Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~   作:傍観者改め、介入者

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投稿がすっかり遅くなってしまった。

サッカーの方も、この小説もスランプから抜け出しそうな予感です。


第十八話 新しき理

 

激突した戦術機の中で目覚めた上総は、その記憶がまるで夢のように感じていた。

 

動くことが困難となった体。戦術機は大破し、もはや戦うだけの力はない。

 

 

——————————————ここが、私の終わりだというの?

 

 

その思いが体中に染み渡るほど、思考は冷静になっていった。要塞級がいることは、小型種のBETAがいることにほかならない。まず間違いなく腹の中にため込んでいるだろう。

 

でなければ、京都駅の集積場が陥落しているはずがない。

 

 

「—————山城—————さん」

 

 

スピーカーから聞こえる戦友の声。きっと自分を探しているのだろう。しかし、それはだめだ。もはや自分は助からない。お荷物な自分を放置し、生きる可能性を模索するべきなのだ。

 

「きては、ダメ—————唯依—————」

 

こんな時に、こんな時に名前を呼んでしまった。我慢しようといったはずなのに、自分でそれを破ってしまった。

 

—————怖い—————嫌だ—————こんな最後—————

 

しかし激情は全て薬物投与で鎮静化される。少女の悲鳴をかき消すように。

 

—————これから私は—————食い殺されるのだろう

 

冷静な思考に強制され、上総は残酷な事実と向き合う。戦車級が近づいてきている。間違いなく目標はここだろう。

 

 

————あぁ、唯依—————もう一度あなたに—————

 

 

もっといろんなことを話したかった。もっと二人でいろんなことを経験したかった。

 

この先の未来を生きたかった。

 

 

 

なのに—————

 

 

 

痛みで視界がかすむ中、管制ユニットを食い破られた瞬間に戦車級の頭部が砕けた。

 

「——————だ……れ……?」

 

爆風と共に、BETAではない何かによってこじ開けられる音。そして彼女の目の前にはあの時の戦術機の姿が目に映る。

 

「見つけた。大丈夫か、嬢ちゃん? 立てるか‥‥‥って、見るまでもねぇな」

 

 

その男は遠目から一度見たことがあった。

 

 

唯依が無意識に慕っていた金髪の青年の横でちょっかいを出していた、ナンパな三枚目の風貌をした青年だ。その彼が、上総の未来を変えた。

 

 

迫りくる死の運命、抗うことが困難だった分岐が変わる。

 

 

「悪いな。けど、掴んだ手は絶対にはなさねぇぜ」

 

 

そうして、ガルム中隊の一員、ヘリック・ベタンコート少尉に救い出された上総は、京都防衛戦という地獄を生き残り、現在ベッドの上にいる。

 

 

「——————まだあなたは悔やんでいるのですか?」

 

 

「——————唯依は、まだ不安定なままだ。薬物投与で、記憶障害と思考低下が酷い。見込みはあるというが—————」

 

拳を握り締めるジグルド。こういう時何もできない自分が恨めしいのだろう。どこまでもわかりやすい男だと、上総は思った。

 

「—————なぜ、他の星の貴方が篁さんを心配するのかしら?」

 

「————あんな目に遭ったんだ。人であるなら、心を痛めないはずがないだろう」

 

真面目に答えたジグルドには自覚がないのか、本当に他意はないのだろうか。上総は友人に似て鈍感な青年にため息をついた。

 

「—————なっ、俺は間違ったことを言っていないっ、なぜそんな態度を取られるのか理解が出来ん」

 

思わず立ち上がるジグルド。上総は、ジグルドと唯依の波長が合っていることを見抜いていた。

 

「まあ、こういうやつなんだよ、ジークは。ザラ大佐と同様にどうも苦労人のオーラが凄くてな。色々真面目だから目に付いちまうんだよ」

 

横では朗らかに仲間のそれを見守るヘリック。上総の運命を、未来を掴んだ男。

 

「ま、これから仲良くしてもらうと助かる。こういうのも縁だし、知り合いには長生きしてほしいしな」

 

「ええ。こちらこそ。そして改めて、日本の為、力を貸していただき感謝いたしますわ」

 

なんだかんだ、三枚目な男だが、礼儀は弁えているようだ。ここでうかつなことはしてくる雰囲気がない。

 

「—————————」

 

 

「? どした、ジーク? なんか変なものでも食ったか?」

 

「い、いや、なんでもない」

しかし上総の目から見ても、やや信じられない目でヘリックという男を見ているジグルド。

 

 

 

 

 

それから、病室を後にしたヘリックの後姿を見ながら、上総は自分の運命が繋がったこと、そして自分と同じく彼らによって救われた唯依と、特に彼女と親しげだったジグルドのことを思い浮かべた。

 

 

—————熱心に戦術機のことを尋ねてきたりもしたのです。

 

瑞鶴のことを褒めてくれたと彼女は喜んでいた。その前にあの長刀の造形に着目するセンスを好ましいと感じていた。

 

————もし、連邦の方の技術を取り入れれば、お父様はもっと凄い戦術機を作れます!

