Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~ 作:傍観者改め、介入者
まだ戦闘パートは遠いですね・・・・
2度目の邂逅が問題なく終わり、技術者と斑鳩少佐が楽しみにしているMSについての見学が行われる。篁中佐と巖谷中佐は表情を崩さず、どことなく気負った雰囲気をうっすらと醸し出していた。そんな彼らに便乗した友人、同僚たちも同様だ。
しかし、斑鳩少佐だけは満足げに彼らに同行していたので、連邦兵士たちも困惑していた。
殿下に関しては無表情で、何を考えているか悟らせない為、不気味と思いつつも、凛とした佇まいを崩さない彼女の姿に圧倒されてしまっていた。
———————な、なんだよあの別嬪さん。マジでこの国の貴族というやつなのか?
——————おいおいおい、若き日の最高議長殿を超えているぞ、あれ
———————今でも別嬪さんだが、これで年齢を重ねたらとんでもない美女になるな、あの娘は
連邦の技術士官、警備兵たちがおおむね好意的な目を彼女に向けているが、
———————邪な感情を向けた瞬間、斬る
隣にいた従者の眼光に恐れをなし、背筋を伸ばしたまま硬直する者が続出する。
「では見せてもらうぞ。そちらの主力兵器、モビルスーツの性能を」
斑鳩がやや楽しみな感情を抑えきれずに、ジグルドの後をついていく。当然の如く、篁と巖谷、そして斯衛軍の恭子、さらには殿下もついてきている。
「—————ええ。どこでお見せすればいいでしょうか? この屋敷の外ですか? それとも琵琶湖でしょうか?」
ジグルドはモビルスーツを見せる場所を尋ねる。琵琶湖は目立ちすぎるし、ここに持ってくるのはいいが、それでも目立つだろう。
「—————ふむ、どうせならそちらの船の中で見たい。いいだろうか?」
ここに来て、国交が完全に開かれていない戦艦への見学を申し出た斑鳩。これにはジグルドも驚く。豪胆というか、好奇心が旺盛なのか、それとも酔狂なだけなのか。
この人物の全てを図り切れない。
「—————見せられないわけではありませんが、おつきの方々は————」
目配せして殿下や彼の傍にいる従者たちに尋ねる。こちらは構わないが、そちらの従者はどうなのかと。
「—————殿下の望まれるままに。我らにはその権限はございませぬ」
ジグルドに対し、やや睨みつけてくる少し怖い女性が、ぶっきらぼうに言い放つ。どうやら初対面での無礼な態度が気に入らなかったようで、彼女は彼のことをあまり好かないらしい。
————月詠はああいう性格なのだ。すまんな
————主思いの従者ですが、これでは落ち着いて話すことも叶いませんね
目と目があった瞬間に気苦労を語り合う斑鳩とジグルド。フリーダム過ぎる上官と部下を持つジグルドと、硬すぎる部下や同僚を持つ斑鳩。正反対だが、気苦労は絶えないようだ。
「私は構いません。今後お付き合いさせていただきます、其方らの船。この目で見たいと考えておりました」
殿下も少なからず艦船に興味があるようで、帝国のテリトリーではない場所での観覧に異論はない態度を示す。
というより選択の余地はないのだ。帝国は地球連邦との会談を成功させなければならない。ゆえに、距離を取る外交や態度をすることが出来ない状況なのだ。
飛行艇に乗り込み、琵琶湖に浮かぶミカエルへと帰還する一同。その内部構造に帝国一同は驚愕した。
「内部はこれほどの構造となっていようとは。それに、これはカタパルト。内部にこのようなカタパルトがあるのか」
ここから射出する、というのを見せられた斑鳩は、戦術機に酷似した何かがここから発進する光景に心躍っていた。
宇宙を航行するばかりではなく、大気圏を移動し、なおかつ船舶の様に海上を移動することも可能とくれば、オーバーテクノロジーもいいところである。
隔絶された技術レベルの差を感じつつも、巖谷は目を若干輝かせている斑鳩とは別方向の不安を抱えていた。
————取り入れられるのか、こんな—————
