暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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第19話

 翌日。

 

 朝起きて呑気に日向ぼっこしていたら、四十九院と遭遇した。

 

「ここにおったか。捜したんじゃぞ」

「どうかした?」

「聞きたいことがあっての」

 

 十中八九、皇悠の事だろう。

 

 四十九院がいると、俺の暗躍ができなくなるので遠ざけて関わらせないのが得策だろう。洗脳してしまえば楽なのだろうけど、同級生との確執とか今後の学校生活に響いてくるし、他人にリソースを割いている中で余計なリスクは背負いたくない。

 

「一応、姫殿下の護衛をやらされてるのに一緒にいなくて本当に良いのか不安でな。大丈夫じゃろうか」

「大丈夫だよ。君が姫殿下と繋がりを持つことが君自身の家での立場や四十九院家の古式界隈での立場の確立に貢献しているんだ。実際の護衛を本気でやるのは姫殿下肝いりの海軍の秘密部隊や遠山つかさって女性がやる。あの人は十文字家と同じ第十研出身の数字付きだからさ」

「遠山って十山のことじゃったか」

 

 知らなかったの、なんて野暮なことは言わない。十山家が『遠山』になって国防軍で活動していられるのは、代償として十師族になれないことが決められている。同じように軍務についている家が存在しているが、あっちは個人の意思で入ったから問題ないらしい。魔法師にも職業選択の自由があるという建前があるからだ。実際に海軍の秘密部隊は九校戦会場にはいない。

 

 つかさちゃんが護衛をやっているから、俺もいらない子扱いになってしまう。なんで護衛などという目立つことをやっているかと言えば、皇悠を確実に殺せるチャンスを作るために用意されたポジションだっただけの話だろう。皇悠を殺せば死亡確実だし、かといって殺さなければ殺される。どないすればええねん。

 

 四十九院に求められているのは政治的な役回りである。四十九院家は古式界隈では有名なので、そこの令嬢が皇族として有名な姫殿下と繋がりを得て懇意にすることは、皇悠の地位も確立されるし、四十九院沓子という個人の箔付けにもなる。逆に俺はデメリットだらけで、いつかは切り捨てられるタイムリミットが近づいてきているようでさっさとスイスあたりに逃げたい。冗談だけど。

 

「問題ないのなら良いのじゃが、なんだか与り知らぬところでとてつもない事が裏で動いているような気がするのじゃ」

 

 魔法師の妙な勘の鋭さは如何ともし難い。全部ゲロって楽になりたいけど、それで関わらせた挙句に最悪死なれると辛い。

 

「気のせいじゃないか?」

「そうだといいんじゃが、どうにも不安が拭い切れないのじゃ」

「その心配は杞憂だ。なんでもかんでも陰謀論に繋げるのは悪癖になるぞ」

「ううむ……」

 

 釈然としてない様子だが、変に勘付いて余計なことをされるとフォローするのが大変だ。

 

「話は終わりでいいか?」

「もう一つある。お主はどうか知らないが、監視されてることに気づいとるか?」

 

 気づいても言うなよ、とツッコミしたかった。

 

 全力で気づかないフリをしてスルーしていたというのに四十九院が言うもんだから、取り繕うことが出来なくなった。

 

 ようやく気づかれた監視役の陸軍の白い制服を着た軍人さんは、茂みから音もなく姿を見せた。少佐の階級章をつけた陸軍のオッサンだけど、この人……今まで気づかれるまでずっと制服姿で茂みとか色んなところに隠れていたのだと思えば、絵面的にシュールだよなー。隠れるなら、迷彩の戦闘服にしてほしいと思う今日この頃。魔法的な技術で隠れられるとか言われても、普通にバレバレだから困る。しかし、あからさまな監視をしてくれたおかげで吉田に魔法かける際の隠蔽工作を仕掛ける際、気取られないように探す手間が省けたので助かった面がある。

 