 

戦術機の開発が捗るだろうと。ジグルドは言っていた。戦争が長らく発生せず、モビルスーツの開発は平和利用に傾いていたと。

 

それは喜ばしいことで、今までは上手くいっていた。しかし、新たな争いが宇宙の彼方で起きていた。

 

連邦政府は、対BETA、並びに新型モビルスーツの開発に着手することを決定したという。尤も、平たく言えば新型のモビルスーツを開発することなのだが。

 

————ジグルドさんは、お父様の話を聞いて、ぜひ開発グループに招きたいと

 

嬉しそうに語るその姿は、彼女の日常となっていた。

 

「—————京都、日本人のよりどころを壊され、彼女は友人を失いましたわ。そして、私はこの体たらく。今は、唯依を戦場で支えてあげられない」

 

戦術機乗りとしては致命的な怪我を負い、義手を摩る上総。連合の生体蘇生技術があるとはいえ、彼女が生身の片腕を取り戻すには時間がかかる。

 

「—————彼女に近しい貴方だからこそ、お願いするの。私個人が」

唯依の心を支えられる強い存在は、ジグルドをおいてほかにはない。

 

「——————言われるまでもない。どちらにせよ、今後は彼女の父親とも関わり合いになるからな」

 

 

その頃、田上少尉は移送された先で恋人の友人だった少女と話をすることが出来ていた。

 

彼の所属するランサーズは九州防衛の任を解かれ、しばらくは第二帝都東京へと向かうことになる。なお光線級吶喊や九州本土防衛の立役者となった為、中隊全員に昇進が執り行われた。残念ながら戦死してしまったものは二階級特進扱いとなる。

 

しかし、ここでキラの悪癖が出る。

 

田上忠道は四肢の一部を喪失したが、その報せはいつの間にか重症へと変わっていたのだ。この一件には“アスラン・ザラ”大佐も認めるところであり、連邦は彼の怪我の具合に関する情報を変更している。その為、キラが断行した禁断の医療行為をアスランは黙認してしまったのだ。

 

常人を遥かに凌ぐ超感覚による意識喪失、喪失以前とは違う身体能力の向上。その技術の一部にはかつて禁忌とされた“強化人間”の技術も存分に取り入れられていた。

 

あまりにも膨大な情報量を処理するために、脳を改造した。その為には当時凍結していた人工的にニュータイプを生み出す装置も取り入れ、彼の限界値を底上げした。そんな脳の司令に対応するために、かつてとは違う強化された薬物投与を経た、喪失した生体の再生治療を行ったのだ。

 

しかしキラと彼らに違いがあるとすれば、首輪をつけなかったという点だろう。一定時間の経過によって薬物を必要としていた彼らとは違い、キラはあらゆる制限を彼から解き放った。彼らの様な副作用持ちの首輪付ではなく、一人の軍人として、人間として。

 

超人的な身体能力と、より高速化した情報処理能力を含めた脳の発達。そのスペックはスーパーコーディネイターのなり損ないを凌駕するものとなり、彼は文字通り“新生”した。

 

キラ・ヤマトの研究の贄として、彼はその報酬として上記の能力を獲得したのだ。

 

 

意識を取り戻した彼は動揺こそしたが、もう一度戦場に立てることに安堵し、京都にいる彼女を守れると思っていた。

 

「————————そう、ですか」

 

聞けば、能登家も京都混乱の最中、BETA侵攻で連絡が取れない。家族ぐるみで付き合っていた許婚だけではなく、その家族までもが、おそらくBETAの手にかかったのだろう。

 

目の前で辛そうにする許婚の戦友から話を伺う前から、恩師とも違う複雑な間柄となった連邦の中佐から聞かされていたとはいえ、彼の心を大きく揺さぶるものだった。

 

———————和泉、貴女はもう、この世界のどこにもいないのですね…‥

 

守れると思っていた。光線吶喊が成功して、九州で足止めすれば帝都は大丈夫だと。だが、最悪な情報が目覚めと共に待ち構えていた。

 

