Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~ 作:傍観者改め、介入者
1997年4月。それは、この星の西暦の暦であった。
————————日本帝国 帝都
ここは、帝国が誇る千年の都、京都。四季折々の顔をのぞかせ、長らくこの国の歴史に大きく影響を与えた場所である。
数百年前に行われた近代化の際、東京への遷都は行われなかった為、京都が首都なのは変わらず、将軍家が時代とともに変容し、現在の武家による統治が残っている。尤も、その将軍職を任命した皇帝は、すでに将軍家の血に入り込んでおり、任命の儀は半ば形骸化している。
第二次大戦では枢軸国として戦い、原爆を投下されることなく、ソビエトの侵攻も行われる直前での降伏だったため、調査団の知る歴史とは違う。
そしてそのまま冷戦構造に吸収され、西側陣営の最重要国としてアメリカとの同盟関係を維持する年月がかさんでいく。
BETA (Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race)
人類に敵対的な地球外起源生命の頭文字を取り、BETAと呼ばれる存在がくるまでは。
冷戦構造を破壊するBETAの襲来。火星の領有を最初から奪われており、月をも奪われ、さらには地球の領土すら奪われ続ける人類。
中国が最初に本土を奪われた。そしてアジア圏、欧州が犠牲になり、カナダも少なく内ない出血を求められた。
人類は彼らの侵攻で瞬く間に総数を減らし、60億の人口は10億に減ってしまう。人類は既に、滅亡へのカウントダウンが始まり、滅びの筋書きが描かれていた。
まだまだBETA大戦の影響が薄い日本帝国。しかし、朝鮮半島での戦線の崩壊、あの大量の物量が押し寄せる恐怖から様々な条約改正により、軍備増強を図っていた。
しかし専門家の予想では、第3陣で戦線が崩壊するとの見方が強く、悲観的な観測ばかりが目に付くのであった。
そんな日本の状況を正しく理解しているのか、理解していないのか。戒厳令が為されているのか、民衆は穏やかな生活をしている。もうすぐ地獄が押し寄せるとは思えないほどの。
「——————最近、軍属の方々の表情が硬いような—————」
嵐山の劇場にてバイオリン演奏の一人として呼ばれた少女は、いつになく慌ただしい軍属の人たちの様子を見て、怪訝な表情を浮かべていた。まだ何かに侵略されたわけではないのだが、それでも軍部からの報告は戦線がかろうじて維持されているという報告だった。
世界各所で朝鮮の惨状は明るみに出ておらず、もう半年も持たない状態であることは知られていない。
今日も少女は全体練習のためにホールにてリハーサルを行う。この先彼女の運命が変わるとも知らずに。
「おい、なんだあれは!?」
人の住民が空を見上げ、大声を出す。つられた付近の住民たちも空を見上げた瞬間に同じような反応を取り、辺りは騒がしくなる。
「あんなもの、見たことがない! あれは国連の新兵器か!?」
「にしてはデカすぎるだろ!? それに、あれはどうやって浮かんでいるんだ!?」
少女は煩わしいと思いつつも、彼らと同じように空を見上げる。彼らはきっと目がどうかしているのだ。ここに宇宙戦艦が来ること自体珍しいが、最新鋭のものが配備されることもあり得る。
国連がまた難癖をつけに来たのだと思ったのだが、状況はかなり違っていた。
「———————え?」
それは巨大な戦艦だった。天使を思わせるようなシルエットに、この世界では考えられないオーバーテクノロジーを使用しているとみられる外観。
大型1隻、中型2隻。国連が開発したとすれば、アメリカが先んじて発表するはずだ。なのに、あの国からは何の報告もない。
想像をはるかに超えた存在を前に、京都に住む帝都市民は戸惑いの表情を浮かべるばかりであった。
一方、市民の眼を大きく引いてしまったことに顔を引きつらせていた第一調査団。
「中佐—————まずいですよ、これは一般市民からの眼がすごいことになっているのですが————」
ケネス・オズウェル中佐は、一般市民の視線を避け、夜に行動するべきだったと考えていた。が、キラの破天荒なやり方に、胃がさっそく痛くなっていた。
「気にしないでいいよ。どうせ、知られるのが早いか遅いかの差だから。この星の人類と交流を深める、そして、おそらくあの怪物と戦闘になる。それは他のステージでも同じだよ」
キラは戦うのが早くなるのか遅くなるのかの差だと考えていた。実際地球連邦はこの異星起源主に対して戦いを挑む必要がある。ならば、ここでデータを取ることは重要だ。
「—————これが、俺たち以外の人類——————」
ニカーヤのブリッジで、京都市街を見下ろすジグルド。こんな建築物が建っているということは、おそらく西暦の時代になると思われる。そして、どこか古めかしい風景はまだ21世紀に到達していない証だと。
「——————東洋の風景画は美しいと隊長は言っていましたが、なるほど————実物は圧巻の様です」
「ああ。これがジャパンという国の在り様なのか」
桜が芽吹くのは3月から4月にかけてという。あまり花の知識は詳しくないので何とも言えないが、そうらしい。しかし、どうやら時期があるのか、すでにその花びらは散り始めているように見える。
「なんにせよ、ここからどうする? ヤマト中佐の意見は————って、は!?」
ヤマト中佐を乗せた飛行艇が、そのままミカエルから出発したのだ。いきなり破天荒すぎる船出にさすがのジグルドも驚く。
—————アクティブすぎではないですか?
