Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~   作:傍観者改め、介入者

15 / 21
マブラヴオルタ、1話の出来は良かったのに2話、3話はダイジェスト過ぎるとの声が・・・・・・・

後半に備えて力を蓄えていると作者は信じることにします。

佐渡島を含む北陸戦役の描写は貴重でした。

艦長たちもあんなん経験したら、アレの一撃でそりゃ泣くよね・・・・・


第十二話 痛みの先に(後編)

「——————ランサー1より、CP(鹿児島基地司令部)へ。これよりランサーズは光線級吶喊を行う。付近の機甲部隊、海軍戦力への支援砲撃を要請します」

 

 

『正気か、森島大尉!! いくら、他部隊に比べて損耗がマシとはいえ、この乱戦ではどうにもならんぞ! 連邦軍の英傑二人ももうすぐ出撃可能となる! 勇み足を止めろ!』

 

 

「仮に、彼ら二人が参戦し、危機を乗り越えたところで、またインターバルが必要となります。過酷な任務を数日間のうちに多く行えば、生存率も下がります」

 

連邦二人の助力を得たうえでならとCPがその蛮勇に反対する。事実、ランサーズ中隊が全滅、戦闘不能となれば、いよいよ九州中心部への侵攻を止められる手立てはなくなってくる。

 

それだけ、この物量を相手に善戦できているランサーズの精強さが際立っているのだが、他はもう大隊規模の部隊が全滅しているところもある。

 

「それに、BETA群の大量出現は無視できません。最深部へ行けば、その情報、予兆も確認できるはずです」

 

原因は、言うまでもない。あの突然現れたような地中侵攻と、浅瀬での個体群の出現。レーザークラフトの兆候もなく、あそこまで近づかれることはあり得ない。

 

——————何かが、あの個体群を運搬している。それなら、振動計測もそれを掴み切れなかった事実も頷けるわね。問題は、それの全容が全く掴めないことだけど

 

 

森島大尉は考える。九州陥落の文字がちらつく状況下で、光線級吶喊が成功すれば、九州は必ず立て直せる。

 

 

「——————分かった、司令部から許可が下りた—————長官ッ!? どうしてこちらへ‥‥!?「森島大尉、状況は理解しているな?」」

 

「狭間少将!?」

 

 

九州防衛の任を受ける狭間少将である。今回の対BETAの侵略に伴う漸減作戦を任されている身ではあるが、彼は本気で九州防衛を為し得ようとしている。

 

「連邦軍の支援は望めない。貴官らの僚機の救出に輸送艦も手配できない。支援砲撃も、この重金属雲の濃度では、まだ万全とは言い難いだろう。それでも頼めるか?」

 

 

「はっ、熟考の上、覚悟はできております」

 

森島大尉の決意は変わらない。隊員たちもこの戦局を打開するには、これしかないとわかっている。

 

「山口提督に連絡を。全機甲部隊はランサーズの光線級吶喊を支援しろ!! 残存航空戦力は離陸準備を! 立役者を必ず作戦達成後に援護せよ!」

 

 

戦車部隊も、砲兵部隊も、機械化歩兵部隊もその命令を聞いていた。そして覚悟する。ここで彼女らの作戦達成がなければ、時間稼ぎ前提のこの戦線は崩壊すると。そして、その作戦をとらない場合、物量に押しつぶされて敗北することも。

 

だからこそ、善戦の指揮官たちが我こそはと一斉に部隊の士気をあげる言葉を次々と吐く。

 

「よぉぉし、野郎ども! ランサーズの戦乙女たちの為に、レッドカーペットを敷くぞ!! 材料は前方にたくさんあるからな!! 遠慮なくぶっ放せ!!」

 

「はっ!! 見てくれの良さと、覚悟の決まった女どもにいいカッコしようと必死だな!!」

 

 

「九州防衛、この一手ですべてが変わるぞ!! 総員奮起せよ!! ここが正念場だぞ!!」

 

野太い雄叫びを各地で上げる兵士たち。彼らの中には戦術機適性試験に落第した者たちもいる。だからこそ、自分ではない誰かにその大役を託し、その成就の為に全力を注ぐのだ。

