Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~ 作:傍観者改め、介入者
その報せは、世界に驚きを齎し、駆け巡っていく。
欧州政府は緊急会議を開き、意見調整を行う場を設けた。
「なんだと、ついに連邦軍が重い腰を上げたのか!?」
「ああ。しかも、先の二大英雄による部分的な軍事行動ではない。噂のトップガン集団、ガルムを投入するということだ」
連邦政府から提供された連邦軍最精鋭“通称”ガルム中隊。その性能と精強さは、現在の戦術機を超越するものであり、その戦果がどれだけのモノなのか、注目が集まっている。
「しかも、第七艦隊が第二帝都からすでに出発していると聞く。他の兵器も姿を現すことだろう」
「我々に出来ることはないが、帝都防衛がどうなるかだな。他国のことではあるが、防衛を達成し、奴らに目のもの見せてもらいたいところだが‥‥‥」
軍隊レベルの連邦軍の介入。もはや国体やら内政干渉がどうこう言える状況ではない。在日米軍が抜けた穴は、どこかが埋めなければならない。
米軍に対する批判の声が国民から出るが、米軍のこれもやむなしの行動だ。帰る場所がまだある米軍と、帰る場所が現在進行形で侵略されている日本。
要は立場の問題だ。日本とアメリカが逆ならば、同じことがおこっていたことだろう。
その考えで行くとなれば、連邦政府のそれは些か肩入れし過ぎな所も否めない。
第二帝都東京より出撃する第七艦隊は、先んじてガルムが先陣を切ることで戦意を高めていた。
戦争だ、
ついに戦争が起きてしまう。
第七艦隊の兵士たちは、その若手の大半が戦争を経験していない者たちで構成されている。この第五惑星の惨状を知り、連邦勢力圏から観測できる場所に、奴らがいるかもしれない。
「西日本の状況はどうなっているんだ。まさかもう陥落なんて‥‥‥」
「いや、大佐からの暗号通信では、九州四国は健在。しかし中国地方は既に抜かれていると」
帝国の現状を憂う若手兵士たちが話し合っている。その表情は硬く、緊張に包まれている。それも当然だ。彼らは新兵であり、如何に精強な訓練を経ても、実戦という高い壁は存在する。
「これが俺たちの初陣だ。絶対に船に帰るんだ。ザムザザーの最終調整は?」
「万全過ぎて、可愛げがないぐらいだ! 元々性能に期待できる設計とはいえ、ここまでの機体を仕上げてくれた彼には感謝しかないな。こいつで遠慮なくぶっ放しても問題ないぜ」
「であるなら問題ないな。しかし、俺たちの機体を設計した彼は、帝都のガルムに所属している。何とか間に合わせたいが‥‥‥」
「へまをしなきゃ大丈夫だろ。彼は戦争終結後の訓練校で、最高の成績をたたき出した首席様だ。きっと先陣をかましているだろうさ」
『これより我が艦隊は10時間後に紀伊水道、敵光線属種のレーザー警戒区域へ侵入する。全クルーは第3種警戒態勢。繰り返す、これより我が艦隊は———————————』
そして最前線と化した帝都、アーガマ、ミカエル内部では
「ようやく許可が下りたか、待たせたな」
大阪での戦闘が始まった瞬間、彼ら先遣隊にも出撃の許可が下りたのだ。すでにアスランは四国での防衛戦で敵の侵攻を阻止している。キラももうじき九州防衛に復帰するだろう。
ならば、この本土は自分たちが守る。高機動型モビルスーツ、リゼルで構成された精鋭部隊がここで踏ん張らなければ、いつやるというのか。
「こちら、ガルム中隊。アルファ1よりガルム各機、作戦指揮は私、ディルムッド・F・クライン中尉が行う。いいな」
「了解っ!」
各員の肯定の言葉に頷いたディルは、作戦概要を手短に説明する。
「今回の任務は防衛戦だ。京都市内の友軍の救援を主任務とするが、帝都・京都の陥落を阻止することにある。特に八幡の最終ラインを破られてはまずい。各隊員はそのことを留意するように」
「ブラヴォー1了解」
ブラヴォー1、ジグルドに異論はない。
「ブラヴォー2、わかりました」
ブラヴォー2、クロードも同じだ。
編成された新兵ばかりの精鋭部隊、ガルム中隊。総勢16機の中隊。キラとアスランがいない中、先任権はディルムッドにある。
アルファー4了解!
ブラヴォー8了解! 全員準備出来ているぞ、アルファー1!
