Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~   作:傍観者改め、介入者

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~九州戦役~
第九話 連邦の信念


各地の疎開が開始された地域では、フラガ家の私兵に準じる使用人たちが市民の収容を急いでいた。

 

「落ち着いて!! 急がず、慌てず、落ち着いて進んでください!! 全員分の座席は用意してあります!!」

 

「押さないでッ! 落ち着いてください!!」

 

彼らも国民の苦境を知っている。だからこそ、大声で指示を飛ばし、監視の目を強める。その監視は彼らを疑うというものではない。むしろ、この大混雑ではぐれる者がいないか気が気ではない。

 

 

「——————ありがとうございます。このご恩は忘れません」

 

「陸路が埋まった以上、進退窮まったと思ったけど、本当にありがとう」

 

「おじさん、ありがとう!!」

 

座席へと進んでいく国民たち。その国民たちのありったけの荷物を管理するのも重要な役目だ。

 

「E-002349はこっちだ。違う違うっ、それはFF-23号の荷物だ! 船を間違えるな!! それとそれはこっちのままだっ! 時間は限られているが落ち着け! 戻りが致命傷になるぞ!! タグをよく見ろ!」

 

使用人たちはタグをしっかり確認することを互いに周知徹底する。こんなくだらないミスで大切なものを紛失してはならない。

 

「輸送艦50隻のうち、20隻が離陸準備整いました!!」

 

「よおし! 完了した輸送艦から、福岡空港の管制塔に従い、順次離陸させていくぞ!! 滑走路は必ず開けろよ!」

 

輸送艦は24時間フル稼働。向かう先は、東北、関東、中部地方。整備員も3交代による常時整備機能を維持している。

 

 

連邦軍人ではできないことをやる。命を繋ぐ戦いを行うと宣言したウェイブは、手持ちのコネを最大限使い、未来を繋いでいく。後に、ウェイブの決断は「命の箱舟」と各国から賞賛されることになるが、目の前のことで必死なウェイブはそれを知る由もない。

 

 

迅速かつ大規模な行動に出る連邦軍と民間組織。九州の避難は7月上旬で完了するとのことであり、予想されたペースを上回る勢いだ。

 

四国は既に海路にて、第二帝都に派遣されていた第七艦隊の主力を展開し、避難活動に従事している。

 

「船は必ず出します!! おちついて、おちついて!! 順番を守って進んでください!!」

 

とはいえ、古くから礼儀や慣習を重んじる日本国民はよく訓練されており、避難に応じる国民はスムーズに連邦軍専用の輸送船に搭乗していく。

 

「——————しかし、日本の国民のこのルールを守る意識のレベルはどうなんだ? 手間がなくていいのだが」

 

「彼らは本当に国民なのか。いや、手間がかからないからこちらとしては助かるのだが」

 

連邦軍第七艦隊の面々は、日本人に圧倒されていた。

 

 

マスコミも、帝国政府と連携し、行動に移している連邦軍を好意的に見ており、精悍な顔つきで国民の手を取って助けている連邦軍と帝国軍の姿を捉えていた。

 

その様子は、山百合女子訓練校でも同様だ。

 

和泉は避難活動で全面支援をしている連邦軍の動きを評価しつつ、九州戦域で二人だけなのは変わらないことに腹を立てている。

 

志摩子と安芸は、あのガルム中隊が京都防衛に参加する手筈となっており、顔見知りの彼らが戦場に出ることで頼もしさを覚えていた。

 

 

唯依は、もちろん連邦軍の参戦に喜んでいたが、輸送艦や第七艦隊による避難活動が進み、避難先でも連邦軍が物資食料を提供するなど、手厚い対応に感謝していた。

 

 

——————今は、一つの国が終わるか、それともその運命に抗うかの瀬戸際である。未来に関しては、まずは日本帝国とともに抗った後だ。

 

 