 

 

 

その作戦準備のために集結するランサーズ。陣形は鋒矢。その先頭は大崎大尉が務めることになる。これは彼自らが志願した。

 

「長く生きている最年長が、ここで体を張らないと、生き続けた意味がない」

 

親父役として森島大尉の補佐をし続けた男の意地だった。そして、この戦闘で3名もの死者を出したことを誰よりも悔やんでいたのは、彼だった。

 

「ランサー5、田上少尉、少しいい?」

 

「森島大尉?」

 

忠道は、突然隊長である森島大尉に声をかけられて戸惑う。自分は緊張していないし、バイタルも安定している。不安視することはない。これから出向く戦場で、全員同じ条件なのだ。

 

「まずは謝罪を。配属されたばかりのキミを、こんな大それた作戦に参加させてしまう。ここからはもう、文字通り命の保証は出来ないわ」

 

「熟知しております。もとより、志願をした時から覚悟の上です。大尉が気に病む必要はありません。そのお言葉だけで、痛み入ります」

 

忠道は覚悟を決めていたつもりだった。その最中、和泉の顔を思い浮かべてしまったが、それでも自分がここで戦い続けることで、彼女が戦果に晒されることはない。ならば足掻く、足掻いて足掻いて、生き抜いて見せる。死ぬ覚悟ではない。生きる覚悟を決めるのだと、彼は改めて決意する。

 

自分は今、軍全体の命運を担う、その中隊の一員なのだと。

 

「そう、ね。本当に強い子がウチの部隊に入ってくれたこと、感謝するわ。初陣の時から大した動きよ、キミは。いざという時、当てにさせてもらうかもしれないわね」

 

 

 

そして————————

 

 

 

「総員傾注、支援砲撃の準備は完了したわ。ここからは一蓮托生。特攻覚悟の鬼札…‥だけど私は、敢えてみんなに命令するわ」

 

森島大尉は、ランサーズの一員を見回し、檄を飛ばす。生きるための戦いを、より多数の部隊の未来を掴み取る為の戦いをするのだと、自分に、そして仲間たちに伝える。

 

「誰も死ぬな! 以上だ!! 総員、跳躍開始!!」

 

 

蛇行しながら、突撃級の足元を狙う大崎大尉の戦術。匍匐飛行を続けながら、後衛へと迫る。

 

 

山岳地帯にまで入り込まれていたが、だからこそ突撃級の速度は遅くなっていた。跳躍ユニットが忙しなく左右に動く、空力特性を利用し、少ない燃料で有効的な飛行を続ける。

 

 

「乙女たちのウイニングロードを邪魔させるなっ!! 砲撃の手を止めるなァァァ!!!」

 

 

重音を響かせながら、砲弾を次々と打ち込む機甲部隊。AL弾が次々と撃墜されていくが関係ない。今はこちらに目を惹きつけることこそが肝要なのだ。

 

 

「光線級吶喊の作戦に参加できるとは、その名誉は誇りだ! 遠慮なく突き進め、ランサーズッ!!」

 

要塞級が、撃ち漏らした弾頭の一撃でついに倒れる。そうなのだ。キラ・ヤマトとアスラン・ザラの足掻きは、隅々にまで、そして間接的に彼らを助けるのだ。

 

「迎撃率60%!! 光線属種の総数、想定よりやや少数!!」

 

 

「想定外ばかりだったが、想定以下とは嬉しい誤算だ!! 他の戦術機部隊は侵攻阻止を行え! 地形を利用し、 中型種の撃破を優先せよ!! 残る機械化歩兵と、砲兵部隊は小型種の殲滅に集中せよ!!」

 

司令部も、この作戦で一時的に戦線を押し上げることに成功しており、連邦両名の献身に心から感謝する。

 

——————彼らには感謝してもしきれない。だからこそ、この地を奪われるわけにはいかんのだ!

