勇者と聖女の召喚に巻き込まれただけの俺   作:ちゅうき

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第11話 秘めたる力(秘めてはいない)

 ルシールがアンブロシスさんに至急の面会を申し出て、ようやく会えたのは夕食の少し前だった。

 場所は1階のいつもの食堂兼会議室。

 ルシールから事のあらましを聞いたアンブロシスさんは、じっと俺を見つめた。いや、爺さんに見つめられてもちっとも嬉しくないんだが。

 

「レン殿、これが見えますかな」

 

 アンブロシスさんはおもむろに右手を少し挙げた。

 え、何? 普通に見えるけど……。

 

「はぁ、見えますけど」

 

 首を捻りながら答える。

 

「では、こちらは?」

 

 今度は左手を挙げる。

 あ、その指先に魔法が揺らめいている。そういうことか。

 

「魔法が揺らめいて見えます」

「うむ。ルシールの報告のとおりじゃな。確かにレン殿は魔法が見えるようじゃ」

「それは勇者様や聖女様と同じ世界の人だからでしょうか?」

「それは何とも言えん。今までの勇者や聖女で魔法が見えた者がいたという記録はないからのぅ」

 

 勢い込んで問うルシールにアンブロシスさんは落ち着いた声で答えた。

 

「それにレン殿に魔力が無いということも気にかかる」

 

 アンブロシスさんはあごひげを撫でつけ思案する。

 

「ふむ。そうじゃな、レン殿のことはシュテフィに任せようと思う」

「え、シュテフィール・ベルクマンにですか!」

 

 いつも穏やかなクレメントさんがガタっと椅子を鳴らして立ち上がった。

 

「ここで彼女ほど魔力のこと、魔素のことを研究しておる者はおらんよ」

「しかし、あいつは魔物の魔石を使うような研究をしているんですよ」

「研究のためならば別に悪いことではなかろう」

「それに変人で独善的で秘密主義で」

「彼女には褒め言葉じゃろうな」

「ですが──」

「クレメント」

「……申し訳ありません。出過ぎたことを言いました」

 

 アンブロシスさんの重い声にクレメントさんは姿勢を正した。そして、自分を落ち着かせるようにふぅーっと大きく息を吐いて腰をおろす。

 なんかとんでもない人みたいなんだけど。シュテフィール・ベルクマン。

 

「まあ、レン殿は変わっておるからの。その相手をするのも変わった者の方がよかろうて」

 

 「よかろうて」じゃねーよ、爺さん。先が不安でしょうがない。

 まぁ、俺に特別な力……かどうかはわからんけど、無為な日々を送らずにすみそうな何かがあるならなによりだ。暇だったし……。

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 その夜、ペネロペの代わりにジゼルという子が来た。明るい茶色の髪を後ろで二つにまとめたペレロペよりは年上に見える子だ。澄ました顔をしているが、俺のことをちらちらと盗み見ている。俺たちが勇者御一行ということはもう広まってるんだろうな。俺が勇者じゃないことも魔力が無いことも。

 彼女は無難に仕事をこなし、『夜のお手伝い』を申し出ることもなく退室していった。

 ま、俺、勇者じゃないし、そういう待遇の対象じゃなくなったんだろう。ぜんぜん残念なんかじゃないんだからねっ。

 

 次の日の朝は、別の子が起こしに来た。またしても注目されている。

 何、俺の小間使いってちょっとしたブームになってるの? まさかの罰ゲーム? 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 さて、噂のシュテフィ―ル・ベルクマンさんがやってきた。

 着崩した青いローブをなびかせてさっそうと歩いてくる背の高い金髪の女性がそうだろう。彫りの深い顔に青い眼、高い鼻。二十代半ばと思われる美人さんだ。

 

「初めまして。シュテフィール・ベルクマンです。シュテフィと呼んでください」

 

 彼女は爽やかな笑顔で自己紹介した。

 

「こちらこそ初めまして。レン・タカツマです。俺のこともレンと呼んでください」

「じゃあ、レン。さっそくだけど──」

「おい、シュテフィール・ベルクマン」

 

 シュテフィさんの言葉をクレメントさんが遮る。

 

「おや、クレメントじゃないか。内務省の俊英さんがいつこっちに来てたんだい?」

「ルシール様に挨拶をしろ。失礼だろう」

 

 クレメントさんはシュテフィさんの問いには答えず、強い口調で窘めた。

 

「ああ、ルシール様。おはようございます」

「おはよう。シュテフィ」

「それから! 勇者様と聖女様もいらっしゃるんだぞ!」

 

 挨拶もそこそこに俺の手を引いていこうとするシュテフィさんをクレメントさんが押し止める。

 

「勇者? 聖女? ……ああ。『ドラゴンを呼ぶ星』が現れて召喚の儀をしたのか。そういうことはもっと早く言って欲しいな、クレメント」

「シュテフィール・ベルクマン!」

「シュテフィ。大事なお客様の前で失礼ですよ。ちゃんと挨拶をしてください」

 

