Muv-Luv change the Alternative ~advent of crimson glint~   作:傍観者改め、介入者

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ついに帝都燃ゆの前半に突入しますね。


第六話 運命が重なる時

混迷を極める第五惑星地球。現在地球連邦軍所属、第八艦隊が日本帝国に派遣され、琵琶湖付近にて駐在しているが、もう一つの大艦隊がその救援に向かっていた。

 

地球連邦軍が誇る精鋭部隊、オリジナル10の一角、アスラン・ザラ大佐を擁する第七艦隊である。

 

その途中にて、ザラ大佐は選択を迫られていた。

 

「ハイパースペースジャンプ準備中に、地球型惑星を発見しました。座標は、第五惑星より200光年ほどの距離に位置しています」

 

探索は中止とされている。そして、第四までは比較的に100光年以内に納まっていた惑星群の中において、第五惑星は最も遠い惑星だった第四惑星から50光年。今回発見された第六の惑星は、第一惑星、通称エリア0から遠い宙域に存在していたのだ。

 

観測班から齎された情報により、ブリッジに緊張が走る。

 

「———————敵性生物が存在するこの宙域で、艦隊を分けることは自殺行為に等しい。今は第五惑星に進路をとれ。議会にはハイパースペース終了後に私が状況説明を行う」

 

アスランは第六惑星への介入を取りやめた。ただでさえ、第五惑星で少なくない犠牲が出ており、第八艦隊だけでは対応が難しいのだ。

 

 

見方を変えれば、6番目の惑星から逃げたといえるだろうが、今は目に見える命を守る時。第七艦隊はハイパースペースジャンプを行い、現宙域を離脱したのだった。

 

 

 

彼らは知らない。もしかすれば、キラ・ヤマト中佐ならば辿り着けるかもしれなかった。彼ならば、その惑星の周辺を調べるまではしていただろう。

 

 

————————(仮称)第6惑星、月衛星軌道上、コロニー・プロメテウス

 

 

 

 

そこには、戦争が存在していた。

 

赤と緑、黄色、青。様々な閃光という名の砲撃が飛び交い、“異形の着陸ユニット”の効果を防ごうと足掻いている。

 

それは巨大で、物資に限りのある人類ではどうにもならない存在でもあった。

 

「こいつを行かせるな!! コロニーに着陸された場合、こちらではどうにもならないぞ!!」

 

着陸ユニットがその目的を果たした場合、中に満載されている大量の怪物を解き放つことになるのだ。それだけは絶対に阻止しなくてはならない。

 

「ダメです!! 月方面より多数の高エネルギー反応! うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!」

 

「ダメだ、避け切れぁぁぁぁぁ!!!!」

 

地球を奪われ、月に追いやられ、数少ないコロニーを保有するこの星の人類は、後がなかった。そして今現在、月さえもユニットの着陸を許し、多方面からの攻撃を受けている。

 

「こんな時、あのお方さえいれば、あのお方がご存命ならば‥‥‥」

 

艦船のブリッジでは、彼の不在を悔やむ艦長の姿が。つかの間の平和を掴み取った矢先の宇宙生命体との全面戦争。人類は相次ぐ全面戦争で疲弊しきっていた。

 

 

 

第6惑星と後に呼ばれるこの星は、機械AIを発展させた世界だった。人類は度重なる戦争に次ぐ戦争で、平和に対する歪んだ思想が強まっていったのだ。

 

最初は遺伝子による人類の適性を見極め、その人生を安全に謳歌させるものだった。だが、遺伝子による劣性、優性による違いが差別を生み、人類は絶滅戦争の一歩手前まで進んでしまった。奇しくも、アスランたちが生まれた星と同じ争いがおこっていたのだ。

 

 

混迷を極める世界。だが、やはり自然界の法則なのか、劣性遺伝子が淘汰されるという現実が残り、劣性遺伝子は生まれる前に切除されるという悍ましいルールが出来てしまった。

 

 

それでも、優性遺伝子の間での争いがおこり、人は差別を辞められないと人類は絶望した。その後、人類は劇的な政治体制の変革を試みるがどれも上手くいかない。そもそも、この星の人類は人類自体に絶望していた。

 

人を信じられなくなったらそれは暗黒だ。だからこそ、あらゆる手立てが結局は行き詰る。その世界には、“英雄”は生まれなかった。

 

核となる人物たちは存在していた。しかし、彼らも結局世界の抱える歪みに耐え切れず、理想を諦めたり、理想に殉じて道半ばで命を散らす。

 

 

だが、本当の絶望はここからだった。人類は人類の命運を機械知性に託してしまった。これが最初の致命的な失敗。

 

結果として、人類は機械生命体から地球に不要な存在とみなされ、絶滅戦争が起きてしまった。だが、絶望の中に希望はあった。

 

人類側に味方した、“真紅の巨人”とともに虹の地平線より現れた英雄。“彼”の登場により、敵性機械生命体は滅ぼされ、彼の従者となっていた機械生命体が生き残った人類を導いた。

 

その存在は神の如き力を振るい、機械生命体を次々と無力化していく。その在り様、その振る舞いはもはや生命体の枠をはみ出しており、彼の前では戦争という単語が消えた。

 

 

紅の巨人を従える彼の振る舞い、彼の行いは、まさしく神の裁きと言えるものだった。

 

 

 

機械知性は恐怖した。原初へとその存在を回帰させる力を持つ真紅の巨人に。あらゆる反攻は無力化され、彼らの武器は資源へと回帰する。

 

 

人類は讃えた。真紅の巨人の名を。その巨人を操る存在を。

 

 

 

 

 

その男の名前は、リオン・フラガといった。

 

 

 

 

 

 

だが戦争終結後、彼の従者たる機械生命体が一応の世界情勢の安定を図ったある日、彼の命は停止し、その存在は消失した。

 

——————彼の終わりは定められていたのです。

 

従者は、人間のようにその消失を説明した。

 

