勇者と聖女の召喚に巻き込まれただけの俺   作:ちゅうき

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初の感想をいただきました!
ありがとうございます。


第5話 ペネロペ

 そんなこんなで食事も大方終わり、

 

「いろいろあって疲れたことでしょう。今夜はゆっくり休んでください」

 

 と労われ、これで解散となった。

 

 階段を上っている途中でふと思いついた。

 

「クレメントさん。ちょっと俺たち三人だけで話し合いたいんですけど、いいですか?」

 

 白馬と黒姫にも顔を向けると、二人とも頷いていた。同じことを考えていたみたいだ。

 

「それなら談話室を使うといいでしょう」

 

 クレメントさんは、食事をした部屋のちょうど上にあたると思われる部屋の扉を開けて灯りをつけてくれた。部屋にはさっきと同じようなテーブルと椅子があった。

 

「ここが談話室です。食堂も兼ねていますから、明日からこちらで食事を取っていただくことになります」

 

 一通り説明して、「では、私どもは外で待っておりますので」とクレメントさんが扉を閉める。

 部屋の扉が閉まるやいなや、黒姫は糸が切れた人形のようにへたっと椅子に座りこんだ。

 

「……どうしてこんなことになっちゃったの」

 

 ぽつりと零す。

 

「きっと、お母さんもお父さんも心配してる」

 

 声がかすれていた。無理もない。

 俺はもともとこういうファンタジーが好きだったからそれなりに耐性っていうか知識があったからいいけど、黒姫は普通の女の子だ。いきなり召喚されて、次から次へと訳の分からないことが続いて、その対応にずっと気を張っていたのだろう。むしろ黒姫だからここまで頑張れたと言っていい。パニックになって泣きわめいてもおかしくなかった。

 

「ほんと、何? 魔法? ドラゴン? どこなの、ここ……」

「たぶんだけど、異世界っていうやつじゃないかと思う」

「異世界?」

 

 黒姫の独り言のような呟きに俺が答えると、「はぁ?」という顔で見返された。

 

「宇宙のどっかにある星とか、神様が作った違う世界とか、ゲームの中とか、まぁいろいろあるけど、とにかく俺たちの住んでた世界とは違う世界ってこと」

 

 黒姫がじっと俺を見つめる。黒姫の眼って切れ長で瞳が大きいんだなぁ。なんてどうでもいい感想を持っていると、彼女の視線が恨みがましいものに変わった。

 

「……高妻くんはどうしてそんな冷静でいられるの?」

「は? いやまぁ、俺だって冷静ってわけでもないよ。ちょっと顔に出にくいだけで」

 

 ここで調子に乗って異世界ファンタジーの蘊蓄を事細かに語っても「オタク、キモっ」って言われるに違いない。

 

「ま、まぁ、ここがどこかってことはおいおい調べるとして、これからのこと考えないか?」

 

 うまく話題を変えると、黒姫は俺から視線を外して「ほんよ、どうしよう」と深く息を吐いた。

 

「これからのことって?」

 

 白馬も話に乗ってくれる。

 

「うん。まずは最終的にこうしたいっていう目標を決めないか?」

「……私は日本に、元の世界に帰りたい。帰ってお母さんとお父さんに会いたい。みんなにも会いたい」

「僕も絶対帰りたい」

「俺もだ」

 

 チートで無双できないんじゃ、ここにいてもしかたないもんな。

 

「けど、帰るにはあの爺さんたちの協力がいる。俺たちだけじゃ送還術式とかできないだろ?」

「それなんだけど、信じられるの? あの人たちが言ってたこと」

「あの爺さんは嘘は言ってないと思う。ポルトとかいうのは胡散臭い感じだったけど」

「どうして嘘は言ってないって言えるの?」

「嘘は言ってないていうか、知りたいことはちゃんと教えてくれてるだろ」

「それって逆に言えば、聞かれないことは言わないでいいってことでしょ?」

 

 黒姫はあくまでも慎重だ。

 そこへ、白馬のフォローが入る。

 

「んー、でもさ、今のところは嘘はつかれていないってだけでもいいんじゃない。信用するとかじゃなくても、好意的だとは思うから」

「だよな。だから、今は彼らの言うとおりに行動しておこうと思うんだ」

「でもそれって、ドラゴンと戦うってことでしょう? 大丈夫?」

 

 黒姫が心配そうに聞いてきた。

 

「それはまぁほら、白馬の役目だから」

「ええーっ。やっぱり高妻くんに譲るよ、勇者」

 

 白馬が焦った顔で俺に両手を押し付けてくる。

 

「冗談冗談。俺たちにできることがあれば協力するから」

「なんか帰りたいのを盾に取られてるみたいで癪だし、一方的に理不尽を押し付けられてるだけだけど、それに腹を立ててここを飛び出したからといって帰る方法が見つかる保証もないものね」

 

