Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~   作:傍観者改め、介入者

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予告を作るのは難しい。


第三話 フラガの若大将

屋敷へと招かれたジグルドは、正座という難業を前に悪戦苦闘していた。

 

「むっ—————足が、足がしびれる————」

 

「我慢するほどでもないけど? 椅子ばかりだったね、そういえば」

 

正座をして待っていたため、ジグルドは足がしびれてしまっていた。直情的なもの言いが目立つジグルドは、正座という行為に慣れていない。

 

一度幼少の頃に挑戦したが、最後は涙目で「これは拷問だ」と諦めた過去がある。

 

 

キラは正座をしたことがあるのか、案外余裕そうに見えている。生い立ち、生活の違いである。

 

「————面を上げてください、お二方……ふふ、正座はやはり酷なものでしたか?」

 

ジグルドの苦い表情を見て、笑みを浮かべる少女。年下に見える少女にそんな風に笑われて正直悔しいのだが、難しいものは難しい。

 

「はっ、すいません。あまり正座に縁がなくて—————」

 

「では、楽にしていただいて結構です。そのままではまともに話をするのも辛いでしょう」

 

柔和な笑みにすがり、ジグルドは正座を崩した。正直、足の感覚がもうないのだ。これからゆっくりと感覚が戻るのだろうが、ジグルドにとって我慢の時間だ。

 

しかし、ジグルドはまだ足がしびれるのか、最終的に椅子が用意され、ようやく彼の表情に苦悶の色が消える。

 

 

「————単刀直入にお話を進めてもよろしいでしょうか? 殿下」

 

キラは正座のまま、殿下と呼ばれる少女に問う。

 

「はい。ではこの国とそれを取り巻く世界情勢について、お伝えしましょう」

 

 

BETAと呼ばれる異星起源主との長い戦いの歴史を続ける人類の記録。そして、その魔の手がついに帝国に迫りつつあることを説明した少女。

 

そして現在日本はアメリカの同盟国であり、国連の主導の政策には逆らうのは難しいこと。今の日本は外交的にも、物理的にも追い込まれつつあるということを。

 

 

「—————朝鮮半島が抜かれた瞬間、中国地方が常に抜かれる危険性に晒されるね、これは———」

キラとしては、急いで防衛網を構築するべきなのだが、それはこの聡明な少女が気づかないはずがない。

 

それでも、足りないのだろう。帝国の地力ではBETAからの侵略を防ぎきれない。彼らの恐ろしさはその個体数の多さだ。圧倒的な物量に飲み込まれ、数で劣る人類が負ける。そして食われていく。

 

光線級と言われる個体種についても無視できないものがある。遠方より飛行物体を正確に射抜く驚異的な力。有効射程距離30キロ圏内に入った瞬間、レーザーが飛んでくるという。

 

回避は困難とされ、今までその攻撃から逃れた者はいないらしい。しかし、状況によってはこの距離は変化し、地上では12キロ。低空飛行の戦闘機では86キロ。戦術機の場合は22キロ、航空機の巡航時の場合は200キロを超える。

 

インターバルは12秒とされ、これよりも強力なレーザーを有する重光線級という個体種も存在するらしい。

 

 

そして、要撃級と言われる地上を徘徊する怪物。二対の前腕を持ち、その硬度はダイヤモンドすら上回る。あの二つの腕からくりされる打撃攻撃は、直撃を回避する必要があるらしい。

 

突撃級と呼ばれる存在はその脅威的な突進能力と、防御能力で正面からの撃破が困難とされている。側面の外角で覆われていない部分、もしくは足を狙えば動きを止められると思われる。

 

戦車級と呼ばれる怪物は、対人探知能力に秀でており、機動力も高い。強力なあごで機体ごとパイロットを殺すそうだ。そして、最も兵士を殺したと言われる種らしい。

 

そして大型種の要塞級。10本の足と50Mの触手を備えており、その触手の先端には溶解液が分泌されている。防御能力も相当高く、要塞級の名を冠するにふさわしい強敵である。弱点は三胴構造各部の結合部で、足の付け根も有効。厄介なのは、この要塞級には内部に小型種を隠し持っている点であり、光線級が搭載されているときもあるらしい。

 

他にも小型主として兵士級、闘士級といった存在があり、人類を苦しめているのだと知る二人。

 

 

