Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~   作:傍観者改め、介入者

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第八話 影と、傷跡と

第五惑星の1997年も年末が近づきつつあるなか、

 

 

第一惑星ではCE.91年の夏に突入していた。サマーシーズンを満喫する連邦市民は、戦争など嘘だと言わんばかりに日常を謳歌しており、近頃話題となっている第五惑星の人類との遭遇、未知の異星起源主との遭遇など、大イベントに関することが噂話となっていた。

 

なお、工業惑星である第2惑星、リゾート・大自然保護区の第3惑星、開拓が進行中の第四惑星では、それぞれの季節を迎えており、それぞれが違う顔を出していた。

 

 

しかし、その惑星周辺のコロニーでは、政府関係者や一部の軍関係者より伝えられた第五惑星の深刻な状況、異星起源主の敵性を通知されており、厳戒態勢がすでに敷かれている。

 

 

連邦政府、連邦軍は重い腰を上げ、惑星圏内における防衛体制を構築し、それを市民に公表するタイミングを窺っているのだ。マスコミ関係者もその方針を決める会議に参画し、対応に追われており、彼らもまたビッグスクープであると同時に今までの連邦が築き上げた道のりを壊しかねない事柄に難儀しているのだ。

 

マスコミ関係者は口を開く。

 

「私は、あちらの国連と軍事同盟が結ばれる見込みが出来たならば、公表するべきかと」

 

しかし、軍関係者は異を唱える。

 

「それでは遅すぎる。やはり、日本帝国との国交開通、軍事同盟を結んですぐのタイミングだろう。よく我慢してくれて非常にありがたいが、秘匿の期間が長すぎればカガリ様の顔に泥を塗ることにつながりかねない」

 

 

「この報せを聞いた時にはビッグスクープと舞い上がっていたが、状況はそんな生易しいものではないな。伝える瞬間のアナウンサーの心中を推し量れない」

 

「初めて外宇宙の人類に出会ったと思えば、これか…‥慎重に動くべきだ」

 

あーでもない、こーでもない。マスコミ側は慎重になり、軍関係者は速く行動を移すべきと考え、政府関係者は妥協案を模索していた。

 

 

 

なお、見識者たちも独自に情報を集め、事の重大さに気づき、いち早く隠密ではあるが行動に移している連邦の動きをいずれも評価しており、沈黙を守っている状況。むしろ、生物学者や宇宙生態学に精通する学者は揃ってこの生物への対処を行うべく、チームが結成されつつある。

 

 

驚くべき団結力。地球連邦憲章の発布など、文化の融和、融合政策を推し進めた政府関係者と、宇宙に目が向いている状況があったからこそ、地球連邦は一つの事柄に取り組む力が養われていた。

 

 

これは、連邦圏内において高い割合で衣食住、多様な文化の融合、融和が、民間レベルにまで深く進んでいたからであり、二度の大戦で人種差別、イデオロギーの恐ろしさ、その前の大戦では宗教が人類に与える狂気を身をもって知っているからであり、それらは過去の産物となっている。

 

 

なお、お正月、クリスマス、夏祭り等の各国の催しはそれぞれで補完されており、宗教を知らない人でも気軽に楽しめるイベントに成り代わっている。市民も彼らが忙しなく動き始めていることに違和感を覚えつつも、政府関係者がいつ沈黙を破るのか、注目していた。

 

 

 

 

その噂の第五惑星、第七艦隊所属のジグルドは、互いにコミュニケーションが不可能で、絶滅するまで戦う相手と遭遇する悲惨さを、間近な環境で思い知ることとなった。

 

 

 

 

 

 

12月23日。ジグルドは、その日様子のおかしい彼女を見て思わず話しかけてしまったのだ。

 

「顔色が悪い。体調がすぐれないようならば、無理をするべきではない」

 

その少女の名前を蓮川という。

 

「大丈夫です。それに気分は優れないどころか、良好です♪ 連邦軍の軍人さん」

 

笑っている。なんでもなさそうに表面上だけで。どこか無理をしているような気がしてならない彼女を見て、ジグルドは踏み込む切り口を見つけ出せずにいた。

 

「そうか。しかしこれから大雪での悪天候下において、戦術機に搭乗し、実践訓練を重ねる大事な時期だ。少しの油断が思わぬ怪我につながることもある。どうか無事何事もなく、訓練を切り抜けてほしい。貴方を見てそう思った次第だ」

 

