勝己side
ヒーローネームを決めた放課後、俺たちはいつのまにか通例になってしまった俺たちの秘密基地での特訓をしていた。
しかしそんな中、飯田の調子がいつもに比べて悪いことに気づいた。
「なあ、兄貴が心配ならここに居ないで病院に行った方が良いんじゃないか?」
そんな様子に切島たちも気付いたのか声をかけていた。
「ありがとう。だけど俺が行ったところで役に立てるわけでもないからな」
「そんなことねぇって。なぁ爆豪」
「ああ、そうだな。家族が近くに居てくれるだけで励みになると思うぞ」
俺がそう言うと飯田の奴は急に地面を叩いて。
「違う。兄さんはもう、ヒーローとして活躍できないんだ!!」
その言葉に俺たちは驚きを隠せないでいた。
「意識を取り戻す事には成功した。だけど、足の感覚がないそうだ。医者にもブラックジャック並みの腕がないと治せないと言われてしまった」
「だったらそういった医者に頼めば」
上鳴がそう言うと。
「何を言ってるんだ!。ブラックジャックなんて漫画のキャラでしかないじゃないか!。そんな人が現実に居るわけないじゃないか!!」
「うっ」
そんな事を言われて上鳴はばつが悪そうな顔をしていた。
しかし。
「あの、飯田さん。ブラックジャックに近い手術が出来そうな人、私たちの身近にいませんか?」
八百万がそう言うと。
「そんな人がいる…わ…け…」
飯田は否定しようとしたが、その場にいた1名を除く全員が気づいた。
ブラックジャックに近い医者ではなくとも、それを“再現”出来る人物がいることに。
そして俺たちは一斉にそれが出来る人物。
即ちデクを見る。
「え、どうしたの?」
次の瞬間、飯田はデクに詰め寄り。
「緑谷くん、頼む。兄さんの、インゲニウの足を治してくれ」
「う、うん。見るだけ見てみるね」
そう言ってデクは飯田の兄の見舞いに向かって行った。
病院 天哉side
僕が緑谷くんを兄さんの病室に案内すると。
「天哉、また見舞いに来てくれたんだな。それにそこにいるのは」
「僕の友人の」
「緑谷くんか。久しぶりだね」
「お久しぶりです、インゲニウム。それともここでは天晴さんって呼んだ方が良いですか?」
驚いたことに兄さんは既に緑谷くんの事を知っていた。
「緑谷くん、兄さんと知り合いなのか?」
「エリちゃん関連で色々とお世話になったんだ。それで、足の事ですけど、見せてもらいますね」
兄さんの足を観察している緑谷くん。
「治せないことはない。けど、環境が良くないから転院させてもらおう。飯田くん、悪いけど院長さんにこの案内状を持って行ってくれる」
「解った」
受け取った案内状には医者の名前の所にGrünes Talと書かれていた。
どんな人物かは知らないが、前にニュースで聞いたことがある名前だ。
それに僕は切島くんにブラックジャックみたいな医者なんていないと言ったか、あれは嘘だ。
そういった事が出来る医者を知っていた。
その人物というのがGrünes Talという医者だ。
メディア嫌いで映像や画像を一切残さないうえにものすごい法外な医療費を請求するがめつい無免許の医者だと。
最低でもその国のお金で100万は請求するらしい。
だがしかし、腕は確かでその人物が立ち会った手術の成功率は100%という噂だ。
しかし、緑谷くんはなぜその用な人物と連絡が取れたのか解らないが僕は兄さんが治るならとこの病院の院長に案内状を見せることにした。
最初は院長先生も驚いていたが、兄さんの転院続きは簡単に終わった。
そして正式な転院と手術は明日の夕方に行われる事に決まった。
時間は遡り同日の朝 違う病院 ブラドキングside
俺は朝早くから自分が受け持つ生徒の1人の見舞いに来ている。
物間寧人、それがその生徒の名前だ。
3日前の雄英体育祭で突如奇行に走った後、気絶するように気を失っていた。
リカバリーガールによると眠っているだけのようで怪我の治療などは必要ないそうだ。
暫くすると俺の受け持つクラスの生徒たちが集まってきた。
「先生、物間は?」
拳道が心配して俺に話しかけてくるが、俺は首を横に降ることしかできなかった。
「これもA組の仕業じゃ」
生徒の1人のがそう言うが断言はできない。
体育祭の騎馬戦の後、A組の控え室に向かって行ったのは確かだが、その後のパフォーマンスをしている時には誰も物間に近づいていない。
こればかりは物間が起きてから直接聞くしかないだろう。
そして俺たちが登校しようとした時。
「あはは」
声をした方を見ると物間が目を覚まして大笑いしていた。
「皆どうしてここに居るのかな?。もしかして雄英体育祭で優勝した僕を迎えに来てくれたとか?」
全員が呆れるなか、拳道が物間に近づくと。
「アンタ、ここが何処だか分かってるの?」
「宍田のお金で借りた高級ホテルの一室じゃ」
拳道は再びため息を吐くと。
「ここは病院だよ。アンタ2日近くも寝てたんだから」
すると物間はまた大笑いした後。
「そんな訳ないって。ちゃんと記憶もあるんだよ。A組の生徒たちがパフォーマンスで奇妙な事をしたせいで担任のイレイザーヘッドに飽きられて、僕たちB組の方がヒーローに相応しいってことで決勝トーナメントをやったじゃないか」
どうやら物間は都合の良い夢を見ていたようだ。
そこで俺は物間に現実を教えてやることにした。
「良いか、物間。奇妙な事をしたのはお前だ。そして決勝トーナメントはA組の生徒が行ったんだ。奇妙な事をした後、気を失ったお前は知らないだろうがな」
「へ?。しょ、証拠は?」
物間が間の抜けたような声で質問を返してきた。
「残念ながら証拠は無いな。決勝トーナメントはカメラが壊れてしまったからな。だが、ここにいる全員が証言できることだ」
「う、嘘だ。こんなの夢だ」
物間が両手をわなわなと震わせていた。
追い討ちをかけるようで悪いがこれも現実なので言うしかない。
「これは本来学校で話そうと思っていたことだが、ここにクラス全員が集まってるから言うことにする」
その言葉にいた生徒全員が息を飲む。
「本来体育祭の後はヒーロー名を決めて、各ヒーローの元に出向き、職場体験をするのが予定だった。だが今回B組は1票も得ることが出来なかった」
「それじゃどうするノコ?」
「本来なら指名が無くとも40名居る指名が無くとも受け入れをしてくれてるヒーローたちが居るんだが、今回の物間の行動が原因でB組の生徒は来ないでくれと言っているヒーローが少なくない」
「え、それじゃあ?」
生徒の1人が不安そうな声を出すが。
「安心しろ。1名だけだが受け入れをしてくれてるヒーローが居たから全員でそのヒーローの元に行ってもらう」
全員が安心したような顔をしていた。
「それで、そのヒーローの名前は?」
「ああ、坊主ヒーロー、念仏だ」
その一言に全員が黙る。
勿論生徒の考えていることは分かる。
きっと全員が、「誰だよ。そのヒーロー」っといたところだろうが、俺も詳しくは知らないのでこれ以上は何も言えなかった。