Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~ 作:傍観者改め、介入者
第八艦隊と合流を果たした外宇宙航行船アグニカ。その船に乗っていたのはウェイブ・フラガとラス・ウィンスレット。
「久しぶりだな、ウェイブ。ビジネスあるところ、ウェイブありというか」
「誉め言葉として受け取っておこう。そちらも元気そうで何よりだ」
がっちりと握手するジグルドとウェイブ。その光景を見ていたキラは、やはりリオンとキュアンの関係性を幻視してしまう。
—————まるであの頃が戻ってきたかのようだよ、リオン
「早速だが、予想される日本帝国の難民を受け入れる受け皿は十分にある。ハイ・フィールド搭載の輸送船を可能な限り送り込むことにした。集結には一月かかるが、まだ手遅れではないだろう?」
迅速な動きだったウェイブ。とりあえず空いている輸送船を用意させ、このアグニカに詰め込んだのだ。結果としてその行動はオオアタリであり、帝都防衛戦前の避難に使用可能な輸送手段として重宝されるだろう。
「物資のほうも、自前生産で黒字が有り余るほどですからね。第二惑星から移動可能なストック分は持ってきました。さすがに弾薬はこちらの規格のものしかないから、あちらの武器には使えないけれどね」
ラスのほうは物資をありったけ輸送する手はずらしい。生活必需品から贅沢品まで何から何まで用意する徹底ぶり。開拓が落ち着きつつある第二惑星では、多数の工業地帯が建てられている労働者の星となっている。自然環境に根差したエコ活動は、本拠地で失敗と成功を繰り広げた経験から、最新の技術がふんだんに使用されているのだ。
他にも、大自然豊かな第三惑星、第四惑星など、地球連邦の外宇宙探索活動は国家群、民間のあらゆる面で恩恵を与えている。
ちなみに、軍事施設の大半は衛星軌道上の監視ネット網より、周辺宙域に建設された軍事コロニー、月に類似した衛星下に建てられている。その割合はおよそ7割となっており、大気圏内では警察組織が大半であり、武装制限も法令上存在する。
「—————なるほど、では次の一手では使えるということだな。よし、次の会談では俺とジグルド、ラスの三人で行こう」
ウェイブは手の速いラスの手腕に笑みを浮かべ、会談の内容も捗りそうだと満足し、軍事面ではジグルド、物資の面ではラスにその手の話は委任しようと決め込む。
「—————私は「貴方はミカエルで待機。ストライクフリーダムで待機。何かあった時、すぐこき使ってやるからな」そうか」
キラが会談に参加しようとするが、ウェイブに待ったをかけられてしまう。破天荒な会談ぶりが暴露されたキラは、カガリにこっぴどく怒られ、3日間の謹慎を言い渡されたのだ。
それではまるで黒船外交ではないかと、キラはめちゃくちゃ怒られた。しかしながら、現地民との邂逅の瞬間は避けられない展開ではあった為、情状酌量の余地はあると他の議員がフォローしたのだ。結果的に、日本帝国と円滑な国交が開かれているのだ。スタンドプレー気味な弟の暴挙とそれを上回る結果に内心イライラのカガリは、それ以上の追及を取りやめ、黒い笑顔で話をこれまでとした。
なおその夜、ラクスに長電話で弟の暴挙に不平不満を言いまくる彼女の姿があったという。
「そして、事態を重く見た評議会は現在遊撃任務中の第七艦隊の派兵を決定した。戦力が集結次第、まずは月に巣食う化け物どもを一掃する。その上で、地球に巣食う異星起源主を排除し、彼らとの交流を深めることになる」
ジェネシスの発射予定は、第七艦隊と合流後。少なくとも第七艦隊の到着と合同軍事行動における統制が決定されるまでがネックとなっている。予定されている合流時期は早くても6月、遅くても8月までに完了するらしい。
モニターに映るナタルは、現状はあまり良い展開ではないと断言する。
「—————ギリギリだな。朝鮮半島の情勢を鑑みるに、それではぎりぎり間に合わない可能性も出てきている」
ナタルは、盤上に映し出されるこちらの兵力と無尽蔵に湧き出る相手の勢力を考えて、相当キツイ戦場であると予期した。
