぼうね!」

 

「ああ、勿論だ」

 

そろそろ1年になるだろうか、ナブーの戦い以降ジークハルトと第9FF装甲擲弾兵師団はもう暫くコルサントから外地へ派遣されていない。

 

演習などで近隣の惑星に移動することはあっても前線の戦地へ送られることはなくなっていた。

 

おかげでジークハルトも家にいることが増え、子ども達と触れ合う時間も増えた。

 

ようやく父親らしいことが出来るようになったとジークハルトは感じていた。

 

「さあ2人とも、早く速く行かないと遅刻するわよ」

 

「はいお母さん、じゃあ行ってきますー!」

 

「行ってきます」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

2人は元気よく家を飛び出しコンプノア・ユーゲントのアカデミーへ向かった。

 

微笑を浮かべながらジークハルトはコーヒーを飲み干し、キッチンの方まで持っていった。

 

「ああカップはそこに置いておいて、後で洗うから」

 

「今度雑用できるドロイドを買おうか?」

 

「うーん、ドロイドねぇ……ほら、私のパパもママもドロイドそんなに好きじゃなかったし……まだいいかな」

 

ほんの少しだがやはりユーリアもドロイドが好きではないと彼は感じていた。

 

だがこのような薄っすらとした反ドロイド感情は今の銀河社会に薄っすら蔓延っており、珍しいものでも悪いものでもなかった。

 

クローン戦争、白いアーマーのクローン・トルーパーと殺戮のバトル・ドロイドの戦争は銀河に大きな禍根を与えた。

 

共和国政府はこうした状況に対し反ドロイド感情を煽るプロパガンダを展開し、その内容が真実であるかのようにバトル・ドロイドは戦場で殺戮を続けた。

 

それだけではない、工作用の偽装ドロイドが度々コルサントや様々な惑星でテロ活動を行った。

 

その過程で多くの一般市民が犠牲になり、国民の反ドロイド感情は戦争が日を増すごとに高まっていた。

 

だからユーリアの母や父らクローン戦争直撃世代は反ドロイド感情が非常に高かった。

 

何よりユーリアの父フリズベン将軍はクローン戦争に参加した共和国軍人だ。

 

ジークハルトの父と同じくドロイドを何体も撃破し、ドロイド相手に部下を数多く失った。

 

そんな家庭で生まれた戦後世代が確固たる理由のないドロイドに対する嫌悪を持っていたとしても何ら不思議ではない。

 

「そう、まあ気が向いたら言って。それぐらい買えないようじゃこんな仕事やってられないからね」

 

「ええ、ありがと」

 

カップを置き、歯を磨いて顔を洗うとジークハルトは掛けてあったコートを着て制帽を被る。

 

手袋をはめて鞄を持つとジークハルトは玄関に向かった。

 

「それじゃあ行ってくるよ」

 

「ええ、早めに帰ってきてね。お父さんと遊べないんじゃマインもホリーも悲しむわ」

 

「だな」

 

ユーリアに頬をキスされ、ジークハルトは微笑んだ。

 

結婚して間もなく9年、もう随分と見慣れた光景だ。

 

ジークハルトはブーツを履いて家を出た。

 

この別れの瞬間が一番気が重いなと彼は苦笑交じりに感じていた。

 

彼の住むアパートは基本的にはエレベーターで上り下りする。

 

地下の駐機場まで向かうボタンを押し、エレベーターを待っていると彼の隣に同じようなコートを着た親衛隊の中佐が現れた。

 

「ブロンゼル中佐か、おはよう」

 

「おはようございます閣下」

 

第9FF装甲擲弾兵師団作戦参謀ブロンゼル中佐、実はジークハルトと同じアパートに住んでいる。

 

このアパートは基本的に親衛隊将校や親衛隊関係者が優先的に住まうアパートであり、他にも何人かのジークハルトの部下がここに住んでいた。

 

ちなみに道路を挟んで反対側のアパートには参謀長のクラインバッハ大佐が住んでおり、ジークハルトのアパートの隣の隣にはアデルハイン准将が住んでいた。

 

「中佐は確か参謀長と共に本部へ研修だったな」

 