目の前で辛そうに、涙を流すまいと意地を張る忠道は、固く目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。そんな彼の様子に、沈痛な表情から変えることができないのは、友人の死を伝えた志摩子だった。

 

「——————覚悟は、していたのです。帝都が戦場になったと聞き、それを斯衛が阻まんとするのは。彼女にも武家の責務がありました。犠牲のない戦場などない。されど、どこかで彼女の無事を盲目的に信じていたかった」

 

「田上中尉…‥‥」

 

「ご友人相手に、情けない姿など晒すことも出来ません。目の前で彼女らを失った貴女方に比べれば。その悲しみは幾許か‥‥」

 

「そんなっ、許婚を失った中尉とは、比ぶべくもありません。この戦いで、大切なものを失い過ぎました‥‥‥みんな、傷ついたんです‥‥‥」

 

目の前で助けることも出来なかった無念と、大切なものを遠方で失ったという凶報。どちらもつらいのは道理だ。

 

「————————それでも、和泉は幸せだったでしょう。偲んでくれる者たちが、まだこの世界に生きている。私たち以外に、彼女を忘れないでいてくれる方々がいる。それだけで、私はまた前に進むことができます」

 

意を決した忠道の目は、先ほどまでの悲しみを秘めたものから決意に満ちたものへと変わる。

 

「‥‥‥どこまで戦えるかは、未来のことは定かではありませんが、これからも私は、和泉の友人であった貴女方と、この日本という国を守るために、力を尽くします。彼女に恥じない生き方をする。今の私には、それしか語ることが出来ませんから」

 

 

 

 

 

 

連邦政府は、光年離れた先での映像会談を取ることになる。

 

その出席者として、榊首相と外務大臣。官房長官等今回は少数となった。日本帝国はいまだに未曽有の大被害で立て直しを迫られている。

 

「—————では、コロニー開発の件も了承ということでしょうか?」

 

「ええ。今日本に倒れてしまっては、この星での戦略を練り直す必要があります。私達としても、今後とも貴国とは関係を維持したいと考えています」

 

地球連邦政府、最高責任者の地位である、連邦元首議長カガリ・ユラ・アスハは榊との話し合いで連邦のスタンスを簡潔に述べた。

 

「さしあたっては、オルタネイティブ計画についてです。我々はこの計画について知らない。これがどういう意図で作られたかを知っているに留まっています」

 

 

BETAを研究し、その概念を理解することで有効な戦術を探し出すことを目的としているのは、帝国国内での情報収集で熟知している。

 

諜報活動を行うというのが現在の計画という。しかし、ジグルド・F・アスハの証言はそれらの疑念を確信へと変えるものになりかねない。

 

一定の周波数がその個体からは垂れ流し続けている。それは撃破直前まで同じ。一定のリズムでそれらが流れてくるのだという。

 

彼は、それをまるで命令を受けている機械のようなものだと推察しているらしい。

 

「—————彼らにコミュニケーションは無意味であるというのが、我々の見解です。恐らくあれは、生体機械。炭素物質で構成された存在。恐らくハイヴは生産工場で、その一番奥には、司令部に似た何かがある」

 

カガリは、専門家チームからの見解を彼らに話す。どうも連邦お抱えの専門家からは、奴らが生物としては怪しいと感じずにはいられないらしい。

 

「—————確かに、捕食と突撃を繰り返すBETAが何かの命令を受けていることは否めません。しかし、我々は専門家ではない。重要なことは、その次の話でしょうか?」

 

一方、感情論を完璧に管理下における数少ない人物でもある首相は、先入観のない新鮮な情報にとても納得すると同時に、話が脱線しかかっているようなので、あえて言葉を紡いだ。

 

「—————その通りでしたね、榊首相。我々が短期間で接触した程度に判明する仮説は現状保留にするのが望ましい。この星ではすでに奴らを調べ尽くそうとする計画があり、その計画がどうすれば進展するのか。我々はハイヴの最奥を調べないと分からない事だと断言できます。そこで必要なのは、戦術機、機動兵器の強化です」

 

モビルスーツという呼称を使わないカガリ。これは、帝国に対する配慮である。技術に関しては不得手なカガリは、設計概念から違うことしか理解していない。

 

「—————ハイヴ最深部に到達し得る戦術機、ですか」

 

 

「はい。しかし、連邦はあくまで支援の立場ということを貫きたいのです。試験パイロットが連邦兵士なのは意味がないでしょう? そこはご理解を頂きたい」

 

