Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~ 作:傍観者改め、介入者
ある日、ジグルドは馬鹿が放った一つの言葉によって、正気を失いかけた。
「よし! お~い、ジグルド!! 朝鮮半島に行こうぜ!」
「何を言っているんだ、この異父兄は…‥‥」
目が点になるジグルド。京都の斯衛屋敷にて、ウェイブの色々とツッコミどころしかない言葉に、戸惑うことしかできない。
「ごめんなさい、ごめんなさい。私が不用意にはなった言葉のせいで‥‥‥」
その屋敷の主であろう青い髪の女性が、困惑するジグルドに平謝りする始末。目が虚ろというか、ジグルドの反応を見てより一層罪悪感を覚えているようだ。
1997年 10月
斯衛軍は、連邦軍の輸送艦の性能実験のために朝鮮半島へ出兵。この作戦は秘密とされており、公然の機密事項と判断された。
なお、非公式ではあるが、第八艦隊所属のジグルド・F・アスハ、クロード・ミリッチの両名も威力偵察と護衛という任務の為、最前線へと行くことになった。
「ジグルドはわかるけど、なんで僕まで…‥」
「たぶん、ヤマト中佐と眼があったからだろう‥‥‥あの人、直感で意見決め過ぎではないか…‥」
リゼルにて出撃し、後方より輸送艦の様子を窺う二人。
そんな二人の不幸コンビをよそに、ウェイブは輸送艦のブリッジに立っていた。
「——————お手並み拝見とタカを括っていたわけではないが」
レーザー族種の攻撃を完璧に防御する輸送艦の姿を見て、彼らは言葉数が少なくなっていた。
連邦軍の輸送艦があれば、避難活動においては迅速な対応が出来ると。そして、その準備のために危険を冒して光線級生息地帯へと足を運んだのだ。
「とりあえず。我が輸送艦の性能、ご理解頂けたでしょうか?」
ウェイブ・フラガは隣にいる斯衛軍に聞き返す。その女性はウェイブが惚れた女性である。
「—————貴方の言葉が真であると理解いたしました。しかし、なぜ私を? 聞けば私を名指しで指名したそうですが————」
恭子には分からない。一目惚れで権利を乱用してしまったウェイブのことを。
「—————勝手のできる範囲では好きにやらせてもらう。だが、背負った役目は必ず果たすつもりさ。この輸送艦の試験は俺の始めたこと。善意が先行したが、この国の人を守りたいと思えるのは、悪いことかな?」
気障な物言いを止めないウェイブに対し、恭子はため息をつく。
「言葉で惑わすのは上手ですね。いるのです、私の周りにもそのようなお方が。ただ、貴方がここにいる意味はあまりないのでは? 万が一、貴方の身に何かあれば…‥」
そして、商人とは思えぬ蛮勇に二度目のため息をつく。この男はどこかズレている。商人であり、弁の立つ男だが、どこか武人らしさを備えている。どちらの側面の良いところ取りをしている気がしてならない。
「ふむ、何度もご説明させていただくが、これは俺の我儘で始めたこと。その最前線に立つのは俺の義務だ。それに、空輸以外となると、連邦軍艦船の大半を借り出すことになる。帝都防衛戦では、多くの戦力が必要となるのだ。試せるうちに、試作できる手段は速めに行っておくべきだろう」
ガルム中隊だけで遊撃任務を為し得る、それは希望的な観測ですらない。ただの妄信である、とウェイブは付け加える。
実際、第七艦隊、第八艦隊が所有する艦船の派遣はあまり進んでいない。何しろ海洋遠征の装備と兵器は今の今まで皆無と言っていい。現在、本局から多くの艦船を輸送する算段がつきつつあるが、それが間に合う保証はどこにもない。
民間と国営。その二つが一つの目的のために違う行動を行う。ウェイブは民間代表として、人事を尽くしているつもりだった。
「そして、そんな危険を冒すために、部下だけにそれを任せるのは如何なものか。万が一といったが、俺はこの連邦がこれまで生み出した努力と、目の前に存在する脅威を推し量り、ここにきています。そういうことなんですよ、嵩宰殿」
最後に、朗らかな言葉を付け加えるあたり、あの会談にいた人物と同じであることはわかる。恭子としては、何とも言えない空気を感じていた。
——————その、証拠を見せてくださいと言っただけなのに、そこまでしなくても‥‥
行動力があり過ぎる、覚悟が決まり過ぎている。商人ではなく武人なのではないかと錯覚する人柄。そのくせ、自分に対しては甘すぎる程ナンパをしてくるおちゃらけた青年に様変わりする。
——————ただ一目惚れしただけで、なんでそんな…‥‥
斑鳩の策略好きな青年と言い、目の前の青年と言い、どうして周りの男はこうも自分を戸惑わせるのだ。変に力が入ってしまうと恭子は困惑したままである。
そして、そのどこかの謀略大好き青年は、現在ミカエルに散歩しつつ、本土防衛にて作戦の最終確認を行っていた。
「まあ、色々言い訳だったり、論理的にいろいろ宣ってはいるが、俺の言葉はほとんどが本音さ。仕方ない、それが俺のやりたいこと、やるべきことだと知ったから。俺の親父もそうだった。」
真っ直ぐな物言い。恭子は、その気持ちの真っ直ぐさに感謝こそすれど、それでは自分の背負った役目を放棄しかねない。
————私は崇宰家を継ぐ者。ここで彼の家に向かえば、申し訳が立ちません
どうやら、半分手前程陥落していた模様だった。そうだ、彼は輸送艦の準備の際に、一目惚れした彼女に声をかけることはなかった。仕事のときは部下たちに指示を出し、役目を全うしていた。
その横顔は真剣そのもので、
————何、約束したからな。この輸送艦で、救える命はあると
—————大将、そういうところは親父殿に似ていないはずだったのですがねぇ
————むしろ、リオン様に似ているまである
————よしてくれよ。俺が叔父様に似ているというのはない。目標が高すぎるだろ
軽口を言いながら、部下と談笑する彼の姿。
————俺は、この人と決めた人にはアタックするさ。ストーカーにならない程度にな
さっぱりとした好意のぶつけ方は、恭子にとって気持ちのいいものだった。真っ直ぐに好意をぶつける。回りくどくない。粗忽者にも見えなくはないが、強引さはない。ちゃんとこちらの事情を理解しているように見えた。
————これでフラガ家も安泰ですなぁ、大将!