帝国の益となる技術を吸収するのが今回下された命令である。しかし、技術レベルの習得は長期間のプランが必要になるほど困難なものになると予想される。
救いなのは、彼らの発想を理解することが、それほど難しいことではないということだ。あくまで技術面での理解を度外視した形ではあるが。
「あれです。あれが我が軍の主力兵器、モビルスーツ。ダガーです」
帝国の面々の眼前に鎮座するのは、人型機動兵器ダガーの雄姿である。戦術機に比べ、スマートなフォルムをしており、洗練されたデザインと人をそのまま巨大化したかのような精巧さ。
しかし、奇妙なことに主力兵器の割にはこの艦船の中に一機しか存在しない。帝国の一同は首をかしげるも説明を受けることに。
「—————これが、モビルスーツ。ロケットエンジンやスラスターは———」
篁は、推進力を維持するのにこの機体だけでは難しいのではないかと推察する。確かに技術力に開きがあるのは理解できる。しかし、脚部と背部にある推進力だけで、長距離ブーストは不可能に近いと考えていた。
「ええ。これはあくまで本体のダガーのみ。この機体の神髄は、バックパック換装システムによる、兵種変更の容易さです」
ジグルドが説明する換装システム。それは彼らの今までの戦術機の概念を覆すものだった。
「換装? まさか、状況に応じて武装を変更することが可能なのか? なるほど、本体と武装を分けることで、運用しやすくしているのか!」
画期的な発想だ。まるで着せ替え人形のように兵種を選択する。それにより一から戦術機を作るのではなく、元となる機体と武器を個々に分けることが出来る。
————やはり発想が違う。
今まで自分たちは高性能な機体を作り、強力な火器を保有する戦術機の開発に目をむき過ぎていた。だからこそ拡張性が犠牲となり、機体の発展性も失われてしまい、汎用性のない、汎用性の域を脱出できない兵器開発に終わってしまっていた。
だがこれはなんだ。最初から兵器オプションに拡張性を与えることを前提とした機体設計。だからこそ、同じ機体でも戦術オプションで性能が様変わりする。
誰だ、こんなバカげた発想をした開発者は。
その頃、オーブ在住の人妻女技術者がくしゃみをしたとかしないとか。
「はい。このダガーは機動力において、そちらの戦術機に劣りますが、それは単体の場合。ジェットストライカー、エールストライカーなど、高機動型に換装した場合、滑空や高速戦闘を可能とします」
空を飛ぶ。空中戦を前提とした機体。それはこの世界における非常識でもあった。
「空を飛翔できるのですか!? 本当に、我々の戦術機とは概念が違うのですね」
崇宰恭子は、追加兵装の運動性能を聞き、自分たちとは何もかも違う、しかしどこか似ている異星人の兵器に興味を示す。
—————聞けば、彼らのこれは宇宙での活動が起源と言います。外宇宙への進出を、彼らはすでに達成しているのですね
元は宇宙空間での作業用ロボットから始まったモビルスーツの歴史。4度目となる人類を巻き込んだ大きな大戦と、戦後処理を乗り越えた彼らは、想像を絶する歩みを送っているのだ。
「ラミネート装甲で、どこまで光線級の攻撃を防ぐことが出来るかはまだわかりませんが、映像で推察するところ、一撃で沈むことはなさそうですね————」
アークエンジェルの過去の戦闘における光学兵器への堅牢さを目にした一同は、ラミネート装甲の性能を垣間見ることが出来た。
「しかし、そちらのレーザーはレーザーカッターともいうべきものですね。長時間の照射であれば、ラミネート装甲と言えど、貫かれる危険性があります」
まあ、角度をつければシールドも傷つけず、完全防御は可能そうですが、とジグルドは付け加える。
「ん? あの機体は何だ? あの機体は?」
どことなく戦闘機を思わせる造形。それが無理やり人型になったような、しかし見事なフォルムであると言わざるを得ない機体。
それは11番目の機体。可変機能を有し、高速戦闘に主眼を置いた機体である。火力と兵装の豊富さもあり、バランスの取れた傑作機である。