——————彼は、彼が存在できるその瞬間まで、抗うと決めました。あの日から、彼はその時を命の刻限と定め、一つの制限を課すことで世界に顕現しました。

 

残されたのは、青年が操っていた真紅の巨人と、彼につき従う“女性”の人格を持つ機械生命体。

 

 

 

 

だが復興の矢先に、それは襲来してしまったのだ。

 

 

 

 

とある星では、BETAと呼ばれる怪物。この星では、その醜悪な外見からキメラと命名された人類に対する敵性生物。

 

「いやぁぁぁぁっぁ、こないで!! こないでぇぇぇぇ!!!」

 

「く、くわれる!! くわギャァァァァァァァ!!!!!」

 

廃墟と化した街に響く悲鳴が次々とぶつ切りのように途絶えていく。世界の大半が海に沈み、死の惑星となりつつあった人類には強大過ぎる圧倒的な物量と、その脅威的な生態。

 

「マーク!? マーク、返事をして!! マークゥゥゥぅ!!!」

 

「ダメだ、ロストした!! もう彼は助からない!! 逃げるんだ、せめて君だけでも!!」

 

基本的なマンパワーが低下していた人類は、一気に地球を奪われたのだ。前の大戦でエースパイロットは軒並み戦死しており、生き残ったエースたちもレーザーを射出するキメラに撃墜されていく。

 

「やめてくれ、姐さん!! なぜあなたが!! 殿なんて無茶だ!! ダメだ、やめろぉぉぉ!!」

 

少年兵士が泣き叫びながら僚機に伴われて離脱していく。そして残った彼女と彼女につき従う兵士たちが迫りくる着陸ユニットから這い出た怪物へと迫る。

 

「———————ここから先には通さん。人類を舐めるなよ、宇宙生物」

 

その女性は凛々しく、騎士道精神のようなもので出来ていた。だからこそ、弱気を守り、彼らを脅かす脅威に立ち向かう。

 

—————マーク、エリス、ラナロウさん。申し訳ない。

 

迫りくる閃光を躱しながら、彼女はヴァルハラへと先に旅立った戦友たちに詫びる。光を出す怪物は、数が少なく、すぐにコロニーへの攻撃手段は失われる。しかし、月の表面からは穴という穴から這い出る怪物の大群。

 

「エルフリーデ少佐、敵が減りません!!」

 

「くそっ、奴らもう月にもファクトリーを作りやがったのか!! くそったれが!!」

 

 

先ほどから奮戦する彼女らの武形が苦境を伝える。キメラの数は暴力的である。だからこそ、先に逝った戦友たちもその暴力の前に力尽きたのだ。

 

—————私ももうすぐそちらに向かうでしょう

 

 

民間コロニープロメテウス、並びに機械生命体の名前から箱舟型コロニーノアが月から離脱していく。その十分な時間を稼いだ。

 

しかし、数の暴力には抗えない。部下の一人が戦車クラスのキメラに取りつかれ、機能不全に陥りつつあった。

 

「エルフリーデ隊長、自分はここまでのようです。お先にッ!!」

 

 

周囲の怪物どもを巻き込みながら、部下の一人が自爆した。その爆風により、怪物どもは爆風で吹き飛ばされ、四肢を捥がれ、部位が破損するなど、強烈な最期の一撃が与えられていく。

 

 

そんな地獄のような現実が繰り返される。自決できることの方が救いである、そんな戦場に彼女らは残り、箱舟の逃げる時間を稼いだ。

 

 

———————隊長の指揮かで最後まで戦い続けられたことは誉です!!

 

 

———————出来る事ならば————隊長…‥無粋でしたな、おさらばですっ!!

 

 

箱舟の中に眠る人類の希望。いつか、あの真紅の巨人を操ることの出来る存在が現れるまで。

 

 

生前に彼が残した、あの紅の巨人を上回る武器をくみ上げるまで。人類は終わるわけにはいかないのだ。

 

「!?」

機体の反応が鈍くなったのではない。機体の操作とは違う動きをしてしまったのだ。それはマニピュレータが歪んだのか、それとも駆動系に異常が出始めたのか。どちらにせよ、もうまともに戦うことは難しいようだった。

 

——————ついに私の番、ということか

 

そして、逃げ道のない勝算が完全に失われた戦場で、彼女の機体もボロボロとなっていた。それは怪物どもの攻撃を受けたわけではない。機体を酷使したことで、限界が訪れてしまったということだ。

 

 

「人類は必ず勝利する。精々勝ち誇っておけ」

 

 

自爆装置と共に、彼女の——————エルフリーデ・シュルツの体は永遠に世界から消失した。

 

 

次に彼女が目を覚ましたのは、虹色の光が輝く世界だった。所謂あの世と言われる場所なのだろうかと、彼女は首をかしげる。

 

「—————————————」

 

しかし、何の感情もわかない。何をしていたのかはわかる。しかし、それは記録でしかなく、記憶ではなくなっていた。

 

 

彼女の向かう先には、はっきりとした輪郭があった。何かをしゃべっている。しかし、なにも聞き取れない、なにも感じ取れない。

 

 

 

その青年が、黄金に輝く髪が靡き、揺れることのない深い、深い青色の瞳が、彼女を受け入れているかのように顕現していた。

 

 

だが、それだけだ。青年はなにもしない。

 

しかし、彼女はそれを、その青年を記録で知っていた。

 

懐かしい光景だった。それは幼少の頃に、戦争が終わった直後に写真で目にした、若い男だった。皆が慕い、皆が尊敬し、皆が崇めた英雄の姿だ。

 

 

「——————————————————————」

 

 

 

 

「あ———————あぁ‥‥‥‥‥‥」

 

そんな男の声なき声を聴きながら、彼女の魂は輪廻の流れへと渡っていく。それを見届けたのは、虹の守り神となった英雄。

 

 

ある“青年たち”の願いによって、仕組まれた運命の中で生まれた、異邦の血を継ぐもの。

 

