うる星やつら めぞん一刻 二次小説 19回目の神経衰弱 作:今津晶
さて・・事態はようやくあるべき方向へと傾き始める。
取り壊し寸前の下宿屋に集う3人・・そう、3人。
実のところ、あたると終太郎、しのぶが揃って入居しても3世帯。
管理人さんが亡父の実家から要求された『4世帯』には届かないのだ。
「でも、何とかなるでしょう。あと1日あるし、下宿人の1人や2人」
えいえいお~、としのぶが檄を飛ばしたりする。
「そういえば4人必要だったっけ・・」
あたるを引き込むのに夢中になるあまり、素でそのことを忘れていた終太郎。
「面堂の様子だととっくに4人目をみつけているものと・・」
もっともながら建設的ではないあたるの発言。
そして無為なままに時が刻まれていき、タイムリミットまで残すところ3時間。
「ご免なさい、電話で確認したところ、締め切りは延ばせないそうで・・・」
住人が来たり結局足りなかったり一喜一憂、慌しい管理人さん。
そして物語は最後の山場を向かえ・・・。
意外とあっさりと終結してしまうわけで。
・
・
「ホンマ腹立つわ。うちのオカン、仕送りを打ち切りよってに」
この物語を終局に導く乙女が1人、時計坂の街並みを歩いている。
実家からの仕送りが停止して数日。
懐具合の厳しさから駅から学校までの距離をとぼとぼと、行く。
「御蔭でUFOの維持ができんやんけ。あれ、リースやしのう・・」
外見はお嬢さま・・・なのだが、フリルをふんだんに使用したその衣装は今時どこでお目に掛かれるのか分からないくらいの少女趣味。
はっきりと言って周囲からは浮いてしまっている。
キン肉スグルがParisの街並みを歩いたらこうもなろうか。
しかも外見に似合わない毒舌ぶりが・・嫌でも人目を引き付けていた。
別段毒舌でなくとも独り言混じりで歩いていれば充分に目立つが。
乙女は道端に転がっていた空き缶を力いっぱい蹴飛ばした。
「わし、まだ学生やねんで。どないせいっちゅうんじゃい」
空き缶が電信柱に当たって乾いた音を立てる。
主婦らしき女性が咎めるような視線を向けてきたが、思い切り睨み返す。
「ホンマどいつもこいつも!!」
人はそれを八つ当たりという。
「ン? 運動会の知らせか何かか?」
気が付くと、空き缶が当たった電信柱には何かのビラが貼ってあった。
何やらごちゃごちゃとした宣伝文句・・は、いいとして、人目を引くのが大きく描かれた謎の動物のイラストだ。
「それにしても、下っ手糞な絵やのう。これ、もしかして犬のつもりか?」
物のついでに電信柱を蹴飛ばしてみる。
「OUTCH!!」
・・当然のことながら乙女の足で電信柱を破壊することは不可能だ。
或いは三宅しのぶであればやってのけるかもしれないが。
「やってくれるやんけ・・・タダじゃ済まさん!!」
謎の一人芝居を続けている乙女の周りでは既に野次馬が人垣を作っていた。
乙女はその中で何処からかバズーカ砲を取り出し、照準を合わせる。
それを見て慌てて退避しようとする野次馬たち。
「・・・・・・!」
「・・・・・・」
「・・・?」
しかし、数秒が経過しても爆風は発生しない。
怪訝に思った野次馬たちが恐る恐る顔を上げると、乙女はバズーカ砲を引っさげたまま電信柱に貼られたビラに見入っていた。
「クックックっ・・・・これじゃあ!!」
・
・
「ごめんくださ~い、ランちゃん、この下宿に入居したいんですけど~♪」
1時間後、目当ての下宿を探し出してその玄関に立つ乙女の姿があった。
これで下宿の存続を巡る騒動は一件落着する。
「あれっ、ランちゃんじゃないか」
「・・何でダーリンがここにおんねん」
新たな騒動の火種が作られはしたが。
ちなみに4人目の適格者・ランちゃんの生息地は1階の1号室に決まった。
家賃は管理人さん夫妻の出血サービスで2階のワンルーム並み。
状況を知ったランちゃんが迫り来るタイムリミットを利用して値切りに値切ったのだ。
管理人さんは泣きそうになっていたが、背に腹は変えられない。
下宿が取り壊されて失職したうえ、タダで住んでいた管理人室から追われるよりも、ある程度の家賃を肩代わりした方が遥かにマシなのだ。
それに・・・下宿の存続という、何物にも変えがたい大切なことのためならば・・・。
季節は巡る。
長い冬が終わり、訪れる春の世界。
桜が舞う古い下宿に運ばれてくる4組の荷物たち。
「あたるくん、しっかり」
「・・・面堂、お前大丈夫か?」
「何のこれしき・・・でも、一体何が入っているんですか?」
「それは秘密」
