Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~ 作:傍観者改め、介入者
第十三話 参戦
ついに始まってしまった帝国防衛戦。その戦場の最中、能登和泉は恋人が重傷を負ったことを耳にする。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
悲鳴をあげ、許婚の危篤を知ることになった彼女は悲鳴をあげてしまう。
現在彼は意識不明の重体であり、危篤状態である。むしろ、レーザーの直撃を受けてよく命を繋いでいると言ってもいい。
しかし一方で、初陣にして光線級吶喊を成功させたランサーズ中隊にて、かなりの活躍をしたという報せもあった。
要塞級8体を単独で討伐。中型小型種多数、光線級多数。
だが、和泉にとってはそんなことはどうでもよかった。生きてさえ、怪我無く帰ってきてくれるだけで、それだけでよかったのだ。
「そんな、忠道!! なんで————なんで————」
明日には命が潰えてしまうような傷の深さ。無事なのが奇跡なほどであり、最後は光線級の光線を至近距離で受けて撃墜されたのだ。それでも、味方機が撃ち漏らしたその個体はしっかりと撃破するので、本当に筋がよかったのだと軍関係者の間で広まっている。
しかし、数の暴力に負け、連邦軍のアスラン・ザラに助けられ、今も集中治療室で生死の境をさまよっているという。
「和泉——————」
その時だった、テレビ報道では新たな情報が出てきたのだ。
『九州全域は帝国陸軍と、対馬海峡から戦闘を継続していた帝国海軍、地球連邦軍の尽力により、防衛に成功いたしました。しかし、長門より上陸したBETA群の電撃的な侵攻により、山口は陥落。これにより、中国地方では帝国軍、在日米軍、国連軍による三軍共同の防衛線を構築。また、不安視されていた避難民は地球連邦軍の人道的支援により、九州、四国から無事脱出しており、現在中国地方での避難活動を行っているとのことです』
九州が健在。しかし、連邦軍のキラ・ヤマト、ジグルドの上官に当たる人物が数十万ほどのBETAを撃破したそうだ。
さすがの実力を見せつけた連邦最強の衛士。しかしそんな彼でも計測限界を超えるBETAに屈し、撤退したという。それでも九州を守り切ったということは計り知れない影響力だと言わざるを得ない。
それだけでも十分凄いことだ。10万以上のBETAに遭遇し、戦果を挙げて撤退できる実力があるだけでも凄い。
唯依は、そんな彼を師と仰ぐジグルドの実力をおおよそ測れた。きっと自分たちよりも凄いパイロットなのだろうと。
————連邦軍も参戦してくれている。きっと、あの人たちと肩を並べる時が来る
九州防衛が成功し、キラ・ヤマトが命を賭して繋いだ3日間という短くも貴重なモラトリアムが、日本帝国の命運を繋いでいたのだ。
しかし、山口を飲み込んだBETAは勢いそのままに中国地方へと殺到。台風の影響で広島まで後退せざるを得なかった防衛ラインが必死にせき止めているという。
兵站は回復したばかりで、辛うじてつながっている状態。避難民を乗せている輸送艦も、今では撤退中の兵士や民間人を救う箱舟と化している。
『私は、地球連邦において幅広く商談を取り仕切るフラガ家の者、その継承者筆頭であるウェイブ・フラガです。』
『我々は輸送艦を箱舟にして、出来得る限りの命を救います。我々は諦めないッ!』
使えるものは使う。この泥仕合のような戦いに巻き込まれたウェイブは、己の利権を使い、フルに有効活用していた。
それを内閣も承認。利害を超えた助け合いにより、箱舟を守る帝国とウェイブたちフラガ家の間には、新たな縁が生まれたという。
絶望的な戦いが、厳しい戦いに変わっただけの状況ではあるが、希望が見えてきたのも事実だ。
しかし、中国地方での防衛ラインは修復されただけであり、四国へと向かうはずであった軍団すら飲み込み、圧倒的な兵力で蹂躙を続けるのだった。
防衛ラインを維持していた広島エリアは、倉敷に展開していた部隊が先に壊滅したことにより、全面を包囲されてしまう。絶望的な状況下で輸送艦が急行するも、挟撃を受け続けた広島防衛軍は全滅。