これはこの星で、この星のパイロットが会得する問題なのだ。だからこそ、必然的に衛士は帝国軍から選抜されるだろう。

 

 

「—————なるほど。しかし、歴戦のパイロットほど新しい技術は取り入れにくい。若く才気あふれる者を選抜しよう。しかるに教官は————」

 

 

「—————うってつけの人間がいる。モビルスーツ開発に長け、一歩間違えば3日間呑まず食わずで、計画を推し進める働き者たちがな」

 

 

その時、病室で唯依に泣きつかれているジグルドと、雑務に追われるキラの背中が痒くなったという。

 

「—————それほどの熱意がある、ということにしておきましょう。未だ我が国は貴殿らの庇護無くしては成り立たない。今後ともどうか我が国を頼みます」

 

第7艦隊と第8艦隊が宇宙と地球に展開している。月攻略に向けたジェネシス建造と、帝国近辺の警戒。それぞれを分担しているのだ。

 

 

「————遜った言葉は不要です、榊首相。我々がこの星と関係を持つきっかけでもあるのです。先の防衛戦で全力を尽くせず申し訳ない」

 

この会談により、日本帝国は第二次曙計画の開始を前向きに検討。日本帝国内での連邦との技術提携は、世界と国連を巻き込み、XFJ計画へとつながることになる。

 

 

「——————珍しいじゃないか。会談の様子を見たいといったのは」

会談を終えた榊は、ある一室を訪れ、その部屋の主に声をかける。

 

 

「—————気になっただけよ。連邦の女性元首がどんな人間なのか」

眼鏡をかけた少女が榊の言葉に反応し、棘のある言葉で返す。

 

「————で、その色眼鏡で推し量った感想はどうだったかな?」

 

 

「—————そうね。有象無象の政治家どもより、とても印象が良かったわ。票集めに必死な政治家よりも、立派に政治家をしていた」

 

 

「—————そうか」

 

 

それだけ言うと、少女は部屋を後にしてしまった。娘の前では、首相も一人の親に過ぎなかった。

 

「—————彼女は、それだけの想いを背負っているのだよ。彼女は上手い。影を隠すのがとても」

 

 

 

その頃、日本帝国内では、連邦軍が哨戒活動に従事していた。

 

 

 

現在在日米軍に代わり、連邦軍が中四国の警戒に当たっており、戦術機とは一線を画すフォルムを有するモビルスーツに対し、帝国は大いに興味を抱く。

 

 

BETA相手に無双を繰り広げる、異なる星の戦術機。空中で戦闘機へと変形する戦術機など、オーバーテクノロジーの塊だった。

 

白陵基地所属の兵士の間でも、それはもう話のネタは尽きないほどだ。

 

「—————本当に、あの時の飛来から、すごいことになっていますね」

 

海沿いには、まるで空想から飛び出したような戦艦が停泊している。そこから連邦軍は戦術機を飛ばしているのだ。

 

 

第七艦隊の横須賀への寄港の際、盛大な歓迎を持って迎えられたのだ。

 

一気呵成の反撃と帝国、国連軍、連邦主力部隊の挟撃。悪夢を打ち破るシナリオの顛末にしては、これ以上ないぐらい清々しいものだ。

 

そして、彼らが来訪した瞬間を、彼女は今でも覚えていた。

 

「仕方ないだろう。帝国軍も、国連軍、在日米軍でさえ、成しとげられなかった単騎での3日の足止め。100万を超えるBETAの撃破は当然世界スコア。そんな存在が帝国の守護の為に降り立っているんだ。日本の外も大騒ぎだろう」

 

その横にいるのは、疎開先の横浜で知り合った同性の友人である。京都にどうやら想い人がいたようだが、帝都防衛戦で連絡がつかないらしい。家族とも連絡がつかず、彼女の旧家もその後の足取りがつかめない。

 

どこもそんな感じだ。西日本から避難してきたものの中には、家族を失ったものが出てしまっている。

 

 

陥落こそ免れた京都ではあったが、都市機能は麻痺しており、しばらくは復興に時間がかかるだろうと言われている。

 

そして、甚大な被害を受けた中国地方の被害は相当なものだ。西日本は連邦軍の庇護がなければ立ち行かない状態となっていた。

 

「—————ニュースでも話題になっている話、知っているかい?」

 

「ええ、連邦軍と帝国の技術提携。重い腰を上げたのでしょうか」

 

しかし末端にはその先の情報は伝えられていない。

 

 

帝国中で注目を集める帝国と連邦の技術交流。それはすなわち戦術機開発において他ならない。

 