 

 

「突撃級の足を止める!! クラッシュさせて隊列をガタガタにしてやれ!!」

 

「了解っ!!」

 

「ランサー5だけに頑張らせるな!! 他も続けッ!!」

 

森島大尉、大崎大尉の射撃から一斉に奴らの足元を狙う。その思惑通り、バランスを崩した突撃級が違う個体種をクラッシュさせながら横転していく。まるでドミノ斃しだ。森島大尉、大崎大尉の精密な射撃と、それと肩を並べる田上少尉の神業的な技術が合わさり、突撃級の群れは直進することが難しくなっていき、彼ら以外の攻撃で次々と自滅していくのだ。

 

「突撃級の大事故の完成ね!! ご愁傷様!!」

 

「同情なんて1ミリもしないけどね!!」

 

軽口をたたきながら、大混乱のような動きを見せる突撃級尻目に中枢へと突き進むランサーズ。

 

 

 

突撃級の群れを突破し、次に立ちはだかるのは戦車級、要撃級の中小型種。もっとも兵士を殺したと言われる戦車級は、速力で圧倒しつつ、必要最低限の射撃で撃破しながら進むしかない。

 

「——————押し通るっ!!」

 

 

忠道は目の前の道を確保するために、煙で前方が一時的に見えなくなる120ミリではなく36ミリで高速飛行、それも超低空飛行でそれを成し遂げていく。

 

「面で叩くのよ!! 弾幕を集中して、一点突破!! ランサー2、5に続けっ!!」

 

 

戦車級、要撃級の攻撃をかわしながら、最低限の道を確保し、鋒矢から絞扼気味に幅を狭めながらを繰り返し、BETA群の中衛も突破する。

 

 

そしてついに見つけた。後衛である要塞級、小型種の群れだ。彼らはまだ海岸を完全に上陸したばかりで、どこか動きも鈍い。

 

「120ミリの嵐を奴らに浴びせるのよ!! 攻撃開始っ!!」

 

初期照射を受ける前に潰す。現在も支援砲撃は続いており、光線属種の目は目の前の戦術機よりも高高度からの攻撃に目を向けてしまっている。

 

「要塞級のウィップに注意してッ!! 光線属種を叩くのよ!!」

 

次々と撃破されていく光線属種。目の前に敵が現れたことで目標を変えようとするが、もう遅い。

 

ランサー1は僚機のフォローをしつつ、確実に光線級を仕留めていく。派手な動きこそしていないが、僚機のフォローにすぐに入れるような立ち位置。

 

 

「!?!」

 

その時だ、初期照射がついに忠道の機体を捉えた。その瞬間、悪寒の様なものをその直前に感じ取り、

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

跳躍ユニットを複雑に動かし、機体を回転させるように傾け、機体の前進エネルギーとをごちゃ混ぜにした、あの青き翼の英雄殿と同じ動きをして見せたのだ。

 

「あの動きはッ!!!」

 

 

大崎大尉が叫ぶ。

 

 

そして目の前の忠道はその不可能を可能にして見せた。初期照射からのレーザー攻撃をすんでのところで回避し、その回避でバレルロールの動きをしてさらに再加速。

 

「押し通るッ!!」

 

横切ると同時に光線属種を抜刀した長刀でなます斬り。さらに速力を緩めずブーストをかけながら次々と近接攻撃で光線属種を狩り尽くしていくのだ。

 

とてもではないが、瑞鶴で出来る動きでとは思えないし、やろうとはしないだろう。ましてや極限状態の戦場で、試そうとは思わないだろう。

 

 

「あれは、連邦の二機の、動き!? なんて無茶を…‥」

 

 

あまりに非合理的な、無茶苦茶な機動に反応が遅れるランサーズ。田上少尉がレーザーを回避したのは、おそらく数千分の一にも満たない幸運が重なったからだ。

 

”戦術機”乗りには、そう見えたことだろう。

 

 

レーザーは彼の瑞鶴を捕捉し、初期照射が間違いなくとらえていた。だが、初期照射の後から繰り出される光線が直撃する前に、その捕捉から外れた。コンピューター並みに正確なはずの照準から外れたのだ。

 

 

