Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~ 作:傍観者改め、介入者
一話 モラトリアムが終わる時
光年の彼方に存在するは、新たな宇宙の友人か。それとも、新たなる火種か。
青年の目の前に浮かぶ、命にありふれたはずの惑星は、死の星になりつつあった。
「‥‥‥‥どうするべきなんだろう。俺は」
彼は生まれつき親と同等の資質を兼ね備えていた。偉大な、世界を救った英雄の力を継ぐ唯一の存在。だからこそ分かってしまう、感じてしまう。
自分が生まれるかなり前から、父親が生まれる前から、この星には死が溢れていた。夥しい憎悪と慟哭、絶望、誰かの未来の終わり。それらがフラッシュバックしてしまう。
「‥‥‥きっと、こうして立ち止まっている間にも…‥」
青年は立ち止まるしかない。踏み込めば多大な犠牲が必要となると。それを自分の勝手な判断で決めていいのか。
彼の父親によって滅亡の危機を乗り越えた人類を危険にさらしていいのか。
青年は、その来たるべき時まで待たなければならなかった。その権限を与えられぬまま、座して待つことしかできない。
———————でも、それでも、予感がするんだ。
青年の勘は、今までほとんど外れたことはなかった。確信めいた予測が、彼らの今日となっている存在は、宇宙の至る所に存在すると。ゆえに、その脅威と向き合うことにならざるを得ない。
その時だった。その星の中に、どこかの土地から、誰かを呼んでいるような声がした。とても清らかな声を聴いた。その声があまりにも綺麗だったから、儚げだったから、青年は窓越しに見える目の前の惑星に手を伸ばした。
————————今すぐには来られない。けど、待っていてください。きっと俺たちは、巡り会う気がします。
そして同時期、古き歴史が積み重なった都にて、一人の少女が夜空を見上げる。
怪物に母なる星を穢され続け、半世紀近い刻が刻まれていき、その脅威は故国ののど元にまで迫っていた。
象徴として祭り上げられ、籠の中の鳥のような、幼少よりたった一度だけその運命を呪ったこともあった。しかし、結局は自分に課せられた生まれ、運命に抗うことは出来ず、目の前で為すべきことを為すしかない。
世界は滅びに向かっているというのに、どうしてこの星空だけは変わらないのか。
「殿下、今宵は夜風がお体に障ります。夜分遅くまで星見をなさるのは——————」
「———————————見上げる景色は、いつも同じですね、真耶。重金属雲による汚染が、夢現のようです」
「————————殿下‥‥‥‥」
人類に残された手立ては限られている。どうしようもない現実を刹那でも忘れさせくれる。まるで、この星で起きていることが些事であると言われているような。
しかし、人は古来より星に願いを求めている。異星起源種に故国を、故郷を奪われて尚、その文化は消えてなくなることはない。それは生来、人が自身に欠けているものや、届かないものに趣きを抱くからなのだろうと推察し、少女は今日も空を眺める。
その時だった。そんな夜空から誰かが自分を見ている、そんな奇妙な感覚が少女に悟らせる。酷く曖昧で、抽象的な感覚。それこそ夢現なのではと思い至るほどの、気まぐれに近い感覚。
————————星見の最中で、邪念が入ってしまったようですね。このような体たらく、許されるはずがありません
この星を救う誰かが、都合よく来るはずがない。無力感と虚脱感からくる気の迷い。少女はそれを断じた。
今この星には、死が溢れている少女らの故郷には、希望の光が闇に覆われてしまっていた。
——————はるか遠くの外宇宙に、夢を求めて———————
CE.90年。世界は今、宇宙開拓時代を迎えていた。
