Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~   作:傍観者改め、介入者

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帝都防衛戦、第七艦隊が来るまで粘ることができるのか。


第十六話 解き放たれた双瞳

そして、粗方の学徒兵を救い続けていたジグルドたちは、最後に目視で確認した戦闘記録を頼りに京都駅へと向かっていた。

 

何より、京都駅方面から照射を受けたことで、ブラヴォー小隊の間で緊張が走る。

 

—————最後尾にいるはずの光線属種が、なぜ在り得ない方向から

 

もしかすれば、自分たちは致命的な、誤った認識を持っているのではないか。

 

 

「—————おかしい。ここは絶対防衛ラインが守るべきエリアのはずだ……なのに、これは一体ッ」

 

ジグルドは妙な胸騒ぎを感じていた。あのマーカー、一瞬だがどこかで見たことのあるものだった。しかし、帝国と共闘したのは複数であり、一体いつ見たものというのか。

 

ジグルドの勘が囁くのだ。悪い方向へと悪い方向へと、彼がそんなはずはないと考えている予想が、現実なのだと。

 

 

「ですね。京都駅に立ち寄る途中、要塞級と何度も交戦しました。ここはもう突破をされているのでは?」

 

ブラヴォー2クロードは、ジグルドの危惧は間違いではないと具申する。

 

通常、BETAの軍団は、前衛の突撃級、中衛の戦車級、光線級、要撃級等がおり、その後衛に要塞級が居座っている。後衛にいるはずの要塞級がここまで入り込んでいることは、すでに突撃級の強襲を受けている可能性が非常に高い。もはや予断を許さないどころか、この一帯は手遅れである可能性も出てきた。

 

 

「機体の動きが止まった京都駅に向かおう。ガルム中隊続け」

 

 

了解!!

 

 

周囲を警戒しつつ、見通しの良いビルの屋上で数機が警戒態勢を取り、残りが京都駅を目指していた。

 

——————この感じ、何がッ…‥

 

 

ジグルドがレーダーよりも光学カメラが視認した先には、要塞級に襲われている瑞鶴が複数機飛び回っており、何とか触角の一撃を回避しようと逃げ回っていた。

 

「そんな、京都駅付近に、要塞級!? なんで、なんでよぉぉぉ!!」

 

「そんな、せっかく生き残ったのに!!」

 

 

——————要塞級!? なぜこんな場所に!? ここに奴らにここまで入り込まれたということは、やはり‥‥ッ!!

 

ジグルドは瞬時に最悪の予測を導き出した。八幡の絶対防衛ラインが瓦解したとの報告はない。だが、その他の戦線は通信途絶で不明のまま。

 

——————八幡以外の多方面から、既に京都は‥‥‥‥

 

 

守るべき都は、既に終わっていた。彼らの作戦は、すでに失敗していた。

 

千年の栄華も何と無惨なことか。異星起源主の蹂躙を許し、見る影もない。

 

「おいおいおい!! どういうことだよ!! なんだよッ!! なんで帝都が!!」

 

 

「くそっ、今はあの2機を支援するぞ!! ———ッ、全機回避機動っ!!」

 

 

ジグルドの背中に悪寒が走る。要塞級からではない、小型種程度のレーダー分布する個体から、強烈なイメージを感じ取ったジグルドが、回避を叫ぶ。

 

放たれるのは、刺客から迫りくる閃光。それは、人類を恐怖のどん底に突き落とし、空を奪った元凶。彼らは掃討し尽くしたと信じていたもの。

 

「うおっ!? レーザーだと!? 俺らが狩り尽くしたはずだろ!? どうなってるッ!!」

回避するヘリックだが、思わぬレーザー攻撃に唖然とする。もうかり尽くしたはずなのに、まだ生き残りがいたとは。

 

「要塞級からの排出です!! 座学でも学んだでしょう!! 奴の腹の中に小型種がいるって!! 応戦しますッ!!」

 

ゼトが今更要塞級の概要を口走る。絶対にとどめを刺し、且つ腹の中全てを掃除しないといけない存在。でなければ、たちまち彼らは制空権を奪われるだろう。

 

「まずいっ、逃げてッ!!」

 