全ての隊員の了承を得られたディルムッドは、宣言する。
「諸君、戦場に飛び込むぞ!!」
檄を飛ばし、ディルムッドが先陣を切って京都の空へと出向く。
「カタパルト、接続オンライン。アルファー1、発進を許可する」
「アルファー1、ディルムッド・F・クライン、出撃する!!」
「続いてブラヴォー1、ブラヴォー2、発進を許可する」
「ブラヴォー1、ジグルド・F・アスハ、発艦する」
「ブラヴォー2、クロード・ミリッチ、行きますっ!」
中隊規模での連邦軍機の出撃。その光景を、輸送艦から見えるモニターより見つめるのは、京都に住んでいた帝国の民間人たち。
音速の壁を軽々と突破する中隊規模の飛行。精鋭部隊の名に恥じない活躍が至上命題である。
「———————ついに、連邦軍が動いたのか」
「でも、中隊規模で、なにが出来るんだよ」
状況は絶望的だ。すでに兵庫は陥落し、大阪は死闘と言えるような絶望的な戦いを強いられていると聞く。断腸の思いで避難する彼らは今、絶望を感じていた。
全ては遅すぎた。遅すぎたのだと。
「それでも、宇宙の中で孤独ではない事を、教えてくれたあの人たちが立ち上がってくれた」
「———————がんばれ、頑張れ—————ッ」
「まけないで———————ッ」
「————————どうか帝都を、お願い、私たちの故郷を———————」
しかしそれでも、それでもこの状況を何とかしてほしいと、彼らは祈るしかない。宇宙には、人類が憎悪する奴ら以外の、この星の人類にとっての新たな希望が存在すると、立ち上がることで彼らは示した。
だからこそガルムは地獄の中で、地獄を狩り尽くす為、その地獄の中を駆け抜ける。
滋賀琵琶湖より出撃した彼らは皆子山の上空を通過し、防衛ラインで先刻通信途絶した京丹波防衛ラインへと急行。京都の戦闘区域へと突入する。彼らは真っ直ぐ戦場のど真ん中へと急行するつもりなのだ。
———————まだ八幡が陥落した報せはない。とにかく前線に現着し、遅滞を試みる必要がある
そして敵陣のど真ん中にやってきたガルム中隊。いきなり光線級との遭遇。
「初期照射確認!!」
「全機スタンドマニューバと同時に散開!! 狩りの時間だ、食らい尽くせ!!」
レーザーが襲い掛かるが、編隊を汲んだまま各自に回避。その一撃のどれもが当たらない。その時点で、彼らは異常そのものであった。
「レーザーヤークトだ、俺に続けッ!!」
しかもどういうわけか、照射速度が遅れているようにも見える。組織的な撹乱回避機動により、データリンクなんていう素地もなさそうな光線属種はターゲットの選択が出来ずにおり、且つその決定したターゲットに逃げられる始末。
「なんだぁ!? レーザーの歓迎が鈍くねぇか!?」
「油断するな。敵光線属種の照射角度より、敵座標を算出。前方4000、個体数10、固まっているぞ」
ジグルドは寸前のところで躱したレーザーの照射角度より敵の位置を察知。味方に迅速に座標を送り、反撃への材料を提示する。
「待っていたぞ、ブラヴォー1! やはり座標特定には定評があるな」
猟犬の如く空を飛び回る彼らの中に、この短時間での接敵で、未だにレーザーに当たる者は存在しない。その全てを危なげなく回避し、レーザーの攻撃から逃れている。
そして、ブラヴォー1のジグルドがまず動いた。
「ブラヴォー2、右翼から回れ! こちらは左翼から回り込む!」
「了解っ!」
実戦での初期照射を受けずに完全回避でレーザーを回避していくガルム中隊。その実態と特性を訓練で知っているからこそ、そして彼らの腕前が前提の行動である。
「ビームの前では、さすがの怪物どももお手上げかぁ!?」
さらに地上では突撃級の掃討に精を出すブラヴォー小隊の面々。文字通り次元の違う武器火力を以て、正面から難敵どもを一掃していく。
「おいおい、簡単に切れちまったぞ!! モース硬度最硬も名前負けしてねぇか!!」
突撃級の外殻を真正面から切り裂き、その胴体を真っ二つにしながら、ブラヴォー3のヘリックが吠える。モース硬度の単位においてトップクラスの硬質を誇る怪物の鎧も、光学兵器の前では簡単に切り裂かれ、ビームライフルの一撃で大穴をあけられ死滅する。
「こいつかっ!! こいつが衛士を一番殺したっていう、食いしん坊のくそったれって奴かぁ!!」