「隣のこれは、RX-11-1、リゼルです。ミカエルの艦船には若きトップガンたちがいますからね。彼らは特に優秀な技量を示したことで、可変機型のモビルスーツの担い手となりました」
「可変機、つまり別の兵器に変貌するということか?」
斑鳩が尋ねる。そのフォルム的に戦闘機であると予想はしているが、まさかそんな機能まであるとはと驚愕している。
巖谷に関しては完全に絶句している。彼の想像の範疇からはみ出しているようだ。
「ダガーに、リゼル。他にも見慣れぬ機甲部隊と航空機。そしてあれは————」
そんな友人とは対照的に、正気を保っていた篁中佐は、一機だけ雰囲気の違う機体を目にした。
リゼルもダガーも、この国の戦術機を超越する存在だ。だが、兵器というイメージやその雰囲気というものがあった。しかし、その一機だけは違う。伝統工芸品でもあり、その二つの機体とは別次元で、兵器と思わせない凄みすら感じさせる。
彼は、もしこの機体と対峙することになれば、戦争にすらなり得ない、そんな感覚を感じていた。
八枚の羽根を持つ機体。あれこそが、篁中佐の想像通りの、地球連邦最強の存在。
「ZGMF-X-20Aストライクフリーダム。現存する機体群の中で、唯一量産不可能な機体です」
「フリーダム、自由という意味か」
8機の誘導兵器と重火力と高速戦闘が最大の特徴であり、そのあまりの性能から乗り手を選ぶとさえ言われている。
中でもマルチロックオン技術は高速戦闘中に行われるものであり、通常のパイロットではなかなかできない芸当である。
誘導兵器による広域殲滅型の側面を持ち、大火力と手数の長で多対一を容易に実現できる兵器。あれは戦術機という枠組みの存在ではない。
「——————ど、どう見る、祐唯。あのフリーダムという機体。あれは格が違うぞ。俺は正気を失いそうだ」
「——————確かに、あれは戦術機という枠組みでは収まらない。言うなれば、“戦略機”と呼称するべき存在と言える。戦術では対処が難しい、乗り手次第で誰も太刀打ちできないだろう」
技術組は二人同様に、フリーダムの圧巻の強さ、性能に正気を保つことで精いっぱいだったが、斑鳩は違った。
———————タイプゼロには反映させることはもはや不可能だが、素晴らしいな。量産機、戦略機。どれをとっても高い技術力。恐らく、彼らの技術を取り入れた暁には、戦術機の概念は変わるであろうな
帝国は物まねでも構わない。彼らの技術を獲得することこそ、政治の部分以外では最も重要なことになると確信した。
—————なるほど、連邦の力。想像以上だ
興奮を隠しきれぬ彼や、動揺する技術者連中とは違い、彼らに同行する形となっていた悠陽は、最後までその表情を悟らせること無く、ただただ連邦の説明に頷くのみだった。
——————喜怒哀楽すら読ませないか。姉さんよりも早熟で、その伸び代は同等か
キラは、冷静沈着な態度を崩さない彼女を見てまた一つ評価を改めていた。あるがままを受け入れ、それを理解する。それも、上に立つ者の器だと知っている。
彼の姉はそれを実践し、連邦の生存権を拡大させ、世界を安定させたのだから。
その後、ミカエル、ニカーヤ、アーガマを視察した武家の一同はこの船を後にすることになる。
「本日は貴重な時間、ありがとうございます。其方方の船を拝見する事が叶い、新鮮な気持ちになれました」
「こちらこそ、話がまとまらないことが心苦しく思います。未だに議会は荒れに荒れているわけではありませんが、判断に迷うところがありますので」
悠陽とジグルドが別れ際の挨拶をしている中、
「我々としても、発想だけでも貴重な時間となった。また話をしたい」
「こちらこそだ。BETAの知識が圧倒的に我々には足りない。若いものから私のような年長ものも含めてだ」
技術や同士で親交を深める等、おおむね異文化交流に問題はなさそうな雰囲気が作られている。
そんな様子をジグルドは静かに見守る。
————参戦となると犠牲は覚悟しないといけない。けど、現場は現地の惨状を良く知ってしまった。
当初は関わるべきではないと考えていたジグルドは苦悩する。
————馬鹿だ、俺は馬鹿だ。なぜ、関わるべきではないといった?
