勇者と聖女の召喚に巻き込まれただけの俺   作:ちゅうき

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第20話 魔力感知全裸説

 とても幸せそうな笑顔で手を振るソフィーたちが乗った馬車を見送った後、アンブロシスさんが俺たちを一室に集めた。

 魔法学研究所の内密の話ということで、護衛の騎士たちには同室をお断りしてある。

 

「王都に行く前に、シュテフィが君たちに話しておきたいと言うのでな」

 

 シュテフィさんはロッシュに戻るのだそうだ。てっきり俺について王都に来るもんだと思ってた。

 

「レンと一緒に王都に行こうと思っていたのだが、アンブロシス様に却下されてしまってね。だから、ここでレンが魔法が見えたり魔力量を感じたりできることについて私なりにある程度考えたことを報告しておこうと思う」

 

 そう前置きして、シュテフィさんの話は始まった。

 

「きっかけは昨日、ロッシュ城の古い結界を通り抜けた時だ。我々は普通その結界を通り抜けても何も感じない。が、レンはバラの生け垣に裸で突っ込んだような痛みを感じたそうだ」

「高妻くんのこと露出狂だとは思ってたけど、ド変態だったのね」

「どっちも違うっつーの。この世界の人にわかりやすく言おうと思ったらそれしかなかったんだよ」

「じゃあ、本当はどう言いたかったの?」

「んー。なんか強めの電気風呂に入った的な」

「やっぱり裸じゃない」

「でも、それは確かにわからないよね」

 

 ユーゴがフォローしてくれた。

 

「続けていいかな?」

 

 シュテフィさんが苦笑する。

 シュテフィさんが裸の話するからでしょ。ま、それもここまでだろう。続きをどうぞ。

 

「それで私は考えたんだ。レンは常に全裸なんだと」

 

 おい! 黒姫がドン引きじゃねーか。

 その黒姫に、シュテフィさんが「では、聖女」と先生のように名指しする。って、名前は憶えてないんだな、やっぱり。

 

「全裸だということはどういうことだと思う?」

「変質者」

 

 即答しやがった。

 

「勇者は?」

「……恥ずかしい?」

「おまえら真面目に答える気あるのか? ちょっと考えればわかるだろ?」

 

 俺は声を大にして言いたい。

 

「自由だ! 何物にも締め付けられることも遮られることも無い自由。それが全裸ってもんだろ?」

 

 シュテフィさんは眼を薄くして、黒姫はすっと距離を取り、ユーゴは他人のふりをしている。あれ?

 

 こほんとシュテフィさんが改まる。

 

「レンの特殊な感性は置いておくとして、彼の答えの中に一部正解がある。それは遮るものが無いという点だ。故に彼は結界の魔素を始めあらゆる魔素を体に感じてしまうのだ」

「じゃあ、魔力を感じ取れない私たちには遮るものがあるってことね」

「聖女の言うとおりだ」と頷いた。

「それは何ですか?」

「魔力だと私は考えている」

「魔力? 自分自身のですか?」

「そう。レンが魔力を感じるものは彼が感じ取れる程の魔力を出しているということになる。魔法はもちろんのこと、魔法石や我々自身もだ。つまり、我々はレンが感じ取れるような魔力を常に体の外に出していることになるわけだ」

 

 なるほど。

 

「その魔力が服のようになって周囲の魔力が我々自身の体に届かない。逆に、レンは魔力を持ってはいるが外に向かって出せない、魔力という服が無い状態だ。故に周囲の魔力をその体で全て受け取ることになる」

「全裸で総受けかぁ」

 

 変な言い方はやめてもらおうか。黒姫さんよ。

 

「まぁ、まだまだ検証の余地は多いがね。本当にレンは研究のし甲斐があるよ」

 

 と、シュテフィさんは俺を熱く見つめた。

 

「ええと、レンが魔力を感じ取れる理由はわかりましたけど、そもそもレンが魔法を使えない原因は何なんですか?」

「それは、正直今のところさっぱりわからないんだよ」

 