ヘリックはブラヴォー小隊の数機とともに突貫し、戦車級を機関銃で撃ち殺していく。一つ一つの戦闘力は確かに高くはない。しかし、脅威であることは熟知している。ここで多くの戦車級を殺せば、彼らの被害も減ると。
「ブラヴォー1からブラヴォー3、接近し過ぎだ。目標との接触を極力避けろ」
だからこそ、ブラヴォー1のジグルドは注意喚起する。戦車級の取り付きは避けるようにと。座学で散々知っているのだ。あれこそが戦術機の衛士を、前線の人間を最も殺した存在なのだと。
彼の目の前で斬殺されていく戦車級を見つめながら。
そして。ブラヴォー2クロードのビームライフルの一撃で遠目に存在していた光線級を狙撃。一撃で仕留め、続く第二檄で脇にいた光線級も仕留める。
クロードの周りにいた僚機も、周囲の光線級を手早く殲滅し、次の命令に備える。
「アルファー1から、ガルムズへ!! アルファー小隊は光線級掃討! ブラヴォー小隊は地上の雑魚どもを叩け!! なお、ガルム全機は周囲警戒! 撃ち漏らしを逃がすなよ!!」
互いに高い技量を持ちうる練度を誇る精鋭中隊。レーザーの脅威などまるで物ともしない。
—————これがBETA。人類の仇敵。恐ろしい物量だが、
ジグルドは操縦桿を強く握りしめる。ガルム中隊の活躍により、死の8分は当然のごとく過ぎ去り、陥落した兵庫方面より侵入したBETA個体群推定5万を殲滅。
損害皆無と言っていい殲滅劇で浮かれる者は誰もいない。現在連邦軍と帝国軍は負けているのだ。そんな感情など出るはずがない。
その時だった。ジグルドは助けを求める感情の様なものを感じ取り、その方角では戦闘が起きていることをレーザー上で確認したのだ。その動きはを推察するに、南丹はすでに指揮系統が瓦解しているように見えた。
———————近畿南部がここまで、先ほどの出撃前の報告よりも悪化している
つまり、この京丹波、南丹の惨状を見るに、すでに第一次帝都防衛ラインは虫の息ということだ。
「ブラヴォー1より、アルファー1へ。前方3000より交戦中の戦術機部隊を確認」
「無論飛ぶぞ、ブラヴォー1。ガルム各機は直ちに戦域へと移動。友軍を助けるための遊撃行動が我々の任務だ」
その戦場は地獄に片足が入ってしまっていた。すでに山間部にbetaの侵入を許しており、戦車級の浸透が致命的なまでに許してしまっていたのだ。
死角からの強襲、前面には進軍速度の落ちた突撃級の大群。上空に飛べば光線属種の餌食となる四面楚歌以上にひどい状況下。
「く、くるなぁぁぁ!! 化け物ども!! ぐわぁぁぁぁぁ!!」
突撃銃から繰り出される銃弾をばら撒きながら、迫りくる戦車級無数、要撃級多数を相手に後退し続けるものの、ついに死角からのとびかかりでバランスを崩し、機体ごと捕食される兵士。
「隊長ッ!! 戦車級がッ!!! 戦車級が!! あぁぁぁぁぁっぁ!!!」
そして、戦車級に食われる恐怖から視野が狭くなり、突撃級の突進で一撃死する兵士。痛みが一瞬だった分、まだ救いはあったのかもしれない。
「くそっ!! 補給中の友軍を守れ!! 敵を近づけさせるな!!」
隊長機が指示を飛ばすものの、陣形は乱れに乱れ、乱戦状態となっている。他にもエース級とみられる戦術機がせわしなく動いているが、状況は好転しない。
「いやっ!! 離してッ!! 離してッ!!」
女性衛士が乗る瑞鶴に取り付いた戦車級が機体装甲を齧り続ける。ガリガリガリという嫌な音を立てながらアラート音が管制ユニットに響くが、どうにもならない。
「イーグル6!? すぐ向かうっ!! くそっ、ロックがかかって、撃てないっ!!」
「短刀を使え!! イーグル4!! 手早くしろよ、お前の後ろは守ってやる!!」
短刀を取り出し、イーグル6の救援に向かうイーグル4だが、イーグル中隊は既に包囲されつつあった。
—————おいおい、こんな調子だと全滅も間近か!? こちとら初陣連中も含めて、俺様もまだ3回目だぜ!! 身が持たねぇってやつだ!!
イーグル4のフォローにイーグル1が入り、横陣の陣形に近いフォーメーションで味方機を守り、迎撃行動に入る。
だが、イーグル4は先ほど撃墜された2機の戦術機と共にやや孤立しており、周囲がすでに敵のような状態だった。
—————前に出過ぎなんだよ、ひよっこが!! 生き急ぎのお嬢ちゃんが!!
