勇者と聖女の召喚に巻き込まれただけの俺   作:ちゅうき

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第54話 ドラゴン来たる!

「えっ、ここに繋がってたの?」

 

転移の間を出て階段を上った先に黒姫は見覚えがあったらしい。その石壁の狭い部屋を出ると俺にも見覚えがあった。この世界に召喚された時に最初に服を着たあの部屋だ。黒姫が服を着た小部屋に隠し扉があったのか。   

 それはそれとして、

 

「これからどうする?」

 

 ロッシュに行くことばかり頭にあって、その先のビジョンが全然無かった。

すると、ユーゴと黒姫がにんまりとする。

 

「ここからは僕たちに任せてよ」

「高妻くんが王都に行ってる間、ぼーっとしてたわけじゃないのよ」

 

 さいで。

 

「まずは武器を集めよう。槍がいいんだけど」

「その前にここのみんなに知らせないと」

「セザンヌ。私のことは大丈夫ですから、アンブロシス様に連絡をとってください」

「かしこまりました」

 

 ルシールが扉の魔法陣を解いて言うと、セザンヌさんは支えていたルシールを黒姫に預けて部屋を出て行った。

 

「そういえば、ルシール。その髪型可愛いわね」

 

 ルシールの肩を抱きながら、黒姫が今更のように言った。

 

「ありがとう。ちょっとマイの真似をしてみたくて」

 

言われた黒姫もいつものポニーテールを揺らして笑い合う。

うん、いいね! 今朝からの緊張が解れるな。

 

 すぐに、セザンヌさんがアンブロシスさんを連れてきた。

 

「大まかはセザンヌから聞いた。あのゾーイがのぅ……」

 

 アンブロシスさんは感傷的に顎鬚を撫でつける。

 

「本当にドラゴンを使役してここを襲うのか?」

「スイースっていう所から西に向かったと連絡がありました」

「西に?」

「俺が調べた限りでは、大抵はまずは北東か北に行っています」

 

 伝承を含めて、デュロワールにはゴール経由でやって来ていた。今回サルルルーイの砦を拠点にしたのも、それがあったからなのだろう。

 

「そうか。ドラゴンの気まぐれなら良いのじゃが」

「俺たちは最悪の場合を想定して行動しようと思ってます。それについてはルシールのお父さんからも承認してもらってます」

「ルイ殿下の?」

 

 アンブロシスさんに確認するように顔を向けられたルシールが「はい」と頷く。それを見て、アンブロシスさんも納得したようだ。

 

「それで、どうするつもりじゃ?」

「ここでドラゴンを迎え撃ちます」

 

 ユーゴが即答した。

 

「なので、すぐにロッシュの町の人に知らせて避難させてください」

「よかろう」

「それから、城にいる人全員も。あと、衛士の人たちに大きめの槍を持ってきて欲しいです。それと、剣を多めに。それをこの塔のてっぺんまで運んでください」

「うむ。すぐに手配しよう」

 

 アンブロシスさんが部屋を出るのを待って、

 

「この塔の上で戦うのか?」

 

 と、ユーゴに聞く。

 

「相手の狙いがこの塔なら、ここで待つのが確実だからね。それにそういう前提で作戦をシミュレレートしてきたし」

「そうなんだ」

「うん。その前に、まずはこの鎧を脱がなくちゃ。レン、手伝って」

 

 と、背中の木箱を下す。

 

「え、脱ぐの? モ○ルスーツ」

「違うってば。ほら、ドラゴンて電撃を使うそうだからね」

 

 ああ、なるほど。鎧を着てると感電しやすいからか。

ユーゴの鎧の解除を手伝いながら、そういえば黒姫はどうなんだと見ると、彼女も鉄の補強が入った革の鎧を脱いでいた。

 

「ちょっと。見ないでよ、変態」

 

 下着というわけではないけど、薄手の長そでTシャツだけになった黒姫がくるりと背中を向ける。やれやれ……。

 

「黒姫、これ」

 

 そう言って、着ていたローブを脱いで差し出す。

 

「目のやり場に困るから」

「……ありがと」

 

 意外にあっさりと受け取って袖を通してくれた。まぁ、嫌そうな顔で断られたら立ち直れそうになかったからいいけど。

ほっとしていると、黒姫がローブの襟もとに鼻を近づけてすんすんと匂いを嗅ぐのが視界の隅に見えた。

 

