Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~   作:傍観者改め、介入者

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久しぶりのこちらの投稿です。

今回はきつい内容が含まれているので注意が必要です。

アニメでは描写されていない(されたらやばい)を前面に出ています。


第十七話 反撃の影で

第七艦隊の主力が現れたことで、状況は180度一変した。帝都崩壊寸前で、戦線は押し戻され、瞬く間に近畿地方を奪還。中国地方へ向けて進撃を開始する。

 

 

「つうか、やっぱお前の兄貴とんでもない兵器作るよな!!」

 

「高機動がトレンドの兵器開発で、護衛機配備を前提とした拠点防衛、攻略用大型MA!!」

 

 

極大の閃光が次々と怪物たちを蒸発させていく。あの突撃級の外殻すら溶解させる超高温の一撃。

 

YMAF-A6BD ザムザザー。それはかつてジグルドがエースクラスの機体に対するカウンターとして開発した大型MAであった。

 

高い防御能力と、重火力を有し、複数のパイロットで操縦する機体。つまり複座式である。

 

何といっても目玉は高インパルス砲に加えて、大型ビームバリアを有する高い光学兵器への防御能力だ。そしてその外面もラミネート装甲が完全に外殻を覆っており、並の火力では傷一つつけられない難攻不落の小さな要塞、空中要塞と言われる怪物である。

 

 

その背後からは、護衛を担う第七艦隊の精鋭、グリフィス大隊、ガルーダ大隊が出撃している。

 

ガルム程の練度はなく、可変機を与えられていないとはいえ、訓練校での成績上位者、さらに選抜された叩き上げの雑草エリート集団。

 

高機動兵装だけではなく、全ての兵装での戦闘センスを満たさなければ入隊すら叶わない。

 

「どうやら、ガルムの奴らが頑張り過ぎたようだな」

ガルーダ大隊の大隊長が、劣勢を跳ね返しつつある帝都のブラヴォー小隊、全軍到着まで大阪で持ちこたえていたアルファー小隊を見て、軽口を言う。

 

「ええ、我々の取り分は少ないと見ます。ですが、我々が最後に引導を渡しやすくなったとみて間違いないでしょう」

 

副長がそんな大隊長の軽口に反応する。

 

「グリフィスの奴らは山陰道から攻めあがるらしい。ならば我々は山陽道だな」

 

 

「了解しました! ガルーダ2より大隊各員は傾注! これより我が大隊は山陽道から中国地方奪還を開始する!! 大隊続けッ!!

 

 

 

突如として現れた高機動兵装で装備された2つの大隊規模の戦術機部隊。帝都でその知らせを聞いた恭子はさらに驚愕していた。

 

第16斯衛大隊を率いる斑鳩少佐もまた、そのすべての戦術機がレーザーを回避しながら蹂躙を行うことに興奮を隠せない。

 

 

「ふふふ、ふはははははっ!!!! なんという、何という強さだ、連邦軍とやらは!! 圧倒的ではないか!!」

 

 

「——————」

彼と共に出撃した月詠真耶中尉は、帝国の空で、帝国が奪われた空で飛び回る連邦軍を見て無表情となっていた。斑鳩とは対照的な反応だ。

 

 

そんなザムザザーが重火力にモノを言わせて、一斉照射による電撃的な攻撃で8000を軽く屠った。そして、乱戦を仕掛ける両大隊が南部と北部で大立ち回りを演じる。

 

「遅いなぁ!! その触角とやらは!!!」

 

「3回切断できる余裕があるぞ!! 我々の速力には対応できないようだな!!」

 

迫りくる触角をサーベルで難なく切り落とし、無防備となった要塞級が蹂躙されていく光景は、日本海側に展開していた帝国海軍の目にも見えていた。

 

「これが、連邦軍の力…‥まさか要塞級の動きすら、それよりもレーザーをッ」

対馬沖での戦闘から常に最前線で戦いを続けていた上杉提督は、その光景を見て山陰道から中国地方の奪還が夢ではないことを知る。

 

先鋒であった突撃級がすでに狩り尽くされ、戦車級、要撃級はザムザザーの重火力で蒸発させられていく。何せ近づく前にその大火力でこの世界から跡形もなく消滅するのだ。

 

どうしようもないことは当然である。

 

すでに兵庫を奪い返し、岡山も東部は既にBETAが展開していたはずだが蒸発している。そのことに、乱戦での斬り合いを望んでいたグリフィス、ガルーダの隊員は不満を持つ。

 

「なんだぁ!? 大立ち回りはガルムの特権か?」

 

「ザムザザーの砲撃に耐えられる奴なんて、そうそういませんって」

 

 

その時だった、後衛の後衛にいた岡山西部に位置する地点よりレーザーが照射されるが、ザムザザーが特殊な光の壁を形成し、完全に防いで見せたのだ。

 

「なんだ、あの機体。レーザーを跳ね返した、だと!?」

 

レーザーとは一撃必殺の即死の恐怖を与えるものだった。しかしあの機体、ザムザザーは物ともしない。まるでそんなの関係ないと言わんばかりにさらに追い打ちをかける。

 

ザムザザーには当初、陽電子リフレクターが搭載される予定だったが、アルミューレ・リュミエールに変更されている。これは、ジグルド・F・アスハがエリク・ブロードウェイからアルテミスの傘の話を聞いたことが起因となっており、その絶対的な防御能力に着目したのである。

 

なお、後のストライクフリーダム、ライトニングジャスティスにはこの技術を小型化したビームシールドの導入が開始されるのだが、ザムザザーの開発思想はこの技術の早期導入にも影響していた。

 