一兵も救うことが出来なかった最初の事態となる。すぐさま輸送艦は次なる防衛ライン重要な兵庫の防衛に向かうが、勢いに乗るBETA群は止まらない。
帝国軍、国連軍の撤退を支援する術が、輸送艦にはないはずだった。しかし、彼らは空の標的となることで、少しでも撤退を支援しようと彼らなりの覚悟を決めていた。
無論、避難民を乗せた輸送艦は先に撤退している。一部の運び終えた輸送艦が現場の独断で行ったのだ。
「ええい!! 光線級の囮になるのだ!! ハイ・フィールドのある我が艦では耐えられるはずだ!!」
苦肉の策として、最高クラスの防御能力を誇る輸送艦がその身を盾にする異常事態。最高の防御能力を誇る彼らが囮となることで、戦術機への照射を抑えるのだという。
『バカ野郎!! お前らは絶対に落ちてはならないんだぞ!! 弁えろ、バカ者ども!!』
怒鳴り声を上げながら、ウェイブは退避を命令する。輸送艦の範疇ではない。そんな行為は焼け石に水だ。今重要なのは、取り残された避難民を救うだけだ。
「————そうだぞ、兄弟!! 俺たちの命令は、命を救うことだ、命を捨てることではないぞ!!」
「へへっ!! だがあと少しなんだ!! あと少しで!!」
「高梁の防衛ラインが瓦解しました!! もうだめだ、ここを離れろ!!」
その時だった。日本海で決死の足止め作戦をしていた艦隊の支援に赴くことが出来なかった艦隊が到着。海岸沿いからの決死の艦砲射撃でそれを助ける。
「撃て撃て、撃ちまくれ!! ここで対馬決戦に間に合わなかった汚名をそそぐのだ!!」
山陰での侵攻速度は、山陽道に比べて著しく許していた状態だった。これを許せば、中国地方の陥落は目前であり、陸軍は四方を囲まれて包囲殲滅されてしまうことが必至だった。
それは、帝国の命運を決めてしまいかねない。
———————あの青き翼の英雄殿が、命を張って猶予を生み出したのだ、ならば、その猶予を無駄にするわけにはいかんのだ!!
第12機動艦隊の指揮を執る上杉提督は、なおも突撃を繰り返している突撃級に火力を集中させろと厳命し、光線属種、要塞級のいる後衛にも打撃を与えるよう追加指示を加える。
「前衛に火力を集中させろ!! 突撃級のいる地点を集中的に狙えッ! 弾幕を展開!! 後方の艦隊は後衛の要塞級に火力を集中させろ!! ここが正念場ぞ!」
「だめです!! 前衛への火力集中が光線属種に阻止されています!! 迎撃率80%!!」
絶望的な数値だった。個の艦砲射撃も面制圧に特化した打撃手段である。最も早く進軍してくると突撃級への命中率は希望的観測でしかない。その面制圧が弱体化すれば、うち漏らしも増加するのだ。
上杉提督の決断は速かった。
「タイミングを切り替えろ!! 後衛への艦砲射撃を陽動とする!! 面制圧から遅滞を試みる時間差射撃に変更! 何としても食い止めろ!」
「砲撃のタイミングを変更! 後衛に対し初弾打撃を! 前衛にはその直後に行え! 初弾に食いつかせろ!!」
この土壇場の作戦は功を奏し、中国地方を蹂躙していた急先鋒でもあった第四陣の完全な殲滅を達成。しかし、複数のハイヴより集結しつつあるBETA群の進撃は、艦砲射撃を避ける傾向にあるのか、山陽道へと集中するようになる。
そして、山陽道を支援可能な四国に展開中の部隊は防衛で足止めを食らい、瀬戸内海で展開している海軍は存在しない。
海軍は出来る限りの奮闘を続けているが、全体の戦局を打開するには至っていなかった。
錯綜する情報、絶望的な情報。連邦政府もこれほどまでの事態とは想定していなかっただろう。地獄が、地獄がそこにあった。そこには、逃げ遅れた市民が数多く犠牲になる悲劇的な事態となっていた。
それは、帝国の強靭化計画、ウェイブの箱舟も届かなかった命。救えない命があることで、ウェイブは思わず唇をかんだ。
「——————ちっ、俺も出る。輸送艦はすぐに仙台に飛べ。ここも放棄しないといけなくなる」
「何処へ行かれるのですか!? 貴方が戦場に出る等、絶対になりません!」
