「直哉!」
夏油の口からは天内のことも何もかもを忘れてそう叫んだ。彼にとって両親と同列、最も多くの心を占めている存在である直哉が吹き飛ばされたからだ。それは友情としては決して間違っていなかった。
しかし、この一瞬の行動はこの甚爾がいるこの場での身は決定的な隙を晒す行為でしかなかった。そしてそれを逃す甚爾でもなかった。その瞬間、黒豹のような体勢で神速の速度で甚爾は夏油のそばまで接近し、瞬間で半殺しにした。
「ざっとこんなもんか。」
その一言でこの戦闘をまとめると甚爾は天内理子を呪霊の中に放り込んでから呪霊ごと持って歩き出した。
◆◆◆◆
俺の最初の記憶は多分俺がまだ天才やって勘違いしとった頃、皆から次の当主は俺やって言われて、すべてを与えられていたかつてのある日。
たしか俺のお兄さん方やったかが禪院家には落ちこぼれがいるんやって、男のくせに呪力が一ミリもないんやって小馬鹿にしとる声が聞こえてきた時や。
それに俺はちょっとした好奇心を覚えたんや。どんな態度で生きとるんやろ。どんなショボくれた人なんやろ。どんな惨めな顔しとんのやろって。
そして使い始めてまだほんの少しの投写呪法を使ってあの人、甚爾君のおる躯倶留隊のとこへ行こうとして角を曲がって居たのが
甚爾くんや。
その瞬間俺は憧れちまったねん。その着崩した服に、そのショボくれるって言葉とは無縁の他者なんてどうでもええと思っとるようなツラに、そして何物をも食い破っちまうような野獣って言葉じゃとても足りんような目に。
いや、ちゃうな。俺が惚れたんはそれらが集まってできた強さや。扇よりも、兄貴達よりも、甚壱よりも、そして親父よりも、そんな強さと風格に惚れちまったんや。
それで常識はぶっ壊れた。今までの呪力アホみたいに持っとる術師が偉いんや、術式持ちが偉いんや、そんな常識は。甚爾君の前ではカスみたいなもんやった。
今にして思えばガキがヒーローに憧れるのと同じやったのかもしれんな。そして俺は思った。ああなりたいと、甚爾君と同じ立場に立ちたい。甚爾君と同じ全てを蹴破れる圧倒的な強さの領域に。
そしてそんな強かった甚爾君を見た俺はテンションがおかしな事になっとった。思わず今まで絶対に言わんかったであろう事を言っちまったくらいには。
オカンに甚爾君がいかにカッコええか、それを語っちまったんや。そして共感を求めてオカンの顔を見た瞬間に俺のツラに張り手が来た。多分オカンが俺に張り手した最初で最後の機会やな。
そして説教されたわ。呪力もないカスなんかに憧れちゃあかん。憧れるなら甚壱にしろ、そう説教された。そしてその後家族会議が開催されて気づいた時には少しの金を持たされて甚爾君が俺の教育に悪いって名目で追い出されてた。
アイツらは甚爾君が怖かったんやろ。ただ甚爾君はめちゃくちゃ強いから下手に追い出して暴れられても困る。だから一応の理由をつけてウチから追い出したんやろう。
そしてうちの家の門から甚爾君が出てくところを見ちまった俺はこう思っちまったんだ。俺のせいで
そのショックずっと家に引きこもっちまってたなぁ。甚爾君を追い出された原因になった俺も、この家も、何もかもが嫌で、嫌で、嫌でたまらなくなっちまって、それでなんもかんも消して引きこもってた。
引きこもって暫くした頃やったか。無造作に
「アニメ買ってこい。」
だいたいこんな事を言われた。アニメで見た親父が子供にタバコ買ってこいって言ったようなノリやね。
そしてどうせどうでもいいし、こんなクソみてぇな家にいるよりはマシだろって思って出かけたんや。でもこれ冷静に考えれば子供にやらせる事じゃないわな。考えんだあの親父。
そしてそのまま親父に買ってきたアニメにハマった。特にハマったんは親父とは違って作画がヌルヌル動いてバトル描写が凄いやつやった。多分甚爾君の面影を探しとったんやろう。
ああ、せやなぁ、俺は甚爾君になりたかったんや。そうならこんな下らん夢見とる暇はない。前に甚爾君がおるねんからなぁ。
そして俺は、目を覚ます。