コーディネイターとナチュラルの種族の違いが発端となり、理事国側とプラントの利権の対立、その他もろもろの負の要素が重なって起きた、先の大戦を乗り越え、人類は新たなステージへと邁進していた。
慎重かつ大胆に。遠い次元の彼方、宇宙世紀と呼ばれた世界を反面教師に、残された人類は宇宙開発に心血を注いだ。内部の不安要素を一掃し、人類はその絶滅戦争一歩手前まで突き進んだ戦争の傷跡を払しょくするため、戦争に対する厭戦感情は高まっていた。
90億人に迫る勢いだった総人口は65億人にまで減り、最も民間人・軍関係者の死傷者の多い最悪の戦争。それが後にプラント独立戦争と命名された戦争の顛末。
そして、地球連邦樹立直前に起きたレクイエム事変。多くの猛者たちが大戦の傷跡で満足に戦えない中、今もなお存在するかつてコーディネイターと呼ばれた人種の根絶を目指したブルーコスモスの亡霊。
それを阻止したのは皮肉なことに、大西洋連邦出身の銀色の青年と、連合軍の脱走兵だった異端の青年。赤い彗星の陶酔を受けた”最高”ではない。彼と鎬を削った”赤騎士”でもない。
彼の終わりを、最後まで悔いたあの男と、彼を知らない新世代の英雄。
斯くして、地球連邦は樹立し、彼ら連邦市民は、後に4将軍と言われる英雄たちを迎え入れることとなった。
その数年後、各地に赤い宝玉の様な鉱石が採掘されるようになる。その鉱石を加速器の中で高エネルギー状態にしたところ、加速器内で重粒子の崩壊現象が発見された。
研究が進み、どうやらこの鉱石は人類が未発見だった特殊な粒子をその性質上集める性質にあったと判明。
さらに、リオン・フラガが意図的に起こしたと考えられるサイコフレームの共振反応は、その重粒子の崩壊現象に指向性を持たせることが判明。これは、ストライクグリント2号機の
稼働試験中に偶然発生した事象ではあるが、これにより既存の航行技術とは違う新技術の流入が起きた。
しかし、ストライクグリント2号機は共振反応による、未知のエネルギー力場に機体が耐え切れず自壊。無人機での試験稼働中だった為、死者は幸い出さなかったものの、新発見の代償は、英雄の機体の後継機を製作することを断念することだった。
さらに数年が過ぎた頃、スカンジナビア王国に大戦中避難していた研究チームによって、推進剤ではない別のエネルギーによる推進技術が確立。主に大型外宇宙航行母艦に搭載可能なサイズとなり、本格的な外宇宙探索計画が練られることになる。
なお、この鉱石の名前は超光速を理論上可能とする新技術を確立させた大きな要因であるため、タキオン鉱石と名付けられる。その後、その鉱石から得られた新粒子の名前はタキオン粒子と呼ばれるようになり、機械化での粒子の確保にも成功。翌年から外宇宙航行計画が始動することになった。
なお、信じられないことにアフリカのある富豪の家には、同様の鉱石が大戦以前から存在することが明らかとなり、全世界の学者が驚愕するニュースが駆け巡ることも。
まるで英雄が死後も人類の未来を見守っているかのような順調な技術革新と計画の順調な滑り出し。
何もかもが順調だった。宇宙での初の演説をテロによって爆破されることもなく、宇宙至上主義を掲げる急進的な活動家もすぐに鎮圧され、政治的、軍事的混乱は未然に防がれた。
科学の進歩とは別に、政治体形にも大きな変化が起きた。
現在統合された世界には、地球連邦という巨大な組織が存在する。理事国には先の大戦で主導的な立場であったオーブ。そしてユーラシア連邦、南アメリカ共和国、アフリカ連合であり、最後に大州洋連合。大西洋連邦は度重なる連邦内の不和、主要国家群の暴走などの要因もあり解体され、世界経済の中心という役割も終えている。
プラントは既に国体としての在り方を失い、オーブに吸収合併されている。これは、コーディネイターの定義を終わらせたラクス・クラインの演説が大きく、コーディネイターの真の定義が数十年越しに解明された歴史的瞬間でもあった。