恭子はウェイブが、戦場へと行くことを拒絶する。救うための戦いをしていた彼を、みすみすあの戦場に放り込むことはできない。
「しかし—————」
食い下がる恭子を前に苦悶の表情を浮かべるウェイブ。自分は戦える。それだけの訓練をしてきた。ならばここで—————
「貴方の行ってきた命を救う戦いは、一体誰が行うというのですか!」
それでも、恭子は彼を必死に止める。彼がフラガ家の人間であるからではない。彼が主導する戦地に取り残された難民を、兵士を救う行為は、確かに誰かの未来を繋げているのだ。
どれほどの返礼を重ねても足りないほどに、彼は帝国を、民を救ってくれている。
そんな彼が、戦場で死ぬことなど、そんな可能性を許すなど、絶対に認められない。
「—————悪りぃ。指揮官が簡単に前に出るわけにはいかないか」
頭を冷やされたウェイブは恭子に謝罪する。居ても立っても居られない気持ちを一瞬でも抑えきれなかったのだ。
「—————それでも戦場に出たいというのであれば、貴方御自慢の機体とともに、私達もともに戦場へと参りましょう。されど、今はまだあなたの動くべき時ではないでしょう?」
恭子は、ウェイブの直情的な判断を許さなかった。恐らく彼も屈指の実力者なのだろう。しかし、そんな彼が始めた戦いを投げ出すことなど許されない。
彼が始めた作戦だ。ならば、最後まで民間人を救ってもらうし、彼を死地に送りたくないのだ。
「いかんな。この状況で冷静さを失うのは。叔父様に近づくといいながら、この体たらく。不甲斐ないな…‥」
そんな挑戦的な目に対し、ウェイブは真正面からその思いに応える。
「俺はまだ、守る為の戦いをさせてもらう。けど、ここが戦場になるころには、この国の未来を紡ぐ命を、そして恭子さんの未来を、絶対に守り切って見せるさ」
曇りなき闘志を見せる男の姿。商人と言えど、彼には武士に通ずる心があった。何かをやり遂げるという意思である。
—————貴方は死なせません。この命に代えても—————
京都に施設された臨時のフラガ家の司令部で、指示を飛ばすウェイブを見ながら、恭子は彼の命は絶対に守り抜くと決意するのだ。
一方、ミカエル、アーガマで待機中の連邦政府主力には待機命令が下されていた。
「機甲部隊は展開できない。だが、これでは————」
ディルムッドは、このままでは中国地方を中心に蹂躙されると考えていた。
「このままじゃ、ここも戦場になってしまう」
アンリ・ドミネクスは、この光景が破壊されることに口惜しさを感じていた。しかし、それだけではない。
————あの子たちが戦場に出てしまう!
そして、緊張状態が過ぎ去ること無く1日が経過する。中国地方は鳥取を除きほぼ壊滅状態。岡山は激戦区となっており、すでに高梁は陥落したとの速報もある。倉敷も戦闘状態に入ったこともあり、中国地方の陥落も間近となっていた。
数十万ものBETAを単独で押しとどめたキラ・ヤマトの存在がいかに大きいものかを痛感するものとなった。
「では、我々の出撃はまだ見送られると、そういうことですか!?」
第七艦隊が急行している最中、帝都防衛を任されているガルム中隊を預かるディルムッド、その横にいるクロードの嘆願を受け止めるのは、地球連邦軍でも大きな影響力を持つロンド・ミナ・サハク大元帥である。
「そういうことだ。帝都防衛戦で貴官らの力が発揮できない事こそ、政府間で取り決めた約束を反故にするような物。その辺りの政治感覚が分からぬほど、愚鈍に“鍛えた”つもりはないが?」
冷静な口調でミナが二人を諭す。そこには一切の感情などは見せない。大元帥として、連邦軍総司令部が下した決定を伝えるのみだ。
「それでも、兵庫エリアが瓦解した場合、多方面からの侵攻を受ける形になります! 山陰道が海軍の艦砲射撃で辛うじて塞き止めているのが現状で、山陽道瀬戸内海のルートがあまりにも手薄です! 数で押し切られます!」
「大元帥! それは貴方の建前でしょう!! 貴方も分かっているはずだ! 帝都出撃では間に合わないと!」
その時だった。後ろから敬礼をしつつ姿を現したのはジグルド。
「二人ともそこまでだ。大元帥閣下、申し訳ありません」