その後、日本は連邦政府と平和条約を締結。日本由来の国土を認識し、現在履行されている防衛協定にかわる安保条約に関する条項も現在取りまとめている。

 

 

そして、そんな新たな戦術機開発メンバー召集の為に怪我の癒えたジグルドは奔走していた。

 

「—————えっと、私が案内役、ですか?」

 

ジグルドは甲斐志摩子には道案内と、甲斐家の伝手を頼りにしていた。生き残った末娘の恩人である彼が志摩子を頼りにしているということは、当家にとって喜ばしいものであった。

 

何しろ、帝都防衛の立役者であり、中国、近畿地方の奪還攻勢に参加したメンバーだ。そんな武功を立てる彼と接近でき、そんな彼は娘の命を救った恩人でもある。親としては、公私ともに望ましい展開だった。

 

まだまだ安静にしておかなければならない上総と唯依は無論外出は禁止。傷が癒えるまで、薬物の症状が治まるまでミカエルで最新医療を受けることになる。

 

 

しかし、連邦軍内の中尉に過ぎないジグルドがなぜこれほどの権限を有しているのか、それを志摩子は気になっていた。するとジグルドの口から出た言葉は

 

 

「MAや通常兵器のアイディアを匿名で何度か送り付けたら紆余曲折を経てこうなってしまった」

 

とのこと。ジグルドは軍事作戦中での肩書は中尉ではあるが、こと技術方面では佐官クラスに匹敵する地位を持つ。さらにはある程度の決定権を有しているのだ。訓練校卒業後、技術廠に出向していた期間もあった為、多方面より彼が歓迎されているといった事情もある。中にはあの伝説の英雄の息子にして、才能豊かな若者という見方もあり、多少は七光りの面もあったりする。

 

なお、彼が身バレするきっかけになったのはキラ・ヤマトによる逆探知、ハッキングによるものだったりする。

 

 

 

そんなこともあり、ジグルドの多方面振りの行動力に驚愕しつつも、歩を進める志摩子。

 

 

 

「まずは、篁家当主、篁祐唯中佐。そして、巖谷榮二中佐。この二人は確定だ。あの長刀の開発者と、性能に劣る機体を改造し、外国産機を圧倒するポテンシャル。技術面で彼らは今後の手本になり得るだろう。そして、それは貴女も同義だ」

 

「わ、わたしが、ですか?」

いきなりの大役ご指名に驚く志摩子。まさかそんな大役すら見越しての指名だったのだろうか。

 

「————帝国はどこも人材不足だ。若い人材が実戦を経験して生存することは貴重なことなんだ。だから、近くにいた君をスカウトする。否が応でもモビルスーツでエースの実力を手にしてもらう」

 

志摩子の恩師である真田大尉と斎藤中尉は、あの戦闘を結果的に生き残った。エル・バートレット少尉からの縁を頼り、彼女らのことを聞きだしたのだ。

 

————山城は脱落し、篁は悪酔いが酷いか

 

眼にかけていた生徒が共に深刻な状態であることに真田は悔しそうだった。

 

————甲斐少尉は薬物に対しての耐性はあったようです。もう二度とつかわせないが

 

ジグルドは、志摩子が薬物に対して耐性があったことを伝える。

 

————あれも磨けばモノになる。貴方方の手で、鍛えなおしてくれ

 

すると、真田は志摩子のことを頼むとジグルドに伝え、新たな戦術機、モビルスーツのテストパイロットとして彼女を鍛える彼に、未来を託したのだった。

 

そのような話があり、ジグルドは連邦の技術知識を受ける存在として、彼女を最初に指名したのだ。

 

 

「唯依は—————いいの?」

 

志摩子は、ジグルドが唯依を指名しなかったことが不思議でならなかった。多少意見を言える立場にあった彼が、それをしない理由はない。真田教官から話を聞けば、唯依にも素質はあるはずだ。無論、まだ時期が先のことになるだろう。それまでに回復することは十分ある。

 

「—————どうだろうな。俺と彼女に交流があったことが漏れていてな————篁家が複雑なお家事情というのを理解した」

 

ジグルドは、苦笑いをしながら白状する。

 

「—————俺が、篁祐唯氏を指名したことで、どうやらかなり揉めたらしい。一部の軍部、外様武家の間でな。煌武院家と崇宰家、斑鳩家が取り成してくれなければ、計画そのものに悪影響を与えていた。俺も迂闊だった。周辺情報を集めるべきだったと」

 

だからこそ、親子で開発チームに参入なんてものになれば、混乱は必至だ。

 