その理由は、あの英雄二人が多用する反撃と回避を兼ね備えた基本飛翔技術であるバレルロールの機動特性によるところが大きい。

 

 

本来バレルロールとは、戦闘機同士の空戦の中から生まれたマニューバではあったが、プラントと連合の大戦が勃発した後、リオン・フラガによってモビルスーツの機動技術へと転用されることとなった。

 

そのマニューバの従来の目的が、有効射程からの離脱と減速しつつ相手の背後をとり、反撃に打って出ることとされていたが、彼は加速しながら敵に接近し、有効射程から常に外れながら乱戦を駆け抜ける戦術機動を好んでいた。

 

 

これは、常に彼が数的不利の中での戦闘を強いられていたことも起因しており、尚且つ彼の英雄が回避と並列に反撃を実行できる優れた空間認識能力、驚異的な耐G能力、三半規管の異常発達が背景にあったとされる。

 

 

田上少尉はそれを戦場で見たのだ。赤騎士の機動技術を見て、出来ると考えたのは経験の浅い衛士だからこそか。それとも、それを可能にする才覚があったのか。

 

どちらにせよ、彼はその技術を会得した。短期間で模倣したキラ、強敵との遭遇で腕を上げて会得したアスランとは違い、一発で完全模倣して見せたのだ。

 

 

 

それも、実戦は初めて出会ったはずの彼が。そして、その光景を見ていなければ、彼はあのレーザー照射で戦死していただろう。

 

 

 

 

しかしまだ周囲には要塞級が複数存在する。ランサー5の田上少尉に任せたままでは、先任衛士の名が廃る。

 

 

「ランサー5、前に出過ぎだ! だが、よくやった!!」

 

大崎大尉の精密射撃がさく裂。ウィップの根元に、この乱戦の最中、正確に120ミリを当てて見せたのだ。根元から大爆発を起こし、要塞級の唯一の攻撃手段が失われる。

 

「小型種の出現など、私の目の前ではさせません!!」

 

そして確実に忠道は腹部に満載されているであろう小型種の排除に120ミリを間髪入れずにぶち込んだのだ。内部から破裂し、崩れていく要塞級。

 

「後衛のレーザーどもはもう全部狩り尽くしたわよね!!」

 

「やった!! まさかウチたちが光線級吶喊できるなんて!!」

 

光線属種の存在が認められない。残るは今田上少尉に解体ショーとばかりに撃破され続けている要塞級のみ。

 

 

「遅いっ!!」

 

ウィップの攻撃をかわすために低空飛行で下から接近し、ウィップの伸び切った軌道が見えているのか、回避と同時にブースト、バレルロールし、再攻撃が間に合わない位置取り。

 

だからこそ、要塞級の追撃が間に合わない。

 

跳躍ユニットを吹かしながら背面姿勢で要塞級の急所を攻撃し、またしても要塞級を沈めていく。しかも、長刀で切れやすい場所を的確についての手際の良さだ。

 

「うそっ、あの子また要塞級を沈めているんだけど‥‥‥」

 

「これで5体目よ‥‥‥」

 

「引き続き、連携して要塞級を沈めていくわよ!」

 

森島大尉が檄を飛ばす。ランサーズも各自で連携し、要塞級を掃討していく。光線級吶喊を達成し、戦局は打開された。

 

 

中衛、前衛部分では支援砲撃に対し、迎撃能力を失ったBETA群はなすすべなく掃討されていく。

 

 

絶望的とされた第5陣以降の九州上陸を阻止して見せたのだ。

 

 

「ランサーズの奴らがやりやがったぞ!!」

 

 

「ヘリ部隊も剛毅にミサイルを撃ちまくりやがって!! ノッテいるなっ!!」

 

 

空中にはレーザーを恐れず意気揚々と空を飛び回るヘリ部隊。弾頭、ミサイルをこれでもかと撃ちまくり、機銃で小型種を掃討していく。迎撃能力を持たないBETAはなすすべなく殲滅されていくのは当然だろう。

 

 

「おっしゃぁぁぁぁ!!! 九州は守られたぞ!!」

 

「レッドカーペットの先は勝利ってな!!」

 