何しろ戦力差はこれまで地球連邦が経験したどころか、連邦政府樹立前のオーブですら経験したことのない大物量。厳しい戦いは容易に想像可能で、最新鋭の機体が多数満載されているとはいえ、よく訓練された新兵が大半だ。戦争経験者で最年少世代だったキラたちももうすぐ第一線での働きに衰えが出始める頃合いだ。その代わり、この星に住む軍人たちの戦争経験は豊富である。
要するに、連邦政府にも、この星の国家の軍事力にも一長一短の要素があるのだ。しかし、ナタルが判断できる不安要素はここまで。彼女の耳には連邦政府樹立以前の故郷よりも複雑怪奇な世界情勢の情報が齎される。
「何より、国連軍がきな臭い。アメリカ軍も琵琶湖周辺に展開しつつある。隙を見せればあっという間に国賓扱いだ。気をつけろよ」
ナタルの皮肉が突き刺さる。あの国ならばやりかねないという予感がその場全員の心境だった。アメリカはやはり健在ではあったが、カナダへの放射能汚染は核爆弾の連続使用による除染不可能な汚染であるという。
幸いBETAの進出は防いだものの、大きな痛手を被ったらしい。その後彼らはなりふり構わず、権力と軍事力を集中させており、ちょっと一時期の大西洋連邦みたいだ、と思われてしまっている。
「————この強引なやり方。アズラエルを思い出しますねぇ。オーブにも強気な要求を突きつけた大バカ者、でしたね」
キラは、オーブに圧力をかけて、あっさり返り討ちになった愚者のことを思い出した。アメリカもやり方さえ間違えなければ外交の余地はある。あくまで彼らは自分がナンバーワンになることを信条とするのがよくない。
己惚れではないが、あの大戦を乗り越え、連邦政府としてうまく運営されており、複数の地球型惑星を有し、資源も人員も満載なこちらに対し、BETA大戦で追い込まれつつある国の一つでは比較にはならない。
しかし油断はできない。いろいろな搦手でこちらを乱しに来る可能性もなくはない。そんなことをされては困る。BETA大戦のあと、また防衛と同時に開拓を行う必要があるのだ。そんなことに余暇を使うつもりはない。
「まあ、目には目を、刃には刃を、しかし花に花を、ですよ。あの国の印象を帝国の都合で判断するのは早計です」
ジグルドは、アメリカに対し、懐疑的になる一同をけん制した。まだ彼らがそんな存在であると決まったわけではない。だからこそ、まずは疑いの心を持たず、会談で相手を把握し始めるところから進む必要があると考えていた。
「ジグルドの言うことは理想論だが、結果として多くの軋轢を生んでいるのは事実だからなぁ」
実際、難民問題で大きなしこりを残し、欧州でもソ連でもあくどいアメリカらしい手段はとっている。第八艦隊で親友でもあるクロード・ミリッチは、大西洋連邦からの圧力、プラントからの圧力で分断されていた歴史を両親から聞かされている。超大国の圧力に対し、苦い顔をするのは自然なことだった。
ジグルドとしても、結果的にアメリカの行動により世界情勢が混とんとしている事実を否定はしない。
「まあ、出方次第だな」
同世代の戦友たちも、何もしなければ何も行動しないという態度をとっている。しかし、明らかにアメリカという国家に対し、何か言いたいことがある様子。
「——————」
それ以上は何も言わないジグルド。アメリカに関してはここで何といってもどうしようもない。何より情報が少なすぎる。ジグルドとしては表面の情報だけで判断はしたくない、それだけなのだ。
「では、明日。ジグルドとともに帝都におられる煌武院悠陽殿下と再度会談を行うように。ジグルド、貴様は今度こそ正座を完璧にマスターしておけ。会談日はお前の案内が不可欠となる」
「は、はい——————(嘘だろ? あの地獄のような姿勢にもう一度なれと? 無理無理、足がしびれる)」
敬礼でその命令を受けるジグルド。キラがいない分責任重大のジグルド。しかし、胃を破壊する存在がいないので、案外楽かもしれない。
「————————(ああ、やっぱりだめみたいですね。リオンも正座は嫌っていたし)」
なお、正座に関しては絶望的である。目が無意識のうちに泳ぎ始めているジグルドを見て、キラは帝国側にやはり椅子は用意しておいてほしいと連絡を送ることを決める。そして、ジグルドが正座を嫌った理由は姿勢がしんどいというのもあるが、足がしびれた状態で死角に襲われた瞬間を危険視したのもある。
