うる星やつら めぞん一刻 二次小説 19回目の神経衰弱   作:今津晶

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第5話  勝負の世界

「賛成一、条件付賛成一・・という現状なわけだが、どう思うね諸星あたるクン」

勝ち誇ったような顔をした終太郎があたるを見降ろしている。

 

しのぶはというと、既に管理人さんが風を通していて埃臭さの抜けた5号室に満足しているところだった。

 

「何故か壁の一箇所だけ色が違うのが気になるけど・・」

どうせあたるくんの部屋だし、と付け足す。

 

「まさか、死体が埋まっているわけでもないでしょうし」

既にしのぶは終太郎と部屋割りまで済ませていた。

 

当然のことながらしのぶと終太郎が端の部屋を取り、あたるが中央に位置する。

終太郎としのぶが隣り合うのはまずいだろう、と考えての措置だ。

従って4号室に終太郎、5号室にあたる、6号室にしのぶということになる。

 

「俺はまだ認めちゃいないぞ、ここに引っ越すだなんて」

一方、とんとん拍子に話を進めていく2人とは対照的にあたるは床に転がって不貞腐れていた。

 

「意外といい部屋よね。風通りもいいし、日当たりもいい。それに・・・」

 

「時計台、でしょう?」

しのぶと終太郎はそんなあたるを無視して話を進めている。

 

「ええ、あれが良いわ──もっとも、現在は使っていないみたいだけれど」

 

「音がうるさいみたいで。昔、もっと近所に建物が少なかった頃からここにあって、昼や夕方になると周囲に時間を知らせていたそうです」

 

「そう・・・で、あたるくん」

窓から外の風景を見渡していたしのぶが振り返る。

 

「引越しはいつにする?」

 

「だからまだ認めてないって」

終太郎に騙されて連れてこられたために拗ねているあたるだった。

 

「あんまりしつこいとしのぶさんに嫌われるぞ。大人しく引っ越せ」

 

「それはどうかな」

 

「ん?」

 

「しのぶが俺のことを嫌いになるはずがないだろう?」

 

「・・・むぅ」

 

正直言ってあたるもこの下宿が嫌いではなかった。

高台からの見晴らし、広い庭、古びた時計台・・狭苦しいアパートに押し込められるよりも、どんなにか・・・。

 

「よし、わかったよ諸星」

 

「お前のバカさ加減をか?」

終太郎はあたるの軽い挑発に乗ろうとしない。

 

これは彼が成長したためだというよりは、単に日本刀を失った結果だと思われる。

 

「勝負をしよう、下宿への入居を賭けて」

 

「断る」

あたるは一語のもとにはねつけた。

 

「あたるくん、どうして?」

 

「俺になんのメリットがあるよ」

 

「・・確かに、それもそうだわ」

しのぶは縋るように終太郎の顔を見つめる。

 

終太郎もそう言われてみてしばらく考え込んだ末、1つの結論に達した。

 

「そうだな・・僕が勝ったら3人揃ってこの下宿に入居する・・・それはいいな」

 

「ああ」

 

「それでだ、諸星が勝った場合は・・・今後、いついかなる場合も『しのぶさんの幸福』を保証しよう。面堂終太郎の名に賭けて」

それは卑怯といえば卑怯な提案だった。

 

あたるはその提案が『自分の幸福』であったとすれば断っていたかもしれない。

 

意地っ張りなところは昔と変わらないから。

 

だけど・・終太郎の提案はそのあたるの心理の裏を突いたもので・・。

 

「その勝負、受けた」

「で、勝負の種目は何なんだ?」

 

管理人さんの夫が帰宅するのを待ってから下宿を辞した3人はそのまま諸星家に直行した。

ところが高校時代同様に勝負=決闘と思い込んでいたあたると終太郎にしのぶが異議を唱えたわけで。

 

「それはあんまり大人げないでしょう?」

 

言われてみると確かにそうだし、終太郎に至っては日本刀が手元にない。

愛刀を使用していた頃でさえあたるには勝てなかったことを考えると・・・ここはしのぶの意見に同意した方が良さそうだった。

 

「それもそうですね・・」

 

とはいえ急に別の方法を、と言っても思い付かない。

とりあえずはしのぶを一旦家に返して夕食、入浴を済ませたうえで再びあたるの部屋に集まることにする。

その間、各自が勝負の方法を考えるのだ。

 

「人生ゲームで決めるか?」

 

諸星家に居候をはじめて3日目になる終太郎にあたるが聞いた。

ちなみに終太郎はというと、あたるの部屋の漫画を読破しつつごろごろと転がっていたりする。

 

「あまり運に左右されるのはどうかな」

 

