第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「第三帝国が銀河最強となるか、第三帝国が滅びるか、だ」
-代理総統-


バルバロッサは始まった

-第三帝国領 コア・ワールド コルスカ宙域 コルサント星系 惑星コルサント 国防軍情報部-

第三帝国には大きく分けて2つの情報組織がある。

 

1つはハイドレーヒ大将率いるFFISO、親衛隊と内務機関系統の情報組織。

 

そしてもう一つは帝国情報部から発展したカーレリス提督率いる国防軍情報部、軍情報部系の組織である。

 

この2つの組織は互いに緊張状態にあり、仲は決して良いものではなかった。

 

尤もこれは別の視点から見れば情報組織によるクーデターを実質的に防いでいるということにはなる。

 

互いに競い、鎬を削ることによって第三帝国という国家の中で組織のバランスが保たれ、野心を巡らす余裕がなくなる。

 

結果的に内心はどうであれ総統に対する忠誠が担保されるのだ。

 

こうした2つ以上の組織による組織勢力の均衡を保つ方法は独裁国家ではよく見られる光景であった。

 

それでこの情報機関トップはかつて、とても仲の良いものであった。

 

ハイドレーヒ大将とカーレリス提督は家族レベルでの付き合いがあったのだが時が経つに連れ、今では疎遠になっていた。

 

この日、提督は執務室で昔の写真を眺めていた。

 

まだ彼が大佐の階級にいてスター・デストロイヤーの艦長を務めていた頃の写真だ。

 

当時仲の良かった将校達と記念に撮った1枚、そこには若き宇宙軍士官のハイドレーヒ大将もいた。

 

「若手の士官が今や本部大将か……変わったな」

 

過去を懐かしんでいるとドア・ブザーが鳴り、副官のマンティス中佐が声をかけた。

 

『閣下、ピルケンロック大佐、ゲルヘン中佐をお連れしました』

 

「入ってくれ」

 

ドアの施錠が解除され3人の将校が執務室に入った。

 

敬礼し、情報部Ⅰ課長ピルケンロック大佐がまず報告書の入ったタブレット端末を提督に手渡した。

 

ピルケンロック大佐率いるⅠ課は諸外国の情報収集を担当しており、彼の隣に控えているレンヘルト・ゲルヘン地上軍中佐はその中でも北西部、つまりチス・アセンダンシーを専門に情報を集めていた。

 

ちなみにゲルヘン中佐は地上軍参謀本部の北西部情報課にも所属しており、国防軍における対チス・アセンダンシー諜報の第一人者であった。

 

彼らが執務室に呼び出された理由はある情報をキャッチした為であった。

 

「……つまり、統合本部の一行がスター・デストロイヤーに乗って何処かへ行ったと?」

 

報告書に一通り目を通したカーレリス提督は大佐に聞き返した。

 

ピルケンロック大佐は小さく頷いて詳細な情報を話した。

 

「提督もご存知の通り、大セスウェナにおける我々の諜報網は再編し終えたばかりですので正確な情報は分かりません。ですがレイヒ提督、マルシャル将軍、リンスフォード提督、ハブリン元帥、ホルコム将軍の5名がエリアドゥを離れたことは間違いありません」

 

「それとほぼ同時期にインペリアル級に第306警備大隊が乗り込み、エリアドゥを出立したと。現状公開情報や通信傍受でも行き先は不明か」

 

カーレリス提督は自組織の諜報能力の限界に若干憤りを感じていた。

 

少なくともかつての帝国情報部であればここまでにはなっていなかったはずだ。

 

目には見えない第三帝国の衰えを彼は痛感した。

 

「それでゲルヘン中佐は彼らの行き先が未知領域だと言いたいようだな」

 

一歩前に出たゲルヘン中佐は提督に報告した。

 

「ほぼ同時期にチス・アセンダンシーでも参謀総長を含めた軍高官がインペリアル級”ノイ・デヴァステイター”で移動を開始しました。またNISBと軍の警備隊がコーミットグラードに集結しつつあります」

 

ゲルヘン中佐は詳細な情報を含みながら話し、カーレリス提督は彼の発言を黙って聞いていた。

 

「また解読出来た通信によるとチス・アセンダンシーに外部から来客が来ると報告を受けています。ですので恐らくは大セスウェナの統合本部との密会が外部からの来客かと」

 

中佐の報告を聞き終え、提督は1つ質問を投げかけた。

 

「他の可能性は?例えばファースト・オーダーやケッセル王国」

 

それに対し、ゲルヘン中佐は速やかに「少なくともファースト・オーダーの高官が領域を出たという報告はありません」と答えた。

 

「東部の担当も同様のことを言っています。尤も、あそこはFFISOが主に担当していますので詳細な情報は分かりませんが」

 

ピルケンロック大佐は中佐の返答に補足を付け加えた。

 

2人の報告を聞いたカーレリス提督は少し考えてから大佐に命令を出した。

 

「大佐、この件は南部から北西部の担当へ引き継がせろ。南部は諜報網の再編成に注力だ」

 

「了解」

 

「ゲルヘン中佐は引き続き諜報活動を続けろ。必要であれば他の部署への情報アクセス権限を君の部署に付与する」

 

「あろがとうございます提督…!」

 

ゲルヘン中佐の報告と情報分析の高さを認識したカーレリス提督は早速彼に必要な権限を与えた。

 

それだけでなく提督は参謀本部にも権限の解除を掛け合うよう努力すると伝えた。

 

実際カーレリス提督が認めずとも、ゲルヘン中佐は国防軍の中でも情報関係において期待の星と見做されていた。

 

彼の名前を使えば頭の硬いヘルダー上級将軍であっても話は通じるだろうというのが提督の考えであった。

 

「マンティス中佐、直ちにベネンヴェディ大佐に”隣人”の報告書を提出するように伝えろ。彼らなら何か掴んでいるかも知れん。それとオスタル少将を呼んでくれ、個人的に話がある」

 

「分かりました、直ちに伝えます」

 

中佐は敬礼して一足早く執務室を後にした。

 

ピルケンロック大佐とゲルヘン中佐も敬礼してマンティス中佐同様執務室を後にした。

 

2人は執務室前の廊下を歩きながら雑談を交わしていた。

 

「やったな中佐、これで君は自由に情報を収集出来る」

 

「ええ、それは本当にありがたいことです。FFISOの連中には我々とて負ける訳には行かないですからね」

 

中佐の発言に大佐は満足げに頷いた。

 

やはり彼らもまず念頭の敵はFFISOであった。

 

彼らはFFISOが何かしらの理由で失脚しないかなと常に願っていた。

 

ボロを出したら足を引っ張って連中を崩す、そうして国防軍情報部が第三帝国で天下を取るという算段だ。

 

「しかし大佐、提督は管理部長に個人的に話があると言っていましたが何を話すつもりなんでしょうかね?」

 

歩きながらゲルヘン中佐はふと思ったことを先輩でもある大佐に尋ねた。

 

このことについてはピルケンロック大佐も特に考えていなかったようで唸り声を上げながら「分からんな」と答えた。

 

「まあ恐らく総統閣下への報告書の策定でも話すのだろう。我々が特に気にする理由はないと思うな」

 

「そうですか、分かりました」

 

それ以上ゲルヘン中佐は疑問に思おうとはしなかった。

 

不用意に闇に触れれば自らが破滅する、情報将校として得た確かな経験であった。

 

 

 

ーチス・アセンダンシー領 未知領域 コーミット星系 惑星コーミットグラード コーミットグラード軍管区司令部ー

惑星コーミットグラード、かつては単にコーミットと呼ばれていたがある時期から都市化が進み、コーミットグラードと名乗るようになった。

 

ここにはシーラとはまた違う都市の美しさがあり、シーラにも負けない軍事拠点が設置されていた。

 

元々あった宇宙艦隊港は増設され、軍管区司令部ということで駐屯軍の兵力も増やされた。

 

そして今日は特別にシーラやバスティオンから派遣されたNISBや軍の警備大隊が軍管区司令部に配置されていた。

 

今日の軍管区司令部には常に肌がひりつく緊張が漂っている。

 

司令部の中庭に数台のスピーダーが止まり、NISBの警備兵がスピーダーのドアを開けた。

 

「長旅、お疲れ様でした。レイヒ提督、いえ上級提督殿」

 

NISB所属、ウルフ・ユラ―レン名称独立作戦任務兵団の司令官を務めるマルチェンコフ少将はスピーダーを降りた上級提督に昇進したレイヒらに敬礼した。

 