平和の歌姫、ラクス・クライン。彼女は世界に多大な影響を与えた存在である。平和運動に参加し、寄る辺を失った彼らを回帰へと誘導した。コーディネイターの問題はいつの間にか収束し、人類は再び一つとなることが出来たのだ。
現在は一線を退き、オーブ本国で暮らしているという。宇宙を旅する長男を案じつつ、慎ましい生活を送っている。
「そうですか、そのようなことが——————」
現在彼女はワープ通信にて、ある人物と出会っていた。
『はい。ジグルドが見た光景はまだ世間には公表できませんが、それなりの動きがあると思います。ただ、近日中に調査団が出発しますので————』
その相手はキラ・ヤマト中佐。今なお第一線で戦場を駆け抜ける大英雄である。
四将軍筆頭の戦士。掌握者、キラ・ヤマト
世界最強のMS乗りの頂点に位置する彼は、第八艦隊にてその最前線に立っていた。
「ええ。評議会では調査が過半数を超え、可決はされるでしょう。しかし、彼が見た光景は想像を絶するものでしょう。どうか気を付けてください。それにキラさん、貴方も—————」
『わかっています。私も彼を死なせるつもりはありませんし、ご指摘の通り、そろそろ身を固める必要があると思いますので』
苦笑いのキラ。四将軍のうち、3人が既婚者である。すでに子供がいるどころか、二股状態にされたものもいる。彼に出来た戦闘とは無縁な友人たちも、とっくの昔に籍を入れている。
だからこそ、「結婚するまでは死ねない」という自虐ネタをよく披露し、知人たちを困惑させているキラ。
ティーンエージャーだったころは、戦争に振り回されたり、機械いじりが好きだった彼も、いい歳になっている。そんな彼も平和の中で友人関係を作り、戦友たち以外とのつながりも出来始めていた。
例えばシン・アスカ。オーブで出会ったキラとほぼ同年代の青年は、平和の中で命を救う仕事に就いた。当時メカニックへ進んだカズイとの縁で、キラはこの青年と出会い、ステラ・フラガが一目惚れするという事態が起きた。
また、遺伝子の問題を克服したレイ・ザ・バレルは音楽家として世界的に有名な存在となっており、たまたまアスランがそのコンサートに立ち寄ったことがきっかけだった。
そんなこんなでステラの妹、ミュイはレイと血縁関係にあると明らかになった時は皆驚いたという。
———————彼の分まで、精いっぱい生きます。
アスランはその彼について、敢えて言及しなかった。ギルバート・デュランダル議員からの話を聞けば、あのラウ・ル・クルーゼと血縁関係にあるという。テロメアの問題が快勝された彼は、憑き物が落ちた顔で純粋に世界と向き合うことが出来ているという。
——————ようやく、僕の夢見た世界がやってきた。もう悔いはないね。
衝撃の真実が明かされたり、最初のコーディネイターが肉体を獲り戻し、そして無事に天寿を全うしたりするなど、騒がしい日常こそ勃発したが、あの男が願った平和が続いていた。
—————俺は必ず、ステラさんを幸せにします。そして、これからも命を救い続けますよ
—————キラさん、次はほんとに貴方の番ですよ。
数年前にシンとステラの結婚式、ロヴェルトとエアリスの結婚式。キラの周りでは結婚ラッシュが続き、すでに現役を退いているフィオナのようにエアリスも現役を退いた。
ロヴェルトの一言は余計だったが、キラも最近友人たちの結婚に焦りを感じ始めていた。
あの大戦を生き残った彼らも年を取り、三十路を迎えていた。MS乗りとしては全盛期から徐々に衰えが忍び寄ってくる年代だ。その年まで生き続けることが出来たことは幸運ではあるが、キラは最近自分の反応速度が若い時に比べ落ちていることが気がかりだった。