「しまったっ、君達っ!! ビルの陰に隠れてッ!!」

 

アンリが気づき、続いてクロードも注意喚起する相手はブラヴォー小隊のメンバーではなく、救出に向かっていた瑞鶴の2機。

 

それは一瞬のことだった。何とかビルの陰に隠れた1機は助かったが、もう1機はレーザーの一撃で撃墜されてしまったのだ。

 

回避は困難だった。だが悲劇は終わらない。市街地という限られた空間で、死角から攻撃を放つBETAの攻撃は脅威だった。

 

ビルの物陰に潜むもう一体の要塞級。それを感じ取ったジグルドが叫ぶ。

 

「前方注意するんだッ!! 逃げろっ!! ッ、先回りしろ、ブラヴォー3!!」

 

「今やってるっ!! 畜生間に合わねぇェ!!」

 

「ひっ! いやぁぁぁぁ!!」

 

断末魔すらかき消す要塞級の触角。それが彼女の命を刈り取りに来たが、

 

「っ!!!」

 

ジグルドのリゼルが装備するライフルが、その触角の先端を撃ち抜いた。管制ユニットこそ直撃しなかったが、ビルの激突し、機体が動かなくなる。

 

 

あまりにも容赦のない現実。戦場という残酷さを見せつける要塞級。その場にいたジグルドとヘリック以外の隊員の、何かが切れた。

 

 

「こ、この野郎ぉぉぉぉぉ!!」

ゼトが、

 

「なんでそんなことが、平然とできるんだぁぁァァァ!!!」

 

クロードが、

 

「ひどい、酷過ぎるっ、お前らが、お前らがいるからっ!!!」

 

 

アンリは激昂し、要塞級にめがけてビームライフルを乱射。その後即席でフォーメーションを組んで光線属種の攻撃を回避しながらサーベルによる一撃で斬殺した。特にクロードは日頃穏やかな性格であったはずなのに、目ん玉めがけて刃で刺し殺すという残酷な殺害手段をとっていた。

 

「落ち着け、お前らッ!! ここで激昂しても状況は悪くなるばかりだぞ!!」

 

 

「各員落ち着け! ここで時間を消費し、京都駅周辺の生存者を見逃すことこそ、あってはならない!! いいか、怒るなとは言わない!! だが、視野を狭めるなっ!! あの機体のパイロットを救出する!!」

 

 

「ごめん……短慮だった、悪い、ブラヴォー1」

ゼトが謝罪する。自分でも冷静さを欠いていたと自覚しており、すぐに平静を取り戻そうと荒く息を吐いていた。

 

「ジークっ、すまん‥‥けど、こんな、こんなのってないよ…‥」

 

「京都駅周辺の生存者…‥いるのか、この状況で? 要塞級の侵攻は最後尾。もう既に京都は…‥」

 

穏やかな性格同士のアンリとクロードは、この現実に強いショックを受け、彼女らのデータを調べた結果、あの時の嵐山中隊のものと判明することによってさらに絶望する。

 

しかし、そんな中見つけた生存者。クロードは彼女を救出し、コックピットの複座に乗せる。

 

 

「そんな……あの時の中隊が‥‥‥」

 

「一緒に行動するべきだったのか‥‥‥けど、それだと…‥」

 

 

「アンリ、クロード!! 今はそれを考える暇はない!! まずは状況を確認する。今は手を止めるなっ!!」

 

京都駅の状況を確認する必要があると叫ぶジグルドも、内心では冷静さを失いそうだった。だが、ある考えたくもない事実が、彼の脳裏から離れない。

 

その時、ある鮮明過ぎるフラッシュバッグと、まるでパノラマ絵画のようなイメージが、ジグルドの脳裏を突き刺した。

 

———————!? なん、だ‥‥‥今の

 

一瞬だったにもかかわらず、そのイメージはあまりにも鮮明過ぎた。

 

目の前に、自分が機体を降りて、何を確認した。何を見た。その感情は何だ。

 

——————そんなことが、あるはずがない、あってたまるか…‥

 

 

震えが止まらない。その起きてほしくない現実の様な、それももうすぐ起こりうるぞと語り掛けるようなイメージに、ジグルドは口元を抑えた。

 

