暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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第23話

 元老院の目的は私と志村を引き剥がすことだろう、とは予測できた。恐らく四葉は踊らされていると見て間違いない。

 

 紗耶香や綿摘未姉妹の身辺を密かに守らせていた者からの情報から、四葉の中で更に暗殺や諜報活動を担っている黒羽家の姉弟と手勢であることを知り、思いの外動きが遅いなと思った。フリズスキャルヴを使えている四葉真夜が、七草の魔法師が殺られた方法を知れない事は無いハズだが、もしかしたらこちらの工作が効果的に作用した結果なのかもしれない。

 

 エシェロンⅢの追加拡張システムの一つである『フリズスキャルヴ』。エシェロンⅢのバックドアを利用し、エシェロンⅢのメインシステムを上回る効率で世界中から情報を集め、オペレーターの検索にヒットする情報をもたらしてくれるある意味でチートのハッキングツールを四葉真夜や顧傑などが使えるのは、私たち新皇道派にとって『厄介』であることは明白だった。どれだけ極秘にやろうとも、何かしらネットに繋がって依存している現状では情報が抜かれて先手を取られるのは腹が立つ。

 

 四葉に情報面で勝つには、フリズスキャルヴの存在がどうにかしなければならなかった。

 

 先ずはアカウントを手に入れようと考え、思いついたのが『志村魔法請負事務所』の存在を利用することだった。この事務所、全くネット環境を整えておらず、ネット上には『志村魔法請負事務所』なる公式ページは全く存在しない。事務所の宣伝にSNSなど利用しないことが、閑古鳥が泣く原因の1つで、更に報酬の支払いに現金を使わせているあたりで、転生者である私はともかく、キャッシュレス決済が主流のこの時代にはかなり時代遅れだが、このアナログが今回は役に立った。

 

 新皇道派のトップが贔屓にしている便利屋。フリズスキャルヴでは得られない詳細な情報があることに自治厨は我慢ならないだろうと予測。事実その通りで、唯一繋がりがある私を探ろうとアカウントを提供してくれた。

 

 情報を手に入れれる代わりに情報を抜き取られるか、ギブアンドテイクを許容するかという問題に直面したワケだが……私は味方であるハズの新皇道派の者たちにすら内緒にして超極秘裏に組織した秘密部隊を用い、クラーク父子の暗殺とフリズスキャルヴの破壊を行わせた。エドワード・クラークを殺す過程でスターズと戦闘に突入してしまい、犠牲を出しつつも任務をやり遂げてくれた彼らには感謝しかない。ちなみにやったのはブランシュ事件の前の事だ。

 

 このフリズスキャルヴの破壊に伴うメリットは、先ずディオーネー計画のフラグが立たなくなる。どうでもいい。

 

 次に四葉家……いや、四葉真夜個人の情報収集能力が無くなることだ。これが重要。顧傑? 奴はもうすぐ死ぬ。

 

 国防面ではマイナスだろう。こちらが秘密にしたいことが知られるリスクは避けられるだろうが、相手の動きも事前に察知するのが難しくなったのは言うまでもない。しかし、既にこちらが動いたのならば、後は相手が動いてくるのを迎え撃つだけだ。

 

「姫殿下、行かせてよかったのですか?」

「つかさでは四葉の魔法師と戦っても返り討ちに遭うだけだろう。まだこっちにいた方が安全だ」

 

 手駒が少ないのは百も承知。私が死ぬような事態になれば、全てアウトだと分かっているなら志村を動かさずにいれば問題ないが、そうなれば壬生紗耶香や綿摘未姉妹は確実に殺される。見殺しにしたくないのは罪悪感からだった。それでこっちの身を危険に晒しているのだが、非情になれないのが私の弱いところか。

 

 そうしてピリピリと警戒していると、私のところに来訪者が現れた。三高1年の一条将輝と吉祥寺真紅郎だ。もっと別の深刻な問題が私のところに来ているから、後にしてほしいところだ。

 

