童話とかの二次創作物   作:従弟

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蜘蛛の糸【現代版】

ある日のことでございます。

 

一人の男がインターネットの小説投稿サイトを、ぶらぶら閲覧していました。

 

投稿作品は、質こそ玉石混合ではありましたが、みんなまっ白く輝き、その文章からは、物語をつづることへの情熱と楽しみが、絶え間なくあたりへ溢れております。

 

男が小説投稿サイトを眺めていると、ブックマークしている小説がひとつ更新しているのが見えました。

 

この小説は、神田太郎という男が、数年前にたった一度だけ書いて、そのまま放置していたものでした。

 

男は、昔その小説を夢中になって読んだことを思い出しました。

 

出来るならこの作者を応援してやりたいと思いました。

 

男は、マウスを操作すると。

 

 

 

いいね!を

 

 

 

カチリ、とクリックしたのでありました。

 

 

 

 

 

 

こちらは、ブラック企業で残業とパワハラの池の中で、他の社畜と一緒に、浮いたり沈んだりしていた神田太郎でございます。

 

神田は特段何か悪いことをしたわけではありませんでした。

 

ただ、大学時代にバイトもせずサークルにも入らず、ろくに企業研究もせずに学校の勧める企業に就職したのです。

 

転職も、継職も、どちらを見ても、まっ暗で、たまにそのくら暗からぼんやりと浮き上がっているものがあるかと思いますと、それは、天井から垂れ下がった荒縄のロープでございますから、その心細さといったらございません。

 

ここに落ちてくるほどの人間は、もうさまざまなパワハラや客先の急な仕様変更、デスマーチに疲れ果て、泣き声を出す力さえなくなっているのでございます。

 

ですから、神田もやはり、エナジードリンクにむせびながら、まるで死にかかった蛙の様に、ただもがいているばかり居りました。

 

 

 

 

 

 

 

ところがある時のことでございます。

 

何気なく神田がブラウザを立ち上げて、アニメのまとめサイトを眺めていますと、昔はまっていたネット小説の作者の名前が出ているではありませんか。

 

今度その作者の作品が、書籍化し、同時にアニメ化までするというのです。

 

ひっそりとした暗やみの中を、書籍化、アニメ化、ドラマ化、印税生活、不労所得と言う言葉が細く光る蜘蛛の糸の様に、垂れ下がっているのが見えた気がしました。

 

神田は、昔使っていた小説投稿サイトのマイページに行くと、途中で止まっていた小説の続きを投稿いたしました。

 

これは、神田が昔、8割がた完成させていたものの、そのまま飽きて放置していたものでございます。

 

すると、しばらくして、いいね!がついたではないですか。

 

神田はこれを見ると、手を拍って喜びました。

 

 

 

「この糸に縋りついて、どこまでものぼって行けば、きっと地獄から抜け出せるに相違ない」

 

 

 

こう思いました神田は、早速その小説の続きを書き始めました。

 

昼食も抜き、飲み会にも出ず、デスマーチ中にトイレにこもり、一生懸命スマホで毎日投稿を進めました。

 

しかし投稿される小説は、日に何万となくございますから、いくら焦って見た所で、容易にはランキング上位には食い込めません。

 

とうとう神田もくたびれて、ツイッターで宣伝したり、コミュニティで感想を募集したりし始めました。

 

 

 

すると、一生懸命投稿を続けてきた甲斐があって、いいね!や感想がぐんぐん伸びてきました。

 

この分でのぼって行けば、書籍化も存外わけがないかもしれません。

 

 

 

「しめた。しめた」

 

 

 

神田は社会人になってから何年も出したことない声で笑いました。

 

ところが、ふと気が付きますと、数限りのない新作投稿作品が、自分のランキングの後ろから、上へ上へ一心によじ登ってくるではございませんか。

 

神田はこれを見ると、驚いたのと恐ろしいのとで、しばらくはただ、莫迦のように大きな口を開いたまま、ランキング情報をクリックしていました。

 

ただでさえ、少ない書籍化枠、斜陽業界と言われる出版業界が、どうしてあれだけの人数の重みに耐えることができましょう。

 

 

 

そこで神田は、裏垢を作ると、複数アカウントによる工作や、他作品への粘着荒らし、ネガティブな情報の発信を始めました。

 

 

 

その途端でございます。

 

神田はマイページに急に入れなくなったのでございます。

 

届いた運営のメールを見ると「アカウント凍結」の7文字が浮かんでいます。

 

神田はその時、蜘蛛の糸が切れる音が聞こえた気がしました。

 

 

 

 

 

 

男が久しぶりに小説投稿サイトを見ると、神田の作品が消えていることに気付きました。

 

その男は、神田にいいね!をしたあの男でありました。

 

男は、まとめサイトで一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがてまたネットの海をぶらぶらし始めました。

 

 

 

一方で、神田はパソコンを前に泣いていました。

 

 

 

何故、あの蜘蛛の糸をのぼろうとしてしまったのか。

 

蜘蛛の糸を垂らしてくれた人がいた。

 

その事実さえあれば、地獄の中でも幸せはあったのに。

 

 

 

神田は泣き続けましたが、その叫びも、涙も、パソコンの画面を超えて届くことは、決してないのでございます。

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