「—————想像を絶する話だ。こんなことが、こんな存在が宇宙にはいたのか」

 

ジグルドは痺れが治ってきた足をさすりながら、BETAの大まかな概略を教えてもらい苦い顔をする。

 

「—————探索どころではないな、これは。評議会の判断は間違えていなかった」

 

キラは探索を中止して、防衛を選んだ上層部の判断を支持していたが、改めて正解だと確信した。知らずに探索を続けていれば、彼らが月で被った悲劇の二の舞になりかねない。

 

「では、今度はそちらのお話を教えてくれませんか?」

 

「—————中佐、俺が———「いや、私が話す。当事者でもあるからな」」

 

ジグルドが概略だけ述べようとするが、キラにその役目を奪われる。キラとしては、戦争の当事者であるので、自分が話すべきだろうと考えただけなのだが。

 

2年近く続いた人類の大戦。その前に行われた世界再構築戦争。コーディネイターとナチュラルの対立。西暦が過去の暦であること。核兵器と大量破壊兵器の応酬。

 

そして——————

 

「人類は、最後に自らの自滅を食い止めました。その戦争の傷跡を乗り越え、地球連邦として、今日まで至ったのです」

 

 

 

「—————そのような世界が……私達の星と異なる歴史を歩みつつも、争いを乗り越えたのですね」

 

キラは、リオンのことはあえて詳しく話していない。連邦の閣僚たちは我慢できないだろうが、彼には一つ懸念があった。

 

この世界でリオンが現れるなら、彼はきっと利用されるだろうということ。彼もそれを理解したうえで世界を救おうとするだろうと。

 

異なる歴史を歩んだ世界であろうと彼には関係なく、己の信念で世界を壊すだろうということを。

 

 

キラたちは彼の側にいた。だから壊されなかった。ただひとつのよりどころに選ばれた少女の願いを叶える為、彼は迷いがなかった。唯一の大きな誤算は、そんな彼の心の中に、”歌姫”が割って入ったことだろう。

 

 

——————あの頑固者の心に入るなんて、やっぱりラクスさんはいい意味で彼に影響を与えたよね

 

 

斯くして世界は塗り替えられた。彼の夢見た世界が成長し、新たな星の運命と交わった。

 

 

————————僕にはこの世界を、この世界の行く末を見定める義務がある。

 

こちらの歴史を説明し、互いの紹介は終わった。次は、目の前の少女がどう出るのか。

 

 

「分かりました。其方らの世界の情勢は大まかにではありますが、理解いたしました。そして、これから其方らはこの世界にどう接するのでしょうか?」

 

本題はこれだ。彼女は二人と二人が所属する世界が今後どういった対応を取るのかに注目している。個人的な感情では、何とか力になってやりたいところだが、今回任されたのは調査だ。戦闘行為ではない。

 

「——————まずは、評議会に今回の件を提出し、判断を仰ぎます。月がすでに彼らの手に落ちているのであれば、まずは大量破壊兵器ジェネシスで掃討します。無人の星であるなら、躊躇いも少ないでしょう」

 

 

「—————確かに、BETAには水分がありますが————英雄を殺した兵器を使うのに、躊躇いは無いのですね」

 

少し含む言い方をする少女。英雄の命を奪い、人類の未来を滅ぼしかけた兵器を使用する。何とも業の深い話だと感じているのだろう。

 

「しかし、物は使いようです。道具は人の役に立ち、同時に人を殺める危険なものにもなり得る。狂気に呑まれず、理性を保ち続けることが、人類の未来と尊厳を守る、方法の一つです。ジェネシスの使い方を、我々はもう間違えない」

 

強い瞳で、ジグルドは少女の含みに対して真っ直ぐ自分の想いをぶつけた。そのせいで周囲から殺気が出始めたのを感じたが、それでもこれだけは譲れなかった。

 

「きっと、親父も同じことを言う。指揮官が楽をすることが出来て、兵士が死なないに越したことはありませんから」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、少女の表情が一瞬崩れた。

 

———————まさか、この方は…‥‥‥

 

 

キラの説明にあったリオンという衛士の物語。戦乱を駆け抜けた英雄の器。創世の名を持つ破壊兵器の人災から、世界を守り、散った英雄。

 

 

その残滓が、彼なのだとわかる。

 

そんな物言いが出来るのは彼の肉親、血縁以外にあり得ない。

 

 

