暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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第28話

「あー、ようやく終わったなー」

「終わったねー。ようやく肩の荷が下りたよー」

「ジジくさいことを言うなよ」

 

 病院のベッドの上。点滴の針をブッ刺された俺の気の抜けた老け込むような呟きに、大事を取って横になっている吉祥寺は老け込むような同意をした。一条は若いなー。

 

 怪我の具合でいったら、俺は傷が開いた挙げ句の出血多量、吉祥寺は落雷により全身麻痺、一条は鼓膜破損。3人仲良く担架で搬送され、優勝したのに表彰台には上がれなかった。一条は軽傷だから代表していけばよかったのに、妙な拘りがあったのか『こんな形で表彰台に立つ資格はない』と固辞しやがった。

 

 そんなのどうでもいいから、表彰台に立っておいてほしかった。

 

「勝った実感が湧かないな。それもこれもどっかの色ボケ男のせいだな。爆裂なんて魔法を使うから、色恋にも爆裂してるに違いない。あれだな、その内リア充爆裂なんて叫ぶに違いない」

「誰が言うか、そんなこと!」

「将輝は理想が高すぎるんだよ。イキっていると言ってもいいね」

「ジョージ、お前もか……」

 

 カエサルかよ。

 

 ところで。

 

「一条は司波達也って一般魔法師に対してレギュレーションを超えて魔法を放ったって認識してるよな?」

「ああ。あの時は本当なら失格になっていたハズだった」

 

 運営側が十師族に忖度した、なんて邪推も良いところだな。純粋に見逃した、と思っておこう。

 

「……謝りに行ってきた方がいいよな」

「当たり前だろ。吉祥寺もそう思うだろ?」

「謝って済めばいいんだけど、先ず向こうが会ってくれるかどうかが問題だよね」

「そこは大丈夫だろう。向こうは一条に対してそこまで関心がないだろうし」

「おい、さらっと酷い事を言うな。お前、俺に対して当たりが強くないか?」

「優しい言葉だけ聞いていたら馬鹿になるぞ。たださえ特権階級にいるんだから、もう少し頭を使えるようになれ」

「うっ……」

 

 むしろ当たりが強くならない要素がある方に驚きだよ。

 

 百歩以上譲って私欲やら私情を優先するまでは良い。最初から司波達也と戦う腹積もりだったなら、最後まで集中していれば良いのに、何で吉祥寺を助けたのかだ。当初の目的通りとはいえ、負けた要因に『身内を助けた』なんてものが出てきて吉祥寺にヘイトが向かったらどうするつもりだったんだろう。元々、研究職である吉祥寺はいくらでも責任回避できるだろうが、そうなったら誰に責任が向かうとすれば俺しかいない。許容した時点で俺も人の事を言えないし、何よりそこまで信頼関係を築かなかった俺の怠慢も問題だろう。

 

 いや、なんで肩入れしてるんだよ。そこまで義理立てする必要は無いハズだ。もう少しこう……なんというか、どうにかなってくれたら肩入れしまくるんだけど、どうしたもんかね。ちゃんと全部説明した上で味方になる決心してくれないと、手放しで信用できないし、それに皇悠が十師族を味方にすることはしないとハッキリしているから、諦めた方がいいか。もし立ちふさがるなら、その時は戦うしかない。

 

「とりあえず、謝ってくるべきだろう。司波深雪さんの心証を良くしておいて損は無いハズだぞ」

 

 俺は御免だけど。

 

「な、なななんで司波さんが出てくるんだっ?」

「司波達也は司波深雪の兄だぞ」

「……はぁっ?」

 

 苗字が一緒なんだから気づけよ。そんなことに思い至らない程、相手にのめりこんでいたのかもしれない。これはあれだ、七草弘一みたく変に拗らせるタイプだな。それか六塚温子みたく金魚のフン擬きになるかの違いだな。そもそも四葉に対して他の十師族の人間で勝てる奴と言えば、九島烈しかいないというあたりで十師族の力関係なんてたかが知れている。やっぱり、四葉真夜の拉致事件は痛手だったな。

 

 自分のやらかしが原因で司波深雪の心証を悪くしたのだという考えに至った一条は、発作を起こしたみたく顔面蒼白となって慌てふためく。

 

「そんな司波さんのお兄さんを怪我させたなんて一生の終わりじゃないか……!」

「だから、謝ってくるべきだろう。次いでに告白でもしてくればいいんじゃね?」

「こ、こここここ告白っ!? そんな事できるワケないだろ! 俺は司波達也に負けたんだぞ! それに先ずはお互いに自己紹介し合って交換日記でのやり取りからだろ!」

「……うん、そうだね」

 