エリアドゥを出立した連邦軍統合本部の一行は秘密のハイパースペース・ルートを通って未知領域に向かった。

 

連邦軍として彼らと話さねばならないことがあるからだ。

 

一行は基本的には統合本部のメンバーであったが中には外務省の参事官やFCSIAの次官達も含まれていた。

 

ちなみにNISB最精鋭兵団の司令官はアルテーミエフ少将が務めていたが任期の為交代し、マルチェンコフ少将に任命された。

 

つまり少将にとってはこの警備任務は最初の重大任務であった。

 

「そう気にしないで、案内をお願いします」

 

「勿論です、こちらへ」

 

マルチェンコフ少将は手を差し出し、会議場まで連れて行った。

 

軍管区司令部の内装はチス・アセンダンシーのものであるからか、帝国軍系統の施設とはまた違った面持ちを見せていた。

 

軍施設ということで無機質なのは確かだが、所々に優美なデザインが盛り込まれている。

 

一行は周囲を見渡しつつ司令部内の会議室に向かった。

 

「こちらです。マルチェンコフ少将だ、大セスウェナ連邦軍の方々をお連れした。開錠を」

 

「ハッ!」

 

警備の兵がドアにコードリシンダーを差し込み、ドアを開錠した。

 

ドアが開くと少将は一行を連れて室内に入り、待機していた上級将校らに敬礼する。

 

「同志、レイヒ上級提督一行をお連れしました」

 

座っていた諸将が立ち上がり彼らに敬礼した。

 

レイヒ上級提督らも敬礼を返す。

 

「どうぞ、席に」

 

手前から二番目の席に座るタッグ元帥が上級提督らに座るよう促した。

 

メンバーとしては手前に外務大臣モロフ、タッグ元帥、参謀総長プライド上級将軍、地上軍代表メレツコフ上級将軍、宇宙軍代表アララニ上級提督、航空宇宙軍代表、クリスフリート・ヴァント上級将軍、NISB代表フィーチン少将が座っていた。

 

上級提督は軽く頭を下げると席に着いた。

 

「まずは我々の呼びかけに応じてくださり、ありがとうございます」

 

「いえ、我々としても貴国とはアプローチを取って見たかったもので」

 

モロフ外務大臣は穏やかな表情でレイヒ上級提督の礼に返した。

 

彼はチス人であり長らく外務省で働いて来た生粋の外交官である。

 

その為どこか職人気質であり、礼儀正しさと厳格さを兼ね備えたどこか取っつきにくい人物であった。

 

「では早速本題に入りましょう。これは我々の情報機関と我が統合本部の分析です。10カ月以内に第三帝国が貴国及び我が国に侵攻する可能性は極めて高いという結論が出ています」

 

「我々としましては有事の際、貴国との協力関係を構築したい。未知領域とアウター・リム、距離は離れていますが必ず大きな力となるはずです」

 

ウォーソン・モルア外務参事官はレイヒ上級提督の発言にそう付け加え、連邦側の要求を伝えた。

 

そう来るだろうと思っていたタッグ元帥らは特に驚かなかった。

 

そこでモロフ外務大臣がこう述べた。

 

「貴国の提案は分かりました、しかし第三帝国が侵攻する可能性についてはどうしても我々としては疑問符がつきます。現在我々チス・アセンダンシーは第三帝国との経済協力協定を締結しました、その第三帝国が侵攻してくるとはどうしても考えにくいです」

 

これはモロフ外務大臣の考えではなく国家としてチス・アセンダンシー政府全体の総意であった。

 

ヴィルヘルムもリヴィリフも、様々な情報を見た上で最後の最後に第三帝国の”()()”と”()()()”を信じてしまったのだ。

 

各地に戦線を持ち、ケッセルにレジスタンス、連合と敵の多い第三帝国が侵攻してくるのだろうか。

 

しかも第三帝国とは軍事上の緊張はあっても中立条約があり、近年では経済協定を結んだ。

 

つまり外交と経済の面では一切の緊張がなかった。

 

故に彼らはつい思ってしまったのだ。

 

今の状態で第三帝国が侵攻するなどあり得るのだろうかと。

 

得るものよりも失うものの方が明らかに多い、少なくとも彼らはそう認識してしまった。

 

それに彼らは大セスウェナ連邦ほどの余裕はない。

 

予測では15年後とはいえいつ()()()()()()()”が来襲するか分からないのだ。

 

もしそんな状況で第三帝国と戦えばどうなるか。

 

故に彼らは今第三帝国とは戦いたくないと思ったし、故に侵攻はないだろうと判断し、故に対第三帝国戦の備えは小規模なものに留まっていた。

 

「モロフ外相の発言は仰る通りですが、現に帝国軍の戦力は貴国の北西部と我が南アウター・リムに結集しています。ケッセルの事もありますし、これは侵攻の予兆と見るべきでしょう」

 

マルシャル将軍は直球に反論をぶつけた。

 

無論モロフ外務大臣もそれに対する反論を述べた。

 

「未知領域の方面にはファースト・オーダーもおります、近年関係も悪化しているようですしそちらへの対応の可能性もあります」

 

ふとレイヒ上級提督は相手方の軍人達の方を見た。

 

外務大臣の発言に一番不満を覚えていそうなのは参謀総長のプライド上級将軍であった。

 

明らかに「詭弁を言ってる」といった表情で不満を表情に出していた。

 

一方他のメレツコフ上級将軍やアララニ上級提督、かの有名なヴァント家のヴァント上級将軍も似たり寄ったりだ。

 

軍部としては政府の総意には思う所があるのだろう。

 

「まあ第三帝国の事は置いておいて、我々としては貴国との安全保障協力には賛成です。ですがそれには貴国に1つ尋ねたいことが」

 

チス側で全員の間に立つタッグ元帥が話を切り出した。

 

聞かないことには判断のしようがないのでレイヒ上級提督は「どうぞ」と質問を許した。

 

「貴国は、いえレイヒ上級提督は”()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”?」

 

マルシャル将軍ら統合本部のメンバー達は顔を見合わせ、首を傾げた。

 

余りにも脈絡もリアリティもない話だったからだ。

 

されどレイヒ上級提督は至って真面目に答えた。

 

「これはあくまで私個人の発言と取って頂きたいが……そういった可能性はあると思います」

 

予想外の発言にマルシャル将軍らが全員レイヒ上級提督の方を見た。

 

モルア参事官もFCSIAの次官も「本当か?」という表情で上級提督の方を見た。

 

「閣下、流石に外銀河の敵など……」

 

マルシャル将軍はレイヒ上級提督を諫めるように耳打ちした。

 

将軍の言わんとすることも分かるとレイヒ上級提督は思っていた。

 

何せ上級提督だって統合本部長に就任した際に閲覧した資料を覚えてなけれヘルムートとのある会話がなければ、将軍達と同じ思いだっただろう。

 

「今は協力関係の構築が先だ、それに”裏付け”はある」

 

「下手な嘘はすぐばれますよ」

 

「なに、嘘ではないさ。”()()()”はあると言ったろ」

 

マルシャル将軍はまだ納得いっていないようだったがレイヒ上級提督のいうことならと渋々納得した。

 

一方のチス・アセンダンシー側はレイヒ上級提督が予想外にも賛同の発言を述べて驚いていた。

 

不機嫌な顔をしていたプライド上級将軍も「もしかしたら」と表情が明るくなっていた。

 

この雰囲気を見逃すモルア参事官ではなかった。

 

「我々は隣人というには聊か距離が離れているかも知れませんが、遠い未来、もしくは近い将来必ず協力しなければならない日が来ると私も思っています。ですからその時の為に、我々の未来の為に手を取り合っては頂けませんか?」

 

参事官の発言は少なくとも前向きに協力関係構築の話を進める雰囲気を作った。

 

この日、大セスウェナ連邦とチス・アセンダンシーは有事における軍事支援の協力協定を締結することを決めた。

 

後にこうした軍事支援の協定がチスの兵站や人々の飢えを凌ぐことになるのだが、それは”数か月後”の話である。

 

 

 

-第三帝国領 首都惑星コルサント コンプノア・アカデミー-

コンプノア・アカデミーは基本的に子ども達が軍アカデミーや帝国大学に入るまでの教育を担う9年間通う必要がある。

 