「————そう、なんだ」

お家事情や体裁。そういったものに縛られることが、こんなに疎ましく思ったことはなかった志摩子。

 

「—————後他には、アスランが助けた武家の者と、一部の若手エリート。贔屓なしでの成績上位者、だろうな」

 

 

そして辿り着いたのは、京都の篁家屋敷。復興途中の京都ではあるが、都市移転までのしばらくの間、無事だった家屋で武家が一部ここにとどまっているらしい。その中に彼がいた。

 

 

 

開口一番、ジグルドが行ったのは土下座であった。

 

「アスハ中尉!? なにを‥‥‥っ!?」

 

篁中佐は両ひざを地面につけ、頭を下げる青年の姿に驚く。

 

「中佐の娘が眼前にいたにもかかわらず、その心をお守りすることが出来ませんでした。申し訳ありません」

 

既に娘の容態は知っている。あの地獄のような帝都攻防戦で生存できたこと、運よく連邦の中隊に回収されたこと、その後治療を受けており、彼女の今の状況を既に知っている篁中佐は、ジグルドの謝罪の言葉に戸惑う。

 

「———————顔をお上げください、アスハ中尉」

 

 

「しかし…‥‥」

 

躊躇するジグルド。しかし篁中佐は親として、娘の命を救った彼に一番かけるべき言葉が遅れていたことを感じていた。

 

「それでもだ。あの地獄から、娘を見つけてくれてありがとう。その命を拾い上げてくれて、感謝の言葉が続かないほどだ。そんな恩人を恨むはずがない」

 

 

「わかりました‥‥‥」

 

 

それでもジグルドは、罪悪感こそ消えたものの、心を守れなかった、むしろ自分が闘士級の攻撃を受けたことで止めを刺してしまった至らなさを恥じていた。

 

「今朝、娘に会うことが出来た。連邦の医療技術は素晴らしく、娘の精神状態も快方に向かっている‥‥‥彼女はもう一度笑顔を取り戻すはずだ。とくに、キミの目の前ではね」

 

 

「篁中佐!? それは…‥」

 

そんな彼女に取り入るつもりで、関係を構築したわけではない。ジグルドは打算的なものを中佐に印象付けてしまったのではと目を伏せがちに言う。

 

 

「君が思うようなことではないさ。その直情的な性格からして、そんな腹芸は好みではないことも分かっている…‥‥娘の手紙が時々送られてね、よくキミのことが書かれていたのだから、つい邪推をしてしまったようだ、すまないな」

 

「は、はい……その、篁さんとはBETAに関する情報収集の間、少しお話をさせていただきました。この世界での、この星の常識や歴史について」

 

篁中佐は、現実と人々が謳う理想が度々違うことを身に染みて思うのだ。この純朴で直情的な青年が、あの帝都攻防戦で大活躍したエースパイロットとはだれも思うまいと。

 

しばらく唯依の近況や快方の見通しについて改めて情報を交換した二人。そしてジグルドが今ここにいる理由はそれだけではないと予測し、先日発表された情報から話題を切り出した。

 

「ところで、本日の来訪は何も娘のことだけではないのだろう、アスハ中尉?」

 

仕事モードの顔へと切り替えたジグルドと篁中佐。プライベートの話題が入る余地はなく、志摩子も彼の様子が一変したことで、その場の空気が変わったことを認識していた。

 

「ええ。近日中に連邦、日本帝国の間で結ばれる技術提携に纏わることです。詳しいお話は奥の間で進めても構わないでしょうか」

 

「了解した。ここでその話は落ち着かないから、詳しい話は部屋で聞こう。お隣のご息女もそれでよろしいかな?」

 

「は、はい!」

 

 

ジグルドと志摩子は、篁中佐に案内されるままに奥の間へと進む。志摩子はその間に頭の中でこれから行われることを冷静に分析しようとして、その結果を考えるたびに尋常ではない何かが起きると推察し、心が落ち着かない。

 

 

——————連邦軍の強さが、帝国にも真似出来たら‥‥‥

 

良くも悪くも、日本帝国の立場が変わる。連邦軍といち早く国交を結んだ国として。しかもそれに加えて武力での底上げの支援まで取り付けたとなると、アメリカの一強状態だった世界情勢に変化が起きる。

 

しかも、アメリカは日本の形勢不利を見るや安保条約を破棄し、現場の意見を無視して本土へと撤退してしまった。国民の血を他国で流させることに躊躇があったとはいえ、公式で結んだ条約を一方的に破棄してしまったのは痛手だろう。事実、日本帝国の為に最後まで奮戦した連邦軍とアメリカの仲は微妙なものとなっている。