「明日の予定だが、殿下のほかに斯衛の者が複数出席するらしい。後は技術廠から数人予定があり、中規模な会談になり得るかもしれない。粗相のないようにな」
技術者と武家の総称足る斯衛軍の何か。いずれにせよ、ジグルドはやるべきことは変わらないと考えていた。要するに、速めに外交開通と軍事同盟の足掛かりを作れということだ。
「斯衛軍、ねぇ。帝国軍があるのにまだ軍隊があるのか。いろいろ複雑なのかもしれないな、あの国は」
ウェイブは軍を二つに分ける理由について首をかしげていた。色々と不便ではないかと。オーブでは私軍なるモノはあったが、全て正規の軍属である。そういった線引きはされている。だが、この国ではそれぞれの軍隊にそれぞれの階級が存在するらしい。
「いろいろあるのですよ。皇帝陛下と将軍家を守る武家の軍隊。彼らは遠征に出た経験はあまりないと言いますが、どこまで戦力になり得るのか—————」
ラスも、彼らの存在を認めてはいたが、遠征をしない軍隊ということに引っ掛かりを覚えていた。政権というより、国の決定で思うように動かせない軍隊の存続理由について、色々思案するがどうしても思いつかない。
—————斯衛軍、ね。一つでもいいから敵の要塞を落とせば見方が変わるのだけれどね
色々と帝国軍の内情を知り始めた第八艦隊。信用は出来る国だ。裏切る心配は今のところない。しかし、妙なところで変なところがある国、という印象が強まっていた。
一方、欧州では帝国が未知の異星人と会談を進めていることが明らかになった。
「—————聞いての通りだ、帝国が未知の異星人とコンタクトを取っているらしい」
「それは我がフランスでも聞き及んでいることです。琵琶湖の写真を見る限り、この星では考えられない技術で建造された戦艦が3隻停泊しているらしい」
衛星写真、現地の写真など、様々な場所で彼らの写真が映し出されていた。
「もしこれが本当なら、欧州奪還の糸口になり得るかもしれん。今のうちに帝国に接近したほうがいいのではないか?」
「だが、帝国と異星人のコンタクトがどうなるかもわからん。しばらくは様子見だ。その技術が開示されたとしても、レベルが違い過ぎて今すぐ使えるかも怪しい。何しろ奴らは光の速さすら克服した存在だ」
懸念すべきことはそれだ。仮に技術提供が行われたとしても、技術レベルに格差があり過ぎる場合、模倣すら難しいかもしれないのだ。それが彼ら欧州の懸念の一つだ。
「しきりに彼はモビルスーツと呼ばれる単語を口にしていたらしい。我々の言う戦術機とは違った主力兵器の総称をさすらしい」
「モビルスーツ、か。どういったものなのだろうか」
そして謎の兵器モビルスーツ。彼らはまだ艦船しか晒していない。一体どういった存在なのだろうかという疑念が深まるばかりだ。
欧州は沈黙を保ち続ける。帝国と第八艦隊の会談の成果を特等席で見続けているのだ。
中国、アフリカ、オーストラリア、ソ連とアメリカでさえ同様に沈黙を保っていた。帝国がまだ国交を開通させていない段階であるためだ。帝国が下手をうった場合、次の椅子をめぐっての牽制が行われているのだ。
未知の技術を独占し、戦後で有利な立場に立てる国はどこなのかということを。
そして当日———————
「異星人との会談、ということでしょうか、殿下」
「はい。私には見透かせない何かを其方に見定めてほしいのです。私も彼らの全容を理解するのは、初見では厳しいのです」
殿下とは別の下座に座するは斑鳩崇継。斯衛軍第16大隊の指揮官にして少佐。斯衛軍の中でもエリートと言われており、その実力とカリスマは随一と言われている。
————面白い、異星人の存在。この斑鳩の眼で見極めさせてもらおう
「————」
彼の横でそわそわしている青い髪の女性は、祟宰恭子。斯衛軍の中でも象徴的な存在として国民からの人気も高い女性衛士である。何より五摂家の一角を担う血縁者であり、戦場で活躍する姿を見たものは、柔和な雰囲気からは考えられない苛烈な戦いぶりで味方を鼓舞する存在に頼もしさを感じたという。
だが、そんな人気を誇る彼女も、今回の件では緊張が勝るようだ。
————なぜ、若輩者の私がこの場に?