政略結婚、未だに巣食う女性当主への不信。それに付け込んだ家に対する干渉を止めない俗物。後は流言を回し続ける、国政が挙国一致でまとまるべきなのに、それをなぜか阻む野党、報道勢力。
特に報道機関は恭子のルックスにばかり着目し、一歩間違えればセクハラで訴えるべきものだ。なお、この国にはまだセクハラという言葉が有名ではない。
ハラスメントという言葉も出回っていないのだ。
————おいおい。そこまで皮算用するのか、おい! そいつはまだ分からんさ。強引にするのは俺のポリシーじゃない。嫌と言ったら、素直に退くよ、俺って!
そんな存在に比べれば、彼はとても眩しかった。
「—————どうしたんだい、崇宰さん?」
「—————いえ、なんでもありません。レーザーを防ぐ光景に、慣れていないので。とても喜ばしいことなのに、実感があまりなくて——————」
家の事情で、ダメです、なんて言える勇気がなかった。そんな言葉で、それなりに楽しいと感じてしまった彼との関係が終わるのも、口惜しい気がした。
とっさに軍人としての考えを口にしてごまかすことが出来た恭子ではあったが、平静な態度を装うことで手一杯になっていた。
そうなのだ。初めて好意を抱き、眩しく思える人物がいたのだ。今はまだ、この幸福な時間を大切にしてもいいだろうか。
————唯依。私は想像以上に、俗世に染まっていたようだわ
京都にいるであろう、妹分を思い、恭子は笑うのだった。
「—————もう一度笑っていただけないだろうか? できればデジタルカメラで保存をしたいんだけど」
先ほどの感動を返せと恭子は思った。この調子のいい男は、いつもこんなことを言っているのだろうかと、ジト目になってしまう。しかし、根が正直なので割とそこまで悪い感情が宿っていないことを感じる。
正直すぎるでしょうぉぉぉぉ、という心の中のツッコミは知らない。
「本気で言っているのかしら、おばかさん♪」
「そんな、損失だ。これは世界に対する損失だというのに————」
ブリッジでは、そんな愉快なやり取りがあったのだが、
「レーザー避けるのは、大体慣れたが‥‥‥ぶっつけ本番で、若手にさせる仕事、なのか?」
「僕はパワハラとしてヤマト中佐を訴える決意をしたよ、ジークは?」
「やめとけ、突き返されるのがオチだ。それに、この記録も有効活用されるだろうし、いずれ誰かがやらないといけない事だった」
光線属種の攻撃から回避することしかできない二人は、輸送艦クルーから聞いたウェイブと恭子のイチャイチャに頭痛がしたが、医務室にはいかなかった。
しかし、フラガ家の使用人たち以外の嵩宰家の面々はそれどころではない。
「レーザー避けてる!? うそでしょ!?」
「これは夢か現か? 私の目はおかしくなったのか?」
ざわざわ、ざわざわと武家のモノたちは驚愕し、騒々しくなっていた。今のところ攻撃許可は下りていない為、回避行動だけではあるが、指定されたポイントを維持しながら、彼らは生存している。これは驚異的である。
「あの、ウェイブさん? あの二人は非番だったのでは?」
恭子は驚愕から帰還し、あの二人を気遣う言葉を投げかけたが、
「あの二人はトップガンの主席と、次席に次ぐ実力者だ。これぐらいの無茶ぶりをこなせないようでは、軍学校の育成に疑問を抱かなければならないな。それに、信頼しているからこそ、あの二人を指名させてもらった」
「あの二人が‥‥‥‥」
ナンパ男ことウェイブが恭子に猛アタックをしていた頃、連邦政府は九州防衛戦にキラ・ヤマト中佐、アスラン・ザラ大佐の両名を派遣することを決めつつあった。
両名の高い力量ならば、不測の事態でも生還することは可能であり、なるべく犠牲を出さず、相手の実態を把握するには彼らは最適の人物でもあった。
なお、その戦況如何によっては、第七・第八艦隊合同で若手トップガンを招集したガルム隊の出番もやってくることになる。
選りすぐりの若手の精鋭で構成された特殊作戦実働部隊、通称ガルム中隊、彼らは新兵の中でも抜きんでた実力を誇る黄金ルーキーの巣窟だ。
そのメンバーの中にはジグルド、ディルムッドら京都の訓練学校に派遣された若手メンバーのほか、待機していた中堅に差し掛かろうとする猛者も追加召集されることに。
そんな彼らは、帝国の訓練学校に通う傍ら、琵琶湖上空にて実戦を想定した飛行試験を行っていた。
そして彼らの中隊は空戦に特化した優れた格闘能力を持つ可変機で構成されている。
コズミックイラでリオン・フラガのルーツとなった異邦の技術を獲得した結果、戦闘機型MSはその系統を大いに発展させることになった。
オーブ軍が大戦終結後に少数の戦力で広大な戦場をカバーすることを想定して設計された高速機。
その試作機となったRX-11 Zディフェンサー。ガンダムタイプの頭部を持ち、ガンダムの名に恥じない高火力、高機動、VPS装甲、ビームシールドといったハイスペックな機体が誕生した。