「うっ…‥」

 

彼が見たのは、物言わぬ骸となった彼女の顔だった。リアル過ぎて、それがこれから起きるようなもので、ジグルドが知り得るはずのない彼女の機械化歩兵装甲などイメージできるはずがない。

 

それはジグルドの視点から見えた幻、のようなもの。悪夢を見過ぎた彼が思い詰めた幻、なのか。

 

—————ヘリック、お前ッ、そこで何をして‥‥‥

 

ジグルドの知らない顔の少女が慟哭している姿と、ヘリックが必死に彼女を抱えて逃げる様。その背後には赤い、戦車級の群れが迫っており、

 

 

そして瞳から光を失った彼女の生首だけが、地獄に取り残されていた。

 

 

「唯依…‥ッ」

 

 

 

 

 

 

 

ヘリックが見た時のそれは、落胆と、憤りだった。

 

「おいおいおい、あの山吹色の機体—————」

ヘリックがあり得ないものを見たような声を出す。呻くような、ショックを受けたような声色だ。無論、ジグルドもあれを知らないはずがない。あれは、あれは——————

 

心臓が鼓動を全身に響かせた。有り得ないもの、認めたくないものがそこにあった。

 

「まさか—————」

 

————どうして……‥

 

なぜ、そうなっているのだ。

 

———————どうしてっ!!

 

あの時、助けたはずだった。

 

 

———————どうしてッ、どうしてそこにいるんだ、キミはッ!!

 

 

ジグルドの胸が締め付けられる。あそこにあの機体があるというならば、自分たちが救った小隊が、ここで撃墜されたということになる。

 

—————あの幻は、これから起きることだと、そう言いたいのか…‥

 

 

しかも、その近くには彼女らを落としたと思われる要塞級がいたのだ。

 

「くっ、要塞級を撃滅する。ブラヴォー2,3,4は彼女らの捜索を上空より行え! 残りは俺と共に周囲への警戒を厳にしつつ、要塞級を撃破する! 続けっ!」

 

了解!!

 

要塞級をライフルの一撃で速やかに仕留めたジグルドは、ブラヴォー6とともに遺棄された機体の確認を行う。

 

「—————まだベイルアウトして浅い。近くにいるはずだ。要塞級の存在から小型種がいる可能性が高い。注意しろ! 止めを刺せ、ブラヴォー2っ!」

 

「了解、座学通り、要塞級には多数の小型種が満載されている!」

 

クロードは、要塞級の腹の中にライフルを連射し、中には出でようとしていた小型種を蒸発させる。これで、これ以上の敵性力の増大は防げたはずだ。

 

「ブラヴォー3より中隊各機へ、見たこともない帝国軍機と、ゴールドフレーム!? ウェイブ様!?」

 

 

「な、なんだと!?」

 

ウェイブを矢面に出す必要があるとは思えない。ジグルドは通信を入れる。

 

「ウェイブ・フラガ! 貴方は己の使命を全うする手筈だったのでは!? 輸送艦の命令はどうした!?」

 

「民間人と、取り残された学徒兵の収容を行っている! 後はこの一帯だけだ。お前らのおかげでな!」

ニッ、と笑うウェイブ。その隣にいるのは、おそらく五摂家の者だろう。青塗りの機体と言えば、かなりの家格の者であることがうかがえる。

 

 

「調子のいいことばかり言うな。ッ、今はそんなことを言っている場合ではない。京都駅に不時着した彼女らを救う。捜索を行っているが————「こちらブラヴォー6!! 人が、人が食べられてッ!! おまえぇぇぇぇぇ!!!」待てッ、ドミネクス少尉!!」

 

 

 

ブラヴォー6、アンリ・ドミネクス少尉が激昂しながらバルカンで小型種を殲滅する。しかし、もはや死体となっている少女は解放されたとしても手遅れだった。

 

——————能登、和泉少尉—————なぜ、こんなところで、

 

許婚と幸せになるのではなかったのか。しかし、その未来は永遠に訪れない。もしかすれば、残る二つの戦術機の搭乗者も、唯依とあともう一人もすでに食われているのではないかと。

 