「ええ、なんでもバルバロッサを控えて今一度説明があるんだとか。それより聞いて下さいよ閣下、昨日から妻の起源が悪いんですけどどうしたら直りますかね?」

 

ブロンゼル中佐は去年、ナブーの戦いが終結し帰還した際に付き合っていた彼女に結婚を申し込んだ。

 

本人曰く戦勝と指輪を一緒に送りたいと言っていたのだが周りの同僚からは辞めてくれと嫌がられていた。

 

かっこよく言っているがブロンゼル中佐の発言は「この戦争が終わったら結婚するんだ」という兵士が死ぬお決まりのパターンだ。

 

中佐が作戦参謀である以上ブラスター弾で死ぬことはないかもしれないが、指揮所ごと砲弾で吹っ飛ばされる可能性はあった。

 

一緒に巻き込まれたくない参謀達は「お前と心中は嫌だからやめてくれ」と直球でなじられていた。

 

それでもブロンゼル中佐は生きて、無事結婚を果たした。

 

「あの優しそうな奥さんがねぇ……一体何やらかしたんだ?あっきた」

 

雑談を交わしていると丁度エレベーターが来た。

 

2人はエレベーターに乗り込み、地下まで向かった。

 

「うーん……こないだ参謀長とアルケールと一緒に行ったバーが問題でしたかねぇ……」

 

「どこのバーだ?」

 

「ウスクル歓楽区の」

 

「はぁ」

 

ジークハルトは呆れたという顔で彼を見た。

 

ウスクル歓楽地区といえば有名な高級クラブやバーがある娯楽地区だ。

 

そこに行ってきたと知られたらユーリアだって鬼になるだろう。

 

「100%中佐が悪いな、君は当分飲みに行かない方がいい。それと奥さんには花束か何か送って平謝りしなさい」

 

「ふぁい……」

 

他愛ない雑談をしていると丁度エレベーターが地下に辿り着いた。

 

2人はエレベーターから降りてそれぞれのスピーダーに向かった。

 

「それじゃあちゃんと奥さんには謝れよ!」

 

「はい!閣下もお気をつけて!」

 

そういって2人はそれぞれ別々のスピーダーに乗り込んだ。

 

スピーダーに乗り込むと運転手も兼任しているヴァリンヘルト大尉が「おはようございます閣下」と挨拶した。

 

「あれブロンゼル中佐ですよね?何話してたんですか?」

 

「まあ少し夫婦間の話をな、待たせたか?」

 

「いえ、もう少しゆっくりされても良かったのに」

 

そういってヴァリンヘルト大尉はスピーダーのエンジンをかけ、スピーダーを動かした。

 

地下の駐機場からスピーダーを出し、そのままリパルサーリフトの出力を上げて、スカイレーンに合流した。

 

スカイレーンには数多くのスピーダーが飛行していた。

 

多くは民間のスピーダーであったが、稀にジークハルトたちと同じ軍用スピーダーが飛んでいた。

 

中には早朝から訓練場の方向へ向かうインペリアル・ドロップ・シップの姿もあった。

 

「国防軍のドロップ・シップか……」

 

「あの方向は市街地特化演習場に近いポータルがある地域ですね」

 

「大方バルバロッサの演習だろう。どこの軍も演習で忙しいだろうて」

 

ジークハルトも内心ではバルバロッサ作戦を今実行することに関しては反対の立場であった。

 

それはかつての同胞と戦いたくないからではなく、まずはレジスタンスや新分離主義連合を確実に叩き潰すことが先決だと思っていたからだ。

 

されど実行せざるを得ない理由も理解はしていた。

 

また政治的に睨まれたくもないのでジークハルトは黙り続けていた。

 

「でもシュタッフェンベルク少佐からはまた会食に来ないかと呼びかけが届いてましたよ?」

 

「またか?」

 

ジークハルトは驚いたような声音で聞き返した。

 

もうそろそろ2年ほど前にジークハルトはシュタッフェンベルク少佐に声を掛けられて以来、帝国軍の総合予備役動員計画の立案に携わっていた。

 