そして、筆頭殿を除き、結婚の幸せを知っている。この現実にキラはいつも憂鬱な心境になるのだ。普通の人でもそろそろそういう時期だよねという年代。機体の愛称と共に、気ままでい過ぎた怠慢である。
「‥‥‥‥‥キラさん。本当に、本当に出会いの機会はないのですか?」
ラクスは、神妙な表情でキラを詰問する。
『え、ええ。本当に、私にはそういう縁がないようです—————』
現在、キラの年齢は35歳。この年で魔法使いは深刻だ。女遊びすらしたことがなく、同僚たちの酒の席で予備知識を蓄える日々。妬ましいというわけではないが、周囲から聞こえる心配する声で、その深刻さを自覚する。
見た目から見れば、それはもう若作りしているのかと言われるほど若く見えており、20代前半ではないのかと間違えられるほどである。髭も生えていないのだから個人差にしては少し異端である。
アスランやエリク、トールもスウェンも髭を生やし、貫禄が出てきたというのに。集合写真では、一人だけ時が途中から止まっているのではないかと揶揄われる始末である。
—————キラ、お前もいい年だ。俺の様になれとは言わんが、見つけるべきだ
襲われて引き込まれた親友にいろいろなお節介をされた。彼の息子から彼の悲鳴がとある周期で発せられていることは既に把握済みだ。
—————キラ、あのエリクさんでさえ結婚できたんだ。
—————よし、その喧嘩買った。表出ろトールゥゥゥ!!!
コロニーで出会った親友とかつての上官の喧嘩が始まったがどうでもいい。
————私はプロポーズをされる側だったからな。その、中佐殿。出会いは必ず…‥必ず…‥‥あると思います?
————エアリスしか眼中になかったですね。めっちゃ可愛かったです。
職場結婚の勝ち組の言葉は聞く耳を持たない。おいそこ、スウェン。最後になぜ疑問形なのかとキラは小一時間ほど説教をした後、ビビっているロヴェルトを〆た。
—————キラさん、女性に興味あるんですか? 機械ばかりじゃ、愛想つかされますって
ステラ・フラガを何かの強制的な運命でゲットした新参者に憐みの目を向けられた。これは絶許。この兄妹そろっての勝ち組が何を言っているのか。
妹のほうは、サハクの当主と結婚。あのリオンリオンと後ろを追っかけていたヴィクトルがこの男の妹に一目惚れをしたらしい。
「あのラスさんも、今では婚活パーティに時々出向いているんですよ? キラさんにはそういった努力が足りないのでは?」
ラス・ウィンスレットは現在25歳。そろそろ相手を見つけないとキラのようになるとかなり危機感を抱いたらしく、暇を見つけてはパートナー探しをしているらしい。
『私が思うに、あの娘の基準は高過ぎなのでは?』
が、リオンが基準となっている為、中々見つからない。世界を救った英雄に釣り合う人間はなかなかいない。
グルグルと頭の中がミキサーのように回転するキラ。出会いがない。出会いがいつの間にか消えている。行動しなかった自分が悪い。スペックはあるのに女性が寄り付かない。後に敷居が高いと指摘を受け、気落ちする。
諸々の事情で、キラ・ヤマトは結婚できていない。
もう一度言う。キラ・ヤマトは一度も女性と肉体関係になったことはおろか、夜の店にも入店していない。
「—————そうかもしれませんわね。ウィンスレット社は順調なのですが。話は変わりますが、今回の支援物資はウィンスレット社が持つそうです。」
これまでとは違い、人類がいる星というのは初めてなのだ。環境の変化こそ、彼にはよいきっかけになるのではとラクスは考えていた。
『—————そうなればいいですよ。現地の人類と平和的交渉が出来るなら。深刻な状況であることに変わりはないようですから。』
熱心に働くなぁ、と大戦時に出会ったあの少女がもうそんな年齢なのかと感慨に浸りつつ、そんな少女ももうすぐ自分の仲間入りをするのかと思うと、複雑な心境になるキラだった。
