暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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初めは簡単な年表の考察から始まります。


第1話

 魔法。

 それが伝説や御伽話の産物ではなく、現実の技術となってから一世紀が経とうとしていた。

 

 20世紀の終わり頃に昔存在してた予言者の言葉を実現させようとしたどこぞのバカが核テロをしようとして、一人の超能力者が防いだことから世界は分岐したのだとか。それから多くの超能力者やら何やらが世の中に出てきて、技術科・体系化していった。その過程で2030年頃に地球規模で寒冷化が発生してエネルギー不足が問題となって第三次世界大戦が勃発した。

 

 これがひとえに熱核戦争とならなかったのは魔法を扱える魔法技能士の世界的な団結によるものだった。

 

 魔法師が核分裂を抑止し、相互確証破壊がメチャクチャとなってしまった結果、何が起きたかと言えば、通常兵器又は魔法による人類史上最悪にして壮絶な殲滅戦が行われた。

 

 相互確証破壊とは、核戦略に関する概念・理論・戦略である。核兵器を保有して対立する2か国のどちらか一方が、相手に対し先制的に核兵器を使用した場合、もう一方の国家は破壊を免れた核戦力によって確実に報復することを保証する。これにより、先に核攻撃を行った国も相手の核兵器によって甚大な被害を受けることになるため、相互確証破壊が成立した2国間で核戦争を含む軍事衝突は理論上発生しない。以上、Wikipediaより抜粋。

 

 という事になってるが、この理論があるから総力的なぶつかりは無く、ある程度の戦争の制御が可能だったが、魔法師の存在によって理論と秩序は崩壊。核兵器は無用の長物となり、ただの放射能を撒き散らすだけの置物となった。

 

 その結果、通常兵器及び魔法師による人類史上最悪にして壮絶な殲滅戦が幕を開いた。

 

 特に酷いのが、アフリカや南米だった。寒冷化によって数少ない資源を奪い合い、殺し合った結果、マトモに国としての体裁を残せたのはブラジルのみで他は主要都市を辛うじて維持していたり、国が崩壊した。

 

 生き残った国家で健全な方に当たるのが、自称になった世界の警察アメリカ(現在はカナダとメキシコあたりを呑み込んで『USNA』と改名)と初めから魔法師によって裏から支配されてた日本、引きこもりのオーストラリア、空気になった台湾くらいなものだろう。後は知らない。

 

 不健全だと思われるのが、中途半端に版図を拡大したばっかりに絶賛大炎上中の中国(今は大亜細亜連合)と国粋主義者と結託した魔法師によって革命が起きて社会主義国家となった新ソ連、宗教的な問題やらを色々と無視あるいは粛清して結託したであろうインド・ペルシア連邦だ。

 

 そうして魔法師が軍事の中心となり、より強い魔法師を生み出そうと世界は際限なき軍備拡張を強いられ、不安定な状態は留まるところを知らない。要するに60億以上の人間をジェノサイドしたけど、まだ殺し足りないのだろう。

 

「戦争は魔法師にとって甘美な毒なんだろう」

 

 戦後はまだ始まらないらしい。

 

 そんな考察をしたところで、俺はパソコンを起動させる。

 

 画面には『志村魔法請負事務所』という文字にどこぞの探偵みたいな影絵の入ったロゴが出てくる。

 

 志村真弘、15歳。志村魔法請負事務所を営む男子中学生だ。後見人が出資してくれたので3階建てのビルを買い取り、1階は喫茶店、2階が事務所、3階が自宅になっているという毛利探偵事務所みたいな状態になっている。名義は周公瑾。

 

 そんなこんなでメール画面を開くと、今日は仕事依頼のメールは来てなかった。

 

 閑古鳥が鳴いてるのは今に始まったことではなく、1ヶ月に1つくらいあれば良い方だと思う。新聞でも読んでよう。

 

 ──―コンコン。

 

 ありゃ、フラグだったか。

 

「開いてますよー」

「失礼するよ」

 

 入室してきたのはよく仕事を依頼してくれる皇悠(すめらぎはるか)だった。

 

 黒髪ロングの純和風な美女。ラノベとかで必ず出てくるタイプの正統派美女で、男勝りな口調の侍みたいな女だ。22歳。父親が今の陛下で皇族であり、大佐の階級にある現役の海軍士官でもある。

 

「仕事を依頼したい」

 

