暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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第11話

 テストが終わり、成績発表がされた日のことだ。

 

 総合1位に一条将輝。2位に一色愛梨、3位に吉祥寺真紅郎だった。

 

 筆記も実技もトップスリーはこの3人の争いだったということで、肝心の俺は63位だった。月とスッポンくらいの差がありそうだな。

 

 だが、ここで本気で順位を狙っていったら目立つのは確実で、九校戦の代表に選ばれるような事態になる可能性は高い。それは絶対に回避しなければいけない事項である。

 

 今頃、選手選考が始まっているだろう。

 

 そんなことを考えつつ、俺は学校を仕事中の都合で休んで横浜の中華街に訪れていた。

 

 中華街というのはこの国の経済を下支えしてくれた過去がある。太平洋戦争で焼け野原となり、経済も何もガタガタだった時に助けてくれたのだが、今はすっかり浮浪者だったり国籍不明の不法就労者の巣窟である。とんでもない風評被害で『大亜連合の手先』とも思われ、一掃される日は近い。

 

 そんな事より、華僑は一度内側に入ると柵は大きいものの何かと手助けなどしてくれるから助かる側面がある。日本と持ちつ持たれつの関係だし、文化の大先輩だから学ぶことは多い。

 

「おじさん、肉まん2つください」

「おっ、坊主。しばらく見ない間にデカくなったな。昔は豆粒みたいだったのにな。どれ、1つ追加だ」

「昔も今も俺は男女関係なく魅了してやまないイケメンですよ」

「前髪何とかしてから出直してこい」

 

 酷い言い草だと思う。

 

 肉まんを買い食いしながら、不法就労者や浮浪者が路地裏で屯っているのを見つける。心なしか増えているような気がしなくもないが、そこら辺は追々何とかするとして目的地に到着する。

 

 高級感漂う料亭の裏口から入らせてもらうと、周大人が出迎えてくれた。

 

「お久しぶりです、周大人。繁盛してますね」

「君のところは相変わらずなようだね。全く売れないのはある種の才能を感じます」

 

 ちゃんと売れてるよ? 下の階の喫茶店がな! 学生客は見込めないけど。

 

 なんというか、上客向けの店なので使ってる食材はどれも一級品だ。この店で1つでも何か頼もうとすれば、一体どれだけのお金が消し飛ぶんだろうね。

 

 なんてどうでもいい事を考えながら、今更になって思い出したことを訊いてみる。

 

「ブランシュの一件であのお方関連で何かありましたか?」

「かなり怒られていましたよ。魔法科高校への襲撃がキッカケでテロリストに指定されてしまったので、カンカンになってましたよ。今頃はどこに行ったか不明です」

「年甲斐もなく律儀に総帥なんかしてるからです。たぶん死んでないでしょう。ところで、彼らはここにいますか?」

「3階の個室を使わせています。貴方も使いっ走りは程々にしておいた方がいいですよ」

 

 まあ、危ない橋を渡るような事だけはしないようにしている。

 

 魔法科高校では、全国魔法科高校親善魔法競技大会……通称『九校戦』に向けた準備が進められている。魔法を使った大規模な催しであり、かなりの金が動いている一大事業で賭け事の対象となっている。

 

 今年は一高連覇か三高阻止かの二択となっているが、九校戦賭博に参加する裏社会の住人の殆どは一高に賭け、少数が三高に賭けていた。今年も一高の優勝で決定しているのに、無駄な悪足掻きをすると感心しよう。九校戦は『十師族がいる学校が優勝しなければならない』という暗黙のルールとやらがあるらしいのでぶっ壊すような事をすれば、後で面倒な事が起きるのは確実であろう。

 

 何故いきなりそんな話をし始めた理由は、ここの3階の個室にいる人間たちが九校戦賭博をしている胴元であるからだ。

 

 無頭竜という香港系犯罪シンジケートの幹部たちだが、今日はこの幹部たちの粛清を無頭竜のボスから依頼されていた。報酬は得た上でボーナスで彼らがギャンブルに勝てた場合に得られる金額の3分の1である。

 

 こんな依頼が舞い込んできた原因は、ブランシュがテロリストとして壊滅させられた一件からだった。無頭竜はブランシュの援助をやっていた節があり、様々な支援をしてきたのだ。だが、ブランシュ壊滅によって大損害を被り、ブランシュの総帥との縁切りを図ろうと画策していたところへ被った損害を補填しようと一部の幹部が九校戦賭博に目をつけたのだが、これが厄介なもので皇悠の用意した罠であった。

 

 無頭竜の収入源の1つに魔法師の肉体を使って製造される『ソーサリー・ブースター』があるのだが、これが相当に気に入らないらしい。多くの魔法師からしてみれば、魔法師の脳を加工して製造される非人道的兵器をこの世から消し去りたいようだ。

 

 一般の魔法師にとって良い事だが、素直に喜べることでもない。軍でも魔法名家でも、魔法力の低い魔法師を囲い込むより、さっさと脳を引っこ抜いて加工してしまった方が有効活用できるのだ。それはどこの国でも変わらない。魔法師の人権なんて有って無いような幻想でしかなく、魔法師は『兵器』で絶対数の少ない『限りある資源』である。資源は有効的に活用されなければならず、魔法師の平和利用なんて御伽噺でしかない。