しかし、何とか無事であってほしいと願っていることだけは伝えたい。ゆえに、エールを送るだけに留めようとするが、その後の言葉は見過ごせないものだった。

 

「国連軍の軍人さんは、優しいですね」

 

「え? いや、私は国連軍ではなく、地球連邦軍所属の—————」

 

 

「えっと、貴方はどうして私と話をしていたんでしたっけ‥‥私、うっかりなので」

 

 

「え、え———————いや、君が、無事であってほしいと」

つい数分前の話だぞ、とジグルドは絶句した。痴呆になっているわけではあるまいに、何かおかしい。それに、どこか焦点が合わないような。

 

「なぜそのように慌てているんですか? おかしな人ですね」

 

 

「——————————すまない、少し用事が出来たみたいだ。ここで失礼させてもらうよ」

 

ジグルドは、真っすぐに職員室へと向かう。真田教官に報告しなければならない。あの精神状態は尋常ではない。このまま放置すれば大事故につながり、大怪我は避けられない。悪ければ命が。

 

そして、ジグルドはある予想が頭によぎってしまう。

 

 

———————俺の杞憂であってくれ…‥頼む、あの年で、まだ将来に可能性がある今の時期で、こんな、こんなことが

 

 

 

事の次第を伝えたジグルドは、真田教官から驚いた眼で見られたが、蓮川少女の様子を伝えた際に、表情が完全に消えたかと思えば、

 

「——————————っ」

 

憤りを感じさせる憤怒の表情が出たのだ。何事かと問いたくなる事柄でもあったが、野暮に聞くものではない。教官が落ち着くまで待つことにしたジグルド。

 

 

「———————わかった、蓮川のことは俺に任せておけ—————どうやら、聞きたいことがあるようだな」

 

 

「——————講義の中で、戦術薬物投与の事実を知りました。数分前の記憶齟齬、唐突な喜怒哀楽の発露。統合失調症に似た症状の数々。さらに言えば、空間失調の大きな原因にもなり得る。これが悪酔いの——————」

 

 

合理的だ、合理的ではあるが、ジグルドは真田教官を責める気持ちにはなれず、日本帝国を責める気力が沸き出ることはなかった。何もかも足りない、何もかも届かない。その足掻きがこれなのだ。

 

彼が否定しないということは、そういうことであり、ジグルドの最悪の予想が当たったことに他ならない。

 

 

「勉強熱心だな、アスハ中尉。その通りだ。これは元々、大陸で衛士たちに投与され、恐慌状態を起こすことなく、任務を遂行するために開発された。だが、蓮川のように適合できなかった者には、相応の症状が出てしまう」

 

 

「では、彼女はもう——————このままでは命が危ないですよっ!」

 

何事かとジグルドについてきたクロードがショックを受けた顔をし、今すぐ彼女を除隊させるべきだと訴える。どう考えても惨事を引き起こしかねない。

 

「——————あぁ、両親には俺が説明をする。命があるだけやり直すチャンスはある。だが、こんな状態で、果たして幸せと言えるのか——————っ」

 

 

子供たちにこんな非道な薬剤を投与することを強いられる大人である真田は、悔しさに震えていた。

 

クロードとジグルドは、真田教官の震える声を黙って聞くことしかできなかった。

 

 

数日後、蓮川訓練生は統合失調症等の、訓練継続が困難となった為、傷病扱いとなり、訓練校を去ることとなった。

 

見送りに来た女子生徒たちは動揺を隠せず、ジグルドたちも彼女に見送りに参加した。しかしジグルドの目から見ても、誰の目から見ても、彼女はいったい自分が何をしているのか、最後まで理解していなかったように見えたのだった。

 

 

 

京都——————斑鳩家所有の屋敷にて

 

 

「なるほど、女学生が一人除隊を。それは雅やかではないね」

 

 

「はい、統合失調症の発症による治療の為とありますが、おそらく悪酔いの影響でしょう」

 

斑鳩崇継は、山百合女子訓練校での報告を聞いていた。勿論、彼女らに目的があるわけではない。

 

 

「彼女の退学については、連邦軍の士官が関与していたようです。症状のこれ以上の悪化を防いだとか」

 

「——————そうか。ではこちらの目的は上手く軌道に乗っているとみていいな」

 

 

ジグルドたちが、肩入れすることを誘導していたのだ。普通の訓練校、または資料を与えるだけでいいと他の家は考えていた。無論煌武院悠陽もそう考えていた。しかし、崇継だけが実際に学校に行かせるべきだと進言したのだ。