「しかしジークっ!」
反論するディルムッドを宥めるジグルド。無言でこれ以上は抗命になると目で意図を伝える。
「現在執り行っている、日本帝国と連邦政府の外交努力が無に帰せば、今日まで行った第五惑星に関する外交戦略が瓦解する。第七艦隊の急行をお認めになったということは、我々に課せられた命令は帝都の死守。そうですね?」
「その通りだ、アスハ中尉。ガルムの精鋭の実力を疑っているわけではない。しかし、そちらの二人が危惧するように、防衛の成功確率は今や低いものとなっている」
「では…‥」
クロードが出撃を許可してくれるのかと眼を輝かせるが、
「————————これは連邦軍総司令部の失態だ。我々はBETAの脅威を甘く見積もり過ぎた。ザラ大佐の独断を黙認したのも、その帳尻と言っていい。実際、彼の決断は最適なものだった」
「「‥‥‥‥っ」」
クロードとディルムッドは歯噛みし、それ以上の言葉は出てこなかった。ここで責任追及するのは水掛け論にも劣る。今、ミナを非難しても何も生み出せない。
「大元帥閣下。では日本帝国の首都遷都は、大きな混乱もなく執り行われるとみて、間違いないということでしょうか?」
懸案だった首都遷都。千年の都の栄華を誇る京都が放棄されることで、政治的、国民感情に起因する混乱は抑えられる見込みがあるとあたりをつけたジグルド。以前から日本政府はそのプランを考えていただろうが、それが今実行できる状況であるのかを問うた。
「その通りだ。防衛が成功したとしても、主戦場となることが避けられない今となっては、首都機能をそのまま破壊される方が帝国には致命的だ」
その後、ガルム中隊は現状待機のままであり、帝都の戦端が開く寸前での出撃となった。
「ジークっ! あの娘たちが戦場に出るんだぞ!! いいのかよ!」
「ジグルド、上の決定も、僕らの見積もりが甘かったことも、その全てはわかるよ。でも」
「——————上の失敗を、下がカバーするのも世の道理だ。逆もまた然り。俺たちは最善を尽くすしかない。この都を守るためには、セオリーだけでは足りなくなった。そういうことなんだ」
第二帝都・東京では——————
「—————ということは、東京湾に駐留する主力部隊を増援に回すということなのか?」
榊首相は、藁にも縋る想いで連邦政府の言葉に耳を傾けていた。使えるものは何でも使う。
その対談相手は、連邦政府の長を務めるカガリ・ユラ・アスハ。彼女も弟の尽力では対処しきれない彼らの脅威を認識し、行動に移る手立てを提案しているのだ。
「ええ。宇宙では第八艦隊が月攻略の準備をしている中、第七艦隊を遊ばせる猶予はありません。幸い、ザムザザー、ネオグーンの配備は完了する見通しの為、火力支援をお約束できます」
「何から何まで忝い…‥中国地方の戦況は最悪なものとなっています。その一方で、九州、四国の防衛に尽力した軍関係者に感謝を。この二つの地域で避難、疎開が完了したことは、この上ない幸運でした」
絶望的だった二つの地方が守り切られている。中国地方の蹂躙を許したことは致命的だが、その頃にはもう二つの地方は陥落しているはずだったのだ。不幸中の幸いであるのは確かだが、お互いにそれは口にしない。
「こちらこそ、時間だけを積み重ねて申し訳ない。切迫している貴国の状況は、議会でも共通の認識でした。今後とも関係を維持していくため、帝国の支援は継続いたします」
そんな政府間のやりとの間にも、現場の人間はそれぞれの戦場で激戦を繰り広げていた。
輸送艦による囮作戦で、京都の防衛ラインは再構築を完了。避難民も当初の予想を下回る犠牲者となっている。
しかし、それでも10万以上の死者を出してしまった。1億5千万のうちの10万は少ないようで多い。
連邦軍が味方になってくれても、やはり帝国は防衛が困難なのか。
そしてついに最悪のケースが現実のものとなった。
兵庫三宮防衛ラインの瓦解とともに、在日米軍が撤退を開始。琵琶湖、大阪湾、太平洋側で火力支援をしていた部隊が抜けることはリスクしかなかった。
しかし、それを予期していた第七艦隊は数日前から行動に移していたのだ。