——————我々は遅すぎた。俺たちは、遅すぎたんだ‥‥‥すまない、能登少尉…‥

 

 

せめて、物言わぬ骸と化した少女に黙祷を捧げ、ジグルドはそれでも現実に抗う決意を固める。それがいかに無謀と言われようが、そこに命がある、消えようとしている命があるなら歩みを止めるわけにはいかない。

 

「—————ッ、私が下りる。周囲への警戒を頼む」

 

ジグルドはここで機体を降りる選択を決意したのだ。

 

「ブラヴォー1!? それは」

慌てる隊員だが今は現状思いつかない。

 

「時間がない。このままでは二人を見殺しにしてしまう。頼む」

 

 

「りょ、了解————ブラヴォー1、気を付けて」

 

「周囲への警戒を厳に!! ここで大型BETAでも来られたら厄介だわ!」

 

 

斯衛軍の崇宰恭子は、自ら死地へと赴くジグルドの胆力に驚愕していた。

 

————なんて子。この場で機体から降りる選択ができるなんて

 

そして、そんな果敢な青年を無駄死になどさせないと決意をしていた。

 

 

だが、そこへ要塞級が現れる。後方より要撃級も多数出現するなど、状況は最悪だ。

 

 

「くそっ、他の防衛網は本当に無事なのか!? こうも断続的に来られると、危ういかもしれないな!!」

 

ウェイブは所定の場所を動かない程度に、迎撃を開始。ライフルの一撃ですぐに撃破できるとは言え、念入りに要塞級は殺す必要がある。

 

「—————ジグルド、まだなのか!? って、墜落したもう1機を発見!! 確保ッ!!」

 

ヘリックは、墜落していたもう1機の白い瑞鶴を発見。群がる戦車級をライフルで一掃し、その管制ユニットから人が出た形跡がないことを確認し、呼びかける。

 

「おい無事か!! 助けに来たぞ!! 返事をしろ!!」

 

 

『あな、たは‥‥‥』

 

かすれた声で、ヘリックの声に反応したのは———————————————

 

 

 

京都駅の廃墟と化した通路を進むジグルド。暗闇の中でも夜眼の利く彼は、五感以外の感覚で敵を認知していた。

 

 

—————ノイズの走るような感覚。奴らにはある一定の音しか聞こえない。

 

ジグルドには妙に思えていた。普通生物には感情などが芽生える。言葉を理解しない動物にだってそれはあるのだ。

 

 

しかし、BETAにはそれがない。感覚的なものになるが、彼らから聞こえる音は一定なのだ。変化がなく、殺される寸前でさえ、同じなのだ。

 

————BETAは本当に生き物ではないのかもしれないな。

 

言うなれば、生体機械。肉感を感じさせる、機械のような存在。恐ろしいほどに平坦な、ある法則に基づく信号のような物。

 

————この戦闘の後、俺の感覚は報告するべきだろうな。

 

ジグルドは、BETAの存在についてのレポートをまとめる方針を固める。この世界で他にも奴らに関するレポートがあるはずだ。ならば、糸口になるかもしれない。

 

 

しかし、そこまでだ。今のジグルドにはやるべきことがある。

 

————見つけた、なんて場所に—————

 

 

暗闇の中で息をひそめて僚機の下へと向かう少女の姿が見えた。バイタルは安定しているとは言い難い、何か手遅れになりかねない何かを感じる。

 

しかし、あの現実は起きない。起きてほしいわけではないし、起きてはならないことだが、これで、彼女があの場面で死ぬという悍ましい可能性は消える。とにかく今は彼女を連れて逃げなければ。

 

—————唯依ッ

 

いてもたってもいられず、ジグルドは背後から彼女に声をかけた。

 

「—————唯依ッ!」

 

「————ジグルドさん!? どうして————」

 

ジグルドを見つけた時の彼女は、驚いた表情で彼を見やる。こんなところにいるということは、彼も機体を失ってしまったからなのか、と自責の念に駆られていると

 

「お前を迎えに来たんだ。生きている者を必ず生還させる。それが俺たちの戦う理由だ」

 

「でも、山城さんが…‥」

 