「あの、ちゃんと毎日洗濯してるから。クララが」

 

 と、クララの功績を強調しておくと、黒姫は我に返ったようにハッとしてまた背中を向けた。後ろから見える耳が赤い。

 

「べ、別に匂いとかしなかったから。クララにお礼を言っておくといいわね」

「ああ、そうするよ」

 

まぁ、実際には下働きの人が洗濯してると思うんだけど。

 

「レン。イチャコラしてないで真面目に手伝ってよ」

 

 横からユーゴの不満そうな声がした。

 

「え、今のは俺が怒られる流れ? ていうか、イチャコラはしてないよね?」

「そ、そうよ。高妻くんが柄にもなく親切なことするから調子が狂うのよ。あと、イチャコラはしていないわ」

 

 黒姫とも意見が一致したけど、どうにも分が悪い。こんな時は、そう、『話題変え』だ!

 

「それはそうと、この塔の上って上れるの?」

 

 ルシールに向かって尋ねると、彼女は細くなっていた眼をぱっと開けた。やっぱ疲れてるのかな。

 

「え、ええ。はい、召喚の間に階段がありますから」

 

 召喚された時には気づかなかったな。まぁ、そんな余裕も無かったけど。

 

「じゃあ、衛士たちが武器を持ってきたら一緒に上がろうか」

 

 と、ユーゴが提案した。……けど、

 

「そんな時間は無さそうだ」

 

 まだ微かだけど、こっちに向かってくる魔力を感じた。それがぐんぐんと大きくはっきりとしてくる。

 

「すぐに上に行こう」

「それって……」

「うん、来ちゃった。ドラゴン」

 

 凄いスピードで近づいてくる。

 

「スザンヌさん、衛士たちが武器を持ってきていたら中庭に放り込むように言ってください。間に合わないようなら、武器は置いてここから離れるように。あなたもそのまま避難して」

 

 ユーゴが木箱を背負いながら指示を出す。

 

「ルシール様は?」

「私はマイと一緒に行きます。スザンヌはユーゴの言うとおりにして」

 

 スザンヌさんはグッと堪えるように息をつめて「はい」とだけ答えて、急いで部屋を後にした。

 

「ルシール、大丈夫? 私、アレ持ってるけど?」

「大丈夫です。それより急がないと」

 

 ルシールはふらつきそうになりながらも、召喚の間の扉を開放する。ところで、アレって何だ?

 そんなことを聞く間も惜しいくらいにバタバタと召喚の間に入っていった。今度は黒姫が灯りを点ける。

ルシールが言ったように、円を描く壁に沿って石で作った階段があった。それを追って視線を上にやると、天井の隅にある穴に続いていた。

 

「行きましょう」

 

 ユーゴを先頭に、黒姫がルシールを支えるようにして続き、俺はその後ろから万が一ルシルが足をもつれさせても大丈夫なようにスタンバりつつ殿を行った。

 

 塔は5階建てで、上の階に行くほど天井が低くなる構造だ。

 最後の出口にだけ鉄製の扉があった。ユーゴがそれを開けると、ひゅっと風が舞い込んだ。

 外に出ると、空はよく晴れていた。

 夏の日差しはあるけど、風があるおかげで涼しい。

 屋上の広さは直径で10mほどの円形。外周に腰くらいの高さの石壁がある。

 あたりにこの塔よりも高いものは無く、農地と森の混在する丘がどこまでも広がっていた。青空も360度ぐるりと広がっている。

 その一点に強い魔力を感じた。いや、もう見えている。黒い雲を引き連れたキラキラと金色に光を反射するものが。左右に広げた翼が。

 

「勇者殿―っ!」

 

 下から大声が聞こえた。腰壁に駆け寄って下を見ると、コの字の建物に囲まれた庭園に数人の人影があった。それぞれ長い槍や剣を持っている。

 

「武器はここでよろしいですかー?」

「ありがとうございます! 端の方に置いてください! 置いたらすぐにここから離れて!」

 

 ユーゴが大声で返す。

 その間にもドラゴンがもうそこまで近づいていた。

急激に風が強くなり、雲が太陽を隠す。

 金色の体に鉤爪のある大きな翼。長い首としっぽ。胴体はそれほど大きくない。もしここにドラゴン警察がいたら「あれはドラゴンではない。ワイバーンだ!」と指摘してくるかもしれないけど、この世界ではドラゴンなのだ。異論は認めない。

 

「レン、わかる?」

 

 ユーゴに聞かれ、ドラゴンの周りの魔力を探った。

 

「風魔法だ。それを翼に受けて飛んでいる」

「よし。重力操作系だったら厄介だと思ってたけど、プランAで良さそうだ」

 

 ドラゴンは少し上空で警戒するように塔の周りを回り始めた。そしてよりはっきりと見えた。頭のあたりにかかる黒い靄が。そして感じた。これは……!

