暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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第14話

 九校戦が開催される前日は、懇親会が催しされている。

 

 互いの学校の選手を見定める良い機会であるが、浮かれ調子の学生にはそんな事を考えている様子はなく、むしろ男女の恋愛的な目で見るものが多い。

 

 前髪長くて顔が隠れている俺は変な目立ち方はするものの大して目立つことは無く、静かに観察する。護衛は一旦停止で、学生らしくやれとのお達し。膝枕はつかさちゃんがしてもらっており、四十九院にドヤ顔して悔しがらせるなどと大人げない行動をしていたのを見せられたが、あまり気にすると胃を痛めるので考えないようにする。

 

「お飲み物はいかがですか?」

 

 赤毛みたいな髪色の女性から炭酸ジュースを貰う。確か一高の司波達也と同じクラスの千葉エリカだったな。

 

 千葉家は『百家』という括りに入る魔法名家で、魔法師の魔法による近接戦闘術を生み出した家柄だ。その性質上、軍と警察関係に強力なコネがあり、十師族に続く特権族だ。こちらはまだ穏当な方だろう。どっち付かずの中立といったところか。

 

 大して気にするような事でもなく、俺は一通り巡り歩いてから三高一年男子が固まっているゾーンへ帰還する。

 

 そこでは、ある一点を見つめたまま硬直する一条将輝がいた。

 

 彼の視線の先では、司波深雪が談笑している姿があって……色々と察した。

 

「一目惚れか、一条」

「なっ、にゃにを言い出すんだ!」

 

 ブワァッ、と一瞬で顔を真っ赤にして否定するあたり図星であろう。

 

「志村、分かっても言わないでいてあげてよ。将輝にとって初めての経験なんだからさ」

 

 吉祥寺が言うには、一条は今まで言い寄ってくる女性ばかりで受け身に回ってきたらしい。

 

 それくらいは珍しい事でもないだろう。魔法師は魔法力に比例して容姿も優れるので、魔法力の高い十師族の跡取りともなればその容姿は俳優顔負けと言っても過言でない。

 

 そんな一条は自分の容姿と家柄だけで落とせてきたのだが、司波深雪のように興味関心が無い人間は初めてという事なんだろう。まあ、こういうのは早めに決着しておかないとズルズルと引き摺って拗らせてしまうので、とっととフラレてしまえばいい。

 

「気になるなら、声をかけてみるべきじゃないかな。懇親会なんだから、気になる相手がいるなら声をかけるくらいの度胸は見せてほしいね。一色に声をかける他校の男子生徒を見習って当たって砕かれればいいんだよ」

「砕かれたら駄目だろ!」

 

 いや、無理でしょ。

 

 監視してきたから分かるけど、司波深雪は兄に対して特別な思いを抱いている。司波達也だけにしか目を向けていない。一条が入れる余地なんて皆無だし、絶対に有り得ない。

 

 だったら、さっさと玉砕して人生初の挫折を味わった上で次からは頑張って欲しい。

 

 なんて思いを抱いたが、俺が一条のために何かすることはしない。そもそも、司波兄妹と関わったら死亡フラグに近づく可能性が高いので余程の事でない限りは近づきたくない。

 

 一条は見惚れるばかりで声を掛けていないが、一色は勇猛果敢に話しかけて行った。十七夜と四十九院を伴ってだが……四十九院は一色に質問攻めに遭ったらしくグロッキー気味だ。膝枕してもらったなんて口を滑らせるからだ。

 

「はじめまして。さぞかし名家の出身だとお見受け致しますわ。私は一色愛梨。こちらが十七夜栞と四十九院沓子です。貴方の名前を伺ってもよろしいかしら?」

「こちらこそ。第一高校一年、司波深雪です。よろしくお願いします」

「司波?」

 

 四葉ですが、なんて内心思ってたり……しないだろうか。

 

 さっと記憶を辿った一色は相手が一般の家の魔法師だと思い至ると、露骨に見下し始める。

 

「あら、一般の方でしたか。今年は姫殿下が観戦に来られますの。ですから、優勝は私たち三高がいただきますわ」

 

 やっている事は単なる名家であることを鼻にかけた嫌味な女だが、一色はなんだかんだと三高では人気のある女性だ。それだけの実力があるからだ。

 

 姫殿下、というあたりで司波深雪は表情が硬くなったが……すぐに笑顔を取り繕って無難に応対していた。

 

 一高への挨拶が終わり、三高が集まっているゾーンへ帰還してきた一色ご一行。俺は気にせず並べられた料理を見ていた。

 

 ビュッフェとは、フランス語で立食形式での食事の意味。ビュフェやブッフェともいう。ホテルなんかでパーティーを催すと、大体が立食形式となるだろう。座って食事する、が基本なので立食というのは新鮮な感じがするも何となく悪い事してる気分になって落ち着かない。