 

案の定、彼らは彼女らの訓練での苦境や、大陸からの苦戦や絶望的な状況を知ることとなり、こちらへの同情的な心情が作り上げられている。

 

 

「——————地球連邦政府との国交の開通。それは一応達成したものの、軍事的な面ではごく一部。連邦随一の衛士と聞くが、まだ帝都防衛には届かない」

 

 

1997年11月に地球連邦政府は、日本帝国と正式に国交を結んだのだ。しかし、軍事的な相互の安保についてはまだ時間が足りないのだ。

 

 

「ゆえに、帝国本土防衛の際には彼らの軍勢を少しでも多く引き出す必要がある。それに、彼らは世界情勢にとても強い興味があるということも聞いている。今後も彼女たちから有意義な話を聞かせてあげたいのだよ」

 

 

そして思惑通り、連邦政府は連邦市民にも大まかな情報を開示した。連邦市民は、宇宙に潜む潜在的脅威を認識し、強力な団結心を生む。市民の立場としては、第五惑星に襲来した怪物がこちらにもやってくる可能性がある。政府は市民の安全を守る為、開拓活動を中止しており、防衛網を構築している。かつての英雄たちをフルに動員してだ。

 

それらの動きに対し、市民に不満はない。むしろ連邦政府の気合の入り様を感じることが出来た。ただし、第五惑星の世界情勢が不安であることから、出兵には慎重な意見も出ていた。

 

だが、市民の本音としては、この広大な宇宙の中で、同じ人類が誕生しており、かつての旧時代ほどの文明をはぐくむ彼らを見捨てたくはないと感じているのだ。

 

だからこそ、一人の一人の市民が真剣に考えていた。

 

 

1998年1月。ガルム中隊の一員であるジグルドたちの研修が一定の成果を出したことで、完了の時期を迎えた。

 

「お世話になりました。この知識を必ず仲間たちに伝え、来たるべき戦いに備えることに注力します」

 

代表してジグルドが真田教官に挨拶を行う。当初の関係性よりも大分改善されており、真田教官も勤勉な彼らの学習態度は女学生たちも見習うべきだとやや感じていた。

 

——————これが、連邦軍のトップガン、か。

 

彼らは授業中みられているという自覚があったのだろう。地球連邦軍のエースたちであると、見られている。だからこそ意欲をもって課題に取り組み、その習得率は高い。

 

「連邦軍の参戦は、現在貴様らの上官二人だけだが、やはりあの二人は連邦軍の中でも別格なのか?」

 

キラとアスランと出会ったことがない真田。そんな二人に対し、尊敬の念を覚えている彼らに、その二人について尋ねた。どれだけ彼らは出来るのかと。

 

「そうですね。あの二人相手では勝ち目はありませんが、どちらか一人ならば、中隊の壊滅で何とか」

 

客観的な戦闘予測を伝えるジグルド。しかし、

 

「兄貴なら、小隊の援護があればどちらか一方は落とせるだろ? ドラグーンの攻撃に被弾しなかったの、兄貴だけだし」

 

ディルムッドは、キラの遠隔操作兵装に被弾しなかったジグルドの力量的に異論を呈す。それに、ジグルドの生存率は高い。あの二人に防戦一方で終了時間まで粘っていることが大半であり、彼らに撃墜判定を食らった面々がジグルドを見守る時間が長くなる風景は日常茶飯事であった。

 

ジグルドとしては、時間制限がなければ撃墜されていたと本音を述べているが、あの二人の攻撃の嵐を前にして生き残る彼の力量は物凄いことなのだ。

 

「ドラグーン?」

 

 

「いえ————(こら、ドラグーンの兵装はまだ機密扱いだろうに)」

 

小声でディルムッドに注意をするジグルド。九州防衛戦で嫌と言うほど目にするだろうが、まだ隠しておきたい兵装である。

 

「なんにせよ、我々の出番も遠からずあるみたいです。詳しいことは軍務上お答えできませんが、必ず帝国のお力にはなれると思います」

 

 

 

 

「了解した。それ以上は聞かないでおこう。お互い、来たるべき時に備え、牙を磨いておこう。こちらも、部外者からの刺激で学生たちにいい緊張感を与えてもらった。蓮川の件も、それ以降も悪酔いが疑われる学生を見つけ出してくれて、礼を言う。おかげで今年は、訓練中の事故死がなかった」

 

お互いに礼を言う合戦になりかけている。真田教官の背後にいる教官たちも、ジグルドの後ろに整列するガルムの面々も、表情こそ出していないが、

 