「おらぁ、食らいやがれ!! 異星起源種?、どもが!!」

 

「番犬を捕まえられなかった貴様らに、俺たちを倒せるわけねーだろ!!」

 

 

ややテンション高めの山陽道を担当するオルトロス中隊。ここに来る前から戦況が膠着し、近畿地方陥落という現実が迫っていたこともあり、それを打開すべく気力は十二分にため込んでいた。

 

山陰道を担当するグリフィス大隊の方も同様である。砲撃による地形変動もお構いなしにぶっぱである。もはや何が何やらという戦場は常に地形を変化させ、BETAどもは撤退も反撃も出来ずに蒸発していく。

 

さらに、第七艦隊からのビーム湾曲させた艦砲射撃により、光線属種は迎撃すらすることも出来ずに一方的に嬲り殺しにされる奇妙な光景が繰り広げられる。一体なぜ光学兵器の弾道を曲げられるのか、それほどの技術まで彼らは有しているのか、帝国は混乱の極みだった。

 

 

「おいおいおい!! レーザー!? それを曲げているなんてどう言うことなんだ!? 在り得ないだろ!?」

 

「あれが、連邦軍の力—————」

 

帝国軍人たちへの種明かしはザムザザーを含めて先のことになるが、彼らの強い興味を抱く対象となったことは間違いない。まさにやりたい放題。

 

そして驚くべきことに、連邦軍は脱落者が現在まだ存在していない。その全てのパイロットがエリートで構成されている両大隊。第七艦隊の中でも屈指の実力者である彼らは、中国地方の大半を取り戻してなお勢いが止まることはない。

 

 

「———————空をガルム中隊が、さらに二つの大隊が来て、そしてあの巨大な機動兵器が数多のBETAを屠る。なんて光景なんでしょう」

 

 

さらに—————————————

 

 

「こちらシャーク大隊!! 瀬戸内海に潜むウジ虫どもを狩りに行くぞ! 海の頂点に位置するのは誰なのか、身をもって教えてやれ!!」

 

 

 

応っ!!!

 

 

 

第七艦隊より出撃した水中MS部隊通称シャーク大隊が到着。瀬戸内海に展開していたBETA群の殲滅に乗り出していたのだ。

 

一方的なヒット&アウェイ。嬲り殺しが水中の中で行われる。突撃級の外殻は水中でも威力を減衰させないレールガンで貫通してしまい、周辺にいた戦車級、要撃級がその爆風ではじけ飛んだ。魚雷による攻撃は小型種をまとめてバラバラにしてしまう。

 

 

「出番がなかなかなかったんだ。これまでの鬱憤、晴らさせてもらうぞ!!」

 

 

「海の王者は、俺たちなんだよ。ここは、俺らのテリトリーだ。我らを侮るなよ?」

 

容赦のない一方的な蹂躙。レーザーも著しく減衰する水中では、彼らは真っ先に潰されていた。こうして、瀬戸内海に潜む奴らは瞬く間に消滅。

 

「第七艦隊の応援は凄いことになっているな。鍛え過ぎて悪いことはない。加勢するか」

 

アスランを先陣に、四国から打って出る四国の守備軍。

 

彼らは第七艦隊の攻勢に合流し、中国地方、近畿地方を蹂躙したBETA群は殲滅された。

 

 

しかし、その多くの個体を撃滅したのは、最前線で継続戦闘を行い続けたガルム中隊であり、ザムザザーの圧倒的な火力支援に依るところがおおきい。

 

日本帝国は、多くの軍隊の力と献身により、本土防衛に成功したが、その中核を担ったのは連邦軍の精鋭部隊であることは間違いない。

 

 

今後極東をめぐる影響力の変化は避けられず、帝国、アメリカ、連邦政府の間で政治的駆け引きも活発になっていくだろう。今回の件で連邦との梯子を潰してしまったのは、アメリカの失策だった。

 

連邦軍がまさかあそこまで参戦するとは。第七艦隊という虎の子を出し、先遣部隊として今や名高いガルム中隊は帝都での激戦が語り草になるだろう。帝国民にもいいイメージを持たれているだろう。

 

 

連邦政府とて慈善団体ではないはずだ。なのに、異星起源種との戦闘によるリスクを負ってでも、帝国を守り切った理由は何なのか。

 

連邦は、初の別の惑星で邂逅した同胞の保護も主目的だと公言していたが、その裏にはこの第五惑星での立脚点を探っていた節がある。

 

やり方は違えど、冷戦時における日本を半属国化した扱いを辿るのか、それとも別の思惑を抱いているのか。

 

 

アメリカにとって連邦政府はまだ、胡散臭い正義の味方を気取る巨人にしか見えなかったのである。

 

 

 

そして、日米安保破棄を一方的に通告し、蚊帳の外となっていたアメリカ軍の軍人たちは、そんな怒涛の展開を遠巻きに見ていることしかできなかった。

 

「ま、うちの上層部は見誤ったということだろうな」

 

「だな。安保破棄がなければ、今頃俺たちもあの楽しいパーティに参加できていただろうに。貴重な勝ち戦を経験したかったのだが」

 

艦隊を指揮する将官は、そんな上層部の思惑を裏切り、怒涛の反撃を見せる連邦軍の力を見て苦笑いをする。

 

「しかし、我々の前にあるのはファンタジーではない。同じ人間が、空を取り戻しているのだ。空軍出身の弟をもっていた身としては、とても痛快な現実だ」

 

彼がロッカーに飾っている弟の写真はずいぶん若いものだった。壮年の提督は、勝鬨をあげている帝国軍と連邦軍の報告に耳を傾けるのだった。

 