そして評議会では、まずは日和見的な立場で調査をするべきとの見解が多数であった。が、同時に開拓を進めている惑星の防衛に人員を回すべきとの意見も多く存在していた。
「今、開拓が進んでいるこの時期に、危険な惑星を見つけてしまいました。早急にすべきことは、防衛網の構築。あれと同じ存在がこの宇宙にいる。それはとても危険なことです」
「確かに、第一の地球を含めた4つの地球における防衛網、コロニーへの駐屯など、考える必要があります」
大多数の意見は国防警備。彼らを宇宙空間で殲滅することこそ第一と考えているのだ。その為に核攻撃、大量破壊兵器の使用すら限定条件ではあるが承認されつつある。
「しかし、人を食う、ですか。コミュニケーションを図れるような存在ではないですね」
「悍ましいものだ。生きたまま食われる可能性もあるという。やはり、このまま見て見ぬふりというのも——————」
そして、ジグルドの報告から明らかになった人類を食べる異星起源種の存在。それは、決して無視できるものではなかった。
「デュランダル議員。気持ちはわかる。できれば我々も彼らに手を差し伸べたい。しかし、宇宙に広がった我々のエリアを守るために人員を大規模に割けないのも事実だ」
「うむ————しかし、小泉。あれが我々に矛先を向ける時がいつなのかもわからない。ここで、奴らを少なからず知る人類と対話を試みるのは—————」
経済特区日本出身の小泉は、膨大な宇宙圏の維持が重要であり、デュランダル議員は出方を探るべく現地人類と接触するべきだと進言する。
「それでは、第八艦隊の負担が大きすぎる。一艦隊でどうにかできる事柄ではないぞ! 如何に精強と謳われたあの艦隊も、今ではよく訓練された新兵が多数だ。ヤマト中佐がいるとはいえ、荷が重すぎる」
ここで、数少ない女性政治家であるフレイ・アルスターは、唯一外宇宙にて哨戒中の第七艦隊を呼び戻すことを視野に入れるべきと提言する。
「正体不明の敵性生物が外宇宙にいるということは、まだその存在と接敵していない第七艦隊へのリスクも高いはずです。四将軍の一人、ザラ大佐が健在だとしても、ここは開拓任務の一時取りやめと、各艦隊には惑星周辺での防備を固めるべきと考えます」
「並びに、後詰めとして第七艦隊を第八艦隊の後詰に回し、第八艦隊と共同でこの第五惑星での大規模な軍事行動も実現可能な状態とするべきです」
思い切りのいい開拓任務と哨戒活動の停止。開拓による新規惑星での膨大な資源と利潤は人類に大いなる実りを齎した。幸いなことに、彼の遺志を継ぐ者たちが自浄作用を維持しているため、そこまでの不祥事はなかったが、それを惜しむ中堅、ベテラン議員は苦々しい表情を浮かべる。
「———————10年以上続いた、開拓時代の小休止か。致し方あるまい」
「—————開拓者や、移住者の安全保障も出てくる。本拠地であるこの惑星にも防備を固めるべきだな。しかし、」
「ここ10年の平和が続き、軍縮とは言わないが、実戦経験者の不足はやはり無視できない。四将軍を軸に、戦略を決定しなければならんな」
平和が続いたことによる、実戦経験者の不足。現在の地球連邦には敵が存在しなかった。だからこそ、あれから厳しい訓練こそつんだものの、初陣を経験しない新兵たちは実戦でどれだけ動けるのか。想定を上回る被害が出かねない。
「アスハ議長。この件についてはどうお考えでしょうか」
そして今の今まで沈黙を守ってきたカガリは、ハレルソン議員から何か意見を求められた。
「——————まずはこの異星起源種について調査する必要があるでしょう。そして、現地に調査団を派遣。戦闘をなるべく避けるよう徹底するのが最善だと思います」