「——————想いだけでも、力だけでも—————その二つが合わさっても、届くかどうかは分からない。けど俺は人の理性を信じます。信じたからこそ、俺たちの世界は続いている」

 

罪を認め、前に進む強さを失えば、もう何もできなくなる。そんな未来は嫌だ。間違えても歩き出し、進む事を止めないのが人類だ。

 

「—————すいません。少々熱くなり過ぎました」

 

しかし、冷静さを欠いたと自覚したジグルドは、すぐに謝罪をする。しかし、その言葉を曲げるつもりはない。

 

「—————いえ。それがそちらの星での答えなのですから。私も謝罪いたします、覚悟をもってその兵器を使用する代表者の苦悩、民草の不安と決断。推察するのも浅はかだったのですね」

少女は聡明なのだろう。本当に思慮深く、ラクスのおば様を彷彿とさせる雰囲気。しかし自分よりも年下の少女が重い責務を果たしている。重いものを背負わされている。

 

 

このまま何もしなければ、この国は亡びる。それが分かってしまった。

 

 

ジグルドは、なぜあそこで躊躇したと後悔する。しかし、連邦のルールに縛られている軍人の意志一つでは、連邦政府は動かない。動けば間違いなく人が死ぬ。

 

————————兵士は戦場で死ぬかもしれない。だが、宣戦布告もないこの状況で、死地に送り込むことは、簡単なことではない。

 

だが、違う側面の真実が否応なくジグルドの中に生まれていた。動かなくても、人は死ぬのだと。

 

 

それが、目の前にいる彼女らだと。

 

 

—————ほっとけるわけないだろう。こんな、こんな状態————ッ

 

国交開通の準備、用意が出来次第、閣僚、大臣、上院議員クラスの来訪も視野に入れつつ、ワープ通信による首脳会談も現実味を帯びることとなった。

 

まずは物資の提供、機材の持ち込みから始まるだろう。軍事的な介入、作戦行動は当分先となるのは、政治の話的にも十分理解しなければならないことだ。

 

 

その間にこの星の人間が大量に死んだとしても、変えようのない決定事項である。

 

 

同時に、慎重になるべきだと考えていた自分に嫌悪し、移ろいやすい自分の浅はかさに苦悶する。しかし、逆の立場でその現在の感情こそを非難するもう一人の自分。一度頭を冷やせと、何度も警鐘を鳴らす。

 

結局、キラが建設的な話をする一方で、ジグルドはその話し合いに参加するだけとなっていた。自らの立脚点を確立していないが為の、若さゆえの未熟である。

 

 

「では、私たちはどちらに戦艦を駐屯させるべきでしょうか? やはり国外のほうが———」

キラはさすがにこのまま国内に居座るのもどうかと思い、国外を考えたが

 

「琵琶湖は開通工事が済んでおります。ですので、琵琶湖運河を通り、そのまま駐留することは可能ですよ」

 

煌武院の少女は、琵琶湖運河を使用してもいいと許可を出したのだ。それはそのまま彼らが国内にいてもいいという許しに他ならない。

 

「されど、戦艦より外に行くには許可が必要になります。戦艦と琵琶湖周辺の大地。これが其方らと我々を分かつ境界線と暫定的に取り決めましょう。双方にとっても安全保障を鑑みるに、少なからず混乱がこの先起こる可能性が高いのです」

 

少女が言っているのは、他国からの干渉の事だろう。そして、一般市民の異星人に対する反応。同じ人類とはいえ、悪感情を抱かない存在がいないともいえない。

 

ここで混乱が起きればこの先の外交上あまりよろしくない。

 

「なるほど。あまり考えたくなかったが、色々な目が災いになりかねないということか」

キラは、その先のことを鑑みる少女の聡明さに改めて舌を巻いた。あまりに優秀過ぎる。

 

姉がこの年齢ならばどうだったかと推察するほどだ。

 

「——————では、またお会いできる時間を心待ちにしておきます。そういえば、其方らの名前を聞いておりませんでした」

名前を最後に言おうとしたのだが、そういえばお互いに名前を聞かずに話をしていた。うっかりしていた自分に少し恥じる少女と、内心失敗をしなかったとホッとしている青年とおじさん一名。

 

「—————ジグルド・F・アスハ。またこうして、貴方方と話をしたいし、共に立てる日が来ると願っています」

 