 

 皇悠のやろうとしている事は大体推測できるのだが、彼女のやろうとしている事では無頭竜自体は潰せても無頭竜の事業であるソーサリー・ブースターを無くすことは出来ないだろう。でも、あのメスゴリラの事だから何とかやりかねない。でも、それは彼女の下についてる老人連中は望んでないし、何が良いのか悪いのか分からんね。

 

 何も考えないようにしよう。

 

 3階の胴元たちのいる個室の前では、生体魔法兵器の『ジェネレーター』が2体いて、決められた合言葉を言わないと敵判定して殺しにかかる設定がされている。

 

 無論、合言葉は把握済みだ。

 

 料理人に扮してジェネレーターに合言葉を伝え、入室すると──―4人の中年男性と若い男2人……若い方はジェネレーターだった。

 

「料理は頼んでないんだが……」

 

 そう呟いた男はダグラス=黄だ。ボスとも顔を合わせたことがある『親しい』人物だった。

 

 扉の前にいるジェネレーターも含め、ジェネレーターの位置を掴んだので固有魔法を使わせてもらおう。

 

 精神干渉魔法『ソーサリーハック』

 

 他人の演算領域へ干渉が出来る俺に与えられた特異過ぎる魔法は、魔法師の演算領域を乗っ取りそのまま操作できるようになるのだ。

 

 1人や2人なら意識を完全に保ったまま、普通に行動させれるのだが、それ以上となるとカクカクと機械じみた動きになるデメリットが存在し、完全に乗っ取った状態の時に死なれるとその際の痛みがこちらへ流れてくるクソ仕様になっている。つまり、俺は魔法師の演算領域を干渉できる四葉家の魔法師みたいな魔法師ということだ。

 

「貴様、何をしたっ?」

「おい、2号! 聞こえないのか!」

「すみません、無頭竜の幹部の皆様。ジェネレーターは既に貴方たちの手元を離れました」

 

 幹部たちには動揺が広がる。

 

 入ってきたのが魔法師であることに怯え、自分たちに敵対的な行動していることから動けないでいる。まあ、動いたら殺すが。

 

「ああ、申し遅れました。私はボスの懐刀をやらせてもらってますリッドと申します。以後お見知りおきを」

「なんだとっ?」

「何故ボスの懐刀がここに!」

 

 ダグラスが『知らない』という顔をする。俺だって無頭竜の幹部だったら、知らぬ存ぜぬしている。でっち上げの身分だった。

 

「皆様は誠に残念ながら、ボスへの忠誠を裏切った罰として粛清することとなりました」

「ち、違う! 何かの間違いだ!」

「我々はボスへの忠誠を裏切ったことなど一度もない!」

「そうだ! 今までどれだけ組織に忠誠を尽くしてきたか! ボスなら解ってくれてるハズだ!」

「さあ? かつてはこうだったと前例主義に拘るのは老害のすることです」

「我々は不要ということなのか! 何故だ! 何故ボスは我々を見限った!」

 

 知らないよ、そんな事。でも、ボスにとって長年の友人や恩人より娘の人生を選んだということなんだろう。

 

 1人が銃を手に取ろうとするが、ジェネレーターに命令を出して拘束する。ついでに他の幹部も拘束して犯行出来ないようにしておくのも忘れない。

 

 自分たちの命が危ない。そう感じた男たちの行動はそれぞれ違った。命乞いする者、金や女の話をする者、受け入れる者、罵詈雑言ぶちまける者と様々である。素敵なBGMだなんて思えるようなサディスティックな嗜好を持ち合わせている人間がいれば、この人間の藻掻き苦しむ様を見て愉悦に浸れるのかもしれないが、俺はそこら辺の性癖を持ち合わせていないので特に何か思うところは無い。

 

 余計な事を考え過ぎたかもしれない。

 

「安心してください。貴方たちは形はどうであれ生かしておきますよ。まだ利用価値はあります」

「なに?」

「そういうワケなので安心して利用されてもらいましょう」

 

 俺はCADを向けた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「おや、もう終わったのですか?」

「あんなのは敵じゃありませんよ」

 

 事が終わり、店から出ようとしたら周大人に話しかけられた。

 

 何を考えているのか分からない笑顔を浮かべているのだが、そもそも俺が動く原因になったのはこの男が皇悠の考えに乗っかったからだった。利害の一致という奴だろう。

 

「あんまり肩入れしすぎるとあの幹部共のような末路になりますよ」

「どうせ最後に噛みつくなら、噛みつかせてくれる機会を与える相手が良いと思いません?」

「利害が一致するのは良いですね」

「君の場合はそうはいきませんからね。ですが、そろそろ旗色を明らかにした方がいいでしょう」

 

 皇悠の陣営は様々な人間がいて、腹の奥底で何を考えているか分からない魑魅魍魎が存在している。どれもが現体制の改革で利害が一致しているものの、終わった後が問題だ。誰に主導権が握られるかで何もかも変わってくるし、短絡的に皇悠の下につく判断するのは危険すぎるだろう。そこら辺は慎重に行動していかないとまだあの魑魅魍魎の支配から抜け出せないので色々とマズい。

 

 真面目に考えたが、要するにこれは警告であり忠告だった。

 

「肝に銘じておきます」

 

 タイムリミットは近い。

 

 

 

 

 

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