まずは調査しないと始まらないとカガリは発言する。まだ手探りの状態でいろいろ考えても、対策は進まない。
「とはいえ、国防は急務と言えよう。最優先はエリアの維持。その異星起源種の侵攻に対応する必要がある」
その後、第八艦隊は調査団を組織し、調査団を派遣することを決定。しかし、ジグルドとナタルが希望していた極東と思われる島国と、オセアニアと酷似した大陸への分散は認められず、極東のみへの派遣が決定された。そして、極東戦線の崩壊が避けられなくなった場合、オセアニア(仮称)への移動が許可されるものとする。
そして、第一から第4までの地球型惑星の防備、そしてコロニー内部への軍の派遣を決定。異星起源種への侵攻に備え、地球連邦は開拓を中断。偵察部隊を用いる威力偵察が行われることになる。
並びに、アスラン・ザラ大佐が率いる第七艦隊が後詰めとして第五惑星へと進路をとることになった。
最後の項目には、第七・第八艦隊所属の若手トップガンを招集した特殊作戦に特化した中隊の結成も盛り込まれることとなる。
地球連邦は、初めて敵対的な行動をとる異星起源種との遭遇を果たし、初めて自身に限りなく近い人類種との邂逅を果たすことになったのだ。
この報告は、目下注目の第五惑星の衛星軌道外に駐留する第八艦隊へ伝わるものとなる。
「—————間違ってはいない。だけど、極東らしき島国へのいきなりの派遣とは」
ジグルドとしては、それはあまりにも性急ではないかと。しかし、評議会は重い腰を上げたともいえるこの決断。ジグルドの本音としては、否定意見が出るようなものではなかった。
「評議会も事の重要性を認識している。臭いものに蓋は閉められない、ということだな。さっそくだが、予定していた二分割ではなく、極東のみの派兵となったが、部隊編成はどうする?」
さすがに前線力を投入するわけにはいかない。
まずは強襲型揚陸艦。アークエンジェル型戦艦ミカエルが妥当だろう。最新鋭の戦艦であり、ラミネート装甲、ハイ・フィールド、豊富な武装火器。これほどの万能艦ならば、長期任務にも耐えられる。そしてモビルスーツ総数13機。その他機甲部隊2個中隊を搭載。
そして、その補佐に強襲型巡洋艦を二隻。戦艦名、アーガマ、ニカーヤを派遣。それぞれモビルスーツを最大10機ずつ運用可能。機動力と防御能力を活かした高速艦である。
しかしまずは、総勢33機のモビルスーツに、機甲部隊を含む特殊部隊も乗り込むことになるはずだった。
が、問題はパイロットだ。この任務に派遣できそうな面々があまりいないことがよくない。
それに、現地のモビルスーツと接触する可能性もある。満載というわけにはいかない。
結局アーガマとニカーヤには8機ずつ。ミカエルに関しては10機と抑えられた。
高速艦ニカーヤに乗り込むのは艦長のマーチン・ダコスタ少佐。そして、ジグルド・F・アスハ中尉ら。
アーガマにはカリウス・ノット艦長。階級は少佐であり、アークエンジェルのクルーだった男だ。
ミカエルには、ケネス・オズウェル艦長。同じくアークエンジェルのクルーだった男である。そこにはキラ・ヤマト中佐を含む本隊が集結。
「——————気をつけろよ、アスハ中尉。あの島国では何が起きているかも分からない」
「欧州らしき地域では(仮称)東欧地域がほぼ陥落しています。残された(仮称)西欧も風前の灯火。イギリスと思われる島国で抵抗を続けているそうです」
状況は刻一刻と明らかになっていく。欧州と酷似した地域は、ほぼ壊滅しており、緑が全く見えない状況だ。つまり、森林が何らかの理由で切り尽くされている。
人類を食らうというジグルドのビジョンと報告とは違った疑念。なぜ森林はかり尽くされるのか、人類以外にも牙をむく存在なのか、疑念は尽きない。
