暗躍する請負人の憂鬱 作:トラジマ探偵社
国立魔法大学付属第一高校。
それがこれから監視対象となる司波達也の通う高校の名前だ。
国際ライセンスに則った無難な教育を行う九つある魔法科高校の中では、特にエリート志向の強い部類に入る。と言っても、魔法科高校というのは大学も含めて魔法名家同士のお見合い会場みたいなものである。顕著なのが魔法大学で、高校はお見合いも兼ねた単なる青春の一時を味わうために用意された施設だろう。
そんな高校で大真面目に勉学に励むのは、表向き魔法師の育成機関だし華やかな舞台に立てるということもあるので魔法師を目指して入学する魔法師は多い。魔法師として国に登録されるので、有事の際には魔法で殺傷することを強要される。
それはさておき。
この一高では、反魔法主義団体『ブランシュ』が活動している。
魔法師と非魔法師の間の差別撤廃を掲げる団体で、政府の方針により、その存在が隠されている国際的に活動する団体だ。大亜連合もとい大漢の崑崙法院の生き残りである顧傑がボスをやっていた。
当然ながら、魔法師の量と質が国力となる現在の状況は国によって魔法師の生活が保障されている部分があるし、何より日本に限れば魔法師は特権を与えられてかなり優遇されている。特に十師族が最たる例であろう。矛盾を孕み、特権を貪るハゲタカの団体だ。
そんな十師族のラインナップを簡単に偏見を多分に含んで紹介しよう。
人間を惨たらしく殺すことには一家言ある海賊『一条家』
日和見主義で影の薄い『二木家』
海外へ武器を売る死の商人『三矢家』
虐殺大好き狂気に犯された殺人鬼『四葉家』
病弱の人間におんぶに抱っこ『五輪家』
どこぞの家の金魚のフンに成り下がっている『六塚家』
陰謀大好き八方美人『七草家』
電波『八代家』
多くの古式魔法師を騙した詐欺師『九島家』
ただいるだけで何もしないし出来ない『十文字家』
偏見と悪意の度合いを超越してるが、この団体の凄いところは総じて魔法力しか価値のない賢しいゲスの集まりである。責任は負わず、甘い汁だけ吸う輩で足の引っ張り合いと権力闘争に余念がなく、現状の腐敗の一翼を担っている。腐敗に関しては後々。
そんな十師族は国に貧乏にならない保障をされてるし、仲間内でインサイダー紛いのことは平然と横行しているし特権を与えられて好き放題しているから、ブランシュの事を公表して主張やら何やらが世間に出回って批判されるのは十師族だ。故に秘匿されている。
そのブランシュといえば、活動資金は大亜連合から流れていたりする。トップに顧傑という元崑崙法院の魔法師が立っていて、彼は老い先短いことを覚るや残りの人生を懸けて大漢へ私的な復讐をした四葉家へ挑戦しようと企んでいる。だが、現在は最大手たる大亜連合は沖縄侵攻が大コケしたばっかりにドロドロの内戦が始まり、多正面作戦の真っ最中でとても手が回る状況じゃないので動けないジレンマを抱えている。
そんな中、ブランシュ日本支部では資金難に喘ぎつつも俺が構成員を洗脳して全権を掌握していた。
テロリストの謗りは受け入れるけど、そもそも俺がブランシュの日本支部を手中に収めたのは皇悠の依頼である。
後見人に周公瑾という崑崙法院の生き残りのイケオジがいるのだけど、この人の下で動いていたのだが、ある日、海軍が組織した秘密部隊の襲撃に遭って脅迫という名の取引に応じて今はもう皇悠の使い勝手の良い手駒みたいなものになってる。まあ、報酬はたんまり出してくれるので文句はない。
そんなこんなで俺の平々凡々な学校生活を送り届けたところでつまらないので割愛しつつ、監視任務を開始する。
司波達也の監視そのものは本人がかなり警戒心が高いのもあり、国防軍から買収したドローンと洗脳したおさげの根暗な感じの一高の生徒『根暗ちゃん(仮称)』で二重の監視体制を築き上げた。
入学式。七草真由美と会話しており、中身は『筆記試験で2位と平均点で10点近い差をつけ、魔法工学や理論で断トツの成績を収めたことによる称賛』というものだった。手放しの称賛に慣れていないらしく、最もな理由をつけて逃走していた。
うーん、本気で隠す気があるのか怪しい振る舞いには、とてつもないガバを感じる。その割に秘密を知ろうとする者には、かなり凄んでいたりする。霊子放射過敏症と思われる眼鏡をかけた女子生徒に殺気立っていたりしたから、どっちにしたいのかハッキリしてほしいところだ。
