勇者と聖女の召喚に巻き込まれただけの俺   作:ちゅうき

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第48話 ナエバサクラの遺志

 急いで砦の宿舎に戻った。オットーさんにはずいぶん恨まれたけど、仕方ない。

 ちょうど夕食のタイミングだったから「打ち上げのやりなおしだ!」と無理やり3人にさせてもらった。

 

「何? 今度は」

 

 黒姫がめんどくさそうに聞いてくる。

 俺は気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸してから口を開いた。

 

「ゾーイさんはドラゴンを使役するつもりだ」

「え、いきなり何?」

 

 む。ちょっと端折りすぎたか。

 

「シュテフィさんからゾーイさんがロッシュにいた時のことを聞いたんだけど、彼女は使役魔法に興味があったみたいなんだ。それで、シュテフィさんにドラゴンは使役できるかって聞いたらしい」

「ドラゴンなんて使役できるの?」

「ドラゴンが魔獣の一種なら不可能とは言えないって」

「それ、できるってことじゃないわよね?」

「うん。今はできるできないは一旦置いといて、要は彼女がドラゴンを使役するつもりだってこと。そのために彼女はロッシュを出てデュロワール王国も出てゴール王国に行ったんだ。ゴールでは魔獣を操る使役魔法を使ってるから、それを習得するために」

「ちょっといきなりすぎて情報処理が追い付かないんだけど、とりあえずゾーイがドラゴンを使役できるってことでいいわ」

「オッケー。で、俺はこれがサクラさんの遺志なんじゃないかって思ってる」

「これが? ドラゴンを使って何かをさせるのが遺志じゃないの?」

「あ、もちろんそう。ドラゴンは手段だよ。ドラゴンを使う、使役する。だからドラゴンが現れる年までお祖母さん、お母さんと遺志を継いで来たんだ。そしてゾーイさんで終わる。彼女言ってたんだ。継子は自分で終わりって」

「手段の確保ってわけね。じゃあ目的は何?」

「魔獣じゃなくてドラゴンで僕を殺す?」

 

 身を乗り出す黒姫の横でユーゴが自嘲気味に笑った。

それには黒姫が異論を唱える。

 

「高妻くんがキメ顔で言ってた『勇者にドラゴンの邪魔をさせずにデュロワールにも豊穣の雨を降らせて農産物の不作を改善させることなんだ!』じゃない? ドラゴンを操れるなら簡単でしょ?」

 

 キメ顔まで真似するんじゃねーよ。ダメージが過ぎるだろ。

 

「でも、それハズレだったよね?」

 

 更にユーゴが塩をすり込んでくる。ぐぬぬ。

 けど、そんなことは今俺の頭の中にあることに比べたら些細なことだ。

 

「俺はさ、ゾーイさんが言ってた、日本に帰るのを諦めろってのが引っかかってたんだ」

「ブラフじゃない? 私たちを混乱させようとしてるのよ」

「ブラフじゃないとしたら?」

「僕らを殺す」

「ユーゴの思考は物騒なやつばっかだな」

「ドラゴン討伐に失敗して日本に返してもらえない」

「そんな不確実な話じゃない。もっと単純なやり方があるんだ。俺たちが帰れなくなるようなことが」

「確実で単純な? ……あ」

 

 黒姫はすぐに思い当たったようだ。その顔が青ざめる。

 

「送還の魔法陣を壊す……」

「え……」

 

 ユーゴも絶句した。

 

「ドラゴンを使って魔法陣のあるロッシュ城の塔を壊す。それが俺が推測したナエバサクラの遺志だ」

「で、でも、塔を壊すくらいなら大砲とか魔法とかで十分じゃない?」

「まず大砲はこの世界にはまだ無い。それから人間の魔法程度じゃ壊せない。まぁ、ユーゴならできると思うけど」

「本当?」

「シュテフィさんに確認した。あの塔には強力な魔法障壁がかけられているって」

 

どうりであの塔だけキラキラして見えたわけだ。あれ、魔法障壁だったんだ。

 

「だから、魔法の攻撃でも多少の物理攻撃でも壊せない。ただし、ドラゴンは保障の限りじゃないだとさ」

「壊されたとしても、また作ればいいんじゃないかな?」

 

 ユーゴが楽観的な希望を口にする。もちろん、それも考えた。

 

「召喚の魔法陣はあの塔に複雑に組み込まれていて、魔法陣を作った魔術師じゃなければ再現できないだろうって。シュテフィさんに確認したらそう言ってた」

 

 目に見える魔法陣だけが魔法陣ではないのだ。

 

「どうして……、どうしてナエバサクラはそんな酷いことをしようとするの?」

 

 黒姫が溢れそうになる感情を抑え込むように言った。

 