—————お互い、トップが堅物だなぁ

 

 

「こちらこそ、講義に参加させてもらったのです。ありがとうございます。とはいえ、こうもお互い謙遜していては、埒があきませんね。我々は目の前の人事を全うしていた。今は、それでいいと私は思います」

 

いい加減別れが名残惜しいので、ジグルドは上手く切り上げを行う。今は、道が分かれても、同じ道で彼らとともに今度は戦う。その予感はあった。

 

「ふっ、それもそうだな。また会おう。ガルム中隊」

 

 

「ええ。今度は戦場で共に」

 

 

 

ジグルドたちが去った、1998年1月中旬。さらに月日が少し流れ、運命の日が訪れる。

 

 

 

1998年1月26日。光州作戦と、その結果である。それは、日本帝国が最前線になることを確実にしたモノであり、第七艦隊の一部部隊を東京湾に集結させることにつながるものだった。

 

 

 

丁度その頃、地球連邦政府は日本帝国・第二帝都東京に領事館を建設。以降日本帝国政府との連携強化をにらんだ体制づくりの一つとなる。

 

そして、その完成と同時に電撃訪問するのはフレイ・アルスター上院議員。カガリ・ユラ・アスハ議長と同期の若手議員であり、その美貌と才媛ぶりは連邦市民からも注目されており、人気議員の一人である。

 

「ここが、日本帝国。ウェイブやラスさんは一足先に訪れたというけれど、中々風情のある街並みね」

 

どこか古めかしく感じるが、温かさを感じる街並み。街中を歩きたくなるような懐かしさがある。

 

彼女が光州作戦の悲劇を知ったのは、日本帝国首相榊是親との会談中だった。

 

 

会議中に秘書が慌てて部屋に入り、榊の耳に何かを知らせている。フレイはその様子を黙って待つ。そこを遮るのは無礼であるからだ。恐らく、相当に良くないことがおこったのだろう。連邦政府と帝国にとって初となる議員クラスの直接会談の中での凶報といえると推察される。

 

「榊首相?」

 

 

「すまない。光州作戦の発令に伴い、国連軍司令部が陥落した。多くの国連軍将兵が犠牲となったようだ———————」

 

そこから先は、軍部をとるか、それとも国連からの評価を選ぶのかの二択だった。

 

 

その報せは、篁邸でテレビを眺めていた篁祐唯とお邪魔しているジグルド、クロード、ヘリックにも伝えられた。

 

「———————脱出を拒む難民の救援に向かった大東亜連合を助ける為、彩峰中将が指定の作戦行動から逸脱し、彼らに協力した結果、致命的な戦力の空洞が出来てしまい、国連軍司令部が堕ちた、のか」

呆然とするジグルド。そのあまりにも重大な敗戦は、日本帝国にも無関係ではない。

 

「————————難民はどうして脱出を拒んだんだ!? どうしてっ!!」

 

クロードは、避難しようとしなかった難民たちに問いかける。しかし、そこには誰一人としてその難民たちはいない。

 

「————————帰属意識って奴なのかもな。何となくわかるぜ、その気持ち」

 

ヘリックは、呆然としている二人よりも先に冷静になり、彼らの心情を汲んだ。いつ帰れるか分からない滅びゆく故国。ならば、故国が滅びると同時にその生を終えたい。そんな絶望を宿す感情が、そんなナショナリズムが彼らを、悪い方向へと進んでしまった。

 

「———————ジグルド、クロード。俺たちとは違うんだ。生まれも文明も、歴史も。約20年前に起きた滅亡回避から空前の成長を遂げる連邦政府と、BETA大戦に飲み込まれていく諸外国を見続ければ、そういう意識が生まれるのもなくはないんだぜ」

 

 

「——————その通りだ、ベタンコート少尉。そしてその帰属意識は我々帝国人にも無関係ではない。だからこそ、帝都の死守は、それだけ重い役目なのだ」

 

日本帝国民の象徴であり歴史そのものである京都。それが破壊されるなど有ってはならない。何より将軍のおひざ元であり、五摂家も住まわれる千年の都。

 

武家にとって、これを守ることは存在理由の一つである。

 

「———————どうなるんですか、彩峰中将は———————抗命ということになれば、この国の刑法では確か——————」

 

ジグルドは青い顔をする。資料でも拝見したが、彩峰中将は軍部のまとめ役でもあった存在だ。それだけ慕われているといってもいい。そんな彼が刑法通りに処罰されれば、軍部の反発は必至。