あくまで国防軍の国内予備軍主導であったが、親衛隊からもジークハルトら数人の将校達がオブザーバーとして参加していた。

 

それ以降何度か呼び出され、こうした計画立案に参加し続けていたが、最近はどうも回数が多すぎた。

 

それに彼らとの個人的付き合いも増え、何かと会食や飲みに誘われる事が多くなった。

 

「はい、とても暇な方だとは思えないんですけど」

 

「同感だ、なんだかこれ以上踏み込むとまずい気がしてきたな……適当な理由をつけて断ろう」

 

「了解」

 

ジークハルトはスピーダーの窓から演習に向かうドロップ・シップを見つめた。

 

「若手の参謀……妙なことにならんといいが」

 

心の中に僅かに湧いた不安を考えないようにするためにジークハルトは司令部への出勤を急いだ。

 

 

 

 

-第三帝国領 ミッド・リム ドローマ宙域 ロナウ星系 惑星ロナウ-

惑星ロナウにはドローマ宙域軍の主力だけでなく、第12軍と第84軍が駐屯していた。

 

この宙域軍と第12軍の司令官を兼任するのはヴィヘム・リンスト元帥である。

 

第12軍は他の野戦軍同様4つの兵団で構成されており、その隷下の兵団にある1つの機動歩兵師団が存在していた。

 

機動歩兵師団はレンジ・トルーパーなどで構成される部隊であり、軍鉄道の警備や山岳歩兵としての働きを任されている。

 

この師団名は第6機動歩兵師団、練度の高い師団であり師団長もその特異な風貌から巷では有名人であった。

 

師団長の名はフェデルト・シェールナー准将、視覚補正などを含めた薄型のゴーグルを付けた国防地上軍の将官である。

 

この日、出張でロナウの宙域軍司令部へ取材に来ていたゾンゲルも准将の名前は存じていた。

 

あまり芳しい噂を聞かない為会いたくはないなぁとも思っていた。

 

取材用のタブレット端末を片手に、ゾンゲルは案内役のカラッツ大尉に連れられて司令部のエントランスを移動した。

 

「こちらです、担当の中佐を呼んできますので暫くは応接室でお待ちください」

 

「ありがとうございます、しかしここの司令部はI.P.O.F.方式じゃないんですね」

 

周囲を見渡しながらゾンゲルはふと呟いた。

 

基本的に彼が住んでいるパランヒではこうした軍施設はI.P.OF.の一角にあり、それ以外は共通規格の施設を用いていた。

 

それがこのロナウでは2世紀前ほどの流行した建物に司令部機能が詰まっている。

 

軍施設にしては豪勢であったが、同時に古臭くも感じられた。

 

「元々ここの惑星防衛軍が使ってた施設をそのまま用いてるんですよ。どうです?新鮮味があるでしょう?」

 

「ええ、まあ少しは」

 

ゾンゲルは苦笑を浮かべながら答えた。

 

帝国の施設は共通規格でその分効率がいいものの、面白みに欠ける上に何処も似たような形状なので気が滅入るとも感じられた。

 

「カラッツ大尉」

 

「シェールナー准将…!」

 

「ああ、この方があのシェールナー准将……」

 

名前を呼ばれるなり大尉は敬礼し、ゾンゲルは軽く頭を下げた。

 

シェールナー准将は敬礼を返し、ゾンゲルには握手を求めた。

 

「ホロネット・ニュースで記者を勤めているゾンゲルと申します。閣下のお噂は予々」

 

「ほう、第6機動歩兵師団長のフェデルト・シェールナー准将です。名前を覚えて頂き光栄です」

 

ゾンゲルは柔和な笑みを浮かべながら彼の手を握った。

 

准将の顔が近づき、一瞬だけゴーグルの奥に潜んだ彼の鋭い眼光が見えた。

 

口元の微笑とは真反対の冷酷なものであった。

 

それでも肝が据わっているゾンゲルは何も表情に出さず、粗を立てずに握手を終えた。

 

「これからゾンゲル氏を一旦応接室へ案内するところであります」

 

「そうか、ゆっくりして行ってください」

 

「ありがとうございます」

 

そう言ってシェールナー准将は目的地へ歩いて行った。

 