 

 

曰く、完全飛翔でレーザーを回避する。

 

曰く、高い練度で単独での戦闘でも生存出来る実力者集団。

 

曰く、戦闘機を上回る推力で、ファストルックファストキルも可能である。

 

曰く、曰く——————

 

 

 

 

そんなことはあずかり知らぬガルムの面々は、大阪からのディルムッド率いるアルファ小隊の帰還を待つだけとなっている。

 

 

医務室にて、ジグルドとウェイブは、病室でぐっすり眠っている上総と唯依を見て、ほっとしていた。二人の手を愛おしく握りしめている恭子とともに。

 

「本当に良かった。いや、救えなかった者たちのことを思えば複雑だが————貴女の家族にも等しい存在を助け出すことが出来てよかった」

 

「————貴方こそ、怪我を負いながら————いえ、怪我を覚悟して唯依を救ってくれた。感謝の言葉が出ないほどよ」

 

ジグルドはあれから治療を受けたが、軽い打ち身、切り傷で済んだという。恐るべき身体能力だとガルム中隊は驚愕するが、ジグルドは自然体のままである。

 

「—————俺は出来ると思ったことをしたまで。だから気にするな」

 

ジグルドはなんでもなさそうに、服の下に隠れている白い包帯を見ている恭子を諫める。気にするなと。

 

「貴方は——————でも、これだけは言わせてほしい。唯依たちを救っていただいたこと、感謝します」

 

「————いや。俺も知人に死なれると目覚めが悪い。しかし、重症の少女はわかるが、唯依の意識が戻らない。どういうことだ? まさか—————唯依にも……っ」

 

唯依の心が死ぬ、そんな未来があったことで胸にちくりとした痛みを感じていたジグルドだったが、その感情について己に対し言及せず、恭子に返答する。

 

彼女にもその症状は出てしまっているのかと。

 

 

「————ええ、唯依も悪酔いの影響が出ているわ—————」

恭子は沈痛な表情で、ジグルドの意図を理解し、それを肯定する。戦術薬物の効力は一定の範囲で発揮された。しかし、その後遺症は彼女たちの未来を潰しかねない。

 

 

そして話を聞いたウェイブは実に対照的な顔をしていた。これは、座学にてすでにその実態を知っていたジグルドと、それを知らないウェイブという情報を得ているかどうかのものであり、当然知らないウェイブが過剰反応するには十分な要素である。

 

「そんな……ことが。しかし、BETAとの戦いで、冷静さを保つためとはいえ、こんな」

蒼白な顔で、酷いことをされた彼女らを気遣う言葉を並べていくウェイブ。彼はある歴史を学んだことで戦闘用薬物についてアレルギーがあるのだ。

 

ウェイブは多大なショックを受けていた。目の前で眠る彼女らが、そんな処置を受けていたことに。

 

 

補足として、座学を学んだジグルドの話から突き付けられた事実に、ウェイブは打ちのめされそうになる。

 

「なんだ、それは。子供の、兵士の命を何だと思っている!? おまけに、なぜ二人は目を覚まさない!? 唯依ちゃんは怪我をしていなかっただろう!! なのになぜ、苦しそうにしているんだ!!」

ウェイブは激昂した。この理不尽を強いる軍部に対して。そして、そんな彼らに残酷な選択を選ばせたbetaに対して。

 

「普通ではない。こんなこと、普通ではないぞ—————これは」

 

ぶつぶつとウェイブは苦悶の表情を浮かべながら、悔しさに身を震わせていた。

 

そんなウェイブを見送ることしかできなかったジグルドと恭子。何とか話題を変えようとして、ジグルドの青色に輝く瞳を見て、今まで触れなかったことについて切り出す。

 

「それにしても貴方、今までコンタクトをしていたのかしら? 橙色ではなく、青色の瞳だったのね」

 

カラーコンタクトで隠していた青の瞳。ジグルドは白状するように恭子に語り掛ける。

 

「そうですね。俺はこの目が嫌いでした。母上はこの目を見て、俺ではない人を連想させてしまっていた。当然です、死別した男と俺の容姿は瓜二つですからね…‥」

 

ジグルドとリオンは瓜二つの容姿をしている。違うのは橙色の瞳のみ。そう伝えられていたが、実は90パーセント以上同位体に等しいのだ。当然ながら、ジグルドの瞳は父親と同じく青色である。

 

声こそ違うものの、カガリが彼を想ってしまうのは無理からぬこと。まだ16歳だったのだ。彼女はそんな年齢で彼を失った。だから、いくら大人になったところで、それを平然と受け流すことなど、彼女にはもう無理なのだろう。

 

「俺の目が、母上に悲しみを与えていた。取り戻せない過去を思い知らせていた。だから、この目は隠そうと考えていました。」

 

ジグルドは日に日に自分がリオン・フラガに近づいていくことで、カガリの瞳に悲しみがあったことを感じ取るようになった。ニュータイプの能力制御に苦労していた幼少期、意図せず彼女の心に触れてしまったこともあり、ジグルドが感じたのは親への怒りではなく、罪悪感のみだった。

 

自分が父親と同じ容姿に生まれなければ。何度それを考えたか分からないほど、彼にとってこの蒼い瞳は受け入れるのに時間がかかったものなのだ。

 

 

「‥‥‥‥けれど、そんな悩みは戦場では軽いものでした。奪われる苦しさを知ってしまった彼女たちに比べれば、俺の苦悩はどうということはありません。」

 

 

「ジグルド君……‥」

 

 

 

その夜と翌日の朝まで、輸送艦の中で眠り続ける上総と唯依。そんな死んだように眠る二人を見て、自責の念に駆られ続けるジグルド。

 