なぜ自分がここに呼ばれたのか、その理由に首をかしげるばかりだった。
————まさか、五摂家の二角と相席することになろうとは
譜代武家の篁祐唯は、恐れ多くも殿下と相席するばかりか、五摂家とも同席することを恐れ多いと感じていた。正直登城することを命令された際、命の危険を考えたほどだ。
また何か難癖をつけられるのではないかと考え、気を揉んだ。そうでなくても彼には心残りがあるというのに。
————ミラ。君は今どこにいるんだ?
ミラ・ブリッジス。かつて米国に渡った際、互いに惹かれ合った女性の名前。開発計画の最中、忽然と姿を消してしまった彼女に強い悲しみを覚えたが、今では武家の習わしに従い、定められた女性と結婚し過去を忘れようとしていた。
今の妻を裏切る気などない。だがあの後、急に姿を消した彼女はどうなっているのか、それだけが心配だったのだ。
この話は当然妻にはしていない。娘である唯依も当然知らないだろう。そのことを知るのは恐らく、戦術機開発の鬼ことフランク・ハイネマンと、隣にいる巖谷榮二ぐらいだろう。
「浮かない顔をしているな、祐唯」
今では腐れ縁になっている親友だが、独身貴族を貫いてしまった男。だが、これほど義理堅い友は知らない。
「いや、今日の異星人との会談。俺たちの想像もつかない技術があると聞き、少し不安になっている。今までの常識が木っ端みじんになる、そんな予感がしてならない」
「—————まあそういうことにしといてやろう。今日はそのことだけに集中するべきだろう、お互いに」
含みのある言い方、やはり彼には隠し事は出来ないらしい。しかしそれ以上の詮索はしないのがありがたい。
「—————殿下、異星人の御一行が到着しました」
「客間へ案内なさい」
そして、下座にてジグルド・F・アスハ、ウェイブ・フラガ、ラス・ウィンスレットがやってきたのだ。
「殿下、本日もよろしくお願いいたします」
形式ばったやり取りを強いられるジグルド。しかし、悠陽はそんな彼を見てやや不機嫌な顔をして、
「初対面の時の様に、自由にせよと申したはずです、ジグルド」
微笑を浮かべ、悠陽はジグルドを気遣う言葉を投げかける。
「—————はっ、では—————二日ぶりですね、殿下。今日はやけに人が多いようですが、我々の来訪で事態が良い方向に進んだとみて間違いないですか?」
それなりに多くの人間が同席していることを見て、帝国内部でも自分たちの存在が無視できないものになっていると悟るジグルド。
「良くも悪くも、ですね。それもこれも、本日の会談次第、ということになります」
悠陽に、今日はよろしくお願いしますね、と暗に言われるジグルド。そのプレッシャーに苦笑いするしかない。
「では、本日は帝都防衛戦における避難ルートについて提案があるのですがよろしいでしょうか?」
「避難ルート、ですか? 現在国家予算をつぎ込み、整備を行っていますが————」
彼女はその瞬間、陸路以外でのルートについて考える。であるなら、次に考えられるのは海上輸送。そして、一番可能性の低いものとしては空路。だが、彼らの技術力の高さならば、光線級の攻撃にも対処可能ではないか。しかも空中での安全が確保された場合、海上輸送や陸路よりも速く行うことができる。現在地球連邦は空中戦艦を琵琶湖に駐屯させており、水上艦艇の影は見えない。となれば、
「——————もしや、空中での輸送をお考えですか?」
「はい、殿下の推察の通り、輸送船を使った空中への避難を提案します」
ジグルドの提案に待ったをかける者がいた。祟宰恭子である。
「お待ちください! それでは光線級の格好の的ではないですか! 光線級の概要はこの前説明をお受けされたはずです。巡洋時の飛行艇を捕捉する距離は200キロを超えると」
光線級の恐ろしさを知る衛士からすれば、輸送船での避難はリスクが大きすぎる。しかし、彼らはそれを理解しているはずなのに、それを行う算段らしい。