鋭い視線で見送るゾンゲルを敢えて見逃しながら。

 

「最近よくあるんですよ、ああいう会議」

 

「へえ、皆さん大変ですな」

 

ゾンゲルはカラッツ大尉と雑談しながら応接室へ向かった。

 

その間シェールナー准将はそのままの足取りで一部の将校しか入れない会議室へ足を踏み入れた。

 

今日は第12軍隷下の師団以上の部隊指揮官による会議があった。

 

会議室に入るとまだ数人の将校しか集まっていなかった。

 

会議室の中にいる将校は皆准将以上の将官であり、副官達は別室で待機していた。

 

「元帥、シェールナー准将です」

 

リンスト元帥と話していた第164歩兵師団長、ヘッゼル准将はシェールナー准将に気づき名を呼んだ。

 

シェールナー准将は敬礼し2人も敬礼を返した。

 

第164歩兵師団と第6機動歩兵師団の直属兵団は違うが何度か顔を合わせる機会があった。

 

それにシェールナー准将の特異な風貌は覚えやすい姿であった。

 

「司令部に見慣れぬホロネットの記者がいましたが」

 

「ああ、パランヒのだろう。気にするな、宣伝省のキャンペーンの一環だよ。前線の諸兵軍が如何に働いているのかというプロパガンダだ」

 

ゾンゲルはロナウだけでなくかつてドウル元帥が指導者として君臨していたアンシオンや、独立サブセクターにも取材として飛び回っていた。

 

リンスト元帥も言った通りこうしたホロネットの動きは宣伝省のプロパガンダ・キャンペーンと連動したものである。

 

国防軍の前線惑星部隊は常に守備にあり、そういった印象を内外国に植え付ける為のものだ。

 

「なるほど……」

 

「何か問題でもあったか?」

 

「いえ、特には。司令部に惑星外からの来客など珍しいと思った次第で」

 

准将はゾンゲルと会った時に感じた違和感を飲み込んだ。

 

それを察したのかヘッゼル准将が話題を振った。

 

「そういえば北東部の攻勢、ついに完全終結したようですな。防衛線での小競り合いもなくなったとか」

 

ラクサス・セカンダス攻勢の余波は今や完全に消失した。

 

レジスタンス軍は威力偵察をやめて現在の支配領域を確定し、第三帝国軍も奪還するには戦力が少なすぎる為奪還は不可能として諦めた。

 

これにより北東部の戦闘はある程度沈静化した。

 

今でも不意の遭遇戦や対偵察戦闘は続いているが規模としては小さいものだ。

 

「所詮寄せ集めの最後の抵抗です。時期に統治能力もなくなるでしょう」

 

「最高司令部は状況を受けてバルバロッサの作戦実行を決定した。ヴィアーズ大将軍は最後まで反対していたが……」

 

「大将軍閣下も無為な心配を為さる。むしろ今我々にとっての脅威はチスだというのに」

 

元帥はシェールナー准将の発言を否定しなかった。

 

実際チス・アセンダンシーの軍事力拡大は異常な速度であり、第三帝国からすれば脅威に値するものだ。

 

それに驚異とすれば国防軍の再建や拡大は楽になる。

 

軍と政府は良く言えば共生関係、正しく言えば互いに利用し合う関係であった。

 

そんな中でもシェールナー准将はカイティス大将軍同様に比較的真面目に総統へ忠誠を尽くすタイプである。

 

「何よりバルバロッサは総統閣下が望まれていること、我々は国防軍として総統の期待に応えるべきでしょう」

 

「そうだな……参謀本部の作戦計画では少なくとも1年も掛からずに作戦は終わる。我々はその後余裕を持ってレジスタンスを叩けばいい」

 

シェールナー准将は笑みを深めながら小さく頷いた。

 

少なくとも彼ら国防軍は”()()()()()”とは違い、この戦争には賛成であった。

 

 

 

ー大セスウェナ連邦領 アウター・リム・テリトリー セスウェナ宙域 エリアドゥ星系 惑星エリアドゥー

遂に大セスウェナ連邦はレジスタンス政府、新分離主義連合政府と秘密裏に同盟を結んだ。

 