イーグル4の目の前に突撃級が迫るものの、長刀で突撃を逸らし、側面からの切り返しで一匹を葬り去る。
続く正面の突撃級を跳躍で躱し、跳躍と同時に突撃銃での急所を攻撃し、すぐさま地上へと着地。と同時に再び地上で再ブースト。
「ひよっこから離れろ!!」
だが、そのイーグル4の目の前でバルカンに近い射撃がイーグル6に降り注ぎ、彼女を拘束していた戦車級が一網打尽となった。
「な、なんだ!? なにっ!?」
空高くを飛翔する戦闘機のような中隊規模の何かが、光線属種の攻撃を避けながら、遠方へと光学兵器を放っている。しかしイーグル4はすぐに行動を開始し、自由になったイーグル6の下へ向かう。
「ぼさっとするな、姫路!! すぐに離脱するぞ!!」
「は、はいっ!! しかし、あの機体は—————っ」
ともに離脱し、友軍の気の陣形の中へ退避する両機。彼らは高高度で行動をしながら、突撃級を次々と迎撃し、戦車級に対してはグレネード弾で纏めて吹き飛ばしていくのだ。
その速さは、レーダーから時々消えるほどの速力。戦術機の常識を超えた何か。
「この一帯の軍団規模beta群を排除する!! ガルム中隊続け!!」
青年の声が聞こえる。年若い、雄々しい声が。しかし、絶望を知らない新兵の様な快活な声。
それが、それらが、怪物どもを相手に自由に戦い、暴れまわっている。
—————これが、連邦軍の実力って奴か。
隊長が説明していた連邦軍が誇る新兵の中でも特に突出したトップガン集団。
そして、隊長機もそれに呼応するように陣形を変更し、鶴翼の陣形で反撃を開始するよう指示を飛ばす。
「—————総員傾注!! 鶴翼の陣で反攻に打って出る! 我に続け!!」
その直後に隊員たちの決死の反撃により、以降の損耗は存在しなくなり、対面する軍団規模の怪物の集団を相手に生還することが出来たのだった。
「救援感謝する、連邦軍の皆様方。私はイーグル中隊を預かる伊庭啓次郎大尉だ」
「こちらは救援と遊撃の任務を兼ねている。そこまで畏まらなくていい。私は連邦軍第七艦隊所属、混成遊撃中隊ガルムを率いるディルムッド・F・クライン中尉だ。中々に辛い戦局だが、共に戦おう、帝国の勇士たちよ」
畏まった物言いは兄譲りなのか、ディルムッドの固い口調。戦時中は彼もジグルドのことを馬鹿にできないほど真面目なのだ。
「ということは、他の戦場へと飛ぶということか? もしそうならそうしてくれ。日本海側からの艦砲射撃の範囲内であるため、こちらは大丈夫だ。何より重要なのは、八幡の最終防衛ラインを支える嵐山基地と、その付近にある砲撃陣地の救援に向かっていただきたい」
帝都である京都を守る防衛の要。愛宕砲撃陣地が陥落すれば、京都は戦果に巻き込まれるだろう。現在第一防衛線が完全に崩壊し、第二防衛線、第三防衛戦にも被害が出ている。
「了解した。いくぞっ、ガルム中隊!!」
ディルムッドの声と共に一斉に空へと飛翔していく連邦軍機。その速力は戦術機の視界からすぐさま遠のいていき、その数秒後には映像の中で粒のように小さくなっていた。
「——————すげぇな、あれが異星の戦術機か」
イーグル4の三嶋武夫中尉は、飛び去っていく連邦軍機にやや圧倒されていた。あれほどの実力は戦術機の性能だけではない。それを動かす人間も化け物クラスの腕前と、耐G負荷適正においても最高ランクに位置するだろう。
「——————あ」
イーグル6の姫路優菜少尉は、何も言葉をかけることなく行ってしまった彼らに何とかお礼の言葉を絞り出そうとしていたが、せっかちな彼らはもうここにはいない。
「心配するな、イーグル6。お礼を言えるチャンスは、俺たちが生き残ればいくらでもあるはずだ」
一方、イーグル中隊の救援に成功し、嵐山基地へと救援に向かう前にもいくつかの部隊を支援し続けるガルムの中隊。そのスコアはすでに、総数が万以上となっていた。
「いくら狩っても、湧いて出てくるな、奴らは」