それが彼女には理解できず、憤りに近いものを感じさせてしまった。
「横から失礼してよろしいですか、麗しき戦乙女よ」
気障な物言いで、横槍を入れるのはウェイブ・フラガである。その瞬間、殿下の凛々しい顔が崩れ、ジト目でウェイブを見つめるジグルドへと視線を移した。
————其方は苦労しているのですね
————わかってくれますか、殿下
目が合うだけで意図が理解できている二人。ウェイブはどうやら恭子に一目惚れをしているらしい。さすがはあのナンパ野郎の息子、ロックオンした瞬間にアレである。
「ちゃ、茶化さないでください! では、輸送船がどのような方法で光線級の脅威を解決できるのか、ご説明していただけませんか?」
最初は感情のままに叫んでいた恭子ではあったが、後半は冷静さを取り戻し、ウェイブに質問する。レーザーの脅威はどうするのだと。
「我々の輸送船にはハイ・フィールドと呼ばれる対光学兵器に特化した防御機能を有しております。しかし、口で説明するのは易し、実際に実物を見ていただきたいと考えております」
その言葉で、ウェイブが出鱈目を言っているのではないかと理解する恭子。しかし、彼の言う通り実物がなければ信用などできないし、そちらの性能を上回る脅威かもしれないのだ。
「一月です。一月あれば、輸送船の一団を引き入れることが出来ます。その際、朝鮮半島上空を飛翔し、その効果をご覧に入れましょう」
ウェイブの段取りとしては、輸送船の性能をアピールするためのデモンストレーションとして、輸送船の朝鮮半島への飛翔を提案したのだ。実際に見てもらうほうが速いのが実情であるのと、手っ取り早くこちらの信用を取り付けるには、この方法が最適だと考えたのだ。
「そ、そうですか。ならば、私の質問は以上です。声を荒げてしまい、申し訳ありませんでした」
最後は蚊のような声になってしまう恭子。冷静に考えれば、光速すら克服した人類なのだ。レーザー無効化の技術などあって不思議ではない。
そんな気落ちする彼女を気遣うかのようにウェイブが語り掛ける。
「そう気落ちしないでほしい。臣民を憂う心、とても綺麗なものを見られたと、こちらも満足しているので」
「!!!!」
赤面し、今度こそ物言わぬ何かになってしまった恭子。当分話を聞くだけで精一杯だろう。
——————なんで会談中に女口説いてんだよ、この異父兄は。ほんとにお話の重要性を理解しているんですか。
——————キュアンおじさまと同じ、女たらしというか、正直すぎるといいますか。これで女遊びがぱったりやむのは別にいいのですが
二人からの冷たい視線に気づかないはずのないウェイブは、
——————俺は落ち着きがなく、我慢弱い男なんだよ。
頭を抱える二人を尻目に、自信満々に開き直るウェイブ。一応話は進んでいるのでイマイチ切り込めない。
そんな状況の仲、斑鳩の当主が口を開く。
「ではこちらからも質問を。貴殿らが口々に言うモビルスーツとは一体なんだ? 強化装備の一種なのか?」
スーツというのだから、パワードスーツに似た何かなのだろうかと推測する斑鳩。
「全長はそちらの戦術機と同じか少し高いぐらいの機動兵器ですよ。ただ、宇宙、大気圏、水中と戦場によって機種は変わりますが」
ジグルドにとっては当たり前の質問で、当たり前の答え。だが、彼らの技術で作られた戦術機に酷似した者とあっては、この男は黙っていない。
「なんだと!? そちらの技術で作られた戦術機に近しい兵器なのか!」
声色が変わったことで、驚くジグルド。何かおかしいことを言ったのか、不安に思う彼ではあったが説明を続けるしかないと考えた。よく見ると目をキラキラさせており、「とても興味がある」という表情を隠さない。
「ええ。現在琵琶湖のほうに一部搭載はしていますし、見せろと言われたら見せられますが———その、時間がかかるというか————」