 ユーゴの質問にシュテフィさんはお手上げとばかりに肩をすくめて首を左右に振った。まぁ、俺には思い当たることがないこともないんだが。

 

「あの、シュテフィさん。俺が魔法を使えない原因って、何か経験が足りないからとかありますか?」

 

 と、小声で聞いてみた。

 

「経験? 何か心当たりでもあるのかい?」

「い、いえ、全然。ただ、何て言うか、経験値が足りないと使えないみたいな?」

 

ユーゴの呆れたような視線が痛い。

 

「よくわからないが、私としてはレンには是非このままでいてもらいたな」

 

 シュテフィさんがとても良い笑顔で残酷な要請を口にした。

 で、なんで他のやつらはうんうんと頷くかな。

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 転移魔法の魔法陣がある『転移の間』は敷地内に建っている教会の地下にあった。

 あ、教会と言ってもキリスト教じゃない。この世界の歴史にはキリスト教は無いみたいだ。デュロワール王国では創生神を中心とした5属性の神を信仰する宗教が信仰されているらしい。詳しくは知らない。

 

 入口の金属製の扉にアンドレが掌を当てると、光る魔法陣が浮かんで扉が開いた。これ、ロッシュ城にあった召喚の間でルシールがやってたな。たぶんだけど、この魔法陣が見えるのも俺だけなんだろう。

俺の視線に気づいたアンドレが、

 

「この扉は王族、厳密には王家の血統の者にしか解けないんだよ。だから、たとえここの主である養父でもこの扉は開けられないんだ」

 

 と、紫の瞳を向けて薄く微笑んだ。

 ああ、こいつの実の父親は王様なんっだっけ。身分や肩書よりもDNAが鍵になってるのか。

 

灯りの無い部屋へヴィクトールが先に入って『光の魔法石』のランプを点けていく。

 中は石壁で8畳ほどの正方形の部屋。つるつるとした材質の床の中心には、直系3mくらいの黒色の魔法陣が描かれている。これと同じ魔法陣が王都にある王宮の地下室にもあって、そこへ転移できるのだとか。

 

 その魔法陣を見て、一つの疑念が浮かんでしまった。

 

「……これ、あっちに行ったらまた素っ裸になるのか?」

 

 独り言のような呟きに、すぐに黒姫が反応した。

 

「えっ、うそっ」

 

 召喚された時を思い出したのか、あの時と同じように見せちゃいけない部分を両腕で隠す仕草を取った。あと、ちらりと俺の方に目をやって顔を赤くした。何を思い出したのやら。

 

「もしそうなっても、黒姫さんのことはなるべく見ないようにするから安心しろ」

「なるべくじゃなくて絶対に見ないでよ。あと、サフィールとジャンヌのことも見ちゃダメ。ていうか、目瞑っててよね」

「そっちこそまた見るなよ」

「ま、またって。高妻くんこそ見せつけないでちゃんと隠しなさいよ」

「見せつけたわけじゃねーよ」

 

 こそこそと言い争ってると、

 

「どうかした?」

 

 アンドレが怪訝な顔で声をかけてきた。

 

「いえ、何でもないんです」

「転移の時って、やっぱり目を瞑ってるのがエチケットですか? イテ」

 

 慌てて首を振る黒姫が恥ずかしくて聞けなさそうだったので代わりに聞いてやったら、こっそり足を踏まれた。

 

「は? 目を瞑る? エチケット?」

 

 アランが馬鹿にした口調で俺の言葉をリピートする。

 

「だって着てる服まで一緒に転移できないんでしょ? 男子だけならいいですけど、女子も一緒に転移するわけだし、そこは目を瞑って見ないであげるのが武士、いえ騎士かなと。まぁ、女子に見られる可能性はあるけど、そこはしかたがない――」

 

 黒姫の手で強制的に口を塞がれて話が途中になってしまった。必然的にまたしても彼女の手にキスをするはめになってしまったが、彼女の方は「見るわけないでしょ、バカ」と顔を真っ赤にして怒っているので気にしていないようだ。

