童話とかの二次創作物 作:従弟
注文の多い料理店。と言うのを知っているか?
宮沢賢治の有名な短編小説だ。
実際に読んだことはなくても、あらすじくらいは知ってるだろう。
山奥で洋食屋を見つけた二人の男が、その店の指示に次々従っていく。
化け物に食われそうになったところで、間一髪、猟犬の働きによって助かる。
簡単に言うと、そういう話で。
俺達があの日体験したのも、似たような話だ。
けれど、俺達は猟犬を連れていなかった。
俺はここにいるが。
あいつは、ここにはいない。
そのことを前提にして、話そう。
俺があの日体験した、注文の多い料理店の話を。
・
当時、俺と友人は大学3年生だった。
サークルにも入らず、授業に出ていたおかげで、後は卒論を残すだけとなっていた。
十分な仕送りをもらっていたので、わずかな節制と、日雇いの不定期なバイトで、俺達は優雅なキャンパスライフを送ることができていた。
その日。
俺達は秋葉原に、中古ゲームや漫画の新刊を探しに来ていた。
けれど、結果は芳しくなかった。
中古ゲームは高いままだし、漫画の新刊はあったが、店舗特典が軒並み切れていた。
骨折り損のくたびれ儲けと言う奴で、どこかで少し休もうという話になった。
ふらふらと歩いていると、路地の奥に、妙な看板がかかっているのが見えた。
RESTAURANT
西洋料理店
WILDCATHOUSE
山猫軒
「へえ!注文の多い料理店か。しゃれてるじゃないか。
どうだ。入ってみないか」
友人が楽しそうに声を上げた。
「あれって、最後に化け物に食われそうになる奴だろ。イメージ悪いぜ。
それに、高いんじゃないか?ここ」
「大丈夫だって。本当に取って食われることはないだろし。
バイト代出たばっかりだから、少しなら俺が出してやるさ」
友人が、そういうので、俺は渋々ながら、ついていくことにした。
俺の中にも、甘さはあった。
どう悪く転んでも、死にはしないだろう。
せいぜいが、ごろつきに金を巻き上げられるくらいだ。
そういう甘えだ。
だから、友人が墓場に入ることになったのは、俺のせいだと言える
・
注文の多い料理店は、確かに宮沢賢治の小説に似ていた。
長い廊下を歩いていかなくてはいけないこともそうだし。
その合間合間に、色々と注文があるのもそうだった。
けれど、注文の内容には違いがあった。
例えば、最初の文言は原作においては。
「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」
なのだが、俺達が入った店では。
「初めての人、未経験の人でも歓迎。決してご遠慮はありません」
と言う風になっていた。
そのほかにも。
「ことに20代から30代の方は大歓迎します」
「アットホームな料理店です」
「料理は食べがいがあり、健康促進も狙えます」
など、料理店としてはいまいち意味のつかめない文言が多数あった。
俺達はそれを、店主の不勉強と見下し、嘲笑った。
「ここの店主は、短編すらまともに読めないような学歴らしいな」
「かわいそうだし、俺達くらいは付き合ってやろうか」
そんなことを言いながら、奥へと進んだ。
注文も、奇妙なものばかりだった。
原作とは違い、財布を置いてから来い。などとは書かれていなかった。
けれど、俺達は。
髪をすき、ひげをそり、腕時計をはめ、白のワイシャツに、紺の三つボタンスーツに着替えさせられた。
スニーカーも革靴に履き替えさせられた。
「こいつは、合皮だな。せっかくレンタルなら、オールデンでも履いてみたかったもんだ」
文句を言いながらも、俺達はこれらの指示に従った。
とりあえず、最後までこのお遊びに付き合ってみようと決めた。
そして、ついに、俺と友人は最後の扉の前に立った。
その扉こそが、俺と友人の別れの扉だとは、ついに気付くことはなかった。
・
「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。
もうこれだけです。
どうか、そのストライプのネクタイを首に絞めてください」
俺は、なにか嫌な予感がして、ネクタイを手にすることができなかった。
一方で、友人は手早くネクタイを締めた。
「なにしてんだよ。早くいこうぜ」
そう言うと、さっさと最後の扉へと向かっていった。
そして、最後の扉に書かれた文言を読み上げる。
「なになに、「いや、わざわざご苦労です。大変結構にできました。
二回ノックをして、失礼しますと言ってから、おなかにおはいりください」……か。
なんだ、まだ、注文があるんじゃないか」
めんどくさそうに言いながらも、ここまで来たらと思ったのだろう。
友人は、扉に書かれたとおりに、こんこん、と二回ほどノックをした後。
「失礼します」
そう言って、扉に手をかけた。
俺は、友人が自然に一礼して中に入るのを見て、やっと自分が何をやっていたかを気付いた。
清潔感のある髪形に、紺のリクルートスーツ、そして、今、ネクタイを首に絞めようとしている。
「ひっ!ひいい!」
俺は、手にしていたネクタイを投げ捨てると、一目散に逃げだした。
原作では、扉が閉まっていて逃げられなかったが、俺の場合は扉は簡単に開いた。
友人のことを思い出し、後ろを振り返ったが、扉はすでにしまっていた。
もう一度扉を開く気にはなれず、俺はとるものも取らず、家へと帰った。
それ以来、友人とは会っていない。
・
さて、こんな話をしようと思ったのは、最近友人の話を聞いたからだ。
あいつは今、結婚して、二人目の子供ができたらしい。
結婚という人生の墓場で、今も、多くの注文にこたえ、権力者たちの食い物にされているのだろう。
あの時、俺がもっと早くに気付いていれば、逆に最後まで気づかなければ、結果は違うものになっていたかもしれない。
俺はここにいるが。
あいつは、ここにはいない。
最初に言った通りだ。
あいつのいる場所に、俺はいない。
俺は今も仕送りを受けながらニートをやっている。