「一転攻勢だ!! 奴らを九州から締め出せ!!」

 

機甲部隊、機械化兵士も前進し、奪われた勢力圏の奪還も順調だった。ランサーズの活躍をたたえる声が各地であがっていた。

 

 

恐らく、諸外国にとっても快挙と言っていい戦果を、九州守備隊は成し遂げただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

アラート音が、森島大尉の管制ブロック内に響き渡ったのだ。

 

 

 

「レーザー警報!? どこからっ!?」

 

ランサー1の森島大尉は、すぐにレーダーを確認し、モニターを確認して—————

 

 

 

ランサーズの僚機が撃ち漏らした要塞級の中から這い出た光線属種1匹が、ランサー1を狙っていたのだ。

 

「っ!?」

 

そのつぶらな瞳が、森島大尉の機体を確実にとらえ、光り始めていた—————————————————

 

 

 

「大尉ッ!!!」

 

 

射撃武器に持ち替える時間はない。忠道はその近くにいて、長刀を振り上げる。

 

 

—————まずい、間に合わないっ

 

忠道は長刀で切りかかるのを諦め、長刀を光線級めがけて投擲したのだ。それは瞬時の判断だった。

 

だから、忠道の機体は一瞬だが武器を持っていない状態となってしまった。

 

 

光線級の瞳が発光し、その射線上にいた森島大尉の代わりに、前に出てきた田上少尉の機体へと移り、光線がついに直撃した。

 

 

 

迫りくる熱量、確実に踏み込んでくる死の予感。

 

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

そしてほぼ同時期に投擲した長刀が光線級に突き刺さり、管制ユニットを貫くまでには至らなかった。

 

「た、田上少尉ぃぃぃぃ!!!!!」

 

 

崩れ落ちる忠道の瑞鶴を抱きかかえ、森島大尉が管制ユニット周りを確認する。こんなことで、こんなところで彼を死なせるわけにはいかなかったのに。

 

 

そして、ランサーズの救援に駆けつけた連邦の英傑2名が輸送艦を引き連れ最前線にやってきたが、後一歩間に合わなかった。

 

「くっ、遅かったか——————ッ」

 

「医療班を!! 管制ユニットから引きずり出せ!!」

 

「田上少尉!! 田上少尉!! 返事をして!! こんな、こんなところで!!」

 

 

九州の防衛に携わる全軍人の奮闘により、九州は防衛に成功した。だが、忠道は最後の最後で光線属種の一撃を受け、倒れてしまった。

 

 

 

 

 

前線部隊の奮戦により達成された九州健在の報せは、帝都にいる帝国軍、在日米軍、国連軍を大いに沸き立たせたが、ジグルドたちのガルム中隊は、二人が九州で釘付けとなったことが状況をさらに難しくしていると理解する。

 

 

 

京都に停泊中の艦船の中で、ジグルドはその知らせを聞き、状況はかなり複雑なものになるだろうと予感する。

 

 

「九州防衛に成功したのに、浮かない顔だね——————やはり、何かあるの?」

 

クロードが問いかける。ジグルドが喜ばない理由について。

 

「理想は、遅滞戦術による九州の放棄だった。恐らく、それが帝国の防衛プランにも織り込んであったと思う。だけど、九州が健在となってしまった」

 

帝国は、九州を手放すことが出来なくなってしまった。それだけではない。民衆もその防衛に一役買ったキラとア

スランを離脱させることに異を唱えるだろう。

 

「BETAは恐らく方針を変える。甲14号、16号から湧き出た個体群の主力が、あれだけだったと考えるのは楽観主義もいいところだ。恐らく、次の侵攻地点は中国地方への絨毯上陸、または山口への大規模侵攻に切り替わるだろう。地政学的に鑑みれば、おそらく後者の可能性は高い」

 

ジグルドは、地形的にも、長門への大規模侵攻の可能性が高いと読んでいた。

 

