暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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第16話

 九校戦の本戦が始まった。

 

 スピード・シューティングが始まり、優勝候補の七草真由美が出場する。

 

 魔法力では、彼女の兄にあたる七草智一と同等とされており、遠隔視系知覚魔法『マルチスコープ』を先天的な特殊能力(超能力)として自由に行使できるという異能の持ち主。一人の人間が魔法と超能力を兼ね備えることはできないとされているが、七草真由美は現代魔法と特殊な知覚能力を両立することに成功したイレギュラーな魔法師である。この異能もあり、「世界屈指の遠隔精密射撃魔法の使い手」と謳われている。

 

 マルチスコープを使い、射出されるクレーを知覚して銃座を構築、そこからドライアイスの弾丸が発射されてクレーを破壊するのか去年までの戦術。練習風景を見た感じでは、前述した戦闘スタイルを変えていないので今年も同様の戦闘スタイルを貫くことが予想される。

 

 正攻法で打ち倒すのは魔法力に劣る一般魔法師には不可能に近く、あまり現実的ではない。

 

 ならば、少々姑息でグレーゾーンに近いがCADに細工をさせてもらうことにする。

 

 無頭竜の幹部が大会委員のCADのチェックをする人間に金を握らせて買収していた人間をそのまま使わせてもらう。表向きは『無頭竜からの指示』ということで動く彼は、実に手際よく七草真由美に気づかれることなくCADへ細工を完了させるのだった。CADのソフト内に魔法の処理して残ったゴミを増やして効率を悪くしてサイオン消費を増やす嫌がらせ程度のものだが、もしマルチスコープ使われてたら頓挫していた。別にバレたところで俺に被害は及ばないので問題ないが。

 

 予選ではひたすら七草真由美の体力を削る方向で決定している。大した効果は無さそうだが、こればっかりは仕方ない。思い切って電子金蚕を使ってもいいが、あまりにもリスクが大きいのでやめておく。同じように七草真由美を洗脳して負けるように仕向けるのも不自然だし、リスクがデカいのでやめておく。何も縛りが無ければ、そもそも襲撃して出場させないように出来るのだが、色々な意味でアウトだろう。

 

 きちんとスポーツマンシップに則って『ソーサリーハック』した一般魔法師を勝たせなければならないのだが、難易度が高い。どんなに足掻いたところで十師族の力を超えることは出来ないからだ。

 

 考えついた最初の案は、領域展開して内部に入ったクレーを順次破壊できるようにする魔法式を使うというものだが、これは『早撃ち』が主題である競技を根底から覆しかねない魔法なので却下だ。

 

 では、次に考えついて採用した案が十七夜の扱う『数学的連鎖(アリスマティック・チェイン)』とてメスゴリラが実演した必殺技『無限牢獄』なんて中二病極まるカッコいい名前の技を参考にして魔法式を組み立てる。

 

 アリスマティック・チェインは1つの魔法から連鎖して複数の目標を打ち倒す魔法で、メスゴリラの『無限牢獄』は特殊形状のロングマガジンから供給される弾丸を無尽蔵に撃ち出し、跳弾を駆使して銃弾の檻を作り上げるトンデモ技だった。どっかのラノベ主人公が元ネタらしいが、思いつく人もそうだけど実現する人も頭がおかしいと言わざるを得ない。やはり一人だけ世界観が違う。

 

 どっちも高い空間把握能力と全ての軌道を演算できる優れた頭脳が必要とされるワケだが、数学的連鎖はともかくメスゴリラの技は魔法でどうやってやるのって聞きたくなるレベル。結局、魔法師なんて普通の人間からちょっと毛が生えた程度なのだ。マジモンのバケモノ相手に勝てるハズもない。

 

 閑話休題。

 

 予選が終わり、次からは対戦形式で試合が始まる。

 

 俺がハックした二高の清水って選手と七草真由美の対戦が始まろうとしていた。

 

 ここまで全てパーフェクトにクレーを全て破壊してきた七草真由美は男女問わず人気が高いので声援を受けながら、堂々たる姿で登場してくる。勝つのは確実であるし確信しているのだろうが、これから泣き顔を晒すと考えると何だかいけない趣味に目覚めそうだ。

 

「勝てそうか?」

 

 VIPのための特別観覧席にて、海軍の黒い詰め襟の制服を着た昇任人事で少将となる皇悠が問いかける。海軍の制服は前は白だったのだが、陸軍と被るので変更されたらしい。空軍は紺色。

