勇者と聖女の召喚に巻き込まれただけの俺   作:ちゅうき

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第16話 馬車の中で

 小さな窓の外を流れる畑と森ばかりの景色にも飽きてきた頃、

 

「レン様、……あたしって魅力ないですか?」

 

 ソフィーがいきなりラブコメ臭のすることを言ってきた。

 

「レン様たちの国の男の人から見て、あたしってどうですか? 抱きたいって思えませんか?」

 

 また大胆に聞いてきたな。しかたがない。正直に答えてあげよう。

 

「そうだな。男が10人いたら16人が抱きたいって言うだろうな」

「6人はどこから出てきたんですか? ちょっと怖いんですけど」

 

 むう。

10人の他に6人が自己申告するくらい魅力的だよっていうどこかで読んだことがある例えを言ってみたんだけど、マズかったな。これじゃ、集団レイプだわ。

 

「で、何? どうせユーゴのことだろうけど」

「当たり前です。あたし、ユーゴ様以外に悩むことなんてないですから」

 

 さいで。

 

「ユーゴが何かしたのか?」

「何もしてくれないからこうして悩んでるんじゃないですかぁ」

「ああ、そういうことね。なら、今みたいに言えばいいんじゃない? 魅力ないですかって。できれば上目遣いで」

「それ、もうやりました。でも『ソフィは十分魅力的だよ。だからソフィの絵を描きたいって思ったんだ』って言われちゃって」

 

 まぁ、ハーレム系主人公は鈍感か難聴って決まってるもんな。

 

「レン様はユーゴ様が抱きたくなる女性ってどんな人か知ってますか?」

「うーん、そうだなぁ。どんな女性っていうより、ユーゴみたいなのは、女の子とちょっとずつ仲を深めていってって感じじゃないかなぁ。だからいきなり抱くとかは無いと思うよ。たぶん」

「えー。それじゃ遅いですよ。もうすぐ王都に着いちゃうのに……」

 

 ソフィーがしょげ返る。

 

「王都に着いたら遅いの? 何で?」

「あたし、捨てられちゃいます」

「は?」

「私たち平民の使用人はお払い箱ですから」

 

 フローレンスが説明してくれた。

 

「たぶん、王都に着いてからはマイ様付きの侍女はみんな貴族になると思います。ユーゴ様も同じでしょう。そもそも聖女様や勇者様に平民の使用人がお仕えすること自体ありえないんです。ただ、貴族の方は王都を出たがりませんから、それで私たちが選ばれたんでしょうね」

「二人とも王宮の使用人だったんだっけ?」

 

 そんなことをペネロペが言ってた。

 

「使用人と言ってもただの下働きです。王族の方のお世話をするのは貴族の使用人ですから」

「ふーん。じゃあ二人ともそこに戻っちゃうのか」

「ですね」

 

 肩を落とすソフィーの横でフローレンスは首を横に振る。

 

「私はたぶん家に呼び戻されるでしょう」

「家に? なんで?」

「縁談があるのです。もう15になりますから」

 

 ここの世界では、15歳から大人として扱われるのだそうだ。とりわけ、女子は早くから婚約者が決められていたりと、すぐに結婚して子供を産むことを望まれるのだと聞いた。隣に20代半ばの独身女性がいるのはスルーしてあげよう。

 

「今回、聖女様の小間使いに選ばれたのも、父がその箔付けにとねじ込んだのだと思います」

「へぇ。フローレンスの親父さんて偉い人なんだ。あれ、でも、平民って言ってたよね?」

「父はお金を扱う商会を持っていて、貴族にもお金を融通したりしていますから、そういう伝手を使ったのでしょう」

 

言って、フローレンスは自嘲気味に微笑む。

 

「私の結婚相手の商会に大きな顔ができますからね」

「相手の人もどこかの商会の息子さんなんだ」

「南のリオンという街にあるマルセイユ商会の嫡男だそうです。お会いしたこともありませんが」

「えっ、会ったことないの?」

「父が決めたことですから」

 

 フローレンスはそう言って目を伏せた。そして「ああ」と何かを思いついたように俺を見る。

 

「たぶんペネロペもそうだと思いますよ」

 

 意外な名前が出てきて鼓動が跳ねた。

 

「ペ、ペネロペが何?」

「彼女、急に実家に戻ったでしょう? あの子も秋には15歳になるはずですから、きっとどこか景気の良い商会に嫁がせたいんじゃないですか」

「あれ? ペネロペってお父さんが急病で家に戻ったんじゃなかったっけ?」

「それは家に呼び戻すよくある口実ですよ」

 

 はー、なるほど。そっか。ペネロペ結婚するのか……。

 

