勇者と聖女の召喚に巻き込まれただけの俺   作:ちゅうき

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第43話 忠告

 翌朝、俺たちを含む第13分団組はサルルルーイの砦に戻ることになった。魔獣討伐やユーゴの魔法の試行という目的が果たせたというのが理由だが、ユーゴの不調があるのは否めなかった。

 一方で、第9分団はその後の森の調査のために拠点に残るのだそうだ。

 

 さて、昼すぎに砦に戻った俺は、3人で打ち上げをしようと提案した。

 打ち上げ。それは、一つの行事が終わった後に催される慰労を目的とした日本では欠かすことのできない神聖な儀式だ。

 ということで、宿舎の上級貴族用の食堂を貸し切り、料理の配膳が終わった後はクララやフローレンスたちにも退出を命じ、日本人3人だけにしてもらった。もちろん『言葉の魔法石』は外している。

 

「ユーゴ、お疲れー。大活躍だったんだからそんな辛気臭い顔するなよ」

 

乾杯の後さっそくユーゴに声をかける。

 元気のないユーゴを励ますというのがこの打ち上げの趣旨だからな。

 

「どうせ勇者らしくないみっともない姿を晒しちゃったとか自己嫌悪してるんでしょ?」

「黒姫さんは辛辣だなぁ」

 

 眉を下げたユーゴがたははと力なく笑った。

 

「でもまぁ、そんなとこ。まさか自分の魔力が切れるなんて思わなかったから」

「気にするなって。みんなやるってクレメントさんも言ってたじゃんか」

 

 それでもユーゴは納得いかなそうな顔だ。

 が、それも数秒のこと。気を取り直すように俺に顔を向けて、

 

「僕のことはいいからさ、早く本題に入ってよ、レン」

 

 と、催促してきた。

見抜かれてたか。さすが勇者。

 

「わざわざ『打ち上げは神聖な儀式だから部外者は外してくれないか』なんて言って。私たちに言いたいことあるんでしょ?」

 

 黒姫にもバレてた。あと、声真似はやめろ。意外に似ててイヤだ。

 

「えっと、二人に報告と相談があります」

 

 と、改めて二人に向き合う。

 

「前に王宮で夜会があった時にクラリス姫が憑依魔法にかかったことがあったの覚えてるか?」

「ええ。覚えてるわよ」

「実は先日その犯人と会いました」

「うそっ! どこで?」

「ここで。あ、正確には宿舎の俺の部屋にまた憑依魔法を使って来たんだけど」

 

 すると、黒姫が胡散臭そうな眼で俺を見た。

 

「憑依魔法なのにどうして犯人だってわかるの?」

 

 ごもっとも。

 そこで俺はこれまでの経緯を打ち明けた。

 

 夜会の事件で使われた魔獣の魔石に触れた時、ルシールとよく似た魔力を感じたこと。

 それをルシールに伝えると、自分にゾーイという姉がいて、1年前にロッシュからいなくなったこと。

 そのゾーイが一昨日憑依魔法を使って接触してきたこと。

 ゾーイが本当の継子だということ。

 継子の目的は前回の聖女の遺志を継ぎ叶えるということ。そのためにロッシュから行方を眩ませたこと。

 その遺志が何かはわからないこと。

夜会でクラリス姫に憑依魔法をかけたことは本人が認めていることと、昨日は使役魔法で魔獣を操っていた可能性があること。

 

「どうしてそんな大事なこと黙ってるかなぁ」

「いや、ルシールに口止めされてたし、それになかなか相談できる機会が無かったから。いやほんと悪い」

 

 眼を薄くするユーゴに言い訳しつつ平謝りする。

 

「だいたい、いつの間にルシールとそんな話してたのよ!」

 

 ルシール大好きの黒姫もおかんむりだ。

 

「夜会の事件の後、シュテフィさんと一緒に王宮に来てた時。いや、だって二人ともお茶会だレッスンだって忙しそうにしてたし」

 

 黒姫はフンっと鼻を鳴らして、

 

「それで、何を相談したいの?」

 

 と、若干突き放すように聞いてきた。

 

「それなんだけど、サクラさんの遺志っていうのが気になって」

「なんでそんなことが気になるわけ?」

「ゾーイさんが家出をした原因だし」

「そんなにそのゾーイとかいう人のことが気になるの?」

 

 なんか黒姫の声に棘がある。まぁ、憑依魔法の犯人だしなぁ。でも、

 