「じゃ、ポーカー」

 

「・・いいのか? それで」

 

終太郎は帝王学を学んできただけあって、他人に自分の感情を見せないことが勝利に繋がるゲームには滅法強かった。

あたるも高校時代に何度かやってみたものの、勝てた試しがない。

 

「・・いまのはナシ」

 

「それがいい」

 

あたるはストックしていた缶コーヒーを2本冷蔵庫から引っ張り出してきて、1つを終太郎に投げる。

そして自分は窓の枠に腰掛け・・・夜空を見上げた。

 

物憂げな三日月がぼんやりと浮かび上がっている。

その月が友引町を照らしている。

 

あたるは終太郎が文句を言うのに構わず部屋の電気を消した。

途端に輝きを増す月光、夜景、そして夜道を駆けて来る1人の少女。

 

 

「な~にやってるのよ、2人とも。出掛けたのかと思ったじゃない」

しのぶは開口一番にあきれ果てたような声を出す。

 

真っ暗な部屋の中で大の男が2人、無言で座っていれば不審にも思う。

 

「喧嘩でもしたの? いつものことだけど」

 

「そういうわけでもないんだけどな。それよりしのぶ、何か考えてきたか?」

あたるは窓の枠から降りると、勘だけで電気のスイッチを押す。

 

「う~ん・・やっぱり運次第の勝負は嫌でしょう? 2人とも」

 

無言であたると終太郎が頷く。

 

「どっちかが得意すぎる種目も駄目よね。というわけで」

 

パカパカパ~ンと自分で擬音を演出しているしのぶが懐から何かを取り出す。

 

「こんなものを用意してみました~」

 

しのぶが得意げに手にしているのはごくありふれたシロモノ・・・すなわちトランプ。

 

「ポーカーは嫌だからな」

 

一応確認しておくあたるだが、その辺はしのぶも承知していた。

 

「大丈夫だよ。わたしが提案いたしますのは・・」

 

ジャカジャカジャカジャカ…と自分で効果音を付けている。

 

「ジャン! 神経衰弱です」

 

神経衰弱・・・。

 

あまりにも有名で、それでいて単純なトランプの遊び方の1つ。

トランプのカードをよく切っておいて、裏返したままランダムに撒き散らす。

そして交互に2枚づつめくっていき、出た数字が同じならそれを取ることができる。

トランプが無くなるまでにより多くの組み合わせを取ることのできた者の勝ちだ。

 

記憶力と集中力の有無に加え、駆け引きの要素もある中々に手強い種目であろう。

ただ、一回だけならばともかく、連戦すると文字通りに神経が衰弱していってしまうという恐ろしさも秘めている。素人にはお勧めできない。

 

「神経衰弱・・・」

 

あたるは眉を顰めた。

幼い頃はしのぶと毎日のように一緒に遊んでいた。

そんなある日、しのぶが母に買ってもらったというトランプを持ってきたことがある。

子供だけあってそれほど遊び方を知らず、せいぜい7並べや『魔太郎がくる』で覚えたインディアンポーカー、それに神経衰弱ぐらいなもので・・・。

 

「飽きた」

 

「そう言わないの。これなら実力勝負だし、どっちに有利ということもないでしょう?」

 

懐かしいでしょ~、と頬を膨らせている。

じゃれあっている2人の横で、終太郎はえらく感心していた。

 

「・・・? どうかしたの? 面堂くん」

 

「いいえ、しのぶさんと諸星って昔は本当に仲が良かったんですね」

 

「あら、いまでも良いわよ」

 

しのぶはそう言いながらあたるをうつぶせに寝転がしておいて背中に乗る。

 

「しのぶ、重・・・OUTCH!!」

 

そしてあたるに皆まで言わすことなくマッサージを始めた。

 

「いいえ、そういうんじゃなくて…そうですね、僕には幼なじみとかそういうのはいなかったんですが、それでもしのぶさんと諸星の場合は仲が良すぎるというか・・」

 

「・・・それはあるかもね」

 

しのぶは手を止め、視線を落とす。

 

「わたしには他に友だちがいなかったし」

 

 

終太郎は先ほどのしのぶの台詞を反芻していた。

意外なことを言うものだ。

友引高校で過ごした2年間のことを考えると、しのぶほど異性だけでなく同性からも好かれていた生徒はいなかった。

ミス・友引コンテストでも男性票はともかく、女性票だけなら竜之介、サクラ先生を凌いで1位になっていたくらいだ。

ちなみに最終選考に残った宇宙人2人には男性票しか入っていない。

 

「はい、それでは始めましょう」

 

しのぶは先ほどの言葉を言い流すつもりなのか、気にしている様子がない・・・いや、その振りをしているだけなのかも知れない。

愛用のトランプを箱から取り出して巧みに切っている。

 