黒姫は俺の口を塞いだまま、アンドレたちにぎこちない笑顔を向ける。

 

「ご、ごめんなさいこの人時々変なことを口走る癖があるんですのよ。オホホホ」

「確かに変な話だな。着ている服が一緒に転移できないなんて発想は今までしたこともなかったよ」

 

 アンドレも思わず苦笑いだ。一方、サフィールとジャンヌからは蔑むような視線をいただきました。

 でも、このままでは俺はあらぬことを妄想する変態野郎になってしまう。なので、きちんと説明しなくてはなるまい。

俺はいい匂いがする黒姫の手を名残惜しみつつ剥がした。

 

「いや、俺たちが召喚魔法でこっちの世界に来た時はそれまで着てた服が無くなってて素っ裸で魔法陣の上にいたから、てっきり転移魔法もそうなのかなって思ったんですよ」

「それは本当か?」

「うん。レンの言ってることは本当だよ。でもすぐにマントをかけてもらったから」

 

 ユーゴがフォローする横でアランが俺に疑惑の目を向ける。

 

「まさかお前、それを期待してこの転移魔法に割り込んできたのか?」

 

 女性陣が「ひっ」と腕で体を隠すようにして俺を睨んだ。

 

「あ、あの、アンドレ殿」

 

 ジャンヌが遠慮がちにアンドレに問いかけた。

 

「本当のところ、どうなのですか? 実は私は転移魔法というものは初めてなので……」

 

 恥じらいながらも不安そうなジャンヌにアンドレは優しい微笑みを返す。

 

「心配はいらないよ。私は何度も経験しているけれど、レンが言うようなことは無かったし、他の転移魔法でもそんな話は聞いたことがないから」

「そうですか。疑うようなことを言って申し訳ありませんでした。ただ、万が一そのようなことが起こってはと心配で。その、は、裸は夫になる殿方にしか見せてはいけないし、殿方のものも見てはいけないと親から教わっていましたから……」

 

 ジャンヌは金色の長い睫毛を伏せて頬を赤く染めた。

 なるほど。この世界ではそういう貞操観念なのか。……あれ? 俺ってけっこう見られてないか? ルシールにスザンヌさん……は除いて、あとイザベルさんと黒姫とペネロペ。あ、ペネロペのは見ちゃってるな。え、どうしよう? 全員責任取らなきゃいけないのかな? 困るなぁ、もう……。

 

「ニヤニヤしてどんな妄想してるか知らないけれど、よそはよそ、うちはうちだから」

 

 耳元で黒姫の低い声がした。お前は俺の母ちゃんか。母ちゃんには逆らわない方がいいのでコクコクと素直に頷いておこう。

 

「さてさて、そろそろ王宮に参ろうかの」

 

 今の今までその存在を忘れていたアンブロシスさんがパンパンと手を叩いて促した。ていうか、爺さんがさっさと説明してくれてたらよかったんだよ。

 

「ブルトン殿の言うとおりだ。さぁ、全員魔法陣の中に入って」

 

 アンドレにいわれるままに動く。心なしかサフィールとジャンヌが俺から距離を置いているような気がする。その間にアランとヴィクトールが立ちふさがるようにして立った。ついでに黒姫も間に入ろうとして、

 

「マイは私の傍に」

 

 と、アンドレから優しく注意される始末。

 アンドレは黒姫の位置を確かめると、表情を引き締めて両手を魔法陣にかざす。

 

「我らを王宮に転移せしめよ」

 

 アンドレの言葉に続いてその手のひらに陽炎が揺らめき、魔法陣へと流れ込んでいく。すると魔法陣の線から白い光が浮かび出て、俺たちを包んでいった。体が光に溶けるように薄れていき、やがてすうっと地面の中に吸い込まれていく感じがした。なんていうか、肉体が魔素そのものに還元されて地下を凄いスピードで移動しているようだ。

 転移魔法って空間を繋げてるんじゃなくて、龍脈とかレイラインとかみたく地下で繋がってるのか。

 オッケー。じゃあ、魔素の地下道で王都にGo!

 




次回から王宮編になります。
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