 

「——————確か、現在国連の計画は第4計画で、その次はアメリカの—————」

 

 

資料で呼んだが、第4計画に劣らず酷いものだった。第4計画が空想科学も真っ青な理解が難しいものならば、第五計画は現実的ではあるが、無謀であると言わざるを得ない。

 

「——————俺たちは無論アメリカの計画には反対だ。せっかくの地球型惑星だ。それに、核爆弾を超える威力とその性能さえ掴み切れていない。それをユーラシアに落とすとなれば、彼らからの反発は必至」

 

だが、ヘリックの意見はやや外れている。アメリカは虎視眈々と帝国と連邦政府の仲たがいを狙っている。その目的は多岐にわたる。

 

 

一つは、地球型惑星の確保による第五計画の正当性を主張するためだ。連邦が所有する惑星こそが移住先には最適であると。

 

次に、連邦政府内部へのロビー活動だ。アメリカは連邦政府に取り入り、その内部から掌握を狙っているのだ。その長期的な計画を始動させ、最終的にアメリカを連邦政府の頂点に据える。

 

無論、それを画策しているのはまだごく一部であり、連邦政府とアメリカの国力の差は理解している。惑星4個分の国力と、惑星一つの、一国家でしかないアメリカでは勝負にはならない。だが、やれる手は打つ。それがこの世界におけるアメリカという国だ。

 

無論、カガリたちもそれは警戒している。これまでの歴史や、彼らの提唱する計画に関して危ういものを感じている。しかし、連邦政府は第4計画に対しても懐疑的な目を向けている。

 

「—————考えても仕方ない。今できるのは、ガルムがどの空を飛べばいいのかだな。最悪のシナリオは、中国地方の防衛陣地の側面を挟撃されることだし。倉敷尾道出雲等の拠点がどれだけ側面への警戒を維持できるかなんだが」

 

「逆にキラさん達がいる九州は、陥落の可能性がないかもしれない。そうなれば、戦力を分岐させたBETAがこちらに逐次投入を行えば、当初の防衛計画が根本から崩れる」

 

 

「——————水中型MSの実戦配備が、間に合いそうにないのが痛いですね。空と地上だけでは防衛は難しい」

 

 

真面目モードのヘリックと、ジグルド、クロードはガルム中隊の作戦行動範囲を決めかねていた。

 

 

「そういや、あの嬢ちゃんたちは大丈夫なんだろうか。速成の中でも特に速いって真田教官からは聞いているけどさ」

 

そこへ、ヘリックが山百合女子訓練校の生徒たちについてぽつりとつぶやく。この大陸戦線の悪化は、間違いなく彼女らにも影響がある。

 

「——————なくはないだろうな。しかし、実戦未経験の兵士をあの物量の中に放り込むのは消耗にしかならない。まだ彼女らが命を賭ける時ではないはずだ」

 

 

「でも、現有戦力でも防衛は難しいとの専門家の意見も多いですよ。国家存亡の危機なんです。形振り構ってられる余裕が今の帝国にあるかどうか」

 

ジグルドもクロードも、彼女らの未来を想像し、苦い顔をする。これから帝国がどうなっていくのか。その先行きに不安を感じる三人だった。

 

 

 

 

 

そして光州作戦の顛末は、決定されつつあった。

 

 

 

「榊首相。わざわざお越しになってくださり、言葉もありません」

壮年期に入ろうとする男性が、朗らかな声で同年代の男性を出迎える。

 

 

「——————すまない。本当に申し訳ないッ。だが、帝国の未来を案じれば案じる程、選択肢が狭まっていく。分かっている、分かっているのだッ、どちらも正しいはずだったのだと」

 

密かに彼を訪れていたのは、この国の首相。そして、いてもたってもいられず同行したフレイ・アルスター議員。

 

彼の血の気が失せるほどの表情を見た時、放置することは頭になかった。内政干渉や入れ込み過ぎと言われるかもしれないが、それでも、ふらつく足取りのリーダーをそのまま見送ることは出来なかった。

 

 

「———————分かっておりますとも、榊首相。私は、彼らを助ける判断をした。そして結果的に多大な犠牲を強いてしまった。その責任は、取らねばなりません」

 

 

「——————日本の未来の為、中将—————ッ、貴方にはこの国の刑法通りの判断を下すことになる。しかし、妻子の身の上は必ず私の手で守ると誓わせてくれ。そうでなければ、君を犠牲にする覚悟がつかない」