「なんですか、貴方たち。ここにいる方が誰か分かった上での来訪ですか?」

「そう威嚇しなくていい、つかさ。彼らは友人を思って行動したんだろう。特権やコネというのは、そういう知りたいものを知る時に活用された方が可愛げがある」

 

 そこまで親交があったというのは驚きだが、モノリス・コードのメンバーであるから自然と仲良くなるか。

 

「あの、志村の事なんですが……アイツをどこに行かせたんですか?」

「それを知りたいのは好奇心から? それとも何か正当な理由があって訊いてるの?」

「友人として、知りたいんです。それに志村はモノリス・コードの選手です。競技に影響が出ないようにしてもらえませんか」

 

 裏方で動かした方が良いのは解っている。一条が志村を矢面に立たせて実力を計る腹積もりなのを見抜いておきながら、敢えて乗っかったのは元老院から引き剥がすのが目的だ。

 

 自分の存在がどういうものかを知っている志村は、目立てば刺客がやってくるのは解っているから決して目立たずに裏方に徹している節がある。死にたくないと考えているようだが、こっちだってまだ死にたくない。利用されてあげるから、私に利用されて。

 

「そう心配しなくても大丈夫。明日には帰ってくるだろう。その後はもう大丈夫」

 

 当面の間は心配ない。戦争なんか起こさせたりしない。

 

「まだ何かある?」

 

 何か言いたそうな一条は、口を開閉させるばかりで要領を得ない。吉祥寺とセットになるから、丁度いいんだろう。

 

「志村から話を聞きました」

 

 あの男、余計な事をする。私のしようとしていることを話しやがった。味方が少ないからって十師族の人間を引き込む腹積もりなのかもしれないが、自己の利益と保身しか考えないような無責任主義者にこちらの考えに賛同するとは考え難い。

 

「分かると思うけど、私は貴方たち魔法師に与えられた権利を制限しようとしてる。今まで許されていたことが許されなくなる。不自由になると分かったから、私を殺しにきたか」

「そんなつもりはありません!」

 

 殺しに来るか否かの2択しかないというのに、決められないのは優柔不断だというより、決められないというのが正しいだろう。

 

 だが、状況はそんな彼らを赦してはくれない。

 

「なら、ゆっくりと考えていればいい。手遅れにならない内にな」

「……どこへ行かれるのですか?」

「私が出向くことを望んでいる人間に会ってくるだけだ。行くぞ、つかさ」

「はい、姫殿下」

 

 さて、誰が殺しに来るのやら。返り討ちにするだけだがな。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 夜。

 

 古着屋で適当に服を見繕った後に壬生さんや綿摘未姉妹がいる家に向かう女装した変態と縦ロールを見つけた。

 

 四葉家の人間は総じて濡れ羽色の髪だし、確実に四葉家の人間だろう。周囲にいる彼らの手勢の一人を洗脳して情報を得たのだが、四葉の分家である『黒羽家』の人間で女装した変態が『黒羽文弥』、縦ロールが『黒羽亜夜子』であることを知った。まさか親戚に変態がいたことに愕然とし、写真を撮りまくって写真集にした後、奴が結婚する時に披露宴会場のサーバーをハッキングして写真集を流してやる! 

 

 四葉の目的は『ペルソナの捕獲』だった。そのために壬生さんを誘拐して、誘き出すエサにするつもりのようだ。ものの見事に釣られてしまった訳だが、その仮称『ペルソナくん』の人相までは知らないようだ。皇悠と繋がりがあると推測して、壬生さんを救出に来た人間を捕まえて情報を吐かせていくつもりだろう。襲撃をかける予定なところ悪いけど、壬生さんや綿摘未姉妹に魔法師の闇の部分を見せる訳にいかないので事前に対処させてもらう。

 

 そんなワケで使う魔法は洗脳する精神干渉魔法で、既に大したことのない手勢さんたちは洗脳済みで残すは黒羽の二人だ。

 

 精神干渉に適正があるだろう四葉家の魔法師にちなんで精神的な攻撃をしていこう。念のために情報かく乱しておく。

 