「心配するな、俺の仲間が先ほど彼女を発見した。付近の戦車級も————!?」

 

 

その時だった、彼女の背後から迫る白い腕。それを反射的に認知したジグルドが咄嗟に彼女を突き飛ばした。

 

人間離れした腕力、膂力。それをもろに食らったジグルドは、その直前に反撃を試みてしまった。携帯型の光学拳銃での一撃と、彼に迫る脅威はほぼ同時。

 

 

 

彼は唯依の後方に吹っ飛ばされたのだ。

 

 

 

「ぐっ‥‥闘士、級…‥ッ」

 

その時、唯依の見た光景は、とてもスローモーションに見えた。

 

父と交流のある宇宙人で、とても誠実で、勇敢で、父の努力を認めてくれた人。

 

「‥ッ!」

 

直前の反撃行動がなければ受け身をとれていたかもしれない。しかし彼は、唯依を守るために反撃を咄嗟に選択してしまった。

 

 

だがそれは、受け身を放棄したということ。無造作に、乱雑に地面にたたきつけられた彼の視界が暗転する。

 

 

「あぁ…‥あぁ…‥うわあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」   

 

 

ジグルドが殺されたと思い、パニックに陥る唯依。頭を抱え、呼吸も荒くなり、頭も何度も横に振り、目の前の現実を受け入れられず、嘆き続ける。

 

 

彼は眼前で倒れており、頭から血を流して動かない。

 

 

そんな彼女を、ぼんやりと見つめることしかできないジグルドは、体のあちこちから激痛を感じていた。

 

———————しくじった、か…‥‥けど、これで唯依は‥‥‥‥

 

 

 

「いやだっ、いやだいやだいやだっ!!! ジグルドさん!! ジグルドさんッ!! やだ、起きて、おきてくださいッ!!!」

 

唯依は狂ったように走り、ジグルドの下へ駆け寄る。ゆするという行為は本来重傷者にするべきではないのだが、ジグルドの負傷が引き金となり、完全にパニックとなっていた。

 

 

そして遠目から見える兵士級の群れ。四方を囲まれ、このままでは包囲されつつあるフロアを感じ取ったジグルド。至る所から、奴らの発する信号が鳴り響く。

 

 

—————————やばい、な、これは…‥‥‥

 

 

このまま座して死を待つわけにはいかない。だが、自分を置いて逃げ切れると思えない少女。何とか彼女だけでも。

 

 

 

その時だった。自分の命を諦めかけていたジグルドの前に、なぜか、どうしてだかしらないが、走馬灯のように浮かび上がったのは、まったく自分が与り知らないものだった。

 

 

—————————生きなさい、最後まで

 

 

金髪の、どことなくリオンと同じ血脈を継ぐような、優し気で、高貴な雰囲気を持つ女性。

 

 

————————私は間に合わなかった。だから……‥お願い‥‥‥

 

 

地球連邦の軍服に身を包む、世界が知らない女性の声。

 

 

—————————彼女を、世界を守って……‥

 

 

 

 

 

その言葉を聞いて、ジグルドの中の何かが目覚めた。

 

 

 

その時、カガリから受け継ぎ、   によって  された、彼の SEEDの因子が目覚めた

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥わかってる、分かっているよ、俺は、その為に、ここにいる…‥‥」

 

火事場の馬鹿力というのか、ジグルドは痛みを堪えて立ち上がった。最悪なものを見せられたような気がして、目が冴える、頭が冴え始める。

 

誰に対して言っているのかは分からない。しかし、彼女が無念を抱えていたことは分かった。そして自分にはそれを覆す力と意志が失われていない。

 

そんなことは、些末事なのだとジグルドは断じた。

 

 

「———————(骨折はない、頭部を強く衝突させたことによる昏倒、めまい。受け身が間に合ったか)」

 

 

 

目の前には、薬物投与の乱発で意識を失い、その場に倒れこんでいる少女の姿。そうだ、立ち上がれば未来は開ける。泣き言を吐けば未来は遠のく。

 

 

今の自分が満身創痍であろうと、関係がない。為すべきことを為す。ジグルドは痛む背中を気にすることもなく、少女を抱えて走る。

 

 