琵琶湖までそちらの車では時間がかかるでしょう、とジグルドは説明する。
「むう、そうか。では会談終了後に見せてもらう。良いかな?」
斑鳩はそれだけを言うと質問はないらしく、会談終了後のことを楽しみにしている様子だ。
————この方は、戦術機に強い興味があるみたいだが————
————彼らの技術を有効活用できれば、損耗率が減る。何とか糸口を
ジグルドの能天気な平和ボケした考えと、斑鳩の切実すぎる思惑。連邦政府と帝国政府の内面意識には壁が存在している。
そんな斑鳩の猛アタックに便乗する者達がいた。
「—————その、どうやら私たちも斑鳩殿と同じ目的なのだ。会談終了後に拝見できないだろうか」
「——————」
奥のほうに中年のおじさんたちも、ジグルドの会談終了後のモビルスーツ観覧が目当てらしい。要望を口にした男と、黙ってうなずく男性。
—————かなり興味を持っていただいているようだな。やはり、戦況は芳しくないのか。
技術者の真剣な表情を読み取り、先ほどの斑鳩という彼らといい、戦術機好きではないことを悟るジグルド。そして、先ほどの思惑を恥じる。
—————同じ目線ではないからこその齟齬。口に出さなくてよかったが
「殿下。一つ宜しいでしょうか?」
「なんでしょう、えっと————」
初対面なので、名前を呼ぼうにも呼べない殿下。少し戸惑う姿がジグルドに新鮮に思えた。
「ラス・ウィンスレットです、殿下。予想される避難もそうですが、帝都防衛後の物資の供給の件でもお話があるのです。撃退できれば問題はないのですが、被害状況によっては救難物資の調達を進めているのです」
「物資の提供をしてくださるのですか?」
要求されることは何だろうと、悠陽は身構える。ノーリスクで何かを得られるはずがない。彼女はラスの口から齎される言葉を警戒していた。
「こちらとしても未来への保険という担保しか持ちえないのが実情です。我々の勢力圏では現在BETAと遭遇したことはありません。ですが、そのXデーを想定し、対応するためには、貴国をはじめとした各国との連携と情報収集は必須。我々は初期対応を間違えるわけにはいかないのです」
ゆえに、とラスは続ける。
「我々地球連邦、および傘下の民間企業群は物資面での支援、一部の兵器の供与を現在検討しています。ですが現在連邦軍は、戦闘行為の許可が下りていないのが実情です」
「—————妥当な政策だ。物資などは生産すればいいが、人的資源の貴重さはこちらも痛いほど理解している。死地へと兵士を送らないのはましだ」
斑鳩は、地球連邦は軍事行動に出ることはないと聞いてショックを受けているわけではない。むしろそれは妥当だと考えていた。
地球圏内でさえ、BETAに対する意識の違いは如実に出ている。故国を失ったものは説明するまでもなく、大して被害がまだ及んでいない国の意識は低いものと言わざるを得ない。
遥々宇宙を超えてやってきた連邦は、BETAという脅威を認識し、動くことが出来ない。連邦市民も派兵に賛成する者、物資の支援のみで様子を見るべきという意見に分かれている。
問題は連邦の規格と、帝国軍の兵器規格が合わない事である。
「—————しかし、我が軍が採用しているのは、90式戦車だ。それも902式へと改修し、配備が完了したばかりで、次期主力戦車を開発する余裕はない」
90式戦車—————
光菱重工が製造した日本帝国軍の主力戦車。防衛省と産業省の合同での次期主力戦車におけるコンペの際に、正式採用されたものである。
44口径120mm滑腔砲(弾数40)
12.7mm機関銃(弾数2000)。
他に7.62㎜機関銃も装備。
戦域データリンクへの対応は改良型の902型から始まり、長年使用されている傑作機である。
開発中にBETA地球侵攻が始まったことから、モジュール装甲、自動装填装置の採用により、部分的ながら対BETA戦を想定した設計となっている。
