童話とかの二次創作物 作:従弟
「なんたる失策であることか!」
三枝ヨウオは悲しんだ。
彼は、彼の住処である実家から出てみようとしたのであるが、どこにも就職できなかったのである。
履歴書にある2年間分の空白は、両親からの愛情の証拠にこそなったが、面接において、彼を狼狽させ且つ悲しませるには十分であった。
彼は、インターネットの中を探し回り、自分にできる仕事を探そうとした。
その結果、彼のエロ動画フォルダは一回り大きくなり、ティッシュの箱が一つ空になった。
彼は深い嘆息をもらしたが、あたかも一つの決心がついたかの如くつぶやいた。
「いよいよ就職できないというならば、俺にも相当の考えがあるんだ」
しかし彼にバイトでもいいから働こうなどという考えはつゆほどもなかったのである。
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三枝はツイッターやフェイスブックを眺めることを好まなかった。
寧ろそれらを疎んじさえした。
元同級生や元同僚のきらきらとしたリア充なつぶやきが、自分の心を汚すと信じたからである。
三枝はスマホの画面に顔を近づけ、まとめブログやユーチューブを眺めることを好んだのである。
スマホという小さな一枚の板から、世界中をのぞきみすることは、これはとても香味深いことではないか。
そして、インターネットでリンクをたどるほど、情報は偏りを見せ、バイアスがかかりやすくなるのである。
三枝はネトウヨとなっていた。
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三枝は再び試みた。それは再び徒労に終わった。
何としても彼の履歴書の空白期間は、埋めることができなかったのである。
彼の目から涙がながれた。
「ああ神様!あなたはなさけないことをなさいます。
たった二年間ほど私がうっかりしていたのに、その罰として、一生涯この実家にわたしをとじこめてしまうとは横暴であります。
諸君は、発狂したニートと言うものを見たことは……ないことはないだろう。
諸君は、三枝を嘲笑してはいけない。
すでに彼が飽きるほど、実家と言う名の真綿に首を絞められ続けて、もはや我慢がならないでいるのを、諒解してやらなければならない。
いかなる実家暮らしのニートも、自分の幽閉されている部屋から解放してもらいたいと絶えず願っているのではないだろうか。
自分の能力や考えを使い、社会的に認められ、自立した一人の人間として生きていきたいと欲しているのではないか。
「ああ神様、どうして私だけがこんなにやくざな身の上でなければならないのです?」
スマホの中では、副業をユーチュバーとしている元同級生がいた。
ユーチューブの自動再生に混じっていたのである。
元同級生は、その話術をもって高評価をたたき出し、会社では昇進し、恋人もいるようだった。
三枝は彼の行動力と社会的評価とを羨望の瞳で眺めていたが、やがて彼は自分を羨望させるものから、むしろ目を避けた方がいいことに気付いた。
三枝は、スマホの電源を落とした。
その結果、彼の部屋の中ではいかにも合点のゆかないことが生じたではなかったか!
スマホの電源を落とすという単なる形式が巨大な暗やみを決定して見せたのである。
その暗やみは際限もなく拡がった深淵であった。
「ああ寒いほど独りぼっちだ!」
注意深い心の持ち主であるならば、三枝のすすり泣きの声が自室の外に漏れているのを聞きのがしはしなかっただろう。
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悲嘆にくれているものを、いつまでもその状態に置いとくのは、良し悪しである。
三枝は、あるユーチューバの粘着アンチとなっていた。
それは、以前三枝を羨望させた元同級生であった。
三枝は人気ユーチューバを、自分と同じレベルでこき下ろせるのが痛快であった。
「一生涯粘着し続けてやる」
荒らしの言葉はある期間だけでも効験がある。
元同級生は三枝を引きこもりのニートをしている元同級生だと気づいた。
なので、コメント欄から次のように言った。
「出て来い!」
「俺は平気だ」
三枝は怒鳴った。そして彼らは激しいレスバをはじめたのである。
「出ていこうと行くまいと、こちらの勝手だ」
「よろしい、いつまでも勝手にしてろ」
「お前は莫迦だ」
「お前は莫迦だ」
彼等はかかる言葉を幾度となく繰り返した。
翌日も、その翌日も、同じ言葉で自分を主張し通していたわけである。
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一年が過ぎた。
彼らは、今年はお互いに黙り込んで、自分の近況が相手にバレないように注意していたのである。
元同級生は、ツイッターもユーチューブを更新することをやめていた。
三枝もつぶやきやまとめサイトへの書き込みをしなくなっていた。
ところが、三枝よりも先に元同級生は、不注意にもつぶやいてしまった。
「しにたい」
それはニートならだれもが一度はつぶやく、小さなツイートだった。
三枝がこれを聞き逃す道理はなかった。
彼はスマホを見つめ、かつ友情を瞳に篭めてたずねた。
「お前は、さっきつぶやいただろう」
相手は自分を鞭撻して答えた。
「それがどうした?」
「そんな返事をするな。もう、俺もバイトを始める。
一緒に飯でも食いに行こう」
「副業がばれて会社を首になったうえ、ユーチューブもアカウント凍結されて、彼女にも振られた」
「それでは、もう駄目なようか?」
相手は答えた。
「もう駄目なようだ」
よほど暫くしてから三枝はたずねた。
「お前は今どういうことを考えているようなのだろうか?」
相手は極めて遠慮がちに答えた。
「今でも別に積極的に再就職したいとかはおもってはいないんだ」