しかし、サイコフレームを可能な限り施し、バイオセンサーをも取り付け、即応性を向上させた本機は、フリーダム以上の暴れ馬となり、キラ・ヤマト中佐でなければ操縦が困難なストライクフリーダムに匹敵する難易度を生み出してしまう。
なお、このZディフェンサーにはストライクフリーダムと同様に限定機に関しては同じ推進システムを採用しており、機動性能、格闘能力ではストライクフリーダムを上回るパワーとスピードを兼ね備えている。
なお、やはりパイロットは現れず、お蔵入りとなった怪物。キラ・ヤマトは乗りこなしたとはいえ、「自分の戦闘スタイルと異なる」ということで正パイロットになることを辞退している。
そんな怪物の系譜を少しでも一般人に乗ってもらうために開発されたのが、リゼルである。
今回のガルム中隊のメインMSであるRX-11-1リゼル。
当時の世界情勢において、もはやオーブ軍こそが世界の空を守り、宇宙でもその優位性を示した傑作機である。
五摂家の面々の一部には、その訓練風景を拝見する者もいた。地球連邦軍のトップガンが乗ることになる機体。その性能の一端を垣間見ることで、現在突貫製作中の00式戦術歩行戦闘機 (TSF-TYPE00)とどこまで差があるのか。むしろ、差はないのではと期待したりしていたが。
上空を、彼らの想像を絶する速度で飛び交うリゼル。アクロバティックな急旋回、急停止からの急降下。空中での形体変化、そして見事な連携。
対人戦闘能力において、ファストルックファストキルに主眼を置く米軍を遥かに凌ぐ機動力と索敵範囲。何より、総合的な運動能力もけた違いであった。
超低空飛行する分隊と高高度から電撃作戦。二方面からの違う高度からの時間差攻撃など、即席ながら連携攻撃も披露するなど、連邦軍の練度の高さを帝国軍は目の当たりにすることとなった。
これを見ていた巖谷中佐はその想像をはるかに超えた戦闘能力、並びに戦争から遠のいているといわれているにもかかわらず、これだけの技量を維持できる連邦の精強さに絶句した。
——————間違いなく、あの速力では並の衛士は即墜落するだろう。音速を超えることが当たり前になっている機動能力とは何の冗談だ?
リゼルは速い。とにかく速い。しかも、このリゼルはRX-13シリーズの足掛かりに過ぎないというのが末恐ろしいものだ。隣にいたキラ・ヤマト中佐からの一言では、「推進剤を一切使わない、MSに理論上亜光速の領域まで誘う推進システムの量産化」と答えていた。
リゼルの系譜で実現し得なかったヴァワチュール・リュミエールを量産機に取り付ける壮大な計画である。
何ともばかげた話だ。しかし、それはあくまで日本帝国を含むこの世界の人間にとっての話だ。それに、彼らにも現在開発不可能な技術はある。
MSサイズのハイパージャンプ(光速移動による外宇宙航行システム)は安全性が考慮されていないから難しいという。なにより、人の反応速度を超えてしまうため、操作性が劣悪であるとキラは答えていた。
それを聞いた隣の篁は絶句した。光速の世界に入ることができないのではなく、光速の世界で自由に動くことができないからあまり進んでいないといったのだ。
——————榮二も愕然としているようだ。かくいう私もあまりの衝撃で失神してしまいそうだ。なるほど、生半可な気持ちでは並の技術者は卒倒するだろうな。
篁が個人的につながりのある技術者連中の中でも骨のあるやつをよんできた。そんな彼らが目の前の現実を認めることが難しく、目をこすったり頬をつねったりしていたのだ。
さらに、帝国政府より支給された統合仮想情報演習————通称JIVESを使用し、ガルム中隊は初めてとなるBETAとその実態と脅威を認識することになる。
訓練内容は、京都に侵攻してきたBETA群を迎撃する為、先行して部隊を展開し、一定時間足止めを行うというものだ。
軍団規模は旅団。初見にしては優しめか。しかし連邦政府はガルム中隊に苛烈な訓練を与えることを望んでいたため(キラ・ヤマトの差し金)、中隊には旅団殲滅後に3方向から軍団規模の光線属種含むBETAの大集団で襲わせることとなっていた。なお、斑鳩は上官のあまりのあんまりな苛烈っぷりにドン引きしていた。
————まるで子を谷へと投げ落とす獅子のようだ。これが連邦最強の衛士、か
「——————新兵ですからね、所詮は。だから、訓練の中で驚きを与えたいんです。戦場で後悔しても後がないと思いますしね」
満面の笑みで、キラはそう答えた。試しに彼は一人でその訓練をしたというが、彼の愛機の前で5000のBETAが30分とかからず殲滅されたという。
当初はあまりの醜悪さに連邦政府の軍関係者は吐き気を催したり、気分を害したりしていたが、顔色一つ変えずに光線属種のレーザーを回避し、早打ちによる乱射とその一撃一撃が必殺の致命打となり得る攻撃の嵐によって、旅団、軍団規模のBETAがいくら束になろうとも相手にならなかったという。