 

そんな彼に見送られ、彼女は戦士としての生涯を終えた。

 

 

 

とても悲壮で、どこにでもある悲劇だ。しかし人類は負けない。人類は、負けない。

 

 

 

その意志を最後まで貫いた。彼女の意志はきっと誰かが担うだろう。誰が担うかは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ラスとウェイブたちのフラガ家、ウィンスレットの使節団が第五惑星地球とのコンタクトをとっており、その簡易的な取り決めがまとまりつつある中、第七艦隊はこの惑星に到着した。

 

彼らは第八艦隊の援軍として、この星での作戦行動を担うこととなる。

 

 

 

「—————ここが、5番目の地球。今までが順調なだけで、こういったことも起こり得る、か」

 

その総司令官であり、あの大戦を生き残ったロメロ・パル少将は、その月に蠢く者を見て憂鬱な表情を浮かべていた。

 

「ですが、これがこの星の現状。バジルール中将が即決できないことの、何よりも勝る証明でしょう」

 

隣にいるのは、第七艦隊の切り札、アスラン・ザラ大佐。便宜上佐官に落ち着いているが、四大将軍の中でもトップクラスの権限を持つ唯一の存在だ。

 

キラ・ヤマトが戦術面での独自行動が許されている中、アスラン・ザラは評議会において、出席する権利を与えられている。

 

これは、大戦中、氏族の影となり懐刀となった、リオン・フラガと同等の名誉と責任である。

 

「—————ザラ大佐。あの月を見てどう思う? 聞けば、20世紀後半に出来たばかりだというぞ。それであの規模だ。BETAの脅威は本物だ」

 

 

「—————あれを作られると破壊するには厄介です。降下ユニットを着陸前に撃墜する。対空防御は我らの勢力圏において整っていますが、ここではその常識はありません。やはり、我々が介入するには月が一番無難でしょう」

 

地球圏内であれば、余計な混乱を招くことになる。すでに故国を失った難民と政府は、連邦に対して懇願するだろう。そして、問題なのはそれが複数ということだ。

 

月であれば、余計な国家同士の混乱も防げる。月より降下するユニットの断絶につながる。そして、連邦軍はこれ以上ないBETA戦略における前線基地を構築できる。

 

 

「ふむ。ジェネシスの建設に既に取り掛かっていると聞くが、やはりあと半年以上はかかるとの見込みだ。シビリアンを動員してもだ」

 

 

「なるほど。シビリアンを動員してもか」

 

時間が足りない。シビリアンアストレイによる工期短縮を計算に入れても、現在接触している帝国への侵攻には間に合わないと評議会は判断している。

 

「————現状、評議会は軍事面以外での帝国との接触を許しているはずです。兄貴は何をやっている?」

 

そこへ、横槍を入れる形で話に参加したのは、ディルムッド・F・クライン中尉である。連邦軍事教練学校において、優秀な成績を収めたものとして、キャリアを始めたものである。

 

ちなみに、実技1位はジグルド、技術1位もジグルドであり、座学はディルムッドが首位を獲得している。なお、ディルムッドは実技3位、技術2位である。

 

 

 

主席であるジグルド・F・アスハは、この状況で帝国との交渉を長引かせている。軍事行動以外での判断は既に終わっているのにもかかわらず

 

「ジグルドは、私と同じ危惧を考えている。何を救うか、何処から救うのかを」

 

アスランは、その冷静な目でディルムッドの逸る気持ちを諫める。その思いは間違いではないが、手順を間違えれば余計な混乱を与えるだけなのだと。

 

「今後、我々は帝国以外の国家とも国交を開く必要がある。そして、その為には主観的な側面ではなく、客観的な要素がより重要になる。我々が現状知り得る帝国に固執し、他の声を疎かにするのは避ける必要がある」

 

「ですが————」

 

「—————そうだな。我々はBETAに対する知識を有していない。誰か学びに出てくれないだろうか?」

 

突拍子もないことを言い出すアスラン。BETAに対する知識は必要だが、ディルムッドとしては、頭に疑問符が浮かび上がる。

 

「————貴様の兄であるジグルドにも話は通っているはずだ。連邦軍の為、これから戦うことになるであろう敵の本質を我々に伝えてほしい」

 

「であるなら私に断る道理はありません。BETAの本質、見極めさせていただきます。ですが大佐」

 

 

ディルムッドは、アスランとジグルドの考えに異を唱える。

 

 

「参戦するのが遅いか速いかの問題は、現在戦火に晒される人類を見捨てることになりかねないのではありませんか?」

 

直情的に市民の守護が必要ではないかと、やや正義感が勝るディルムッドは気が逸っていた。

 

 

「我々は慈善団体ではない、軍人だ。連邦勢力圏に座すメディアも我慢している。軍人がクローズアップされ、自浄作用の働いている彼らとて、これほど重大なスクープを規制しているのだ」

 

メディアの上層部も、第5惑星地球の惨状を報道するのをためらっている。人類を食す怪物のことを晒せば、どれだけの混乱を招くか想定できない。

 

 

間違いなく人類の危機である。報道しなければならない今すぐに。だが、その覚悟と準備がまだできていない。地球連邦政府も、マスコミも。

 

時期があるのだ。真実を伝える時期も、その戦争に参加する時期にも。

 

 

「—————わかり、ました」

 

ディルムッドは、悔しそうな顔を隠すこともなく了承する。彼が去った後、

 

 

「—————ディルムッドは、やはり青い部分が目立つな」

 

「————英雄リオンに一番憧れていましたからね。しかし、まだ彼の域ではない。彼は目の前の命に固執する。悪いことではないが、大局を見やることが出来ていない」

 

直情的で、生真面目な性格だ。しかし、目の前の命を前に判断が固定されてしまう難点がある。

 

「これから我々がかかわるのは、絶望的な戦場だ。一人の命を救う前に、もっと多くの人間が死ぬような地獄だ。判断を誤らねばいいが————」

 