「それはいいが、一発勝負か?」

 

「う~ん、どうする? 面堂くん」

 

「えっ? あ、そうですね・・」

 

我に返った終太郎は言葉に迷った。

 

「やはり、実力を反映させるためにはある程度の数をこなさないといけないかと」

 

「うんうん、その通り。やっぱり神経衰弱は疲れ果ててハイになるまでやり続けるべきものよ」

 

「それもどうかと・・」

 

しのぶははっきりしない終太郎を尻目にパチン、と両手を叩いて決定してしまう。

 

「決めた。神経衰弱10本先取勝負!」

 

「しのぶ・・そりゃ、結構な時間になると思うぞ・・せめて5本先取くらいに・・」

 

あたるが恐る恐る提案している。

 

「時間無制限!」

 

しのぶは聞く耳持たぬ、といった風情で耳を塞いでしまった。

 

「はぁ・・仕方ないですね・・…明日も講義なのに・・」

 

終太郎は渋々同意すると、眠気覚ましのコーヒーを煎れに1階へと降りていった。

背中に虚しい抗議を続けているあたるの声を受けながら。

 

 

「それでは1本目です」

 

実に楽しそうに司会をしているしのぶ。

だが実際に神経衰弱をする立場のあたると終太郎は気楽なものではない。

最低でもこれから10回・・・恐らくは20回近くの勝負を重ねなければならないのだ。

 

「・・だが諸星、負けるわけにはいかん」

 

「フッ、面堂。それは俺の台詞だ」

 

無駄に燃え上がっている2人。

 

「え~、なんだか無駄に燃え上がっている2人がいます」

 

「・・・・」

 

そう冷静に解説されてしまうと何だか物悲しくなってくる。

 

「では神経衰弱 fight! ready go!」

 

   1本目…あたるの勝ち

   2本目…あたるの勝ち

 

流石に昔しのぶと繰り返し遊んでいただけあって、あたるは神経衰弱のコツを心得ている観がある。

しかし終太郎も次第にゲームに慣れてきたのか、押し返し始めた。

 

   3本目…終太郎の勝ち

   4本目…あたるの勝ち

   5本目…終太郎の勝ち

   6本目…終太郎の勝ち

 

これで勝敗は3勝3敗、事態は長期戦の様相を呈しはじめた。

ちなみに観戦しているだけのしのぶは実に暇そうで、瞼を重くさせながらポテトチップスを食べている。

 

   7本目…あたるの勝ち

   8本目…終太郎の勝ち

   9本目…終太郎の勝ち

  10本目…終太郎の勝ち

  11本目…終太郎の勝ち

 

持ち前の集中力の差が出たのか、あたるの星勘定が苦しくなる。

4連敗で4勝7敗──あと3敗で敗北が決定だ。

 

「フッ、こんな所で敗れ去る己の身を呪うがいい、諸星」

 

「こういうとき、焦った方が負けなのよね」

 

「軟弱者が何を言う」

 

ちなみにしのぶはというと、漫画雑誌の週刊少年サンデーを枕にして居眠りを始めていた。

あたるはそんなしのぶのために押入れから毛布を引っ張り出して来る。

 

  12本目…終太郎の勝ち

 

「あと2勝だな。もう限界か?」

12本目をいままでにない圧勝で飾った終太郎は勝利を確信した。

 

所詮、のほほんとした学生のあたると幼い頃から武芸を仕込まれてきた終太郎とではやる気・本気・根気の質が違うのだ。

 

「まだだ、まだ終わらんよ!」

 

そう言いつつもあたるは自らの集中力の低下を感じ取っていた。

思考力も衰えたのか、眠っているしのぶが妬ま・・羨ましい。

 

「大体、誰のために俺がこうしていると・・」

 

面堂が勝負の条件として『しのぶの幸福』を提示したからこその神経衰弱だ。

 

「負けちまうぞ、コンチクショウ」

 

「諸星・・いいから早く、切れ」

 

暗黙のルールとしてトランプを切るのは負けた者の役目になっている。

ちなみに圧倒的な力の差を見せる終太郎といえども超人ではない。

明らかに疲れてきており、早く勝負を決したかった。

 

それに、ふと気付いたことだが面堂家を出てからこの1年ほどは碌な修練を積んでいない。

かなり怠惰な日々を送った記憶がある。

 

(・・むしろ、浪人として毎日勉強していた諸星以下ではないのか?)