「キラ・ヤマト、階級は中佐です。その年でここまで話せるというのは素晴らしい。我々の星でも稀な存在、貴女のような女傑にお会いでき光栄です」

 

「ジグルド様と、キラ様ですね—————(キラ様と、ジグルド様……)」

 

二人の名前を聞いた少女はその名前を小さな声で復唱し、彼らの顔と名前を覚えた。帝国にとって彼らは希望になり得るかもしれない。しかし、彼らは完全な部外者。そこまで義理立てをする理由はどこにもない。

 

国益を、人的資源を考えれば、BETA戦線に首を突っ込むのは愚かしいことだ。しかし、

 

—————いけませんね。異星人にこうも簡単に縋るようでは

 

自分の国は自分で守る。国体維持を出来ないのは恥ずべきことだ。彼らは善意の塊かもしれないが、その上はどうなのかを安直に断定できない。

 

「わたくしは煌武院悠陽。五摂家である煌武院家の当主を務めさせていただいております」

 

 

「「!!!」」

まさかとは思った。権力を持った人物とは思っていた。その家名から、相当な家なのだと思っていたが、まさか斯衛の五摂家の当主であるとは考えつかなかった。まさか14歳の少女に当主を任せるなど正気の沙汰ではない。

 

 

そしてジグルドは同時に深い憤りを隠せなかった。なぜこんな少女に権力を任せた。なぜこの少女にこの国難の時に責任を放置したのか。

 

 

なぜ、それを彼女は受け入れているのか。感情過多な思考に陥る悪い思考だと自覚しながら、ジグルドは目の前の現実が嘘であってほしいと願う。

 

聞けば、現将軍も最近は体調を崩されることが多く、この国難の中、政情不安も出ている。5分の一の確率で、この少女はその椅子に座ることになる。

 

 

—————なんでだ。なんで、そんな重いものを持っているのに

 

この少女は毅然としていられるのだろうか。その理由が、彼には分らなかった。

 

「と言いましても、今のわたくしは飾りも同然。実質的な実権は内閣が有しています。斯衛は力が弱まっているのです」

朗らかに笑う少女。現在の彼女は先の第二次大戦で実権を失った飾りの武家の地位についているだけなのだ。ゆえに、何かを責められることもない。しかし、何もできないのは確かだ。

 

ジグルドの表情がゆがむ。今度は彼女にも気づかれてしまうだろう。だが、平気な顔を出来るわけがなかった。

 

それでは実質的な人柱ではないかとジグルドは言おうとしたが、

 

 

「貴方が深刻そうな顔をしていますが、そこまで心配されるようなことはまだ起きておりません。それに、今を変えるために人は前に進むのでしょう? 貴方の是とした人類とは、そういうものだと、先ほどおっしゃってくれたではありませんか」

 

「そして、私はこの国に求められるままに、その役目を果たしましょう。私の成したいこと、為さなくてはならない事。その責務を全うすることこそ、武家の当主の役目です」

 

毅然と、今の状況を苦ではなく、ただの壁にしかなり得ないと断言する悠陽。その壁を超える努力と行動は惜しまず、それはジグルドが言った内容と同じではないかと、彼の気遣いにあやかり、今は雌伏の時と言い放つ。

 

——————中々見所のある少女だね。まあ、その正論をどこまで貫けるか、見物かな

 

 

リオンの色眼鏡に叶う人材であることは相違ないだろう。問題は彼女が今の立場からどれだけ伸びるか、連邦との国交樹立を担えるか否か。

 

キラは冷静に彼女のことを分析し、今この星に齎されている脅威を客観的な視点に留め、感情を発露させる気などなかった。

 

——————今は冷静でいないとね。ただ隣の彼は、どうもまだまだ青いみたいだ

 

 

隣のジグルドは、何か辛そうな顔をしているが、何も言いださない。きっとここでは言うべきことではないことを考えているのだろう。

 

彼は確かにリオンと同じ資質を持っている。だが、彼はリオンに比べて直情的だ。

 

 

ジグルドとキラが去った後、

 

 

「——————あのような振る舞い、異星人と言えど、許しがたいものです。次回からは直させましょう」

 

従者の月詠真那は、特にジグルドに対し、無礼な行いを繰り返す言動に怒りを覚えていた。英雄の息子であるというが、それでもこちらの国の領内にいるのであれば、こちらの郷に従ってもらうのは道理だ。