アスランはディルムッドのことを案じていた。

 

ジグルドの様に必要とあらば、悔しさを秘めつつも犠牲を黙認する理性を持ち合わせているわけではない。

 

軍事の道を進まなかったロビンは、ジグルドやディルムッドの様な果断さはない。

 

フラガ家の秘書である妹のグラニアは、そんな兄を心配するだろう。ディルムッドの長所でもあり、短所でもある願望に突き刺さる行動を突き進む、人を揺り動かすものを持つ。

 

 

ジグルドには、リオンの気質と、苦労人気質が。しかし彼には迷いがある。その迷いが彼の成長の伸び代ともいえる。その迷いは冷徹さとの攻防。冷酷な判断がすでに彼の頭の中には出てきている。今彼は感性がそれを抑えているに過ぎない。

 

だが、その迷いこそがジグルドをリオンと等しい存在になることを阻止している。彼は恐れているのだ。一度一線を越えて冷徹な判断を下せば、自分はもう戻れなくなると。

 

 

ジグルドの弟ロビンには、人の輪を尊び、世界をより良い方向へと動かすリオンの信念が。リオンの“本音”を受け継いだ彼は、彼よりも優しく世界と向き合うだろう。ゆえに、軍人の道を自ら閉ざしたのだが。

 

 

ディルムッドは、“土壇場”でのリオンのお人好しな一面が。そして、頭では理解していても、目の前の命を捨てきれない。

 

話は、ディルムッドたちが短期間通う学校へと切り替わる。

 

「だが、このご時世。男子の数が減ってきているとは言うが、うーん」

 

「—————ああ。これは恐らく、意図的なものだろう。斑鳩という男。実に賢しい策を講じたな」

 

 

ジグルドは、その真意を感じつつも、指令であるためにその任務に就くことに異議はない。

 

 

 

 

そして、アスランはそんな彼らと青年となった彼を見た際、ジグルドのその姿を見てリオンと見違えてしまった。

 

—————あまりにも似ている。あの暗い瞳も、その暗い瞳が深淵を映す様

 

あれは、訓練でものにできる眼ではない。世界の真理に近づき、それでもと器になった青年と同じものを持っていた。

 

その容姿もそうだ。リオンとジグルドは、あまりにも容姿が似ているのだ。戦時中に聖女が授かったカタワレの一人。

 

他の子どもたちがリオンの面影を感じさせつつも、はっきりと違う容姿になっているにもかかわらず、一人だけ違う。

 

双子の弟、ロビンでさえ、面影程度だったのだ。なぜジグルドだけ、という謎があった。

 

それは遺伝子的な要因、偶発的なものと医学関連の上層部は判断した。表面上では納得できるものである。

 

しかしアスランだけは、言いようのない不安をぬぐうことが出来なかった。

 

 

 

 

彼は英雄を継ぐ者の中で唯一、ロンド・ギナ・サハクの暗殺を知っている。リオンが自らオーブの氏族を殺したという事実を。

 

そして、多くの者を謀略で退け、その力で葬り去った事実を、受け止めている。

 

 

英雄の息子であることを誇りに思うディルムッドたちとは違い、ジグルドは異質そのものだった。

 

—————英雄と言っても、人殺しだ。父さんではあるけど、英雄であることを誇りには思えない。けどもし生きているなら、父さんのこと、好きになっていただろうけど。

 

その時、ジグルドは首を傾げた。己の言動に違和感を覚えていた。

 

 

 

————————あれ? なんで…‥なんで俺、生きていたらって、言ったんだろう…‥

 

 

 

だからこそ、焔に輝く母親譲りの瞳が、最後の抵抗に思えてしまう。

 

 

 

 

 

 

帝国と第八艦隊のコンタクトの後、モニター越しではあるが、連邦政府と内閣閣僚を含めた会合が行われたという。

 

 

出席者には榊首相を含む内閣閣僚。そして政威大将軍に就任した煌武院悠陽、五摂家当主と、一部の高位者。

 

軍事的な同盟はまだ結ぶことは出来ず、連邦政府の最初の攻撃拠点は月になる見通しだと通達。

 

閣僚の中で、連邦政府が進んで出血を強いる意思が現状ないことを確認し、不満げな顔を見せることもあったが、自国民を危険な場所に放り出すことはできないのは共通の認識だ。

 

今後も物資などの支援を行うということで一致。正式に国交も開かれ、今後はBETAに関する情報提供を受けるつもりだという。

 

それを帝国政府も了承。しかし、内心ではどうにか彼らとともに戦場に立てないものかと考える者もいたという。

 

 

 

そして、ジグルドたちの派遣先はというと———————

 

 

1997年9月

 

 

「——————聞いていないぞ、ヤマト中佐——————」

 

「ああ。俺も聞いていないぞ、ザラ大佐」

 

ジグルドとディルムッドその他の若手トップガンたちは、死んだような眼でその学校の校門を眺めていた。彼ら以外の中隊メンバーもげんなりとした表情で、その門に書かれている名前を見て、頭を抱えていた。約一名中隊の紅一点が、「女学院なんて新鮮だわぁ」とニコニコしていたが。

 

 

 

山百合女子衛士訓練学校

 

 

 

 

女子高である。しかも、19歳の面子は未成年ではあるが、他にはすでに成人している隊員もいる。対して彼女らは14歳そこらである。これはなんて拷問なのだと、彼らは悩んだ。

 

ジグルドが改めて周囲の隊員の様子を窺う。他の年上の士官も居心地が悪そうにしていた。矢面に立つことを避けているようにも見える態度には、理解を覚える一方、ジグルドは自分がそういう役目を受け持つのだと諦める。

 

「………軍務なのだから仕方ない。これを終えれば、BETAの知識を収集すれば問題ない。多少上官に戸惑いは覚えたが」

ジグルドは頭を抱えるのをやめ、苦笑いしながら門をくぐる。

 

