勇者と聖女の召喚に巻き込まれただけの俺   作:ちゅうき

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第40話 急襲!

 クレメントさんとネイ団長、アンドレの話し合いで、次の日は合同で魔獣の討伐に当たることになった。

 まずは第9分団の騎士たちが先行して出ていった。たぶん偵察隊みたいなものだと思う。

 続いて本隊の出発。

 ユーゴ、黒姫、俺とクララ、クレメントさん、アンドレと護衛騎士4人に第13分団の騎士6人。そしてネイ団長以下第9分団の騎士5人。残りの第13分団の騎士10名とジルベールたちはここの守備に残していく。

 馬や馬車は使えないので徒歩だ。背中にやや反りの入った長方形の盾を背負った騎士たちがガチャガチャと列を作る。俺や黒姫も金属の補強が入った革の兜を装着して後に続いた。

 

 この町は川の両側にある低い山に挟まれた場所にあるらしく、まずは支流に沿って荒れた路面の道を山に向かって行く。

 やがて、道を外れて森の中へ入って道なき道を1列で進んでいった。

 とはいうものの、アマゾンの密林のようにうっそうと茂ってるわけでもなく、日本の山間部の森のように急斜面になってるわけでもない。木と木の間隔も結構あるし、下草も踏まれているので思ってたよりも歩くのに苦労しない。

 

 森の中は外よりも魔素が濃い感じだ。まぁ、魔力酔いになるほどじゃないけど。

 この魔力を感じ取る力もだんだん慣れてきて、意識しなければまるで魔力を感じていないほどに気にならなくなっていた。視覚でいうと背景みたいな感じかな。

 

「魔獣、出てくるかしら」

 

 ふいに、前を行く黒姫の警戒するような声が聞こえた。

 

「ここはわりと見通しが良いので急に襲われるようなことはないでしょう」

「もし魔獣が襲って来ても、聖女様には近づけさせませんのでご安心を」

 

 護衛として黒姫の前後を歩くサフィールとジャンヌが応える。

 

「実際、どう? 魔獣の魔力とか感じる?」

 

 と、黒姫が振り返って俺を見た。その言葉に意識を広げてみる。

 

「……なんかごった煮みたいに魔力があってよくわからん」

 

 森と言う濃い魔素の中にいろんな大きさの魔力があちこちに感じられる。それらの中のどれが魔獣なのか、それとも全部が魔獣なのか。まぁ、俺たち人間の魔力に比べたら微々たるもんだけど。

 

「何それ。役に立たないわねぇ」

 

 黒姫はため息を吐いて前を向いた。

 

 がっかりされちゃったか。

 役に立ちたいとは思ってるんだけど、やっぱり巻き込まれ召喚者じゃ勇者や聖女みたいにはいかないよなぁ。

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 小高い丘の頂上っぽい少し木がまばらになっている場所で小休憩になった。

 ネイ団長が無精ひげの顎を撫でながら難しい顔でクレメントさんたちと話をしている。

 

「散開している物見の隊からの報告によると、魔獣の姿が全く見えないらしい」

「それが問題なのか?」

「リギューどころかラッコル1匹見当たらねぇなんてどう考えてもおかしい」

 

 ネイ団長が顎を撫でる手を止めて森に目を向ける。

 

「昨日のことと言い、どうにも魔獣たちの様子が変だ。いったいどうなってやがる」

 

 その時、今まで感じたことのない魔力を感じた。

 俺たちが来たのとは反対側の丘の下の方。荒々しい魔力がこっちに向かってくる。

 それを伝える前に、その方向の森の中から出てきた騎士が、

 

「リギューです! こちらに近づいてきます!」

 

 と叫んだ。

 

「何頭だ?」

「1頭です!」

 

 この荒々しい魔力がリギューか。そんなに大きくはないな。そのまわりから感じる魔力の方がずっと大きい。こっちは騎士たちか。

 リギューの魔力はそれらを無視するようにどんどん迫ってくる。

 

「周りに気を配るように伝えろ! まだいるかもしれん!」

 

 ネイ団長に言われた騎士が踵を返したところにユーゴの声が響く。

 

「そいつ、こっちに追い込めますか?」

「勇者?」

「ユーゴ殿?」

 

 ネイ団長とクレメントさんが怪訝な顔でユーゴを見た。

 

「僕がやります。任せて」

 

 ユーゴが赤い鎧を鳴らしてゆっくりと前に出る。

 

「……ちっ。勇者様の言うとおりにしろ!」

 

 足を止めて振り返っていた騎士が再び走り出した。

 騎士の姿が森の中に消えても魔力は感じ取れる。

 その騎士の魔力がリギューに近づくと、周りの魔力が散らばってリギューの後方を囲むように動いた。リギューはまっすぐにこっちに近づいてくる。

 やがて、30m程先の森の中に大きな影が見えた。

 