仲間やこちらの人員の犠牲を抑える為、介入に乗り気ではなかった自分。だが、その惨状は宇宙を探索する自分たちにとっても無視できないものだった。
何より、感情的にならざるを得ない。こんな在り得ない現実に、こんな残酷な世界で、戦い続ける彼らを、見ているだけでいいのかと。
———————戦えば、どうしたって犠牲は出る。けど、今この瞬間にも、誰かが戦って、誰かが死んでいる。
青年の悩みは、その自分の考えから始まった最初の考えによって深まっていた。だが、そんな彼の苦悩を感じ取った兄貴分が肩をポンポンと叩く。
「あんま気負い過ぎるなよ、ジーク。この世界、この惑星に蔓延る脅威は、確かに危険で、恐ろしいものだ。ま、焦ってもいいことなんて一つもねぇ」
「—————わかってる。今ここで乱心することこそ、母上たちの迷惑にも、救えるはずの命にすら届かなくなることも、全部わかっているよ。悔しいけど、今の俺にはどうすることもできない」
冷静な顔を務めて維持しようとしているジグルド。固いなぁ、と思ったウェイブは、
「—————気晴らしに、カレーでも食うか。お前の好きな甘口カレー「おい」‥‥冗談、冗談だって。中辛な、そこは外さねぇよ」
「まったく、みんなは俺を子ども扱いというか、過保護に見過ぎです。今の俺は、連邦軍の兵士なんですからね」
ジト目で暗に子ども扱いするなと視線が突き刺さるウェイブだが、どこ吹く風にと手をひらひらさせながら異父兄弟仲良くこの場を後にする。
ラスは、仲良さげに歩く二人の後姿を見て、色々な感情が湧いていた。
——————あの時は、力も、覚悟も、何もかも足りませんでした。
理想だけを褒められ、あくまで守る対象と認識されたままだった。
——————リオン様。どうか見ててください。貴方の息子は、必ず守ります。私なりの方法で、あの子の力になります
しかし今は、違うのだ。
第一惑星 地球 オーブ首長国 オノゴロ 総合病院
「———————そうなのか、キラさん達はまだまだ得体のしれない脅威と対峙しているというわけなんだね」
白衣に身を包む中年の男性が、電話越しに話す相手にそう口にする。
『うん。おじさまの話だと、人類が接触した最初の異星起源主にして、敵対行動をとる存在、だそうです。』
「——————なるほど、僕らが大人になったしばらくの間は戦争なんてない平和な時代だったけれど、それも厳しいみたいだ。ウェイブ君も、ジグルド君も、ディルムッド君も無茶をしないといいんだけどね。あの三人、性格はまるで違うけど、その心根は一緒みたいだし」
電話越しの相手、金髪の美女は若き青年たちが間違いなく無茶をすると予感し、その杞憂を改めて彼に——————夫に話す。
「キュアンおじ様はよく話してたの。あの三人にはリオンおじ様の意志が受け継がれているって。だから、戦争がない方がいい。起こってしまえば、その血の運命に抗うことは出来ないって」
「———————確かに心配だ。だけど僕には、死にかけまでの命しか救えない。生きたまま、どんな形であれ、ドクターは患者を生かすことが仕事」
男性はやり切れないとばかりに、これから死傷者が増えていくだろう未来に憂鬱になる。
「ハサン先生も引退を撤回して最後の宇宙旅行だと言っておられたけど、まさかその先がそんな惑星だったなんて。うーん、医療スタッフの招集もあるかもしれないね」
「その時は当然、私も行く。貴方だけ死地へと行かせるわけないよ?」
「ごめんごめん。そんなマジにならないで。ただ、救いを求める手があるのなら、それを掴まない理由が僕ら医者にはないだけさ、ステラ」
優しく、諭すように、男性は女性——————ステラに対して、笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「シンはまるで戦士みたいなことを言うのね。医者で、一般人なのに、どことなく覚悟を決めているような雰囲気が、私は怖い。仮に決まったとしても、無茶だけはしないで」
ステラの心配事の数少ない一つ。夫はまるで戦争を体験したかのように肝が据わっているところがある。どことなく超然的で、モビルスーツを見慣れている。時折、自分の知らない表情を浮かべる時があるのだ。
「ああ、わかってるよ、ステラ。そろそろ休憩時間も終わりだ。また帰る前に連絡するよ」
電話を切り上げ、白衣の襟を正し、ネクタイが緩んでいる箇所を正す男性。
「—————————夢のような未来を勝ち取った先に、宇宙に潜んでいた、定められた厄災…‥そしてその先の‥‥‥」
戦争が始まろうとしている。彼は、戦争の恐ろしさを十分理解している。
「—————————」
白衣の男性、シン・アスカは、命が尽きる日常が迫っている現実に深く息を吐いたのだった。
鈴村さん役のキャラは、なぜ影をつけやすいのか・・・・・