「そ、その通りだ。こんなことで動揺とは、母さんたちに笑われてしまう」

ディルムッドは尚も青い顔をしながら後に続き、彼の同期達もそれに続いていく。

 

「ジークとディルが向かうなら何とかなるかな? なんにせよ、色々策謀の匂いがプンプンするね」

そんな二人の親友でもあるクロード・ミリッチは、冷静に今の状況を分析していた。

 

 

「—————クロードの言うあれって」

 

「まあ、そうだろ。ここって所謂貴族のお嬢様方の学校のことかな?」

 

 

「ちげぇよ、貴族じゃなくてサムライだって。日本語だと武士、武家? 前に近代の歴史であったジパングの種族名だっけ?」

 

頓珍漢な言葉を口にする青年。隣にいた青年がジト目でそれを訂正する。

 

「地位や身分のことだぞ、ゼト。黒船来航からの幕末、その動乱の中で長年ニッポン、ニホンと呼ばれる国を守り続けた戦士たちのことだぞ。ここの歴史だと、まだサムライは現役のようだけどさ」

なんなんだよ種族って、とヴィストンにツッコミを入れるゼト。ヴィストンより先に見当違いなコメントを残したオーブ出身の青年ウォルト・マーニュはなるほどとつぶやいていた。

 

—————けど、貴族と武士って、何か違うのかなぁ。特権階級みたいだし、文化の違いか?

 

そして彼らがそんな雑談の前に腹に抱えている本音は、色仕掛けや感情移入をあわよくば狙っているというちょっと言葉にならない策略が込みであることを認識している。

 

 

「けどいいじゃねぇか。綺麗所を見ながら奴らの実態を把握できる。ストレス解消にはよさげだぜ、いろいろと」

 

しかし、逆にテンションをあげている者もいた。同期ではないが、ジグルドの先任少尉であるヘリック・ベタンコートだ。第八艦隊でも、おそらく次の特殊戦略中隊でもムードメーカーになり得る男。

 

「ウォルトの言う通り、武家の御嬢様方だ。しかし、貴族よりもある意味格式にこだわるという情報もある。みんな、礼儀作法に関しては郷に従うべきだろう」

ジグルドは、些細な違いにも修正をする。これから出向く先はデリケートな場所である。ニュアンスの違いからトラブルを起こすのはご遠慮したいのだ。

 

—————情報源がヤマト中佐なのが限りなく胡散臭い。あの人絶対面白がっているでしょ……‥

 

キラからは、「うっかり心根が清らかだからと言って、アプローチしたら即国際問題だよ。現地妻のインスタントな出来上がりだよ~」と笑えないジョークをかけられている。

 

 

 

「私よりも年下かぁ。なんだかこういう機会は久しぶりね。」

 

「姐さん。女性だからと言って、口説かないでくださいよ」

かつてキラとリオンに救われた女性、エル・バートレット少尉は、ウォルト・マーニュ少尉に女性を口説く無自覚な習性について、警告される。以前の訓練学校時代でも女性人気が高く、しかも男性からも人気が高い存在でもあった彼女。

 

男勝りでありながら、粗忽な面はなく、サバサバしていても、どこか品がある。そんな自由人な彼女はこの中隊の中でも姐さんと慕われるに十分な魅力を持っていた。

 

そんなこんなで、ドキドキワクワクの学園での体験入学は幕を開ける。

 

 

彼らは羞恥心を仮面に隠し、その門をたたくことになる。

 

 

その頃、第1地球惑星にて

 

『と、いうわけだ。ディルムッドたちは、山百合女子衛士訓練学校に短期間だが通うことになる』

 

「おいおい!! まじかよ!! あの堅物のジグルドがそんな目に遭っているのかよ」

 

笑いながらアスランの報告を聞くのは四大将軍の一人、エリク・ブロードウェイ中佐である。

 

『だが、俺は奴からリオンの影を削ぎ落す好機であるとみている』

 

アスランの瞳は真剣だった。人とのかかわりにあまり積極的では無いジグルドに、それを教えるのもいい機会だ。

 

すると、エリクの表情からも笑みが消える。

 

「——————まあ、俺から見ても、あいつはリオンに似すぎている。青二才な分、まだ自信がなさそうだが、あれで一人前になれば、リオンそのものになっちまうな、ありゃ」

 

ジグルドがリオンになり得る存在。平時であれば、それは問題なかっただろう。だが、この先彼らの戦争に巻き込まれるのだとすれば、話は変わってくる。

 

 

戦乱という混迷期にこそ、リオン・フラガはこれ以上ないほどに輝いた。ならば、彼の資質を最も受け継いでいるジグルドは—————

 

「—————キラは、リオンを目標としていたからな。だから、敢えて止めないのだろう」

 

キラ・ヤマトは、リオンにあこがれを抱いている。それは四大将軍に次ぐ実力者たちと同じだ。だが、彼らとは違い、キラはその思いが強かった。

 

 

家庭を持ったことで落ち着いた友人たち。未だに独身貴族のキラ。まるで、死に場所を求めているかのような、傷つく存在を減らそうとしているような気がしてならない。

 

 

 

「—————まあ、あれだ。俺も動くわけにはいかんからな。それぞれ切り札が星にいないと話にならん。これは、それぐらいのやべー案件だ」

 

 

四大将軍を分散させ、BETAの襲撃に備える。末端の兵士たちは既に知っている。BETAは人を食らうのだと。

 

軍務、軍規を良く守り、彼らは秘密を守り続けている。これも、憎らしいがリオンの影響だろう。

 

『わかっている。エリクが本局の第一惑星を、スウェンは第二、第三を警戒し、主力艦隊は第四惑星に駐屯。後は俺たちに次ぐ実力者が固めているのが現状。厄災の原因が住み着く星に俺とキラがいる。その意味は理解しているさ』

 

切り札が二人いる時点で敗北は許されない。彼らはそれだけの力を誇るのだから。

 