マインラートとホリーは現在3年生であり、後9年間はコンプノア・ユーゲントの制服を着ることになる。

 

アカデミーでの2人の様子はどうかというと、生徒として持つならこの上なくいいという評価であった。

 

あのシュタンデリス家の子どもだからか頭もよく、運動神経もすこぶる良い、フォースは二物を与えずというが2人には間違いなく二物以上のものが与えられていた。

 

友達との交友関係も良く、そこまで大きな問題も起こさない為悪い意味で目立つこともなかった。

 

無論欠点や本人達に不満がないというわけではない。

 

マインラートとホリー、2人の仲は勿論いいのだが同時に仲が良すぎた。

 

基本マインラートのいるところにホリーがくっ付いているし、何故かクラスの席も行事ごとの班も2人一緒だった。

 

しかも明らかにマインラートに別の女子生徒が近寄ったり、無理に2人を引き離そうとすると明らかにホリーの機嫌が悪くなり、少し”困ったことになる”。

 

こうした事態がなければ基本的には優秀な生徒の為、「最近の子は特別なんだな」と担当教員は割り切っていた。

 

もう1つ、それは”()()()()()()()”という名前だ。

 

ジークハルト・シュタンデリスという有名人の名前はやはり2人も大きな影響を及ぼしていた。

 

どうしても何かと評価の際に「シュタンデリス少将の子どもだから」という言葉と共に評価されてしまう。

 

友達からもそうした話は出る為2人は若干困っていた。

 

それでもそれ以外の不満はなく、2人は楽しくアカデミー生活を送っていた。

 

「こちらが3年棟です。今は休み時間ですな」

 

「へえ、ここがマインラートとホリーの」

 

アカデミー内の案内を受けるハイネクロイツ上級大佐はふと呟いた。

 

今日はパイロット志望の上級生たちに特別講義を施すためにハイネクロイツ上級大佐がアカデミーに呼ばれたのだ。

 

2時間あるうちの30分ほど講義を行って後の時間は”()()”として上級生たちをTIEボーディング・クラフトに乗せて暫く飛行した。

 

この経験は生徒たちにとってとても大きなものであり、生徒たちはより一層パイロットを目指すようになるだろう。

 

講義を終えたハイネクロイツ上級大佐は制服に着替えて職員に案内を頼んだ。

 

「お知り合い……ああシュタンデリス少将の」

 

職員は納得したような表情でそれ以上は何も言わなかった。

 

「まあ一応入学式の時に送ってやったので、おっ噂をすれば」

 

職員と話していると丁度教室から2人が出てきた。

 

「マインラート!ホリー!」

 

ハイネクロイツ上級大佐は2人に声を掛けて手を振った。

 

彼に気付いたマインラートとホリーは上級大佐の下に駆け寄ってきた。

 

「ハイネクロイツおじさん!」

 

「こんにちは、どうしてここに?」

 

やってきた2人の頭を撫で、ホリーの質問に答えた。

 

「まあちょっと仕事でな、元気してたか?」

 

ハイネクロイツ上級大佐はしゃがんで2人に目線を合わせた。

 

「うん、今昼休みなんだ」

 

「そうか、今から帰るんだがお父さんには何か言っておくか?」

 

「今日も早く帰って来るかな?」

 

「今日も早く帰ってきてって伝えてください」

 

素朴な要望を聞いてハイネクロイツ上級大佐は困ったような笑みを浮かべた。

 

「早く帰らせるようにおじさんがなんとかするさ。アカデミーはどうだ?」

 

めったに会うことはない為ハイネクロイツ上級大佐は2人に尋ねた。

 

2人は子供らしい笑みを浮かべながら「毎日楽しいよ」と答えた。

 

にこやかに2人の話を聞いているハイネクロイツ上級大佐だったが1つ、気になることをマインラートが呟いた。

 

「そういえば今日、変なテストをやったよ」

 

「テスト?」

 

マインラートは頷いた。

 

彼は父によく似ている、されど柔和な雰囲気や瞳の色は母譲りだった。

 

「僕とホリーだけ受けさせられたんだ。いつもやるテストと全然違ったよ」

 

マインラートとホリー2人だけ、その事にハイネクロイツ上級大佐は若干の不安を覚えた。

 

もしかして、と思いハイネクロイツ上級大佐は2人にこう告げた。

 

「その話、お父さんとお母さんによく話してあげなさい。いいね?」

 

「うん、分かった」

 

また2人の頭を撫で、ハイネクロイツ上級大佐は立ち上がった。

 

「それじゃあおじさんはもう行くから、じゃあね」

 

「また会おうね!」

 

「ああ」

 

手を振る2人に上級大佐は手を振り返し、3年棟を後にした。

 

道中ハイネクロイツ上級大佐は案内してくれる職員に尋ねた。

 

「マインラートとホリー、もしかして成績悪いのか?」

 

「いや?むしろ成績はかなりいい方だって聞いたんですけどね」

 

職員は意外そうに答えた。

 

ハイネクロイツ上級大佐はそれを聞いてより疑いを含めた。

 

もしかしてあの”()()”がバレたのではないか、或いは見直しで発覚してしまったのではないか。

 

「もう一度ジークハルトと話さなきゃな」

 

「はい?何を?」

 

「なんでもないさ、子育てってのは大変だなって話だよ」

 

「ああ、まあそうですねぇ」

 

職員はそう納得した。

 

されど実際はより緊迫した不安がハイネクロイツ上級大佐の中に渦巻いていることをこの時は誰も知らなかった。

 

 

 

ー第三帝国領 首都惑星コルサント 総統府ー

この日、カイティス大将軍、ヨーデル将軍、そしてヘルダー上級将軍の3人が総統府に償還された。

 

3人は何故呼び出されたかの理由を薄々感じ取っていた。

 

恐らくバルバロッサ作戦についてのことである。

 

バルバロッサ作戦の実行日の判断は代理総統に一任されている。

 

既に作戦は完成しており、部隊の配置は殆ど整っている。

 

後はいつ実行するかであった。

 

総統府の中には警護の親衛隊があちこちに配置されており、基本的に警護は第1FF装甲兵団の隊員で構成されていた。

 

「大将軍閣下!」

 

案内人のブラウリンガー親衛隊中佐が敬礼し、2人のストームトルーパーと共にロビーで待機する将軍一向に声を掛けた。

 

将軍達は荷物を持って中佐の後に続いた。

 

「しかし総統府の警備兵は随分と増えましたな」

 

周囲を見渡しながらヘルダー上級将軍はふと呟いた。

 

各所には以前よりも多くのストームトルーパーや親衛隊将校が警備の任務に就いている。

 

「二度も暗殺未遂事件が発生したのだ、仕方あるまい」

 

一度目の暗殺未遂事件はこの総統府で起こったのだ。

 

暗殺犯が自爆し、偶々その場にいた警備主任のヒャールゲン当時少佐の抵抗で総統に危害は加わらなかったが、あと一歩で総統は爆炎の中に包まれていた。

 

そんなことが重なれば総統府の警備も厳重になるだろう。

 

かつてのインペリアル・パレス、その前はジェダイ聖堂であるこの地は重武装化が進められていた。

 

ジェダイ聖堂の頃と変わらないのは外見の姿だけであり、内装は完全に違うものとなっていた。

 

「国防軍のカイティス大将軍、ヘルダー上級将軍、ヨーデル将軍だ。通してくれ」

 

総統の執務室前の通路に設置された検問所の部隊員にブラウリンガー中佐がコードシリンダーを渡して、開けるよう要請した。

 

現警備主任のブレスラー少佐は3人の顔を見てコードシリンダーをチェックすると3人に敬礼し、許可を出した。

 

「どうぞお入り下さい」

 

中佐に連れられ3人は検問所を潜り抜けた。

 

執務室前には親衛隊将校や国防軍の連絡将校、各省庁やCOMPNORの委員が控えており、3人を見るなり全員が敬礼を送った。

 

「ハイル・ヒューラ―!」

 

「ハイル・ヒューラ―」

 

執務室のドア前に立つある男が敬礼し、ブラウリンガー中佐らも敬礼を返した。

 

第三帝国の文民用制服を着こんだこの男を知らない者は少なくともコルサントの省庁にはいない。

 

マーティン・ボーマン、総統府の官房長官である。

 

彼こそ第三帝国陰の権力者であり、総統が最も信頼する側近であった。

 

「総統がお待ちです、どうぞ私に続いて」

 