 昭和の人間かよ。大勢の女性に言い寄られてモテる人間の恋愛観が前時代過ぎてピュアだとは思いも寄らなかったよ。いや、待て。そういえば、魔法師ってお見合い結婚が主流で最優先が『次代に優秀な遺伝子を残すこと』であり、恋愛だのといった人の情緒は二の次であった。一条の感覚がお見合い結婚の派生か発展したバージョンだとでも思えば、一周して『交換日記』という言葉が出てくるのも納得だ。納得するんだ。でないと、頭がおかしくなりそうだ。

 

 気を紛らわせようと、テレビをつけて九校戦の中継映像を眺める。ちょうど、女子エースの一色が跳んでいた。

 

 ミラージ・バットという競技は、妖精をモチーフにしたような衣装で跳躍魔法で跳んで投影された光球を専用のステッキで叩くというもので、美少女がコスプレして跳んでることから特に野郎の視聴率が高い競技だ。

 

 優勝候補に名を連ねているのは、一高から渡辺摩利、三高から一色愛梨が名前が挙がっている。一色はまだ経験が浅いから、優勝までは厳しいかもしれない。相手は七草真由美の取り巻き……友達だし。元を正せば、この人が壬生さんの試合の申込みを上手く断れなかったのが原因で、壬生さんの闇堕ちが始まったのだが……別に『魔法使わないで手合わせしてほしい』と頼んでないのだから、その時の全力で挑めば良かったと思う。まあ、結果論だし、律儀に魔法使わずに試合したら負けるから、そもそも戦わない選択をするのは賢いやり方だ。ちなみに彼氏に千葉修次という『千葉の麒麟児』として有名な近接戦闘が得意な魔法師がいるのだけど、なんというか壬生さんとの差が凄まじいね。七草に狙われ、四葉にも狙われ、俺のせいとはいえ散々な目に遭わせてしまった事に申し訳ない。どうせペルソナとやらの正体は四葉にバレたと見て良いだろうし、四葉の魔法師と戦闘になるだろうな。負けたら実験材料にされ、勝ったら次の魔法師がやってくるだろう。家族の情愛が強い家だから、泥沼になるのは確実だな。

 

 なんて考えながら、中継を眺める。こうして学生らしく振る舞えることがどれだけ素晴らしい事だろうか。こっちは殺るか殺られるか、流れるのは青春の汗じゃなくて自分か相手の血が流れているというのに、皇悠に全賭けしている以上、嘆いたって仕方ないのは解っているけど……この差は一体何なんだろうね。

 

 善は急げとばかりに一条は、我関せずを貫こうとした吉祥寺を無理やり連れて病室を出ていくのだった。

 

 いやー、一時はどうなるかと思ったけど無事に計画通りに進行してよかった。一条を負かすため、イレギュラーを頼るのは不確定要素が大きいことが今回のことで証明された。司波達也は最強のジョーカーだが、リスクが大きい。こっちの想定を超えてくるから厄介だな。術式解体だけを使ってきたが、それ以外にも隠し玉は多そうだ。今回は勝てたが、次はそうもいくまい。

 

 ──―ん? 勝てた……だって? 誰に? 司波達也だな。司波達也って……。

 

「四葉じゃん!」

 

 アウトやん! 勝つことに集中し過ぎて勝っちゃいけない相手に勝っちまったじゃん! 公共の場で! 互いに加減した状態とはいえ! 

 

 全国放送してるから、四葉も見ているのは確実だし……その前に黒羽家の魔法師も撃退してるからアウトじゃん。

 

 四葉と敵対する皇悠の下についてる時点でワンアウト、黒羽家の人間を返り討ちにしてツーアウト、全国放送で四葉の直系と思われる司波達也を負かしてスリーアウトチェンジ! 

 

 四葉家が殺しにかかる条件を満たしてるし、どうせ戦うのは目に見えていたので何とも言えないんだけど……これだけは言わせてほしい。

 

「これが若さ故の過ちってヤツか?」

 

 夏なのに冬の凍てつく寒さを感じるのだった。

 

 

 

 

「奥様、どうやらお負けになられたようです」

「フフッ、そのようね」

 

 執事の葉山の言葉に四葉真夜はどこか確信めいたものを感じながら、彼の言葉に頷く。

 

 勝って当然。何故かそう確信できた。

 

 理由は分からない。

 

 真夜は薄く笑みを浮かべる。

 

「それにしても、あの達也さんに勝つなんて彼──―志村真弘でしたか。何者かしら、葉山さん」

「さあ? 一体、何者なのでしょう」

 

 葉山は顔を伏せて恭しく、空となったカップを下げる。真夜は視線をモノリス・コードの録画映像に移す。

 

 映像は前髪で顔の殆どを隠した少年が映っていた。

 

 真夜は目を細め、画面越しに少年の頭にあたる部分に手を当てる。

 

「葉山さん、どうしてかしら。この子を見ていると、涙が止まらないの」

「それは……」

 

 葉山は何かを言おうとし、二の句を告げれなかった。

 

 ただ何も言わず、奥歯を噛みしめて一礼して部屋を立ち去った。

 

 すすり泣く女の声が残された。

 

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