「なんにせよ、他の星は任せておけ。こっちはこっちで秘策もいろいろあるしな」

 

 

『ならば心配はしないでおこう。またな、エリク』

エリクの言葉に、ふっと笑うアスラン。

 

「おう。またな、アスラン」

 

そしてエリクもまたアスランに微笑み返すのだった。

 

 

 

そして、横浜に基地を置く白陵基地にはある女性が、異星人との交流で策を講じつつあった。

 

 

「ふ~ん、そう。やはり、連邦政府とやらはまだ動く気配がないのね?」

 

紫色の髪の女性は、推察通りの答えを聞いて興味なさそうに聞き手に徹する。

 

「いやはや。やはり彼らもBETA大戦の悲惨さを断片的ではあるが、理解したようでね。現在第七と第八の艦隊を寄こしてはいるが、物資支援で落ち着くことにしたという」

 

話をするのは壮年の男性。その名を鎧左近という。帝国の諜報活動、情報第二課など、様々な肩書を持つ帝都の怪人。

 

「—————こちらとしては、どうにもこうにも。相手は強大な組織で、国家が団結している。我々の星とは違い、国連に該当する地球連邦の自浄作用が機能しているようだったよ」

 

人類滅亡というシナリオを回避するために、ある英雄が最後の犠牲になったという。彼の描いた未来と、彼の小さな働きが、世界を動かし、終戦へと導いた。

 

破滅の光を、希望の光によって防いだ彼は彼らの信仰対象であり、そんな英雄への贖罪の気持ちも込め、彼らは自らを律しているのだ。

 

世界を好きになりたがっていた青年の非業の死を、アフリカで再会の約束を果たさなかったこと、口説き文句としては女殺しもいいところなセリフを守れなかったこと、

 

比翼と謳われた、聖女の子供たちを、歌姫と謳われた彼女の子供たちと、生き別れた妹たちと出会うことなく散ったこと。

 

英雄リオン・フラガがいかに世界に貢献したかを熱弁する連邦政府閣僚。他の面々は軽く諫めるだけであったが、思いは一緒なのだろう。

 

―――――故に、付け入るならばここだ

 

「なるほど、お人好しな集団なわけね。裏切ることはしないけれど、裏切られることはあるかもしれないほどの」

 

リオン・フラガならば、この星を放置するわけがないという疑念を植え付ける。いずれ大切なものを奪われるかもしれないという恐怖を、与えるべきなのだ。

 

連邦政府の面々は、かなりその英雄に肩入れしていると見える。そこを突けば、彼らもぐらつくだろう。

 

時に、若手兵士の一部が京都の訓練学校にてBETAの知識を収集するために短期間通うことになるらしい。

 

その中には———————

 

「英雄の残滓が、そこを訪れるというわけね」

 

紫色の髪の女性—————香月夕呼は嗤う。そんなガードの甘い行動をとってしまうのかと、呆れてしまう。早期に彼らをこの戦争に巻き込むためには、彼の英雄の残滓に何かが起きなければならない。

 

恐らく、それは斯衛の誰かも画策したのだろう。敢えて年若い女子学生のいる場所へと放り込んだのだから。

 

彼らは戦場に放り込まれることになる女子学生たちを見て哀れに思うかもしれない。なぜ戦地へと送られるのかと悩むだろう。

 

そして、BETAの帝国への侵攻は、もはや回避できない未来である。その際に、あの英雄が上手く暴走すれば、その戦闘に介入し、傷つくようなことがあれば—————

 

 

大切な英雄の形見を、失うようなことがあれば——————

 

「—————彼らはまるで分っていない。19年もの平和な時間、平和な未来。その年月の経過で、すっかり牙は抜き取られている」

 

だから彼らは、善意を信じている。その中に潜む悪意に鈍いのだ。鈍くなってしまっている。

 

しかし、この帝国がBETAに侵略されたとき、彼らは悟るだろう。

 

BETAに奪われるというのは、こういうことなのだと。それは、すでに彼らが目にしていない大陸で起こり続けたことなのだということを。

 

日本が彼らを参戦へと歩ませる贄だというなら、BETAに勝つためには切り捨てる事も厭わない。もしかすれば、この防衛戦で自分も死ぬかもしれない。

 

出口の見えないオルタネイティブ計画よりも、数十倍の未来と技術を獲得している彼らのほうが、よほど可能性が高い。

 

 

そもそも世界的な次元で彼らには劣っている。

 

一撃で世界を壊す兵器など、どこにある?

 

そんな一撃を、単騎で止められる英雄がどこにいる?

 

より強固になった世界の絆と、夢に託す思いの強さ。

 

彼らは、彼ら主導になれば、世界は歪ながらも平和になるかもしれない。

 

 

—————人は知ることで、無関心ではいられなくなる。

 

 

この星が滅びても、彼らは知ってしまうだろう。この宇宙には邪悪な存在が、悍ましいものがいるのだと。

 

 

 

 

そして場面は変わり、山百合女子衛士訓練学校。この学校には当然として、男子学生は存在しない。

 

「————————」

 

「——————勘弁してくれ」

 

女子学生に混じり、同じ机で授業を聞いている。横ではちらちらと彼らを見る女子生徒の視線。

 

今のところ、あの会談で教わったBETAの知識は役立っている。その歴史も一応参考程度に抑えることは出来ている。

 

 

しかし、これでは逆に迷惑なのではとジグルドは思う。これでは本来学習するべき彼女たちに不義理だ。

 

 

当初は気が引けるとのことで、資料集を見るだけでよいといったのだが、とある五摂家の男性当主がそれでは失礼だろうと、ここにねじ込んだのだ。

 

一体どういう思惑があったのか、ジグルドやディルムッド以外は考えないようにしているが、ジグルドは複雑な心境だった。

 

 

「本日よりBETAの座学を短期間学びに来た異星人の諸君だ。決して失礼のないように」

 