この言葉が脳裏に浮かんだが、ジグルドは彼に遅れを取るわけにはいかない。
「—————おそらく、情報収集なのだろう。俺たちも出る。特殊部隊を一小隊借りるぞ」
ジグルドも降下を決意する。このまま黙って浮かぶのも味気ない。それに、ここにいる人類はどうやら敵対行動をとっていない。
そして、他の者たちはというと
「はぁ—————キラさんたちが下りちゃったよ—————でも、待機しておこう————現状アーガマは待機。何かあった時に備えて」
後始末を任されたキラの副官は、常に周りの状況に気を配ることに専念。いつあちら側がことを荒立てるか分からないのだ。警戒だけはしておくべきだろうと判断したのだ。
そして降り立った場所では—————
「—————ふむ、この如何にも偉そうな雰囲気のある場所で、間違いないだろう」
「キラさん。本当に何があったんですか? 母上の話とは真逆すぎるんですけど」
呆れた目でキラの後をついていくジグルド。ここまでアクティブな上官とは知らなかった。が、どういうわけか、その敷地内にいるものは手を出してこない。
アスラン・ザラ大佐からは、目を疑う身を削るような努力と天性の感覚に裏打ちされたマルチロールな役割を担える完璧超人だと教えられていた。しかし、ジグルドの目から見れば破天荒そのものであり、同一人物なのかと疑いたくなる。
—————むしろ、若いころいい子ちゃんだったから、反動が来たとか?
そんなくだらないことを考えながら、ジグルドはキラたちの後を追う。
そして彼らは今、門の前に飛行艇を下ろし、武装は軽装のまま敷地内に侵入したのだ。
「待たれよ! ここをどこと心得ているか!?」
しかし、手を出さなかったのは囲んで捕縛する為だったらしく、あっさりとキラたちは包囲されてしまう。
「中佐!? これも想定内なんですか!?」
思わず日本語で叫んでしまう隊員の一人。キラの破天荒すぎる行動に異論を唱えても仕方ないだろう。むしろ、間抜けすぎる。
—————思い出した。極東には黒船来航という歴史もあったな。これは間違いなくそれの再来。相当警戒されるだろうに——————
「いや、想定外だが、許容範囲内だ————それに、日本語か」
水色の髪の女性を前に、キラは臆せず前に進んだ。
「我々は確かに怪しいものだが、敵意を持っているわけではない。この星の現状について知りたいだけなのだ」
胡散臭い。本当に胡散臭さの塊だ。キラの言葉を聞き、ジグルドはもうどうとでもなれと思った。これは刀傷沙汰になること間違いないと天を仰いだ。
「——————この星!? 貴様、どこから来た!?」
予想通り、女性は激昂し、刀を抜いた。ジグルドは遠い目でその光景を見つめるばかりだった。ファーストコンタクトが失敗に終わった。
そんな予想と推測がジグルドの頭に埋め尽くされる。
—————誰だ、この人を中佐にしたのは。どうしてこうなる、これからどうする。いやその前にこの猪突猛進馬鹿上司をどうにか処理しないと
「中佐。これはどうするべきですか。一応飛行艇は近くにありますし、逃げられないわけではないですが————」
肩をすくめ、こんなはずではなかったと思いながら目で訴える。これからどうするつもりなのだと。
「大丈夫だよ、ジグルド。このガンカメラの演算では—————」
ポンコツだったぁ、とジグルドの胃が破壊されていく。ジグルドの中で、キラ・ヤマトの完璧超人のイメージが崩壊していく。
「—————お止しなさい、真那。皆の者、武器を下ろしなさい」
しかしその時、凛とする声が、この場を支配した。その声によって周りにいた彼らを取り囲んでいた者たちから殺気が消える。
「中佐のポンコツガンカメラがあたりを引きやがった!!」
「—————なんだ、この声は—————」
ジグルドは、声がした方向を見た。そしてその視線が止まった。
「———————————————」
美しい紫色の髪の少女が、こちらを見据えて歩いてきたのだ。美しい衣のような着物に身を包み、気品のある端麗な容姿。母親の親友でもある桃色の髪の女性を思わせるような、儚げな印象が強い、貴き存在。
恐らく、彼女がこの屋敷の主なのだろう。この年齢でということは、ここには貴族制度が根付いていると言える。しかし、ほんの資料で見たことのある武家、武士の装束に酷似しているとみた。