——————勤勉な帝国は、必ずや恩を返し、我々もその行動に報いる必要がある。

 

 

そして、初めて見るジグルドの———————母親。

 

女傑と言ってもいいオーラと、凛々しくも、女神の如き容姿をもつ“女帝”の姿に、世の男性は圧倒された。

 

ハイパージャンプ先の光年離れた場所にいる、連邦政府の最高権力者。

 

 

そして、ジグルドも持っていた、燃えるような美しい焔の瞳。あれは母親譲りであったのだと悟る。

 

 

——————ジグルドさんも、この夜空を見ているのかな

 

夜空を見上げると、連邦政府預かりの民間組織の輸送艦が嵐山上空を飛んでいた。

 

それも複数の機影が見えた。

 

 

こんな夜遅くも、いや、後がないからこそ彼らは動いているのだと気づく。そんな日夜努している民間組織に感謝し、彼のことを思う。

 

——————大丈夫、だよね。

 

 

——————絶対に守るさ。この都は、必ず、それに君達と戦場で会えたなら、必ず力になる

 

別れ際に遺した彼の言葉を思い出すたびに、胸が熱くなる。

 

 

そして、篁邸にすっかり入り浸っているジグルドたちもまた、夜空を見上げていた。

 

 

「——————なぁ、兄貴の予想だと、どれくらいなんだ」

 

 

「——————7月にはもうリミットだと思うな。帝国から頂いた資料、衛星写真から見た総数を鑑みれば、その辺りになると思う。気がかりなのは——————」

 

ジグルドにはキラの様なガンカメラはない。しかし、複数の資料を確認し、おおよその見当はついていた。

 

「台風が時期的に重なるということか。兵站に影響が出ないといいんだがなぁ」

 

 

「防衛戦において、兵站ほど大切なものはないよ。側面からの挟撃には警戒してもらわないと」

 

ヘリックとクロードは、一貫して台風のことを気にしていた。それに今年の気候は何か変だと現地住民の話を頂いている。

 

「そういえば、中佐殿と行っている設計図はどうよ? ダガーをベースにした新型機って話だが、間に合うのか?」

 

ヘリックがジグルドに尋ねる。ここ最近研究室で作業を行っていた新型モビルスーツ(戦術機)の進捗はこの防衛戦前で明らかになるのかと。

 

「まだ半分といったところかな…‥今回は機体の補給方法が大いにコストを圧迫していてね。長期戦闘を想定し、且つ高性能な機体を意識していたんだけど、なかなか難しいね」

 

肩をすくめるジグルド。彼とクロード、篁中佐と一部の人間しか知らない。諸外国の目は連邦軍の主力兵器に目が向いており、アプローチもない。

 

しかし、肝心の新型モビルスーツの開発にはコストが膨れ上がっており、ダガー5機分では話にならない。それもこれも、ジグルドと篁中佐がいいとこどりを狙っているからではあるが。

 

「プランBの対光線属種を想定した機体群については、コストが高すぎて頓挫しつつあるんだよねぇ。やはり、新型の核融合炉の動力部の小型化は急務だね」

 

クロードも、プランBの方の計画もなかなかうまくいかないと苦笑いである。

 

 

「——————俺の後輩たちがやばすぎるんですけど」

ヘリックは、通常の業務と並行して開発を行う後輩たちの能力に畏怖を覚えていた。未だにデスクワークが苦手過ぎるヘリックは、もう突っ込み切れないと匙を投げる。

 

 

「気にしないでくだせぇ、ヘリックさん。士官学校時代にロトを設計した鬼才っすよ。同期の中でもドン引きする奴らはいましたよ‥‥‥」

 

ヴィストンが、そういうことはいちいち考えない方がいいと先輩にアドバイスを送る。その他、リゼルのコスト低下にも一役買ったエピソードもあり、それらの外部功績が原因でいきなり中尉なんていう立場になったのではと、同期組は確信していた。