艦隊は避難民を移送後、即座に反転。愛知の伊良湖水道を経由せず、最大船速で紀伊水道に進軍し、BETA群に直接打撃を与える防衛行動に入る。しかし、彼らの到着まで中国地方、近畿地方がもてばの話だ。
この土壇場で撤退の選択をとったアメリカに対し、日本帝国は強い非難の口調で同国の行いを糾弾するものの、アメリカは想定を超えた出血で軍事行動がとれなくなったと説明。中国地方での戦線の遅滞が行われた背景には、彼の軍の奮闘もあったが日本のマスコミは大々的に報じることがなかったのも災いし、国民感情に火をつける要因となった。
実際、多くの戦死者と負傷兵が嵩み、アメリカ軍の軍事的な行動は次第に範囲を狭めていった。太平洋側の裏側から大規模派兵を行う兵站は健在であるが、戦うべき兵士がすでに限界だった。アメリカ軍兵士の立場であれば、そんな泣き言こそ恥ずべきものではあったが、限界だったのだ。
これ以上戦えば、組織的な軍事行動の瓦解も目前に迫っていると。
在日アメリカ軍の取るべき選択は、本国に撤退して助かるか、それともこの帝国と運命を共にするという二択しかなかったのだ。
何より、前線国家以上に実戦慣れした兵士が少なかったことも災いしており、他の複数の理由でアメリカ軍は本来の実力を発揮しきれぬまま、防衛戦から脱落したのだった。
アメリカの考えとしては、連邦軍の切り札を有していながら、ここまで入り込まれる帝国のふがいなさを責めていた。また、連邦軍の初動の遅さを痛烈に批判し、「所詮は異なる惑星の厄介な話という認識だったのか」と認識の違いを指摘してきたのだ。
これには連邦議会は与野党一致で遺憾の意を表明。相手にする時間もなく、とにかく軍の派遣に関する折衝案を推し進めていく。他の惑星での軌道上での防衛も構築しなければならない今、同時に防衛線術、戦略を地球連邦軍総司令部でも求められている。これは、日本帝国の政府関係者にも劣らない労働量である。
アメリカとしても、本音としては日本帝国での防衛戦は、他人事である。しかし、ここで彼らの弱みに付け込み、今後の譲歩を引き出しやすくするために、手は抜かない。彼らに罪悪感を覚えさせるだけでいいのだ。こちらにはこれ以上軍の被害を出すわけにはいかないという事情もあるし、中国地方での防衛行動にも参加した義理もある。これ以上は無駄というものだ。
アメリカのホワイトハウスでは、進まない連邦軍の本格参戦と帝国の苦境に関する情報が送られていた。
「———————極東防衛の要を謳いながら、この体たらくとはな」
アメリカ大統領は、防衛直前の強気の姿勢はすっかり鳴りを潜めたようだとため息しか出ない。
「——————わが国で蠢ている第五計画の存在を危惧していたのでしょう。第四計画は未だに全容がつかめず、具体的なビジョンがある程度形になっている第五計画に支持が流れるのは必然かと。しかし、わが国でも第五計画に懐疑的な見方があるのも事実です」
秘書は、現状を客観的に述べ、帝国の強気の理由などを推し量るのみ。
「軍部も第四計画、第五計画、戦術機などの兵器強化と派閥が分かれに分かれている。どの案にも筋があり、それなりの力を持っているというのが厄介な所だな」
「我々の正義を為すにはどのプランが一番理にかなっているのか。それを制御する力が、もはや議会にないのは嘆かわしいことです。さらに、一部の議員は軍関係者と密な関係を維持しています」
議会も形骸化してしまっている。かつての2大政党政治が崩れており、政治の硬直化が指摘されている。帝国での多党政治の二の舞は避けるべきだが、進言するべき未来が多すぎるのだ。彼らには彼らなりの正義が存在するのだろうが、決断をする立場としてはすっきりさせてほしいし、戦後のアメリカに矛先が向かない有効な策を述べてほしいものだ。
「私個人としても、アメリカ全体としても、帝国と喧嘩をしたいわけではない。戦後世界でアメリカの地位が高まっているのであれば、アメリカ国民の安全保障が確保されている道を選ばなければならない。しかし、議会はおとぎ話のような第四計画ではなく、第五計画、兵器強化の派閥へと流れているようだが」