 黒姫があごを指で支えるポーズで呟く。

 

「やっぱりもっといろんな情報が必要だわ。何か別のいい方法が見つかるかもしれないし。それまでは高妻くんの言うとおり、彼らに従ってるふりをしていればいいわね」

 

 お、おう。黒姫がなんか腹黒くなってる。

 まぁ、とにかく、

 

「よしっ。俺たち3人、絶対日本に帰るぞ!」

「うん!」

「たぶんこれからいろいろ大変なことも多いと思うけど、目標があると頑張ろうって思えるからいいわね」

「だろ?」

 

 黒姫も元気が出たみたいだな。すごくいい笑顔を俺に向ける。

 

「まぁ、高妻くんはなーんにもしなくていいみたいだけど」

 

 ……ですよね。

 

 

 

 3人での話し合いを終えて、部屋の外で待っていてくれたクレメントさんたちに微力ながら協力する旨を伝えた。黒姫が。だって俺役立たずですし。

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 クレメントさんは本当に嬉しそうな顔で礼を執った。ちょっと心が痛い。

 

 

 

 その後、俺たちは割り当てられた部屋に向かった。

 俺の部屋は談話室の並びで一部屋置いた奥の客間。白馬たちとは反対側の棟だ。

 植物をデザインしたような装飾が彫られている木製の扉を開けると、もうランプは点いていて、明るすぎず暗すぎず、程よく部屋を照らしている。

 部屋は思っていたよりもいい感じで、正直天蓋付きベッド以外、勇者の部屋とあまり変わらないように見えた。むしろ天蓋付きでなくて良かったぐらいだ。

 

 それはいいけど、パジャマあるのかな? と思ってたら、コンコンコンとノックが聞こえた。

 誰だろ? 白馬か? 

 

 「どうぞ」と応えると、「失礼します」と入ってきたのはメイドさんだった。たぶん夕食の時にいた中の一人だと思う。

 

「レン様の身の回りのお世話をさせていただきます。ペネロペです。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 美少女とまではいかないけど、青味のある灰色の毛は内側にくるんとカールしていて、愛嬌のある丸顔が親しみやすい印象だ。イメージアニマルはコアラ。うっかりじゃないといいけど。

 

「うん。こちらこそよろしくお願いします」

 

 頭を下げるとものすごく慌てて恐縮されてしまった。

 

「さっそくで悪いんですけど、パジャマってありますか?」

「あ、あの、恐れ入りますが、わたしは平民で小間使いですので、そのように丁寧な言葉を使われると、その……」

 

 あ、そうなんだ。うーん、タメみたいに喋ればいいのかなぁ。

 

「えっと、じゃあ、パジャマある?」

「申し訳ありません。『ぱじゃま』とはどのようなものでしょう?」

「え? ええと、寝間着って言うのかな?」

「あ、寝間着ですね。はい、こちらにご用意してあります」

 

 ペネロペはチェストに歩み寄って、その中から白い服を手に取った。ゆったりとしたただのワンピースだ。俺、男なんだけど。

 

「あ、その前に風呂に入りたいかな」

「でしたらこちらです」

 

 勇者の部屋と同じように風呂があった。トイレは共同で風呂だけ部屋ごとにあるってどうよ? いいけど。

 竈の火は消えていたけど、すでにお湯は沸いているようだった。

 ペネロペは踏み台の上に乗って手桶で寸胴鍋からバスタブにお湯を移している。

 

「魔法使わないんだ」

 

 宰相の人がやってたみたいに魔法でお湯を移すのかと思った。

 

「え? あ、も、申し訳ございません。私は平民ですのでご容赦ください」

 

 ペネロペが萎縮しまくって謝ってきた。

 

「あ、ごめん。責めてるわけじゃないんだよ。ていうか、俺も手伝うよ」

 

 女の子に力仕事をさせるとか罪悪感が半端ないと思って申し出ると、

 

「め、めっそうもございません。これは私の仕事ですから」

 

 と、また委縮させてしまった。

 うーん。やりずらいなぁ。

 

 ほどなくいい感じにお湯が溜まると、ペネロペは収納棚からクリーム色の四角い塊と液体の入ったガラスビンを二つ持ってきて、バスタブについている小さなテーブルに置いた。そのテーブルには前もって少し緑がかった青色の石も置いてあった。お湯を薄めるための『水の魔法石』だろうか。

 

「こちらが石鹸で、こちらがシャンプー、こちらがリンスです」

「ありがとう」

「こちらに体を拭く布と寝間着を置いておきます」

 

 ペネロペはタオル代わりの布と寝間着の入ったバスケットを置いて「失礼します」とバスルームを出ていった。

 んー。前に貴族が風呂に入る時は使用人に着替えさせてもらったり体を洗ったりしてもらうっていう話を読んだことがあったけど、さすがにそれはないか。俺、貴族じゃないし。

 

「すみません! シャンプーと……きゃぁっ!」

 