この協定は後にハルト=セルヴェント=クシ同盟条約と呼ばれ、今後の戦局に大きな影響を及ぼすことになる。

 

この同盟条約には2カ国に対し、兵器や資源、食糧などを優先的に援助する条項が盛り込まれており、条項の中には「連邦政府が宣戦布告を受けた、宣戦布告を行った場合に際しては両国の友好国として参戦する」と明記されていた。

 

つまり連邦はいつでもレジスタンス側に立って戦うことが可能となったのだ。

 

こうした外交関係を第三帝国がどこまで掴んでいたかは分からない。

 

そもそも第三帝国は未だにレジスタンスの本拠地であるディカーを認知しておらず、連邦領内の情報網も減退傾向にあった。

 

こうした事情には様々な要因がある。

 

まず第三帝国の諜報能力はチス・アセンダンシー側に回っているということ、そして大セスウェナ連邦はついこないだまで同盟国であったということだ。

 

連邦領にはあくまで監視程度の情報網を構築しており、それほど強大ではなかった。

 

その為今日、連邦軍指揮幕僚大学で開かれるある会合も認知していなかった。

 

1つの長机を挟んだ上でレジスタンスと連邦軍の高級将校達が相対する。

 

左側にはディゴール大臣を筆頭にレジスタンス軍と4人が座り、その背後にはサポートの将官や佐官が待機していた。

 

反対側には大セスウェナ連邦軍の地宙航空軍、そして海兵隊のトップが座り、ディゴール大臣と対になる形でリノックス長官が座っていた。

 

背後には統合本部の各幕僚要員や部長クラス、対防局の面々が控えている。

 

その中には当然アイゼンハール少将もいた。

 

彼はバスト提督と共にオブザーバーとしてこの会合に参加していた。

 

会合の議題はまず兵器と資源供給についてだった。

 

「ご存知かとは思われますが我が軍の兵器は旧帝国製のもの、貴国にはブラスターなど軽装備は提供出来てもスターファイター、艦船類の提供は中々難しいです」

 

「それは勿論存じています。我々としては資源や武器弾薬が手に入るだけでもありがたい」

 

「ですが1つだけ、貴国の主力艦艇に対して建造を請け負える点があります」

 

リノックス長官は提案し、テーブルに設置された各員のホロプロジェクターにある報告書を転送した。

 

ホログラムとして文書が浮き上がり、将官達はそれを読んだ。

 

題名は「レジスタンス宇宙軍主力戦艦における支援について」というもので、スターホーク級バトル・シップのホログラムが添付されていた。

 

「この提案は我が宇宙軍のフォラストル次官から説明をします」

 

リノックス長官から指名を受けたフォラストル次官が軽く頭を下げ、手前のホロプロジェクターを起動した。

 

タブレットでプロジェクターのスライドを遠隔操作しながら説明を行う。

 

「貴国の主力艦であるスターホーク級バトル・シップ、我々の分析では建造に我が軍でも主力として用いられているインペリアル級の船体が用いられています」

 

フォラストル次官はふとレジスタンス軍側の方を見た。

 

彼らは大セスウェナ連邦の分析を見ても「当然それくらい分かっているよな」と半ば諦めていたような表情でスライドを見ていた。

 

スターホーク級の設計は新共和国のオリジナルだが、建造方法は必ずしもそうではなかった。

 

早期に戦力化する為に鹵獲したインペリアル級をベースに建造を行っていたのだ。

 

その結果、図らずもスターホーク級は仮想敵のインペリアル級と規格が共通となった。

 

これに対してクワットや一部元老院議員から抗議の声があったが、戦後も引き続き使用された。

 

今ではこの共通規格性がレジスタンス軍に対する支援の糸口となっていた。

 

「ですのでわが国で主砲塔など一部のパーツを生産し、それを貴国に譲渡する。貴国は譲渡されたパーツで主力艦を建造する方式を取れば、貴国の負担を軽減し我々が重武装装備に対する支援を可能にできます」

 

「なるほど」

 

ディゴール大臣は宇宙軍のオブザーバーや代表として参加した第四艦隊司令官のチェル・ドーラット提督と相談した。

 