 

ウェイブはその後、非正式な場において、学徒兵たちへ用いた薬物投与の審議を聞くために帝都を訪れる。

 

 

今では京都の町の半数が破壊され、都市としての中枢を失いつつある京都。何とか四国からの援軍と、第二帝都防衛任務を担っていた第七艦隊主力が到着し、首都陥落のシナリオは回避された。

 

さらに、日本帝国軍は、異星人という最強のカードと結託し、本土防衛を成し遂げたのだ。良くも悪くも、連邦軍とつながりのある帝国は巻き込まれていくことになるだろう。

 

守るべきものを守る為に、拾えなかった命があった。しかし、拾えた命に未来を、希望を託すことはできる。

 

だが、新たな火種はこのころからくすぶり始めてしまう。

 

数日間の間でも、薬物投与による影響を、その現場の実態を知ってしまった連邦政府は、遠回しに未成年への投与は回避するべきではと提案してしまったのだ。

 

フレイ・アルスター議員も、当初は薬物に関して嫌悪感を抱いていたが、現実との板挟みを知り、議会のコメントをさらに砕く細心の注意をしていたのだが、その案件はウェイブにとって我慢のならない事だった。

 

 

「—————ではそれが、本当に正しいと、そうお考えなのですか!?」

 

 

「速成上がりの兵士を薬物漬けにしたことが、戦況を打開できると本気で信じているのか!?」

 

ウェイブは怒りに震えていた。過去の歴史を紐解くに、彼女らは本来10年まえに取り組むべきであった課題の先延ばしのしわ寄せを受けたに過ぎない。

 

彼女らは、未来を見通せなかった無能な上層部どもにより、未来を閉ざされてしまったのだと。薬物付けになった上総と唯依はいまだに目覚めない。しかし、薬物投与が軽かった志摩子は健常者そのものだった。

 

「—————しかし、どんな形であれ、帝国を守るのが我々の使命だ」

 

国の方針の前に、一商人である自分が踏み込み過ぎだ。ウェイブはそれ以上のことを言えば、おそらく外交関係の悪化は避けられないと分かっていた。

 

「かつて、私の星でも薬物投与による処置が、一部で盛んにおこなわれてきました。」

 

歴史の教科書にも載っていた、連合軍の蛮行。正確に言えば、戦争の発端となったナチュラルとコーディネイターの人種問題が絡んだ絶滅戦争。

 

連合軍を陰から操っていたブルーコスモス過激派、そして戦争経済という莫大な恩恵を甘受していたロゴスの暗躍。もっと言えば、アスラン・ザラ大佐とエリク・ブロードウェイ中佐、スウェン・カル・バヤン中佐ら若きエースたちによって完全掃討された一族という勢力。

 

世界の裏側による世界の混沌が、表の世界に暴露されたのだ。

 

ただその時は、その時だけは、彼ら英雄たちは悪鬼と化した。若き頃の所業を、ウェイブはまだ教えられていない。しかし、あの温厚な彼らが激怒するほどの所業、それがこの世界では当たり前に、その現実を強いられている。

 

その頃はまだ現役だったエリクの妻ニコルにも話を聞きに行ったが、あまりにも内容が凄惨なため、その口は堅く閉ざされていた。最終的に、アスランが当時悪夢に魘されていたとだけ聞かされている。

 

ゆえに、4将軍たちは将官への昇進を固辞している。自分たちはその器ではないと。

 

 

ウェイブの訴えの中に、同じことが別の惑星で行われ、今では禁止されていることだと知り、動揺を見せる閣僚もいた。だが、榊首相含む大半の閣僚、斯衛の中枢は動じていない。

 

 

ウェイブは不条理が嫌いだ。前線で市民を守っている兵士が軽んじられていることは、彼の逆鱗に触れるものだった。彼は続ける。

 

「すべては敵を滅ぼす為でした。相容れない存在は倒すしかない。そんな言葉に逃げて、命を軽んじることが是とされていた」

 

その被験者の一人だった女性は、幸運にも生き残った彼女は、後に夫となった男性のサポートにより、日常生活に復帰できた。戦うことしか教えられていなかった少女は、命を救うことに情熱を注ぐ少年の下で、5年に及ぶ闘病生活を送ったのだ。

 

 

少女のほかにも、別の進路へ進み、改めて軍人を志した者もいた。しかし命令される戦闘人形ではなく、自らの意志で、連邦市民を守る軍人を志したのだから、その中身は違う。

 

彼女らの命は、この国にとってのなんだというのですか? 使い捨ての命ですか!? この国を守るために、本当に必要な犠牲だったのですか!? 薬物投与による後遺症で、一体どれだけの未来が壊れたのか、貴方方は理解しているのですか!!!

 

 

ウェイブは彼らに問いかける。もっとましな状況になるはずだったと。明確な脅威を前に、この世界は、この星は団結し、手を取り合うべきではなかったのかと。

 

そうすれば、生半可な戦力を逐次投入するという愚行は、起きなかったかもしれないのに。

 

 

「斯衛の、武家に生まれた者、帝国軍人たるものはその身命を賭して、この国を守る義務があるのだ…‥‥無論、非人道的な薬物投与、気分が良いものではない。されどこの星の現状と、其方らの世界は違う。世界の理から違おうておるのだ」

 

壮年の、これまで一言もしゃべっていなかった老人がウェイブを真っ直ぐ見据え、柔らかな口調ではあるが、絶対的な食い違いの現実をぶつける。

 

「——————それは…‥ですが、それは悲しいことです」

 

 

「————————————」

 