「いや、別にゾーイさんはどうでもいいんだけど、ルシールが心配してたから。なんでお姉さんは黙っていなくなったんだろうって。黒姫だってルシールが悩んでるのなんとかしてやりたいって思うだろ?」

 

 百合友のルシールのことを出せば黒姫も真面目に考えてくれるはず。

 案の定、黒姫はふーっとため息を吐いてから、腕を組んで考える仕草をした。

 

「ナエバサクラの願いって言うのなら、やっぱり王権を倒すことじゃないの? あのメッセージにあったように」

「俺もそうじゃないかって思って一番に聞いたんだけど、違うって。よくそんな大それたこと考えるわねって」

「本当に?」

「うーん。まぁ、お父さんが王様の弟だし……。あ、知ってた? ルシールのお父さんて王様の弟なんだって」

「知ってるわよ」

 

 大スクープのつもりが、なにを今更と返されてしまった。ていうか、クララのことも知らなかったし、俺の情弱が酷い。

 

「えーと、だからね、いくら聖女の遺志だからって、自分の親族をどうこうしようとかしないと思うんだよね」

「でも、ナエバサクラは王族を恨んでたんでしょ?」

「うん。でも、あのメッセージもちょっと気になってるところあるんだよな」

「何?」

「あのメッセージにあったのって要は思ってたのと違ったっていう愚痴と、それを恨んで王権を倒すように画策したから手伝ってってことだろ? どうせ残すなら、ドラゴンと戦う方法だとか弱点だとかにしてくれればよかったのに。なんかドラゴンのこととかどうでもよさそうで」

 

 まるで俺たちがこの世界に残ることを前提にしているみたいだった。

 

「そういえばそうね」

「まぁ、それは今は置いといて、王権の打倒が目的じゃないなら何だって考えて、勇者とドラゴンを戦わせないようにしたいのかとも考えたんだけど」

「ああ、クラリス姫がそう言ってたものね」

「でも、それならわざわざ憑依魔法なんて使わなくてもいいじゃん? 直接言えばいいじゃん」

「照れ屋だったとか?」

「……なるほど」

 

 その考えは無かったわ。

でも、あの人に照れ屋の印象はないな。

 

「僕が死んでもドラゴンと戦えないよ」

 

 それまで黙って俺と黒姫のやり取りを聞いていたユーゴがいきなり物騒な説をぶっこんできた。

 

「そのゾーイって人、昨日の魔獣を操ってたんでしょ? あれ、僕を狙ってたそうじゃない。召喚された勇者を殺してドラゴンと戦わせない。それが聖女の遺志なんじゃないの?」

 

 なるほど。それならロッシュからいなくなった理由も想像がつく。

デュロワールでは教えてもらえない使役魔法をどこかで習得するためだ。たぶんゴール王国。そして、魔獣を使役して勇者を亡き者にする……。ん? そうか? なんか回りくどいような……。そもそも、ドラゴンと戦わせたくない理由はなんだ?

 

「でも、返り討ちにしちゃったけどね」

「あんな凄い魔法、想定外だったんじゃないかしら。巻き込まれて死んじゃってたりして」

 

 黒姫が綺麗な顔で残酷なことを言ってるが、

 

「残念。生きてるよ」

 

 俺は食堂の扉を見つめて断言した。

 その扉がノックも無く開かれ、黒い靄を纏った三つ編みのメイドが入ってくるなり何事かを言い募る。あ、『言葉の魔法石』外してたっけ。

 テーブルの上に置いてあったそれを急いで額につけた。

 

「――たバカなの? この子、魔石つけたままじゃない! なんか罠かと勘ぐって余計な気を遣ったわよ!」

 

 ご本人の登場だ。

 

「えー、みなさんにご紹介します。ルシールのお姉さんで真の継子のゾーイさんです。正確には、アナベルに憑依してるゾーイさんです」

「まぁ、おかげで楽に――、え? あ、初めまして。只今ご紹介に与りましたゾーイ・サクラです。家名は捨てました」

 

 ゾーイが憑依した書記ちゃんが恭しくお仕着せのスカートの裾をつまむ。

 

「って、そうじゃないわよ。レン! この子魔石を着けたままにしているじゃない」

「あ、すっかり忘れてた」

「魔獣の魔石ってあまり長いこと身に着けていると良くないの、知らないの?」

「知らんがな! 初耳だわ!」

「はぁ~。役に立たない男ねぇ」

「高妻くんが役立たずってことには同意するけれど、なんか馴れ馴れしくない?」

 

 さらりと俺をディスった黒姫が半眼で睨む。

 