本来ならアクバー元帥がこの会議に参加する予定であったが、ラクサス・セカンダス攻勢の後処理で現地に残っていた。

 

「さて、どう見るべきか」

 

「宇宙軍としては主力艦は一隻でも多い方がいい。大セスウェナ連邦が建造をここまでサポートしてくれるなら現状の2倍はいけるはずだ」

 

ドーラット提督は提案に乗り気であった。

 

他の宇宙軍の諸将も提督に賛成していた。

 

宇宙軍がエクセゴルで失った損害を回復するには素早い主力艦の建造が不可欠であった。

 

その為この提案は宇宙軍の戦力回復という意味では喉から手が出るほど嬉しい提案であった。

 

「もし宇宙艦隊の戦力が回復すれば、我が地上軍としてはナブー再奪還を行えるやもしれん」

 

ディゴール大臣とドーラット提督の間に座っていたタイベン将軍は静かにそう呟いた。

 

少なくとも大セスウェナ連邦の支援は効果的であり、信用出来るということが前回の攻勢で判明した。

 

現状この提案を断る点はなかった。

 

「分かりました、貴国の提案を受け入れます。細かい内容は追って協議しましょう」

 

「ですね、では次の議題について、バスト提督」

 

「はい」

 

名前を呼ばれたバスト提督とアイゼンハール少将ら対防局将校達が立ち上がった。

 

フォラストル次官からタブレットを受け取り、アイゼンハール少将が操作した。

 

彼らの名前が呼ばれた理由は帝国の侵略を防いだ”()”の話である。

 

「我々対外防衛計画局は第一防衛計画を策定し、現在これをベースに軍の演習作戦を監督しています。本計画の詳細な内容は伏せますが、計画では”()()()()()()()()”反撃として幾つかの宙域に反撃を行う予定であります」

 

ホロプロジェクターに移るスライドには侵攻した敵軍が撃破され、反撃として仮想敵国領(ルビ 第三帝国領)に侵攻する連邦軍の姿が映し出されていた。

 

まず第一目標は最も近場のサラスト、そして南ミッド・リムにおける最大の軍事拠点であるマラステア、そしてナブーも含まれていた。

 

つまり対防局が作り上げた防衛作戦計画では敵の侵攻を阻むだけでなく、敵が二度と南アウター・リム、ミッド・リム領域で行動出来ないようにするつもりであった。

 

「この反撃作戦に際して我々連邦軍はレジスタンス軍及び連合軍と合同で作戦行動に臨むことを検討に入れています。特にサラストやナブーに関しては地上戦の経験は我々より貴国の方が豊富だと思われますので」

 

「つまりナブーとサラスト奪還に協力すると?」

 

タイベン将軍は連邦軍側に尋ねた。

 

丁度反対側の同じ席に座っているマルシャル将軍が「見方によってはそうなるでしょう」と肯定した。

 

彼は冷静に、されどどこかぶっきら棒に対防局の説明に捕捉を入れた。

 

「防衛作戦時にどの程度敵の野戦軍を撃滅出来るかにもよりますが、仮に侵攻軍の7割方を潰してもマラステアを墜とすのはかなりの損害を覚悟せねばならないでしょう。ですがもし、貴国と合同で作戦行動に入れば」

 

「双方の損害は抑えられると、そう言いたいのですね?」

 

マルシャル将軍は静かに頷いた。

 

内心レジスタンス軍と組むことには思う所があった将軍だが、仕事として割り切っていた。

 

彼もプロの職業軍人として理解しているのだ、単独で第三帝国と戦えば計り知れない損害が待っていることを。

 

「地上軍参謀総長の仰る通り、単独ではなく複数国軍で戦えば第三帝国に打ち勝てます。ですがその為には複数国軍による演習で経験を重ねることが何より重要です」

 

この点に関してレジスタンス軍の将校達は痛いほど理由を承知していた。

 

かつて新共和国があった頃、新共和国軍はこの点で失敗した。

 

新共和国の安全保障は中央政府軍たる新共和国軍は規模を縮小し、代わりに各惑星政府の防衛軍を強化し合同で防衛に当たる方針であった。

 