その後の集めた噂には、入学以来負けなしで『ジェネラル』などと呼ばれる服部ナントカって副会長を苦戦することなく瞬殺したんだとか。更に部活動勧誘期間において、こっちの工作要員である壬生紗耶香に意味の分からないキレ方をして殺しにかかった桐原ナントカさんにキャストジャミングみたいなのを使った魔法式の無効化をしたり等々、誰もが驚く手段を用いて自治活動に精を出したりと目立って注目されることに余念がないようだ。ちなみに桐原という生徒は実質無罪放免になっており、単純に気に食わない。
服部某に勝つまでは良いが、キャストジャミングもどきを使うのはしくじりも良いところ。根暗ちゃんに盗み聞きさせた内容では、公表しない高尚な理由を述べていたが、だったら何故使ったと声を大にしてツッコミたい。俺みたいに魔法式の無効化にちょっと興味関心のある人間にとって、好奇心を抑えられないような技術を持つのは興味をそそられる内容だ。
そんな司波達也に対し、司一が興味を持ったらしく洗脳した壬生紗耶香という女子生徒を操って魔法技術欲しさに勧誘しつつ、司一の弟である司甲を使ってチョッカイを出した。キャストジャミングもどきで防がれ、更に面倒な事に同級生に目をつけられて司甲がストーカーの被害に遭うという二次災害が発生させてしまったので、俺が動いた。今ここ。
さて、どうやって穏便に終わらせるか。
事務所で変声機を使って指示を出し、司甲は街中を歩いてもらっている。彼を見ている小型ドローンのカメラにはバレバレな尾行をする三馬鹿トリオが写っていた。1人はBクラスの明智英美、後の2人はAクラスの北山雫と光井ほのかだった。
この3人は司甲の犯行現場を見ているのだが、直接問いただす訳でもなく尾行するだけで何もしてこない。こちらが痺れを切らすのを待っているのだろうか。恐らく相手が二科生だから何かあっても撃退できる、という自信の表れなんだろう。一科生らしさがあって大変よろしい。遠距離から鉛玉をプレゼントしてやろうか。
余計な色気を出させた結果が今の状況だ。別に俺が何もしなくても実害は出ないが、司一に丸投げして国益を損なう羽目になれば後で皇悠にペナルティを受ける。
「はぁ。仕方ない。甲。ルートを示すから、その通りに逃げろ」
『わかりました』
ルートを提示し、指示された通りに動き始めたので俺は近くで待機させている下っ端3人を動かし、待ち伏せさせておく。
ちょっと怖がらせるだけで、絶対に殺すなと厳命してある。ブランシュの構成員の中には、魔法師に対して並々ならぬ憎悪を抱く輩がいるので苦労するよ。どうせ魔法師はいなくならないのだから、これからは規制する法律を制定して秩序を作り出していくしかないというのに。
話が逸れたな。司甲は予定通り、上手く誘導しながら移動してくれたようだ。
辿り着いた路地裏は既にテリトリーと化しており、待機させておいた下っ端トリオがバイクのエンジン音を響かせて少女たちを取り囲む。
対魔法師用装備のアンティナイトは所持させてあるし、下っ端トリオがこの少女たちをとっ捕まえて脅しをかけることは何とかなるだろう。
『な、なんなんですか! 貴方たちは!』
『ウロチョロしやがって。このバケモノが』
「余計なこと喋ってないでとっとと取り押さえて脅して終われ」
『すみません』
余裕の表れなんだろうか。まあ、常日頃から優遇され過ぎてる魔法師に対して鬱屈した想いを抱えているし、何より魔法によって家族や人生を狂わされた人間の集団でもあるから、仄暗い感情の発露は許容しよう。
下っ端トリオが取り押さえようと動くが、頃合いを見計らって少女たちは逃走。すぐに追いかけようとしたところで、明智英美が1人に衝撃波をぶつける。
『フフン、先制的自衛権の行使ってヤツよ。悪く思わないでね』
そんな法律は存在しません。ただの暴行罪です。まあ、訴えたりしないけど。
ちょっと怖がらせるだけに終わらせたかったけど、仕方ないだろう。
「アンティナイトを使え」
『私だって……!』
俺が指示を出したタイミングで、光井ほのかがCADに指を走らせる。
何か魔法を使われる前にこっちのアンティナイトが起動し、不快なノイズが流れたようで、頭に手を当てて苦しげな表情を浮かべる少女たちに対して下っ端は一息つく。
『ククク、苦しいか魔法師』
『司様からいただいたアンティナイトがある限り貴様らには魔法は使えん』