残念ながら、この情報は帝国政府、軍関係者には開示されていない。
——————確かに、フリーダムなら1時間はかかっていたかな。ただ照準を合わそうとするだけの、センスのある素人の射撃が、僕に当たるわけがないんだけどね
キラ・ヤマトは光線属種の攻撃をそのように評した。聞けば、人類は1970年代にかけて光線属種の出現によって制空権を奪われたというが、性能の良い機体に、良いパイロットがいればなんてことはないと考えていた。
ただし、キラが認めるのは四将軍に次ぐ、現在は第一艦隊の切り札として、ある時期には教導隊として、多くのトップガンを育てたトール並みの危機回避能力に秀でた衛士である。ここにいるトップガン連中は、何とかその条件を満たしている。
何せ、彼に教わったのだから。怪物に勝つための戦術、格上との戦闘で必要なことを叩き込んだのだ。
ゆえに、ガルム中隊は若手最強のトップガン集団なのだ。一部の連邦政府の間では、戦力の分散を行い、本拠を含む惑星の警護に当たらせたいと考えていたりする。
そんなキラの物差しに使われたトール・ケーニヒ少佐。4将軍に次ぐ実力者の一人であり、主力艦隊を守護する“雷光の優男”の異名を持つ。
果たして、今回のトップガンたちはどうなのか、キラは楽しみ半分、無関心半分であった。
そして、キラの目論見は外れる。彼だ、彼がそこにいるからだ。
「あの赤い機体。動きが違いますな。光線属種の標的となることで、友軍機へのリスクを最小限にしつつ、回避しての即反撃——————何という腕前だ」
バレルロールを多用するアクロバティックな軌道を描く赤いリゼル。かと思えば急降下してバルカンを乱射しながら小型種から味方機を救い、続く突撃級の側面を擦れ違いざまに切り裂き、回り込んで擦れ違いざまに二体目の突撃級を切り裂いたのだ。
しかもその動きが無理やりな軌道ではなく、デザインされた軌道を描いていたことで、この軍事演習を見ていた者たちの目を虜にしてしまう。
友軍機の安全を確保した刹那、すぐに飛翔し味方機のフォローを行う赤い機体。明らかにあの赤い奴はこの部隊の中で抜きんでていた。
「———————さすがは、アスランから近接戦闘で彼以上の腕前を連想させた動きだね」
キラは、分かり切っていたことだと思いつつも、改めて即席でBETAの、特に平地での突撃級の速度に順応してしまう彼のセンスに舌を巻く。
「——————まだセーブしているさ。あの滑らかな動きがそうだ。そうか、最新鋭のリゼルでももう追いついていないか」
彼の師匠でもあるアスランは、彼が我慢をしているという。機体に負荷をかけないよう、長期戦を想定して動いている。それでいて味方機のフォローを忘れない。
しかし、赤のリゼルに乗る彼は、この機体で物足りなくなっているようだ。いくら実直な彼が否定しようと、実力者にはわかる。
「それを言うなら、ミリッチ少尉に“早撃ち”を伝授したそうじゃないか。突撃級の特性を訓練学校で理解し、上手く奴らを橋頭堡としている」
白いリゼルは、アクティブな動きを続ける赤いリゼルとは違い、正確な射撃で突撃級を優先して攻撃しており、上手く彼らの足を撃ち抜いているのだ。訓練学校においてBETAが誤射をしない特性を持つことを十分に理解し、塹壕に近い遮蔽物を作り、リスクを減らしている。
冷静な判断で味方機のリスクを消し去る白いリゼルと、部隊の士気を高揚させる赤いリゼル。
そして、二機に命令を飛ばしているのが——————
「ディルムッドの奴、こういう時は冷静な判断が出来るんだがなぁ」
黒を基調とするリゼル。それに乗り込むはディルムッドであり、紅いリゼルに乗る彼に次ぐ次席の成績で卒業したエリートの一人だ。
スタンドプレーになりかねない赤いリゼルを上手く操縦し、白いリゼルの力を中心に部隊の戦闘態勢を整えている。他の面々も光線属種の動きを悟ってきたのか、紅いリゼルのフォローなしに回避が容易になっていく。
結局、キラは意地になってさらに10万のBETAを召喚しようとしたが、横にいるアスランに止められ、結局ガルム中隊のJIVESの初陣はなんと18万体のBETAを撃滅するに至った。
あの部隊だけでハイヴを落とせるのではないかと、という声も上がったほどだ。
そして、日本帝国から世界共通で使用されているこのJIVESのデータは連邦に齎され、連邦軍はBETAとの戦闘経験を積むことが可能となり、より一層BETAの脅威を認識することとなる。
なお、後日巖谷中佐ら、訓練を見学した面々より政威大将軍である煌武院悠陽の下にも送られることとなる。なお、この映像は帝国内でも配られることとなり、一時的に連邦の脅威を叫ぶ者たちも出てきたが、連邦軍という友好的な異星人に弓を引く度胸は先ほどの精強さの前で鳴りを潜めてしまうこととなった。