「ユーゴ様!」

 

 先頭に立つユーゴの左右にアレンとヴィクトールが盾を持って構えた。その後ろを第13分団の騎士たちが固める。

 

「左右に注意しろ!」

 

 ネイ団長の指示で第9分団の4人は横に広がる。その後方に黒姫。彼女の周りを固めるようにアンドレたちが立つ。そして俺とクララ、副団長。殿(しんがり)に第13分団の騎士が2人。

 

 姿を現したリギューは大型のワンボックスカーくらいあった。まるでもののけのアニメだ。

 俺たちの姿を認めると立ち止まり、今にも突進しそうに身構えた。けど、なんか変な違和感がある。

 これ、夜会で感じたアレに似てるような……。

 

 その時、後方から凄いスピードでいくつもの魔力が近づいてきた。

 

「後ろ! 何か来る!」

 

 振り向きながら叫ぶと、驚いた殿の騎士たちがきょろきょろと周りを見回している。

 

「上だ!」

 

 木の間をすり抜けるように黒い影が襲い掛かってくる。

 でっかいカラスだ。それも何羽も。

 

「ベックノワか! 風魔法!」

 

 ネイ団長の声に応じるように、いくつかの魔法が発動するのを感じた。

 ベックノワとかいう白鳥ほどもあるカラスは俺には目もくれず、頭の上を滑るように飛び過ぎる。

 振り返ると、第9分団の騎士の突き出した手に陽炎がゆらめいて突風が吹き荒れた。

 ベックノワたちはその風にあおられて散り散りになった。けれど、すぐに体勢を立て直してまた突っ込んでくる。それをまた風魔法が吹き飛ばす。

 こういう空を飛ぶ魔獣には火矢とか炎槍みたいな魔法が効果的らしいんだけど、森の中での火魔法は厳禁なんだよな。確か。

 

「ちっ、やっかいなだな」

 

 ベックノワと風魔法の攻防を見ながらネイ団長がチラリと後方を見た。

 

「リュギューが!」

 

 誰かが叫ぶと同時にリギューが猛然と向かってきた。

 

「くっそ。ベックノワを押さえとけ!」

 

 ネイ団長が叫んで駆け出したけど、リュギューが意外と速い。まばらな木立を縫ってこっちに突っ込んでくる。

 

「ユーゴ様は我らの後ろに!」

 

 アレンとヴィクトールが盾をかまえてユーゴの前に出る。

 いや、あんなの止めれるのか? 自動車が突っ込んでくるんだぞ? 異世界に転生しちゃうぞ? 

 

「大丈夫。僕に任せて」

 

 ユーゴは落ち着いた声で言うと、おもむろに右手を前に出した。

 

「土よ、我が意のままに。ハードウオール!」

 

 詠唱とともにイノシシと間の土が盛り上がって背丈ほどの壁になる。

 

 ドガン

 

 激しい音と飛び散る土くれ。

 巨大なイノシシの衝撃に、さすがのユーゴの土魔法も砕け散った。

 が、ユーゴは慌てない。続けざまに土魔法を詠唱してリュギューの四方を土の壁で囲んだ。壁に囲まれてリュギューの姿は見えないが、ドシッドシッと壁にぶつかる音がする。けれど、今度の壁はビクともしない。

 そうか。最初の壁は勢いを殺すためだったんだな。壁に囲まれて助走ができなきゃ破壊力は激減だ。

 と、上空に魔力を感じた。

 

「ユーゴ! 上!」

 

 でかいカラスのベックノワが急降下してユーゴに襲い掛かった。

 その鋭いかぎ爪を身を捻って間一髪でかわすユーゴ。

 ユーゴをかすめたベックノワは大きな羽を羽ばたかせて上空へ舞い上がろうとする。

 

「逃がさない」

 

 ムッとした顔のユーゴがベックノワめがけて剣を投げつけた。

 

「はっ。そんなもんが届く──えっ」

 

 誰かの馬鹿にしたようなセリフが終わらないうちに、一直線に飛んでいった剣がベックノワの胴体を貫いた。

 

「次っ」

 

 剣はそのまま滑るように飛んでいく。

 

「剣が……飛んでいる?」

 

 驚愕の呟きを置き去りにして、ユーゴの剣は黒姫たちに襲い掛かろうとしていたベックノワの羽を切り裂いた。地面に落ちてのたうつベックノワにアンドレが止めの一刺しを入れる。

 それを尻目に、ユーゴが操る剣は次の獲物を求めて木立の中を縫うように舞う。

 しかし、ベックノワだって空は自分のフィールドだ。迫る剣をひらりとかわす。が、次の瞬間、別の剣がその首を切り飛ばした。学院で見せた二刀流か! 

