童話とかの二次創作物   作:従弟

2 / 5
注文の多い料理店【現代版】

注文の多い料理店。と言うのを知っているか?

 

 

 

宮沢賢治の有名な短編小説だ。

 

実際に読んだことはなくても、あらすじくらいは知ってるだろう。

 

山奥で洋食屋を見つけた二人の男が、その店の指示に次々従っていく。

 

化け物に食われそうになったところで、間一髪、猟犬の働きによって助かる。

 

 

 

簡単に言うと、そういう話で。

 

俺達があの日体験したのも、似たような話だ。

 

 

 

けれど、俺達は猟犬を連れていなかった。

 

俺はここにいるが。

 

あいつは、ここにはいない。

 

そのことを前提にして、話そう。

 

俺があの日体験した、注文の多い料理店の話を。

 

 

 

・

 

 

 

当時、俺と友人は大学3年生だった。

 

サークルにも入らず、授業に出ていたおかげで、後は卒論を残すだけとなっていた。

 

十分な仕送りをもらっていたので、わずかな節制と、日雇いの不定期なバイトで、俺達は優雅なキャンパスライフを送ることができていた。

 

 

 

その日。

 

俺達は秋葉原に、中古ゲームや漫画の新刊を探しに来ていた。

 

けれど、結果は芳しくなかった。

 

中古ゲームは高いままだし、漫画の新刊はあったが、店舗特典が軒並み切れていた。

 

骨折り損のくたびれ儲けと言う奴で、どこかで少し休もうという話になった。

 

ふらふらと歩いていると、路地の奥に、妙な看板がかかっているのが見えた。

 

 

 

RESTAURANT

 

西洋料理店

 

WILDCATHOUSE

 

山猫軒

 

 

 

「へえ!注文の多い料理店か。しゃれてるじゃないか。

 

 どうだ。入ってみないか」

 

 

 

友人が楽しそうに声を上げた。

 

 

 

「あれって、最後に化け物に食われそうになる奴だろ。イメージ悪いぜ。

 

 それに、高いんじゃないか?ここ」

 

「大丈夫だって。本当に取って食われることはないだろし。

 

 バイト代出たばっかりだから、少しなら俺が出してやるさ」

 

 

 

友人が、そういうので、俺は渋々ながら、ついていくことにした。

 

俺の中にも、甘さはあった。

 

どう悪く転んでも、死にはしないだろう。

 

せいぜいが、ごろつきに金を巻き上げられるくらいだ。

 

そういう甘えだ。

 

だから、友人が墓場に入ることになったのは、俺のせいだと言える

 

 

 

・

 

 

 

注文の多い料理店は、確かに宮沢賢治の小説に似ていた。

 

長い廊下を歩いていかなくてはいけないこともそうだし。

 

その合間合間に、色々と注文があるのもそうだった。

 

 

 

けれど、注文の内容には違いがあった。

 

例えば、最初の文言は原作においては。

 

 

 

「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」

 

 

 

なのだが、俺達が入った店では。

 

 

 

「初めての人、未経験の人でも歓迎。決してご遠慮はありません」

 

 

 

と言う風になっていた。

 

そのほかにも。

 

 

 

「ことに20代から30代の方は大歓迎します」

 

「アットホームな料理店です」

 

「料理は食べがいがあり、健康促進も狙えます」

 

 

 

など、料理店としてはいまいち意味のつかめない文言が多数あった。

 

俺達はそれを、店主の不勉強と見下し、嘲笑った。

 

 

 

「ここの店主は、短編すらまともに読めないような学歴らしいな」

 

「かわいそうだし、俺達くらいは付き合ってやろうか」

 

 

 

そんなことを言いながら、奥へと進んだ。

 

注文も、奇妙なものばかりだった。

 

原作とは違い、財布を置いてから来い。などとは書かれていなかった。

 

けれど、俺達は。

 

 

 

髪をすき、ひげをそり、腕時計をはめ、白のワイシャツに、紺の三つボタンスーツに着替えさせられた。

 

スニーカーも革靴に履き替えさせられた。

 

 

 

「こいつは、合皮だな。せっかくレンタルなら、オールデンでも履いてみたかったもんだ」

 

 

 

文句を言いながらも、俺達はこれらの指示に従った。

 

とりあえず、最後までこのお遊びに付き合ってみようと決めた。

 

そして、ついに、俺と友人は最後の扉の前に立った。

 

その扉こそが、俺と友人の別れの扉だとは、ついに気付くことはなかった。

 

 

 

・

 

 

 

「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。

 

 もうこれだけです。

 

 どうか、そのストライプのネクタイを首に絞めてください」

 

 

 

俺は、なにか嫌な予感がして、ネクタイを手にすることができなかった。

 

一方で、友人は手早くネクタイを締めた。

 

 

 

「なにしてんだよ。早くいこうぜ」

 

 

 

そう言うと、さっさと最後の扉へと向かっていった。

 

そして、最後の扉に書かれた文言を読み上げる。

 

 

 

「なになに、「いや、わざわざご苦労です。大変結構にできました。

 

 二回ノックをして、失礼しますと言ってから、おなかにおはいりください」……か。

 

 なんだ、まだ、注文があるんじゃないか」

 

 

 

めんどくさそうに言いながらも、ここまで来たらと思ったのだろう。

 

友人は、扉に書かれたとおりに、こんこん、と二回ほどノックをした後。

 

 

 

「失礼します」

 

 

 

そう言って、扉に手をかけた。

 

俺は、友人が自然に一礼して中に入るのを見て、やっと自分が何をやっていたかを気付いた。

 

清潔感のある髪形に、紺のリクルートスーツ、そして、今、ネクタイを首に絞めようとしている。

 

 

 

「ひっ!ひいい!」

 

 

 

俺は、手にしていたネクタイを投げ捨てると、一目散に逃げだした。

 

原作では、扉が閉まっていて逃げられなかったが、俺の場合は扉は簡単に開いた。

 

友人のことを思い出し、後ろを振り返ったが、扉はすでにしまっていた。

 

もう一度扉を開く気にはなれず、俺はとるものも取らず、家へと帰った。

 

それ以来、友人とは会っていない。

 

 

 

・

 

 

 

さて、こんな話をしようと思ったのは、最近友人の話を聞いたからだ。

 

あいつは今、結婚して、二人目の子供ができたらしい。

 

結婚という人生の墓場で、今も、多くの注文にこたえ、権力者たちの食い物にされているのだろう。

 

あの時、俺がもっと早くに気付いていれば、逆に最後まで気づかなければ、結果は違うものになっていたかもしれない。

 

 

 

俺はここにいるが。

 

あいつは、ここにはいない。

 

 

 

最初に言った通りだ。

 

あいつのいる場所に、俺はいない。

 

俺は今も仕送りを受けながらニートをやっている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。