 

 九校戦の会場内でどこが安全かと問われたら、ぶっちゃけどこにも無い。本来なら、皇悠の護衛なんぞにつかず九校戦にも参加しないで事務所かどこかで人を動かすのが最適解だが、そんなのは与えられた依頼を完遂する上で皇悠の護衛はしなければならないので九校戦の会場内で安全な場所を見つけなければならなかった。

 

 十師族派の巣窟である九校戦会場では、皇悠及びその周辺は要監視対象とされている。四六時中監視され、プライバシーがあったもんじゃない。陸軍からの監視の目を潰すことは懇意にしている十師族の高官にお願いすれば容易であるけど、ここには風間玄信とその部下がいて、上から「監視するな」と命令されても理由付けて監視してくる可能性は高い。

 

 そういう事で俺が自分の魔法で暗躍できる場所というのは、いつ誰がやってくるか、何を仕掛けられてるか分からない自室かトイレくらいなもので、監視の目を無理やり撒こうとすればあらぬ疑いをかけられるので無理とするなら、どこにも隠れ場所は無かった。

 

 そこで皇悠が考えついた監視の目を潰す方法は、九島烈を抱き込むことだった。他にも思惑があるようだが、何らかの取引が完了したらしい。思っきし同じ室内にいるのだが、自分が頑張って作り上げた十師族の権威が落ちて大丈夫なのだろうか。ちなみに藤林響子もいるのだが、大丈夫なのか不安である。

 

「勿論、勝てますよ」

 

 そういう依頼だから、当然ながら勝利宣言する。藤林響子は驚き、九島烈は興味深げに見てくる。

 

「ほう。君はあの二高の生徒が勝つと言うのかね?」

「勝つための算段はつけてきましたから。七草真由美が去年と同様の戦術ならば勝ちは取れるでしょう」

「どうするか訊いても?」

 

 皇悠は許可を出している。完全に味方にしたつもりになっているようだ。全部話してもいいらしい。

 

 諸悪の根源扱いされてそうなジジイを引き入れて何がしたいのか分からないが、恐らく皇悠は内戦になることは避けたいのだろう。

 

 皇悠の今日までの動きを辿れば、彼女は軍内部の腐敗は取り除くことはしても十師族を潰したいなどと考えていないようだ。軍部と十師族の癒着関係さえ無くせれば満足な様子で、それは魑魅魍魎も見透かしている。当然ながら、古式魔法師の復権と魔法師を支配したい連中からしてみれば『物足りない』と言わざるを得ない。

 

 良くも悪くもこの国では十師族がいて強権を振るうから、魔法師の自由が保証されている。無くなってしまえば、それまでの反動から一気に扱いが厳しくなるのは目に見えている。どうせ緩かったのがキツくなるだけで、そこに十師族などの魔法名家が存在するか否かの違いだろうと思われる。でも、魑魅魍魎の事だからあまり信用は出来ない。

 

 国防と魔法師の事を考えるなら皇悠で、国防だけを考えるなら魑魅魍魎、戦闘する魔法師だけなら十師族、といったところか。皇悠以外の2つに共通していることは、どっちも戦闘適性のない魔法師は人間として扱う事はしないという点だろうか。いや、十師族はパフォーマンスだけは一丁前にやっているが、非人道的なことをしている四葉家を放置している時点でお察しである。所詮は口先だけ。

 

 果たして、この年寄りはどうなんだろうか。

 

「特別な魔法は使用しません。クレーを破壊させるだけです」

「既にあの二高の生徒を操縦するなどという芸当をしておきながらかね?」

「やれることはやったので、後は正々堂々殴り合うだけです」

 

 このジジイ、俺が使う魔法の概要くらいは自分で分析したようだ。

 

 例えを用いて現状を説明するなら、モビルスーツを操縦しながら無線だったか何かを使って会話している状態と言えば良いだろう。二高の清水選手と演算を同調するためにスパコンが過熱するくらいの演算を処理していることになるが、こうでもしないと七草真由美に勝つなんて出来ないので仕方ない。

 

「その魔法……もしや、君は四葉の人間か?」

「半分正解といったところです。俺は七草の人間でもあります。要するに四葉真夜と七草弘一の遺伝子を掛け合わせて出来たハイブリットです」

 