案内役を交代し、ブラウリンガー中佐はその場を離れた。

 

これ以降の話し合いは高々一階級の中佐がいていいような場所ではない。

 

ボーマン長官に連れられて総統の執務室に3人は入った。

 

ドアが閉まり、完全な防音状態に入る。

 

そこで総統と3人の軍高官は1時間ばかり話し合いを行い、最後に命令を受けた。

 

3人が執務室を出るとその右手には入るまではなかった1枚の指令書が手にされていた。

 

誰にも見せないように慎重に持ち運び、3人は無言のまま執務室を後にした。

 

その表情は何処か覚悟が決まったような、確固たる表情であった。

 

3人はそれぞれ駐機場に停めてある自身のスピーダーに向かった。

 

カイティス大将軍はスピーダーに入ると深々と席に凭れ掛かり、大きな息を吐いた。

 

「どうでしたか閣下との面会は」

 

副官兼運転手のベルラーツ少佐が尋ねた。

 

その問いには答えずにカイティス大将軍はあることを少佐に頼んだ。

 

「直ちに最高司令部の各要員を集めろ、それと副官部長に言って北西総軍の軍司令達との会議調整を頼め。いいか、直ちにだ」

 

「っ了解……!」

 

全てを察したベルラーツ少佐急いで各員に連絡を取り始めた。

 

連絡を受けた各員は全てを悟り、早急に準備を始めた。

 

この時点で最高司令部の全員が感づいたのだ。

 

ついにバルバロッサ作戦に実行日が決まったのだと。

 

それは彼らが望んだ日でもあり、新しい戦争の幕開けの日でもあった。

 

 

 

 

-第三帝国領 ミッド・リム ジャロア宙域 ジャロア星系 惑星グリー・アンセルム 首都アンセロム 北方軍集団司令部-

代理総統はバルバロッサ作戦を3ヶ月後に実行せよと国防軍、そして親衛隊に命令した。

 

しかし国防軍側が準備を整える為にはもう1ヶ月必要だと要求した為、実行は4ヶ月後にズレた。

 

既に北西部には3個軍集団、現地の国防地上軍と親衛隊の宙域軍合わせて約210個兵団を投入することとなった。

 

この数字は4年前に新共和国へ攻め込んだ時の兵団数の倍近い数であり、3年のうちに第三帝国の軍事力はそれだけ拡大したのだ。

 

既にこれだけの戦力を輸送可能な揚陸艦隊と敵艦隊の撃破と防衛戦の突破、軌道爆撃を担当する主力艦隊も揃っていた。

 

各惑星には1年前と比べて2、3倍近くの将兵が駐屯しており、人々はただ生きてるだけでも帝国軍が増えたことを感じていた。

 

それはエメラルドグリーンの海が代名詞のグリー・アンセルムでも同様であった。

 

この地に住むアンセルミとノートランは全員現地の収容所か外惑星の収容所に連れられ、今では人口の70%近くが人間種族なっていた。

 

人々はほぼタダでグリー・アンセルムの土地と大層豪華な家々を貰い、我が物顔で生活していた。

 

そこはかつて何の罪もないアンセルミやノートランが住んでいたにも関わらずだ。

 

首都アンセロム、ピエラロスも全てが同じ状況であり、第三帝国の旗の下に人々は偽りの豊かさを享受していた。

 

その恩恵は勿論国防軍も受けている。

 

首都アンセロムに設置された北方軍集団司令部はジャロア宙域軍司令部を更に拡大したものである。

 

第一帝国時代なら司令部を拡大しようとすると土地の買収や住民への説得(無論暴力を背景にしたものが主である)が必要であったが、今はもうそうではない。

 

反対する住民は全員収容所か外惑星であるし、移住してきた第三帝国国民が文句を言うことはなかった。

 

その為北方軍集団司令部の施設が拡大しても文句を言う人々はどこにも存在しなかった。

 

「エリア2、問題なし。哨戒活動を続ける」

 

司令部の敷地内を2名のストームトルーパーが歩哨任務として歩いていた。

 

国防軍はこうした歩哨任務を通常2名、多い場合は3名で行うよう規定した。

 

グリー・アンセルムのような第三帝国の支配が確立した施設では基本的に2名で歩哨任務を行い、そうではない前線惑星は3名、最悪の場合1個分隊や1個小隊で行っていた。

 

「こんな歩哨任務、ドロイドにやらせればいいのに。KXとか得意だろ」

 

歩哨中のトルーパーがそうぼやいた。

 

すると別のトルーパーは「仕方ないだろ、任務なんだから」と宥めた。

 

「お偉い方は俺たちを無駄に働かせないと気が済まないんだろうな」

 

「そうかも、おい…!」

 

同僚のジョークで笑おうとした瞬間100メートルほど先にストームトルーパー達からすれば天と地ほどの差がある上官の姿を目にした。

 

周囲には幕僚や副官が控えており、その老練な面は見るもの全てに百戦錬磨の印象を与えた。

 

「ルンデシュード大将軍……!」

 

すぐに2人は道を譲り、大将軍に敬礼した。

 

北方軍集団司令、ルンデシュード大将軍は手にした大将軍杖を掲げ、敬礼を返す。

 

トルーパー2人は大将軍に対する畏怖で汗をダラダラ流していた。

 

大将軍一行はそのまま司令部の中に入り、大将軍は執務室へ向かった。

 

「閣下、我々はこれで」

 

参謀長ゲルク・ゾルデシュテルン将軍ら幕僚はルンデシュード大将軍に敬礼し、幕僚待機室の方へ向かった。

 

大将軍は参謀長らに敬礼し、彼の側に残ったのは副官と連絡要員の幕僚数名であった。

 

執務室を警護する2名のストームトルーパーが敬礼し、大将軍の帰りを確認してドアを開けた。

 

「中佐、艦隊司令には後で今夜例の店で食事を取ろうと伝えておいてくれ。ついでに参謀長も来ると伝えてな」

 

「はい閣下」

 

副官のシュヴァーティ中佐は大将軍のコートと制帽を受け取りながら命令を受諾した。

 

その間に大将軍は椅子に座り、ホロコンソールを起動して直接送られてきた報告書に目を通した。

 

「しかし後3ヶ月でバルバロッサが開戦ですか……早いものですね」

 

作戦参謀の1人、リヒター大佐はコーヒーを用意しながらそう呟いた。

 

ちなみに彼はエニード星系で戦死した親衛隊大佐のエリック・リヒターの従兄弟である。

 

こちらのリヒター大佐は戦後も帝国軍に残れたが、エリックの方はタイミングが悪くギリギリで間に合わなかった。

 

その為親衛隊に入隊し、気づけば従兄弟と階級を同じくしていた。

 

2人は仲が悪い訳ではなかったが、話してみるとやはり組織の立場の違いというものがあった。

 

それでも戦死し、葬式に出た時はやはり悲しかったと大佐は同僚に語っていた。

 

「ああ、若干不安は残るが……命令である以上やるしかあるまい。無論負ける気はせんがな」

 

「ええ、例え参謀本部がやらかしても閣下の采配であれば失敗を埋めることも出来ましょう」

 

ブレスター少佐はルンデシュード大将軍を明らかに煽てた。

 

少佐はまだ若い幕僚であり、少し調子に乗る癖があった。

 

大将軍のような年長者となるとこうした欠点も笑って見逃せるのだが、いつか身を滅ぼさぬよう優しく注意することもあった。

 

「年寄りにそう苦労はかけんで欲しいのだがな……ともあれ、実行日は決まった。後はそれまでに可能な限り将兵を鍛えなければならない」

 

大将軍はリヒター大佐からコーヒーを受け取って礼を述べ、執務室の窓からアンセロムの市街地を見た。

 

「我々は国防軍人、国家指導者の命令には確実に答えなければならない……ランツフェルト中佐、前線宙域の様子はどうだ?」

 

大将軍は宇宙軍中佐のランツフェルトに尋ねた。

 

宙域の国境沿いを警備するのは宇宙軍の担当であり、こうした情報は帝国宇宙軍がよく知っていた。

 

ランツフェルト中佐はタブレットを見ることなく最低1時間前の報告を彼に伝えた。

 

「異常なしと報告を受けています。勿論昨日報告した通り、チス・アセンダンシーの前線戦力は若干増えたようですが」

 

「1個パトロール隊の増強か。まだ気にするほどではない、国防宇宙軍なら打ち破れるだろう。少なくともこの現状が3ヶ月後まで続けばいいのだが」

 