「想像でしかないんだけど、サクラさんは自分をこんな世界に呼び込んだ召喚魔法が憎かったんじゃないかな。じゃなかったら、自分のような思いをする召喚者をこれ以上増やしたくないと思ったのかもしれない。だから、召喚の魔法陣を壊そうと思った。でも、自分にはその力が無い。他の誰かでも無理。だったらどうする? 人間にできないなら人間じゃないものにやってもらうしかない。そこでドラゴンに白羽の矢を当てた。ドラゴンの力ならイヤと言うほど知ってるから」

 

 言葉を切って二人を見る。真剣な瞳が続きを促してくる。

 

「きっとサクラさんは聖属性なら使役魔法を使えることをどこかで知ったんだろう。でも、ドラゴンが現れるのは58年後だ。それまで生きている保証はない。だから聖属性しか持って生まれてこない自分の娘たちに願いを託したんだ。継子として願いを継ぎ、ドラゴンを使役して叶えるように。ただし、その時にはもう次の召喚は終わっている。そして、彼らには帰る術は無い。自分の子孫がそれを奪うから。そのせめてもの罪滅ぼしにあのタペストリーにメッセージを残した。なるほど、この世界に残ることを前提にしてるわけだ」

「そんな……」

 

 黒姫はぎゅっと目を瞑って一つ深呼吸をした。

 

「高妻くんの話は筋は通っているかもしれないけれど、仮定に仮定を重ねているわ。確証が無いし信憑性も低い。もっと精査しないと」

 

 黒姫ならそう言うと思った。

 

「俺もさっきシュテフィさんと話していて思いついただけだから、もっと検討しなきゃって思ってるし、全然的外れかもしれない。ロッシュを守りに行ったら王宮を襲われたってなるかもしれない。それでも最悪のパターンを考えて考動するべきだと思う。それは日本に帰れなくなることだ」

「そんなの絶対にイヤ!」

 

 黒姫が感情をそのまま声に出した。

 

「だから、今できる最善のことをしよう」

「どうするの?」

「できれば今すぐにでもロッシュに帰りたい。でもさすがにそれは無理だろう。理由を説明できない」

「どうして?」

「黒姫が言ったように俺の説は確証が無い。それに、できればゾーイさんのことは話したくない」

「なぜ? ゾーイなんてどうでもいいじゃない」

 

 黒姫の眼が恐い。ちょっと落ち着いて。

 

「俺もそう思うけど、一連の犯人がゾーイさんだってバレるとルシールや家族にまで罪が及ぶかもしれないんだって。それは嫌だろう?」

「うっ……」

 

 ルシールまで罪に問われると聞いて、黒姫が黙り込む。

 代わりにユーゴが口を開いた。

 

「じゃあ、レンはどうするつもり?」

「アンブロシスさんに相談してみる。全部話して、ユーゴと黒姫をせめて王都に呼び戻せないかって。王都からなら転移魔法があるし、いざという時にすぐにロッシュに行ける。それに、あの爺さんならゾーイさんのこともうまく誤魔化してくれそうだし」

「レンだけ王都に戻るってこと?」

「今動けるのは俺くらいだろ? ドラゴンが現れるまでまだ日数的に余裕あるし、絶対になんとかするから、ユーゴたちはここで待っててくれないか」

 

 確証もないし、かなりやっつけな計画だけど。

 

「うん。だけど、僕はただ待ってはいないけどね」

 

 いたずらっぽく笑うユーゴに眼で問うと、

 

「どうも今の僕の魔法じゃドラゴン退治は無理みたいだからね。必殺技を考えておくよ」

「お、おう」

 

 イヤな予感しかしない。いや、技の威力は心配してないけど、ネーミングがね?

 

「じゃあ、私も協力するわ」

 

 黒姫がぐっと拳を握ってやる気を見せる。

うん? 黒姫が協力って何するんだ?

 

「まずは、高妻くんが王都に帰る理由を考えてあげるわね」

「理由?」

「ただ帰るって言って帰れるわけないでしょ?」

「確かに……」

 

 さすがは黒姫。

 

「じゃあ、理由はこうね。えっと、高妻くんはここにいても何の役にも立たないと自覚して、することが無くてつまらなくなって王都に帰りたくなったってことでどうかしら?」

「う、うん……」

 

 なんか納得しづらいんだけど。

 

「オッケーね。じゃあ、すぐにクレメントさんかアンドレに言ってきて。あとは、高妻くんの説の検証ね。シュテフィさんにはゾーイのことを聞いてもいいのね?」

「いいけど、お前の周りていっつも誰かいるじゃん」

「そこはうまくやるわよ」

 

 黒姫もユーゴもめっちゃやる気出てるな。なら、俺もしっかりやらないと。

 

 こうして、俺たちの秘密の作戦は動き出した。

 

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