 

連邦政府は、アメリカの国民感情を考慮した行動だと擁護のコメントを出しつつも、国と国が結んだ条約を一方的に破棄することに強い懸念を示した。いわゆる、連邦政府の強い牽制である。

 

貴国は土壇場で条約を破る行為を晒してしまったが、それがこちらに向かうのは御免被りたい。現状、貴国と国交を結ぶことに躊躇いを覚えている市民が多数いる。

 

無論、そちらの事情は理解している。しかし、パートナーとして信頼できるかは別問題である。

 

なお、連邦政府は後になって思い知ることになるのだが、強い独立心を持つ勢力や、簡単に扇動されて動いてしまう勢力への情報不足が祟ることになる。

 

 

日本という国は親切で礼儀正しく、真面目で、多くを語らない。それが連邦政府と、現地に派遣された軍人たちの見解であると。

 

アメリカは当然だが面白くないだろう。擁護のコメントがあるとはいえ、直接的ではないが不信感を持たれているのだから。

 

そして焦りを覚えているのは欧州、アフリカ、中国、ソ連である。国土の大半を奪われ、アラスカに、イギリス本土に、台湾に、食糧難が問題となっているアフリカの惨状は、この連邦軍の介入によって解決できそうなだけに、あれよこれよと裏で動き回っているのだ。

 

しかし、欧州人とアジア人の身体的特徴は異なっており、スパイを送り込むのはなかなか難しいし、限られてくる。しかも国連軍極東にある基地を預かるのはあの第四計画の女狐である。送り込んでも処分されてしまう可能性が高い。

 

そんな各国の悩みの種の一つである女狐だが、このbetaによる大規模侵攻に伴い、国連太平洋方面第11軍が守る白陵基地(旧帝国陸軍白陵基地)は一時仙台への移転も検討していたようだが、京都でBETAの侵攻は阻止され、その後本土の全てを回復させることになり、即時移転計画は中止とした。

 

現在は、帝国との挨拶を粗方済ましている連邦政府とのコンタクトを今か今かと待っている状態だ。なお、事前の準備に抜かりはなく、ラブレターは2度も送っている。

 

これまでは帝国との国交開通や大規模侵攻に備えるために余力はなく、要求に応えられないと丁寧に断っていた連邦政府だが、逃げ口上はもうないのだから、そろそろ3度目のラブレターを送ろうかとほくそ笑んでいる女狐が一人いたりする。

 

白陵基地では当たり前のことだが、その女狐の隣には幼い銀髪の少女がいるということが帝国を通じて連邦軍の間で噂になっている。軍上層部は何ら異常がないと判断し、タイミングが合えば派遣部隊の責任者とブレーキ役を送ろうと検討している。

 

 

連邦軍もほとんど外出を控えており、そちらにカモフラージュするのも一苦労である。今も志摩子とジグルド、篁中佐が部屋へと向かう中、屋敷の周辺には警備兵が数人で警戒している。

 

そんな状況の中で最も動けるのは台湾と中国である。身体的な特徴はあまりなく、地理的な要因もある。中国は冷戦時の東側陣営というイメージこそあるが、台湾との関係は貿易協定を結んでいるなど悪くはない。

 

中国は焦りを感じ、直接的な行動に出ることが予想され、台湾は焦りを感じつつも外交関係が悪化しない程度に公式での会見や法的な手段での平和的な対話を求めるといったところか。

 

と、長い考察の中、志摩子はいつの間にかジグルドと篁中佐の話が始まっていることに気づく。

 

 

「————堅苦しい言葉遣いは不要だ、中佐。技術者の話にそれは不向きですよ」

 

ジグルドが言葉にすることで、ようやく彼も柔和な笑みを浮かべたようで、

 

「失礼した————今回の件、改めて話を受けることにするよ。それと、娘と友人の窮地を救ってくれたこと、感謝する。本当にありがとう」

 

どうやら、巖谷経由で事情を知っているらしい。ジグルドは微笑み、

 

「—————光線級に撃ち抜かれる瞬間は避けたい未来でした。それに、あれを平気に思える人間はいないさ」

 

あくまで人としての言葉で返すのだ。隣では、レーザーで殺されそうになった志摩子が顔を赤くするが二人は気づかない。

 

「榮二も喜んでいる。ブレイクスルーのきっかけは我々も待ち望んでいたことだ。改めてよろしく頼む」

 

そして互いにがっちりと握手をするジグルドと篁。掴みはほぼ完ぺきと言っていい。

 