 ちょうどズボンを脱いでロングTシャツを捲り上げたタイミングで、扉が開く音とペネロペの悲鳴が聞こえた。

 

「すすすす、すみません。私、シャンプーとリンスの使い方説明するのを忘れちゃって」

 

 Tシャツの布地越しに、動揺しながら言い訳をするペネロペの声が聞こえる。

 

「そ、それで、その、シャンプーですけど、髪の毛を洗う時に使うもので、ええと……」

「知ってるから、シャンプーぐらい」

 

 言いながらTシャツの裾を下すと、両手で顔を覆っているペネロペがいた。

 

「さ、左様でしたか。し、失礼いたしました!」

 

 言うなり彼女はだだっとバスルームから出ていった。

 ふぅ……。また、見られてしまったのか。なんだこの、逆ラッキースケベは。

 にしても、何、シャンプーの使い方の説明って? 逆に『水の魔法石』の説明は無いし。

 

 疑問に思いつつ使ったシャンプーはいい匂いがした。リンスもいい匂いだったけど、これはなんかいつも使ってるのと違う感じがするな。固形の石鹸はあまり使ったことなかったけど、これもいい匂いがして泡立ちも良かった。

 試しに『水の魔法石』を触ってみたけど、特に反応はしてくれなかった。

 

 ちょっと温くなったお湯で泡を流して、バスタブを出る。体を拭いて用意してあった寝間着を着た。シャツもパンツも無しで、このワンピースみたいな服だけっていうのはちょっと恥ずかしいものがある。なんていうか、こう、フリーダム! (以下略

 

 バスルームを出ると、目線をそらしたペネロペが赤い顔のままで待っていた。

 

「その、申し訳ありませんでした。異国からのお客様と聞いておりましたので、シャンプーやリンスをご存じないかと思いまして。たいへん失礼いたしました」

「あ、うん、大丈夫。今更見られても減るもんじゃないし」

「みみみ、見てません。私、見てませんから」

 

 そうかなぁ。指の隙間からこげ茶の瞳がしっかり覗いてたけどなぁ。

 

「ていうか、シャンプーとかリンスって珍しいものなの?」

「は、はい。いえ、デュロワールでは珍しくないですけど、異国のほうではまだ使われていないと聞いております」

「そうなんだ」

 

 異世界の生活水準ってどうなってるんだろう。まぁ、トイレがアレだしなぁ。

 

「レン様はご存知だったんですね。本当にすみません」

「気にしなくていいよ。あ、じゃあ、俺もう寝るから」

「は、はいっ」

 

 ペネロペはビクっと体を震わせた。そしてその場に留まったまま口を開きかけては閉じるを繰り返している。すごく挙動不審だ。

 

「どうしたの?」

「あ、あのっ……、お、お望みでしたら、その、よ、夜のお世話もいたします、が……」

 

 なんとなく彼女から緊張感と恐怖感、それに羞恥心が伝わってくる。それでわかった。『夜のお世話』ってそういうことか。

 ま、まぁ、俺も精子溢れる、もとい精気溢れる思春期男子。チャンスがあるなら童貞を卒業することも吝かじゃない。でも、彼女から伝わってくるネガティブな感情が俺にストップをかけている。

 きっと彼女は誰かに強制されてこんなセリフを言ってるんだ。彼女の葛藤が痛いほど伝わってくる。

 そりゃそうだよな。初めての相手が会ったばかりの怪しい男なんてイヤだろう。それに、男子だって初めては好きな子とって願望があるんだよ。

 

「あー。今日はなんかいろいろあってすっごく疲れてるから、ベッドに入ったらすぐに寝ちゃうかもしれないなー。うん、すぐに寝ちゃうからお世話はなくても大丈夫だと思うんだ」

 

 言うと、彼女の感情が解れていった。強張っていた肩の力が抜けて、ほっと安堵の息を吐いている。

 

「あ、では灯りはどうされますか?」

 

 愛嬌のある笑顔に戻って聞いてきた。

 

「明るいと寝られないからいらない」

「かしこまりました」

 

 ペネロペは壁のランプに触って灯りを消していく。やがて、照明はベッドサイドの小さなランプだけになった。

 

「ありがとう」

「では、おやすみなさいませ」

「うん、おやすみ」

 

 ペネロペは両手をお腹の前で重ねてお辞儀をすると、静かに部屋を出ていった。

 と、思ったらばたんと扉が開いてペネロペが戻ってきた。そしてバスルームに直行すると、脱いだ服が入ったバスケットを抱えてきて、「失礼しましたー」と慌しく去っていった。

 うん、やっぱりうっかりペネロペだった。

 

 さて寝ますか。

 ふと、ベッドサイドのランプに視線を送る。

 そっとランプに手を触れてみた。

 

「……はぁ」

 

 俺は光り続けるランプを床に下ろしてシーツに潜り込んだ。

 

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