悠陽は初めて感情を露にするウェイブを見て無表情を貫いていた。ウェイブは表情一つ動かさない彼女を見て、この星の住民たちに恐怖を抱いた。

 

この星の倫理観は戦争で、完全に破壊されているというのか。追い詰められた人類とは斯くも愚かなことをしてしまうのかと。

 

 

前線国家になるというのは、その物的、人的被害だけではなく、精神すら犯すというのか。

 

 

 

その崩れてしまった倫理観を持った者同士が、手を取り合う?、ウェイブはとても理解した。理解しないわけにはいかない。それでは人類は手を取り合うことは出来ないと、分かってしまったから。

 

 

 

「—————今俺の姿は、貴方方から見れば理想論を振りかざす青二才に過ぎない。それは重々承知だ。戦えば、どちらにせよ人は死ぬ。必要な犠牲だということも‥‥‥しかしこれが、この星の現状、ということなんですね。人類は、星の危機であっても手を取り合うことが難しい時もある、と」

 

 

ウェイブはどうしようもない壁を前に、感情が黒く染め上げられるような気分だった。

 

 

その時、ウェイブの中の”悪意”が囁く。ならば、彼らの目を焼いてしまえばいいと。

 

 

 

”英雄”だ。この星には”英雄”が必要なのだ。連邦市民を、連邦政府たちの目を焼いた眩いばかりの光。超人的な活躍をもって人類の未来を切り開く、先陣を切る者。

 

 

英雄の決断が、自分が生まれた星の未来を救った。彼のような存在さえ現れれば、そう考えてウェイブはその思考を拒絶した。

 

—————————その結果、”英雄”はどうなった? 英雄の未来はかき消されたぞ。アスハ議長に消えない傷跡を残して

 

 

英雄におんぶに抱っこだった結果、英雄は燃え尽きた。彼に頼り過ぎてしまった。そんな未来をアスランたちは回避しようと尽力している。その為の連邦軍の精強化なのに。今自分は恐ろしいことを考えてしまっていた。

 

 

 

だが、打開できる、世界を変える存在が、この星にいないことも事実だった。

 

 

「——————ッ」

 

歯噛みするウェイブ。現状打つ手はない。この混迷する世界で示すべきは力なのだ。そして、帝国は先の防衛戦で満身創痍。

 

—————帝国を守るだけでは、BETAは倒せない。

 

一つの結論が、ウェイブの中に浮かんでいた。そして、帝国を脅かす脅威は半島に存在する。

 

—————帝国の情勢を安定化させるには、連邦が甲20号攻略作戦に動く必要があるか。

 

しかし、これもまたハードルがかなり高い。なにせ、この攻略作戦には連邦政府の出兵の為の大義名分が存在しない。ギリギリで今回は国交を開いた国の危機ということで、連邦市民も首を縦に頷いた。次はこうもいかないだろう。

 

「引き続き、支援は行います。連邦と日本帝国の間で、溝ができるのはデメリットでしかない。誠に遺憾ながら、今の連邦にも、私にも、その現実を覆す手段と力、時間が足りません」

 

だが、とウェイブはその言葉に捕捉を入れる。

 

「それでも、我々にとって戦争目的の薬物というのは、受け入れがたい代物なのです。我々の世界は多くの命をそれに支払い、無為に捨ててしまったから‥‥‥」

 

 

「———————っ」

 

恭子は、あれほど温厚な彼が、ここまで沈痛な表情を浮かべる原因に納得してしまっていた。彼らにも、事情があるのだろう。でなければ、薬物に対してあれほど過剰反応はしない。

 

声を荒げてしまったことについての謝罪を改めて行い、肩を落としながらウェイブは退出していく。恐らく、彼は帝国への怒りは少ない。この現実に、この星の侵略者への怒りが多くを占めているのだろう。

 

もっと言えば、自分自身の無力さを。

 

 

「——————信頼に足る、律儀な商人、ですな、崇宰殿」

 

先代将軍の右腕であった九条が、ウェイブをそのように評する。

 

「はい。そんな彼を失望させてしまったのでしょう————すみません」

 

 

「あのような青年は、平和な時代でこそ輝く。異星の英雄、リオン・フラガの存在はそこまで偉大だということか」

 

改めて思う、その影響度。ウェイブのような眼が真っ直ぐな青年が活躍できる社会。それはどんなにすばらしいものだろうか。その礎となった青年とは、と考えてしまう。

 

——————その人は、そんな未来を最も待ち望んでいたでしょうに‥‥‥

 

その青年は、終戦間際の世界滅亡の危機から世界を守り、宇宙に消えたという。そしてそれが、ジグルドと瓜二つの、20歳を迎える直前だった青年であったと。

 

―————————まさか、世界がそうしようとしているのかしら…‥‥今度の人柱は‥‥‥ダメね、今考えたら碌なことが頭に浮かびそうだわ

 

恭子はそんな在り得てはならない未来を予想してしまい、思考を中断する。親子2代で悲劇で終わる人生など、彼らは勿論アスハ議長も救いがなさすぎる。

 

 

 

「—————————」

 

そんな中、悠陽は一言も発することなくその場の様子を眺めるだけであった。

 

そして輸送艦からミカエルに移送された上総と唯依の容態は戻らない。健常者に戻ることが出来た志摩子は、眠るようにベッドで目を閉じている二人を見て、涙を流しながらその手を握っていた。

 

「—————私たち、死の八分を乗り越えたんだよ? 数ある未来の一つに、数ある幸運の下で、私はまだここにいるよ。まだ、唯依を抱きしめられるんだよ?」

 

彼らが来なければ、おそらく自分は最初に死んでいた。それを理解できる。彼らの救援がなければ、唯依を含めて全滅していた。

 

きっと大抵の悲劇の一つとして自分たちの未来は終わっていたのだと、震えながら理解していた。

 

「あの時みたいに、笑ってよぉ……私、唯依がいなきゃ————唯依がいなきゃ私は———」

 

固く目を閉じたままの少女の手を握り、彼女は哀願する。目を覚ましてと。憧れだった同級生の痛ましい姿に心が壊れそうだったのだ。

 

「——————すまない。離脱するべきではなかった。俺のミスだ————」

 

多くの部隊を救うという大望に囚われ、目の前の命が零れ落ちた。

 

—————俺たちの離脱後に何人が死んだ‥‥‥ッ?