当然、同盟国であるアメリカにもその情報は伝えられた。そして、日本以上に衝撃を受けており、現在製作中のラプターがまるで相手にもならないぞ、と軍産複合体は悲鳴の嵐である。連邦政府におけるトップガンが乗りこなす最新鋭の機体でもある為、仕方のないことかもしれないが、世界の警察を自他ともに認識していた超大国は、突然の異星人の来航に憤りを隠せない者たちもいた。
なお戦術機馬鹿どもは、「これこそがブレイクスルーの時だよ! 乗るしかない、このビッグウェーブに!」と叫んだり、「これだよ、これだよこれ!! この可変システム最高だよ!」
とか、可変形態があることで、「連邦の技術者はロマンが分かっている! 是非お話したい」とメロメロである。
ゆえに、憤りを隠せないでいるのは日本帝国が連邦と接近することでアメリカの影響力が弱まり、ひいては第五計画の遂行にも大きな支障が出かねないということだ。
そして、欧州では——————————
1900年に東ドイツが陥落し、1995年には西側の要でもあった西ドイツが陥落。フランスも1997年に陥落し、欧州本土奪還作戦中の欧州連合。すでに国土を奪われた諸国は、地球連邦の来訪は一つの転換期になると考えていた。
「彼らも場所を選んだということか。最前線が近いが、絶妙なラインで猶予がある場所、それが東亜ということか」
フランス首相は、連邦政府の選択に異を唱えない。しかし本音としては今すぐこちらに来て助けてほしいという気持ちだった。彼らは確かにアメリカが言っていたように平和ボケしている空気がある。しかし、その考えは先ほどのアメリカ側から齎された連邦のトップガン、通称ガルム中隊の戦闘訓練で粉砕された。
——————まるで、彼のような機動、ですわね
西ドイツ出身の、今は亡き幕僚も歴任した伝説のエースパイロットの娘にして、現EURO幕僚を務めているキルケ・シュタインホフは、懐かしげに語る。
目の覚めるような格闘戦を見せたかと思えば、光線属種を易々と躱す回避センス。そして、長刀を巧みに使い、突撃級を擦れ違いざまに次々と一刀に斬り伏せていく姿。
もはや、彼は異次元の強さだった。第二世代で、多少の機動性能を底上げしたとはいえ、第三世代に比べれば、型落ち感の否めない機体でレーザーを躱す。高速戦闘を生業とする戦闘スタイル。
単独での光線級吶喊(レーザーヤークト)達成を実に10回達成した怪物。
「キルケもそう思う? 実は私もなんだ」
元666中隊所属、東ドイツのエースパイロット、アネット・ホーゼンフェルトは、間近で彼の戦闘を見続けてきた。同じ長刀使いとして多分に尊敬できる存在だった。
現在は遊撃部隊の一員として、迫りくるBETA群と戦いを繰り広げている。
「——————欧州本土奪還作戦の継続も、いよいよ厳しくなってきているかも。彼が残してくれた猶予、それが何とかこの来訪でつながってくれればいいんだけど」
アネットは元666中隊にして、彼の一番弟子であるという誇りを守る為、仲間とともに生き残ることを最優先にしてきた。
しかし、戦友であり、大の親友でもあるカティア————本名ウルスラ・シュトラハヴィッツは二度と戦場に立てない体となってしまった。今は政治家として、国を動かす立場で日々を戦っている。
アイリスディーナ・ベルンハルトは東ドイツ革命後、欧州本土防衛戦の最中に消息を絶ってしまった。欧州の軍関係者は彼女の死亡を断定し、捜査は早々に打ち切られた。
尤も、革命の最中でヴァルターにシルヴィア、ファムらが戦死してしまい、グレーテル・イェッケルンは革命の混乱の中で重傷を負い、第一線を退いた。
そして、革命軍の勝利の立役者でもあったアネットが最前線にい続けているが、彼に次ぐ実力者と目されていたテオドールはアイリスディーナのMIAと共に消息を絶ってしまった。
酷く憔悴していた失踪前の様子から、アイリスディーナのことを強く思っていたことは明白だった。
だから、666中隊の最後の一人として、アネットは生き残る必要があった。
少しでも、彼に追いつけるようにと。
金色の髪にミステリアスな瞳。東ドイツ最強と謳われた伝説の衛士。
1995年に、持病により永眠した彼の太く短い、衛士としての英雄譚の最後は、ベッドの上だった。元々長くない命であり、自分がここにいるのは、猶予なのか、それとも大罪を少しでも洗い流せと、いけ好かない奴に蹴り飛ばされたのか、分からないと零した。
テオドールのその時の瞳は、恐ろしいものだった。まるで空虚な、虚無を見ているような瞳だった。彼ほどの男が、こんな最期を迎えるのかと、彼の心にひびが入り始めたのは、この頃かもしれないと、アネットは今思うのだ。
彼は預言した。自分をこの星に導いた者が、導き手が救った世界が、この世界に現れると。
まるでおとぎ話のような予言。アネットたちは半信半疑だった。そんな都合のいい話があるのかと。いまさらそんな話をされて、グレーテルは不愉快な顔をしたものだ。