 

 風魔法の突風が吹く中を、2本の剣が自由自在に巨大なカラスを屠っていく。

 風に乗って流れてくる血の匂いや生臭い何かの匂いが鼻をつく。

 その時、またしても後ろから近づく魔力を感じた。

 やばい! 匂いに気を取られて気づくのが遅れた。

 

「後ろ! リギューだ!」

 

 さっきのより一回り小さいリギューが後方から突進してくる。殿にいた騎士たちは対応できずに撥ね飛ばされた。

 

「レン様!」

 

 クララが俺をかばうように前に立った。そしてバッとしゃがんで地面に右手をつく。

 

「爆ぜよ!」

 

 叫ぶような詠唱とともに強い魔力がリギューめがけて地を走った。

 

 バンッ

 

 リギューの足元の地面が弾ける。

 土ごと弾き飛ばされたリギューの体が浮いて、どぉっと地面に転がった。

 

「まかせろっ!」

 

 副団長が巨体に似合わぬスピードで駆けだして、あっという間に横倒しになったリギューの胸に剣を突き刺していた。

 その間にもユーゴの剣に屠られたベックノワが落ちてきて、近くにいた騎士に止めをさされている。

 

 仲間が半分ほどに減った頃、ようやくベックノワたちはグワーグワーと鳴きながら森の奥へと飛び去っていった。

 それを見送りつつ、ユーゴは手元に戻した剣をびゅっと振ってベックノワの血を払い落とす。あたりには緑の中に黒いものと赤いものが点々と散らばっていた。

 

「さてと」

 

 ユーゴはリギューを閉じ込めた壁に向かって右手をかざした。

 

「土よ、我が意のままに。デスプレス!」

 

 ユーゴの手から流れだした魔力は4面の土の壁を包み込んで急速に圧縮しだした。

 壁は見る間に4方から狭まり、リギューの断末魔の鳴き声が響き渡る。

 やがてぐちゃっというイヤな音と共にその悲鳴も聞こえなくなった。

 

 え、えげつなー。

 

 ドン引きする俺とは裏腹に、騎士たちからは歓声が上がった。

 

「うおぉぉぉ!」

「あの大きさのリギューを抹殺したぞ!」

「それよりも見たか、剣が宙を飛んでた!」

「あの詠唱の最後の呪文、痺れるぜ!」

 

 うん、まぁ、技名を叫ぶのはロマンだからな。ネーミングのセンスはともかくとして。

 

「お前ら、騒いでないでさっさと魔石取っとけよ」

 

 ネイ団長の声が響いて、騒いでいた騎士たちがわらわらと動き出した。

 

「えっ、魔石取るんですか?」

 

 思わず側にいた副団長に聞いた。魔獣の魔石は穢れているとかでデュロワールでは使わないって話だったはず。現に第13分団の騎士たちは怪訝な顔で見ている。

 

「ああ。なんでも魔獣の魔石を研究している物好きがいるらしくてなぁ。高く買い取ってくれるからいい小遣い稼ぎになるんだ」

 

 あ、その物好きな人知ってる。

 

「それよりも、嬢ちゃん。あんた凄いな」

 

 副団長はクララに顔を向けた。

 

「突進するリギューを一発で吹っ飛ばしやがった。けど、あの詠唱は……」

 

 副団長が言いかけると、一瞬クララが身を硬くした。

 

「うん、クララのおかげで助かったよ。さすが、筆頭魔法士のアンブロシスさんが金魔法と土魔法なら自分より使い手だって手放しで褒めるだけのことはあるね」

 

 アンブロシスさんの名前を聞いて、副団長がほぉっと唸る。

 

「いいえ。レン様がいち早く気づいて教えてくださったからです。レン様のおかげです」

「そうだ。あんた、よくベックノワが近づいてたのわかったな。俺も一応警戒はしていたんだが、あいつらは羽音を消して飛んでくるからな」

「あ、俺は音とかじゃなくて魔力でわかったんです」

「は? 魔力ぅ?」

 

 副団長が胡散臭そうに俺を睨む。

 

「レン様は周囲の魔力を感じることができるのです。レン様だけの特別な力です」

 

 横からクララが自慢げに説明してくれた。

 

「まぁ、わかるって言っても大体の大きさとか位置とかぐらいなんですけど」

「大体だろうとなんだろうと、それが本当ならすげぇことだぞ」

 

 近寄ってきたネイ団長が俺の肩をバシバシと叩いて言った。

 

「特にこんな見通しの効かない森の中じゃ役に立つこと請け合いだ。どうだ、うちの団に入らねぇか?」

「むさくるしいのはイヤなので、丁重にお断りさせていただきます」

「むさくるしいは余計だ」

「でも、これだけは言わせてください」

「お、なんだ? 言ってみろ」

「あの、なんか囲まれちゃってます。俺ら」

「は?」

 

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