 

ジグルドは、悔しさに身を震わせる。

 

「——————(人では、人の身では、無理なのか‥‥‥

 

 

抗いようのない欲望、願い。純然たる事実を前に、ジグルドはそう願ってしまう。

 

「ジグルド、さん?」

志摩子は、ジグルドの危険な雰囲気に震えてしまった。張り詰めた空気の中で、壊れそうなほど痛々しい決意。

 

きっと自分たちのせいで、彼は責任を感じているのだ。それが彼の腕を鈍らせてしまうかもしれない。

 

 

—————この惨状を取り除くのに、人間の一生では…‥

 

 

その絶対的で、圧倒的な物量を前に、人類はすりつぶされるだろう。

 

——————奴らが宇宙から飛来したのなら、その総数も不明のまま

 

対応できる力を得ても、この世代では時間が足りない。それでも、ジグルドは今を生きる人々に笑顔になってほしいのにと、思ってしまう。

 

 

———————それらをすべて駆逐する頃には……‥見届けられる人間はいないだろう

 

 

それを見届けられるものは、今を生きる人類の中にはいないだろう。

 

諦念が、ある種の真実がジグルドを支配する。そして、世界の誰もが称え、自分が嫌悪する存在であっても、成しとげることは不可能だと。

 

 

——————父さんでも、足りない。人類に希望を与えるには、彗星では、英雄では足りないッ

 

 

 

そして、その真実を認識した。人で無理だというのならば…‥‥

 

 

————”英雄”でも不可能ならば…‥俺は‥‥‥何を目指すべきなのか

 

「ジグルドさん‥‥‥‥」

 

 

彼の瞳が、彼の心が曇っている。あの燃えるような瞳ではなく、どこまでも綺麗で澄んだ蒼い瞳。 ある事情により、カラーコンタクトで瞳の色を偽っていたということを恭子様から聞いた志摩子は、その詳しい話を知らない。しかし、それがジグルドのアイデンティティに関わることだと軽く説明されており、その話題は憚られるものだった。

 

これ以上、この人に苦悩を背負ってほしくない。自分たちの力が足りなかったことを、この人はそれすら背負おうとしている。それが、とても危うく思えた。

 

先ほど漏れてしまった、ジグルドの人の限界を呻く言葉。それを聞いて志摩子は酷く動揺した。

 

 

人を、人の世界を強く愛しているのに、人の無力を味わい、自ら人の道から外れるなんて、この人には似合わないはずだから。

 

その時だった。

 

「——————ううっ、」

 

唯依の意識が回復したのか、うっすらと目を開けたのだ。

 

「唯依ッ!! よかった、もう間に合わないものかと—————」

 

安堵の表情を浮かべるジグルド。そんな彼の様子に唯依はキョトンとするだけだった。

 

 

「貴方は—————あれ? 刀を褒めてくれた—————えっと?」

 

 

うつろな瞳で、唯依は無邪気に笑う。ジグルドの名前を口に出さないというよりは出すことが出来ず、抽象的な、断片的な言葉が出てくるのみ。

 

「唯依—————君も、君もなのか……‥あの時と、同じ…‥‥もうどうすることもできないのか‥‥‥」

 

ジグルドは辛そうな瞳を動かすことなく、唯依を見続ける。この症状を見せた女学生は全て病院送りとなった。その後の伝手で、彼女らは関東の病院に移されたと聞くが、回復したとも聞いていない。

 

 

—————彼女らが、何をしたというんだ。何も、何も悪いことはしていないだろう‥‥

 

 

薬物投与の影響、同期生が陥った統合失調症にも似たもの。

 

蓮川少女のことを、それ以降に症状を見せた少女らを思い出し、やりきれない顔をするジグルド。

 

 

「な、なんで!! 唯依!! ジグルドさんだよ!! 戦術機で、あれほど熱を上げた異星人の衛士なんだよ!! ダメ、気をしっかり持って、唯依ぃ!!」

 

取り乱したように錯乱しかかる志摩子。彼女はずっと唯依に対して憧れていたと言っていた。そんな彼女の気が触れたかのような言動は、心に突き刺さるだろう。

 

「しっかりするんだ、甲斐さんッ!! 君までそちらに行ってはならない!! 引っ張り上げるんだろう、彼女を!! なら、」

 

震える手を掴み、ジグルドは気をやってしまいかねない彼女を強引に戻した。

 

「—————ご、ごめんなさい‥‥っ、でも、でもぉ!! だって、だって唯依なんだよ!!」

 

目に涙を浮かべ、認めたくない現実を前にして、少女は嘆くことしかできない。そして、そんな少女たちをどうすることもできないジグルドは、無力感に苛まれる。

 

「—————なら、猶更甲斐さんは生きなきゃいけない。唯依が戻ってくるまで、健やかでなければならないんだ…‥‥‥帰ってこない人を想う悲しみを、そこへ帰ることができない絶望を、こんな俺では推し量ることは出来ないけども、それを言い続けるよ。」

 

彼女の手をしっかり握り、ジグルドは祈るように言葉を投げかける。

 

—————これは、俺の罪の象徴だ。俺の弱さが、俺の稚拙さが、彼女らの運命を、決めてしまったんだ。

 

志摩子も、罪悪感を覚えてしまうジグルドを見て、やりきれないといった感情を秘めたまま、目を伏してしまう。彼は悪くない。彼は最善を尽くしてくれたのに。

 

—————私の命を救ってくれた恩人なのに、どうして私は、何もできないの?