時計台のある下宿屋での新しい暮らしの中で、春ももうじき過ぎ去って行くことだろう。
「荷物は大体運び終わりましたか?」
「あっ、管理人さん」
「疲れたでしょう、お茶にしませんか?」
・
・
「ほんと、疲れちゃった♪」
ランちゃんは管理人さんと談笑しながら巧みに紅茶を淹れている。
管理人室も決して狭くはないが、大の大人が6人と赤ん坊がいるのはきつい。
「本当に今日はどうもありがとうございました」
優しい春の陽射しが乱舞する土曜日の午後。
4人分の引越しを手伝ってくれた管理人さんの夫に礼を言うしのぶ。
「いやいや、まさか本当に4人集まるなんて思っていなかったし、これくらいのことは」
威勢の良いことをいいつつも管理人さんの夫はかなり腰にきているようだ。
ぐてっ、としてあたると終太郎の2人掛かりでマッサージを受けている。
「大体だな、管理人さんの旦那さんをこきつかわずとも、しのぶがやれば・・」
唸りをあげて苦しんでいる管理人さんの夫を気の毒そうに見ているあたる。
「あら、あたるくんは女の子に力仕事をさせる気?」
「そうだよ、諸星くん・・これくらい・・別に・・」
大丈夫、とは言い切れないようだ。
「いいんですよ。しのぶの場合は『女の子』なんて目で見ちゃいけないんです。ランちゃんならともかく・・」
「あらあら、それは一体どういう意味かしら?」
「全く、完全に、パーフェクトなまでに、言葉どおりの意味だ」
「・・・へぇ」
管理人室に置かれている大きなテーブルをしのぶが持ち上げようとしたとき、管理人さんとランちゃんがお茶を運んで来た。
「はいはい、喧嘩は止めにして下さいね」と管理人さんの響子さん。
は~い、と言ってテーブルに集まってくるしのぶたち。
ちなみに管理人さんの夫はグロッキー状態のままだ。
管理人さんも意外に酷な人で、夫を無視してお茶を配っていく。
「紅茶には合わないかもしれませんが、今日は最中を用意してみました」
「・・・もなか?」
「面堂くん、知らないの?」
「はい・・お菓子の一種ですか?」
「食べてみると良いわよ」
最初は恐る恐る口にしたものの、非常に気に入ったらしい終太郎は管理人さんの勧めるままに余っていた最中まで食べてしまう。
「いや、それは余っているんじゃなくて僕の・・」
管理人さんの夫の抗議は丁重に無視された。
どうも管理人さんは夫のだらしなさが気に食わないらしい。
元々『馬鹿みたいな若さだけが取り得』だったので無理もないが。
そして皆がお茶を飲み終えた頃、しのぶが疑問に思っていたことを口にした。
「そういえば、管理人さん・・」
「何でしょう、しのぶさん」
「この下宿ですが、名前は無いんですか?」
「・・はい?」
どうしてそんなことを、と管理人さんが聞いてくる。
「ああ、それは俺も不思議に思っていた」
あたるの発言に、いっそう頭を抱えてしまう管理人さん。
「名前が無いわけではありませんけど・・・」
別に隠しているわけでは、と管理人さん。
「でも、見た限りではどこにも書いてありませんけど」
「・・・?」
「あ、それはそうですよ。門のところの看板は・・」と夫の五代くん。
「ああ! そう言えばそうでした」と響子さん。
夫の言葉でようやく現在のところ門に看板がないことを思い出す管理人さん。
「元は結構大きな看板があったんですが、この建物の前の大家さんが亡くなったときに、ご一緒に火葬してもらったんです」
そしてこの下宿に大変思い入れのある方でしたから、と付け足す。
実のところ『そんな、みっともない』と反対する親族もいたが、それだけは譲れない、と管理人さんが押し通したのだ。
「成程ど、お話は分かりました。それで・・」
下宿の名前は何と言うんですか、と改めて聞くしのぶ。
しかし管理人さんは一旦答えかけた口を閉じると、しばらく考え込んだ。
「そうですね・・・・たぶん、名無しなんです。この下宿は」
「ちょっとそれはどういう・・」と夫が言い掛けると・・・。
「あなたは黙っていて下さいね♪」
軽く周囲の気温を下げて夫を黙らせる管理人さん。
もしかすると、只者ではないのかもしれない。
「以前は確かに名前がありました・・・わたしたちにとって、とても大切な名前が」
そう言って管理人さんは少し寂しそうに窓の外を見る。
そこには桜・・・春の陽射し・・・春の香り。
「でも・・その名前の所有者は・・皆、いなくなりました。大家さんも、住人の皆さんも、皆」
「でも、管理人さんたちがいる」
あたるが静かに指摘する。
この男は管理人さんの言わんとすることを薄々察知していた。