 

「私は良いと申したはずです。彼らがここに入る前からそれは約束していたことです」

 

しかし悠陽は、それを好ましく想っていた。周囲にいる人間は、誰もかれもが丁寧な言葉でしゃべる。綺麗な言葉を選び、取り繕うばかり。政敵を倒すために、追い落とすために、お飾りの権威を求める輩もあとを絶えない。

 

 

あのジグルドは違う。真摯に話を受け止め、この国の為に心を痛めてくれていた。相手を理解しようと努力し、悩み多き青年だ。

 

しかし、直情的であるがゆえに、この星の暗部は刺激が濃すぎると感じた。

 

 

それでもその在り方が、彼女にはキレイに思えた。あんな風に多くを悩み、それでも前に進める強さが欲しい。きっとそれは、父親の影響なのだろうと。

 

こうして、第八艦隊と大日本帝国は初めての邂逅を終えた。彼らは琵琶湖にて世界情勢を情報収集し、そのデータを母星へと送る。しかし、琵琶湖に映える3隻の戦艦は、人々の目に止まり続ける。

 

 

初めて出会った友好的な異星人。そして、他ならぬその大使が初めて会談したのは、この国の最高責任者であり、政威大将軍の煌武院殿下。そして、終始友好的なムードのまま会談は終わったという。

 

 

会議終了後、彼らは第八艦隊が抱えるオーバーテクノロジーについて議論を重ねていた。

 

 

「我々と同じ戦術機を有しているとみて間違いないが、どの程度のものなのかはまだ判明していない。しかし、外宇宙を航行できる技術と、琵琶湖に浮かぶあの戦艦の外観。いずれも我々の想像を超えた存在であることは確かだ」

 

官僚の一人は、技術的な側面で彼らは次元を超えた存在だと発言した。10光年以上離れた場所に辿り着くための技術開発は机上の理論とされており、それらを克服した彼らはどれほどの武力を持っているか想像できない。

 

「ああ。しかも、巨大ガンマ線レーザー砲。電子レンジと同じく分子を熱によって振動させ、対象物を攻撃する。とんでもない悪魔の兵器だ。水を含むものは何であれ防御が不可能だ」

 

そして、将来的に月に向けて発射されるジェネシスの概要を知り得た官僚は身震いをする。あれがもし地球に向けられた場合、従うしかない。

 

「しかし、彼らはかの国や国連の様にあくどい真似はしないと思うが。彼らには平和ボケした匂いが出ていた」

 

しかし、彼らはそこまで苛烈なことはしないのではないかと推測する官僚も存在し、会談を繰り返すべきだと主張。

 

「いずれにせよ。国連もこの件に関して説明を求めてきている。この外への対応はどうするものか」

 

外務大臣高橋英樹は、国連の追及が相当なものになると考えていた。彼らが平和主義者で、友好的な関係を築きたいと考えていても、国連の強硬な対応に対し、日本が逆らうのは至難の業だ。

 

「——————そこは交渉次第ということだろう。属する勢力が変わるだけというならば、異星人よりもアメリカのほうが、という意見も出てくるだろう」

 

問題は彼らが異星人であるということだ。この大戦が勃発して以降、異星起源主との戦いを題材とするメディアが多く出回っている。その為、彼らが友好的な勢力であっても、それを理解しづらいといった問題もなくはないのだ。

 

この意見に閣僚の間でも難儀する意見が出始めており、彼らを信用するのはもっと議論を詰めてからというものが大半だった。

 

「—————最悪、御剣の養子を呼び戻す必要もあるかもしれんな」

 

 

「何? どういうことだ? まさか殿下の—————あの者を表舞台に立たせるばかりか、外交の道具にするおつもりか?」

これに異論を唱えるのは、城内省の鳥羽正虎大臣だ。御剣に養子に出されているとはいえ、彼の者は殿下と同じ血を引く存在。殿下を道具とするなどもってのほかだが、それでも彼の者を外交の道具にするのはさすがに非道が過ぎる。

 

「—————殿下と本日会談を行った青年は、あの星の英雄の息子らしい。それもかなりの特権を有しているのは間違いなく、今回の我が国の現状を見て心を痛めていた。彼の良心を利用するほかないと考えるが」

内務大臣はあくまで外交努力の上での話だが、と発言する。確かにそれも一理あると考える閣僚もいたが、この意見を無視できない存在もいた。

 