 

そしてジグルドは、彼女に連邦の治療を受けさせるべきだと考え、その戦術薬物への適合性へ懐疑的な見方をする。

 

————後催眠暗示による悪酔い。適合する者は、一体どれだけいるというんだ

 

斯衛軍に対して、城内省に対して、ウェイブが怒り狂うのもわかる。こんなものを子供たちに投与していたというのか。そして、自分たちが確保しなければ今頃—————

 

幼児退行、記憶障害。そして思考力の低下。まるで麻薬中毒者ではないか。

 

「—————薬物投与、ここまで、なのですね」

 

その時だった、山城上総も同時期に意識を取り戻したのだ。酷いけがを負っていた彼女の言動は、比較的まともに思えた。

 

「————山城さん!! 大丈夫なの!? 頭とか、記憶とか————」

 

「ええ。頭痛は当分収まりそうにありませんわね————情けないことに、起き上がることすら————」

 

儚げに笑う上総の笑顔に痛々しさを感じたジグルド。目に涙を浮かべ、投与量が少量だった志摩子は顔を手で覆う。

 

「—————先ほどから、貴方は自分の未熟さで、守れなかったとおっしゃっていましたが」

 

気力を振り絞り、上総はジグルドに対して修正をしなければならない。

 

「—————私達の未熟が招いたこと。貴方の責任ではありませんわ…‥」

 

弱弱しい声ではあるが、気力だけで強い瞳でジグルドを射抜く上総。

 

————強い子だ。あれだけの投与を受けて、まだ正気を保てるとは

 

「———すまない—————こんなはずではなかった。こんな————謝罪の言葉すら出てこない、何を言うべきかもわからないな」

気をしっかり持っている少女———上総の言葉で少し肩が軽くなったジグルドだが、彼女はもう—————

 

「—————ふふっ、なんだか楽しそう、ね」

 

唯依は上総とジグルドの話を聞いてにこにこしている。正気を失っている状態の唯依は、言葉の意味を理解していない。

 

「唯依————貴方は——————」

 

上総は、唯依の惨状に目に涙を浮かべていた。だが、その眼は絶対に唯依から逸らさない。

 

「—————よく、頑張りましたわね。私たち、生き残ったのですよ? 戦場に出る前、約束したでありませんか?」

 

起き上がろうとする上総を支えるジグルド。無言で感謝の意を向け、首を縦に頷く彼女と、心配そうに眺める志摩子とジグルド。

 

「————お互いの心をさらけ出し、理解し合えた時こそ、友人であろうと」

 

「?」

 

抱きしめられている唯依は、何をされているのかすら理解していない。しかし、

 

「あったかい—————あったかいよ」

 

「唯依、ごめんなさい。ごめん、なさい————」

 

 

「酷い戦場だったよ。たくさん死んだけど、それでも————まだ、まだ”希望”が‥‥‥」

 

 

志摩子の言葉に反応した唯依は、瞬間虚ろな瞳となってしまう。そう、上総から離れた瞬間、もっと正確に言えば、人のぬくもりが唯依から失われた瞬間。

 

 

 

彼女の情緒が、最悪な形で爆発した。

 

 

「い‥‥‥や…‥‥おいて、いかないで……‥あき‥‥‥いずみ‥‥‥しまこ‥‥‥かずさぁ…‥‥」

 

 

目が虚ろになり、虚空に手を伸ばす唯依。弱々しく腕を伸ばす姿にジグルドは勿論病室にいた全員が絶句した。

 

 

 

「…‥‥‥‥‥だめ…‥‥だめ、だめだめだめだめ!!! いやだっ!!! やだやだやだ!!!! やめて!! やめて!!! そのひとをころさないで!!! いやっ!! いやぁっ!!!! やめてぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

「唯依!?」

 

 

 

「かえして!!! かえしてっ!!! かえせ!!! かえせぇぇぇぇぇ!!!!

 

 

 

 

ベッドの上で暴れる唯依。とっさにジグルドが彼女がベッドから落ちないよう支えるが、それも逆効果だった。

 

 

 

「はなせっ!!! はなせッ!! ゆるさないっ!! ゆるさないっ!! おまえたちを!! 殺してやるッ!!! 殺すっ!!! 消えてなくなれぇェェェェ!!!

 

 

「あぁ゛ぁっぁぁ゛ぁあぁ゛ぁぁッ゛ぁぁ!!!!! はなせぇぇぇぇぇ!!!! みんなをかえせぇぇぇぇ!!!! はなせぇぇぇぇぇ!!