「でも、何で景気のいい商会に?」

「前にもお話したことがあったかもしれませんが、彼女の実家はフールニエ商会という主にパンを扱っている王都でも老舗のお店なんです」

「ああ、フールニエのパンか。王都の学院にいた頃はよく買って食べたよ。実にうまいパンだった」

 

 それまで黙って話を聞いていたシュテフィさんが懐かしそうに言った。

 

「はい。評判の良いお店で繁盛していましたが、ずっと前からあまり儲けが出ていないと聞いています」

「へぇー。よく知ってるね」

「父の仕事柄、そういう話を聞かされたりするので」

「でも何で儲けが出てないの? おいしいんだろ?」

「たぶん麦の値段が上がっているせいでしょう。デュロワールではだんだん麦の収穫が減ってきているんです」

 

 収穫が減っている? 何かが記憶に引っかかる。

 

「それは何故?」

「原因はわかっていない。麦に限らず作物全体が育ちにくくなっているんだ」

 

 質問にはシュテフィさんが答えてくれた。

 作物全体ってことはきっと養分が減っているってことだよな。

やっぱりそうか。この世界の農業にはまだアレがないんだな。

 フッフッフッフ。来た来た来た来た! ついに俺の知識の出番ですよ!

 

「それって連作障害ですよ。同じ土地に同じ作物を続けて作るとだんだん育ちが悪くなるんです。それを防ぐために、俺たちのいた世界には輪栽式農法っていうのがあって――」

「のーふぉーく農法のことですか? それならとっくの昔に導入済みですよ」

「へ……?」

 

 フローレンスが自慢げに説明する。

 

「前の聖女様が教えくださったそうです。それで一時は良くなったらしいんですが、それでもやはり育ちは悪くなる一方ですね」

 

 ぐぬぬ。また前の聖女様かよ。ちょっとは自重しろっつーの。

 

「じゃあデュロワールって食糧ヤバいんじゃない? パンが無くてケーキを食べなきゃいけないんじゃない?」

「何を言っているのでしょうか、この人は」

 

 フローレンスがバカを見る目で俺を見る。

 

「食糧は大丈夫です。交易で他の国から仕入れできますし、デュロワールでも普通に麦が取れる所はありますから。北部のペイズバスとかルールラントとか」

「そこは元はゴールの領地だったんだがな」

 

 シュテフィさんがふんと鼻を鳴らす。

 

「自国で麦が採れなくなると採れる領地を分捕る。デュロワールはそうやって大きくなったんだ」

 

 んん? いつになくシュテフィさんの言葉に棘がある。まぁ、あまり突っ込んでいい話じゃなさそうだ。

 

「麦はあるのに値段が上がってる? 誰かが価格操作でもやってるのか?」

「それもありますが、フールニエ商会が苦しい理由は別にあります」

「へぇ。よかったら教えてくれる?」

「はい。フールニエ商会は老舗ですから、麦の仕入れ先はデュロワールに古くからある領地がほとんどなんです。でもそこでは今は麦があまり取れない。その上、麦の採れるペイズバスやルールラントには新興の商会が入っていて、高い値段でしか仕入れできなくなっているのです。今、王都で流行っているのはそういう新興の商会に近い店なんですよ」

「なるほどねぇ。しっかし、フローレンスは物知りだね。ほんとにただの小間使いなの?」

 

 訝しく見やると、

 

「私が何のために王宮で働いているとお思いですか」

 

 とニッコリ笑った。

 恐い。恐いよ、フローレンス。

 

「まぁ、そういう理由で、フールニエ商会としては娘を景気の良い商会に嫁がせて縁を結びたいのでしょうね」

「でも、そんなんでいいのかな? なんか政略結婚つーか、商取引みたいだ」

「王都では良く聞く話ですよ。それでもフローレンスやペネロペはいい方です。あたしなんか、下手をしたらどこかの貴族のクソジジイの愛人にされるかもしれないんですから」

 

 ソフィーがため息を吐く。

 

「あー、やっぱりユーゴ様のものになりたいですぅ。レン様、なんとかしてくださいよぉ」

「じゃあ、もういっそのことユーゴが眠ってるうちに裸でベッドに潜り込んじゃえば? で、朝になって雀がチュンチュン鳴いてたらもうこっちのもんだ」

「なぜそこで雀が出てくるんですか?」

 

 ソフィーが疑わしそうな目を向けてくる。

 

「俺たちの国じゃな、男女でそういうことがあった時の朝には雀が鳴くんだよ。だから、朝になって雀が鳴いてたら、たとえ覚えが無くてもソフィーとそういうことをしたんだってユーゴは思うはずだ、絶対。きっと。たぶん」

「ふーん。雀、鳴いてくれるかなぁ」

「本気にしてはダメよ、ソフィー」

「レンは本当に面白いなぁ」

 

三者三様の目に晒されながら、ようやく馬車はダンボワーズの城門をくぐった。

 

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