 

「志村、ちょっといいかしら」

 

 背景と一体化しようとしていたところへ、一色が声をかけてきた。

 

 相変わらずキツそうな性格の女性なので、親しまれるような可愛いあだ名をつけてあげるのが得策だろう。過去にやったら、凄い怒られたが。

 

「なんですか、エクレアちゃん」

「エクレールよ! 同じ意味でも全く違うわよ!」

「稲妻を名乗るなら、頭に真紅をつけてほしいですね。三高の制服は赤だから、さしずめ真紅の稲妻(ルージュ・エクレール)といったところでしょうか」

「誰がジョニー・ライデンよ! 髪の色しか合ってないじゃない!」

 

 詳しいな、おい。

 

 100年近い前のアニメだったかのネタだが、今のご時世のアニメ作品は過去作品ものを再放送するばかりで新作は出していない。戦争があったし、昔は魔法師開発のために『何らかの異能力者かもしれない』という理由で研究所にぶち込まれる人間が数多く存在していた影響で、良作を作れる人はいなくなってしまった。

 

 ちなみにこうしたやり取りは三高では見慣れた光景で、三高の皆さんは「またやってるよ」という呆れた視線を向けてくる。どこかにツボったらしい十七夜は、声を出さず肩を震わせていた。

 

「まあ、いいわ。志村、姫殿下って懇親会に出席されるのかしら?」

「出席するんじゃないか。VIP待遇だし、一応来賓として挨拶くらいはするだろう。護衛に関してなら、別の人がついているから心配いらないし話がしたいのであれば、浴場を使用する予定だから上手く時間が合えば顔を合わせられるだろう」

 

 初知りじゃぞ、と四十九院は驚き一色は「時間帯は?」と詳細を訊ねてくる。

 

 そこまで知ってるんなら、入浴の時間帯まで把握していて当然かもしれないけど……残念なことに。

 

「知らん」

 

 知らなかった。

 

「なんで肝心なところを知らないのよ、この役立たず!」

「いや、そこら辺は四十九院に呼び出しがあるだろうし……俺が知る必要はないだろ。便乗すればいいんじゃないか?」

 

 便乗できるとは言わない。十中八九、貸し切りとなる確率が高いだろうから。

 

 などというやり取りの末、学生の来賓やら何やらの挨拶が始まった。

 

 魔法師社会の中では有名な人、与党の政治家、それに皇悠と護衛の遠山さん、続々と登壇してきて最後に九島烈が……ではなく、妙齢の美女の登場だ。

 

 九島烈は90近い年寄りで男性だと記憶していたが、まさか性転換したのだろうか。ものの見事なビフォーアフターとしか言いようがないが、もしかしたら第九研の集大成『仮装行列』を使って妙齢の美女に女体化する幻影を見せて登場したのかもしれない。

 

 しかし、一瞬だけライトが消えると妙齢の美女と入れ替わって白髪混じりの年老いた男性が登場した。

 

「先ずは悪ふざけをした事を謝罪しよう。だが、これは非常に弱い魔法だ。しかしこの魔法に気がついたのは私が見た限りでは五人だけだった。つまり私がテロリストで、此処に居る人全員を殺そうとしたとしても、止めに動けたのは五人だけだと言う事だ。

 

 諸君、私は君たちの活躍を楽しみにすると共に、君たちの工夫を期待している。先ほどのように小さな魔法でも、使い方次第では有効な魔法となる。使い方を間違った大魔法よりも、精度の高い小魔法の方が役に立つ事もあると言う事を覚えておいて欲しい」

 

 過去に活躍した人間のやる事は一味違うようだ。テロリスト云々はさておき、後半あたりの言葉は大きな関心を寄せるものだった。感銘を受けたと言っても良いだろう。

 

 結局、なんだかんだと諦めかけていたところだったのだ。

 

 一般魔法師が十師族に勝つことは出来ない。

 

 それが日本における常識であり、覆すことは出来ない。そもそも地力で大きな差が生じているのだから、どれだけ逆立ちしたって勝てそうにない。

 

 ならば、九島烈の言うように工夫をすることが重要だ。勝てないなら、勝てないなりの戦い方を編み出す必要がある。

 

 そうと決まれば、攻略法は決まった。たぶん優勝阻止は出来るだろう。

 

 あとはあの妖怪の依頼もしないといけないんだよな。

 

 どっちに転んでも自分の身が危ないだけに憂鬱となるし、頭を悩ませる一因を担っている。

 

 次から次へと問題が積み上がっていくことに辟易としながらも、俺は周囲に合わせて拍手をしておくのだった。

 

 

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