「貴方は———————」
思わず声が出てしまった。その所作の一つ一つに目を奪われる。あまりにも自然で、あまりにも凛々しく、ジグルド自身もその在り様に圧倒されていた。
「無礼者、口を慎め「よいのです、真那。この者たちはまだこの星に来て間もないのでしょう」」
真那と呼ばれる女性の声を遮り、ゆっくりと近づいてくる少女。その一つ一つの挙動が気品に溢れており、支配者たるオーラを醸し出している。
統治者としての品格と才覚を感じさせる少女の在り様は、苦手に感じていた母を想起させる。
「あの空に浮かぶ戦艦。私はこの世界であのようなものを見たことがありません。ゆえに私は改めて、其方らに問いましょう」
優美な雰囲気と声色を崩さぬまま、彼女はジグルドたちの前に躍り出た。
「其方たちは、何処から参られたのですか?」
特殊部隊の者たちも、彼女の気品に職務を忘れるほどだった。警戒するべきはこの少女のはずなのだが、それを許さない。有無を許さない空気を彼女は持っていた。
「—————俺たちは、遠い宇宙、この星と同じような環境の、地球という星からやってきた。けど、この星の怪物については知らない」
ジグルドは、大まかに説明した。地球から離れ、外宇宙探索が自分たちの目的であること。そして、複数の地球型惑星を見つけたこと、今回この星を発見し例の怪物による異変を感じ取ったこと、その対応に追われていること。あの怪物について調査をするために、ここに来たということ。
ざっくりと、自分たちはその先遣隊であると、説明した。
「そうなのですか。宇宙より飛来するのは、何もあの異星起源主だけではないのですね」
朗らかな笑みを浮かべ、ジグルドに微笑んだ少女。その在り様があまりにも美しく、あまりにも儚げで、彼女の背に大きなものが乗っている、背負わされているという幻視を映し出してしまったジグルド。
「その、異星起源主というのは—————」
あの存在について知っている。ジグルドはつい勢い余ってそのことについて尋ねようとするが、
「それは、奥の間でゆっくりお話しできませんか? 遠い宇宙の果てから参られた同胞に、何のおもてなしも出来なければ、煌武院の名折れというもの」
煌武院の名折れ。彼女はその家の主。その言葉でそれが分かった。キラはそんなジグルドと少女を見て、にっこり微笑んでいた。意図していたことなのか、それとものんきなことを考えているのか分からない。
「————分かりました。ご厚意に甘えさせていただきます。中佐、ここは私一人で———」
自分一人だけで、丸腰で行くべきだろうと考えたジグルド。しかし、それを手で制す。
「ならば、私も同行しよう。こう見えて、私は彼の上官であり、今回の接触を画策した張本人だ」
「—————分かりました。では、まずは重火器の類を随伴された方々へとお預けください」
当然のことながら、武器の類は遠慮してほしいとのこと。客間に武器を持つ者はいない。それにいざという時は徒手で状況を打開する術は、隣の上官からたたきこまれている。
「分かりました。では後はよろしく頼むぞ」
「中佐の無茶ぶりの尻拭いだけはしておきます————」
こうして、ジグルドとキラは煌武院と名乗る少女の客間へと招かれる。
後に、キラ・ヤマトの独断によるこの「煌武院屋敷押し入り来航騒動」は、地球連邦の政治家たちが頭を抱え、日本帝国にとってはかなり歴史的な一日となるのだが、現状は先に連邦政府の胃が破壊され始めるのだ。
何しろ、一歩間違えば領空侵犯、不法入国という国際法ド無視のスタンドプレーであり、煌武院悠陽でなければ殺されていたとしても文句は言えない。そして、そんなしょうもない理由で四将軍が死ぬなど有ってはならないのだ。
だが、結果的にキラの決断は日本帝国と連邦政府に大きすぎる時間の猶予を与えることになる。その未来図をイメージ出来たのは、キラ・ヤマト中佐だけであった。
CE90年。第五惑星地球での1997年4月。
焔の瞳を持つ英雄の残滓は、まだ己に課せられた大いなる運命を知らない。
かつて残滓たちが生まれる前、星が災厄に見舞われたとき、彼らはそこにいた。
そして、歴史は繰り返されることになる
次回、フラガの若大将