ここからどうするべきかだが、小型ドローンの監視網に司波達也の妹であり、学年主席の司波深雪が引っ掛かった。卓越した魔法力を持つ彼女は四葉家の人間であることは確実で、もしかしたら次期当主となる可能性が高い人物であることは想像できる。
相手は十師族だ。技術を独占して秘匿しているから、もしかしたらキャストジャミングを防ぐ魔法なり何なりあるかもしれないし、そもそも魔法力が高過ぎる人間なので通用しない可能性があるから、介入される前に引き上げるのが得策だろう。あまりにも不確定要素が強い。構成員が行動不能にされて捕まるリスクが最も避けなければならないことで、少女たちがキャストジャミングで行動不能になっているからちょうどいい。
「終わりだ。撤退しろ」
『……了解しました』
洗脳魔法の便利なところは言うことをきちんと聞いてくれるところだろう。動きが悪くなるけど、大して気にならないので許容範囲。
気絶中の一人を叩き起こさせ、バイクに跨って撤退させることに成功。その間、手出しされることは無くて司波深雪は同級生が本当に危なくならないと助けに入らないのだろうと確信する。それすらも怪しいが、どっちにしろ薄情な人間であることは確かだろう。こういう輩は直接攻撃するより、周りを利用して精神的に虐めてやるのが効果的かもしれない。直接対峙したところで勝てる見込みは無いだろう。
これで一件は終了し、次は司波達也を監視しているドローンに視点を切り替える。
「あら?」
ドローンからの映像が無い。落とされたのだろうか。
魔法師の弱点の1つに遠距離からの狙撃があるように、視認できなければ魔法が使えない欠点がある。500メートル以上離れてたハズだが、どうやら感づかれたようだ。最後の映像は銀色のCAD……シルバー・ホーンと思われるのが向けられており、そこから映像は途切れた。
「ああ、国民の税金が……」
どうせ賄賂さえ出せば最新鋭の装備をいくらでも横流ししてくれる十師族派から出たドローンなので、無くなったり回収されても問題ない。痕跡も残してないからな。ただ、国民の税金を消されたから嘆いてるだけ。
相手は相当警戒心が高いようだ。容赦がないし、自己防衛と保身に関しては余念がないようだ。裏を返せば彼は自身の妹に危害さえ及ばないのであれば、何もしないのではと思われる。
そう結論づけたところで、来客があった。
「繁盛してるかい、真弘くん」
後見人となってくれてる周大人だ。見た目は20代の色男だが、実年齢は還暦をとっくの昔に通り過ぎたロンゲジジィだ。
「ご覧の通り、毎日のように閑古鳥が鳴いてます。あの鉄血皇女様の依頼と下の喫茶店が無かったら、とっくの昔に空きビルになってましたよ」
「すっかり飼い慣らされた様子ですね。気に入りましたか?」
「だって年寄りの下より、若くて美人な女性の尻に敷かれる方が断然良いに決まっているよ」
「俗物的ですね。育て方を間違えたようです」
アンタに育てられた覚えは無いよ。
「それで今日はどうされたのですか、周大人。金沢にまで来るなんて……」
「ちょっと様子を見に来ただけですよ。それと、あの方からの伝言です」
顧傑さんからの伝言か。イマイチ動機に欠ける四葉家への復讐の事なんだろう。放置してれば、その内勝手に自滅しそうなものだと思うが、どうしても早く潰したいらしい。周大人は既にあのメスゴリラもとい皇族軍人たちによって喉元に刃を突き立てられた状態だから、やるなら一人でやってほしい。
「はぁ。あのお方も暇人なようですね」
「愚痴ってられませんよ。あのお方は大亜連合からの支援が少なくなって焦っておられるのです。早くこの国の最先端の魔法技術を盗んで大亜連合への手土産とし、この国へ攻撃してほしいと考えているようです」
「今はドロドロの内戦状態の大亜連合が頼みの綱って耄碌したか……って、90超えのジジィだったな。棺桶が近いからって焦り過ぎだ。オーダーは何ですか?」
「第一高校へ襲撃させ、機密情報を入手して大亜連合へ譲渡しなさい、と。まあ、返り討ちに遭うのが関の山ですけどね」
「せっかく手に入れた私兵を潰されるのは嫌だなぁ」
国益を損なう事は出来ないので、どこまでが許容範囲内だろうか。何が国益にプラスになってマイナスになるかの線を引くのは難しい。
「わかりました。上手くやりますよ」
「楽しみにしていますよ」
「もう歳なんだから、帰り道でうっかり棺桶に入らないでくださいよ」
「フフフ、その時は君が普通に生活できないようにするまでです」
それは勘弁願いたい。