 

そして、一国の首相が挙句の果てに土下座までしたのだ。人望ある彼を犠牲にしなければならない。知らない仲ではない。だからこそ、心苦しく、胸が張り裂けそうなのだ。

 

「———————身に余る温情、感謝いたします、榊首相。ですが、すぐにこちらへは参られては困りますよ———————この国の未来を、頼みます」

 

 

その数日後、国連への潔白を証明するため、彩峰中将は抗命という国内法の中でも最も重い罪状を受け入れ、銃殺刑となった。

 

これを機に、軍部は榊首相への不信感を抱くものが生まれてしまい、未来に遺してしまう火種となって、雌伏の時を与えてしまうことになる。

 

 

 

 

 

1998年 3月

 

 

ウェイブのフラガ家のコネを使った輸送艦の配置はほぼすべてが完了し、後は防衛戦に備えるだけとなった。

 

 

そんな彼は崇宰恭子の案内の元、京都の町を回ることとなった。

 

 

「これが、京の都、千年の歴史を誇るこの国の首都、かぁ。雅やかな雰囲気だ」

 

伏見稲荷大社。様々な運気を向上させるとして、人々に愛されてきた名所の中でも最高クラスの場所である。

 

その焔の色にも見える鳥居の造形は、ウェイブにとっても新鮮だった。

 

「(崇継と同じセリフ、)そうね。ここは、商売繁盛、五穀豊穣、家内安全、芸能上達の神、稲荷様を奉っている場所なの。帝国民なら生まれて一度は必ず訪れる場所よ」

 

 

「そっかぁ。その稲荷様には是非とも願わないとな」

 

「—————分かり易すぎるって言われないかしら?」

苦言ではあるが、その言葉に棘はない。まんざらでもなさそうな彼女の様子に、終始ウェイブはニコニコしていた。

 

 

次に向かうのは、この伏見稲荷大社からほど近い場所にある伏見神賽(かんだから)神社。ここでは、あの日本で有名な書物の一つである有名な物語縁の地であり、叶雛(かなえびな)の信仰も残る歴史ある場所である。

 

「———————やはり、ここ数日の人の出入りは相当、みたいだな」

 

 

「——————大陸での戦況は、あまり公表していませんが、国民もうすうす理解しているのかもしれませんね。それでもなお、離れようとしない——————嬉しくもありますが、戦うものとしては——————」

 

辛そうに目を伏せる恭子。守れなければ、ここにいる国民は間違いなく死ぬ。その事実が彼女には重すぎる。彼らの愛国心を思うからこそ、実直な彼女は悩みを抱えてしまう。

 

「——————いざとなれば、俺も出る。ここを廃墟にされるのは、中々我慢できないものだ」

 

ウェイブは先ほどまでのニコニコ顔を途端にやめ、真剣な口調でこの都を守る決意を固める。彼女の笑顔を曇らせる怪物たちに好きにはさせないと。

 

「—————貴方は商人なのでしょう? それも、若頭の身の上。万が一、貴方に何かあれば、私は腹を切らねばなりません」

 

 

「ッ、腹なんて切らせねぇよ、絶対に——————今更かもしれないけど、連邦軍は第二帝都に第七艦隊の戦力を集中させることになったな。そしてキラさん達も九州に出向いている。京都の守りにはガルムの面々がいる。だが、やっぱりたりねぇ。様々なリスクを思い浮かべると、後一歩が足りねぇ。俺がその最後の一押しをしたいと思っていたんだが——————ところで、妹分もこの展開だと—————」

 

 

「——————唯依達も、おそらく戦場に出るのでしょうね—————こんな状況で、速成上がりのあの子たちを、戦場にかり出さなければならないなんて……」

 

 

「京都のことは、ジグルドたちに任せるしかないな。君に心配されたように、俺は市民の命を守る戦いを最初に行う。その後だな、その先を考えるのは」

 

 

地球連邦軍による輸送艦での疎開活動、帝国の国家強靭化計画で整備された陸路を活用し、4月から疎開活動が始まっていた。

 

 

これは、連邦政府が強く希望したことであり、必要な物資食料はこちらで輸送するという条件も付けくわえた。現在、連邦軍は日本の太平洋側排他的経済水域内にて、海上プラントの建設を開始している。これは、榊首相含む内閣一同が強く要望したことであった。

 

 