 

「————では隣の甲斐少尉と貴方にだけ、今回運用の基本となる機体について少しネタ晴らしをします。この機体は、俺にとっても縁深いものですからね」

 

 

「ほう。君が以前話した、噂のマルチロール機かな」

すぐに看破する篁。粗方のモビルスーツの歴史を勉強している彼は、ジグルドに縁深いという言葉と、対BETA戦術で有効なものを悟ったのだ。

 

この難敵を相手にするには戦術の幅は最低条件であるがゆえに。

 

「さすが目敏いですね」

 

「貴方に縁深く、有効な戦術を柔軟に取り入れる機体。それはマルチロール機であり、戦術の幅がある系統。答えは決まっているさ」

 

一を知り十を知る。こういうやり取りはやはりいい。

 

 

「————えっと、その————どういった機体なのですか?」

 

話についていけていない志摩子が、二人に尋ねる。あまりにも話が進むので、置いてけぼりを食らったのだ。

 

 

「—————ああ、彼が考えている機体というのはね。世界で初めてマルチロール機能を実装したモビルスーツ。そして、今では伝説となっている、とある男が使いこなした名機」

 

今は亡き、ジグルド・F・アスハの父親が数多の戦場で選んだ機体。

 

その神話は色褪せることはなく、世界を救った機体とも謳われる、伝説の機体の前身。

 

「型式名、GAT-X105Aストライクだ」

 

 

まだその巨人が埃を被るには早い。彼が残した軌跡と、彼が救った世界に求められ、トリコロールの巨人は戦場へと飛翔する。

 

とある勢力の撃破を求められたそれは、今度は人類の怨敵を斃す剣として。

 

 

 

 

二週間後、都市機能は京都から東京へと移転し、京都は千年の都の歴史に終止符を打った。

 

しかしこれは始まりなのだ。第二次曙計画に関する情報が流れ、その準備に入ったと連邦政府と日本帝国による共同声明が報じられる。

 

そして国内向けの報道では、1992年から開始されていた飛鳥計画がこの第二次曙計画に接収されることとなる。つまり、この飛鳥計画で開発されていたTSF-TYPE00は少数生産でお蔵入りとなり、富岳重工、遠田技研を主とした軍需産業は不満を抱くことになる。

 

その為、連邦政府、帝国議会はこの2社を含む主要メーカーとの意見調整を強いられ、大損を強いられた企業に配慮する形で連邦政府が折れる。

 

結果、以下のことが認められることとなった。

 

 

・主要メーカーは技術者と土地を提供する。

 

・帝国軍は人員を選別し、派遣すること。

 

・帝国斯衛軍からは、申請が通った場合、派遣が認められること。

 

・連邦軍は派遣部隊、もしくは補充要員から現役軍人の派遣を行う

 

・アクタイオン・インダストリー、アドゥカーフ・メカノインダストリー、プラント・インダストリーら主要軍需企業の技術者を派遣すること。

 

・日本帝国国内の主要軍需メーカーと、連邦圏内の軍需産業が合弁という形で新会社を設立すること。

 

・企業の立ち上げ資金に関しては、連邦政府のみが6割を負い、残りは帝国政府、各メーカーが支払うこと。

 

・新型兵器開発に関して、洋名とは別に和名でのネーミングを認めること。

 

・飛鳥計画が中止となり、帝国斯衛軍専用の次期主力戦術機の製作が頓挫した為、帝国陸軍の次期主力機とは別に新たな戦術機に携わること。

 

諸々、この条文以外にも複数あるが、認められることになった。

 

 

最後の斯衛軍の次期主力戦術機についてはアクタイオンがかなりの難色を示したが、すでに衣料品等で支援を行っているウィンスレット社の代表が動き、本社にて代理を任されているジャンク屋連合出身の副代表にして彼女の盟友が動いたことで、蟠りは解消した。

 

なお、アクタイオン社の社長はこの件について「なぜ一つの国家の中に命令系統の違う軍が複数存在するのだ」と首を捻った。彼が憂慮したのは陸軍と斯衛軍の対立による情勢の不安であったという。

 

 

 





唯依ちゃん、上総さんは幸いにして快方に向かっている最中です。


その他、リアクション芸人と化した欧州、ソ連、東南アジア諸国、アフリカ。

大損となってしまった近江商人を知らないアメリカ

公式なお願いコールを何度か試している台湾。

いいからよこせの中国。

なぜか影の薄いオセアニア・・・・・

そして、ジグルドの人生にちょくちょく顔を出すキラという天邪鬼。

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