「外交上は友好関係を維持していますしその点は問題ないでしょう。各前線惑星への戦力増強も一旦停止しましたし、閣下がご心配するほどのことは起こらないと思いますが」

 

シュヴァーティ中佐はルンデシュード大将軍の不安を和らげる為にそう進言した。

 

この裏でランツフェルト中佐は誰かと連絡を取っており、その姿をルンデシュード大将軍はしっかり確認していた。

 

副官の発言には賛同しつつもやはり大将軍はいざという時のことを考えていた。

 

「そうだな中佐。ところでアンシオンの司令部強化はどうなっている?」

 

一旦考えをやめ、別のことを中佐に尋ねた。

 

「ヴェルス提督によれば工事は後1週間で終了するそうです。元々アンシオン軍閥の本拠点でしたし」

 

「ドウル将軍の置き土産か……彼が欲に溺れなければ今頃は…」

 

「えっ!?何!?それは本当なのか!?」

 

大将軍の言葉を遮るほど大きな声でランツフェルト中佐は連絡相手に聞き返した。

 

全員がびっくりして中佐の姿を見た。

 

宇宙軍の中佐は頭を抱えながら「分かった…詳細な情報が纏ったら教えてくれ……」と返した。

 

「何かあったのか中佐」

 

大将軍はランツフェルト中佐に尋ねた。

 

中佐は今までにないほどバツの悪そうな顔で端的に報告した。

 

「ラゴ宙域艦隊司令部からの報告です。30分前、地上軍、宇宙軍の下級兵士が宇宙ステーションの格納庫で発砲。3名の負傷者を出し、センチネル級を奪取しチス・アセンダンシー領域へジャンプしたと……!」

 

副官や幕僚達が一気に青ざめた。

 

唯一大将軍は冷静に聞き返した。

 

「追跡部隊は」

 

「展開しましたが取り逃したようです。現在リダウトの守備艦隊を動員して阻止するつもりだと」

 

「周辺の全艦隊司令部に通達しろ、件のセンチネル級は最悪撃墜しても構わん。絶対に未知領域に逃すなと送れ」

 

「はい!」

 

中佐は敬礼し早速書く司令部に軍集団指令として伝達し始めた。

 

その間に大将軍は立ち上がり、制帽を手に取る。

 

「全員、直ちに作戦室へ向かうぞ。少佐は参謀長ら幕僚を呼び出せ、大佐は艦隊司令を、中佐は軍集団各部隊に念の為点呼と状態点検を大なうよう通達しろ」

 

「はい!」

 

「はい!」

 

2人は敬礼して慌ただしく動き始めた。

 

大将軍は鋭い眼光のまま作戦室へ急ぐ。

 

考えうる限り最悪な事態になった、彼はそう認識していた。

 

 

 

-チス・アセンダンシー領 未知領域 前線国境領域 帝国軍巡視船”CPS-5776”-

帝国軍巡視船(Imperial Patrol Ship)、アクションⅣ級トランスポートを改造した巡視船はチス・アセンダンシーでも引き続き使用されていた。

 

全長約100メートル、ゴザンティ級より37メートル程度大きいが武装はゴザンティ級と変わらず、むしろTIEファイター搭載数ではゴザンティ級に負けていた。

 

尤もこれはあくまでチス・アセンダンシー側がⅠ型と定義する艦種のもので、この”CPS-5776”のように武装を強化されたⅡ型も存在する。

 

とは言ってもレーザー砲が1門増え、TIEファイターが1機多く搭載可能になっただけで性能はあまり変わらなかった。

 

こうした艦艇はチス宇宙軍や亡命宇宙軍ではなく、チス・アセンダンシー=亡命帝国国境軍が主力艦艇として用いていた。

 

国境軍は文字通りチス・アセンダンシーの国境を守備するNISB隷下の部門であり、国境軍にも地上部隊と宇宙部隊があった。

 

基本的に国境軍の将兵は緑色の制帽を被っており、地上群や宇宙軍とはすぐに見分けがつく。

 

この”CPS-5776”の乗組員も同様である。

 

CPS-5776”は5年前に建造された巡視船で、チス・アセンダンシー領域内で初めて生産された初期ロットの一隻である。

 

艦長は国境軍大尉のヴェレルシモフニレ、通称ルシモフが務めていた。

 

この日”CPS-5776”は定期巡回の為、定められた領域を航行し密入国者がいないかチェックしていた。

 

問題が起きたのは丁度巡回を終えて最寄りの宇宙ステーションに帰投しようという瞬間であった。

 

「艦長、救難信号です」

 

CPS-5776”のセンサー観測手がルシモフ大尉に報告する。

 

このセンサー観測手は人間の青年であり、国軍の徴兵を受けるくらいだったら国境軍に行くという理由で国境軍の軍務を選んだ。

 

ちなみにルシモフ大尉が国境軍に入った理由は単純で、宇宙軍アカデミーに入るつもりが書類を間違えて国境軍アカデミーに入ってしまったのである。

 

どちらにせよ艦艇の艦長をやれて今の仕事も悪くないと感じている為特に気にしていなかったが。

 

「どこの所属だ?民間か軍か」

 

「待ってください、これは……えぇ?第三帝国軍です……」

 

観測手は困惑しながら大尉に報告した。

 

報告を受けた大尉も首を傾げた。

 

「なんで第三帝国の船がそんなところに……まあ、本当に遭難していたら大変だしな……グリュシュキン兵曹、針路変更だ。信号の下に向かうぞ」

 

「了解!」

 

グリュシュキン三等兵曹は舵を取り、救難信号の下に向かった。

 

その間にルシモフ大尉は”CPS-5776”の士官達と疑問を投げ合っていた。

 

「なんであんな所に第三帝国の船が……近くで演習でもやってたのか?」

 

「まさか、そんな報告受けてませんよ」

 

大尉の疑問に答えるように政治将校のバルギロシキンリツ、ギロシキン大尉が答えた。

 

大尉に同調し副長のパンテンコ中尉も頷いていた。

 

「となると越境攻撃か……それとも遭難か……後者であって欲しいんだが……」

 

「最近きな臭いですからね……」

 

「ともかく本部に連絡を取りましょう。救助するにしても何か言わねば」

 

ギロシキン大尉の提案に2人は賛同した。

 

すぐにルシモフ大尉が命令を出す。

 

「じゃあ連絡はギロシキン大尉に任せる。グレニンスキー少尉、手の空いてる兵と警備の兵を連れて救助活動に入れ」

 

『了解』

 

「これでまあ、やることはやっただろう」

 

ルシモフ大尉は一息つき、ブリッジの手すりに座り込んだ。

 

救難信号の地点までは最大船速で3分足らずで辿り着いた。

 

ブリッジからは船体中央の羽が折られ、エンジンの片方を破壊されたセンチネル級着陸船の姿があった。

 

破壊され焼け焦げた翼には第三帝国の紋章が描かれている。

 

「救難信号はあのセンチネル級から出ています」

 

「船を寄せてエアロックをドッキングさせろ。通信士、ロナコフ上等兵」

 

「はい!」

 

「センチネル級に通信を繋げ、今から救助活動を開始するとな」

 

上等兵は頷き、ヘッドホンに手を当てながらコムリンクに向けて「本艦は国境軍所属の……」と定例文を送った。

 

ルシモフ大尉はブリッジにいるパンテンコ中尉と顔を見合わせた。

 

「見た所砲撃を喰らったようですが……」

 

「シールドまで破れてるってことは相当喰らったな……こいつらもしかして追われてたのか?」

 

「通信繋がりました!」

 

通信士の報告を受けて大尉はコムリンクを手に取りセンチネル級に通告した。

 

「こちら国境軍”CPS-5776”、そちらの状況はどうだ?航行出来るか?」

 

『ああチス軍か!?助かった!!早くそっちの船に乗せてくれ!』

 

あまりに大きな声にルシモフ大尉は顔を顰め、中尉と顔を見合わせた。

 

どうも艦艇乗りにしてはおかしいと感じたのだ。

 

相手が死にかけていたとはいえいくらなんでも返答の質が悪い。

 

船体の状況を尋ねているのにこれでは何も分からない。

 

それでも必死さは伝わるのでルシモフ大尉はセンチネル級の乗組員達を自分の船に乗せてやることにした。

 

「そちらのエアロックにドッキングさせる、しばし待たれよ。全く通信の基本も知らんのか向こうは」

 