目の前の隻眼の男からは殺意のこもった目を向けられ、時間を奪われたと恨まれているのが言葉にせずともわかる。

 

————双方ともに不利益なのではないか

 

ジグルドは、苦い顔をして何も言えないクロードとディルムッドたちの気持ちを心の中で代弁する。

 

「地球連邦軍、第八艦隊、機動部隊所属、ジグルド・F・アスハ中尉だ。短い間ではあるが、諸君らとともにBETAについて勉強させていただく。よろしく頼む」

 

 

「第七艦隊所属、ディルムッド・F・クライン中尉だ。短い間だが、よろしく頼む」

 

他の面々も彼らに続いて自己紹介を行い、所属を述べる。それに倣い、クロードやゼト、ウォルト、エル、ヘリックも続いていく。しかし、ヘリックの場合は、一部のクールそうなお嬢様約一名に睨まれていた。

 

そして、ようやく座学が終了し、緊張で疲れ気味のディルムッド。

 

「……ようやく終わったか」

ジト目になったまま、ジグルドは席を立ちあがる。

 

「あ、ああ。奇異の眼で見られるのもあれだが、教官殿らの殺気だった眼が申し訳なく思う」

ディルムッドは、授業中の二種類の目線でクタクタになっており、奇異の眼を避けるためにジグルドを人柱に使った。

 

————分かった。粗方相手をするからお前たちは休んでおけ

 

 

ジグルドが身を挺して自分の体力を守ったことに感謝しつつ、体力回復に努めるのだった。

 

部隊の面々が我先にとはいかないがそそくさと教室を出て行く。当然宇宙人に興味津々な思春期を迎える女子学生はそれを放置するはずがない。だが、そこに人柱の如く現れるジグルド。

 

 

「あの、ジグルドさんたちは、こことは違う星から来たんですよね!?」

 

「ああ。第一惑星地球。君たちと同じ名前の星、100光年ぐらい離れた場所にあるよ。他にも光年ではあるが、200光年以内に4つ星が存在する。うち一つは君達の母星だ」

 

「ほかの星はどうなっているのですか!?」

 

「自然豊かで、まだ人類が生まれていない星もあった。環境を壊さないよう、出来る限り、共存に重きを置いた開拓を推し進めているよ」

 

 

「ジグルドさんは何歳なんですか? その年で中尉って、凄いです!」

 

「19歳だ。もうすぐ20歳になるけどね」

 

質問攻めにあったジグルドは一人ひとり丁寧な口調で答えていき、何と彼女たちの相手をしていく。質問に対して答えを出していく時間が終わり、彼女らも次の時限に向かうべく、この場を去っていく。これでようやく、終わりか、とほっとしているジグルド。

 

戦術機の実技に関しては免除されているため、各々が学園内で休憩をとっている中、ジグルドは日本の自然というものを知るために教室の外に出ていた。

 

「これが、日本の自然というやつか」

 

どこかオーブの寛容さを感じる懐かしい雰囲気。日系人が興した国だと聞いているオーブにも、日本の文化が受け継がれていたのだろうかと首をかしげる。

 

——————この国が、奴らに蹂躙される。この風景も失われる。一介の軍人ではどうにもならないけど、でも、見殺しにするには、関わり過ぎたよな。

 

その時だった。

 

「————————————は?」

 

 

思わず凝視してしまったその光景。痴女か何かと思えるほど、卑猥な衣装。年頃は先ほどの彼女らよりも上だろうか。いや、おそらく同年代だろう。あの教室の中で見た覚えがある。

 

短く切り揃えたショートカットの髪に、やや紫の宝石のような色の眼。鍛錬を欠かさずに行ったと思える、年少だが見事な肢体。

 

「——————あ」

 

少女のほうも、まったく意識していなかったのだろう。どちらも油断をしていた、気を抜いて周囲への警戒を怠っていた。

 

—————思い出した。あれは訓練生の強化服のようなものだったか

 

ど忘れしていたジグルドは、あまりその恰好を見られたくはないだろうとなんでもなさそうに踵を返し、背中を向けてその場を後にする。

 

 

「あの!」

 

しかし少女のほうは、そうではなかったらしい。ジグルドを呼び止めて、声をかける。

 

「——————気遣いは無用だったかな?」

 

ジグルドは、改めて背中を向けたまま確認を取る。その恰好では恥ずかしいだろうと。

 

「い、いえ! 大丈夫です。前線ではこのようなケースも、男女共用のケースもあり得ると、教官が————」

 

やや羞恥心を表しつつも、そこまで気分を害していないと言い切る少女。実地訓練を終えたばかりなのだろうか、Gで若干ふらついているように見える。

 

「—————分かった」

 

背中を見せていた相手に向き直るジグルド。肯定の言葉と共に、振り向いた。

 

そこには自分を気遣ってくれたジグルドに対する感謝の表情があった。

 

「貴方は、噂の異星人の方、ですよね?」

 

「———噂がどのような形になっているか、俺には分からないが、貴女の言葉通りであっている」

 

ジグルドも何か毛の色が違う少女に興味を示した。一方的に興味を見せるのではなく、そんな状況下でも相手を気遣う意思を見せる。

 

育ちがいいのだろう。

 

「————では、貴方はこの星の戦術機を、どう思っていますか?」

 

 

「——————驚いたな、俺たちに向ける質問の中で、そういった代物は初めてだ」

ジグルドは、ますます少女の存在が気になった。面白い少女だと。恐らく、家族か知り合いが戦術機の開発に携わっているのだろうと、察した。

 

 

「—————」

そして少女は返答を黙って聞いている。戦術機について評価を。そして、ジグルドの脳波が彼女から戸惑いと不安、少しばかりの焦燥を感じ取った。

 

—————この子は、世界情勢を知っているのか。他の娘たちとは何か違う。

 

政府筋か、軍人の家系なのだろう。間違いなく彼女は帝国が瀕している危機的状況をある程度把握しているのではないかと、ジグルドは察した。

 