「おや、流石は姫殿下の護衛役を任されるだけあって周囲の気配に敏感なようだな、お嬢さん。そっちの前髪の長い少年は全く気づいてなかったようだったが」

 

 話したくないからスルーしていたに決まっているだろう。

 

「軍人さんの隠れ方は上手ですね。俺は四十九院が言うまで気づきませんでしたよ」

「お主、本当に気づいてなかったんじゃな」

 

 本当に気づいてない風を装って言うと、四十九院に呆れられてしまった。

 

「失礼。名乗るのを忘れていたね。私は国防陸軍所属、風間玄信だ。階級は少佐だ」

「風間……もしや、あの大天狗じゃな」

 

 大天狗……大亜連合に対してベトナム軍がゲリラ戦を展開していた『大越紛争』において、ベトナム軍へ派遣されて卓越した指揮で戦った故に付けられた。皮肉かな。

 

 この日本軍の大越紛争における介入は『一部軍人の暴走』という形で出兵というツッコミする気すら失せる判断は、軍を政府は制御出来なくなったということになる。旧日本軍の関東軍の暴走を許した結果がどうなったか知らないハズが無いだろうに。まあ、その関東軍は旧ソ連軍の自身の何倍もの数の師団と対峙していたので発狂寸前だったというのもあるかもしれない。それで暴走された結果がロクでもなかったように、この紛争介入によって紛争で終わるハズが戦争に発展してしまい、日本は大亜連合との火種を抱える事になった。

 

「志村真弘くんといったかな。過去に姫殿下と共に海軍で行われていた非人道的実験の摘発に協力していたから、かなり信頼されているようだな。どうやって知り合ったんだい?」 

 

そんな事しておったのか、と驚く四十九院は声を上げないだけ及第点なのでそのまま黙っててほしい。

 

「知人の紹介です」

「知人か。君には渡航歴があるから海外にいる誰かなのか、はたまた中華街にいる何者かということになるかな。あそこがどういう所か知らないでもないだろう?」

 

 横浜の中華街に出入りしていた事は掴んでいたようだ。勝手に工作員の巣窟と決めつけ、あまつさえスパイなのではないかという疑ってかかられるのは良い気分でない。

 

 周大人はあの妖怪ジジイ共についちゃってるらしいが、あの人は疑われて調査されたところで尻尾を出すようなことはしないから問題なしだろう。ムカつく。

 

何がスパイだよ。ムカつくのでやり返してやる。

 

「流石は大天狗ですね。情報を掴むのは得意なようで、与えられた通り名のように鼻高々ですね。他人の力で伸し上がっておきながら、そんなに威張れるとは大天狗の異名に相応しいですよ」

「貴様……!」

 

 殺気だった目で睨まれた。それなりに死線を潜り抜けてきた人だから、殺気を出されたら慣れていない人間は失神するか漏らしてしまうだろう。実際、四十九院は失神してしまった。とりあえず、木陰に移す。

 

 俺は怯える素振りを見せつつ、落ち着くように声をかける。しかし、余程癪に障ったらしく高圧的な姿勢を崩すことは無かった。

 

「志村真弘。貴様にはスパイ容疑がかけられている。一緒に来てもらおうか」

「そういうのは警察の仕事です。憲兵でもない、逮捕権を持たない軍人が何の権利があって一般人の自由を奪って拘束するんですか?」

「軍人が動くのは国家の安全のためだ。それにこのまま疑われて監視され続けるより、早く疑惑を晴らして普通の生活をするのが良いと思わんか?」

 

 冗談じゃねーよ。このまま拘束されたら、洗いざらい余計な事まで訊いてくるに決まっている。疑惑を晴らすなんて建前で、本音は皇悠の弱みを握るネタを手に入れるためだろう。面倒だ。どこの所属か知らないけど、十師族派の上の人間を使って後で仕返ししてやろう。

 

 ケータイもCADも置いてきたせいで助けを呼べることもなく、このまま連行されるしか道は無かった。

 

 





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