『ねえ、ちょっとアレ見て』

『うわっ、あの男の子女装してるわ。ヘンタイよ』

『俺、隣の女よりあっちの男の娘が好みだわ』

『ハハッ、それな!』

「月とスッポンの差があるよな!」

 

 洗脳と暗示を駆使した酷い嫌がらせをする。女性から女装男子は『ヘンタイ』と罵られ、男性からは『可愛い。抱きたい』と熱い視線を注がせる。縦ロールは完全スルーしてよう。容姿に自信がありそうなので何も言わないことが最大の精神攻撃になるだろう。

 

 効果覿面。女装野郎は涙を流し『僕は可愛くないし、変態じゃない』と拗ねたところを縦ロールが追い打ち、女装野郎は負けじと自虐するような反論して口論となって仲間割れが始まった。

 

 それを屋上から壬生さんたちの家の隣にある民家の屋上からひっそりと眺めつつ、次の行動に移る。

 

 殺すな、ということなのでここらで強襲かけて制圧できればいいが、周囲に人がいるので断念する。

 

 それよりも、俺はある事を失念していた。

 

 黒羽が四葉の分家ならば、分家たる黒羽家を纏め上げる当主の立場にいるであろう存在がいるハズなのを忘れていた。いや、別に忘れていたところで向こうから勝手に出てきたワケなんだが。

 

(針……?)

 

 毒針の類は自らの魔法に絶対の自信を持つ魔法師は決して使わない。

 

 何らかの魔法……精神干渉魔法が発動しようとしたが、分厚いサイオンの壁と堅牢な情報強化に阻まれて魔法式は霧散し、腕に刺さった短針を抜き取る。

 

「なに……っ?」

 

 何をそう驚いているのか気持ちは理解できるが、次の行動に移られる前に行動不能にしてやる。

 

 CADを下手人の魔法師へ向けてとっておきの魔法……収束、発散、吸収、放出の複合した『分解魔法』で全身の皮膚を裂く。

 

 飛び散る鮮血。致命傷となる急所を外しているので死んでないだろう。俺は倒れた人にCADを向けながら近づいていき、気を失っているものの生きていることを確認する。

 

 俺に勝てる魔法師はいないとは豪語したものの、相手が俺に直接魔法をかけてくる魔法師でよかった。それ以外は防御系の魔法を使わないといけないから、俺を倒せる可能性のある魔法師は存在する。やっぱり、探知系と防御系の魔法式は必要だな。

 

 そんなことより、倒れた男……変なおじさんに止血魔法をかけつつ、次いで女装野郎と縦ロールに『救援求ム』と呼び出しする。

 

 後は見つけてもらうために逃げ出すだけだ。

 

 程なくしてやってきた二人はオッサンを見つけるや、揃って『お父さん!?』と声を上げて急いで駆け寄り、抱き起して容態を確認している。下手人である俺が近くにいるのに、完全スルーされて直前の行動した意味が無くなる。

 

 どうしたものかなと思いつつ、洗脳して待機させておいた彼らの手勢をこの場に呼び出し、驚く二人を拘束。

 

「なっ、これは……!」

「どういうこと……?」

 

 一先ず無力化に成功だった。

 

 ここで何か言葉を交わせばいいのかもしれないけど、どんな超理論を持って俺に辿り着くか分からないので情報はなるべく与えないようにするためにも、とっとと離脱しよう。

 

 女装男と縦ロールを気絶させ、黒羽の手勢さんたちに『任務失敗』の事後処理をさせるよう暗示をかけて終わりだ。 

 

「さて、帰るか」

 

 これくらいなら、楽勝の範囲だ。相手も小手調べだろうし、次があるならもっと洒落にならない相手が来るだろうな。 

 

 翌日。

 

 九校戦の会場に戻ってきた俺に、暗雲立ち込める衝撃的な知らせが待っていた。

 

『九校戦会場で爆弾テロ。皇悠と遠山つかさが瀕死の重傷』

 

あのジジイ共、ついにやりやがった!

 

 

 




主人公の扱う分解魔法は、あくまで対人向けで人体を分子レベルまで分解したりなどは出来ないです。原作主人公の扱う分解魔法には遠く及びません。

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