「ふん。嫉妬なんてしなくても、こんな変な奴に懸想したりしないわよ」

「ちょ、そんなわけないでしょ! 嫉妬とか! 白馬くんの命を狙ってるくせに馴れ馴れしいって言ってるのよ!」

 

 黒姫が顔を真っ赤にして怒った。怒られたゾーイはしらっとした眼をユーゴに向ける。

 

「勇者の命を狙っている?」

「そうよ。魔獣を操って白馬くんを殺そうとしたんでしょう?」

 

 ゾーイはチラリと俺を見て「それもわかっちゃったのね」と苦笑した。

 

「でも、勇者を殺そうなんてしてないわ」

「嘘」

「なぜ私がそんな野蛮なことをする必要があるの?」

「ドラゴンと戦わせないためによ。クラリス姫に言わせていたじゃない。ドラゴンは聖獣だから戦わないでって」

「その通りよ。だからと言って勇者を殺そうとまでは思わないわ。私、荒事は嫌いなのよ」

「魔獣を使って私たちを襲っておいてよく言うわ」

「あー、それね。ちょっとした腕試しよ。加減がわからなくて怪我をさせちゃったけれど、大怪我や死人は出していないはずよ。それにちゃんとレンは襲わないようにしてあげたわ」

 

 そういえば、カラスは俺をスルーしてたし、リギューも突っ込んでは来たけどコースは微妙にはずれていたように思う。

 

「あの魔獣、全部ゾーイさんが使役してたんですか?」

「まあね」

「マジか。凄いな」

「それって凄いの?」

 

 ユーゴが興味深そうに聞いてきた。

 

「ヴァレンティンさんが、あれだけの数の魔獣を使役するには分団規模の魔法士が必要だって言ってたから」

「へぇー」

「私には聖女のサクラお婆様と勇者の子孫の王族の血が流れているのよ。そのくらい余裕よ」

 

 ゾーイがお仕着せの上からでもそれとわかるほどボリュームのある胸を張った。あ、体は書記ちゃんのものだけど。

 

「そんなことよりも、勇者!」

 

ゾーイがズビシとユーゴに向かって指を突きつけた。

 

「何? あの無茶苦茶な旋風の魔法は! せっかく使役した魔獣はみんな死んじゃうし、私だって危うく天に召されるところだったわ」

 

 うん、あの竜巻に巻き込まれたら物理で天に召されるね!

 

「あれが前の勇者が使ったと伝え聞いていた大旋風っていうやつ?」

「タニガワカツトシの大旋風がどんなものかは知らないけど、僕のはデストロイトルネードだよ」

「で、ですとろいと、るねーど? ま、まぁ、何でもいいわ。どうせあんなものド、ドラゴンには効かないんだからねっ」

 

 めっちゃ動揺してる。よっぽど酷い目に遭ったんだなぁ。

 

「あの、ちょっと質問していいですか?」

 

 と手を挙げると、ムッとした顔で見られた。

 

「何? まだ文句を言い足りないのだけれど」

「すみません。あの、ドラゴンが聖獣だって言われてるのって、どうしてですか? ゴールの古い信仰だって聞きましたけど、町や畑を壊しまくるんですよね? ドラゴンて」

 

 俺が調べた資料では、人間にはどうすることもできない厄災みたいな扱いだったと思う。

 ゾーイは、大きく息を吐いてから、「ゴールの古い言い伝えにこういう話があるの」と、少し離れた席に腰を下して語り始めた。

 

「ずっと昔、ガロワの地がケールという一つの大きな国だった頃、何年も小麦の不作が続いて人々が飢えに苦しんでいることに心を痛めた一人の姫が、ドラゴンに純潔の乙女を捧げれば願いを叶えてくれると知り、苦難の果てにドラゴンの住む高い山にたどり着いて、自らをドラゴンに捧げてケールに豊かな実りをもたらしてくれるようにお願いしたの。ドラゴンは姫の献身を讃え、ケールの空を飛び回って豊穣の雨を降らせて姫の願いを叶えると、姫を妻に迎え末永く幸せに暮らしたそうよ。そして、姫が天寿を全うした後も、姫を偲び、姫と暮らした年月ごとにケールに豊穣の雨を降らせるために現われるのだと言われているわ」

 

 そう語りつつ、彼女はワインを手に取って手酌でグラスに注ぎコクリと一口飲んだ。

 