 

なお、ジグルドはそんなものは持っておらず、カガリもそんな身勝手を簡単には許さない。

 

 

「—————藁にもすがる思いなのは同じだが、彼らの心を弄ぶとなると話は違ってくるぞ、内務大臣。」

城内省はこれを認めるわけにはいかない。ただでさえ国連との外交の為に道具として使ってしまっているのだ。これ以上あの者に心労をかけたくないのが事実である。

 

「落ち着くのだ、鳥羽、それに織田も。明後日にも会談が予定されているというならば、彼らの技術について質問する場も設けることが出来よう。その際、篁の者と、巖谷榮二ら技術廠・第一開発局の者を呼ぶのが賢明と言えよう。技術面はさっぱりなのでな」

 

帝国の軍事技術の開発を行う部署でもある第一開発局。篁祐唯(まさただ)は凄腕の開発衛士にして、武勲に関わらない家格上げを賜ったいい意味でも悪い意味でも目立つ武家であった。

 

武勲によらない褒章を賜った武家。さらには鳳の娘と婚約した男。官僚の中でも彼の話を聞かない者はいなかった。

 

さらには、伝説の開発衛士として名高い巖谷榮二も曰く付きの存在だ。国産戦術機の祖と言われた彼ではあるが、アメリカの技術を取り入れる必要があるという革新的な思考の持ち主であり、矛盾を孕んだ存在であることは確か。

 

この曰く付きの開発局だけに任せていいのか。しかし彼らに選択肢はない。彼らは誰よりも結果を出している。

 

ゆえに、彼ら以外の適任者は知らない。

 

「仕方なかろう。武家には疎い私でも、篁の技術革新は聞いている。微々たる進歩が積み重なり、コストダウン、性能底上げが報告されている。物資に不安を抱える我が国にとって、彼らは貴重な存在だ」

 

大臣たちも様々な議論をしつつも、結局は会談を重ねて交渉するという意見に落ち着く。

 

「うむ、皆も意見がまとまったようだな。では次回会談でこの2名を同席させることでよろしいかな」

 

榊内閣現総理大臣は、閣僚らに是非を問う。反対意見はない。

 

 

この内閣府の一人である春山外相は、大臣たちの顔を観察している。そして、今までの政争の外側から新たな局面が齎されたと悟り、次の一手を考える。

 

————彼らは、複数の地球型惑星を有していると聞く。

 

 

報告書の中で無視できない地球型惑星を複数開拓しているという事柄。それは、彼らが外宇宙に進出し、新天地を見つけていることに他ならない。

 

もし、もしその地球の開拓が今回の件で滞る可能性があるのなら、寄る辺を失った難民を安全な開拓中の地球に送ればどうだろうか、と考えてしまう。

 

 

彼らは外宇宙開拓時代の最中であり、BETA大戦で嫌でも人員を必要とするだろう。予想されるBETA侵攻で、多くの犠牲者が出るかもしれない。日本帝国は大きく人口を減衰させた人類の中でも、豊富な人的資源を誇る大国である。

 

————どんな形であれ、彼らには未来がある。その未来を、どんな形であれ————

 

疎開するには打規模なものとはなるが、連邦軍と所有する惑星の警護はこの星よりも万全といえるだろう。後は外交努力を進め、折を見て交渉するべきかと考えていた。

 

 

 

一方、ワープゲートから外宇宙型航行船、アグニカが来訪。それに乗り込んでいたのは

 

「ここが最近大きな話題を生んでいる5番目の地球か」

金髪の青年がその眼前に浮かぶ青い星を見やる。彼の名前はウェイブ・フラガ。ジグルドにとっては異父兄に当たる存在である。フラガ家次期当主の御曹司であり、若頭なんて名前で呼ばれている。

 

ジグルドにとっては伯父の息子にあたり、奇しくもリオンとキュアンの間柄に似ていると周囲に言われているのだ。

 

性格のほうもキュアンと似ている。一方、未だ情緒に振り回され気味のジグルドは、リオンに至るほどの人物ではない。

 

 

「若様、今回は今までのような星とは全くの別物。どうかご自愛ください」

 

壮年の執事が、惑星を見据えるウェイブに諫言を伝える。ジグルドたちの報告通りなら、かなり、そして深刻な世界情勢であることは明白。戦場に出ていなくても命の危険があるのだからだ。