「—————————まずいよ、中国地方の兵站は万全とは言い難い。先の島根、鳥取への小規模侵攻でズタズタにされたばかりじゃないか! 復旧しているとはいえ、側面への脆弱性を短期間で修正できるとは思えない。しかも、九州防衛達成で士気が上がっている、それが楽観論につながるとすれば二重の意味でやばい———————」

 

クロードは大戦果が油断につながるのではないかと不安を語る。キラとアスランによって犠牲者は大幅に減ったはずだが、逆に未来で最悪の未来を招く恐れがあるのではと。

 

「俺が危惧しているのは、レーザークラフトもなく、短時間で光線級を配備させて見せたBETAの動きだ。光線級が外気に触れる場所で活動しているのであれば、その個体から排出される熱量で、レーザークラフトが発生はするはずだ。要塞級の収容数にも限りがある」

 

「ジークは、その要因は何だと思う?」

 

見当が付かないとクロードは白旗気味だ。BETAのカテゴリーの中でそういったものがいるとは考えにくい。学んだカテゴリーの中にそんな特性を持っているのは要塞級ぐらいだ。しかし、あの数を展開できるのは異常だ。

 

一時的にとはいえ、迎撃率100%。それを起こせるほどの光線属種をあれだけ複数個所で、要塞級の姿を確認できない中で、成しとげることには無理がある。

 

 

現状の知識だけれであれば。

 

 

 

「——————おそらく、人類が未発見のBETAがいるのだろう。この突発的で大規模な地中侵攻から考えるに、地中を活動できる存在、それも、大量のBETAを運搬できる巨大な存在。学者連中には即座に否定されるだろうが、軍事的見識と、光線属種の特性をすり合わせた結果、俺にはそうとしか考えられない」

 

 

「言うなれば、キャリアー、運ぶもの、だね。これに攻撃能力が合ったら、通常の火力で撃破するのも難しそうだ」

 

 

「敵を過大評価するのはいけないぞ、クロード。現時点で戦闘能力もその正体も机上の域を出ない。ただ、そのような存在がいる可能性が高い、と私見を述べただけだ」

 

 

 

 

九州上陸を諦めたかに見えたBETA群は、九州を無視し、長門へ侵攻。九州と同様に突発的な大規模侵攻と、光線属種の出現により、不意を突かれた山口の防衛ラインは瞬く間に突破され、広島での激しい戦闘が繰り広げられることになる。そして救援に向かいたい九州は後続の群れの襲来と相対し、身動きの取れない状態となってしまった。

 

 

 

地獄は、絶望は、まだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

一方、地獄から九州を救い、そして倒れた者は、人生のターニングポイントを迎えていた。

 

「————————」

 

搬送された田上忠道の容態は酷いものだった。光線属種による熱量、墜落の衝撃で一歩間違えれば体がぐちゃぐちゃになっていてもおかしくなかったのだ。

 

両足も吹き飛び、左手は高温の状態に晒され壊死している。何より——————

 

頭部の損傷もひどく、即死の可能性もあった。搬送されるまで生命維持できたのは奇跡に他ならない。

 

次々と報告される彼の惨状。アスランは目を伏せ、自分が間に合わなかったことを思い知った。

 

 

—————————彼の戦いは見事だったと聞く。生き残れば、類稀な衛士になっていただろう。

 

関係者からの話では、バレルロールを会得し、レーザーを回避する動きを見せたという。瑞鶴という旧型機でそれを為し得ることは、古今東西で聞いたことのない快挙であり、彼の衛士としての道が祟れたことに、軍関係者は落胆を隠せない。

 

————————連邦の再生治療があれば、何とか失った四肢は戻る。しかし——————

 

想像を絶する痛みを体験し、彼は戦場に戻れるのだろうか、とアスランは考えていた。

 

 

連邦軍のエースが彼の見舞いに来る一方、彼を失ってしまった悲しみを抱える彼女らの姿もあった。

 

 

 

その彼の容態を祈るのは、ランサーズの中隊メンバーも一緒だったのだ。

 

 

「——————私のせいだ。私が、最後に———————」

 

年若い女性の森島大尉を見たアスランの印象は若い、だった。まだ成人したばかりにも見える彼女が、中隊史上初となる光線級吶喊を成功させたのかと、驚愕すると同時に、どうして自分はいつもいつも一歩遅いのかと悔しさに身を震わせることしかできない。