 九島烈と藤林響子が「信じられない」という顔をする。四葉真夜と七草弘一の間に起きた悲劇を知っているから、俺という存在がいるのは受けいれ難いのだろう。七草と四葉が繋がっているかと問われたら、それはまるっきり違う。

 

「簡単に説明するなら、30年前くらいに起きた拉致事件で四葉真夜は生殖器官の全摘出、七草弘一は右目の喪失をしたワケであるけど、それぞれ失ったものは崑崙法院を抜け出した技術者が持ち出して日本へ亡命、研究材料として扱いつつ造ったんですよ。なんなら調べてみますか?」

「いや、遠慮しておこう。概ね真実なのだろうからな」

 

 真実だという事は、当然ながら皇悠にあらぬ疑いが向けられそうだが、彼女は全部知った上で沈黙することを選んでいる。俺の存在はある意味で十師族にとって劇薬に近いだろう。互いに牽制しあうことで社会の秩序を構築するのが目的だが、最大勢力と言える七草と四葉が手を組むような事は避けたいだろう。なんというか、十師族というシステムは平和とは無縁なんだなと思わせられる。七草弘一は四葉真夜を嫁に迎え入れずに婿として四葉に入れば、彼女と結婚して子供を作れていただろう。そうすれば俺ももう少しマトモになっていたかもしれないが、仮定の話をしたところで立場が変われば別の柵が発生してより複雑な問題が出てくるだけなので現状が最適なのかもしれない。良いか悪いかは別にして。

 

「実の親に会いたいと考えたことはあるか?」

「遺伝子提供者にしか過ぎない相手に会うつもりはありません。それに十師族の派閥争いとかに巻き込まれるのは嫌だから、会うつもりも会いたくもないですね」

 

こういうのは知らない方が幸せだろう。それが互いのためになる。

 

「君は今の現状をどう見る?」

「そうですね……俺は使われる側なのであんまりそういう時勢を読んだりとかはしたこと無いので分かりません」

「私は、力ある魔法師が互いに牽制しあうことで魔法師の暴走を予防しようと考えた。また、魔法師が国家権力によって使い捨てにされないため、日本という国家に口答えする為の組織として十師族を作り上げた。果たして、それが今は間違っていたのかもしれないと思っている」

 

 三年前の沖縄と佐渡での事変が頭の中にあるのだろう。確か、沖縄では藤林響子の婚約者が死亡しているようで、その悲劇の根底にあるのが十師族にあるが故に忸怩たる思いがあるらしい。

 

 先ず俺は沖縄侵攻を仕組んだ側の人間であるので何も言うつもりは無いが、内心では藤林響子の婚約者が死んだり国防軍が腐ったのは自業自得で自分で蒔いた種だろうと思っている。結局、使い潰す先が国から家(個人)になっただけで、時代を逆行してて余計にたちが悪い。この国は民主主義国家なんだぞ。

 

 そんな事を言えば、どっかの誰かの神経を逆なでにするので何も言わない。俺の考えはこの国の魔法師が抱いているような一般的な思考とはかけ離れているようなので口を慎むのが正解だろう。この人の苦悩は理解できなくもないが、実際に亡くなった人がいて関りがあった人がいる前で最低な言葉はかけたくない。

 

 代わりに俺は独り言のように呟く。

 

「どんな制度も政策も人が考える以上、完璧は存在しません。それに魔法師は力で押さえつけなければ好き勝手に暴れ回ってしまうような獣であるなら、老師の考えは間違ってないと思います」

「魔法師は人間じゃないと君は思うのか?」

「人間だと思えば人間だと思います。どこぞの魔法名家さんは犯罪をやらかした魔法師や国家の為にならなかったり希少価値のある魔法を扱える魔法師を捕まえてモルモットにしていれば、どこかの家は魔法師を買い集めてコレクションしていると考えれば、魔法師の扱いなんて国家が介在しなくても変わらないでしょう」

 

 背後から物凄い怒気を感じて冷や汗ものだ。つかさちゃんが止めて、九島烈が何も言わないから助かった。皇悠が止めてくれただろうけど、ゴリラが動けば部屋が壊れるかもしれない。

 

 そんなこんなで試合が開始される。

 

 勝たなければならない手前、七草真由美の弱点を探るために過去の映像を見返したりと研究を重ね、弱点と呼べるか怪しい弱点を見つけた。

 