しかし新共和国は惑星政府の防衛軍補助金は出しても、新共和国軍との演習は殆ど行わずこうした方針はほぼ形骸であった。

 

その結果、新共和国軍は各惑星防衛軍との連携が全くと言っていいほど取れず、あっという間に崩壊した。

 

この失敗はレジスタンス軍の大きな戦訓となり、前回のラクサス・セカンダス攻勢、エクセゴルの戦いの際も何度も連合軍と事前演習を行った。

 

その為こうした演習の重要さは連邦軍よりも明確に理解していると言ってもいいだろう。

 

彼らにとっては新共和国時代の失敗そのものなのだから。

 

「そこで我々対防局はレジスタンス軍と我が軍の演習活動を提案します。まずは反撃時の合同攻勢を目的とした実働演習、そして奪還以降の防衛実働演習を行いたいと考えております」

 

 

バスト提督の提案にテーブルの将官達は顔を見合わせた。

 

小倉で議論し合い、数十秒経った所で代表のディゴール大臣が口を開いた。

 

「素晴らしい提案ですが、この演習に関して我々からも幾つか演習内容を提案したい。故にこの話は持ち帰らせてもらっても構わないでしょうか」

 

「勿論ですともディゴール国防相、ですが対防局が提案した2つの提案には早急に答えが欲しいですな」

 

リノックス長官に対し、ディゴール大臣は「そちらは了承しましょう」と提案を受け入れた。

 

「ですが参加部隊に関してはもう暫く待ってください。我々とてそこまで余裕がある訳ではありませんので」

 

「分かっているつもりです、むしろこの場で演習の受け入れを了承していただけただけでも幸いです」

 

長官の発言はバスト提督やアイゼンハール少将らの信条を表していた。

 

2人は顔を見合わせ、「やったな」と互いに頷いていた。

 

第三帝国の牙が迫る中、大セスウェナ連邦は反撃の準備を着々と備えていた。

 

見えない矛と盾が大セスウェナにはもう備わっているのである。

 

 

 

 

-第三帝国領 ミッド・リム ドローマ宙域 ロナウ星系 惑星ロナウ ロナウ・シティ 某酒場-

ロナウ・シティのある酒場はロナウ宇宙港のすぐそばにある。

 

ご当地の食材を使い、郷土料理も出してくれる店だったので意外にもロナウ外の観光客がよく訪れていた。

 

その為中規模の店だが見た目よりは繁盛していた。

 

稀に国防軍の将校が訪れることもあり、大抵の場合は勤務を終えたばかりの軍服姿であった。

 

取材を終えたゾンゲルは別の場所を取材していたホロネット・ニュースの記者仲間と一緒にこの酒場を訪れた。

 

この日は運が良かったのか店は比較的空いており、ゾンゲルは記者仲間3人とカウンターに座った。

 

「マスター、オススメを3人分とスコードロン・ラガーを3杯分頼む」

 

「かしこまりました」

 

正装姿のマスターはオーダーを聞き入れ、早速スコードロン(飛行中隊)・ラガーが3人分用意された。

 

このラガー・ビールは元々帝国軍スターファイター隊の中佐が退役して実家の酒造で作り上げた品であり、元々最後に指揮した実働部隊が中隊(スコードロン)であったが故にこの名前がつけられた。

 

新共和国の短い期間でもこのラガー・ビールは売れ続け、一部の新共和国右派では製造者の経歴も相まって問題視する声があった。

 

「それじゃあ乾杯だな、みんなお疲れ様。乾杯ー!」

 

3人はグラスを合わせ静かだが心地良いグラスの音を響かせた。

 

喉を鳴らしながらビールを飲みその美味さに唸り声を上げた。

 

元々味が良いというのもあるが仕事で疲れ切った男達の身体にこのラガーは染み渡った。

 

「いやぁやっぱり美味いですな。ラガーは最高だ」

 

「取材も粗方終わりましたし、明日はロナウ・シティ観光とでも洒落込みますか」

 

「いいね、ついでに上さんとうちの子達にお土産でも買っていくか」

 