 

「一つ下の世代が凄いって、ずっと話題になっていたもんね、あの頃」

一つ年齢が上のアンリ・ドミネクスは、その頃から二人は有名だったよねぇ、と愚痴る。

 

「俺覚えてなーい、俺、自分のことで精いっぱいだったし‥‥‥訳分かんね…‥ほんと、訳分からんし、うちの世代レベル高すぎ…‥やばい目で見られる気持ちわかったけど、味わいたくなかったし…‥」

 

ジグルドたちと同期のウォルト・マーニュは、我関せず。しかし、周りをドン引きさせる彼ら二人を見て食らいつこうとして、結果的に自分もドン引きされる立場になり、知らない血縁者が増えたとぼやく。

 

「人事を尽くしていた、今も昔も、それだけなんだがなぁ」

 

苦笑いのジグルド。

 

「人事を尽くして天命を待つ、だっけ? いい言葉というか、東洋の神秘はいいな」

 

そして同期組でジグルドの背中を追い続けた一人でもあるゼト・シュバリエは、ジグルドの武骨なスタイルは悪くないと、東洋の諺を用いて肯定していた。

 

 

 

そんなやりとりをしていたジグルドたちブラヴォーチームは彼の研究室に入り浸るようになる。そして、隊員たちを巻き込んだジグルドは来たるべき決戦に想いを馳せる。

 

 

——————そんな中、多くの敵を屠り、彼らを最初に救えるのは、ヤマト中佐なんですよ

 

 

九州にいる上官に想いを託すジグルド。

 

 

 

1998年7月7日

 

そして九州防衛戦において、連邦軍から大命を受けた二人が九州防衛ラインにて大陸が見える方角の海を眺めていた。

 

九州の避難民は、どうにか間に合った。四国もこの分だと程なく完了するだろう。

 

 

気がかりなのは、国家強靭化計画があったとはいえ、渋滞が発生している中国地方。散発的なBETA襲来もあり、戦闘状態に入っているとの報告もある。記録的な台風4号の影響も重なり、戦場は酷い環境である。

 

 

「——————どうにか無理を言って、俺たち二人だけでも戦線には立つことが出来たが」

 

「うん。二機だけでは広すぎるね。連携は望めそうにないと思う」

 

アスランは、この防衛戦で人が死ぬことを悟っている。自分たちに出来るのは何を拾い、何を捨てるのかだ。

 

九州の避難民を含めた防衛を取るか、それとも痛手にならないよう撤退時は中四国を取るか。

 

台風七号の接近だけが不安要素だった。

 

「どう思う、キラ。台風の進路は、その勢力は——————」

 

アスランはキラのガンカメラに問いかける。彼の眼は万能だ。人の眼では見えない情報を抜き取れる。だから、彼には気候の変動すら読み取れるだろう。

 

 

あの時、例の煌武院屋敷押し入り騒動の時にはガンカメラを起動させていなかった。全てはキラのジョークである。本当は、小型艇に乗り込む前にガンカメラで瞬時に街の様子を観察していたのだ。だからこそ、建物の材質、人の行き来、密集場所、服装の至る所まで観察し、彼はあのポイントを正確に算出したのだ。

 

ガンカメラは、人智を超えた視野を宿主に与える。人類最高峰の頭脳を備えるキラは、その負荷に容易に耐えることができるのだ。

 

 

「——————まずいね。正確にはまだ言えないけど、7月の上陸時は防衛戦どころではないかもね。上陸日に当たらなければいいんだけど」

 

キラが危惧しているのは上陸日とBETA上陸が一緒になることだ。それでは大半の海洋部隊が近づくこともできないだろう。光線級のレーザーが減衰されるとしても、それは気休め程度だ。

 

悪天候、視界不良。その天災による兵站の損害。指揮系統の混乱。これらを総合的に鑑みると、あまり想像したくない、算出したくない未来がすでにキラの網膜には見えていた。

 