そして、連邦政府はこの第五惑星地球に存在する国家全てに声明を出す。九州防衛戦に戦力を投入し、最終防衛ラインである帝都にも軍を派遣する。

 

その上、第二帝都東京には予備戦力となる第七艦隊の主力を進駐させることも決定された。

 

一気に動き出した連邦軍の動き。帝都防衛には機動力が優先され、ガルム中隊の全面展開が必要最低限となる。

 

政府間のレベルでは内定レベルで進められていたことだ。迅速に連符軍は第二帝都に大艦隊を派遣し、四将軍を九州に、ガルム中隊を京都に展開させた。

 

 

地球連邦軍参戦の報せは、帝国民にとって数少ない好ましいサプライズニュースとなった。

 

「あの空飛ぶ戦艦を浮かすような異星人が、味方になってくれるとは」

 

「これで京都も安心、というわけではないけど、遠い惑星の人類が、帝国に力を貸してくれるなんて」

 

「宇宙が嫌いだったけど、なんか宇宙を好きになれそう」

 

概ね国民の反応は良好だった。中には、

 

 

「俺、実は琵琶湖での連邦軍の訓練見たんだ。瑞鶴や、不知火の比じゃねぇ。音速で飛び回る戦術機なんて初めて見たぞ」

 

「そんななのかよ! すごいなぁそれ!」

 

「もしかすればレーザーを避けるんじゃ」

 

「さすがにレーザーはよけれねぇだろ」

 

 

 

九州の最前線へと向かう戦艦ニカーヤは、帝国民の歓迎を各所で受けていた。遠い星の同胞が、日本帝国の為に立ち上がった。そして、威風堂々たる戦艦を空中に浮かして、最前線へと向かっているのだ。

 

 

「——————————————ほんとだ!! 新聞の通りだ!! ほんとに空を飛んでる!!」

 

 

「すっごぉぉぉぉい!!! なんであんな風に飛んでいるの!? ねぇ、ねぇ!! どうして!?」

 

子供たちは、その外観とその動きに目を奪われる。いつか自分もあれに乗ってみたい、いつか自分もあんなものを作ってみたい。色々な妄想、想像、空想が働いていく。

 

空は怖い場所だと説明され、空を見上げることが恨めしく思えるような世界観だった。人類がかつて手にした空は怪物の光によって奪われ、あんな風に飛ぶことはもう叶わない光景のはずだった。

 

だが、その現実は覆される。利害に寄って動けなかった各国の、この星のモノたちではなく、異星人というのは皮肉としか言いようがない。

 

 

「あれが連邦軍の軍艦…‥‥頼むぞ、異邦の戦士たちよ、私の息子を頼みます」

 

「どうか娘を守って…‥お願い、お願いだから、あの子を守って…‥‥」

 

「————————神頼みも、彼ら頼みもするさ……それで父さんが生き残るなら‥‥‥」

 

 

そして彼らに願いをかける者は、憧れだけではない。今も九州には精鋭たちが我先にと参陣しているのだ。そこには大切な家族の大黒柱を送らねばならないものもいた。

 

家族にとって、目に入れても痛くないほど愛しい娘もいた。

 

衛士になって、兵士になって、怪物たちから日本を守るのだと意気込んだ、家族思いの青年もいた。

 

「頼む、人類が奴らにやれるということを、目にもの見せてくれ…‥」

 

「優紀の仇を、お願いします、お願いします…‥‥」

 

かつて、一家の宝だった子供たちを奪われた者たちがいる。すでに男性の兵士は明らかに減っており、女性兵士、女性衛士の姿も珍しいものではなくなっていた。そして、彼女らもまた怪物どもとの戦いで命を落とし、家族に悲しみを齎すことになってしまった。

 

もう何もない。何も残っていない。しかし、まだ希望がある。希望がやってきた。彼らは縋るものを連邦軍へと変えて、ただひたすらに祈っていた。

 

 

「—————————————責任が、重いな」

 

アスランは、大陸派兵に限定していた帝国でこれだということは、諸外国の、領土を失った、国を失った彼らの感情はどれだけのモノかと推し量った。そして推し量ることが出来なかった。

 

 

——————彼らの期待が、重い

 

 

「————————願いによって、人は突き動かされる。それは良くも悪くも人の本質で、変わらないものなんだ。あれくらい受け止めないとね」

 

しかし、キラはいたって平常心だ。この親友はこういうところが図太い。それが無神経に思われることもなくはないが、頼もしさも感じている。

 

 

「————————ところで、第七艦隊の方はどうなんだい、アスラン」

 