————————先ほどまでの体の重さがない。危機的状況だというのに冷静だ。

 

 

横から通せんぼのように這い出た兵士級の頭部を正確に拳銃で狙撃するジグルドは、射撃の調子がいいことに、最低限の敵の急所に限り、弾薬を消費していく。

 

 

背後から迫る兵士級を意識しながら、活路を開く。

 

 

「こちらブラヴォー1、生存者1名を確保した。離脱する」

 

唯依を俵のように抱きかかえ、この場を後にするジグルド。背後から兵士級が迫っているのが分かる。

 

「ブラヴォー1!? 援護する!」

 

そして、ジグルドたちに迫る兵士級の群れを近くにいたクロードがバルカンで排除していく。何とかリゼルに辿り着いたジグルドだったが、先ほどから唯依は意識を失ったままだ。

 

しかも、ジグルドも少なくない傷を負っているはずだ。兵士級の一撃を至近距離で受けたのだ。どこか痛めた個所もあるはずなのだ。

 

「大丈夫なの、ジーク!?」

 

「ああ、問題ない。戦闘を続行する」

 

「そう、って、ジーク!? その目‥‥‥」

 

クロードは、彼が彼であるために施した仕掛けが外れていることに驚いた。

 

 

「‥‥‥‥あの場所で紛失したようだ。しかし問題はない。俺はそれよりも優先度の高いことを選択する必要がある」

 

 

常人ならば重症の衝撃、それを受けて作戦行動が続行できる彼ではあるが、やはりクロードは心配の色を隠せない。それでもジグルドは表情を変えずにクロードに話しかける。しっかりと少女を支えたまま。

 

「—————MSの操縦にまで影響するとは、面白い状態だ…‥」

 

いつぞやの訓練の時を思い出す。

 

 

体の痛みは既に引いている。体の複数個所から出血があったが、それも止まった。それは通常なら在り得ない。闘士級の一撃をまともに受けて骨折ひとつないというのは異常を通り越して奇跡だ。

 

彼には精密検査が必要だった。

 

 

しかし尚も予断を許さない状況。

 

救いだした少女たちは酷く衰弱している。このまま放置すれば、良くないことは明白だ。ジグルドよりも先に治療を受けるべき人間がいる。

 

 

「けが人は輸送艦だ。応急処置程度なら、何とか済ませられる!」

 

ウェイブの計らいで、近くを飛行中であった輸送艦で最後の学徒兵を救出した連邦軍と斯衛軍。どうやら、恭子にとって篁唯依は血縁であり、姉妹のような間柄であったらしい。それがウェイブの心に響いた。

 

すぐさま唯依と上総を輸送艦に預けたジグルドとヘリックは、八幡の絶対防衛ラインへと急行していたエルたちと合流を試みる。

 

「おいお前もけが人だろう! 今はもう下がれ、ジー、ッ!?」

 

 

「どうした、何か問題あるのか? 俺は戦闘を継続できる。心配するな、すでに止血した」

 

一体何を言っている。簡易的なメディカルチェックでは骨に異常はなかった。ならば問題がない。

 

 

「いや、お前…‥その目‥‥‥悪い、なんでもねぇ‥‥‥‥覚悟を、決めたのか?」

 

 

「覚悟を問われる前に決断する必要があった。俺はもう逃げない」

 

 

ヘリックは、偽りをかなぐり捨てたジグルドを前にして、言葉を失う。それでも異論がありそうなヘリックを前に、ジグルドは埒が明かないとばかりに畳みかける。

 

 

「? 危なくなればこちらから声を出す。が、俺は一応この小隊の隊長だ。多少の無理を飲み込む必要がある」

 

 

見送ることしかできないヘリックは、それ以上は言わず、

 

 

———————そういうことを言っているんじゃねぇよ‥‥‥お前、お前は‥‥‥

 

 

 

 

帝都が陥落した以上、ここでの戦闘は多くの意味を消失している。だが、

 

 

ブラヴォー小隊は京都で戦いを続行する。

 

「帝国軍と、避難民の移動を支援する。このまま戦線を押し返す。」

 