「国防軍のセンチネル級でしょうしそんなことはないと思うのですが……」

 

2人が話しているとギロシキン大尉が戻ってきた。

 

「連絡を取りましたが応援が来るそうです。我が艦は生存者がいたら回収して一旦離れろと」

 

「分かった。”CPS-5776”よりセンチネル級へ、全員船を放棄して本艦に乗船せよ。繰り返す、船を放棄して本艦に乗船せよ」

 

『分かった!ありがとう!ありがとう!』

 

通信主は大きな声で何度もお礼を言ってきた。

 

それから”CPS-5776”はセンチネル級とドッキングして、乗組員を全員巡視船の方へ移し替えた。

 

直ちに反転し、”CPS-5776”は帰路についた。

 

その間に三隻の国境軍ゴザンティ級とすれ違った。

 

恐らくセンチネル級の回収に向かうのだろう。

 

乗組員の回収を行ったグレニンスキー少尉がブリッジに上がり、大尉達に敬礼する。

 

「どうだった、誰が乗っていた?」

 

ルシモフ大尉は早速尋ねた。

 

するとまだ二十数歳そこらの少尉は「それが…」と困惑しながら報告した。

 

「全員が上等兵以下の下級兵士でした……」

 

「はあ?」

 

ルシモフ大尉は唖然とした。

 

彼だけでなくギロシキン大尉もパンテンコ中尉も困惑していた。

 

グレニンスキー少尉の報告によれば乗組員は地上軍の兵士8名、宇宙軍の兵士5名の計13名で全員が上等兵以下の兵士であった。

 

これは異常な事態である。

 

本来センチネル級クラスであれば少尉か中尉の下級士官ないし下士官がが船長として配属されていてもおかしくはない。

 

にも関わらず13人の中には下級士官どころか伍長すら入っていなかった。

 

「取り敢えず尋問は後にして全員を食堂で休ませてますが……」

 

「ああ……それでいい少尉。取り敢えず、一応見張りの兵はつけておけよ」

 

「はい!」

 

敬礼し、グレニンスキー少尉は食堂に戻った。

 

少尉を目で見送るとルシモフ大尉は困惑した表情で2人に視線を送った。

 

「これは一体どういうことなんだ…?」

 

大尉の困惑は宇宙ステーションに到着して詳細が伝わった後でも消えることはなかった。

 

後にこの一連の出来事は国防軍兵士亡命事件として、歴史のこぼれ話として語り継がれることとなる。

 

少なくとも救出の第一線に立っていたルシモフ大尉は対応の速さを評価され、上級大尉に昇進し勇敢勲章を授与されることとなった。

 

故に”CPS-5776”は一時的に担当星系を離れた為、幸運なことに数ヶ月後発生する”()()”を奇跡的に回避することに成功する。

 

その後このルシモフ大尉はこの第二次銀河内戦が終わる頃には大佐にまで昇進しているのだがそれはまた別の話。

 

 

 

-第三帝国領 ブライト・ジュエル宙域 ブライト・ジュエル星系 惑星オード・マンテル 親衛隊宙域軍司令部-

国防軍兵士亡命事件、後に歩兵達の逃亡と呼ばれるこの事件は第三帝国に多大な影響を与えた。

 

これから敵になるチス・アセンダンシーに情報が漏れ出たも同然だ。

 

直ちに特殊潜入部隊が未知領域内に侵入したが時すでに遅し、亡命者達は首都惑星シーラへと連れられていた。

 

この事を受け、総統は命じた作戦実行日よりも1ヶ月早く実行するよう命令を出した。

 

最高司令部、参謀本部、各軍集団は予定よりも1ヶ月早い実行準備に追われた。

 

それはこの親衛隊ブライト・ジュエル宙域軍司令部でも同様であった。

 

親衛隊ブライト・ジュエル宙域軍司令部は国防軍の司令部同様にオード・マンテルに設置されている。

 

戦力はオード・マンテルが第三帝国に編入された4年前よりも3倍ほど増強され、地宙空共に大規模戦力が駐屯していた。

 

その司令部に今日は北西部、そしてコア・ワールドに来客が訪れていた。

 

ある訓示を、銀河史上最悪とも呼べる訓示をハイドレーヒ大将が行うために。

 

「ネーベル少将、どうも」

 

「シュヘルカート…少将に昇進されたのですね、おめでとうございます」

 

ネーベルとシュヘルカート、この2人は元々本部付の親衛隊将校であり、バルバロッサ作戦を受けて親衛隊で編成された”特別任務部隊”の司令官に就任していた。

 

特別任務部隊は主に3個部隊に分けられ、各軍集団に追随して特別任務を実行する予定だ。

 

司令官達の制服は純白であったがその職務には服を赤く塗りつぶすだけでは済まない程の流血が流れている。

 

彼らのいう”特別任務”とはそういう仕事だ。

 

ちなみにこのシュヘルカートは先月親衛隊少将に就任したばかりで、ネーベル少将と前回会った時はまだ准将であった。

 

「あなたも部隊司令に?」

 

シュヘルカート少将が尋ねた。

 

微笑を浮かべながらネーベル少将は頷く。

 

「ええ、長官の信任を得たと思えばこの職も誇らしく思いますよ」

 

「そうですか、私はコルサントの本部が恋しいですよ。正直、この仕事で成果を出したら本部に帰りたい」

 

ついこないだまでFFISOの警察部門を率いていたネーベル少将とは違い、シュヘルカート少将は南ミッド・リム方面のFFISO支局長及び外務官を務めていた。

 

もう1年はコルサントを離れてナブーに住んでおり、彼個人としてはナブーの自然もいいがコルサントの都心に戻りたいと願っていた。

 

皇帝生誕の地の戦後処理というのは名誉ある職であったが、シュヘルカート少将はハイドレーヒ大将と折り合いが悪く本人としては左遷と感じていた。

 

「ハハ、きっとすぐに戻れますよ」

 

2人を苦笑を浮かべた愛もない雑談を交わした。

 

殆どは最近の仕事内容や近況報告で官僚チックな面白みに欠ける会話であった。

 

この場に酒とタバコでもあったらもう少し会話が弾んだのだろうが、生憎今日は訓示の為に集められている。

 

「なるほど、では官舎もナブーからグリー・アンセルムに」

 

「はい、悪くないんですがね、利便性だとコルサントが一番ですよ」

 

「お二方とも話が弾んでいるようですね」

 

奥の方から同じような白い制服を着た親衛隊少将が声をかけてきた。

 

エルミート・ラース親衛隊少将、2人と同じ特別任務部隊の司令官である。

 

特別任務部隊は3つのうちA部隊をシュヘルカート少将が、B部隊をネーベル少将が、C部隊をこのラース少将が司令官を務める手筈になっていた。

 

「博士殿のご登場だ」

 

揶揄うようにシュヘルカート少将がラース少将のあだ名を呼んだ。

 

ラース少将はコア・ワールドの名門大学で2つの博士号を受け取ったインテリである。

 

その為親しみや半ば皮肉も込めて博士殿とか博士ラース博士などとあだ名された。

 

「やめてくださいよ、それより聞きましたか?ベレーク中佐のこと」

 

「中佐がどうかされましたか?」

 

件の事件が起こった地域とは反対側にいたシュヘルカート少将は何も知らない様子であった。

 

ネーベル少将は事情を知っており少将に教えてあげた。

 

「ラクサスで戦死しました。偶々長官の代理でグロットン総督のとこへ向かっていたんですがどうも戦闘に巻き込まれて……という感じです」

 

「あの中佐が……割と目をかけてたんですけどね。フリシュタインの後任だったんでこのまま昇進すると思っていたんですが……残念だ」

 

ネーベル少将は頷き、少将の発言に同調した。

 

「それが戦闘に巻き込まれたようではなくて、どうも総督共々狙われて意図的に殺害されたようですよ」

 

「つまりレジスタンス軍の暗殺だと?」

 

ネーベル少将は尋ね、ラース少将は頷いた。

 

そこでシュヘルカート少将があることを口にした。

 

「ということは狙いはハイドレーヒ大将?」

 

ラース少将は小さく頷きながら「恐らくは」と小声で同意した。

 

あり得ない話ではない、FFISOは第三帝国の諜報は秘密作戦の一端を担う組織である。

 

レジスタンス軍が状況打開の為にトップであるハイドレーヒ大将を暗殺しようとするのはそれほど妙な話ではなかった。

 

