童話とかの二次創作物 作:従弟
「王様、こちらバカには見えない服でございます」
仕立屋が、何もない空間を指していった。
「なるほど、わしには見えないな。
つまり、貴様はわしをバカだと言いたいわけだ」
王様は、にやりと笑う。
「不敬だぞ」
その言葉に、仕立屋はさっと青ざめた。
仕立屋の考えでは、王様は自分がバカだと思われないために、そこにさも服があるように振る舞うと思っていたのだ。
実際に、バカには見えない服など存在しない。
王様の目を見る。
本気だ。
仕立屋は、自分の浅はかさを呪った。
だます相手を選ぶべきだった。
少なくとも、目の前の王様は自分がだませる相手でなければ、だますべき相手でもなかった。
その学びの代償は、命である。
あまりにも高い授業料。
なにがバカには見えない服だ。
バカは自分じゃないか。
仕立屋は、足をがくがくと震わせ、何も言えずへたり込む。
その様子を見て、王様はさらに笑みを深める。
「だが、バカには見えない服。というのは興味深い。
場合によっては今回の不敬。
わしは、見逃してやらんこともないぞ」
仕立屋がばっと顔を上げる。
その場で心臓を差し出せと言われれば、そのまま差し出しそうな勢いだった。
死を超える恐怖を、目の前の王様は放っている。
「このバカには見えない服の製法をわしだけに教えろ。
そして、他の人間には決して教えず、お前も二度と作ってはいけない。
いいな」
・
王様は素っ裸で王宮内を歩いていた。
「王様、またそのような格好で」
「バカには見えない服だ。
大臣、お前はバカか?」
「当然でございます。賢ければ王様に意見などできませんから」
大臣の言葉に、王様はうなずいた。
「大臣の言葉に免じて、マントくらいは羽織ってやろう」
「バカには見えないマントを羽織らないでください」
現状素っ裸の王様を前に、大臣はため息をつく。
「で、大臣。何のようだ」
「隣国の姫から手紙が届いてまして。
先日の送りもののお礼だとか。
何を送られたのですか?」
「バカには見えない服を彼女に似合うように仕立てて、送ってあげただけだ。
一筆添えてな。
どうやらうまくいったらしい」
添えられた言葉はこうだ。
これは、バカには見えないドレスです。
あなたの魅力に気づかないあのバカの前では絶対に着ないように。
・
ある日、王様の国が他国と戦争しそうになった。
きっかけは些細なことであった。
けれど、国民の感情は高ぶり、開戦待ったなしの状況であった。
「大臣。他国に使者を送れ。
こちらは大規模な戦いを望まない。
代表者同士の決闘で勝負をつけたいと」
「それは、よろしいのですが。
バカにも見える下着くらいははいてください」
「わしは、ノーパン主義者だ」
断固として、王様は言い切る。
「加えて、決闘の代表者については純粋に技量で勝負すること。
同じ装備で決闘は執り行う」
「同じ装備、ですか」
「バカには見えない剣と、バカには見えない鎧を送れ」
・
決闘場は、異様な雰囲気に包まれていた。
なぜなら、机を挟んでバカには見えない鎧を身にまとった男が二人向き合っているのだ。
ちなみに王様の選んだ男は優秀な文官である。
この文官を選んだ時に血気盛んな兵士たちの前で、王様は言った。
「このバカには見えない剣を正しく使えるものを代表者にする」
代表者に選ばれたい兵士たちは、バカには見えない剣を一生懸命持ち上げようとした。
王様はそのどれもすべてを失格にした。
その中で、今回の文官だけがたった3本の指を使って、スッと持ち上げて見せた。
王様は文官を代表者に選んだ。
決闘場で、見た目には素っ裸の二人が和やかに会話している。
集まった聴衆は、狐につままれたような顔でその様子を見ている。
あれよあれよというまに和平が決定した。
あんなに騒いでいた国民も、毒気を抜かれたようで文句を言わなかった。
そもそも、きっかけは些細なことだったのだ。
大臣がいつの間にか王様の横に来ていた。
「知恵の象徴、見えない剣とはペンのことだったのですね」
「ああ、他国の王様が気づいてくれて助かった」
「ちなみに見えない鎧とは?」
「服を着ていれば、武器を隠し持っている可能性など考えなければならないだろう。
裸なら、その可能性を排して、敵意がないことを証明することができる。
自らに攻撃の意思がないことを示すことで、相手の攻撃を封じるのがバカには見えない鎧だ」
ほっと、息をついた王様と大臣の視線の先では、文官と他国の代表者が握手を交わし別室へと入っていく。
知恵というバカには見えない剣を使った、交渉という決闘は終わった。
細かな約束事を決めていくのだろう。
「しかし、王様。うまいこと考えたの」
隣に座っていた他国の王様が話しかけてきた。
「ここからが本番。裸の男同士が密室で二人きり、何も起きないわけもなく。
おのれのそそり立つ剣で戦う。
女などにうつつを抜かしておるバカには見ることはできぬ剣よ。
わしも、何度あやつの剣に貫かれたことか」
王様は叫んだ!
「ちげーよ!ばか!
やべえ!こいつ何もわかってなかった!
大臣、大臣、文官がやばい!」
別室から、文官が出てくる。
「大丈夫だったか。文官」
「はい。王様。わたくし、黙っておりましたが王様にいただいた剣以外にももう一本剣を持っておりまして。
有り体に言えば、二刀流なのでございます」
・
バカには見えない服を王様が着ている。
その噂を聞いて悪用しようとするものがいた。
「おい、悪徳プロデューサー。
我が国では、裸の女性を見世物にすることは禁止している」
「いえいえ、王様。
彼女たちは裸ではありません。
王様と同じようにバカには見えない服を着ているのです」
悪徳プロデューサーは、小ずるそうな嫌らしい笑みで言った。
その背後では、裸の女性が数人、目に涙を浮かべ少しでも自分の体を隠そうと縮こまっている。
「なるほどな。
ところで、悪徳。バカには見えない服が何でできているか知っているか?」
「はて、なんでしょうか」
「権力だ。
わしが白と言えばカラスが白くなるように、わしが雨だと言えばカンカン照りの中で皆が傘をさすように。
わしがバカには見えない服を着ていると言えば、皆が服を着ているものとして扱う」
王様がぱちりと指を鳴らすと、背後に控えていた騎士団が悪徳プロデューサーの首をはねた。
「貴様ごときに、わしと同じ振る舞いが許されると思うか?不敬だぞ」
転がった悪徳プロデューサーの首を、王様は冷たく見下ろす。
その王様の横に騎士団の一人が来て言った。
「ですが、こやつ服を作る腕は確かだったようですね。
我々の目では、彼女たちは美しいドレスを着ているようにしか見えません。
あれだけ美しいドレスでは人目を引きすぎますから、別の服に着替えさせましょう」
「ああ、お前たちは賢いから、バカには見えないドレスがきちんと見えるものな」
王様は楽しそうに笑った。
・
パレードで、王様は城下町を練り歩くこととなった。
「王様、今日はいつもの服ではないのですね」
「大臣か。王宮以外でバカには見えない服なんて着れるわけがないだろう。
そんなことをすれば、それこそ、バカだ」
王様の言葉に、大臣は黙ってうなずく。
その大臣を見て、王様はいやそうな顔をした。
「で、お前はその服でパレードにいくわけか」
「はい。以前にも申し上げたように、私はバカですから」
バカには見えない服を着た大臣が満面の笑顔で言った。
おわり。