 七草真由美は『飛んでくるクレーを知覚、魔法を撃つ』というプロセスだが、クレーを知覚してから魔法を撃つまでの時間と魔法を撃って当てるまでの間に多少のラグが生じている。どの魔法師にも共通していることだが、CADを起動させて魔法が発動するまでに小数点以下の時間がある。七草真由美の場合、クレーを破壊するため『ドライ・ブリザード』という収束・発散・移動の系統魔法を使用するのだが、この魔法の欠点は銃弾より遅く射程が短い。それを補うのがマルチスコープによる銃座の構築だろう。

 

 正々堂々競えば負けるので妨害を仕掛けなければならず、狙い目としては、知覚して魔法が発動してから目標に当たるまでの間だろう。ドライアイスの弾丸の弾道を変えるのは『真っ直ぐ移動する』という事象を変える行為は七草真由美の干渉能力を超えなければならないので出来なくないが一般魔法師が『十師族の魔法力を超えることは赦されない』ので現実的ではなく、そこで目を付けたのが七草真由美が破壊するクレーだ。

 

「嘘、信じられない……」

 

 藤林響子が愕然と呟く。つかさちゃんも同様で、九島烈は感心したように見物して皇悠は面白そうに見ている。

 

 会場は騒然となり、膝をつく七草真由美がモニターに映し出される。

 

 クレーの破壊数が清水選手が100、七草真由美が90という差がつけられ決着した。

 

 使っている魔法は圧縮した空気を弾丸の速さで撃ち出す『空気弾(エア・ブリット)』だが、この試合に合わせて空気弾の魔法式を改良したのだ。

 

 弾丸のように撃ち出すには移動系統を使うのだが、直進する軌道を変えるには干渉力を超えなければならない。そんな事してれば消耗が大きく、正直に申し上げて疲れる。

 

 もう一つの手段は魔法式に手心を加える事で、こっちは時間と労力をかければ何とかなる。簡単な魔法式でも万単位の演算式があるのだけど、時間と労力と知識があれば出来なくもない。

 

 空気弾の改良は、一度目標に命中したら跳弾して次の対象に当たったら炸裂するようにしたのを跳弾する回数を最大5回まで増やした改良型空気弾のみを使用するので少しでも処理速度を上げようと特化型CADを使う。

 

 後はこの改良型空気弾を使い、どこをどう当てればどこに飛んでいくかを計算し、更に七草真由美が知覚して放つ魔法、破壊したクレーの破片等がどこへ飛ぶのか全てを計算し尽くして七草真由美の魔法を妨害しつつ自分のクレーを破壊できるように演算し尽くした上で試合に臨んだのだ。つまり、既に試合が始まる前から勝つことは決まっていた。

 

 ただし、この演算は七草真由美が去年までと同様の戦い方をするという前提での連鎖破壊する演算だった。精度が上がる云々は許容範囲内であるから問題なく、むしろ戦い方を変えていたら負けていた。

 

「まさか魔法式そのものを改良するとは、魔工師としてもやっていけるのではないかね」

「ライセンスは既に持っていますから、既に俺は魔工師ですよ」

「ウチで雇われてみるか?」

「報酬次第ですね。いくら出します?」

「志村は私のモノだから、引き抜きはやめてほしいな。老師」

「なぁに、年寄りの戯言だよ」

 

 割と本気だったので、皇悠が釘を刺すとあっさり引き下がった。半分本気、半分冗談といったところか。藤林響子は真面目に引き抜きを考えてそうだが、こっちは九島家とは国防軍が絡む別口への勧誘になりそうなので報酬はどれだけ積まれても拒否したい。入るなら海軍一択だが、絶対に今の陸軍には入りたくない。

 

「先ずはファーストオーダー完了か。まさか本当に勝つとは夢にも思わなんだ」

「姫殿下の依頼とあれば、どんな事でも必ずこなしてみせますよ」

「……ふーん」

 

 こちらとしても、皇悠の信頼を得なければならないからこうして従順に依頼は遂行していかないといけない。

 

『九校戦の最中に姫殿下を殺せ』

 

 この依頼が出されてしまった以上、確実に殺せるタイミングを得るには皇悠から信用と信頼を得る必要がある。

 

 そんなに内戦がしたいのだろうか。

 

 魑魅魍魎の思惑を何となく思い浮かべて自然と口端を歪めると、鋭く睨むつかさちゃんが視界に入って冷や汗をかいた。 

 

 

 

 

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