しかし、アイリスディーナとウルスラはそれを信じた。何より、彼の遺物がこの世界で作ることが不可能な代物であることからも、彼ほどの男がこの土壇場でそんなホラ話をするはずがないと。
そしてようやく、10年以上が過ぎて、地球連邦軍という巨大な組織が現れた。
彼らの簡素的な歴史の成り立ち、そして戦争を乗り越えた軌跡を知ることになった。
アネットは思う。なんだこの眩しい国家は。英雄リオンを生み出し、彼を支えるバックアップ態勢を整え、オーブ防衛戦では少数で大群の大西洋連邦の大艦隊を打ち破る大金星。
その直後に英雄リオンは最後の戦いを感じ取り、単独で宇宙へと急行。地球滅亡のシナリオを阻止したという。
人間業なのかと疑いたくなる。
そして、現在の地球連邦が存在している。もし、彼のような人間がこの星に生まれていたらどうなっていただろうかと、想像し彼女はその考えを途切れさせてしまう。
彼であっても、この星は救えないだろうと。
世界からの注目と、リオン・フラガという大英雄の礎の上に誕生した地球連邦軍は、各国に戸惑いを与える。
1997年12月
そして山百合女子衛士訓練学校では、ジグルドたちが日々BETAと呼ばれる怪物の生体を学ぶ中、ヤマト中佐や他の政府官僚たちも来日を果たしている。未だに琵琶湖からの移動は制限されているが、帝国と連邦政府の話し合いは継続中だ。
その最中で齎される欧州の正確な惨状、ユーラシア大陸での人類の敗北の連続はかなり深刻であると言える。
一夜にして数百、数千万が死ぬ現実。彼らが侵攻した土地は不毛の土地となる。生命の息吹すら根こそぎ奪う存在、それがBETAなのだと。
現在の帝国の軍隊でそれを守り切ることは、何かの神風でも吹かない限り到底達成できることではないことも、あらためて思い知らされた。
連邦軍は現在第七艦隊が積極的に動き、水中用MSネオグーンと、戦略MAザムザザーの配備を進めている。空を守るフリーダム、ジャスティス、ガルム中隊だけではマンパワー不足であることを予測した政府は、大火力と水中での彼らの行動が制限されることに目をつけ、特化型の機体配備を進めているのだ。
巖谷中佐も、常々口にしていた。
——————連邦軍が参戦に傾いて、ようやく五分といったところだ。彼らの物量は、いつも我々の想定を超えてくる。
ジグルドと、クロードはその言葉を聞き理解する。
それほどの苦境に立たされているという事実を目の当たりにし、日本帝国の未来が暗いままであることを理解させられた。
そして、彼らと同期のように訓練校に配属された少女たちは、おそらくこの防衛戦に巻き込まれるだろう。
このような年若き乙女たちにも、それを必要とするほどに、官民一体で団結しなければ、この本土防衛は成功しないということだ。
「——————想像以上、だね。僕らの考えている以上に、帝国は戦略的に」
クロードは、何とも言えない表情を浮かべていた。個人としては力になりたいが、現状それは難しいのだ。
「——————こうして、BETAについて講義を受ける時間も少ないということか。機体の状態は万全にしておかないとな。いつ指令が下るか分からない」
ガルム中隊は、現在バックアップメンバーの域を出ない。連邦議会は与野党関係なく意見を出し合い、紛糾している状況だ。しかし、彼らもこの戦争への介入は、一つ間違えれば泥沼化すると悟っているのだ。どうしても慎重になる。
「そういえば、ジークは新型モビルスーツの開発の許可を先日貰ったみたいだけど、どうして? リゼルでもダガーでも、通用するはず…‥」
「損耗を抑えるためには、新たな概念が必要となる。すでに研究室は現地で確保している。今後BETAの知識を得て、それなりの対策を基に設計した機体があれば、この戦争の終結も早まるだろう」
「——————確かに、だとするなら、ジークが言っていた篁の中佐殿かな?」
戦術機に正式採用されているあの武器。刀の切り返しは、乱戦の中では非常にメリットがある。しかも、彼らは化け物との戦闘で多くの経験値を持っている。
技術交流については既に帝国との道は開けている。後は行動するのみだ。
「—————後日知ったことだが、あの長刀を開発したのは、彼らしい。武器に寄って戦術機の動きを洗練し、かつ合理的な戦闘スタイルを確立させた。彼に刺激を与えれば、いいものが組みあがるだろう」
「なるほど、それほどの技術者なら、トレース技術を用いて武器に合致した動きをモビルスーツに与えることができるかも。それに、まだまだあるんでしょ?」
「まだ秘密だが、いくつかのプランがある。形になれば、クロードにも教えるさ」
一方、学生たち以上に真剣に講義を受け、BETAについて学んでいるガルム中隊のジグルドとクロードらの様子は、女学生たちにとって新鮮なものだった。
「しっかし、あんなに部外者の軍人が集中して授業を受けていたらさ、こっちまで余計なプレッシャーだよねぇ」