 

一方、あたるはというとしのぶの寝顔を見て心を入れ替えたのか、新鮮な気持ちで第13戦へと臨んだ。

 

  13本目…あたるの勝ち

  14本目…あたるの勝ち

  15本目…終太郎の勝ち

 

これで終太郎の9勝6敗・・・王手を賭けた終太郎は一気に勝負をかけるべく第16戦に集中する。

 

  16本目…あたるの勝ち

 

恐らくはこの16戦が山だったのだろう、王手を賭けながらも破れた終太郎は以後の勝負で一挙に精彩を欠く。

下手に『まだ先がある』と逃げ場のある終太郎と、『負けたら終わり』という立場に追い込まれたあたるの差が、ともに集中力を失った終盤になって出たのだ。

 

  17本目…あたるの勝ち

  18本目…あたるの勝ち

 

「これで・・・9勝9敗だ、面堂・・」

 

「・・・・」

 

既に終太郎は言葉を出す気力も無く、危なっかしい手つきでカードを切っている。

王手を賭けられながらのあたるの3連勝・・・勢いの差は明らかだ。

 

「泣いても笑っても・・まァそんな余力はないけど・・これが最後だ」

 

「・・・あァ」

 

終太郎がトランプを広げていく。

19回目の神経衰弱。

とっくに日付は替わっているのだろう、近所の家々も寝静まっている。

 

聴こえるのは、2人の鼓動・・と、しのぶのいびき・・寝息だけ・・だったが・・・。

 

「うにゅう」

 

壮絶な戦いを繰り広げていた2人の緊張感を削ぐような声をしのぶが立てた。

 

「・・お早うございます」

 

そしてむっくりと毛布を押しのけて上半身を起こすと、あたると終太郎に挨拶をする。

2人が無言でそんなしのぶを見ていることに気が付くと、不満そうに文句を言った。

 

「だめだよ2人とも。朝はお早うございます、だよ」

 

「・・どこから突っ込んだものやら」

 

あたるは泣きたくなった。言うまでもなく、終太郎もだが。

 

「今、何時だよ・・」

 

本気で試合放棄を考え始めたあたるを無視すると、しのぶはルーズリーフに書かれた星取表を確認した。

 

「へぇ、最終戦までもつれこんだんだ・・」

 

「・・・え? ・・・え? ええ・・そうみたいですね」

 

終太郎は船を漕いでいたのか、反応が鈍い。

 

「よし、面堂くんは疲れているみたいだし、わたしが代わりに相手になりましょう」

 

「・・・はい?」

 

「だから、最終戦はわたしが面堂くんの代わりに戦うわ」

 

一体何を言っているのでしょうか、この娘は。

あたるは目の前が暗くなった。

 

「それでいいわよね、面堂くん」

 

「無論です!」

 

急に元気になった終太郎が断言する。

 

「お前・・・そんなバカなこと・・・」

 

一方のあたるとしては、当然のことながら納得できる訳が無い。

 

声を出すのも辛いというのに。

 

「あら、だって私も引越し賛成派よ、あたるくん」

 

「・・・汚ェ。今の俺がしのぶに勝てる訳が無いだろ・・」

 

「あら、勝敗は時の運ってね」

 

その運を呼び込むのは人の努力だ。

この場合作戦勝ちともいう。

 

「それとも不戦敗がお望みかしら、あたるくんは」

 

「・・・・」

 

「どうなの?」

 

「・・・条件」

 

ようやくその言葉を振り絞る。

 

「何よ?」

 

「条件は・・何だ? 俺が・・しのぶに勝った場合の・・」

 

『しのぶの幸福』とは面堂に勝った場合の条件だ。

 

面堂+しのぶが相手となると、条件が上乗せされてしかるべきだろう。

しのぶはあたるの言葉を聞いて不敵に笑うと、大胆な条件を提示した。

 

「そうね、3つだけ、あたるくんの言うことを何でも聞いてあげる、というのはどう?」

 

「・・・」

 

「どう?」

 

「・・それは、何でもか?」

 

「願い事を無限にしろとか、1億円出せとか、出来ないことは駄目。でも、わたしに可能なことならば何でも」

 

恐らく判断力を欠いていたのだろう。

あたるの脳裏にはめくりめく桃色の世界が浮かんでいた。

 

♪あんなこといいな ♪できたらいいな

 

そんなことやこんなこといっぱいあるけど。

18歳未満お断りの世界。

 

だから・・・冷静に考えれば終太郎と戦うのが筋だし・・・しのぶの提案を突っぱねることは出来ただろう。

でも・・溢れかえるほどの煩悩がそれを許さず・・。

 

「了承(1秒)」

 

「Good!!」

 

そして負けた。当たり前だ。

翌日、終太郎は泣いて悔しがるあたるの肩を叩いて慰めたという。

 

 

 

以下、次回

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