「—————悪いことが重なるな、もしそうなら—————」

 

「けど、ウェイブの判断がなければ、輸送艦による避難民の完全避難は出来なかったよ。あれは命綱だ。絶対に守ろう、アスラン」

 

既に四国九州は避難が完了しつつある。後は九州で粘り、中国地方に住む避難民の時間を確保するのが最優先の命題となる。

 

これがなければ、どれだけの犠牲者が出たことか。二人はまずはその点についての不安をしなくていいことになった。

 

「ああ。そのつもりだ」

 

決意を新たにする英雄二人。ここで無駄死にはさせない。ここで少しでも多くの命を救う。そう意気込んでいた。

 

「あ、あの」

 

そこへ、一人の斯衛軍兵士がやってきたのだ。まだ年若い、ジグルドと同年代あたりだろうか。

 

「うん? そろそろ作戦会議かな」

 

「は、はい! 司令部より召集がありましたので、ぜひお二人には同席してほしいとのことです」

 

年若い少年衛士は、アスランとキラを案内し、九州防衛司令部に足を運んだ。

 

 

「待っておりました。貴方方が陣営に加わったこと、心より感謝します」

帝国軍の司令官はキラとアスラン威助力してくれたことの感謝の言葉を述べる。

 

「連邦政府もけち臭く、こちらもすいません」

 

「聞けば、精鋭中の精鋭だとか。しかし、最前線は我らが。せっかく出来た、宇宙の友人を死なせでもすれば、将軍閣下に顔向けできませんので」

 

朗らかな会話が続く司令官とキラたち。物腰の低いアスランとキラの丁寧な口調に気を許した司令官と、他の将校たちも珍しさに彼らの機体について聞いてきたのだ。

 

機密以外のことは話した二人だが、そのことで輪が生まれた。

 

「ともに戦いましょう、異星の英雄殿。そして、第七艦隊の手厚いご支援、感謝の念を禁じ得ません」

 

「後ろを気にせず戦えるというのは、それだけで気が軽くなるものです。この地を守り切れずとも、死ぬのは我々だけですから」

 

司令官からの少し洒落にならない感謝の言葉を伝えられ、アスランはぎょっとするが、キラは自然体のままだ。

 

——————これほど絶望的な戦いだというのか、奴らとの戦いは

 

 

————————死なせるつもりはないよ。僕らが派遣された意味を考えて、アスラン

 

小声で発破をかけるキラ。アスランはやはり生真面目すぎるのか、その言葉を真に受けてしまいがちであり、そんな未来、絶対に防いで見せると意気込む結果となった。

 

 

そしてそれは、帝国軍、斯衛軍も同じだ。遥々遠い宇宙の友人と共に戦い、武勲をあげることも出来ず、情けない最期を迎えるつもりはないと、覚悟しているのだ。

 

 

並々ならぬ、不退転の決意で臨む九州守備隊。その気迫は嫌と言うほど伝わる。

 

 

そんな空気の中ダコスタ艦長は、作戦内容を確認していた。

 

「いいか。これは訓練ではない。我々の戦いはいかに多くの戦友を救うことだ。絶対に生きて帰るぞ、ホームへ。」

 

 

「悪天候の中、動ける船は我々ぐらいでしょう。艦長はどのように?」

 

部下の一人が台風の襲来に伴う戦線の混乱について尋ねる。

 

「最悪の場合、我々の突貫も覚悟しなければならない。部下たちには心の準備だけでもさせておくさ」

 

悪天候の中での出撃もあるかもしれない。ダコスタ艦長は、部下たちにそれも必要になるかもしれないと伝えていた。

 

 

 

怪物どもの襲来までわずかな時間が残されている九州沿岸部。配属されて間もない田上忠道少尉は、ランサーズ中隊の一員としてこの地で奮戦を実家より強いられていた。

 