その他の生態系はどうなっているのか。食物連鎖の中で重要な位置にある森林地域がここまで消滅しているのは、異変を通り越して異常だ。他の生態系に位置する動植物の状況も、あまり先行きの良いものではないと断言できるほどだ。
大気汚染も徐々に無視できなくなっており、量子コンピューターの計算では、大気汚染は近代とよばれる公害問題に直面したコズミックイラ以前の西暦時代よりも酷いとの驚愕のデータもたたき出されたのだ。
こうなってくると、議会も軍部も、ここに、本当に人類は生きているのか、という疑問。ほんとうに、我々と同種の人種なのかと。
この惑星のユーラシアと思われる地域は、すでに異星起源主の支配下に置かれている。当然中央付近の地域も奪われていることが容易に想像できる。
北アメリカ大陸と酷似した地域は北方方面のカナダで大規模な放射能汚染が確認されており、状況は最悪と思われる。
「—————評議会からの極秘指令です」
その時だった。ナタルの下にある極秘命令が下った。
「—————これは————」
目を疑うような内容だった。確かにその場所の脅威を感じていたのは彼女自身ではあった。しかし、それを実行するのは理性が許さなかった。
「—————月の惨状を原住民から詳しく聴取を行った後、大量破壊兵器ジェネシスをもって、月の異星起源種掃討を一任する」
評議会はフットワークが軽くなったようだ。英雄リオンを死に至らしめた悪魔の兵器の使用を許可するほど、評議会はこの状況を重く見ていたのだ。
現場のことをわかっていないと時々感じていたナタルではあったが、この時だけは政治家たちの考えに賛同してしまっていた。
周囲のクルーたちは浮かない顔をした。当然だろう、ジェネシスは大英雄の命を奪った悪魔の兵器。複雑な心境を持つのは必然と言えるだろう。
しかし—————
「当然です。あれは、手段を選んでいられるほど生易しいものではありません」
ジグルドはそれを正当化した。何のためらいもなく、自分でもそうする、というより、それは当然のことだと言い放ったのだ。
「おそらく母上も、ジェネシスに関する声明を発表するでしょう。でなければ、現場の過剰な対応ととられかねません。マスコミがある程度成熟しているとはいえ、連邦市民に対する危険な情報を見逃すはずがありませんし」
カガリとて分かっているのだ。ジェネシスを使用する影響力を。モノは使いようであり、そして今は緊急時なのだ。目に見えた被害を被っているわけではないが、それでもそれが予期できる状況が迫りつつある。
なお、マスコミも速報を聞いた時は即決での報道を躊躇い、連邦政府に「これ、どうしましょう?」とお伺いをかけてきたほどである。
「アスハ中尉…‥そうだな、議長は他ならぬ中尉のお父上に鍛えられたお方だ。私が気を回す必要はなかったようだ」
「—————弟たちにも、こういうことを学んでほしいんです。戦場は俺とあいつだけでいい。人類の切っ先に、フラガの血筋はある程度必要でしょうし」
ここにはいない第七艦隊の異母弟のことを思い出しつつも、ジグルドは下の弟たちや、商売に力を入れる若大将の顔を浮かべ、刻々と変化するであろう宇宙情勢を思案する。
——————母さん。無茶をしないという保証は出来ないので、一つ許してくださいね
自ら戦場に近づく愚を犯し、反対する親たちを押し切り、首席で軍学校を卒業した。その時から、自分はここにいなくてはならないという予感があったのだ。
誰かが、父親の代わりをしなければと———————
第八艦隊所属、第一調査団は、混迷する惑星へと降り立つことになる。異星起源種の侵略に会うこの星の人類とコンタクトを取れるのか。
そして、今この世界で何が起きているのか。
ヤマト中佐の、波乱に満ちた異文化コミュニケーションが始まる。
ジグルドの瞳に映ったのは、銀色の鈍く、鋭い煌きを放つ凶刃。
次回、煌武院家の姫君