 

「———————海洋打撃群の火力支援はぎりぎり間に合うかもしれない。ザムザザーの配備は既に完了しているから、先行出撃による電撃戦も可能だ。絶望視されていた水中型MSの配備も、ウィンスレット社の協力で、なんとかなりそうだ」

 

 

「それは上々。なら僕も第八艦隊の進捗を話そうか」

 

それまでの軽薄な態度が鳴りを潜め、真剣な目でアスランと向き合うキラ。

 

「ジェネシスの建造はあと数ヶ月ほど。そして重光線属種の照射によるダメージは、巨大兵器のラミネート装甲の前では無力であるとの計算結果も出た。しかし、宇宙軍による宙域の哨戒活動も入念に行っているとはいえ、建造にMSを動かしているから、どうしたって初動が遅れてしまう場合があるのは落ち度だと思う」

 

 

ジェネシスの兵器自体には問題はない。むしろ光線属種の攻撃に耐えることができることから、作戦成功の確率がかなり高いとみていい。

 

しかし一方で、ルートによっては着陸ユニットの迎撃に遅れが出てしまうのは無視できない案件である。

 

「姉さんにあとで戦力の増強、人員の増員を相談するべきだね。第八艦隊の利点は機動戦による大規模な作戦遂行能力にあるんだけど、その反面拠点防衛には向いていないのがね」

 

今は亡きハルバートン提督が考案した大規模な機動電撃戦による作戦行動。MSと大型MAをグループとした、攻撃戦略は大きな影響を与えている。これは、第八艦隊が先の大戦やレクイエム事変などにおける、作戦遂行の速度を重視していたという伝統的な背景がある。それゆえに、第八艦隊は高機動MSの花形とまで言われており、実力者が集う最強のトップガンが揃うグループでもあった。

 

第七艦隊はそれに追従した結果だが、予算の問題から他の艦隊は拠点防衛の色が強いグループとなっている。要するに軍縮のタイミングの前に機動攻撃の強みを獲得した部隊であるということだ。

 

「お互い、ギリギリの綱渡りということか。なんにせよ、まずは帝国本土の防衛だ。ここを落とされると、連邦の外交戦略が根本から崩れてしまう。それと、一ついいか、キラ」

 

 

「どうしたんだい、アスラン」

 

アスランは、前々から不安に思っていた案件を口にする。

 

 

「お前にしかこんなことは言えないんだがな。やはりジグルドの容姿は何か遺伝だけでは説明がつかない。報告こそしていないが、訓練中に目の色が変わるというか」

 

「訓練なんだから目の色は変わるでしょ。ジグルドはあの通り真面目な性格だから」

 

キラは、一体何を言っているんだと笑うが、その時から目がもう笑っていない。

 

「違うんだ。赤色から、あの青い目に代わっているんだ‥‥‥‥機体内部のカメラで、オペレーターが軽く悲鳴をあげてしまったので寄ってみれば‥‥‥カガリは何も言わないし、ならお前ならと当たってみたんだが…‥‥」

 

 

「———————アスラン。僕は君の親友でいたいし、勘の鋭い君ならこの件に気づくだろうと思っていた。けどこれは、彼自身の問題なんだ…‥‥」

 

それ以上は、ダメだよ、とキラは暗にそういっているのだ。

 

 

「しかし……‥あいつの望みがそれとは思えないんだ。才能に振り回される奴を見るのは、どうしたって心が痛い」

 

アスランも、苦々し気に語る。それはキラのこともさしていた。スーパーコーディネーターなんていう埒外の生まれ方をして、真っ当な育ち方を何とか出来たキラはまだいい。世の中には、それで失敗作と断じられて捨てられるケースも多かった。

 

才能によって生き方が決められてしまうのは、おかしいのだと、遺伝子の存在を強く意識するアスランだからこそ、警戒しているのだ。

 

「——————————ただ、僕が言えるのは一つだけかな。ジグルドのアレは、遺伝ではないよ。少なくともね」

 

 

「—————————今は教えてくれそうにないな、まったく、姉弟揃って口が堅い。だが、俺が心配しなくても大丈夫なんだな? それだけは聞かせてくれ」

 

 

「————————ああ。大丈夫だよ」

 

 

キラは、その通りだと真心を込めてアスランにそう答えるのだった。

 

 

 

 





地球連邦側のマスコミ関係者は、色々考えているのです。

第五惑星は知りません

特ダネはその辺りにあるので、どうなるかな・・・
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