 

 

「しっかりするんだ、唯依! くっ、なんて力だ…‥ッ けが人のはず、なのに‥‥っ」

 

ジグルドがしっかりと唯依を支え続け、暴れる彼女を止め続ける。しかし、途端に彼女の抵抗がやんだと思えば、恐ろしいことをさらに口に出し始めた。

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいあのときうてなくてごめんなさいたよりにならないしょうたいちょうでごめんなさいあきがしんだのはわたしのせいわたしもしぬからわたしもいっしょにしぬからいずみのじじょうをりかいできなくてごめんなさいわかったわたしもわかったじーくがたべられてわたしもりかいしたよだからわたしもしぬからわたしもいっしょにそっちにいくからゆるしておねがいしますこんなわたしがいきていてもしかたないすぐそっちにいくからかずさしんぱいしな「やめろっ!!!」

 

 

もしかすれば有ったかもしれない悪夢を見て懺悔を繰り返す唯依。

 

「ごめん、唯依・・・・・っ」

 

ジグルドはとある壮年の医者より渡されていた鎮静剤をうったのだ。ほどなくして息の荒かった唯依は呼吸が元に戻り始め、ジグルドの胸の中で気を失った。そんな彼女をやさしく抱き留め、うっすらと目に水気を含み始めたジグルド。

 

そんな彼は無理矢理話題を変える。

 

「—————朝鮮半島からの増援は今のところ確認できていない。だが、問題は北陸からの奇襲だ。事態は、時間は俺たちに寄り添ってはくれないんだ」

 

 

「北陸からの————第2帝都候補の仙台の、眼と鼻の先ではありませんか。まさか———」

 

上総は、この満身創痍の状態で侵略を受けた場合、致命的な打撃をこうむることになると危惧した。

 

「————おそらく招集もかかるだろう。今は船の中で休め。どうやら、こちらに帝国軍の負傷者も運び込まれる————ん、一応報告しておくが、田上忠道少尉は一命をとりとめた。本当なら、能登少尉も救いたかった————もはや謝罪の言葉すら足りないな…‥」

 

唯依をやさしくベッドに寝かしつけ、ジグルドは事後報告とばかりに情報を二人に与える。

 

「—————行くのですね、戦場へ」

 

立ち上がったジグルドを見送る上総。手を振る気力もないから目で訴えるしかない。

 

「必ず、必ず帰ってきてください! 貴方がいなければ、唯依はもう、今度こそ————」

 

 

「分かっている。わかっているさ、こんな光景を見せられては…‥」

 

———————部隊の皆には、とてもではないが言えないな…‥こんな惨状を‥‥‥

 

しかし、彼らの警戒をあざ笑うかのように、北陸へのBETAの侵攻は訪れなかった。何が彼らを躊躇させたのかは判明していないが、小休止といったところなのだろうかと、帝国政府、連邦軍は判断し、コンディションレッドを解除。

 

長時間戦闘を強いられたガルム中隊のリゼルは損傷こそなかったものの、やはり長時間戦闘を久しく経験していない過酷な戦闘状況を鑑み、ドッグに収納されることとなった。

 

 

一方、特に被害が甚大な中国地方の惨状は、帝国軍と連邦軍の目から見ても目をそむけたくなるようなものだった。

 

 

「なんだ、これは……‥瓦礫は‥‥‥町はどうなって……‥」

 

何もない。岡山南部の市街地は、既に消滅していた。それどころか、港町がいくつもあった兵庫の街並みも、それと同様だった。

 

辛うじて山は存在していたが、それでも野生動物の声が聞こえないのだ。野生の動物たちの、生命の痕跡が根こそぎ消えていた。

 

「あぁ…‥‥‥三宮の前線基地が…‥‥どこにも、どこにもないっ」

 

連邦軍は理解した。BETAに奪われるというのは、こういうことなのだと。故郷を彩っていた景色すら、記憶に焼き付いた景色すら奪い去っていくことを。そして、奴らに侵略された生態系は、完全に破壊されてしまうことを。

 

 

そして帝国軍はあらためて思い知った。BETAに奪われるとは、こういうことなのだと。次々と陥落していく国々の光景。それを見ていることしかできなかった国民に焼き付いた現実が、きっとこれなのだと。むしろ、山林が残っているだけでも幸い、なのかもしれないと。

 

 

「————————死者、行方不明者は、どうなっているのですか?」

 

連邦の士官が帝国軍将校に尋ねる。九州、四国での防衛が成功したとしても、中国地方での大敗、京都では避難を拒否してしまった住民もいた。最悪のケースとして予想されていた東名高速道路への侵攻による民間人への致命的被害は避けられたが、それでも、彼らは住む場所を、彼らの日常を奪われた。

 

「死者は推定で180万人。中国地方だけでだ。軍関係者も含めて中国地方の被害が多い。行方不明者の安否もこの情勢では…‥‥」

 

それはつまり、中国地方で逃げ遅れた、ウェイブの箱舟で救えなかった命の数。中国地方は総人口が約700万だ。つまり、その約4割が失われた。

 

近畿地方では特に被害の大きい兵庫は550万人、京都は首都であるため1000万人を超える官民の命があった。

 

兵庫の死者、行方不明者は200万人。行方不明者の安否も絶望的だ。激戦地であった帝都も避難拒否をした民間人を救えず、犠牲者は250万人に及ぶ。これは、学徒兵たちや軍関係者も含めての数字だ。

 

合計で、約630万人もの人命がこの短期間で失われた。しかも、これから夏が終わり、冬が訪れるのだ。仮設住宅などを含めた避難民の生活保護の問題もある。満身創痍の帝国にどこまでカバーできるか。

 

「———————眩暈がするな。この人的被害と、この生態系の完全破壊は」

 

破壊された大地を見て、項垂れている帝国軍人に肩を貸しながら、連邦士官はどうしようもない現実を嘆くのだった。

 

 






最大の原因はジグルド君(恋慕の対象、自覚なし)が闘士級に吹っ飛ばされたからです。

あれで唯依ちゃんの心がぶっ壊れました。

しかし回復の見込みはあります。
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