仕事を順調に終えた彼らは既に如何に遊びつつ家族にリップサービスをしてやるかを考えていた。

 

当然だが彼らにも家族はいる、ゾンゲルを除く2人の記者は結婚して数年が経ち、4歳の息子がいた。

 

ちなみに記者の片方は1年後、第二子が誕生するのだがまた別の話。

 

2人の談笑をゾンゲルは笑みを浮かべながら静かに聞いていた。

 

「ゾンゲルさんも行きますよね?」

 

「ああ……行きたいんだけどな……実はロナウに友人がいてさ、昼辺りに会わなきゃ行けないんだよ」

 

「マジすか、じゃあ俺達だけで行くか」

 

2人は残念そうにしており、ゾンゲルは「悪いな」とだけ言葉を送った。

 

暫く飲んでいると前菜のクレソンとバンサの干し肉を合わせたサラダが3人の前に置かれた。

 

出されたサラダをゾンゲルはフォークでモリモリ食べた。

 

ここのサラダはドレッシングと干し肉の相性が良く、密かな人気があった。

 

尤もそれを考慮してもゾンゲルの食べるスピードは異常であった。

 

「うん、美味しいねここのサラダは。マスター、”()()()()()()()()()()()()()”」

 

ゾンゲルは皿をフォークで2回皿を叩き、口を拭いて席を立った。

 

マスターは静かに「かしこまりました」とだけ言って皿を手に取る。

 

「ゾンゲルさんどこ行くんですか?」

 

「少しトイレ、すぐ戻るよ」

 

2人は顔を見合わせ「あの人そんな飲んでたかな」と首を傾げた。

 

ゾンゲルは穏やかな表情のまま階段をを降りて、無言で店員に地下の一室に連れて行かれた。

 

室内には灰色のタイル造りであり、無機質という言葉が一番合っていた。

 

「どうぞ、ごゆっくり」

 

「うん、ありがとう」

 

挨拶だけ返し、室内のタイルに手をつける。

 

彼の生体認証を確認し、タイルが数ブロック分前に出た。

 

それは暗号通信を送信出来る隠しコンソールであった。

 

ゾンゲルは慣れた手つきでコンソールのキーボードをタップし”本当の仕事”を行った。

 

ロナウに4個野戦軍以上の戦力あり

 

将官会議が多発

 

司令部の決断に変更なし

 

開戦の可能性、大

 

これらの文を打ち込み、ゾンゲルは送信のボタンを押した。

 

コンソールを押し込んで元に戻し、ゾンゲルは部屋を後にした。

 

室内のドア前で待機していた店員が部屋を施錠する。

 

「最近泥棒が激しいと聞きました。戸締りは気をつけた方がいいですよ」

 

「分かっています、事と次第によってはここも畳まなければ」

 

「オーナーはなんと言っていましたか」

 

「現状維持、です」

 

ゾンゲルは少し考え店員にこう伝えた。

 

「急いだ方がいいとオーナーにはお伝えください。外敵よりも内敵の方が動きは早そうですから」

 

「分かりました、同志」

 

それだけ伝えるとゾンゲルは穏やかな表情で階段を登った。

 

彼が送った情報は何処へ行くのか、少なくとも第三帝国は数ヶ月後に知ることとなる。

 

だがその時にはもう遅かった。

 

その頃にはもう既に”()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

 

つづく




Eitoku Inobeですよ!(自己紹介)

ちなみに少しばかり(とは言ってもほとんど変わらないですが)更新がストップします

理由は軍警ザクとジークアクスとルブリスと105ダガーと宇宙型ティエレンの積みプラを崩さねばならないからです

最大の問題は積みプラが増える可能性があるという事です。

積みプラというのは数学におけるxのようなもので可能性の塊、増えたり減ったりします(雑認識)

という事で皆様はこちらをお楽しみください

Eitoku Inobeでした。


ター・ヴィズラが作り上げた至高の宝刀、ダークセーバーはヴィズラ家のマンダロリアンによって最終的に持ち出されたことになっているが実は全裸中年マンダロリアン達が持ち出したのではないかという異説がある
全裸中年マンダロリアンは黒光の黒刀を自らの陰茎に見立て…
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