ブラヴォー8のヴィストンが、湧いて出る奴らに対して愚痴を言う。いくらなんでもこれは出過ぎだと。座学以上の実感を覚えていたのだ。
「アーガス少尉、気持ちはわかりますけど、先は長いですよ。中国地方の戦線はこれ以上の地獄だったはずなんですから」
そしてここで、ブラヴォー4のゼト・シュバリエ少尉が諫めにかかる。この先連戦が待っていることは確定なのだ。愚痴る前に友軍機を救援する必要がある。
「しかし、俺たちが救援に行かないと、至る所で苦境のようだし、まじでこの戦線はどうなるんだろうな。いや、最善は尽くすけど、嫌な予想しか出てこない」
アルファー7のモルダ・バジャノフ少尉は、戦力投入の時期を逸し、現段階の奮闘に効果があるのか、不安を覚えていた。
「ボヤくな、モルダ。こちらの働きで、帝国軍機、斯衛軍機の損耗を目に見える範囲では抑えている。八幡の最終防衛ラインは遠いが、まずは嵐山砲撃陣地だな」
しかし、アルファー2のヒロキ・ウスイ中尉が注意する。ここで行動することこそ、今後の帝国との付き合い方の時に意味が出てくる。故に手を抜くわけにはいかないし、ガルム中隊で脱落者を出すわけにはいかない。
「ヤマト中佐は悪天候下で支援も期待できない中、日本海軍艦隊と協力してこれの数倍撃破したんだよな。やっぱさすがだわ」
九州防衛のキラに比べれば可愛い数字だ。彼らは浮かれもしない。上には上がある。それを既に思い知っている。
小休止の状態だが、事態は刻一刻と悪化しているのは事実。このまま中隊規模での遊撃を繰り返すだけでは限界がすぐにやってくる。
中隊の誰もが感じていた事実——————作戦範囲が狭すぎるということだ。
「手早く終わらせたが、またすぐに奴らはやってくるぞ。それに、俺にいい案があるぞ、ディル」
ブラヴォー3が、意見を具申する。
「アルファー1からブラヴォー3へ。何か策があるというのか、ヘリック」
ここで強さを示しても防衛できなければ意味がない。もっと広い範囲を防衛しなければならないのだ。
「—————中隊を半分に分ける。アルファ小隊と、ブラヴォー小隊にな」
小隊規模での作戦行動。このままでは八幡最終防衛戦、嵐山基地への救援が成功しても、既に包囲されている京都を守り切ることは出来ない。もはや死に体の大阪に展開中の僅かな部隊を支援し、立て直すことも必要になってくる。
両面作戦が必要なのだ。
「—————ブラヴォー1からアルファー1へ。俺に異論はない。広範囲に展開することは防衛にも役立つだろう」
「————是非に及ばず、か。アルファー1よりブラヴォー3へ。分かった意見を採用しよう、ヘリック。全員傾注! アルファー1よりガルムズへ!! アルファー小隊はこれより大阪防衛戦に移行する! ウェイブの輸送艦も急行するはずだ。急げ!」
ガルム中隊はここで部隊を2つに分けることを決断。広すぎる侵攻領域と、被害が増え続ける戦場で、奮起しなければならないのだ。
「ブラヴォー1からブラヴォーズヘ。引き続きイーグル中隊からの要望を履行するぞ。あの弾幕を見るに、まだ基地機能と砲撃陣地としての効力は残っているだろうが、この戦況だ」
「そうね。兵庫の防衛ラインが既に落ちたのは、アメリカ軍の撤退で分かっていることだけれど、このまま近畿地方が抜かれたら、東海地方で陸路の避難経路を使用している民間人にも被害が出るわ。絶対に守らないと」
ブラヴォー5のエル・バートレット少尉は、ジグルドの命令を受け、状況を整理する。帝都防衛は何としても行わなければならないが、その帝都が抜かれた場合、避難民にいよいよ被害が出てくるのだ。それだけは阻止しないといけない。
「その通りだ、だからこそ彼らも撤退をしないのだろう。こちらのレーダーではすでに至る所は怪物だらけ。包囲され孤立しているにもかかわらず、奮闘する彼らを何としても救援するぞ。ブラヴォーズ、続け」
了解ッ!!