 

「少し高いけど、やれそうだな」

 

 ユーゴはそう呟いて両手を高く上げた。その指先から膨大な魔力が上空へと昇っていく。それはドラゴンよりも高高度で禍々しいほどに周りの空気を巻き込んでいった。

 

「ユーゴ、待って!」

「何!」

 

 大声で返すユーゴにドラゴンを指さして答える。

 

「あそこにゾーイさんがいる! 彼女の魔力を感じる!」

 

 ドラゴンの頭のあたりの黒い靄の中に、ゾーイさん自身の魔力を感じたのだ。

 

「お姉さまが?」

 

 黒姫に支えられながらルシールが歩み寄ってきた。

 

「お姉さまはドラゴンに乗っているのですか?」

「そんなふうに感じる」

 

 ドラゴンを使役してここまで飛んできたとしたら、彼女はどうやって使役してるのか? どこから使役しているのか? 選択肢はそんなに無いはずだ。

 けど、ユーゴたちには想定外だったらしい。

 

「参ったな。このままじゃ、ルシールのお姉さんを巻きこんじゃうよ」

 

 魔力をホールドするために両手を挙げたままのユーゴが困惑している。

 

「いえ、ユーゴ。姉のことは気にせずに戦ってください!」

 

 そう言放つルシールの表情は悲壮感でいっぱいだ。

 

「それはダメよ!」

「でも、ここを守るためには」

「何か方法があるはずだからそんなこと言わないで!」

 

 方法か……。

 ドラゴンはあいかわらず警戒するように円を描いて飛んでいる。……いや、本当に警戒してるのか? もしかして、ルシールがここにいるのが見えて戸惑ってるのかも。それなら、

 

「黒姫」

 

 強風にあおられる髪を手で押さえている彼女に呼びかける。

 

「ドラゴンをここまで呼び寄せるから、夜会の時みたいに浄化魔法を頼む」

「え? 呼び寄せるって、どうやって?」

 

 それに答えてる暇は無い。

 

「ルシール、ごめん!」

 

 先に謝って、彼女の肩に手をまわして抱き寄せた。

 

「レ、レン? あの、そんな、マイが見ているのに……」

 

 いや、そんな寝取ったみたいに言うのやめてくれませんか。百合友の黒姫がショックで口を半開きにしてるし。

 

それよりも、やっぱりそうだ。

 ドラゴンがいきなり方向転換してまっすぐに突っ込んできた。そして、激しい衝突音とともに赤茶色の屋根瓦を吹き飛ばして本館の屋根の上にドラゴンを乗り付けた。

 本館の屋根はここよりも低く、ドラゴンが乗ると頭の高さがちょうど俺たちと同じくらいになった。その頭は軽自動車くらいの大きさで、肉食恐竜のような顔立ちにたくさんの棘と枝分かれした大きな2本の角。角の間にはたてがみのような毛が生えている。その中に色褪せてほとんど白に近い桜色のローブを纏った黒髪の少女の姿が見えた。その少女から怒声が放たれる。

 

「ちょっと、レンっ! あなた何してるのよ! すぐに妹から離れなさいっ!」

 

 俺はそれを無視してルシールを抱き寄せたまま高笑う。

 

「ハッハッハッハッハ。かかったな、シスコンめ! 黒姫、今だ!」

「……じょ、浄化ぁ! サイテーねっ!」

 

 黒姫のかざした両手から、ビックリするくらいの強さの金色の風が吹き出した。

 その突風は一瞬でドラゴンの頭を覆っていた黒い靄を吹き飛ばした。……が、黒姫の魔力が強すぎたのか、ゾーイさんが呆けたような顔になっている。その体がぐらりと傾いた。

 

「落ちる!」

 

 考えるより先に体が動いていた。

 俺の体は腰壁を蹴って宙に飛び出していた。

 

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