離れた場所で、尚も席を立とうとせず、話し込んでいる二人を見て、石見安芸は苦笑いを浮かべていた。
「それは仕方ないよ。地球連邦の軍人さんたちは、BETAに対して知識が皆無なんだから。それに、これも立派な命令が下されているでしょうし」
それを、甲斐志摩子が咎める。彼らは明確な目的があったここにきている。当初は部外者に関わる暇はないと厳しい態度だった真田教官も実直な連邦軍人、特にジグルドとクロードに対してはどこか態度が柔らかいように見える。
休憩時間中にも真田教官と二人が話し込んでいる姿は目撃されているのだ。
「それよりも、彼らの上官二人だけが九州に派遣されるらしいけれど、たった二人で何が出来るんだろうね。忠道もいるのに、連邦軍は案外けち臭いんだね」
そんなことよりも、連邦軍がキラ・ヤマト中佐、アスラン・ザラ大佐の両名を九州防衛戦に参加させることを取り決めたことに対し、能登和泉はかなりご立腹だった。彼らの戦力に限りがあるのはうすうす感じているが、ここまで露骨に戦力をあまり出さないとなると、文句の一つも言いたくなるものだ。
「まあなぁ、その二人がどれほど凄いのか、うちらは全く分からないし、案外ワンマンアーミーみたいな存在なんじゃね? ほら、一騎当千とかそういうの」
「——————そうね。でもこれが、現状地球連邦軍が出せる戦力であり、自由に動かしやすいということは、特記戦力であることは容易に予想できるかも」
篁唯依は、友人たちの会話に合わせつつ、巖谷中佐から伝えられたキラ・ヤマト、アスラン・ザラの実力について、既存の戦術機では表現できないという話を聞いたのだ。
—————正直なところ、あの二人の機体は異様だな。実際に見せてもらったが、量産機ではないし、それが可能なコストとも思えない。
完全なワンオフ機。試作機ですらないという。高い力量を持つ個人に合わせられた極限に突き詰めた設計。それは間違いなく異端の設計思想だ。
—————だが、帝国の衛士試験の実技を体験したところ、ほぼすべてで超人染みた数値をたたき出したんだ。思わず私は目を擦ったほどだ。
——————間違いなく、彼ら二人は地球連邦軍が誇る究極の衛士のランクに入ってくる存在だ。
究極の個に与えられた、極限にカスタマイズ、設計された戦術機。それが許される力量を持つということは、唯依にとっても衝撃だった。
—————もしかすれば、トップガンと言われているジグルドさん達も、そうなのかな
その後も、唯依達は連邦軍の動向について話したり、話が脱線して他愛のない話に移ったり、この休憩時間を過ごすのであった。
訓練校では来る戦禍が忍び寄る空気が近づいていた。連邦政府の動きも活発となり始め、帝国もまた存亡の危機に対する策謀を張り巡らせることになる。
彼は一人、戦術機の訓練に励む学生たちを見て、心苦しさを抱えていた。
「わかっている。わかっているさ。これが仕組まれたことであることも」
ジグルドは、伏し目に彼女らを見守る。彼女らは速成上がりで、おそらくこの帝国本土防衛戦にかり出されるであろうことも。さらに斑鳩という五摂家の者が、彼女らとの接点を作らせたがっていることも。
「見捨てることが、正しさなのか? 彼らの思惑に乗ることが、間違いなのか」
軍人として規則は守る。だから上がその戦闘に参加しろというなら、その命令を順守するだけだ。何の命令も抱えていない今、ジグルドの心は揺れていた。
——————きっと多くの少女たちが死ぬ。俺たちが、力を尽くしても…‥‥
「なぁに黄昏てんだよ、ジーク! いつもの取り越し苦労か?」
「——————あんたは本当に能天気というか、ライブ感で生きているな、ヘリック‥‥‥」
ヘリック・ベタンコート少尉が、何を思ったのか仲間たちや少女たちとの雑談をやめてこちらにやってきたのだ。そこにはいつものおちゃらけた雰囲気がなかった。
「———————この出会いは仕組まれている。俺たちが事を起こすことを、望んでいる者がいる」
「それ、後になってくると、関係ないだろ、たぶん」
ヘリックはなんでもなさそうにあっさりと答えてしまう。何無駄なことを考えているのかと。
「戦争になれば、連邦の兵士が死ぬ。迂闊なことは出来ない。連邦市民が納得して、戦争に参加するなら、議会から承認があれば、俺たちは動けるが‥‥‥」
議会からの承認がなく、軍隊が独断専行を行えば、それは秩序の乱れを招く。そんな無責任なことは出来ないし、それをする覚悟もない。ジグルドは、だからこんな出会いはと悩んでいるのだ。
「おいおい、市民が喜んで戦争に賛成するって、本気で思っているわけ? それは大きな間違いだぜ、ジグルド」
呆れた口調で、ヘリックはその問いに対し、即答する。望んで戦争を求める奴が本気でいるのかよと。
「昔、俺らが生まれて間もない頃、戦争の傷跡って、やばかったんだぜ。物がないやら、モラルがないやらでな。そんで、大義名分っていうのが人を縛った。良くも悪くも人はそれに従ったよ。それがないと、当時は暴発寸前だったからな」