そして、異星人にとっては自分たちの技術は相手にならないものではないかと不安を覚えている。こんなところだろう。

 

「—————あくまで俺たちの物差しだが、構わないだろうか?」

 

 

「構いません」

 

 

覚悟を決めて真剣な表情の少女。ジグルドは自分の感覚で評価を述べた。

 

「1900年代後半、2000年に突入する直前で、ここまでの機動兵器を作れたのは、素直に称賛せざるを得ない。特に、あの刀の形状。切り返しを重要視した、連続攻撃が可能な近接武器は、個人的にはいいものだと思う」

 

日本の刀と呼ばれる武器。その原理は軍学校で把握している。何より、手数の多さを好むジグルドにとって、好ましい武器ではあった。

 

「そ、そうですか」

なぜか、顔を赤くする少女。彼女が作ったわけではないだろうが、やはり戦術機開発に籍を置く者の知り合いか何かなのだろう。

 

「しかし、我々の兵器と比べれば—————不知火、瑞鶴。バランスの取れた機体ではあるが、火力不足だと言わざるを得ない。ついでに言えば、拡張性が限られている」

 

「—————は、はい」

少ししょんぼりする少女。本当にこの少女は何なのだろうか。まるで自分が作った戦術機にダメ出しをされてしょんぼりする技術者のようだ。先ほどは感情を感じ取ってしまったが、今はなるべく見ないようにするジグルド。この娘にも事情があるのだろうと察する。

 

「ジグルド! 放置して済まない、ん? その少女は」

 

「ジグルド様? あの浮ついた話がなかった貴方にまさか!?」

 

そこへ、ディルムッドと同期の面々がやってきたのだ。

 

「—————貴様らがどういう印象を持っているかは別にして、少女とは雑談をしていただけだ。主に、戦術機関連でな」

心外だ、そこのヘリックと一緒にするなと付け加えると、「そりゃあないぜ、ジーク!」と肩をポンポンと叩きながら笑うチャラ男。

 

「うわっ!? メカニックオタクのお前が考えそうなことだな」

 

「ジーク? 機械関連でしかアプローチできないんですか?」

 

甚だ心外と言えるような言葉を吐く面々。ジグルドも何も思わないはずがなく、

 

「俺は当然として、この子も同類であると言っているようなものではないか。言葉を選べ、お前たち。相手はうら若き少女だぞ」

 

「え、えっと—————」

少女は微妙に何か違うと言いたげな表情を浮かべているが、どうすればいいのかを測りかねているようだ。

 

「唯依~~~!! って、おいあれって!」

 

その時だった。少女————唯依の知り合いと思われる一団がやってきたのだ。

 

「—————ふむ。どうやら、また騒ぎになりかねないな。短い期間だが、BETAについて学ばせていただく。明日も会えるかは分からないが、また会おう」

 

「は、はい! また戦術機のことで、お話させてください!」

 

踵を返すジグルド。そしてその後ろ姿に次の話について語る唯依。

 

「お、おい。いいのかよ。もっと話したって俺らは————」

 

「そうですよ、ジーク。貴重な、貴方と話せる少女ですよ?」

 

 

「—————あまり一定の学生と交流を深めるべきではない。その子の周囲にも迷惑がかかる」

 

そう言って、ジグルドはこの場を後にするのだった。

 

 

 

 

そして、取り残された少女————篁唯依は、嬉しさを隠せなかった。

 

————初めてあの刀を見て、褒めてくださるなんて

 

聞けば、あの青年たちは戦術機を見て間もないという。なのに、初見であの刀の特性を見抜き、その原理を称賛した青年のことが頭から離れられない。

 

————父様。父様の努力は素晴らしいものだと、唯依は改めて思います

 

「唯依? あれって、異星人の—————」

小柄で短髪の少女、石見安芸は、彼らを見て勘づく。あれは間違いなく異星人の一団だと。

 

「うん。ジグルド・F・アスハさん。確か噂ではそうだったよね」

 

「金髪で眼光の鋭い、昼間で質問に律儀に応えてくれた方、だったよね、唯依?」

黒髪ロングのお淑やかそうな少女、甲斐志摩子は、唯依に尋ねる。

 

「—————どんな話をしたの、唯依?」

そこへ、眼鏡をかけたやや茶髪の長髪の少女、能登和泉は質問したのだ。あの有名な青年とどんな話をしたのかを。

 

「えっと、戦術機の話————」

 

唯依は正直に答えると、

 

「まあ、唯依らしいか」

 

「うんうん。そうよね」

 

「唯依が話す内容はそこだよね。私も見たいなぁ、異星人の機体」

 

安芸、和泉は唯依がそれしか話さないだろうなとやや呆れており、志摩子は唯依に同調するような言葉で終わる。

 

「はぁ。なぜ私は残念がられねばならないのだろうか」

 

「お子ちゃまだねぇ、唯依は。和泉も何か言ったらどうだ? アドバイスの一つくらい」

 

「な、なんで私に振るのよ!!」

 

 

まだ猶予が残されている日常に、異星人たちがやってきた。それも、BETAのような敵対行動をとる存在ではなく、普通に話せる存在であった。

 

————宇宙には、ああいう存在がいたのですね

 

唯依にはそれが嬉しいものだと思えるのだ。絶望的な世界に現れた、憎悪しか生まなかった宇宙の中に、とても近しい存在がやってきた。

 

 

————切り返しを重要視した、連続攻撃が可能な近接武器は、

 

気が滅入るようなニュースが流れるばかりだった日常が、朝鮮半島での犠牲の先に待つ未来を考えないようにしていた毎日が、

 

—————個人的にはいいものだと思う

 

 

まだ希望はあるかもしれないと思わせてしまう。

 

 




大正義ならば全員生存。

史実通りなら、唯依を残して全滅。

程よく絶望感なら数人生存。

ここって、本当に作者の考えが出てきますね。

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