ブラヴォー小隊の機体は、その進軍速度をもって嵐山、愛宕へと急行する。
近畿地方は地獄と化し、すでに防衛ラインは瓦解寸前。救われる命が多いだけで、大局を動かすに必要なキラも、アスランも九州、四国に釘付けのままだ。
そして、実戦未経験に等しいトップガン集団のガルム中隊がどこまで踏ん張れるか。中国地方蹂躙から始まった戦線は大きく変動していく。
その数刻前———————————————
状況は既に大阪に魔の手が及んでいる状況。そして一部のBETAは既に京都へ侵攻してしまっている。
こうなれば詰みだ。京都は既に包囲されていると言っていい。大阪が完全に陥落すれば、別方向から挟撃される未来が待っている。
もはや、戦略的に京都が陥落するのは目に見えていた。
学徒兵は既に多くが出陣しており、泥沼の戦闘が行われていく。
そしてそれは、嵐山補給基地も例外ではなかった。
「—————ここも最前線、なのね」
今もこうして九州、四国での防衛は成功している。連邦の切り札が九州、四国に展開していたBETAを駆逐している。あと少しすればBETAの第6陣を殲滅し、背後より近畿地方に殺到するBETAを挟撃できるのだ。
唯依は、ここで防衛すれば勝機があると考えていた。
すでに出撃を開始しているファング中隊は、長距離火力支援の中で防衛活動を行っていた。
「くっ、こんな数で—————」
如月中尉率いるファング中隊は、比較的容易ともいえる戦場で初陣を果たしていたことになるであろう。
だが——————
「私は、お荷物なんかじゃないよねぇ!!」
「え?!」
突撃級との戦闘で手間取った志摩子からの物言いは、唯依にとって信じられないものだった。
いつもそんなことを考えながら、不安に駆られていたというのか。そんな態度を見せてこなかったことを言い訳に、彼女を知らず知らずのうちに傷つけてしまっていたのだろうか。
そして、出撃前に見せつけられた光線級の恐怖と、それを報せる警告音。
—————あっ
無理だ。もう手遅れだ。薬液を投与された影響なのか、直前まで取り乱した感情が沈静化する。高度を無視して飛び回れば、レーザーの餌食になる。座学で散々習ったことだった。
「—————あれ?」
そして光の膜が、志摩子の乗る戦術機を照らした。初期照射だ。そして次の瞬間に撃墜される未来を見てしまった。
だが——————
「させるかよ————っ」
「え? きゃぁぁぁぁぁあ!!!!!」
だが、レーザー照射の直前、威力を減衰した何かに攻撃された志摩子の機体は傾き、ロケットモーターに照射を受けるにとどまったのだ。
辛うじて致命傷を避けた。しかし、戦術機としては致命的な、足を完全に潰された。
「志摩子ッ!? 志摩子ぉぉぉぉ!!」
悲鳴のような声をあげながら、安芸が叫び声をあげる。レーザーの即死を避けたが、自由落下する戦術機が地面に激突すれば、ただでは済まないだろう。
その時だった、他の場所でレーザーの警告音が鳴ったのだ。一体誰が————
しかし、その警告音が別方角より飛来した光の束によってかき消される。
桃色の光が、光線級がいた方角へと飛んでいき、プラズマによる爆発を起こしたのだ。一撃であの威力、恐るべきレーザーよりも高い威力を持つ何かが、自分たちの命運を救ったのだ。
「無事か、帝国軍!! こちらガルム中隊を預かるジグルド・F・アスハ中尉だ! そちらの所属と————唯依!? どうしてここに!?」
「ジグルドさん!?」
救援に現れたのは、連邦軍の兵士ジグルド。そして彼がいるというならば、
「お願い、届いてッ!!!! 届きな、さい!!」
ブラヴォー5の雄叫びが響き渡り、墜落寸前だった志摩子の機体を受け止めたのだ。スラスターでバランスを取りながら、ゆっくりと着地した彼女は、管制ユニットにマニピュレーターを動かし、無理やりユニットを取り出すことで、志摩子を外へと引きずり出したのだ。
「志摩子!? あぁ、よかった—————」
安堵の表情が漏れる唯依。諦めかけていたその時、ジグルドが砲撃で志摩子の機体をずらし、ブラフォー5が受け止めてくれたのだ。
感謝してもしきれない。とはいえ、かなりギリギリではあったが、
「あ、貴方方は—————」
如月中尉も驚いているだろう。連邦政府の精鋭である彼がこんな場所にいることは。
「—————こちら連邦軍所属のガルム中隊。貴官らを支援する。よろしいだろうか?」
「あ、ああ。だが、甲斐少尉は—————」
「————ブラヴォー1よりブラヴォー5、彼女を安全圏へ。少しの間だが、貴様の穴は完璧に埋める。ウェイブの輸送艦にも指示を飛ばしておく。迅速に合流せよ」
ブラヴォー1、ジグルドは指示を飛ばす。彼女を背負ったままでは戦闘に支障が出る。
「了解しました。中尉も無理をなさらないでくださいね」
「だが、ブラヴォー5を単独離脱させるわけにはいかない。ブラヴォー7、8。二人はブラヴォー5の護衛を。途中で戦闘を見かけた場合、ブラヴォー5の裁量に任せる。いいな?」
「へへっ、隊長の取り分を奪いますぜ」
「いいんですか、お供が少なくなりますよ」
「軽口が言えるなら問題ないな。ホームでまた会おう。再合流ポイントは八幡だ。ここを突破された場合、京都が無防備になることだけは留意しておくように、いいな?」
「「「了解」」」
ブラヴォー5、7、8は周囲を警護しながら離脱。残るはブラヴォー1から4、6。それでもこの規模の小隊を守ることはできないはずがない。
「よし、続く一団を先行して撃滅する、ブラヴォーズ、行くぞ!!」
了解!!