 ルシールに言われて、シュテフィさんはやっとユーゴたちの存在に気づいたようだ。「失礼しました」と姿勢を正す。

 

「シュテフィール・ベルクマンと申します。以後、お見知り置きください」

 

 と貴族の礼を執った。

 ユーゴたちも名乗り返したけど、あれ絶対聞いてないな。終わるやいなや、「もういいでしょ?」という顔でルシールを見ている。

 

「はぁ……。わかりました。ではレンのことをよろしくお願いします」

「煮るなり焼くなり食べるなり、好きにしてもらってかまいませんので」

 

 さりげなく物騒なこと言うのやめてください、スザンヌさん。シュテフィさんも「いいの?」みたいな顔しないで。

 俺のジト目に気づいたシュテフィさんがニカっと笑う。

 

「安心して、レン。今日は君を観察するだけだよ。いくつか情報はもらったけど、私自身の眼で君を見てみたいからね。途中でいろいろ質問するかもしれないけど、君はいつもどおりにしてくれればいいから」

「はぁ」

 

 それからシュテフィさんは、宣言通りずっと俺の後について回って、魔法の訓練をするユーゴや黒姫を見学している俺に、あれはどう見えるのかとかこれはどう見えるのかと、一つ一つ確認しては紙の束にメモを取っていた。

 それには飽き足らず、クレメントさんやイザベルさん、果てはその辺を通りかかった魔法士や衛士たちまでも巻き込んで魔法を使わせ、人によって何か違いがあるかと聞いてくる始末だ。

 クレメントさんが心配していたことの一端を垣間見た思いだ。

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 昼からの訓練が一段落したところで、シュテフィさんが聞いてきた。

 

「レンが魔法を見ることができるのは間違いないね。魔力の大小はわかるけれど、属性や人による違いまではわからないことも確認できた。それで、レン。他に何かそれらしいことはない? 目で見える以外に魔法を感じるようなことが」

「うーん……。あ、昨日『火の魔法石』を触ったら、ちょっとあったかい感じがしたんですけど」

「あったかい?」

「ええ。なんか炎みたいな……」

「それは面白い!」

 

 言うなり、シュテフィさんはだっと建物の方へ走り去った。そして、皮袋と木のテーブルと椅子を持った魔法士たちを引き連れて戻ってきた。

 魔法士たちはシュテフィさんに言われるままに、芝生の上にテーブルと椅子を置くと、「なんで俺たちが」と小声で文句を言いながら戻っていった。なんかすいません。

 

「何が始まるの?」

 

 別の場所でお茶を飲んで休憩していた黒姫たちが興味深そうに近寄ってくる。それを歓迎するようにシュテフィさんは両腕を広げた。

 

「ようこそおいでくださいました、ご令嬢方。只今より、レンがその不思議な力を使って魔法石の種類を当てて御覧に入れます。さあさあ、どうぞどうぞ」

「え、何、おもしろそう。ねぇ、ルシール。ちょっと見てみようよ」

「はい、いいですよ。マイ」

 

 ご主人様がそういえば、お付きの人も従うしかない。イザベルさんとセザンヌさんもテーブルを囲む。

 ちなみに、ユーゴはさっさとクレメントさんに連れられて訓練に戻っていた。

 

 で、現在、俺は目隠しをされて椅子に座っているわけだが……。

 そのまま、両手の手のひらを上にしてテーブルの上に置くように言われた。

 その片方に小さい石のようなものが乗る。

 

「これは何の魔法石かわかる?」

 

 すぐに手のひらから炎のイメージが伝わってきた。

 

「えっと、……炎のイメージだから……『火の魔法石』」

「当たってる」

「ヤラセじゃないの?」

 

 素直に驚くイザベルさんの声と疑い深そうな黒姫の声が聞こえる。

 

「では、みなさんに魔法石を選んでもらおうか」

 

 シュテフィさんが言うと、みんなの楽し気な声と共に次々と魔法石が乗せられた。炎や水、風それに太陽のイメージを感じたままに答えていく。

 

「全部当たってますね」

「何でわかるの?」

「キモっ」

 

 おい、黒姫だろ。キモって言ったの。耳は聞こえてるんだからな! 