ジグルドはヘリックの言葉を聞いてはっとする。記録でしか聞いたことがない。オーブ消滅の危機があったことを思い出す。
戦争終結後、残党狩りはあった。地球連邦の治世が全て、綺麗だったとは言い難い。新しい体制に納得できず、旧支配者の興した最後の抵抗。
ロゴス、そしてその他のカルト集団や、人造人間を作った組織。それらは市民に被害を出すまでもなく、裏で容赦なく葬り去られた存在だった。
その粛清を断行し、四将軍の中でその最前線にいた二人のうちの一人だったアスラン・ザラは、呻くようにジグルドの前で独白した。
——————選んだからには、平和を維持してみせる。捨てたのなら、その先の未来を背負う。そう思わなければ、乗り越えられなかったな。
「——————大義名分、あるじゃねぇか。国民が望まなくても、それは起きてしまうんだ。全部奪われた後に、後悔したって、遅いんだ。それにおまえだってほんとは彼らの力になりたいんだろ?」
俺たちは動けるが、なんて言ったのでまるわかりだぞ、とその迂闊さを指摘され、ジグルドは言葉に詰まる。
「それは‥‥‥」
その先は何も言えなかった。
「——————国とか、外交とか、いろんなものを俯瞰的に見えてしまう立場なのはわかる。実際、連邦兵士のことを考えれば、お前の躊躇は正しいだろうよ。けど、立場でそれが変わることぐらい、お前も分かるだろ?」
「—————————————」
それはかつての戦争でも同じだったし、残党狩りの際に彼らが放った断末魔もそうだったらしい。分かっている、分かっているのに踏ん切りがつかない自分がいる。
「否定しろなんて俺は言ってねぇよ。お前の意見も間違いじゃねぇ。ただ、あるがままを飲み込んでみろよ。出撃許可がなければ、行動しなくていいし、出たなら持てる力の全てを込める。今は、事が起き始める前から悩んでも仕方ない時だろうよ」
「…‥そうだな。どうしたって参戦にも、不参戦にも反対意見が出てくるはずだ。望んで戦争をしたいって思う人はそうそういない。義憤や、感情論、それらが動かされて、それが起きるのも分かっている。その選択が正しいかどうかを吟味する間に、決断しなきゃいけない時もある。それが、いまなんだろうな」
「そうそう。だからさ、割り切れよ。でないと、マジで死ぬぞ」
「——————悪い、助かる。まだどこかで気負い過ぎていたみたいだ」
忠告を受け、吹っ切れたジグルド。まだすべてに納得したわけではない。しかし、ジグルドの心は既に決まっていた。
———————お前の思惑通り、俺は見捨てたくないと思っている。そうだ、認めるさ…‥
「ちなみに俺は、まじで助けたいと思っているぜ。それに俺らが、歴史的な出会いを果たしているって自覚しろよな。俺たち以外の人類だぜ。これって、ホントはもっと報道するべきことだろうよ」
「そうだよな。本当は、武器を持たずに、彼らと‥‥‥‥」
「だな」
本当はキセキみたいな出会いのはずだったんだ。だから、それを惜しいと思い、この星に住む彼らが人間だって、分かっているんだ。
———————いつか、人と人が手を取り会える現実が、この星にもできれば…‥‥
綺麗事はたいていの場合、実現不可能な無理難題ばかりである。だから現実に折り合いをつけて、今を生きるしかない。
幾分か表情が憂いから普通のそれに変わったことで、ヘリックは安堵する。そう簡単に、倒れてしまっては困る。
—————————だけど、きれいごとは、やっぱりきれいなんだよ。どんな生まれの奴が抱こうとな。
そうさ。お前は、この現在の未来を勝ち取った証なんだ。そうだよ。いつまでも続いてなきゃいけないんだよ。そうでないと、届かなかった未来はどうなんだって話だ。
————————選んだからには、生きてその選択を張り通せよ。ま、元世界の敵だった奴らの、その血筋を引いている
俺が言うのもなんだけどさ
ま、俺はいい。俺はただ一つ正しい、どんな人間にも否定しようのない正しさを持っている。誰かに何と言われようと、構うものか。
「ジグルド、誰かの笑顔って、やっぱいいよな?」
「どうしたんだ。強化服を着た女学生を見て…‥‥やめろ、俺を巻き込むなァ!!」
「一覧托生って、知っているか?」
「おいっ!!」
日常パートは、今だからこそ描けないことを描こうと思います。
五摂家の彼も、悪い人ではないんです。立場が違うだけなんです。
ゲームをプレーした人には散々な評価ですけど、彼の国だって、それなりの正義があるとTEをプレーして思いました。僕らは白銀君や、ユウヤ君の視点でプレーするから、それが立ちはだかる壁に見えるだけで・・・・・
みんな追い込まれている、視野が狭くなっている、この世界に住んでいるからこそ言えますが、本当に苦しい世界なんだな、と
だから、正義と正義が違えた時、お互いが絶対に引けない。まるで、BETAと人類の戦争のようだと、思いました。