無論彼もそのつもりなのだが、この悪天候が予期されている局面で、果たして自分はどれだけのことができるのか、迷いを抱えていた。

 

———————いけませんね。こんな面持ちでは。それでは和泉を戦場に誘うようなものです。

 

 

彼は、首に下げているペンダントを見て、ふっと笑っていた。今もきっと京都で訓練に励んでいるだろう。叶わぬ願いだとしても、彼女には訓練だけで終わってほしい。そんな甘い未来に縋りたくもあった。

 

「——————恋人か、少年」

 

すると、天幕より姿を現したアスランに呼び止められたのだ。慌ててペンダントを隠した忠道だが、

 

「いい。楽にしてくれても。恋人が、大切な人がいるというのは、それだけ生きる力が与えられることだ」

 

「アスランの言う通りだよ、少年。それは何一つ恥じることではないからね」

 

 

「その、私は————小官には田上忠道という名が—————」

少年と言われるのはいささか恥ずかしかったのか、忠道は自分の名を紹介する。

 

「そうか。なら生きて帰るぞ、田上少尉。まあ、最前線で暴れて帰るぐらいは出来そうだからな。少しは数を減らせるだろう」

 

 

「猪突猛進な近接武者よりも、僕のほうが射撃でパパっと落とせるんだけどね」

 

「仕方ないだろう。ジャスティスには兵装がそんなにないのだから————」

 

「冗談だよ。手が届くのはきっと、そっちが早い」

 

 

軽口を言い合う二人の英雄。歴戦猛者と聞くが、その雰囲気を感じ取れる。周囲は二人の登場まで張り詰めた空気の中にいた。だが、彼ら二人が来たことでそれは変わる。

 

—————何が何でも、たとえ無様であっても、私は貴女の下へ帰ります、和泉

 

ペンダントを固く握りしめ、忠道少年は活きて許嫁の下へと変える決意を強めた。

 

 

 

そして京都では———————

 

 

ジグルドは、予想された日が訪れてしまったことで、ミカエルに乗り込み、紅いリゼルの整備を万全な状態に施していた。その後、艦長に呼び出されてZディフェンサーへの内定も言い渡され、リゼルが追いつけなくなっていた事実を見抜かれ動揺もしていた。

 

だが、気がかりなのは

 

——————篁さん、君も行くのか、あの戦場に——————

 

休日の合間を縫って、彼女と話をする時間は多かった。今度は、彼女の友人と自分の友人も一緒で。

 

 

ゆえに、ディルムッドもジグルドが興味を引いた少女とその友人たちとコンタクトをとる機会はあった。

 

それは、技術交換において親しくなった篁祐唯中佐とジグルドの距離が縮まったことで、彼のもてなしを受け、彼の屋敷へと案内されたときのことだ。

 

ジグルドは終始硬いままではあったが、人を遠ざけるということはせず、ただ年頃の女学生と交流する機会が少なかったため、やや気後れしているだけだったのだ。

 

 

 

訓練校での短期間での学習という名の任務を終えた面々は、特に話し込んでいた女学生のグループ多と接触する機会があった。

 

「隊員の中でも、アンリは心配症で、ジグルドは堅物なんだよ」

 

「まるで、志摩子と唯依みたいだなぁ、わはは!!」

 

大げさに笑う小柄な少女、石見安芸とディルは早速意気投合した。今は現地を訪れていない隊員たちの赤裸々な話は、彼女らに刺激を与えた。

 

「いや、何事も軽挙妄動は出来ればするものではないと考えているだけだ。任務時間外とはいえ、俺たちは連邦圏外にいるんだぞ」

 

「それはそれ。これはこれだ。現地の人たちと交流することは、悪いことではないだろ、兄貴。開示可能な機密以外をしゃべれば、まずいけどな」

 

リラックスしているディルムッドと、まだ緊張をやや解いていないジグルド。ちなみにディルムッドは難なく正座を行い、ジグルドは正座が出来ない為、やはり椅子に座っている。