「だからね、ゴールではドラゴンを豊穣をもたらす聖獣として崇めているのよ」

「でも、ドラゴンのせいで人や建物に被害が出てるのでしょう? それを防ぐために私たちが召喚されたわけだし」

「豊穣の雨による被害なら甘んじて受けるべきよ。それに、どう? 勇者を召喚してドラゴンを拒んだデュロワールは豊穣の雨の恩恵を受けられずに小麦が取れなくなっているじゃない」

 

 なるほど。

 伝承や民話にはたいてい元になった出来事が実際にあったりするし、彼女の語った昔ばなしもドラゴンが定期的に出現して雨風をもたらすことの理由を説明するものなのだろう。あるいは、それがお姫様の献身のおかげだというケールの支配者のプロパガンダかもしれないけど。

その豊穣の雨のほうは、ナイル川やインダス川が氾濫することによって肥沃な土壌をもたらすようなものか。だから、被害はしかたないと。

それに、因果関係は別にしてもデュロワールの農産物の収穫量が減っていることは事実っぽいし。

 ということは、

 

「つまり、サクラさんの遺志って勇者にドラゴンの邪魔をさせずにデュロワールにも豊穣の雨を降らせて農産物の不作を改善させることなんだ!」

 

 真実は一つ! みたいなノリできめたつもりだったのに、彼女の反応は薄い。むしろ眉を寄せて俺を見ているまである。あれ?

 

「……そ、そうね。もしかしたらサクラお婆様はそこまでお考えになっていたのかもしれないわね」

 

 あげく、同情的に同意される始末。

 

「ところで」

 

 と、黒姫の怒ったような声が割って入った。

 

「話を戻すけど、白馬くんを狙って来たのじゃなかったら、あなたはいったい何が目的でここへ来たの?」

「……そうだった。レンのせいですっかり話がそれてしまったじゃない」

「俺のせいか?」

 

彼女はコホンとわざとらしい咳ばらいをして、

 

「レンに忠告しようと思って来たのだけれど、3人ともそろっているなら丁度いいわ」

 

 と、真剣な面持ちになった。

 

「あなたたち日本に帰るのが目標らしいわね?」

「そうよ。絶対に帰るわ」

「残念だけれど、それは今のうちに諦めなさい」

 

 …………。

 

 部屋に静寂が訪れた。

 

「ニホンに帰るのは諦めなさい」

 

 大事なことなので2度言われた。

 

「そ、それって……実は、送還魔法なんて無い、てこと?」

 

 無茶苦茶イヤな可能性だけど。

 

「は? あるわよ」

 

 彼女はあっさり否定した。

 

「送還魔法なんて召喚魔法を逆向きに発動させるだけだもの。術式どおりなら、あなたたちは召喚された時と同じ場所に送還されるはずよ」

 

 マジかよ。よかったぁ。いや、授業中に送還されるのは勘弁して欲しい。露出狂の不審者決定だし、何より黒姫が恥ずかしい思いをすることになる。

 

「じゃあ、どういうことよ!」

 

 俺と同じ想像をしたのだろう。黒姫がきつい口調で問い詰めた。

その黒姫に、ゾーイさんは憐れむような眼差しを向ける。

 

「……この世界も悪くないわよ。そうね、レンを伴侶にして暮らすのはどう? お似合いだと思うけれど」

 

……また何言い出すんだ、このお姉さんは。

黒姫も顔を真っ赤にして「たっ、たっ」と怒りで言葉が出てこないほどだぞ。

 

「お、お断りよ!」

 

 ですよね。

 

「……絶対日本に帰るんだから」

 

 黒姫が付け足すように呟く。

 

「そう? まぁ、相手は誰でもいいのよ。王族はお薦めしないけれどね。それと、レン。妹はダメだからね。絶対にダメだからね!」

 

 妙に念押しされたが、フラグでしょうか?

 

「いい? 忠告はしたわよ」

 

 そう告げるなり、書記ちゃんを覆っていた霞がふうっと消えて無くなった。途端に、書記ちゃんがテーブルに突っ伏した。

 

「ベル!」

 

 黒姫が椅子を蹴って立ち上がり、アナベルに駆け寄る。

 

「高妻くん、ゾーイは?」

「もう行っちゃったみたい」

「あの女、言いたいことだけ言って……。ベル、ベル、しっかりして!」

 

 黒姫に肩を揺すられた書記ちゃんが、「あれ、マイ様? はっ、なぜ私はここに?」と、お約束のようなリアクションを見せる。

 その後は、打ち上げを続けるわけにもいかず、ユーゴの元気回復も俺の相談も中途半端なままにお開きとなった。

 

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