 

 

「そりゃあな。俺も無為に死ぬつもりはないぜ。ただ、この地獄が顕現する惑星で、俺たちフラガの立ち位置って奴を見極めるには、一発試してみないと分かんねぇでしょ?」

 

 

ウェイブはこの世界でフラガの役目を思案する。親父たちのような派手派手な活躍を望んでいるわけではない。新たな惑星、新たな同胞を前に、フラガ家の振る舞いがどう作用するのか。

 

 

いずれにせよ、連邦軍の動きはやや遅い。民間の皮を被った連邦の影の一つであるフラガ家は、この星に手を貸さなくてはならない。

 

 

 

そして、彼の隣に立つもう一つの影であり、花でもある美少女から美女へと変貌を遂げた、英雄の想いを託された女性。

 

 

 

———————リオンさんはもしかして、ここまでを、この先のことまで考えていましたか?

 

 

かつて、平和を担う次の世代、未来であると彼は彼女に言い放った。

 

 

 

彼が思い描いた灰色の未来に、色を与えた存在。鮮やかな感情豊かな色彩が、彼を決意させてしまったこともあったが、それでも、英雄にとって大きな存在でもあった未来。

 

 

「多くの支援物資が必要と聞きましたが、状況は私の想像をはるかに超えているようですね」

 

 

そして隣にいるのは、ウィンスレット社の女社長、ラス・ウィンスレット。25歳になる彼女の美しさは最盛期を誇っており、その才覚も開花。今ではウィンスレット社を、宇宙を股にかける大企業へと成長させている。

 

 

そう、彼女はやり遂げてきた。自らの会社を引っ張り、彼の願いを叶えた。大人になった今では、様々な折り合いをつけている身分ではあるが、彼の願いは捨てなかったのだ。

 

 

—————————リオンさんが現れそうな世界、なんて言ったら、貴方は怒るかもしれませんね

 

 

本人が聞けば、怒りはせず、むしろ苦笑いをしてしまいそうになる彼女の呟き。彼が彼女に魅せられたように、彼女もまた彼に魅せられていた。

 

この地獄のような現実を、彼なら、彼に匹敵する者なら覆してしまうのではないかと。

 

 

しかし、リオンへの感情が溢れそうになる寸前、彼女は理性によってそれを鎮める。

 

 

————————いけませんね。お父様にも散々注意されたはずです。リオンさんのような人は稀で、それは高望みし過ぎであると

 

 

戦乱が勃発する惑星で、ついついリオンへの想いを漏らしてしまったラス。彼女の初恋はオーブとプラントの歌姫によって終わり、あのジェネシスの光で跡形もなく消え去った。

 

 

いわゆるこじらせてしまったのである。リオンの様なスーパーな人材。彼女を魅了して止まない存在を、待ち望んでしまっている。

 

 

しかし、仕事モードの彼女はそれを他人に悟らせない。

 

 

「—————異星起源主に襲われている人類、ね。何とか助けになりたいものだけど、外交上の壁がまだまだあるそうね」

 

地球連邦軍の先遣隊より、事情はおおむね聞いている。

 

 

彼女のいう通り、いきなり軍事同盟、支援を行うことは不可能だ。段階を踏んだ手続きが必要となり、彼らの切迫している状況を鑑みるに、リミットは短い。相手は当然こちらの事情など尊重しないのだから。

 

 

「ジグルドのバカが、やっぱりほっとけないとか、心苦しさで潰れていないよう、喝を入れなきゃな」

 

 

「リオンさんに似て、こういうことは知らんぷりできる性格ではないですからね、ジークは。きっと、何とかしたい、助けたいなんて思っているでしょうし。昔からあの子は——————」

 

 

彼の幼いから青年までを知っている。姉役として、あのフラガの次世代の長男坊としてのプレッシャーもあった。父親へのコンプレックスと、母親への複雑な思い。その全てを彼女は知っている。

 

 

 

————————ジーク、決して無理はしないでね

 

 

 

地球に咲いた花は、いつしか宇宙を繋ぐ大輪の花となって、この地獄に渡ってきた。

 

 

 

 

 





次回予告は、ネタバレになりそうなので中止させていただきます。

予告を作るのは難しいですね。



今回みたいな、若大将のウェイブ君がちょっとしか出ていないという・・・・・

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