可変形態になり空を滑空するガルム。そしてその光景は彼女らにとって自殺行為にも等しいものだったが、
「うそっ—————レーザーを避けながら—————進んでいる!?」
山城少尉が驚くのも無理はない。彼らは連邦内でも精鋭部隊の新兵。ジグルドが言ってくれた言葉に偽りはなかった。
「20000程度では話にならんなぁ!!」
「これの20倍はもってこい!! 歯ごたえがねェだろうが!!」
「俺は100倍ほど行けると思うな!!」
「各機油断するな、目標を確実に始末しろ」
空と陸での優位を保ったガルム中隊は、その全てが精鋭の動きそのもの。中でも空を任されている赤い機体は格が違う。
「自由落下!? そこからの連続噴射の姿勢制御!?」
曲芸飛行の様に自由落下のGを顧みない変則機動。ブラヴォー1の耐G抵抗値は基準値以上なのだろう。
少ない推進剤で完全回避を行いつつ、高速戦闘中での正確な射撃。
「狙い撃ちはこちらも負けてねぇぞ!!」
地上担当の機体はさらに凄い。突撃級の足を正確に狙い、足止めを行ったのだ。玉突き事故を起こしたBETAに対し、円を描くように散開するガルム中隊。
「足を止めろ!! レーザー避け代わりに使うぞ」
程なくして小型球も含む個体種も撃滅したガルム中隊。何もかもが違う、自分たちの常識では測れない練度を誇る本物の精鋭。
自分たちが苦戦していた相手を苦も無く殲滅する集団。やはり、帝国軍の間でも噂になっていた連邦のトップガン集団は伊達ではない。
これがあの、座学を受けに来た年若い青年たちだという実感が湧かなかった唯依達。しかし、目の前の現実が実感するようにと命令する。
彼らは強いのだと。
「—————よし、ここら一帯はもう大丈夫か————特に敵が進軍している反応もない」
ジグルドとしては、いつまでも一つの部隊に固執するわけにはいかない。
他の部隊を見つけて救い出す必要がある。
「もう助けはいらないな? 周囲のBETAはあらかた葬ったと思う。俺たちは別の戦場で友軍を救う。生きてまた会おう」
「あ、ああ。そちらの助力、感謝する」
如月中尉も先ほどから圧倒されっぱなしのようだ。彼らを知る唯依も、実際に彼らの戦う姿を見たのは初めてだった。
戦術機を上回る高速戦闘と、レーザーを回避できる衛士の腕前。
世界にはこれほどすごい戦術機乗り達がいるのだと痛感した。
「篁さん。彼らは、連邦軍の————あれほどの技量を全員が持ち合わせていましたわ」
プライドの高い山城も、今の動きを見て羨望と心強さを感じているようだ。レーザー回避がデフォルトの中隊など、今まで見たことがない。
「へへっ、本当にすごかったんだ」
安芸は、とんでもない足跡を残して飛び去るガルム中隊を見て笑顔になる。きっと他の部隊を探し出して助けるのだろう。
しかし、暗い声が広がってしまう。
「—————なんで、九州の時に行かなかったの? もしあの人たちが九州にいたら、忠道は————」
恋人を瀕死にされた和泉は、それだけの力があるのに、京都陥落手前の状況で参戦した彼らに暗い感情を抱いてしまった。
「————ジ、ジグル————連邦軍にだって事情があったんだよ。でも今は味方だよ?」
いつまでも彼の名前を呼ぶべきではない。連邦軍の名前を出し、事情があったのだろうと推察する。
「で、でも————」
尚も反論する和泉だが、
「少なくとも、連邦軍は進んで兵士を死地には送らないつもりだった。切り札と呼ばれる二人を派遣して、BETAの脅威を推し量ったのでしょうね」
山城は少なからず外の情報を知り得る手段があったのだろう。だから、簡単に情報が手に入っている。
巖谷中佐から知ることが出来た唯依と同じレベルの情報を。
「—————私たちの想像では助からない恋人さんも、連邦の、私達にとって未知の技術を用いれば、助かるはずではなくて?」
そうだ。こうも想像を超えた事実を出し続けているのだ。彼らなら瀕死の恋人をも救えるかもしれない。
「う、うん————だよね、忠道がそう簡単に死ぬはずがないもの!」
「なら、私達のやるべきことは戦場で生き残ること。許嫁さんに会えなくなるわよ?」
その後、山城の説得に近い物言いでバイタルが安定した和泉。きっと自分にはあそこまで言葉が回らない。さすがすぎると唯依は思う。
そして、数分後亀岡戦域東端、嵐山基地の救援へと向かう嵐山中隊は、難なく嵐山基地の防衛に成功。近畿に流れてくる個体数はまだ他の戦場に比べると少ないといえる。