対して、地球連邦の戦車は超電磁投射砲を主砲としたモルゲンレーテ製の80式機動戦車である。同じ44口径120mmではあるが、弾数は70。さらには、機関銃は小型のレーザー仕様となっており、排熱に気を付ければエネルギーの許す限り発砲が可能となっている。
しかし、最大の特徴はレールガンを通常兵装とした点だろう。貫通力に優れ、一点突破に優れるこの弾頭は、初期のPS装甲を貫通できる性能を持ち、事実上陸戦における主役をモビルスーツから奪いつつあるのだ。
「スペックだけを見れば、この弾頭は突撃級の外殻すら貫通し得るな」
「エネルギー効率も我々のレベルを超えている」
何より機動戦車として重要な活動時間は、モビルスーツに採用されていたパワーエクステンダーの搭載だろう。現在では兵器各方面に通常採用されている技術であり、光学兵器、電磁投射砲の使用には不可欠なものとなっている。
「なるほど。モビルスーツが全てにおいて勝るというわけでもないのか」
それでもモビルスーツが採用されているのは、水陸両用、空中などの柔軟な作戦行動が可能なためと言える。
とはいえ、陸上兵器にモビルスーツの技術が流出していることもあり、陸上用前線基地の機能も兼ねた新型モビルスーツ、ロトの配備が行われる予定もある。現在少数が先行配備されている。
これは、前線での指揮系統の簡略化と、その保護の為、機動力と防御力に長けた兵器が必要という国家間の理想が一致したものである。
「このロトという機体は素晴らしいな。エースに配備されているVPS装甲を、指揮官用にこれ以上ないほどに活用している」
篁はやや興奮気味にロトについての持論を展開している。
「これ、私が設計したんですよ。そうですね、当初はガンダムの品格を損なう、コスト面はどうするのかと言われたものです」
ジグルドがほくほく顔でロトの父親は自分であると宣言する。
「おお! この素晴らしい機体は貴方が!」
雑談が熱弁に代わる4名。
「何処までも機能性を重要視した素晴らしい機体だ。これがあれば、指揮系統の乱れも解消されるやもしれん」
斑鳩も、やや興奮した表情でロトを絶賛する。
ジグルド、斑鳩、巖谷、篁が熱を上げている現状。放置されたラスと、どさくさに紛れて恭子を口説くウェイブ。青筋が浮かび始める真耶。
そして表情が柔和なものになっている悠陽。
VPS装甲に、核エンジン。尽きることのない強固な装甲と、電子通信を採用したことにより、戦闘時における要になり得ると期待したものである。搭乗数は最大10名で。動かすには3名必要。
しかしいつまでも雑談をするわけにはいかない。楽しそうにしている4名には申し訳ないが、悠陽がここで前に出る。
「そちらの事情は重々承知しております。軍事面での取り決めは、榊首相の御出席の時と致しましょう。斑鳩も、技術関係について後程お話の機会を設けていただいております。いいですね?」
悠陽が最後に軍事面での取り決めは次回に持ち越しと取り決め、技術談話で盛り上がるジグルドと巖谷、篁、斑鳩を諫める。
「私としたことが。申し訳ございません。あまりに魅力的な話でありましたので」
「申し訳ない。ブレイクスルーが実現し得る機会でしたので、つい」
「私も熱が入り過ぎました」
「殿下に礼を失したこと、申し訳ございません」
そして国交開通の時期や首脳レベルでの会談の日程調整など、今後の計画について意見交換と確認を行った両勢力。2回目の邂逅も滞りなく完了し、出だしは順調といえる。
帝国一同はその後MSの見学へと向かうことになるのだが、彼らは連邦の底力の一端を思い知ることになる。
ウェイブ君は正当なフラガ家次期当主候補であり、
ジグルドは本人が否定しているものの、アスハ家を継ぐものと目されています。
本人は弟こそふさわしいと考えています。