ジグルドが先頭に立ち、後衛のみの構成となったBETAどもに襲い掛かる。どうやら、要塞級が多数、光線属種がその要塞級より排出されている。

 

「どこもかしこも、戦線なんてもう血の色みたいですけどね!! 今だ、02、03!!」

 

ブラヴォー6のアンリがライフルと盾を構えながらジグルドの突撃に続く。その背後よりクロードとヘリックがMA形態にリゼルを変形させ、左右より平面挟撃を仕掛ける。

 

「どうやら、突然目標が増えるとインターバルが微妙に変わるっぽいな!! 初戦は素人の射撃だ!! 全然怖くねんだよ、おらァッ!!」

 

「光線属種はやはりあの眼で目標を捉えている!? 詮索は後、そこっ!!」

 

 

要塞級が腹を破裂させながら崩れ落ちる。付近にいた光線属種はその崩壊に巻き込まれて匹潰されるか、彼らの閃光の餌食となるのみ

 

「敵レーザーを回避しつつ前進、フォーメーションを維持しろ。レーザーの陽動はこちらで請け負う」

 

「しかし、それではジグルドの負担が…‥」

ゼトが食い下がる。手負いであることはヘリックから報告を受けている。なのに、彼から発せられる言葉は、いつかの訓練の時と同じ。

 

 

あの有名な戦場で見せた英雄のような存在感。

 

 

「却下する。正面火力の低下は、戦線の崩壊を招きかねない。心配するな」

 

 

 

 

 

陽動は一機で十分だ

 

 

 

 

 

 

前線で指揮をとりながらメンバーに指示を出しつつ、一人で陽動を担っているジグルド。高高度でのレーザー回避をしつつ、射撃による反撃、的確な戦力配置を行う彼の並列思考が続く。

 

「10時の方向、距離5000、左横からは距離8000。それぞれ要塞級に守られながらレーザー種を確認。長距離狙撃で対応せよ。3時の方向は、こちらで陽動しつつ、片づける」

 

その光景を見ていた恭子は、あの年若い青年がそこまでの芸当を行うことに驚愕する。

 

—————なんて練度なの、あの年齢で、あそこまで戦術機を、いえMSを動かせるなんて

 

限られた火力を知りながら、陽動を一手に引き受け、尚且つ自機も反撃する余力を見せている。これが地球連邦軍のエリート部隊の頂点。

 

 

 

「ウルフ中隊と共に戦線に参加するわ、ブラヴォー1!!」

 

「我々も加わるぞ、連邦軍! この怪物どもを生きて帰すな!!」

 

そこへ、エルたち別動隊とウルフ中隊が合流。ウェイブや恭子たちの試験中隊を合わせて大隊規模の戦力が集結。

 

散発的となっていたBETAの脅威が、圧倒的な戦力によって押し返されようとしている。

 

そうだ。この土壇場で、この帝都が蹂躙されたこのタイミングで、ついにバトンが未来につながった。ここで彼らの終結が起こり得なければ、東日本も西日本の二の舞になっていただろう。

 

不知火壱型による、通常の戦術機を超えた高機動で要塞級のウィップを回避しつつ回り込み、側面からの120mmの弾丸がその腸を破裂させる。

 

 

「不届き者は他にもいるぞ!! 遠慮なく弾をぶち込んでやれ!」

 

ブラヴォー5、7、8による連携攻撃。MA形態で突き抜けながら乱戦の中を飛び回る。

 

「連携攻撃を行う! 続きなさい、07、08!!」

 

「姐さんの側面、誰にも手出しさせませんよ!!」

 

「まだくるっ!!」

 

この市街地という地形を利用し、巧みに急停止と加速を利用して要塞級の攻撃をやり過ごす。次にビルの影から飛び出したリゼルを捉えるのは難しく、要塞級は抵抗すらできずに頭部を撃ち抜かれて爆散する。

 

ウルフ中隊の経験が光る反撃、ブラヴォー小隊の高い練度による高速戦闘、恭子たち試験中隊とウェイブは、そのあまりの練度に言葉を失う。

 

「これが、斯衛の衛士たちを鍛え、地獄の大陸を生き残った衛士の実力‥‥」

 

「やっぱやるなぁ、ガルムの面々。俺らの手はいらねぇかもな」

 