「大将、こんなところで訓示を行なって大丈夫なんですかね?」

 

シュヘルカート少将は思わず疑問を呟いた。

 

話題を振ったラース少将は首を傾げ、ネーベル少将は半ば諦めた雰囲気でこう言った。

 

「まあ、ああいう性格の人ですし言っても聞かないでしょう」

 

長らく本部で勤務していたネーベル少将だからこそなんとなくハイドレーヒ大将の性格を掴み取っていた。

 

本当に血が通っているのかと疑うほど冷徹な人間だが、同時に傲慢で若くして権力を得たが故の驕りがあった。

 

そんなハイドレーヒ大将だからこそ代理で派遣した人間が明らかに暗殺されても安全地帯から抜け出し、アグレッシブに行動していた。

 

恐らく前任のディールス長官ならこんな真似はしないだろう。

 

「では中佐は半ば身代わりというわけですか、残念なことだ」

 

「我々もこんな職に就くわけですし、気をつけておかないといけませんな。戦場じゃいつ誰が狙っているか分かったものじゃないですし」

 

ラース少将は半ば自戒を込めて2人にそう告げた。

 

シュヘルカート少将はそこまで自分事と思っていないようだったが、ネーベル少将はラース少将の発言に同意した。

 

気をつけねば命など簡単に散る。

 

彼らは軍隊の階級を有していたが実態はただの警察官僚だ。

 

古参の将軍達のような勇敢さはなかった。

 

「本部長官が入室されます、総員整列」

 

進行役の親衛隊少佐が報告し、雑談を交わしていた3人の司令官達もあるべき位置についた。

 

司令官を先頭に、各部隊の隷下部隊指揮官が整列した。

 

全員が親衛隊の黒かFFISOの白い制服を着た佐官クラスの将校であり、中にはFFISOと警察機関を兼任している将校もいた。

 

数十人が整列し、長官を待っている。

 

間も無くしてハイドレーヒ大将は副官やその他の将校を引き連れ特別任務部隊指揮官達の前に現れた。

 

「Heil!」

 

全員が長官に向けて敬礼する。

 

ハイドレーヒ大将も敬礼を返し、早速訓示を始めた。

 

「諸君は総統閣下より重大な任務を与えられた我がFFISOの精鋭である。諸君に与えた任務については既に熟知していると私は認識しているので説明は割愛する。諸君はこの任務を確固たる意志を以て、如何なる事態があろうと確実かつ忠実に実行することを期待する」

 

ハイドレーヒ大将の訓示は端的だった。

 

本人自身がそれほど語ることはないと思っていたし、短い方がありがたいと思う将校も少なくはなかった。

 

「また諸君も周知している思うがバルバロッサ作戦は総統閣下の命令により1ヶ月前倒しとなった。されどこうした事態の急変更にも柔軟に対応し、未知領域という我々が未だ足を踏み入れぬ地で最大限の戦果を獲得することを私も総統もヒェムナー長官もお望みである。総員、己に与えられた義務を果たせ」

 

「ハッ!」

 

再び全員が敬礼でハイドレーヒ大将の命令に応じる姿勢を見せた。

 

その光景を一望し、大将は微笑を浮かべる。

 

これなら問題なく未知領域から”()()()”を排除出来ると言わんばかりの笑みだ。

 

「では私からは以上だ、後は諸君に一任する」

 

そう言ってハイドレーヒ大将は壇上から降り、各部隊指揮官に正式な部隊結成認可書が渡された。

 

こうして特別任務部隊はこの銀河に誕生したのだ。

 

最初から生臭い血の匂いを漂わせながら。

 

 

 

-チス・アセンダンシー領 未知領域 首都惑星シーラ 首都クサプラー-

首都クサプラーのある地下城塞、数万年前に生み出された建造物がチスの政治の中心であった。

 

ここに政府官邸及び王宮が設置されており、その周囲には各省庁の建物が配備されている。

 

ちなみにこの城塞の隣には通称青の広場と呼ばれる大広間があり、毎年ここでチス・アセンダンシーの建国を祝うパレードが開かれていた。

 

王宮の内部はNISBの警護連隊が警備に当たっており、周辺域には自動防空システムも設置されていた。

 

いざとなれば偏向シールドが起動し、自動防空システムが敵の侵入を迎撃し、最後に警護連隊が応戦するという手筈になっている。

 

勿論シーラにはチス、亡命帝国軍ともに数多くの兵力を駐留させており、そう簡単には城塞に入ることは出来ない。

 

されど城塞が有事の際に最後の砦であることは間違いなかった。

 

こう聞くと物騒な代物に聞こえるが内部に入ってみると過去の伝統あるチスの建築技法で建てられた美しい内装であり、同時に行政機能として十分に機能するものである。

 

王宮の庭園近くにはリヴィリフが趣味で行っている家庭菜園の畑があり、時折部下に畑で採れた野菜を配ったりしていた。

 

今日も職務を終えた後、リヴィリフはヴィルヘルムやラストーレと畑で土いじりをしながら雑談を交わしていた。

 

と言っても内容は専ら政治や人事の話であり、どれも重要なものである。

 

「今年もいいのが採れそうだ、どう思うラストーレよ」

 

「まあこの感じだと客人に手渡す用くらいまで作れると思われますな」

 

ある程度畑作業について分かるラストーレは出来を見ながらそう呟いた。

 

2人の後ろではスーンティア・フェルとヴィルヘルム・フェルが眺めている。

 

「畑か、うちの畑を思い出すな。こんなところに来てしまって、母さん達には申し訳ないと思うが」

 

ふと過去を思い出してヴィルヘルムは懐かしんだ。

 

スーンティアも頷き「まあパイロットも悪くないさ」と呟いた。

 

「ヴィルヘルムも昔は農夫だったと聞いた」

 

「ええ、我々は離れてしまいましたが」

 

「人の選択とはそういうものだ、我々も決断せねばならない」

 

リヴィリフは軍手を取り、側の机に置いた。

 

その隣の飲み物を口に含んで、ヴィルヘルムに話した。

 

「”()()()()()()()”どうなっている?」

 

穏やかだったリヴィリフの表情が一気に変わった。

 

それに合わせて周囲の空気感もピリついたものに変わったとスーンティアは感じていた。

 

「NISBの尋問だと彼らは未知領域に派兵されるのが嫌でこちら側に亡命したと言っていました。とはいえどういった目的で、どの程度の規模かは全く知らないようですが」

 

多少恫喝めいた尋問を行ってもこの程度しか情報が出なかったので恐らく彼らは本当になにも知らないのだろう。

 

少なくともそれがNISBの結論であったし、ヴィルヘルムもそう認識してた。

 

「となると軍が言っていた第三帝国の侵攻作戦は本当ということに?」

 

ラストーレは尋ねた。

 

彼らの認識について軍出身のスーンティアからして見れば楽観の二文字にしか見えなかった。

 

第三帝国の軍事的野心があることは間違いないにも関わらず彼らの備えはほんの僅かしかなかった。

 

勿論理由も分かる。

 

チス・アセンダンシーも亡命帝国も今ある戦力は全て”来るべき脅威”と戦うべきものだ。

 

今ここで第三帝国と戦い、戦力を使い果たしては本物の脅威と戦えなくなる、故に消極的な行動に出ていた。

 

「だがこないだの会議では第三帝国側から経済協力の話を持ち掛けられたと聞いたぞ?」

 

リヴィリフが発したこともまた事実であった。

 

第三帝国とチス・アセンダンシーの関係は特殊なもので、情報機関からは第三帝国の未知領域侵攻の噂が流れているのにも関わらず、表面上の外交や経済面ではむしろ協力する姿勢が度々見受けられた。

 

こうした2つの異なる姿勢がチス・アセンダンシー側の判断にも影響を及ぼしていた。

 

「しかし直接こんな情報が出てきた以上は……」

 

「明日、ロード・アリストクラと会議があります。そこで結論を出しましょう」

 

ラストーレの提案にヴィルヘルムもリヴィリフも賛同していた。

 

少なくとも10つのアリストクラの家々の棟梁達は国境戦力の強化に賛同していた。

 

特にアララニ上級提督は積極的推進者の1人であり、彼女とミス家のアベルテスクは強硬に第三帝国との戦争を想定すべきと主張していた。

 

無論軍部では一応の防衛計画は完成しており、対応は可能である。

 