 

「では」

 

 と、次に乗せられた石からは今までとは違ったものが頭に浮かんだ。それは物じゃなくてメッセージみたいな……。

 

「えっと……この魔法陣に魔力を流すとこの魔法石に込められた魔力を使って魔力の壁が生成される?」

「まさか!」

 

 スザンヌさんの驚く声が聞こえた。

 

「これは私が常に身に着けている魔力障壁を発動させる陣を組み込んだ魔法石です。貴重なものでそうそう出回ってはいないはずのものなのですが……」

「それにレンたちにはまだ術式魔法のことは教えていません」

「どういうことでしょう?」

「やっぱりキモい」

 

 そこでふと、声が途切れた。もちろん耳が聞こえなくなったわけじゃない。遠くでユーゴが魔法を暴走させている音がしている。

 

「では、これは何かな?」

 

 シュテフィさんの声がして、右の手のひらにちょんと何かが触れる。

 

「感じたままを言ってみて」

 

 促されるままに伝わってくるイメージを口にする。

 

「ええと、池? 湖かな? なんか水がある。すっごく透明で底がはっきり見える。あ、でもこれかなり深い。それにこの水、あったかくて優しい水だ。あと、なんていうか、ちょっと懐かしい感じがする……」

「そ、そうですか」

 

 ルシールの戸惑うような声がした。

 目隠しを取ると、頬を染めたルシールが俺の手のひらに中指の先を乗せていた。

 

「ほう。それがルシール様の魔力ですか。深く透き通るほど透明であったかく優しいと。なるほど」

 

 スザンヌさんがうんうんと感慨深げに頷いた。

 ルシールも控えめな微笑みを俺に向ける。

 

「懐かしい感じがするのは、レンと同じニホン人だったサクラお婆さまの血のせいでしょうか」

 

 そう言われると、なんか親近感が湧くな。

 

「じゃあ、次は触らないで感じられるかやってみよう。ルシールを見て感じたことを言ってみて。あ、綺麗とか可愛いとかは無しで」

 

 ルシールを見るとなんかもじもじして目を伏せている。ちょうどよかった。眼が合ったらやりにくかった。

 それでも顔をじっと見るなんてできないので、なんとなく全体を見るように意識した。

 そして、感じた。

 

「……重い」

 

 スパァァァーン! 

 

 いきなり後頭部をはたかれた。

 

「あんた、女子に向かってなんてこと言うのよ!」

 

 黒姫だった。

 

「セザンヌ。私、最近食べ過ぎてますか?」

「いいえ。ルシール様は女性らしいお身体を保っておられますよ」

 

 どうやらスナイスバディの持ち主らしい若干涙目のルシールを慰めていたスザンヌさんが、射殺すような眼を俺に向ける。

 

「あなたを少しでも見直した私が愚かでした。ルシール様が一番気になさっておられることを口にしたあなたは万死に値します。覚悟はいいですね?」

「いや、待って。ちょっと待って。俺が重いって言ったのはルシールが気にしている体重のことじゃないんですよ」

「き、気にしてません。私、気にしてなんかいませんよ! ううっ……」

「レン……」

 

 スザンヌさんの眼が本気だ。ヤバすぎる……。

 そこにパンパンと大きく手を鳴らす音が割って入った。

 

「話を本題に戻させてもらうよ。レン、説明して」

 

 助かった。命の恩人です、シュテフィさん。

 

「あの、ちょっと言葉ではうまく表せないんですけど、こうドーンとしてるって言うか存在感があるって言うか」

 

 ルシールは魂が抜けたような顔になり、セザンヌさんの瞳に殺意が宿る。

 

「まだちょっと曖昧だな。じゃあ、他の人はどう感じる?」

 

 そうシュテフィさんが言うと、みんなに緊張が走った。黒姫なんか露骨に「こっち見ないでよ、変態」と椅子を盾にする。

 ああもう、どうとでもなれ。感じたまま言ってやる!

 

「ええと、この中ではシュテフィさんが一番軽いです。次がイザベルさんで、セザンヌさん、ルシール。あ、黒姫さんはめっちゃ重、おわっ」

 

 黒姫のグーパンチを間一髪でかわす。

 

「殺す! 絶対殺す!」

「おまっ、聖女にあるまじき言動だぞ」

「マイ、落ち着いて」

 

 自分より重い人がいて安心したのか、復活したルシールが間に入ってくれた。

 

「なるほど。まだ断言はできないけど、レンが感じているのは魔力量のようだな」

「魔力量、ですか?」

「そう。もし体重なら私が一番重いはずだろう? それにルシールや聖女が重く感じる説明もつく」

「確かにそうですけど……」

「まぁ、レンの感じている重さが実際の体重と無関係ということは間違いないよ」

 

 シュテフィさんの説明に、みんなは安堵の表情を浮かべる。

 良かった。これでみんなから嫌われずに済みそうだ。

 それにしても、その人の魔力量を感じられるなんてなぁ。

 そういえば、前にメイドの子たちがアンブロシスさんたちと違った印象を受けたのも、彼女たちが平民で魔力が少ないからだったのかもな。

 

「うん、実におもしろい。レンは魔力を感じ取れるんだな」

「どうしてレンはそんなことができるのでしょうか」

 

 ルシールがこの場の全員の疑問を代表するように尋ねた。

 

「それはまだ不明だな。けれど、それは逆に『なぜ我々は魔力を感じ取れないのか』ということでもあるんだ。ふふっ。これは全く解きがいのある設問だよ」

 

 彼女はそう言ってとても楽しそうに笑った。

 

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