なお、それは九州、四国での絶望的な戦力差をひっくり返すキラとアスランの存在がかなり大きい。
九州、四国での足止めは大きく、キラとアスランが釘付けにしている大量の主力BETA群が撃滅されていることが大きい。
そんなバカげた戦果をたたき出す二人に対し、隊を預かる者として如月中尉は深く感謝の意を抱く。
—————————遠い星の些末事に、ここまで身を粉にして動くとは、感謝の念を抱く以上に、申し訳なさが先立つ
彼らの覚悟を無駄にしない為にも、ここで倒れることもできない、ここで帝都を守り切れないこともできない。彼らが立ち上がった理由が、泡沫の如く消え去るのは申し訳ないと言えるのだ。
—————四国、九州が陥落していないことから、挟撃は十分に実現可能だ。
中国地方の陥落から近畿の危機的状況は想定外ではあるが、それでもまだ絶望的な戦いというわけではない。
しかし、BETA側も侵略が進まないことで業を煮やしたのか、そもそもそんな感情があるのかさえ不明な相手だが、鉄源ハイヴ以外からも大量の軍団が投入されていると、衛星からの確定情報もある。
つまり、BETA群の今回の襲来は、複数のハイヴより大量に投入された史上類を見ない圧倒的な進軍ということになる。
その為、キラとアスランは九州、四国の守りを疎かにすることは出来ず、身動きが出来ない状態なのだ。
その為挟撃など期待できるはずもなく、到底救援に間に合わない距離であった。
「嵐山基地、応答してくれ、こちらは嵐山中隊——————」
大阪に急行するディルムッドたちは絶望的な戦いを強いられている部隊を救うことで手一杯となっていた。ブラヴォー小隊の補給路となっているミカエルは既に琵琶湖を出立。アルファー小隊の補給としてアーガマもまた紀伊水道を目指し南下を開始している。
だが、
「早く逃げろよ!! そんな機体状況で、何が出来るんだ!?」
「将軍殿下の為、ひいては帝国の未来の為————」
「ここで退却など、できるものか!」
傷だらけの機体状況で尚も闘志を隠さない帝国軍兵士。どうしてそこまで戦える。何が彼らを駆り立てるというのか。
「ちぃ!! アルファ小隊はこの最前線で戦線を維持する。この我慢強い馬鹿どもが満足するまで、ここを維持しつつ前進、遅れるなッ!!」
「アルファ2了解! そうだ、目の前の命は助ける!! それが今の、我々の戦う理由だ!!」
アルファ小隊各員も賛同し、大阪での援軍の当てのない絶望的な戦いを強いられることになる。
大挙して押し寄せるのは、大型種の軍団。
「あれが要塞級か! 奴の足を狙え! 足を潰して、腹を仕留める!! 俺が初弾、アルファ4続けぇ!!」
「了解っ!!」
アルファー4チェン・ウェイツ少尉がディルムッドの後に続く。完ぺきなフォローワークで背後につくのだ。
そして程なくして、ディルが6本足のうちの3つを破壊し、バランスの崩れた要塞級は地面へと激突。
「よろめいた瞬間を狙い撃つ!」
そして小型種が潜んでいるだろう腹を貫通し、爆散四散する要塞級。これであの場にいた小型種は殲滅しただろう。
「パーフェクトだ、アルファ4!! 次も頼むぞ!」
ガルム中隊による救援活動。二人の英雄がいない中、自分たちのできる範囲で命を救い続けていた。
「—————我々では、彼らの足手まといだ————」
観念した隊長は、諦めたようにつぶやいた。
「撤退するぞ、ウォール中隊。このままここにいては、それこそ不忠だ」
「—————ここは彼らに託す。我々は次に備えるのだ。今度こそ、勝利とともに役目を全うするために」
ガルムの足手まといになるなら戦場を離れる。戦場でより多くの命を救える彼らの足かせになるわけにはいかないという理念の下、撤退を選択した帝国軍。
「—————ほんと、いい奴らばっかりだよ。帰ったら祝勝会をしたいものだ」
「ですね。あ、隊長はだめですからね、未成年なんで」
「分かり切ったことを言うな。そこはちゃんとルールを守るさ。けど、生き残れば、無礼講もありだ」
なんだかんだ言いつつ、戦局は変えられなくても、ガルム中隊は自分たちの願いを全うする。
地獄の番犬たちは、地獄が顕現する1000年の都で躍動する。その先に彼らの願いはかなうのか。
だが、彼らはここが戦場であることを知り、そして理解していなかった。
戦場は、どれだけの規模であっても、戦場なのだということを。