 通称『鉄血皇女』と呼ばれる彼女は大学を飛び級して終わらせると、二十歳で海軍士官となり、その2年後……つまり大亜連合による沖縄侵攻があった後に海軍上層部を粛清して改革を断行。組織の健全化を果たした高潔な人物だ。今の海軍は彼女のイエスマンしかいない。

 そして、生真面目な人間だから、世間話も何もなくビジネスライクに努めてくれるので気分が楽だ。

 

「どんな仕事でしょうか?」

「長期の仕事だ。この少年の監視をしてほしい」

 

 写真には、寡黙そうでクールな少年が物凄い美少女と一緒に写っていた。表情筋が仕事してなさそう。美少女の方は否が応でも見惚れるしかない容姿だ。

 

「素性調査とかではないんですか。ということは、素性に関しては既に情報があるということですか?」

「彼の名前は司波達也。来年度から魔法科高校に通う高校1年生だ。ちょうど君と同じ年齢になるんだが、この少年は国防軍の非公式の戦略級魔法師で四葉家の直系だ」

 

 ウゲッ、何その超ハイパーレベルにヤバい厄ネタの塊は。軍事機密に該当するのにあっさり教えやがった目の前の女軍人は懲戒免職ものだし、知らされた俺は命の危険に晒されただろう。

 

 国防軍には現在、十師族の子飼いで私兵化している多数派を占める陸軍中心の腐敗集団の『十師族派』と誇り高き自衛隊の生き残りである陸軍の一部に存在する『旧自衛隊派』、皇道精神を唱える大日本帝国時代に存在してた皇道派がマイルドになった海軍に多数存在する『新皇道派』の3つが乱立している。

 

 十師族派は民主主義の軍隊にあるまじき醜態を晒す汚職とビジネスに興じる恥知らずで、旧自衛隊派は時代遅れの老害、新皇道派は最早どこからツッコミすれば良いのか分からないくらい論外というビックリする程マトモじゃない。

 

 そして、論外の新皇道派が権威を感じて止まない神輿に担ぐ皇族軍人である皇悠がリスクも承知で依頼をして、司波達也という男を監視させる意図は何なのか気になるところだ。相手は復讐という自己満足のために制止しようとした公安やら何やらを力で捩じ伏せて大漢の魔法関係施設のほぼ全てを大勢の関係ない民間人の虐殺の果てに破壊し尽くした家柄だ。普通に考えて監視するのは納得だ。納得するけど、余計な不和を作ってまでするようなことじゃない。

 

 疑問はあれど、俺は口にしない。いくら海軍を掌握したからといって、私的利用すれば十師族と同じになってしまうし、それに彼女は軍の統帥権を持っている訳ではないただの軍人だ。人員を密かに動かすには、彼女はあまりにも有名になり過ぎた。それで、手頃に扱える民間企業を動かすのはそれだけ彼女が使える手札が無いという事なんだろう。

 

「仕事は承りました。しかし、重要情報を民間企業に流しても大丈夫なんですか?」

「この情報をどこへ流そうと勝手だけど、その時は横浜と長崎の中華街が掃除されるだけだろう」

「日本の華僑に対する悪感情は理解できますが、短絡的じゃないですか?」

「それだけ潰したくて仕方ない連中が多いということだ」

 

 アンタがやりたいだけだろ。

 

 2度目の地上戦を経験させられた沖縄侵攻では、現地に多くの潜伏兵がいたのだが、これらの殆どが中華街の何者かによる手引きで不法入国した者たちだったらしい。当然、そんな事は『身に覚えのない』ことで無実であることは立証されるも、獅子身中の虫扱いされて潰せる機会をいつでも狙われている。今は喉元に刃を突き立てられている状態だ。困るのは周大人だが、俺じゃない。

 

 仕事内容は分かった。後は監視対象を監視するだけだ。

 

「ちなみにターゲットが中学生ということは、これから高校生になるんですよね?」

「ああ。志村には魔法科高校に通ってもらいたい」

「既に三高への入学が決まってます」

「……一高に変えろ! 今すぐ!」

 

 無理に決まってんだろ。ここは金沢なので無茶振りは勘弁してほしい。

 

「監視に関しては何とかしましょう。手立てが無い訳じゃないので大丈夫です」

「そうか。それなら任せよう。追加で依頼するかもしれないが、その都度依頼料を支払うから私に従え」

「了解です、雇い主」

 

 こんなのが皇族で日本は大丈夫なんだろうか。

 

 そこはかとなく心配だ。

 

 

 

 

 

 

 




主人公は転生者じゃありません。

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