「特に、連邦政府と接近し、兵器強化を望む勢力が増えていますね。レールガンを標準装備とした戦車、戦闘機へと形態変化する戦術機の存在。軍産複合体は強い興味を抱いています」
「果たして彼らがその技術を素直に出すのか。連邦政府は帝国と接近しているのだろう? やむを得ないとはいえ、三宮防衛網の陥落と共に撤退した我が国への悪感情は容易に想像できる。次に立てるべきは‥‥‥」
「鉄源ハイヴ攻略が妥当かと。もしくは、日本が陥落した場合、建設されるであろうハイヴ攻略に軍を派遣するのが望ましいと思います」
「そうだな。アメリカへの非難は増すだろうが、今は忍耐の時だ。戦後世界での立ち位置と、BETA殲滅を後押しするには、わが国にもそれなりの動きが求められる。しかし、その攻略作戦で、軍部が暴走しなければいいのだが…‥」
九州の防衛は信じがたい快挙ではあるが、中国地方は蹂躙を許してしまっている。幸いなことに四国は初期対応が功を奏し、防衛に成功しているのは救いか。
アメリカも慈善事業でやっているわけではない。防衛が困難であれば逃げるのは仕方ないのだ。
在日米軍の中国地方での戦いぶりは話題になっているほどだ。彼らは友軍を見捨てない。ドキツイスラングを平然としゃべる品性は少し思うことがあるようだが、戦場の空気を一変させる存在感が彼らにはあった。
だが、撤退の命令が下った時、彼らは最初再考を願い出た。戦場の空気を肌で感じている軍人だ。ここで自分たちが抜けた戦況がどうなるかなど、火を見るより明らかだ。
しかし命令は覆せず、彼らは撤退するのであるが、残薬物資など、不必要となった荷物をそのまま帝国、国連軍に供与したのだ。
——————撤退する我々にはもう必要のないものだ。
———————撤退後に最後の支援砲撃を行う。幸運を祈る、インペリアル
彼らの去り際の言葉によって、上同士が決めた苦渋の決断に彼らも振り回されたということが明らかとなり、現場レベルでアメリカを嫌悪する声はほとんど上がらなかった。
——————我々は最善を尽くすぞ、仮にここで、我らの命運が尽きようと
————————アメリカの、あの海兵どもは筋を通した。ならば斯衛も筋を通さねばならんな
アメリカ軍の撤退後、瓦解するとみられていた在日国連軍、帝国軍、斯衛軍はより一層の団結力を見せつけ、BETAの進行速度を格段に遅らせることに成功した。
第七艦隊の到着まで戦線を維持するという希望が見え始めたことも起因するが、覚悟も決まったのだろう。
戦死者を出しつつも、彼らは未だ小規模な脱走による混乱も起こさず、戦場で散っていくことになる。
————————希望を繋ぐんだ、次に戦う者たちの為に。我々が、ここで退くわけにはいかない
その数日後、懸命に遅滞を試みた兵庫エリア全域の防衛ラインが沈黙。大阪、帝都が主戦場になろうとする時、
ついに彼らの戦いが始まる。
彼らに求められる任務は多い。ゆえに、彼らは不退転の決意で、死力を尽くして任務にあたるだろう。
散っていった者たちの、志半ばで退くことを余儀なくされた者たちの無念を背負い、希望を絶やしてはならない。
防衛戦に参加した軍人の、この国で生きる民草の想いを背負い、彼らは天空を駆ける。
「——————アーガマとミカエルの搭載機を発艦させよ。ガルム中隊は、第七艦隊の到着まで、帝都陥落を阻止せよ。」
大元帥より、辞令が下る。ついにその牙をむく時が来た。
そして連邦政府は各星間に建てられた行政区中枢より、一斉に宣誓する。
地球連邦政府は非常事態宣言を発令。
連邦政府憲章に基づき、第五惑星に巣食う異星起源主、BETAとの戦争状態に突入する。
なお、各星間における移動を制限。民間、国家、連邦主導による開拓任務、事業も全面禁止。
任務外、作戦行動中の艦隊にも第二種戦闘配備を発令。
連邦政府はこの日、飾っていた剣の切っ先を、人類の宿敵に向けたのだ。
ついに主人公たちが出陣。
原作「帝都、燃ゆ」のクライマックスに突入しました。
どこかの世界よりもよほど理性的な情報媒体関係者も、連邦政府からのゴーサインを受け取り、BETAの全容を報道しました。