 

「そういやさぁ! ジークはいつ篁中佐の娘さんとどうやって出会ったんだよ! 数々の美女を見てきたが、あれは将来別嬪さんになるぞ!」

 

そこへ、ヘリックがどうやってそこのショートカットな美少女と出会ったんだと揶揄ってきたとき、ジグルドの表情が固まる。同時に、ショートカットの美少女と言われた篁唯依は顔を赤くしてヘリックから距離をとってしまう。

 

「え? 誉め言葉なのに、地味にショックだぁ」

 

「—————ヘリックさん。帝国の女性は慎み深いといわれているんだ。あまりにオープンでは、それなりの対応をされるのは当然だ」

 

 

「何々? そういうことか、なるほどぉ、釣り針はデカくしないといけないってことかぁ」

 

「——————なぜそちらに思考が誘導されるんだ…‥‥」

 

頭パリピなヘリックの物言いにジグルドは眉間に手を当ててしまう。

 

「そんな疲れた顔をするなよ、兄貴。せっかくのもてなしだ。楽しまないともったいないぜ」

 

異父弟でもあるディルムッドにも、さっきから堅いぞと突っ込まれるジグルド。しかし、羽目を外し過ぎるのは考えモノではないかと、その微妙なラインを模索するジグルド。

 

「———————ジグルドさんは、すっごい真面目な方なんですね」

 

志摩子は、そんなジグルドの軽薄ではない雰囲気に、興味を示しているようだった。まるで日本人と話しているみたいで、どうにも外見に違和感を覚えるばかりである。

 

そして、志摩子は先ほど感じていた考えを明確にした。

 

「ジグルドさんと、唯依は似ていると私も思うよ。だから、ジグルドさんも唯依も自然と話が合うんだと思う」

 

その時だった、志摩子はジグルドと唯依が似ているといったのだ。

 

「え? 俺は機械オタクで、明るい性格ではない男だ。むしろ、篁さんが話を合わせてくれているだけありがたい。あまり長く話をするタイプではないのでな」

 

謙遜の言葉しか出ないジグルド。固い、硬すぎるよ、兄貴、とディルムッドは頭を抱え、それがジークの良さでもマイナスでもあるんだよなぁ、とつぶやくヘリック。

 

 

「ううん。一つのことに向かって、真摯なところとか、周りを見ているところとか。寡黙気味だけど、人に気を遣うことができる優しい性格なところとか。ジグルドさんの良いところはたくさんあるよ」

 

笑顔でいろいろなことをぶちまける志摩子。純粋な笑みを向けてくれる存在は今までどこにいたのか。

 

「その、あまり褒めてくれるな、甲斐さん。それは母上の指導がよかっただけのこと。母の息子として生を受けたからには、しっかりしなければならないと。ただそれだけだよ」

 

母親のことは尊敬している。幼少の頃のバカな反抗期や思春期を良く面倒を見てくれたと思う。自分の道を切り開くため、母親から距離をとったのだ。だからこそ、無様な真似は出来ない。

 

 

————俺は、親父とは違う。

 

心中ではいつもその答えしかなかった。だから、母親が愛し、今なお純愛を貫いている彼には到底届かないと理解している。初恋が母親であることは生涯の秘密であり、今後もそれを誰かに話すことはない。だからこそ、その言葉を誰よりも強く理解している。

 

「まあまあ、堅物の言い訳を置いといて。普段唯依ちゃんとジークはどんな話をしているんだ? 休憩時間とか、真田教官の尻を追っかけるばかりじゃないだろうし」

 

「—————————」

微妙な目をするジグルド。しかし一同はそれを放置。唯依だけは、まさか男性同士で、と少し混乱していたが、彼の態度を見てすぐにそれが過ちであることに気づき、憐憫の表情を送る。

 