 

 

中でも、先行するジグルドの活躍は圧巻の光景だった。

 

 

 

要塞級の周りを高速機動を行いつつ、敵を足場にするような立ち回り。もはややりたい放題で、ビームサーベルの二刀流で要塞級唯一の攻撃手段である触角を袈裟斬りで焼き切り、光線級の攻撃を至近距離で回避し続けている。否、回避しているというよりそれはもうそんな生易しいものではない。

 

 

レーザーが発射される前に彼は”そこにいない”のだ、つまりジグルドはレーザーの軌道が固定され照射される前にそれらを把握しているということになる。

 

 

 

懐に入られた奴らに為す術はなし。先陣を切るジグルドの超人的な実力を前に、要塞級がまずこの京都戦域から消滅し、帝国軍を苦しめてきた光線級もガルム中隊の活躍により殲滅された。

 

 

後の歴史でも、地球連邦軍の本格的な初陣として、これ以上ないプロパガンダとなった帝都防衛戦。

 

 

その中心となったガルム中隊は、地獄を覆した英雄と呼ばれるようになる。だが、やはり歴史は繰り返された。

 

 

 

大いなる戦禍が燃え広がった時、やはり伝説は再来する。

 

 

 

”蒼き瞳”の英雄は、再び現れた。

 

 

 

帝国軍は、畏怖と尊敬を込めて

 

 

ある連邦市民たちは、抗えない現実と、青年に降りかかるであろう数奇な運命を恐れた

 

 

連邦軍は憧憬の念を抱き、彼をこう呼んだ

 

 

 

 

”赤い彗星の再来”

 

 

 

 

帝都に巣食う怪物どもは掃討されようとしていた。そして激戦を繰り返す大阪では、新たな展開が起きていた。

 

 

 

 

 

ディルムッドたちはウルフ中隊などという支援もなく孤立していたが、ついに彼らにも援軍が来た。その規模はど派手で、かなり刺激的である。

 

「あの轟音とともに飛来したビームの奔流!!! ついに来たか!!」

 

「援軍だ!! 援軍が来たぞ!! 第七艦隊の本隊だ!!」

 

「勝った、勝った!! 勝った勝ったぞっ、って関東武者は言うんだっけ!?」

 

「それは中世の歴史読み過ぎだろうし、それがあるとも限らないぞ!!」

 

 

 

『こちら第七艦隊、待たせたな、ガルムのエリートども!!』

 

 

その報せは帝都にいる彼らにも届く。その報せを受け、滝元官房長官は緊張の糸が切れたのか、貧血を起こしてしまい、近くの秘書に支えられる格好となった。他の悲壮な決意で帝都への砲撃を考え始めていた軍部もこの起死回生の切り札が間に合ったことで酷く安堵した。

 

 

「‥‥‥長い夜が終わる」

 

 

「ああ。終わるな‥‥‥」

 

 

閣僚の間でも、安堵の声が漏れ始めていた。そして、その先の帝国が執るべき道も、おそらく定まっていくだろう。

 

——————広大な宇宙で、友好的な宇宙人と最初に共闘した我が国は、選択を迫られるだろう。

 

 

独立心の強い愛国者、その他諸外国とつながりの深い面々。連邦軍の要請があったとはいえ、あの大立ち回りは良くも悪くも影響するだろう。

 

———————我々の仕事は、新たな秩序を前に、如何に混乱なく治めることだな

 

 

 

ファーストコンタクトから初めての共闘へ。

 

 

新たな歴史の針が、動き出す。

 

 




ジグルドの目について

彼が偽りを言っていたのは全て母親の為です。

母親の為に敢えて自分の身体的特徴を偽ったのです。

なお、結果としてカガリはさらにダメージを負っています。

そしてキラ・ヤマト中佐と劇中で反応した仲間や中隊全員に限定し、その真実は秘匿されていました。

息子が死別した夫と瓜二つになっていくのは、軽くホラーではありますが、カガリはそれを恐れたのではなく、一瞬でも息子の前で、彼を想ってしまったのです。

ほんの少しの弱さ。それがジグルドに偽りの焔を与えたきっかけです。
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