 

 

 

「隊長‥‥‥」

僚友の面々も、かなり気落ちしている隊長の姿を見て、何も言えない。派手な動きこそしていないが、フォローしながら立ちまわり続けた集中力が、きれてしまうこともある。

 

そのリスクが、今目の前の現実だった。

 

「実際、田上少尉の勘鋭さは特筆すべきものだった。新人ながら、末恐ろしいと感じたほどだ」

 

大崎大尉は、田上少尉の腕前、実力をそのように評した。中々に動きがいい。だが、この怪我ではもう‥‥‥

 

 

「提案がある—————彼がもし、闘志を失っていないのなら—————」

 

その横には、疲労困憊なはずであるはずのキラがいた。先ほどの出撃も、無理を言ってのものだった。なにより、キラは戦場で強烈な感情をたたきつける彼を見つけていた。

 

 

彼の”飛翔”を、彼の経歴を”識ったのだ”。

 

 

——————水面の如く、静かでありながら、その闘志に曇りがなかった。

 

キラは、彼は本来そうではなかったのかもしれないと、彼と自分たちが遭遇した偶然は、必然だったのではないかと考えた。

 

—————彼の動きを見た。彼なら、いずれ僕の代わりに、任せられるかもしれない

 

 

彼の動きを、アスランを通して見様見真似で会得した。経験の浅さが、逆に功を奏したのかもしれない。

 

まだまだ未熟だ。だが、彼にはセンスを感じた。ここで”衛士として”死なせるには惜しいと考えた。

 

 

「—————傷ついた彼が、この先も覚悟を背負えるなら…‥‥」

 

「ヤマト中佐‥‥? 何を…‥?」

 

目に涙をためた森島大尉が、キラの方を向く。彼は既に眼帯を外しており、すでに機械と化した目で、彼女を見据える。

 

 

「まずは彼が、まだこの世界で生きたいと強く願い、戻ってきてからの話になるかな」

 

眼帯を取り外し、キラは機械の目で森島大尉を見つめる。人工的な、生体移植されたものとは違う、異質なカメラアイを見て、呆然とするままだ。

 

「———————この先の未来を、帝国の命運を握る可能性の灯火を、その炎をさらに強くする提案があるんだ」

 

 

機械の目は、扉で固く閉ざされた目で、彼が収容されている集中治療室を見据える。

 

 

「彼ならば、“僕と同じ世界”に耐えられる。そう直感めいた確信があるんだけど、アスランはどうかな?」

 

 

「キラ、お前まさかっ」

 

 

キラは、アスランの反対の意思を感じたが、止まるつもりはなかった。そしてアスランは、キラがあの眼を手にして変わったという過去を思い出す。

 

 

————————あの少年も、キラと同じように、常人には見えない何かを観測するのか。それを彼に強いるというのか。

 

 

「彼はまだ生きている。諦めていない。収容されるまで生きることを諦めなかった彼の意志、僕はそれに賭けてみたいと思う。僕が得るはずだった、”未来を掴み取る力”を」

 

 

そしてキラは、森島大尉と大崎大尉、アスランに目を向け、言い放つ。

 

 

 

「そして…‥‥‥‥僕らは九州で釘付けになった。守り切ったこの大地を、守るほかなくなった。今できることは、彼の生還を信じ、帝都の守りを担う同胞と盟友を信じ、戦い続けることだけなんだ」

 

 

———————帝都のことは任せたよ、ガルム中隊。

 

 

 




田上少尉生存の最大の原因は、アスランの動きを見たからです。

連邦軍の参戦では原作通り死亡していましたが、そこにアスランがいたからこそ、彼は戦場で劇的な成長を遂げました。

田上君は、四肢の一部欠損、全身やけど、片目の失明で済みました。(再生治療で欠損補填&キラに何かされる予定)

他にも防衛成功の理由があるのですが、作者が言えるのは、国境を超えた人の縁が生んだ幸運とだけ言っておきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。