「そうですね。でも、この下宿は・・・これからの下宿は・・あなたたちのものです。ですから、新しく名前を付けて下さると嬉しいです」
””そんな、悪いですよォ いいえ、いいんです””
””でも・・・・構わないですから””
””でも、やっぱり・・・・名前を付けてくださらないと、いつまでも名無しのままですよ””
””本当にいいんですかァ?”” 了承(1秒)
そんなこんなで・・・・しのぶたち4人は頭を抱えることになる。
「下宿の名前・・・ですか」
しのぶは外から見た下宿のイメージを思い浮かべた。
そこにおいて印象的なのは、やはり時計台ということになろう。
「『時計荘』・・・ううん、時計・・『ボンソワーレ・時を刻む少女』」
訳が分からん・・と呟いたあたるにその場の全員が同意する。
なによう、と怒り出すしのぶだが、最早彼女のセンスに期待することは出来ない。
管理人さんに至っては余計なことを言わなければ良かった、と後悔しているのがもろに表情に表れている。
「こういうのは奇をてらっても仕方が無い」
終太郎の発言にうんうん、と頷くしのぶを除く全員。
「時と言えば『刻』だ」
うんうん? とよくわからないながら頷く全員。
「刻・・、一刻・・、『メゾン・ド・一刻』」
おおっ、と声をあげる皆の衆。
特に終太郎のことだから何らかの落ちがあるだろう、と思っていたあたるは意外だ。
「しかし、いまひとつだな。この下宿に『メゾン』云々が似合うと思うか?」
「まァそれもそうだが」
その2人の会話を聞いて管理人さんが頬を膨らせている。
「もしかして、馬鹿にされているのかしら?」と管理人さん。
「全然そんなことはないです」
瞬間、頭を下げるあたる。
何となくこの管理人さんには服従しなければ後が怖いぞ、と本能が教えてくれている気がする。
「なら、ひらがなで『めぞん一刻』というのはどうかしら♪」
それまで静かに会話を聞いていたランちゃんがパチン、と手を叩いて提案した。
意外と・・・そんなことを言ったら殺されそうだが・・真っ当なセンスだ。
そのまま決まってしまいそうな雰囲気だったが、最後に終太郎がこう言った。
「そこまで来たら、いっそ・・・・・・」
言うまでもなく・・管理人さん夫妻は大喜びで同意した。
ここに至ってしのぶもあたるも妙な提案をすることは出来ず、下宿の名前は終太郎の提案どおりに決定する。
そして皆で門のところに集合。
「はい、では集まって・・しのぶさんと管理人さんは座って・・諸星、もっと中央に寄れ。すみませんが管理人さんの旦那さん、犬を押さえて!」
タネを明かすとランちゃんと終太郎の2人は下宿人募集のビラを見ていて、最初から下宿の名前を知っていただけのことだ。
目配せをし合って会話を運んだ出来レース。
とは言えそんなことを皆に知らせる必要がある訳も無く、秘密は2人の胸の中にしっかりとしまわれている。
「いいですか、タイマーをかけますからね・・」
「春香、ほら、レンズの方を見るのよ」
「あたるくん、お願いだからピースサインはやめてよ・・みっともない」
「何を言うか。ピースサインとはそもそも享徳の大乱の折、足利成氏公が・・・」
「馬鹿」
「はい、行きますよ・・・ってOUTCH!!」
「ああっ、面堂くん! 石段に足が!」
””””カシャッ””””
「無様ね」
誰の発言なのかは、敢えて・・・。
「くっ・・もう一度・・」
「面堂くん。そのカメラ、フイルムを使い切ったんじゃない?」
「え? ・・・ああっ・・・」
それは、記念写真。
黄ばんで・・・すっかりと色褪せてしまった記念写真。
『198X年4月、一刻館で 大切な人たちと』
・
・
・
あれから、何度も大きな戦争や動乱があったけど・・・。
私たちの友情は今も続いている。
あの古ぼけた、時計台つきの下宿屋と共に。
面堂財閥を継いでからも、面堂くんは4号室の住人のままだ。
休暇の際に一刻館で過ごすのは彼の決まり。
春香ちゃんは日に日に綺麗になっていく。
・・・こけるを甘やかすのには困ったものだけれど。
面堂くんの娘さんも4号室に入り浸ってはこけると何か悪巧みをしている。
・・・春香ちゃんと仲が悪いのが困りものだけれど。
鬼星に帰ったラムやラン、レイさんからも時々連絡がある。
仕事が忙しいらしく、『一刻館での日々が懐かしい』って。
私も時には昔の話をしたくなるほどに年齢を重ねた。
だけど隣にはいつもあたるくんがいて、同じように年齢を重ねていく。
一刻館へ
感謝を込めて ・・・・諸星しのぶ
完結