————————ジグルドさん、弄られてばかりだけれど、それだけ慕われているのかな

 

 

「うんと、戦術機の話とか、かな?」

安芸は、二人が話をするのは決まって戦術機の話題だったと証言する。

 

「うんうん、そうだった、そうだった! 戦術機でいろいろ語り合う二人があまりにも熱心で、お似合いだって、私も思うもん」

和泉は、唯依とジグルドの戦術機談議が様になっていることを議題に挙げた。

 

「特に、74式近接戦闘長刀の形状のバランスの良さについて、ジグルドさんが語っていたよね。ビーム重斬刀の形状に新たな設計思想を組み込めるかもしれないって」

 

 

「よ、よく覚えているね。石見さんは」

 

「え、えっと…‥‥」

 

二人してそわそわし始める唯依とジグルド。そんな様子に一同は思う。こういうところも息が合っているのかと。

 

しばらくすると、落ち着きを先に取り戻したジグルドが、コホン、と咳払いをして。

 

「いや、俺はあの刀がいいものだと思ったから、はっきりとした意見を出せたのだ。全ての部位を光学兵器への転用は難しいだろうが、あれはあれでいい。だが、いつか開発に着手してみたいとは思う。重心問題等は、かなり参考になったし、格闘戦に型を与える意味では、武器の特徴を引き出す良い設計だと思う」

 

「その際、私も協力させてくださいと———そ、それだけだよ! 私は他のことに対して意識をしていないから!」

 

一人だけ落ち着かれては困ると唯依が便乗するように話に参加する。いきなり割り込んできた彼女に驚くジグルドだが、なぜこんな行動をとったのかイマイチ理解していない。

 

 

何処までも機械オタクなジグルドと、頑なに他意はないと宣言する唯依。顔を赤くするのが唯依だけなのが残念だと一同は思う。

 

「こりゃあ、ジグルドさんのガードは固いなぁ」

 

安芸が残念そうに二人を見ていると、ディルムッドが朗らかに容赦のないあだ名を宣う。

 

「当たり前だ。堅物の異名をとる男だぞ、こいつは」

 

「————どんな異名だ、それは」

 

肩をすくめてジグルドはそう答えるしかなかった。好きで堅物と言われているわけではない。

 

「————けど、甲斐さんはよく見ているんだね、篁さんとジグルドさんを」

 

だがそこへ、クロードの奇襲攻撃が発動。思わぬ被弾を受けた目標はクロードの何食わぬ言葉に表情が崩れてしまう。

 

「え、えぇ!? うん、私、周りがよく見えるの! だって友達だもの!」

 

強く否定するが、気が動転しているのは明白だ。矛先が変わったことでほっとする唯依と、ジグルドは何がどういうことなのかまだ理解していない。この鈍感堅物男が。

 

「————ふふふ」

 

そんな志摩子の様子に笑みを浮かべるクロード。彼も時々は攻めの側に回りたいのだ。ゆえに、志摩子をターゲットに加えたのだ。

 

「———も、もう!」

 

 

それから、篁家直伝ともいわれる肉じゃがを食し、それぞれの家、屋敷へと帰路に就く一同。ジグルドは、話についていけない時もあったが、有意義な時間だったのだろうと感じていた。

 

—————悪くはなかった。ああいう空気も。

 

そんな日常があった。すぐにでも壊されてしまう儚い日々が。

 

 

出撃許可を待つ一同から外れた場所で、ジグルドは悩み続けていた。

 

 

 

「何をやっているんだ、俺は…‥‥‥」

 

 

 

 

 

 





原作では無敵のコンビだったキラとアスランが九州に。

新生されたジャスティスは、そこまで原作と性能がかけ離れてはいませんが、アスランの譲れない想いが、機体の設計思想に組み込まれています。


そして田上少年が登場。原作ゲームの口調を見よう真似です。果たして彼は生き残れるのか。
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