「軍部としては第三帝国の脅威には対抗しなければなりません」

 

スーンティアは一応帝国軍人としてそう進言した。

 

「ああ、分かっている。少なくとも今回の事態を受けて当面は延期してくれると我々としてはやりやすいのだがな……」

 

ヴィルヘルムは希望的観測を呟きながら今出来る職務をこなそうとしていた。

 

少なくとも彼らの対応はこの時点で不完全ではあったが新共和国ほど足りないものではなかった。

 

故にこの戦争は激化する。

 

少なくともヴィルヘルムが言ったような事態は決して起こる事はない。

 

むしろ第三帝国は今回の事態を受けて侵攻を早めていることをこの銀河で知る者は第三帝国以外いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ついに彼らは雌雄を決する。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国領 首都惑星コルサント 国防軍最高司令部 地下大ホール-

この日、丁度コルサントの標準日で6月と22日の日に国防軍並びに親衛隊の高級将校達が最高司令部の地下大ホールに集められた。

 

当然その中にはジークハルトもいた。

 

師団長としてヴァリンヘルト大尉を連れて最高司令部に訪れるとそこには既に数多くの高級将校達が集まっていた。

 

同じ親衛隊からは第2FF装甲兵団”ダス・ライヒ”のビルトリーヒ少将、第5FF装甲兵団”ヴィーキング”のスタイナー少将などが呼び出されていた。

 

勿論シュテッツ上級大将やモーデルゲン上級大将らも参列しており、親衛隊の上級大将勢揃いだ。

 

大ホール中央前には巨大なモニターが設置されており、その周りにカイティス大将軍らが座って待っていた。

 

前列の席には大量のホロプロジェクターが設置され、既に前線にいるボルク元帥、ルンデシュード大将軍らのホログラムが映っていた。

 

「参謀総長、各員揃いました」

 

グラインデルク上級大佐がヘルダー上級将軍に敬礼し、状況を報告した。

 

彼の側には副官や参謀本部の将校達が資料を持って控えており、いつでもサポート出来る体制を整えている。

 

将校達はそれぞれ席に着き、周りの将校が知人であれば雑談を交わしていた。

 

ジークハルトも隣に座るのがアルブレート中将であった為軽く雑談を交わしていた。

 

「ホロ通信傍受の心配はないな?」

 

「はい、情報部に抜かりはありません」

 

ゲルヘン中佐はそう報告する。

 

「では始めるとしよう。諸君らもはけて」

 

「はい」

 

敬礼し報告し終えた将校達が後ろの方へと下がる。

 

上級将軍は席を立ち、モニターの目の前に姿を現した。

 

上級将軍が立ったのを確認し、段々と雑談の声が消えていった。

 

ヘルダー上級将軍は全員の前で第三帝国式敬礼を行い、席に着く諸将達も敬礼を返した。

 

一呼吸置いてヘルダー上級将軍は話し始める。

 

1年も前から参謀本部の将校達が練り上げた一大プロジェクトである。

 

参謀本部にとってこれは自らの威信を示す為の重要な作戦だ。

 

「国防軍、親衛隊の諸君、ついにこの日がやってきた。総統から指示を頂き、我々を見捨てて未知領域へと落ち延びた者を、未知領域に住まう敵に鉄槌を下す日が来たのだ」

 

いよいよバルバロッサ作戦が開始する。

 

既に参加する全戦力が輸送艦艇に乗り込み、ハイパースペースに突入する準備は整っている。

 

後は時を待つだけだ。

 

「未知領域という強大な領域を我が手に収めれば誰が銀河の支配者か、誰が銀河最強の軍隊か自ずと分かるだろう。それこそ我々が目指すところだ」

 

ホロプロジェクターには大体の作戦計画内容が映し出されている。

 

まず西方軍集団が未知領域に突入し、前線惑星のキャルヒーコル、ブレウスト、そしてペスファヴリを陥落させる。

 

それに合わせて中央軍集団、北方軍集団が北アウター・リムに侵攻し各惑星を制圧する。

 

ルンデシュード大将軍、ボルク元帥、フランツェル・リープ元帥の3人はとても険しい顔でそれを見つめていた。

 

彼らからすれば後僅かな時間で、この作戦の為にに決して少なくはない部下を戦地へ叩き込むことになるのだ。

 

それを思うと歴戦の元帥達でも気が重くなる。

 

勿論参謀には立案した作戦の責任があるが、指揮官達には作戦中に起こる勝敗の責任というものがある。

 

どちらも同じ天秤では測れぬものだが、目立つ上に分かりやすいのは後者の責任であった。

 

「我々第三帝国軍の力が銀河に誇示されれば、裏切り者の南アウター・リム人もまた我々の足元に跪き、僅かな抵抗を見せるレジスタンス軍も戦いを諦め、ケッセルも風前の灯となるだろう」

 

参謀総長は珍しく演説を行った。

 

彼自身も興奮しているのだろう。

 

明日、彼と参謀本部の命運が決まる。

 

有能と評されるも無能と評されるも全て明日の勝利次第なのである。

 

この高揚と不安を打ち消す為には、高揚を演説に乗せてぶつけるしかなかった。

 

「バルバロッサ作戦は第三帝国にとって未来を作る為の作戦であり、参加する指揮官、参謀達にはこうした前提を胸に勝利に向かって邁進してもらいたい」

 

ヘルダー上級将軍の演説は代理総統やゲルバルス大臣の演説を聞き慣れて耳が肥えてしまった人からすれば面白みに欠けるものだったかもしれない。

 

高揚はあれど声に抑揚がなく、そこまで得意なものではないのだろうということが読み取れた。

 

それでも別に問題なかった。

 

前列のホログラムである2人の将校が小声で会話していた。

 

第2装甲軍司令官に就任したグーリアン上級将軍と第3装甲軍司令官のホーツ上級将軍である。

 

2人とも装甲軍司令官としてこの作戦の先鋒かつ主力を任されていた。

 

『ヘルダーの奴、上機嫌だな』

 

『この作戦を立案したのは参謀本部の連中だ、前回ホズニアンの時は案を奪われたからな』

 

そうグーリアン上級将軍は答えた。

 

本来4年前の対新共和国戦も参謀本部が考えた作戦で戦うつもりだった。

 

そこへヴィアーズ大将軍とマーゼルシュタイン元帥らが割り込み、あの作戦案となった。

 

結果的に戦争そのものには勝利したが、参謀本部としてはやはり思うところがあった。

 

今回はその鬱憤ばらしもある、少なくともグーリアン上級将軍は冗談半分に思っていた。

 

『いずれにせよ、命じられた以上やるしかあるまい』

 

『ああ、我々装甲軍の腕の見せ所だな』

 

『連中に目にもの見せてやるさ、新共和国を一撃で屈服させた第三帝国のウォーカー装甲軍の力をな』

 

そうグーリアン上級将軍は断言した。

 

人の思いはそれぞれだ。

 

だが全員が威信をかけてこの作戦に参加するつもりでいた。

 

どのような結末になろうと彼らの中で歩みを止めようと考える者は誰1人いなかった。

 

赤髭を乗せた列車は走り出した。

 

「後数時間後、何も知らないチス人達が頭上に我々のTIEファイターとスター・デストロイヤーを見た時が奴らの最後となるだろう。この星図からチス・アセンダンシーという国名が消え、いずれは第三帝国の国名が刻まれる」

 

確固たる意思でヘルダー上級将軍は最後にこう下した。

 

「さあ全軍将兵よ、総統の為、我が祖国の為、我が軍の名誉の為、前進し未知領域を我がものとしろ。今ここに”バルバロッサ作戦”の開始を宣言する!」

 

宣言と共に全員が敬礼し、ホログラムが1つずつ消えていく。

 

彼らはこれから未知領域へ向かうのだ、彼の地にいる人々を抹殺しに。

 

11ABY、ついに銀河系は次の戦争のステージへと突入する。

 

かつては一つだった帝国の遺児達がそれぞれの地で成長し、その成果を叩き合う日が訪れる。

 

皇帝のいない第二幕が始まるのだ。

 

バルバロッサの発動と共に、第三帝国破滅のワルツがかけられた。

 

 

 

つづく




おっす、初投稿者です、よろしくお願いしまーす(一般偽りEitoku Inobe)

ガンプラ作るから投稿落ちると言っていましたがあれは嘘です

1つも崩すことは出来なかったのに1話完成してしまいました

Eitoku Inobe、腹を切ります.
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